説明

電気伝導性ポリマーを用いる神経刺激

【課題】細胞の再生、分化、または機能を改変するための方法および支持系が提供される。
【解決手段】本発明で用いられる電気伝導性生体適合性ポリマーは、単独で、もしくはポリマー性支持体と組み合わせて、インビトロでの神経細胞再生のために、またはインビボで神経組織欠損の治癒を補助するために用いられ得る。伝導性ポリマーは、神経細胞に隣接して移植され得るか、または神経細胞とともに播種され得る。電圧または電流は、細胞に対して所望の効果を誘導するが、細胞を損傷しない範囲で、ポリマーに適用される。この方法および系は、インビボまたはインビトロで神経組織の成長または再生を増強するための種々の適用に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、神経細胞を刺激するための方法に関する。より具体的には、電気伝導性ポリマー(electrically conducting polymer)上での細胞の電気刺激により、神経細胞の付着、成長、および分化を促進するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞の成長および分化を促進するための方法の開発は、非常に困難であることが証明されている。ニューロンは、制限された再生能力しか有さないことが見出されている。約6カ月後、ほとんどの神経細胞は、再生するその能力を失い、そして損傷した神経細胞がそれ自身を修復する能力は非常に制限される。また、ニューロンの伸長および分化を、インビトロまたはインビボで刺激するために利用可能な方法はほとんどない。
【0003】
電荷は、インビトロでの神経突起伸長およびインビボでの神経再生の増強に役割を果たすことが見出されている。神経再生を刺激する条件の例としては、圧電性材料およびエレクトレット、外的DC電界、パルス電磁場、ならびに再生中の神経を横切る電流の直接的な印加が挙げられる。神経突起の伸長は、圧電性材料(例えば、分極化(poled)ポリビニリジン二フッ化物(PVDF)(非特許文献1;および非特許文献2)ならびにエレクトレット(例えば、分極化ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(非特許文献3))で増強されたことが示された。この効果は、材料が瞬間的な機械的ストレスに供されるときに現れる、材料中の一過性の表面電荷の存在に起因した。電磁場はまた、神経突起の伸長および横に切断された神経末端の再生に重要であることが示されている。非特許文献3非特許文献4;非特許文献5; および非特許文献6。表面電荷密度および基材湿潤性はまた、神経再生に影響を与えることが示されている。非特許文献7
【0004】
神経突起は、定常電界下ではカソードに向かって優先的に移動することが示されている。非特許文献8; 非特許文献9; ならびに非特許文献10。提唱されてきた、観察された効果についての機構としては、アクチン(非特許文献11)および他の分子(非特許文献12)のような細胞骨格タンパク質の再分布、好都合なタンパク質のコンホメーション変化(非特許文献13)、ならびに神経断端間の電気的連絡の促進(非特許文献10)が挙げられる。
【0005】
これらの系には、いくつかの欠点がある。PVDFおよびPTFE系の場合、ポリマーは、ポリマーのガラス転移温度よりも上で、数時間の間、約21Kvの高い電界の存在下で分極(双極子の配置)されなければならない。これらの材料が、有限な長さの時間で強力な圧電性挙動またはエレクトレット挙動を示すのは、分極後のみである。ニューロン刺激のために(外的におよびインビボで)電磁場の適用を利用する系では、適用される電磁場は、ニューロン組織に焦点を合わせるのでなく、むしろ損傷部位全体にわたって広範に適用される。
【0006】
ポリピロール(PP)は、神経伝達物質ドーパミンの制御送達のためのマトリックス(非特許文献14)において、そしてグルコース(非特許文献15)または他のタンパク質(非特許文献16)の検出のためのバイオセンサーとして使用されてきた。細胞表面相互作用および細胞機能は、PP薄膜上で、ポリマーの酸化状態を変化させる(非特許文献17)か、または適切なドーパント(dopant)を用いてポリマー膜の湿潤性を変化させる(非特許文献18)かのいずれかにより制御されることが示された。
神経細胞の付着、成長、および再生を、インビトロおよびインビボで制御するための材料であって、長期間にわたる神経細胞のインビトロ培養、ならびにインビボでの神経細胞の再生、分化、および機能の操作を可能にする材料を開発することが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Aebischerら,Brain Res., 436; 165(1987)
【非特許文献2】R.F.Valentiniら, Biomaterials, 13:183(1992)
【非特許文献3】R.F.Valentiniら, Brain. Res. 480:300(1989)
【非特許文献4】J.M.Kernsら, Neuroscience 40:93(1991)
【非特許文献5】M.J.Politisら, J.Trauma, 28: 1548(1988)
【非特許文献6】B.F.Siskenら,Brain.Res.,485: 309(1989)
【非特許文献7】Valentiniら,Brain. Res. 480:300-304 (1989)
【非特許文献8】L.F.JaffeおよびM.-M.Poo.,J.Exp.Zool., 209:115 (1979)
【非特許文献9】N.B.PatelおよびM.-M.Poo., J.Neurosc., 4:2939(1984)
【非特許文献10】K.Shibibら, Surg.Neurol., 29: 372(1988)
【非特許文献11】P.W.Lutherら,Nature, 303: 61(1983)
【非特許文献12】M.J.Politisら, J.Trauma, 28:1548(1988)
【非特許文献13】R.F.Valentiniら, Biomaterials, 13:83(1992)
【非特許文献14】L.L.MillerおよびQ.-X.Zhou,macromolecules, 20:1594 (1987)
【非特許文献15】L.D.Couves, Synt.Metals., 28:C761(1989)
【非特許文献16】O.A.SadikおよびG.G.Wallace, Analytica. Chimica. Acta., 279:209(1993)
【非特許文献17】J.Y.Wongら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA., 91: 3201 (1994)
【非特許文献18】V.R.Shastri博士、DissertationRensselaer Polytechnic Institute, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、培養において神経細胞を含む細胞の付着および再生を刺激するための方法および組成物を提供することである。本発明の別の目的は、人工基材および補綴物上にインビボで移植される場合、神経細胞を含む細胞の成長および再生を増強するための方法および組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、神経細胞の付着および成長をインビボで刺激して、それにより神経損傷の修復、神経組織の再構築、および喪失した神経系機能の置換を可能にするために潜在的に使用され得る方法および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
細胞の再生、分化、または機能を、インビボおよびインビトロの両方で改変するための方法および支持系が記載される。1つの実施態様において、電気伝導性生体適合性ポリマーは、インビトロでの神経細胞を成長させるために、またはインビボでの神経組織欠損の治癒を補助するために単独で、または用いられるポリマー性支持体と組み合わせて用いられ得る。伝導性ポリマーは、影響されるべき細胞に隣接して移植され得るか、またはこの細胞とともに播種され得る。電圧または電流は、細胞に所望の効果を誘導するが、細胞を損傷しない範囲で、ポリマーに印加され得る。好ましい実施態様において、伝導性ポリマーは、調製が容易であり、そして焦点を合わせたニューロン刺激を可能にする、ポリピロール類を含む。
したがって、本発明は、以下をも提供する。
1.細胞の再生、分化または機能を変化させるための方法であって、
電気伝導性ポリマーに接着または隣接された細胞の再生、分化または機能を変化させるに効果的な量および十分な時間にわたって、該細胞を該電気伝導性ポリマーを含む表面に付着または隣接させる工程
を包含する、方法。
2.前記細胞が神経細胞である、項目1に記載の方法。
3.前記細胞に損傷を与えずに、前記ポリマーに付着または隣接する神経細胞の再生、分化または機能を変化させるに効果的な量で、前記電気伝導性ポリマーに電圧または電流を印加する工程をさらに包含する、項目2に記載の方法。
4.前記電気伝導性ポリマーが、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ならびにこれらのコポリマーおよびブレンドからなる群より選択される、項目2または3に記載の方法。
5.前記電気伝導性ポリマーがポリピロールである、項目2または3に記載の方法。
6.前記神経細胞が、天然に存在する哺乳動物神経細胞および組換え神経細胞からなる群より選択される、項目2または3に記載の方法。
7.前記神経細胞が、脳、脊髄、知覚および運動ニューロンからなる群より選択される、項目2または3に記載の方法。
8.前記ポリマーが、ポリマー性支持構造上にコートされているかまたはポリマー性支持構造とブレンドされている、項目2または3に記載の方法。
9.前記ポリマーが、体内への移植のためのポリマー性支持構造上にコートされているかまたはポリマー性支持構造とブレンドされている、項目8に記載の方法。
10.前記構造が生体適合性ポリマーを含む、項目9に記載の方法。
11.前記構造が生分解性ポリマーを含む、項目10に記載の方法。
12.前記伝導性ポリマーが、前記細胞のための付着部位としてはたらく表面に結合した付着分子をさらに含む、項目2または3に記載の方法。
13.処置を必要とする患者に前記伝導性ポリマーを移植する工程、および前記神経細胞を含む神経組織の治癒を増強するに効果的な量で該ポリマーに電圧または電流を印加する工程をさらに包含する、項目2または3に記載の方法。
14.前記神経組織が中枢神経系組織および末梢神経系組織からなる群より選択される、項目13に記載の方法。
15.処置を必要とする患者に前記ポリマーを移植する工程、および前記神経細胞の再生を増強するに効果的な量で該ポリマーに電圧または電流を印加する工程を包含する、項目2または3に記載の方法。
16.前記神経細胞の神経突起の伸長が増強される、項目14に記載の方法。
17.前記ポリマーと共に前記神経組織の治癒を増強する組成物を移植する工程をさらに包含する、項目12に記載の方法。
18.神経細胞の再生、分化または機能を変化させるためのデバイスであって、
神経細胞に付着するかまたは隣接した電気伝導性ポリマー
を具備し、
該ポリマーが、該細胞を損傷させることなく、該神経細胞の再生、分化または機能を変化させ得る、デバイス。
19.十分な量の電圧または電流が前記ポリマーに印加される場合、該ポリマーが該細胞を損傷させることなく、該神経細胞の再生、分化または機能を変化させ得る、項目18に記載のデバイス。
20.前記ポリマーを横切る電圧または電流を誘導する手段をさらに具備し、ここで、該手段は該ポリマーと電気的に接続されている、項目19に記載のデバイス。
21.前記電気伝導性ポリマーが、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ならびにこれらのコポリマーおよびブレンドからなる群より選択される、項目18に記載のデバイス。
22.前記電気伝導性ポリマーがポリピロールを含む、項目18に記載のデバイス。
23.前記神経細胞が、脳、脊髄、知覚および運動ニューロンからなる群より選択される、項目18に記載のデバイス。
24.前記ポリマーが、ポリマー性支持構造上にコートされているかまたはポリマー性支持構造とブレンドされている、項目18に記載のデバイス。
25.前記構造が、縫合糸、チューブ、シート、および組織操作のための足場からなる群より選択される、項目24に記載のデバイス。
26.前記構造が生体適合性ポリマーを含む、項目25に記載のデバイス。
27.前記構造が生分解性ポリマーを含む、項目26に記載のデバイス。
28.神経細胞の成長を刺激する組成物をさらに具備する、項目18に記載のデバイス。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、酸化状態のポリピロールの構造の図であり、ここでXはドーパントアニオンである。
【図2】図2aは、組織培養ポリスチレン上で24時間成長させたPC12細胞の神経突起の長さの度数分布のグラフである。図2bは、ポリ(ピロール)/ポリ(スチレン-スルホネート)上で24時間成長させたPC12細胞の神経突起の長さの度数分布のグラフである。
【図3】図3aは、電気伝導性ポリマー上での神経細胞の電気刺激のためのチャンバーを具備する装置の側面透視図であり、図3bはその上面図である。
【図4】図4aは、対向電極に最も近いポリ(ピロール)/ポリ(スチレン-スルホネート)上で成長させ、そして電位に曝露したPC12細胞成長についての神経突起の長さの度数分布のグラフである。 図4bは、対向電極に最も遠いポリ(ピロール)/ポリ(スチレン-スルホネート)上で成長させ、そして電位に曝露したPC12細胞成長についての神経突起の長さの度数分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
神経細胞を含む細胞の再生、分化、または機能を、インビトロおよびインビボで改変するための方法および系が提供される。1つの実施態様において、電気伝導性ポリマーに付着するか、またはこのポリマーに近接した、細胞(例えば、神経細胞)の付着および再生を可能にする方法および系が提供される。必要に応じて、電圧または電流が、効果を増強するためにポリマーに印加され得る。細胞機能(例えば、付着、成長(すなわち、移動および増殖)および再生(例えば、神経突起伸長および細胞展開))が改変され得る。電気伝導性ポリマーで形成される表面は、表面電荷、湿潤性、コンホメーション変化および次元変化を含むこれらの特性が、酸化または還元により可逆的に改変され得るという点で有利である。ポリマーは、インビトロまたはインビボのいずれかで細胞が直接または付着分子を介してのいずれかで付着され、そして再生される、基材へのコーティングとして適用されるか、またはポリマー性基材を形成するために使用される。ポリマーに印加する電圧の量(電圧×印加時間)または電流の量は、細胞に対する効果を決定し得る。
【0012】
I.基材
A.電気伝導性ポリマー。
【0013】
複合型ポリマーは、電気的および光学的な特性が非常に広範な範囲で、しばしば、完全に可逆的な様式で、制御可能に変化し得る、比較的新しいクラスの材料を表す。これは、典型的には、ポリマー骨格のπ-系の化学的もしくは電気化学的な酸化によるか、またはある場合にはポリマー骨格の直接プロトン付加のいずれかにより達成される。この化学的「ドーピング(doping)」プロセスを介して、これらの材料の電気伝導性を、絶縁状態から伝導状態へと計画的に変化することが可能である。電気伝導形態のこれらの材料は、p型ドープ化ポリマー性電荷移動塩として最も良好に記載される。ここでは、複合型ポリマーは、骨格の比較的短いセグメント(例えば、高度に酸化したポリマーの3〜4回反復単位)にわたって非局在化する正電荷を支持する。電荷の中性状態は、通常はドーピング剤に由来する、負荷電の対イオンにより維持される。
【0014】
ドーピングプロセスによりポリマー骨格上に作製された正電荷の欠損状態は、ポーラロン(共役ラジカルカチオン)、バイポーラロン(共役ジカチオン)、およびソリトン(非相互作用カチオン)を含む多くの異なる形態で存在し得る。これらの電荷欠損状態は、これらの材料における一次電荷キャリアであり、従ってこれらの電気伝導性を担うと考えられる。
【0015】
電気伝導性ポリマーは、可逆的に酸化および還元され得る、複合型ポリマーである。代表的な電気伝導性ポリマーとしては、特に、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(フェニレンスルフィド)、およびポリ(フェニレンビニレン)が挙げられる。Kanatzidis, M.G. Chem,Eng.News, 68, 36-54 (1990)およびStreet,G.B.;Clarke, T.C. IBM J.Res.Develop.,25, 51-57 (1981)。ポリマーは、基材上にコーティングとして沈着されるかまたは重合されて、目的物を形成し得る。ポリマーは、単一ポリマーの単層コーティングとして、または多層膜として適用され、適用されるポリマーの特性を改変し得る。
【0016】
伝導性ポリマーは、複合型ポリイオンまたは非誘導体化複合型ポリマーの形態であり得る。非誘導体化複合型ポリマー(すなわち、イオン化可能な側鎖基を含まないもの)は、それらの誘導体化ポリイオン相当物よりも有意に、環境的に安定であり、そしてまた非常に高い電気伝導性を示すことが見出されている。非誘導体化複合型ポリマーの例は、「Conjugated Polymeric Materials: Opportunities inElectronics,Optoelectronics, and Molecular Engineering」, J.L.BredasおよびB.Silbey編,Kluwer,Dordrecht, 1991に見出され得る。
【0017】
好ましい実施態様において、使用され得る電気伝導性ポリマーとしては、ポリアニリン、ポリピロール、およびポリチオフェンが挙げられる。本明細書中で定義する場合、用語「ポリアニリン」、「ポリピロール」、および「ポリチオフェン」は、当該分野で利用可能な方法を用いて作製され得る、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、およびそれらの誘導体を包含する。使用され得る誘導体としては、置換ポリアニリン、置換ポリピロール、および置換ポリチオフェン(例えば、N-置換ポリピロール)が挙げられる。さらに、3-置換ポリアニリン、3-置換ポリピロール、3-置換ポリチオフェン(例えば、3-アルキル置換誘導体)が用いられ得る。
【0018】
好ましい実施態様において、伝導性ポリマーは、その固有の電気伝導特性のために有用であるポリピロールである。図1は、電気化学的に合成されたポリピロールの酸化状態(PP)の化学構造を示す。高度に複合化された骨格は、異なる鎖間の電子移動を可能にして電気伝導を生じる。Xは、ポリカチオン性ポリピロールと関連して全体としての電荷中性化を生じる負電荷対イオン(ドーパント)である。利用され得るドーパントとしては、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン硫酸A、B,およびC)、ヘパリンならびに他の硫酸化生体分子が挙げられる。ポリカチオンは、ドープ化伝導性ポリマー表面(例えば、ポリリジン、コラーゲン、およびフィブロネクチン)に吸着または結合されて表面の電荷を改変し得る。
【0019】
PPは、可逆性の電気化学を示す。これは、ポリマーの酸化状態を変化させることにより、表面電荷密度の制御を可能にする。ドーパントの選択によるかまたはその酸化状態の変化により表面特性を変化させ、それにより細胞-基材相互作用を変化させる能力は、ポリピロール(PP)を組織操作適用のために非常に有用にする。
【0020】
機能性スルホン酸でドープ化したポリアニリン(PAn)もまた使用され得る。いくつかの研究グループが、PAnをドープ化する方法についてのアプローチ(ホモポリマー膜ならびに伝導性ブレンドの両方について)を報告している。例えば、「機能性」プロトン酸、主にPAnドーパントとしての大きなスルホン酸の使用は、ドープ化ポリマーをいくつかの有機溶媒中で可溶性にする。[C.Y.Yangら,PolymerPreprints, ACS Meeting, Denver, 1993年3月; Y.CaoおよびA.J.Heeger,Synth.Met.,52, 193(1992); Y.Cao, P.SmithおよびA.J.Heegr, Synth. Met., 48 (1992),91; A.AndreattaおよびP.Smith,Synth.Met., 55,1017 (1993)]。ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ナイロン、ポリビニルクロリド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアセテート(PVA)、ポリプロピレン、ポリエチレン(PE)、ABS、およびポリカーボネート[Y.Cao,P.SmithおよびA.J.Heeger,Synth.Met.,48, 91 (1992); A.AndreattaおよびP.Smith,Synth.Met.,55, 1017 (1993)]を含むいくつかのホストポリマーとのブレンドが報告されている。伝導性PAn/ポリ(アルキルメタクリレート)ブレンドは、HClの存在下でのエマルジョン重合化により調製された[S.Y.YangおよびE.Ruckenstein,Synth.Met.,59(1993)]。伝導性PAn膜は、Elsenbaumerに対する米国特許第4,983,322号に記載のように、PAn塩基または既にドープ化されたPAnのいずれかから開始して、塩化第II鉄のニトロメタン溶液から鋳造されている。ドープ化PAnはまた、Hanら(1992)による国際特許出願第WO92/11644号に記載のように、ドーパントを複合体化するように作用してPAnを可溶性にするLewis塩基の添加により可溶化され得る。5-フルオロサリチル酸(SSA)でドープ化されたPAnは、D.C.TrivediおよびS.K.Dhawan,Synth.Met.,58,309 (1993)により報告されたように、DMSO、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびNMPに可溶性である。2つのグループは、ポリマー性ドーパントであるスルホン化ポリスチレンでのPAnのドーピングを報告した:Y.-H.LiaoおよびK.Levon,PSMEPreprints, ACS Meeting, Chicago, 1993年8月; ならびにB.D.Malhotraら,J.Appl.Polym.Sci.,40,1049 (1990)。
【0021】
B.伝導性ポリマー材料の調製
ポリピロールの合成および適用の方法は、他の電気伝導性ポリマーに対する方法を代表する。ポリピロールは、その化学的および温度的安定性、調製の容易性、および電気活性(electroactivity)により、おそらく、最も広範に研究された電気伝導性ポリマーである。Street, G.B., 伝導性ポリマーのハンドブック;Skotheim,T.A.; Marcel Dekker, Inc., New York, 1986; 265頁。ポリピロールは、生物学的環境で、バイオセンサーとして(Umana,M.;Waller, J.Anal.Chem., 58, 2979-2983)(1986);電気化学的に制御された薬物放出を得るための電極として(Miller,L.L.Mol.Cryst.Liq.Cryst.,160, 297)(1988);タンパク質を結合する基材として(Prezyna, L.A.; Qiu, Y.J.;Reynolds, J.R.; Wnek,G.E. Macromolecules, 24, 5283-5287 (1991); Smith, A.B.;Knowles, C.J. J.Appl.Polym.Sci.,43,399-403 (1991); Wallace, G.G.; Lin, Y.P.J.Electroanal.Chem., 247, 145-156(1988))およびDNAとして; Minehan,D.S.; Marx, K.A.;Tripathy, S.K. Polym.Mat.Sci.Eng.,64, 341-2 (1991);ならびにポリマーに結合した細胞を破裂させるため(M.Yaoitaら,Exptl.Cell Biol.,57: 43-51(1989); H.Shinoharら, Biolectrochemistry andBioenergetics, 22: 23-35 (1989),J.Electroanal.Chem.,第276巻(Elsevier SequoiaS.A. Lausanne, Netherlands 1989)の一節)に用いられた。
【0022】
ピロールは、化学的または電気化学的のいずれかで重合化されてポリピロールを形成し得る。水溶液中でのポリピロールの化学合成は、S.P.Armes, Synth.Met., 20, 365頁(1987)、ならびにA.B.SmithおよびC.J.Knowles,J.Appl.Polym.Sci.,399-403頁,第43巻, 第2号, 1991年7月20日の方法により実施され得る。簡略には、無水塩化第二鉄(例えば、36g)を、400mLの2回蒸留水に溶解し、そして氷浴中で0℃に冷却する。予め0℃まで冷却した蒸留ピロール(4mL)を、激しく撹拌しながら、少なくとも2時間かけて塩化第二鉄の溶液に添加する。形成される不溶性ポリマーをWhatmanNo.6濾紙(WhatmanInc., Clifton, NJ 07014)で濾過し、そして清澄な溶液が得られるまで水で大量に洗浄する。これを、さらに、エタノールで、そして最終的にジエチルエーテルでリンスした後、35℃で一晩乾燥する。
【0023】
有機溶媒中でのポリピロールの化学的合成は、R.E.Myers,J.Electron.Mater.,15, 61頁(1986)、ならびにA.B.SmithおよびC.J.Knowles,J.Appl.Polym.Sci.,399-403頁,第43巻,第2号, 1991年7月20日の方法により実施され得る。ジエチルエーテル(300mL)を、500mLビーカーの中に含まれる19.6gの無水塩化第二鉄に添加する。冷蒸留ピロール(2.1mL)を、0℃に予め冷却した撹拌された塩化第二鉄/エーテル溶液中に添加し、そしてこの温度で少なくとも1時間撹拌する。不溶性産物を、上記のように、回収し、洗浄し、そして乾燥する。
【0024】
好ましい実施態様において、PP膜は電気化学的に合成され得る。ポリピロール膜の電気化学的合成は、例えば、プラチナ動作電極、金ワイヤ対向電極、および塩化ナトリウムカロメル参照電極を備えた1区画のセル中でのピロールの電気酸化により実施され得る。代表的な調製において、0.1Mテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートおよび約0.02Mピロールを含むアセトニトリル溶液が、Diaz,A.F.;Kanazawa, K.K. Extended Linear Chain Compounds; Plenum Press, New York,1983417-441頁により記載されるように用いられる。溶液中の酸素は、電気分解の前に不活性ガスとして排出される。実際、広範な種々の溶媒および電解質が、溶液の電気抵抗が高すぎず、そして求核性が重合化反応を干渉しない限り使用され得る。
【0025】
さらに、PP膜は、PP膜沈着のための電気伝導性表面としてインジウムスズ酸化物(ITO)伝導性ホウケイ酸塩ガラス(DeltaTechnologies,Still Water, MN)を用い、3つの電極セットアップ(作用電極としてのITOガラス、対向電極としてのプラチナガーゼ、および参照電極としてのAg/AgCl電極)を用いて、下記の実施例1に記載するように、電気化学的に合成され得る。PP膜は、ITOガラス(作用電極)上に、例えば0.7ボルトの定電位で、0.1Mのポリ(スチレンスルホネート)のナトリウム塩を含む0.1Mピロールの水溶液から電気化学的に沈着され得る。従って、ポリ(スチレンスルホネート)のナトリウム塩は、ドーパントおよび電解質の両方として作用し得る。使用され得る他のドーパントとしては、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、および硫酸化された生体分子が挙げられる。
【0026】
種々の厚さの伝導性ポリピロール(PP)膜は、例えば、約0.1〜0.15μmのオーダーの薄膜、約1.8〜2.0μmのオーダーの厚膜に合成され得る。膜の厚さは、電荷の通過により制御され得る(A.F.Diazら,J.Electroanal.Chem., 129: 115 (1981))。例えば、26.2mCol/cmの電荷は、約0.1μmの厚さのPP膜を生じる。膜合成の間に通過した電荷の量は、時間ベースの記録計を使用する場合、電流対時間、または電圧対時間のプロットの曲線の下の面積から決定され得る。光学的に透明なPP薄膜の合成方法が、J.Y.Wongら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,91:3201-3204 (1994)に記載されている。
【0027】
C.多層膜
以下を含む、当該分野で利用可能な超薄多層膜の調製のための方法が使用され得る:溶液キャスティング、Langmuir-Blodgett技術、化学吸着、Decherら、Thin Solid Films 210/211,831 (1992)の方法、およびマサチューセッツ工科大学による、Rubherら、PCT/US94/07182の方法。予め形成された2重層凝集体の溶液キャスティングおよびコポリマーのスピンコート膜(spincoatedfilm)のアニーリングは層構造を生じるが、互いの層の配置および分子の位置は限定される。Langmuir-Blodgett(LB)技術において、膜は、水面上で調製され、次いで固体基材上に移される。しかし、この方法は、一般的に平らな基材にのみ適用可能である。別の方法は化学吸着に基づく。
【0028】
Decherら、ThinSolid Films 210/211,831(1992)およびDE4026978 (WO 92-073188/10)は、ポリカチオンおよびポリアニオンの沈着を交互にすることを介して、荷電した表面上にポリマーの多層薄膜を構築することが可能であることを証明している。この多層アセンブリプロセスの基礎は、ポリカチオン(正の電荷)およびポリアニオン(負の電荷)に存在する永久的に固定された電荷のイオン性誘引力である。本質的に、基材表面上に吸着されたポリイオンの過剰電荷は、表面上に反対の電荷のポリイオンを誘引するために使用される。多層薄膜は、浸漬プロセスを単に交互にすることにより作られる。このアプローチを使用して、伝導性ポリマーとして機能する、結合ポリイオン(イオン化可能側鎖基と適合した結合ポリマー)を含む種々の異なるポリイオンを操作し得る。しかし、結合ポリマーの反復構造へのイオン化可能側鎖の付加は、そのポリマーで達成可能な伝導率のレベルを損ない得る。従って、より従来の結合ポリマー(例えば、ポリアニリンおよびポリピロール)を超薄多層薄膜に作製し得ることが、より所望されかつより有用である。
【0029】
MillikenCorp.は、種々の紡織繊維を、ポリピロールおよびポリアニリンの均一な電気伝導性の膜でコーティングするための手順を開示している。詳細には、繊維へのポリピロールの電気伝導性コーティングの沈着は、この繊維をピロールの希釈水溶液(酸化剤(例えば、塩化第二鉄)、およびポリマーの伝導率および電導率安定性を増強するのに適切な負の対イオンも含む)中に置くことにより達成される。対イオンは、代表的には、スルホン酸(例えば、ナフタレンジスルホン酸)の形態で添加される。代表的なコーティング溶液は、約10g/lの塩化第二鉄無水物、5g/lのトルエンスルホン酸、および0.2gのピロールモノマーを含む。
【0030】
新たな電気的なかつ光学的な特性を有する多層薄膜を作製するための有用な方法は、分子レベルの、一層ずつの沈着プロセスを利用する、マサチューセッツ工科大学による、Rubherら、PCT/US94/07182により開示される。このプロセスは、分子レベルで制御可能な、複雑な分子構成および厚さを有するヘテロ構造薄膜の構築に特に有用である。交互の層の薄膜を作製するために使用される基本的なプロセスは、基材を、p型ドープ化ポリマー(例えば、p-ドープ化結合ポリマー)の希釈溶液に浸漬する工程、基材を水(またはポリマー用の別の溶媒)でリンスする工程、次いでそれをポリアニオンまたは水溶性非イオン性ポリマーを含む希釈溶液に浸漬する工程を包含する。このプロセスは、多層薄膜を構築するのに所望の回数だけ反復され得る。この多層薄膜において、沈着された各二重層は、溶液濃度、ドーピングレベル、pH、およびイオン強度のようなパラメーターに依存して、約10〜100Åだけの厚さである。
【0031】
水溶性のp型ドープ化伝導性ポリマーの作製は、多くの異なる方法で達成され得る。1つの実施態様において、伝導性ポリマー鎖は、主にモノマーおよび酸化剤からなる希釈水溶液中でインサイチュで形成される。この場合、この伝導性ポリマーは、実際には溶液中で作製され、その後、自発的に、約10〜250Åを超える厚さ、より好ましくは、10〜100Åの厚さの均一な超薄膜として基材表面に吸着される。
【0032】
ポリピロールおよびポリアニリンの薄い電気伝導性コーティングは、例えば、コートされる物体を、希釈(約0.1m/l未満)量のピロール(またはアニリン)モノマーおよび適切な酸化剤(例えば、塩化第二鉄またはアンモニウムペルオキシサルフェート)を含む水浴中に単に置くことにより、種々の基材上で形成され得る。モノマーの希釈溶液の使用は、モノマーの酸化重合から形成された電気伝導性ポリマーが、溶液中で単に重合しそして不溶性粉末として沈澱するのとは対照的に、コートされるべき基材上に排他的に沈着されることを保証する。
【0033】
高度に均一なかつ高密度の多層薄膜は、基材をポリアニオンの希釈水溶液に単に浸漬する(これにより、この物質の単層がp-型ドープ化伝導性ポリマー上に沈着される)ことにより容易に作成され得る。p-型ドープ化ポリマーの層と負に荷電したポリアニオンとを交互に沈着させるこのプロセスは、正確に制御された厚さおよび構造を有する薄膜を作製するために必要とされるだけ反復され得る。
【0034】
あるいは、第2の実施態様において、予め形成された伝導性ポリマーは、適切な溶液系において、それらのドープ化形態の希釈溶液を形成することにより直接使用される。この場合、使用される溶媒系の型、ならびにポリマー鎖の化学ドーピングのレベルおよび型を制御する必要がある。一般的な手順は、最初に未ドープ化ポリマーを適切な有機溶媒に溶解する工程、続いて、このポリマー溶液を、ポリマー用のドーパントを含む溶媒で希釈する工程を包含する。これは、ドープ化ポリマー鎖を溶媒和し得る溶媒系を生じる。例えば、ポリアニリンの場合、希釈水溶液は、最初に、このポリマーの非伝導性暗緑色染料ベース形態をジメチルアセトアミド(DMAc)(またはn-メチルピロリドン)(NMP)に溶解し、続いて、最終溶液が90/10の水対DMAc容量比を有するように、この溶液を酸性水で希釈することにより、容易に形成され得ることが見出されている。このプロセスの最終工程はまたポリマーを酸ドープ化するので、ドーピングレベルは、最終浸漬溶液のpHレベルを制御することにより容易に調節され得る。0.01m/l程の高いポリアニリン濃度を有する溶液は、この手順で容易に調製され得る。最終的な結果は、ポリアニオンとの交互の沈着を介する分子自己アセンブリに適切な、ドープ化ポリアニリンの安定な水ベースの溶液(90%水)である。
【0035】
II.ポリマー表面改変
A.ポリマー組成物
電気伝導性ポリマーは、インビボまたはインビトロ使用の前の細胞成長および細胞接着の前に、別の生体適合性ポリマー物質(生分解性または非生分解性のポリマー物質を含む)に適用されるか、またはそれらとブレンドされ得る。従って、電気伝導性ポリマーは、別のポリマー物質とブレンドされるか、別の物質の表面上にコーティングとして適用されるか、またはその物質自体を形成するために使用され得る。
【0036】
伝導性ポリマーとブレンドされるか、またはそれでコートされ得る他のポリマー物質として、生分解性でない生体適合物質(例えば、ポリ(スチレン)、ポリ(エステル)、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリ(エチレンビニルアセテート)、ポリ(プロピレン)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(エチレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ガラス、ポリケイ酸塩、ポリ(カーボネート)、テフロン(登録商標)、フルオロカーボン、ナイロン、およびシリコンゴム)が挙げられる。他の有用な物質として、生体適合性の生物分解性物質(例えば、ポリ(無水物))、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(プロピルフメラート)、タンパク質および重合化タンパク質(例えば、コラーゲン)、ならびに多糖および重合化多糖(例えば、グリコサミノグリカン、ヘパリン、およびそれらの組合せ))が挙げられる。
【0037】
B.ポリマー構造
1つの実施態様において、伝導性ポリマー膜は、生体適合性の生分解性または非生分解性のポリマー(例えば、ポリ(乳酸)またはポリ(ラクチド-co-グリコリド)(「PLGA」)に積層されるか、またはそれらとブレンドされ得る。例えば、PP膜は、PLGA(50:50)膜と共に積層されて、プロセス可能なおよび縫合可能な膜およびチューブを生じ得る。1つの例示的なプロトコルにおいて、PLGA膜は、ガラス容器中のクロロホルム溶液からキャスティングされ、次いでそれらを水に浮かべることにより、容器から取り出される。遊離の浮いている膜は、次いで風乾される。次いで、PP膜は、塩化メチレンで湿らされ、そして所望の厚さのPLGA膜と重層される。次いで、積層されたPP膜は、細胞成長および神経再生を刺激するための移植のような適用における使用のために所望の形状に切断される。得られた積層された膜は、インビボ移植に適切な、縫合可能なチューブまたはディスクにプロセスされ得る。
【0038】
組織操作のための足場(scaffold)(移植可能マトリックス)は、移植細胞、または移植マトリックスに移動し、付着し、そしてその中で成長する細胞の、再生、成長または機能を増強するために伝導性ポリマーでコートされるか、またはそれから作製され得る。移植のために使用され得る物質としては、縫合糸、チューブ、シート、接着阻止デバイス(代表的には、膜、インサイチュで重合される液体として適用されるポリマーコーティング、または他の物理的障壁)、および創傷治癒産物(治癒されるべき創傷に従って、膜およびコーティングから支持構築物まで様々である)が挙げられる。正常な神経細胞および遺伝子操作された神経細胞の両方は、必要に応じて、失われた機能の代替を補助するために、移植片に接種され得る。L.S.Lavineら、J.ofBoneand Joint Surgery, 625-630 (1987)(骨の修復のための電気刺激の一般的な総説)は、電気伝導性ポリマーとの使用のために改変され得る、多くのデバイスを記載している。
【0039】
Langerら、J.Ped. Surg. 23(1), 3-9(1988), WO88/03785およびマサチューセッツ工科大学によるEPA 88900726.6に記載されるように、新しい組織を形成するための移植のためのマトリックスは、血管の内殖のための柔軟な、非毒性の、多孔性のテンプレートであるべきである。孔は、細胞または患者に損傷を与えずに、血管の内殖および細胞の接種を可能にするべきである。これらは、一般に、互いに連結した、約100と300ミクロンとの間の範囲の孔である。マトリックスは、表面積を最大にするように形作られ、栄養素および成長因子の細胞への適切な拡散を可能にするべきである。好ましい実施態様において、マトリックスは、生体吸収性もしくは生分解性の合成ポリマー(例えば、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、またはポリヒドロキシ酸(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸)、およびこれらのコポリマーまたはブレンドから)形成される。非分解性の物質もまた、マトリックスを形成するために用いられ得る。適切な物質の例には、エチレンビニルアセテート、ポリビニルアルコールの誘導体、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリメタクリレート、およびシリコンポリマーが含まれる。好ましい非生分解性物質は、エチレンビニルアセテートメッシュおよびポリビニルアルコールスポンジである。非吸収性ポリビニルアルコールスポンジは、IvalonTMとしてUnipointIndustriesから市販されている。
【0040】
市販の物質が用いられ得る。マトリックスにおける使用のためのポリマーは、ポリマー分子量がゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、ガラス転移温度が示差走査熱分析(DSC)により、熱安定性が熱重量分析(TGA)により、結合構造が赤外(IR)分光法により、毒物学が初期のスクリーニング試験(Amesアッセイおよびインビトロ催奇性アッセイを含む)により、そして免疫原性、炎症、放出、および分解研究が動物における移植研究によって特徴付けされ得る。
【0041】
インビトロ培養のために、電気伝導性のポリマーは、コーティングとして用いられ得るか、または培養フラスコ、ウェル、ビーズ、または他の培養容器(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、およびポリテレフタレートのようなプラスチックから形成される)を形成するポリマーとブレンドされ得る。
【0042】
III. 生物活性分子または付着分子の使用
付着分子のような分子または成長因子のような生物活性分子は、伝導性ポリマー上に提供され得、そして必要に応じて共有結合的にまたは非共有結合的にポリマーに結合され得る。
【0043】
付着分子は、細胞表面レセプターによって特異的に結合される任意の天然分子または合成分子として定義される。これらは、1つ以上の結合部位を有する天然分子および合成分子を含む。天然分子の例は、フィブロネクチンおよびラミニンのような細胞外マトリックス因子である。合成分子の例は、フィブロネクチンの結合部位を含むペプチドである。いくつかの実施態様において、ポリマーへの細胞の付着は、基底膜成分、ゼラチン、アラビアゴム、I、II、III、IV、およびV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、これらの混合物、ならびに細胞培養の分野の当業者に公知の他の物質のような化合物で、ポリマーをコートすることにより促進される。細胞外マトリックス分子(ECM)は、ラミニン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、エンタクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、およびI〜XII型コラーゲンのような化合物を含む。他の天然の付着分子は、単純(simple)炭水化物、複合(complex)炭水化物、アシアロ糖タンパク質、レクチン、成長因子、低密度リポタンパク質、ヘパリン、ポリリジン、トロンビン、ビトロネクチン、およびフィブリノーゲンを含む。合成分子は、フィブロネクチンからのRGD、フィブロネクチンからのLIGRKKT、およびラミニンからのYIGSRのような1つ以上の結合部位を組み込むための従来の方法を用いて作製されるペプチドを含む。
【0044】
当該分野で利用可能である生物学的分子をポリマー基材に付着させるための方法が用いられ得る。付着分子を基材に適用するための方法は、以下を含む:PBSまたは高pH炭酸塩緩衝液のような溶液中に付着分子を適用し、そして基材表面に分子を吸着させることによる分子の基材への付着;付着分子の基材へのイオン結合;グルタルアルデヒドまたはカルボジイミドのような試薬を用いた化学反応による分子の基材表面への共有結合;および基材表面上での付着分子の乾燥。
【0045】
付着分子の濃度は、特定の効果を生じるように調節され得る。一般に、分子がポリスチレンのような基材に適用される場合、約60〜80%のこれらの分子が、高濃度で添加される場合に結合する;付着分子を含む高pH炭酸塩コーティング溶液のような手順が基材に適用される場合、約80〜90%のこれらの分子が、低濃度で添加される場合に結合する。基材が高度に反応性でない場合の手順については、効率はより低い。
【0046】
基材に付着分子を適用するための1つの方法において、精製された付着分子の所定の密度が、マトリックスを24時間4℃で、異なる濃度の付着分子を含むpH9.4の炭酸塩緩衝液(15mM炭酸ナトリウム、35mM炭酸水素ナトリウム)で予めインキュベートすることによって人工的なマトリックス上におかれる。非吸着性分子を使用前に洗浄してマトリックスから含まないようにする(例えば、細胞プレーティング)。別の方法において、付着分子または他の付着部分の吸着は、リン酸緩衝化生理食塩水またはHanks緩衝化生理食塩水のような溶媒、培地、水酸化アンモニウム蒸気で中和した酢酸、または有機溶媒を用いて達成される。第三の方法において、分子は、マトリックスの表面上で直接乾燥される。第四の方法においては、所定の密度の付着分子は、マトリックス内に存在する反応性の側鎖に化学的に架橋されることによってマトリックス上に置かれる。例えば、合成RGDペプチドは、遊離のアミノ基またはカルボキシル基を含むマトリックスに架橋剤としてグルタルアルデヒド(緩衝液(例えば、0.1Mカコジル酸ナトリウム、pH7.4)中の2%(容量)グルタルアルデヒド)を用いて、またはカルボジイミドを用いて化学的に架橋され得る。この方法において、種々の濃度の精製された付着分子または他の付着部分を含む水溶液が、人工的なマトリックスとともに、一定量のグルタルアルデヒドまたはカルボジイミドの存在下でインキュベートされる。
【0047】
ほとんど個々の結合部位のみからなる小さな合成ペプチド、または複数の結合部位を有するポリマーを用いる場合、等価な密度の結合部位を生じるためには、適切な変換がなされなければならない。結合部位を含む市販の合成ペプチドの一例は、「PeptideTM2000」(Telios PharmaceuticalsからRGDペプチドの形態で市販されていて、これは24時間4℃でインキュベートされる場合に、リン酸緩衝化生理食塩水からディッシュ上にコートされる)である。所定の密度が、勾配として適用され、同一の基材に対して一つより多い効果(すなわち、初め移動および再生、次いで、分化および機能化)を達成し得る。細胞はまた、ある濃度の付着分子を有する基材上で培養され、次いで別の濃度の付着分子を有する基材へ移されるかまたは重層され得る。
【0048】
IV. 細胞
電気伝導性のポリマーは、細胞(哺乳動物組織または下等動物由来の内皮細胞、肝実質細胞のような柔細胞、島細胞、ならびに他の器官細胞、筋肉細胞、造骨細胞および軟骨細胞のような骨および軟骨を形成する細胞、ならびに神経細胞、ならびに遺伝子操作された細胞を含む)の再生、分化、または機能を変更するために用いられ得る。
【0049】
一つの実施態様において、神経細胞の再生、分化、または機能は、電気伝導性のポリマーを用いて変更し得る。時間、電導性ポリマーの選択、および適用する電圧または電流の程度を含む条件は、特定の神経細胞型について至適化され得る。異なる組織サンプルから得られた、生検または細胞培養によって得られた神経細胞は、培養され得る。本明細書中で規定されるように、神経細胞は、脳および脊髄ニューロンを含む中枢神経系由来の神経細胞のような組織から単離されたニューロン、ならびに感覚神経および運動神経を含む末梢神経系のニューロン、ならびに確立された細胞株から得られた神経細胞、および培養中で維持された神経細胞、ならびに組換え神経細胞を含む。系は、神経細胞および関連する神経謬細胞の両方を含む神経組織を再生するため、および/または成長するために用いられ得る。この方法および系は、例えば、神経細胞接着、ならびに樹状突起および軸索を含む神経突起の伸長の増強を可能にする。
【0050】
V.細胞刺激の条件
電気伝導性ポリマーは、この電気伝導性ポリマーに細胞を付着させるかまたは隣接させることによって、インビボおよびインビトロで、その細胞の再生、分化、または機能を変化させるために使用され得る。驚くべきことに、電気伝導性ポリマーは、このポリマーに電圧も電流も印加しなくても、細胞の再生、分化、または機能を変化させるために使用され得る。この効果を増強するために、電圧または電流は、細胞が付着または隣接するポリマーに印加される。
【0051】
A.インビトロ条件
1つの実施態様において、インビトロ適用において、例えば、神経細胞が、本明細書中に記載されるように、細胞を電気伝導性ポリマー上に配置し、次いでインビトロ成長または再生を促進するに十分な電圧または電流を印加してポリマーを刺激することによって培養され得る。伝導性ポリマーは、ポリマー性支持体(例えば、膜またはポリマービーズ)上にブレンドまたはコートされ得る。当該分野において利用可能な細胞培地および他の条件(例えば、温度)は異なる適用に対して最適化され得る。神経細胞を培養するための例示的な条件は、85%高グルコースDMEM(GibcoBRL、GrandIsland、NY)、10%熱不活化ウマ血清、および5%ウシ胎児血清(FBS)を含む培地である。細胞は、L.GreeneおよびA.Tischler、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.、73:2424(1976)に記載のように、神経成長因子(「NGF」)の添加によって「プライム」され得る。
【0052】
神経外植片もまた、インビボでの移植のために、インビトロで培養および再生され得る。例えば、初代坐骨神経外植片は、哺乳動物組織から単離され、そして例えば、グルコース、ウシ胎児血清(FBS)、ピルビン酸ナトリウム、およびNFGを補充した高グルコースDMEM中で培養され得る。16週齢のニワトリ胚から坐骨神経を単離するための方法は、Y.-W.HuおよびC.Mezei、Can.J.Biochem.、49:320(1971)に記載されている。異なる組成物(血清、血清置換物、成長因子(例えば、神経成長因子)、ホルモン、および/または薬物を含む)が、神経細胞の成長および再生を増強するために、培養されている特定の神経細胞について最適化された培地において使用され得る。
【0053】
電気伝導性物質上で培養された細胞によって発現された分化した細胞の機能は、当該分野において利用可能な特異的な定量アッセイを使用して測定され得る。DNA合成を必要とする細胞機能(例えば、細胞成長および遺伝子トランスフェクション)については、最適条件は、標準的な放射活性標識法(例えば、トリチウム標識チミジンの組み込み)または免疫細胞化学法(例えば、ブロモデオキシウリジン取り込み)を使用して、細胞性DNA合成に対する効果を測定することによって同定され得る。細胞成長に対する効果はまた、CoulterCounterまたは比色細胞計数アッセイ(例えば、酸ホスファターゼアッセイ)を使用して、異なる付着分子密度でコートしたマトリクス上での培養間の細胞数の増加を定量することによって測定され得る。
【0054】
形態学的技術もまた、最適条件を評価するために使用され得る。例えば、細胞を1%グルタルアルデヒド中で固定し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、メタノール中で脱水し、風乾し、そしてクーマシーブリリアントブルーで染色する。ImageIProcessor(Image Technology Corporation)を使用するコンピューター化形態分析によって細胞形状(投影した細胞面積)を定量化する。8つのランダムな領域を選択し、そしてその視野中の細胞ごとに投影した細胞面積を測定する;1つの実験条件あたり少なくとも25細胞を分析する。タンパク質の分泌速度を分析するために、当該分野において利用可能な方法(例えば、定量ドットブロットアッセイ)が使用され得る。
【0055】
DNA合成は、細胞成長の能力の尺度として使用され得る。細胞を、3H-チミジンを用いての細胞付着の48時間後から始めて16時間パルス標識し、そして続いて上記で概説したように固定する。ディッシュをKodakNTB2オートラジオグラフィー乳剤でコートし、7日間感光させる。KodakD-19現像液を使用して、オートラジオグラフィー粒子を現像する。DNAを活発に合成している細胞の割合を、各ディッシュ上での8つのランダムな領域を選択し、そして細胞の総数に対する核の粒子を有する細胞を計数することによって定量する。1ディッシュあたり最低35個の細胞を計数した。
【0056】
B.インビボ条件
電気伝導性ポリマーは、損傷した細胞または組織(例えば、神経系組織)を修復または置換する治療を必要とする患者にインビボに移植され得る。組織操作するための足場(移植可能なマトリクス)は、移植された細胞、または移植されたマトリクスに移動し、このマトリクスに付着し、そしてこのマトリクスで成長する細胞の再生、成長、または機能を増強するために、ポリマーでコートされ得るか、またはポリマーから作製され得る。移植に使用され得る材料には、縫合糸、チューブ、シート、接着防止デバイス、(代表的には、膜、インサイチュで重合する液体として塗布されるポリマー性コーティング材、または他の物理的障壁)、および創傷治癒製品(治癒されるべき創傷に従って、膜およびコーティング材から支持構造まで変化する)が含まれる。
【0057】
処置の有効性を増大させるために、神経組織の治癒をさらに促進する組成物(例えば、タンパク質、抗体、神経成長因子、ホルモン、および付着分子)が、ポリマーと共に適用され得、そして必要に応じてポリマーまたはポリマー性支持材料に共有結合され得る。当業者は、過度な実験を要することなく、これらの材料の使用法および必要な条件を容易に正確に決定し得る。
【0058】
VI.ポリマーへの電圧または電流の印加
電圧または電流は、必要に応じて、ポリマーに接着または隣接した細胞または組織(例えば神経組織)の治癒を増強するに効果的な量で、ポリマーに電気的に接続した電圧源によって、ポリマーに印加される。印加される電圧または電流は、条件(ポリマー、成長因子または他の組成物、および刺激される神経細胞の選択)に基づいて選択される。例えば、ポリピロールポリマーに関しては、電圧は、Ag/AgClに対して、約0と1ボルトとの間、好ましくは約10μVと500mVとの間の範囲であり得る。印加され得る電流は、約10nampと400μampとの間の範囲である。電圧または電流は、ポリピロールポリマー上の細胞に、例えば、約10分〜6時間と等価な時間、溶液中(例えば、約pH7.4)でインビボまたはインビトロで印加され得る。
【0059】
インビボ適用において、電気伝導性ポリマーは、必要に応じて電圧または電流の供給源と電気的に接続されるポリマー性支持構造(膜、ディスク、縫合糸、チューブ、シート、または組織操作のための足場)上に配置され得るか、またはこれとブレンドされ得る。神経または他の細胞は、移植のために、電気伝導ポリマーから処方されたかまたはこれをコートしたマトリクスに播種され得る。あるいは、これらの細胞は、マトリクスに移動しそしてマトリクスで成長し得る。電気的な接続は、例えば、移植物を接触するよう挿入されるニードルまたは移植の前に移植物に付着させた電極であり得、これらは適切な電源と外部で接続され得る。
【0060】
本発明は、以下の限定されない実施例を参照することによってさらに理解される。
【0061】
実施例において、インビトロ実験は、神経細胞(ニューロン細胞株および初代神経外植片の両方を含む)の付着、再生、および分化を支持する伝導性ポリマーであるポリピロールの能力を示す。インビトロ実験はまた、ポリピロール膜を横切る電位の印加が、神経細胞突起の接着および伸長を刺激することを示す。ポリピロールに対するインビボ組織応答は、他の通常のFDAに承認されたマトリクス(例えば、PLA)と比較して、最小限の炎症応答を生じ、そして線維性組織形成をほとんどまたは全く生じないことを示される。神経再生治療に使用する移植物として使用する、しなやかで縫合可能なPPディスクおよびチューブを製作するために、PP膜をポリマー(例えばポリ(乳酸-co-グリコール酸))と積層することもまた示される。したがって、実施例は、神経細胞の刺激を必要とする手順のための生体材料としての伝導性ポリマー(例えば、ポリピロール)の有用性を示す。
【実施例】
【0062】
実施例1:ポリピロール膜の合成
PPを、比較的単純で膜特性(例えば、膜の厚さおよび均一性)に対して良好な制御を提供する電気化学的アプローチによって合成した。インジウムスズ酸化物(ITO)の伝導性ホウケイ酸塩ガラス(DeltaTechnologies、StillWater、MN)を、PP膜析出用の電気伝導性表面として使用した。PPの電気化学的析出の前に、ITOガラススライド(75×25mmまたは50×25mm、40Ω/平方)を、極性が漸次増大する3種の有機溶媒(ヘキサン、メタノール、および塩化メチレン)のそれぞれにおける5分間の超音波処理によって全体的に洗浄した。3つの電極セットアップを、PPの電気化学的合成のために使用した:ITOガラスを動作電極として使用し、白金ガーゼを対向電極として使用し、そしてAg/AgCl電極(FisherScientific、Pittsburgh、PA)を参照として使用した。PP膜を、ITOガラス(動作電極)上に、Ag/AgCl参照に対して0.7ボルトの定電位にて、0.1Mポリ(スチレンスルホネート)ナトリウム塩(AldrichChemicalCo.)を含む0.1Mピロール(Aldrich Chemical Co.、Milwaukee、WI)水溶液(Milli-Q(R)超純水)から電気化学的に析出させた。ポリ(スチレンスルホネート)ナトリウム塩を、ドーパントおよび電解質の両方として用いた。PineInstrumentsAFRDE4バイポテンシオスタット(Pine Instruments、Grove City、PA)を定電圧の供給源として使用した。
【0063】
2つの異なる厚さの膜を合成した:0.1〜0.15μm(薄膜)および1.8〜2.0μm(厚膜)。膜厚を、電荷の通過によって制御した(A.F.Diazら、J.Electroanal.Chem.、129:115(1981))。26.2mCol/cm2の電荷は厚さ約0.1μmのポリピロール(PP)膜を生じた。膜合成の間に通過した電荷の量を、電圧対時間プロットの曲線下の面積から決定した。このプロットは、時間ベースのLinseisx−yレコーダ(Linseis、Germany)を使用して得た。
【0064】
PP厚膜にPLGA(50:50、Medisorb(Cincinnati、OH)から入手)膜を積層して、加工可能で縫合可能なPP膜およびチューブを作製した。PLGA膜をクロロホルム中の溶液(100mg/ml)から30mlビーカー中にキャストした(1ml/ビーカー、7.55cm2)。24時間後、膜を、それを水中に浮き上がらせることによってビーカーの底から取り出した。次いで、自由に浮いている膜を、さらなる使用の前にさらに24時間風乾した。PP厚膜をITOガラスから穏やかにはがし、次いで蒸留した脱イオン水(Milli-Q(R))に浮かべ、続いてきれいなガラススライド上に移した。次いで、PP膜を塩化メチレンで湿らせて、これに所望の厚さのPLGA膜を積層した。次いで、積層したPP膜を、細胞成長研究およびラットモデルにおける移植のために、直径約5mmおよび厚さが約250〜260μm(約2μmのPP膜厚および約250μmのPLGA)のディスクに切り取った。
【0065】
実施例2:ポリピロール上での神経細胞の培養
ラット褐色腫に由来する十分に特徴付けられている神経様細胞株であるPC-12細胞株(L.GreeneおよびA.Tischler、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA、73:2424(1976))を使用した。PC-12細胞は、ニューロン表現型(神経突起の発現)の誘導によって神経成長因子(NGF)に対して可逆的に反応する。さらに、坐骨神経を、Y.-W.HuおよびC.Mezei、Can.J.Biochem.、49:320(1971)に記載のように、16日齢のニワトリ胚から単離した。
【0066】
PC-12細胞を、85%高グルコースDMEM(GibcoBRL、GrandIsland、NY)、10%熱不活化ウマ血清、および5%ウシ胎児血清(FBS)中で培養した。細胞を、7%CO2湿潤インキュベーター中で維持し、そして1日おきに1:2希釈の倍散(trituration)により継代した。細胞を、細胞播種の24時間前に、25ng/mlNGF(Boehringer-Mannheim、Indianapolis、IN)の添加によって「プライム」した。実験の間、細胞を、25ng/mlNGFを補充した培養培地中で維持した。細胞を、オートクレーブした真空グリースを使用するエタノール殺菌Plexiglasウェル(内部の大きさ1cm×1.5cm)へのPP/PSS膜の装着によって形成したウェル中に播種した。すべての実験において、1mlの2×104細胞/ml溶液を1ウェルあたりに使用した。初代坐骨神経外植片を、6mg/mlまでのグルコース、10%FBS、1mMピルビン酸ナトリウム、および25ng/nlNGFを補充した高グルコースDMEM中で排他的に培養した。
【0067】
PP/PSS薄膜上での神経細胞の成長
PPの薄膜を、インビトロでの神経細胞成長を支持する能力について検査した。PP薄膜は、細胞−材料相互作用を詳細に研究するための光学顕微鏡検査および定量的画像解析ツールの使用を可能にした。細胞を、倒立位相差顕微鏡(Diaphot-TMD;NikonInc.、GardenCity、NY)を使用して10×または20×の倍率下で観察した。顕微鏡からの画像を、CCDビデオカメラ(HVC-20;Hitachi、Japan)を使用して得、そして続いてNIHImageソフトウェア(v1.58;NationalInstitute of Health、Bethesda、MD)およびScionイメージ・キャプチャー・ボード(LG-3;ScionCorp.、Frederick、MD)を使用してデジタル化した。
【0068】
組織培養ポリスチレン(TCPS)、ポリピロール/ポリ(スチレンスルホネート)(PP/PSS)、またはポリ(乳酸)(PLA)のいずれかで24時間成長させたPC-12細胞の位相差画像は、PLA上での細胞の成長は良好でないが、TCPSまたはPP/PSSのいずれかでの成長は顕著に増強されることを示した。画像解析技術を使用して、各細胞上の個々の神経突起(樹状突起および軸索)の長さを測定した。長さは、神経突起の先端から細胞体と神経突起基部との間の接合部までの直線距離として規定した。図2は、TCPS(図2a)およびPP/PSS(図2b)上で24時間成長させた細胞についての神経突起長の分布を示す。各点は、2つの異なる実験からの10画像についてのデータを表す。ヒストグラムはPP/PSS上での神経突起伸長がTCPS上での伸長より改善される(p<0.001)ことを示す。神経突起長を、画像解析を使用して、各神経突起の先端から細胞体までの距離として測定した。(図2aにおいて、平均Δx=10μm;26%が10μm以上;およびN=1596。図2bにおいて、平均Δx=14μm;47%が10μm以上;およびN=1775。)
走査電子顕微鏡写真もまた、PPが、初代ニワトリ坐骨神経外植片(坐骨神経細胞および支持細胞(例えば、線維芽細胞、Schwaan細胞など)を含む)の付着および成長に十分な表面であることを示した。ニューロン細胞および支持細胞の両方の支持は、神経再生に重要である。
【0069】
したがって、伝導性ポリマーポリピロール(PP)は、ニューロン様PC-12細胞株および初代ニワトリ交感神経におけるインビトロでの神経突起伸長を、組織培養ポリスチレン(TCPS)およびポリ乳酸(PLA)コントロールと比較して増強する。さらに、PC-12細胞は、ポリピロールとより均一に相互作用し、そしてTCPSと比較してより少ない細胞−細胞凝集を示した。
【0070】
PP/PSS厚膜上での神経細胞の成長
ポリ(ピロール)/ポリ(スチレンスルホネート)(PP/PSS)厚膜とのPC-12細胞の相互作用を研究した。上記のようなポリマー膜上での成長の3日後、細胞を1%グルタルアルデヒドで10分間固定し、次いで漸増濃度のエタノール(50%、60%、80%、90%)に各2分間曝した。次いで、細胞を一晩乾燥させた。Trecor検出セットを装備した環境走査電子顕微鏡(ESEM)(ElectroCompany、Boston、MA)を、15kVの加速電圧で4.9トルの減圧下および湿度6%にて使用して、細胞の画像を得た。ESEMは、PC-12細胞がPP厚膜に十分に付着することを示した。ESEMによってポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)コントロールについては、より弱い接着およびより低い割合の細胞付着が観察された。
【0071】
実施例3:PP薄膜上での神経細胞の電気刺激および成長
PP薄膜上でのPC12神経細胞のインビボ電気刺激を、図3に示すデバイス20において行った。図3のデバイス20は、伝導性ポリマーおよび神経細胞がその上に配置されるセルを受けるためのチャンバー22;ポリピロール/ITOガラス10;Agワイア12;Auワイア14;動作電極16;参照電極18;および対向電極24を備える。
【0072】
プライムされたPC-12細胞を、PP薄膜上に2×104細胞/mlの密度で配置し、次いで24時間インキュベートして付着および拡大させた。この最初の24時間の後、PC-12細胞に100mVの定常電位を2時間かけた。バイポテンシオスタットを定電圧の供給源として使用した。電気刺激後、細胞をさらに24時間(実験の開始から合計48時間)インキュベートした。電気刺激の前(24時間)および後(48時間)の両方で細胞のESEM画像を得た。電気刺激を全くしていないPP薄膜上に配置したPC-12細胞をコントロールとして用いた。所定の電圧に曝した細胞は、より顕著な神経表現型(より多くの神経突起を含む)およびより増強された細胞拡大を有した。結果は高度に再現可能であった;それぞれ2連で行った、独立した4回の実験において同一結果を得た。
【0073】
図4は、図3に示されるデバイスにおいてPP/PSS上で48時間成長したPC12細胞についての神経突起長の分布のグラフである。細胞を、24時間の成長後100mV電位に2時間曝した。神経突起長を、セルウェルにおいて、金製対向電極に最も近いと規定される左のウェル端に沿って(図4a、N合計=841)、および対向電極から最も遠い右のウェル端に沿って(図4b、N合計=575)測定した。対向電極(カソードとして用いられる)は、電流密度が最も高い空間位置である。このため、これらの細胞により多くの神経突起が生じる。
【0074】
マルチメーター(Micronta、RadioShack、USA)を使用して、PP薄膜およびDMEM(培養培地)の電気抵抗測定値を得、それぞれ1KΩおよび約180KΩであった。このことは、大部分の電流が、抵抗の最も小さい経路であるPP膜を通じて流れるはずであることを示唆する。電圧が培地を排他的に通過するコントロールは、PP/PSS上で48時間成長したPC12細胞に対する効果は無視できることを示した。この試験において、2つの金ワイアをセルウェルの対面する端部に固定した。一方の金ワイアを対向電極として用い、第2のワイアを動作電極(代表的には、ITO/PPが動作電極である)として用いた。ウェルの第3の側面上の銀ワイアを参照電極として用いた。この結果は、PC-12細胞におけるニューロン表現型の刺激がポリピロール膜を通過する電流の結果であることを示す。
【0075】
実施例4:積層PP厚膜インビボ移植 ポリピロールに対する組織応答を測定するためのインビボ研究を実施した。実施例1に記載のように合成された積層PP/PLGA厚膜ディスク(5mm直径×2μm厚)を、雄性Lewisラットに皮下および筋肉内の位置に移植した。膜および周囲組織を1、2、および14週目に回収した。ポリマーを取り出す時、ラットは健康で移植部位には炎症の兆候は全く見られなかった。2週間移植物からの筋肉の組織学的切片のH&E染色により、PP膜に関連する炎症はPLGA膜によって誘導された炎症より重篤ではないことが示された。明視野顕微鏡写真(総倍率100×)を使用した。
【0076】
実施例5:PP/PLGA導管上での神経細胞のインビボ成長
成体雄性Lewisラットの坐骨神経を切断し、そしてポリピロール導管で切り離した。PP厚膜(実施例1に記載のように50:50PLGAを積層した)を、12mmのおよその長さおよび約1.5mmの直径を有する導管中に形成した。PPは導管の内部の裏打ちを形成した。成体雄性Lewisラットの左大腿部の坐骨神経を切断した。切断した坐骨神経の近位部分約1mmを、導管の一端に挿入し、この導管に滅菌生理食塩水を充填し、次いで切断した坐骨神経の遠位部分1mmを、チューブの他端に挿入した。切断した神経の遠位部分と近位部分との間の最終的な間隙は約10mmであった。このチューブを標準的な10-0ナイロン縫合糸で固定した。8週間後、神経を回収した。神経線維束が、その神経の遠位部分から、元の2つの神経断端の間の間隙を横切って伸長した。したがって、このことは、たとえ、伝導性ポリマーに電圧も電流も印加されなくとも、ポリピロールが神経再生を支持し得ることを示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)電気伝導性ポリマー、および
b)該電気伝導性ポリマーに隣接する神経細胞、
を具備する、神経細胞の再生または分化を促進するためのデバイスであって、該デバイスが、神経細胞の再生または分化を促進し得、該電気伝導性ポリマーが、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリ(フェニレンスルフィド)、およびポリ(フェニレンビニレン)、ならびにこれらのコポリマーおよびブレンドからなる群より選択される、デバイス。
【請求項2】
前記ポリマーがポリアニリンまたはポリチオフェンを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ポリアニリンまたは前記ポリチオフェンが置換されている、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記置換ポリアニリンまたは置換ポリチオフェンが、3位で置換されている、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記ポリマーが膜内に存在する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記膜が0.1μm〜0.15μmの厚さである、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記膜が1.8μm〜2.0μmの厚さである、請求項5に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ポリマーが多層膜内に存在する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記神経細胞が、脳、脊髄、知覚および運動ニューロンからなる群より選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ポリマーが、ポリマー性支持構造上にコートされているかまたはポリマー性支持構造とブレンドされている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記ポリマー性支持構造が、ポリ(スチレン)、ポリ(エステル)、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリ(エチレンビニルアセテート)、ポリ(プロピレン)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(エチレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ガラス、ポリケイ酸塩、ポリ(カーボネート)、テフロン(登録商標)、フルオロカーボン、ナイロン、またはシリコンゴムを含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記構造が生物分解性物質を含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
前記生物分解性物質が、ポリ(無水物)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(プロピルフメラート)、タンパク質および多糖からなる群より選択される、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記ポリ(ヒドロキシ酸)がポリ(グリコール酸)またはポリ(乳酸)である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ポリマーが膜成分、細胞外マトリックスタンパク質、または付着分子でコートされている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記膜成分、前記細胞外マトリックスタンパク質、または前記付着分子が、ゼラチン、アラビアゴム、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、トロンボスポンジン、エンタクチン、プロテオグリカン、単純炭水化物、複合炭水化物、アシアロ糖タンパク質、レクチン、低密度リポタンパク質、ヘパリン、ポリリジン、トロンビン、ビトロネクチン、およびフィブリノーゲンからなる群より選択される、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記コラーゲンが、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、VIII型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン、またはXII型コラーゲンである、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
神経細胞の成長を刺激する組成物をさらに具備し、該組成物が、血清、血清置換物、成長因子、ホルモン、薬物、タンパク質、抗体、またはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
前記成長因子が神経成長因子である、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−63459(P2010−63459A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244981(P2009−244981)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願平9−517608の分割
【原出願日】平成8年10月31日(1996.10.31)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【出願人】(591044027)チルドレンズ メディカル センター コーポレイション (12)
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S MEDICAL CENTER CORPORATION
【Fターム(参考)】