説明

電気二重層キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにそれを用いた電気二重層キャパシタ

【課題】電極表面の濡れ性の低下に起因した、静電容量の劣化や電解液の分解等を抑制して、長寿命化を図ることができる電気二重層キャパシタ用の電極材料を提供する。
【解決手段】ヤシ殻活性炭を4000ppmの一酸化窒素を含む不活性ガス雰囲気下で、800℃で3時間熱処理することにより、窒素を原子比で0.3〜0.6%、酸素を原子比で0.7〜1.2%含有する多孔質炭素を製造し、電気二重層キャパシタ用の電極材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにそれを用いた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(以下、キャパシタと称す)は、きわめて短い距離だけ離れて配置された二枚の電極に電解質イオンを充填した蓄電デバイスである。キャパシタでは、電極表面にイオンを物理的に吸脱着させることで充放電を行っている。そして、キャパシタは、充放電においては化学反応を伴わない為、鉛蓄電池と比較して寿命が長く、応答性に優れ、瞬時に大容量を放出できるという特性を有している。
【0003】
このような特性を有するキャパシタの構成について図1を参照して説明する。
キャパシタ20は、図1に示すように、セパレータ1と、このセパレータ1の側面に接して配置された電極2,3とからなるセル4を有する。このセル4の外側に、ガスケット状のパッキン5が配置される。このパッキン5により、セル4内からの有機系電解液の液漏れを防止し、セル4間の電気的絶縁を確保している。電極2,3の一方の側面(セパレータ1側の面に対向する側の面)に、アルミ集電箔6,7がそれぞれ接して配置される。アルミ集電箔6,7の一方の側面(電極2,3側の面に対向する側の面)に、集電端子8,9がそれぞれ接して配置される。これら集電端子8,9の一方の側面側(アルミ集電箔6,7側の面に対向する側の面)にエンドプレート10,11がそれぞれ配置され、図示しないボルトなどにより締め込んで固定している。
【0004】
上述したセパレータ1には不織布が、電極2,3には活性炭と導電性補助剤とバインダを含むシート状あるいは集電極上に塗布されたものが、一般的に用いられる。
【0005】
ここで、キャパシタの寿命低下は、キャパシタの構成部材(電極、電解液、その他)が電気化学的反応により劣化することで引き起こされる。
具体的には、(1)電解液の分解、(2)電極材料の活性炭中の残留水分による腐食作用のあるフッ化水素酸の発生、(3)活性炭に含まれる表面酸素官能基の酸化、といわれている。そのため、キャパシタ内部の電気化学的反応を抑制することが重要となる。
【0006】
上記(1)について、体積/エネルギー効率の観点から使用電圧を出来るだけ高くした方が有利となるためキャパシタが電気分解しない限界の高い電圧でキャパシタを使用するのが理想である。ここで、使用電圧を高くしすぎると、電解液の電気分解が進行してキャパシタの寿命を短くしてしまい望ましくない。そのため、外部の回路を用いて過電圧にならないようにコントロールしている。
【0007】
上記(2)について、電極を乾燥処理することで活性炭に残存する水分をコントロールしている。電極の乾燥には数時間〜数十時間の乾燥時間を必要としている。乾燥時間を長くすることで蒸発水分量も増やすことが出来るが、乾燥時間を長くしすぎるとその分キャパシタ製造時間も長時間となり望ましくない。
【0008】
以上のように(1)、(2)の方式によるキャパシタの寿命向上が既に限界にきている。
【0009】
上記(3)について、活性炭に含まれる表面酸素官能基を調整し、例えば、窒素を原子比で1〜5%含むように調整し、比表面積を1000m2/g以上の炭素細孔体からなる電気二重層キャパシタ用電極を電気二重層キャパシタの電極として用いることで、サイクル特性を向上させることができることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2007−141116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1には、電気二重層キャパシタ用電極のキャパシタ特性、すなわち、静電容量および内部抵抗の特性について検討されていなかった。電気二重層キャパシタ用電極における表面酸素官能基を除去することで電極表面の濡れ性が悪くなる。この濡れ性の悪さがキャパシタ特性の低下、すなわち静電容量の低下および内部抵抗の増加を引き起こし、キャパシタの寿命を短くしてしまう。
【0012】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたもので、電極表面の濡れ性の低下に起因したキャパシタ特性の低下を抑制して長寿命化を図ることができる電気二重層キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにそれを用いた電気二重層キャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決する第1の発明に係る電気二重層キャパシタ用電極は、
窒素を原子比で0.3〜0.6%含む多孔質炭素からなる
ことを特徴とする。
【0014】
前述した課題を解決する第2の発明に係る電気二重層キャパシタ用電極は、
第1の発明に係る電気二重層キャパシタ用電極であって、
前記多孔質炭素が、酸素を原子比で0.7〜1.2%含有する
ことを特徴とする。
【0015】
前述した課題を解決する第3の発明に係る電気二重層キャパシタ用電極は、
第1または第2の発明に係る電気二重層キャパシタ用電極であって、
前記多孔質炭素が、X線光電子分光法で測定された結合エネルギーの398〜400eVにピークを有するものである
ことを特徴とする。
【0016】
前述した課題を解決する第4の発明に係る電気二重層キャパシタは、
第1乃至第3の発明の何れか一つに係る電気二重層キャパシタ用電極を有する
ことを特徴とする。
【0017】
前述した課題を解決する第5の発明に係る電気二重層キャパシタ用電極の製造方法は、
第1乃至第3の発明の何れか一つに係る電気二重層キャパシタ用電極を製造する電気二重層キャパシタ用電極の製造方法であって、
ヤシ殻活性炭を4000ppmの一酸化窒素を含む不活性ガス雰囲気下、800℃で3時間熱処理する工程を含む
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにそれを用いた電気二重層キャパシタによれば、窒素を原子比で0.3〜0.6%含む多孔質炭素からなることにより、電極表面の濡れ性の低下に起因したキャパシタ特性の低下を抑制して電気二重層キャパシタの長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[主な実施形態]
本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにそれを用いた電気二重層キャパシタの実施形態について、以下に説明する。
【0020】
本実施形態に係る電気二重層キャパシタ用電極は、窒素を原子比で0.3〜0.6%含む多孔質炭素からなる炭素材料を用いて製造されたものである。前記多孔質炭素が、酸素を原子比で0.7〜1.2%含有するものである。前記多孔質炭素が、X線光電子分光法で測定された結合エネルギーの398〜400eVにピークを有するものである。
【0021】
このような本実施形態に係る電気二重層キャパシタ用電極によれば、電極表面の濡れ性の低下に起因したキャパシタ特性の低下を抑制して電気二重層キャパシタの長寿命化を図ることができる。その理由を以下に説明する。
【0022】
前記多孔質炭素が、窒素を原子比で0.3%より少ない量しか含有しないと、多孔質炭素の表面の濡れ性が悪くなり、電気二重層キャパシタの容量低下を引き起こしてしまい不適である。また、上限を越えた窒素濃度を含む多孔質炭素は、以下の3つの問題が発生するため不適である。
(1)現時点での手法では、調製時に大きく細孔構造が変化してしまう。
(2)収率が低くなり、生産性が低下する。
(3)炭素としての電子構造が変化して、導電率が低下し、内部抵抗が増加する。
【0023】
前記多孔質炭素が、酸素を原子比で0.7%より少ない量しか含有しないと、多孔質炭素の表面の濡れ性が悪くなり、電気二重層キャパシタの容量低下を引き起こしてしまい不適である。多孔質炭素が、酸素を原子比で1.2%より多い量を含有すると、電解液の分解を促進して、電気二重層キャパシタの寿命を短くしてしまい不適である。
【0024】
前記多孔質炭素が、X線光電子分光法で測定された結合エネルギーの398eV〜400eVにピークを有するものであることにより、当該多孔質炭素の表面にピリジン型窒素またはピロール・ピリドン型窒素を含有し、多孔質炭素の表面官能基による電解液の分解を抑制するため、電気二重層キャパシタの長寿命化を図ることができる。
【0025】
[電気二重層キャパシタ用電極の製造方法]
上述した電気二重層キャパシタ用電極は、ヤシ殻活性炭を4000ppmの一酸化窒素を含む不活性ガス雰囲気下、800℃で3時間熱処理して得られた多孔質炭素を原料として用いている。この多孔質炭素に導電性補助剤およびバインダを所定の割合でそれぞれ添加し混練した後に任意の形状に成形して、電気二重層キャパシタ用電極が製造される。導電性補助剤としてはカーボンブラックが挙げられる。バインダとしてはPTFE(四フッ化エチレン)が挙げられる。
【0026】
上述した条件でヤシ殻活性炭を熱処理することで、窒素を原子比で0.3〜0.6%含む多孔質炭素からなり、前記多孔質炭素が、酸素を原子比で0.7〜1.2%含有するものである電気二重層キャパシタ用電極を比較的簡易な手法にて得ることができる。
【0027】
そして、上述した多孔質炭素が、X線光電子分光法で測定された結合エネルギーの398〜400eVにピークを有する特性を持っている。
【0028】
本実施形態に係る電気二重層キャパシタが、上述した電気二重層キャパシタ用電極を有している。具体的には、電気二重層キャパシタが、セパレータの両側面に電気二重層キャパシタ用電極がそれぞれ配置されてなるセルの周囲をガスケット状のパッキンで覆い、セルおよびパッキンの両側面にアルミ集電箔をそれぞれ配置すると共に、これらアルミ集電箔のそれぞれに接触して集電端子を配置している。そして、エンドプレートで挟み込み、ボルトなどで締め込んでなる構造になっている。パッキンや集電端子やエンドプレートなどの材料として、従来より知られている既存の材料を適用することが可能である。
【0029】
したがって、本実施形態に係る電気二重層キャパシタ用電極によれば、窒素を原子比で0.3〜0.6%含む多孔質炭素からなることにより、多孔質炭素の表面の濡れ性の低下に起因した電解液の分解を抑制できる。その結果、キャパシタ特性の低下を抑制して電気二重層キャパシタの長寿命化を図ることができる。
【実施例】
【0030】
本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極およびこれを用いた電気二重層キャパシタの効果を確認するために行った確認試験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0031】
[確認試験]
本確認試験は、電気二重層キャパシタ用電極における、窒素の含有量および酸素の含有量ならびに結合エネルギーとキャパシタ特性(静電容量、内部抵抗)との関係を確認するために行った試験である。
ここで、電気二重層キャパシタ用電極における結合エネルギーについて、図2を参照して具体的に説明する。
図2は、試験体1および比較試験体1のX線光電子分光法による結合エネルギーを示す図である。図2にて、横軸に結合エネルギーを示し、縦軸に単位時間当たりのカウント数を示す。
【0032】
[評価用セル]
多孔質炭素とアセチレンブラック、PTFE(四フッ化エチレン)の構成とし、多孔質炭素とアセチレンブラックとPTFEの混合比を8:1:1とした材料をシート状に成型したものを電気二重層キャパシタ用電極とした。電解液として、1.4mol/LのSBP−BF4(スピロビピロリジニウム・テトラフルオロボレート)/PC(プロピレンカーボネート)を用いた。上記電気二重層キャパシタ用電極を集電用アルミ箔の片面に貼り付け分極性電極とした。また、これらの分極性電極はセパレータを介して一対の分極性電極同士が対向するように配置して、セルを構成した。さらにセルの外周には集電極(アルミ箔)の極間保持とシールのためにエチレンブタジエンゴムの薄型シートをガスケット状に切り抜いたパッキンを配置した。上記のセルを挟み込むよう強度の優れたエンドプレートを配置し、両エンドプレートを貫通するネジによって締め込みを行い、評価用セルを作製した。
【0033】
[比較試験体1]
電気二重層キャパシタの比較試験体1は、上述した構成の評価用セルにて、上述した多孔質炭素としてBET比表面積が1600m2/gであるヤシ殻活性炭粉末を用いたものである。この多孔質炭素の表面元素をX線光電子分光法により元素分析したところ、下記の表1に示すように、窒素を0.09%含有し、酸素を5.14%含有していた。
【0034】
[試験体1]
電気二重層キャパシタの試験体1は、上述した構成の評価用セルにて、上述した多孔質炭素として、比較試験体1のヤシ殻活性炭粉末を4000ppmの一酸化窒素を含む不活性ガス雰囲気下、800℃で3時間熱処理して、BET比表面積が1510m2/gとなった炭素材料を用いたものである。この多孔質炭素の表面元素をX線光電子分光法により元素分析したところ、下記の表1に示すように、窒素を0.49%含有し、酸素を0.92%含有していた。また、多孔質炭素が、X線光電子分光法で測定された結合エネルギーの398〜400eVの範囲を示すAの領域にピークを有することを確認した。
【0035】
[評価]
上記試験体1および比較試験体1について、熱加速課電試験を行いその特性(静電容量、内部抵抗)をそれぞれ測定した。
【0036】
上記測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、試験体1では、初期において、静電容量が13.6Fとなり、内部抵抗が0.585Ωとなることを確認した。また、試験体1では、2000時間課電試験を行った後において、静電容量が初期値の85%となり、内部抵抗が初期値の109%となることを確認した。比較試験体1では、初期において、静電容量が14.0Fとなり、内部抵抗が0.597Ωとなることを確認した。比較試験体1では、2000時間課電試験を行った後において、静電容量が初期値の79%となり、内部抵抗が初期値の115%となることを確認した。
【0039】
したがって、電気二重層キャパシタ用電極によれば、多孔質炭素における窒素の含有量を0.3〜0.6%の範囲内である0.49%とし、多孔質炭素における酸素の含有量を0.7〜1.2%である0.92%とすることで、多孔質炭素の電解液の濡れ性の低下が抑制され、電解液の分解を抑制できた。その結果、キャパシタ特性の低下を抑制して電気二重層キャパシタの長寿命化を図ることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにそれを用いた電気二重層キャパシタは、電極表面の濡れ性の低下に起因したキャパシタ特性の低下を抑制して電気二重層キャパシタの長寿命化を図ることができるため、瞬時電圧低下による障害の発生を防ぐ瞬時電圧低下補償装置や、鉄道やエレベータや電気自動車の電力貯蔵装置などにおいて、極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】電気二重層キャパシタの構成の一例を示す概略図である。
【図2】試験体1および比較試験体1のX線光電子分光法による結合エネルギーを示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 セパレータ
2,3 電極
4 セル
5 パッキン
6,7 アルミ集電箔
8,9 集電端子
10,11 エンドプレート
20 電気二重層キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を原子比で0.3〜0.6%含む多孔質炭素からなる
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電気二重層キャパシタ用電極であって、
前記多孔質炭素が、酸素を原子比で0.7〜1.2%含有する
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気二重層キャパシタ用電極であって、
前記多孔質炭素が、X線光電子分光法で測定された結合エネルギーの398〜400eVにピークを有するものである
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の電気二重層キャパシタ用電極を有する
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の電気二重層キャパシタ用電極を製造する電気二重層キャパシタ用電極の製造方法であって、
ヤシ殻活性炭を4000ppmの一酸化窒素を含む不活性ガス雰囲気下、800℃で3時間熱処理する工程を含む
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−135647(P2010−135647A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311490(P2008−311490)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】