説明

電気光学素子及びその製造方法

【課題】直流電圧印加時に電荷注入阻止層を設けることなく、電子注入を抑制することができ、光導波路層を伝搬する光ビームのプロファイルの劣化を防止することのできる電気光学素子を提供する。
【解決手段】本発明の電気光学素子1は、強誘電体からなるコア層53と、コア層53の上下に形成されたクラッド層52とからなるコア12により形成された光導波路層と、この光導波路層の上下面に形成された電極層11、13からなり、上下面の電極層11、13の少なくとも一方はプリズム型の幾何形状とされ、コア層53の負の自発分極電荷側を陽極とし、正の自発分極電荷側を陰極とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学素子及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気光学効果を用いた電気光学素子として、導波路型の電気光学素子及びその製造方法が知られている。その導波路型の電気光学素子は、光通信で用いられる強度変調器や、レーザー発振のパルス動作を得るためのQスイッチ素子、光の進行方向を制御する光偏向器等に用いられている。
【0003】
電気光学効果とは、物質に電界を印加することによってその屈折率が変化する物理現象をいい、電気光学効果による屈折率変化Δnは、一次のポッケルス効果の場合、次式で与えられる。
【0004】
【数1】

ここで、rijは電気光学定数(ポッケルス定数)、Vは印加電圧、dは電圧を印加する電極の間隔である。
【0005】
電気光学効果を発生させる強誘電体材料には、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3),KTP(KTiOPO4)、SBN、KTNなどの電気光学材料が挙げられる。これらの電気光学材料は安価でロバスト性が高いため、光変調器や光偏向素子等に応用されている。
【0006】
このような電気光学素子は、実用的には、低電圧でかつ幅広い周波数帯域で応答することが求められる。低電圧でかつ幅広い周波数帯域での応答特性を得るためには、低電圧で屈折率を大きく変化させる必要がある。
【0007】
これには、式(1)から明らかなように電極間隔dを小さくして、電界強度を高めればよい。電極間隔を小さくすることに伴って電気光学素子は光導波路構造を取ることが多い。
【0008】
導波路型構造の電気光学素子ではコア層内部を光が伝搬する構造となるため、コア層と電極層との間に、コアよりも屈折率の低いクラッドを挿入する必要がある。典型的なクラッド材料としてSiO2が挙げられる。
【0009】
コアとクラッドとによって形成された光導波路に電圧を印加した場合、コア層に印加される電圧は、次式で与えられる。
【数2】

ここで、Vは光導波路への印加電圧、Vcoはコア層に印加される電圧、dcoおよびdclはコア層及びクラッド層の膜厚、εcoおよびεclはコア層及びクラッド層の誘電率である。
【0010】
式(2)から分かるように、クラッド層を設けることにより、電気光学結晶そのものに印加される電圧が低下する。従って、電気光学材料に印加される電圧を高くするためには、クラッド層の厚さを薄くする必要がある。
【0011】
しかしながら、クラッド層の厚さが薄いと、高電圧で電気光学素子を動作させたときにクラッド層において絶縁破壊が起こる恐れがある。電気光学素子に電圧を印加した場合に、クラッド層に印加される電界強度は次式で与えられる。
【数3】

ここで、Ecl及びEcoは、それぞれクラッド層及びコア層に印加される電界強度である。
【0012】
例えば、ニオブ酸リチウムをコアとし、かつ、SiO2をクラッドとする電気光学素子の場合には、εco/εclが7程度となる。
すなわち、電気光学材料の7倍もの高電界がクラッド層に印加されることとなる。
【0013】
一例として、厚さ10um(10マイクロメートル)のニオブ酸リチウムに100Vの電圧を印加して動作させる電気光学素子の場合には、ニオブ酸リチウムに印加される電界強度が10kV/mm、SiO2クラッド層に印加される電界強度が70kV/mmとなる。一般的な石英ガラスの絶縁破壊電圧は、40kV/mmのため、クラッド層が絶縁破壊を起こす。
【0014】
すなわち、クラッド層の厚さは、これが厚いとコア層に対する電圧降下を増長させ、これが薄いとクラッド層の絶縁破壊が起こし易いというトレードオフの関係がある。
【0015】
ところで、オーミック接触された電極が形成された電気光学材料に直流電圧を印加すると、電極から電気光学材料に電子が注入されることが知られている。電子が電気光学材料内に注入されると、電気光学材料内に電界傾斜が生じ、その結果電気光学材料内に屈折率分布が生じる。
【0016】
その結果、導波路内を伝搬する光のプロファイルが劣化するという現象が生じる。このプロファイルの乱れは、電気光学素子を光変調器として用いた場合には消光比の低下につながり、光偏向素子として用いた場合には出射ビームそのもののビーム形状の劣化や、スキャナによって分解できる解像点数の低減を引き起こす。
【0017】
従って、デバイスの動作の観点からすると、電極から電気光学材料、電気光学結晶への電子注入を防ぐ必要がある。
その電気光学結晶に電子が注入されるのを防ぐ技術として、コア層と電極層との間に電子注入阻止層(電荷注入阻止層)を設けることが提案されている(特許文献1参照。)。
この特許文献1の開示のものでは、電極とコア層の間に電荷注入阻止層としてチタン酸バリウム薄膜を設けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、クラッド層を介挿することによって生じるデメリットとして、式(2)を用いて述べたように、電子注入阻止層を設ける構造では、電気光学素子にかける電圧に対して電子注入阻止層にかかる電圧が発生するため、コアにかかる電圧が降下する。
【0019】
このため、デバイス動作の観点からすると、電子注入素子層の有無に関わらず、コア層に同等の電圧を印加しようとすると、電子注入素子層を設けた場合には不要な電力の消耗が生じ、また、クラッドにかかる電界が高くなるため、絶縁破壊を起こすリスクも高くなる。
【0020】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、直流電圧印加時に電荷注入阻止層を設けることなく、電子注入を抑制することができ、光導波路層を伝搬する光ビームのプロファイルの劣化を防止することのできる電気光学素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る電気光学素子は、強誘電体からなるコア層と、このコア層の上下に形成されたクラッド層とからなるコアにより形成された光導波路層と、この光導波路層の上下面に形成された電極層とからなり、上下の電極層のうち少なくとも一方はプリズム型の幾何学形状であるものにおいて、強誘電体からなるコア層の自発分極電荷側を陽極とし、正の自発分極電荷側を陰極としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、強誘電体からなるコア層の自発分極において、負の分極電荷側を陽極とし、正の分極電荷側を陰極として、電気光学素子に直流電圧を印加することにより、強誘電体表面に付着しているスクリーニング電荷の斥力により、電子を注入されにくくしたので、直流電圧印加時に電子注入素子層を設けることなく、電子の注入を抑制することができ、その結果、伝搬光のプロファイルの劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明の実施例1に係る電気光学素子の概要を示す斜視図である。
【図2】図2はコアの自発分極の説明図である。
【図3】図3は図1に示す電気光学素子に交流電圧を印加したときの光のプロファイルの説明図であり、(a)はその電気的接続状態を示す斜視図、(b)は図3(a)に示す光導波路層を伝播した後、出射した光のプロファイルを示す図である。
【図4】図4は図1に示す電気光学素子に直流電圧を印加したときの状態を示す説明図であり、(a)はその電気的接続状態を示す斜視図、(b)はコア層の負の自発分極電荷側を陰極とし、コア層の正の自発分極電荷側を陽極としたときに図4(a)に示す光導波路層を伝播した後、出射した光のプロファイルを示す図であり、(c)はコア層の負の自発分極電荷側を陽極とし、コア層の正の自発分極電荷側を陰極としたときに図4(a)に示す光導波路層を伝播した後、出射した光のプロファイルを示す図である。
【図5】図5はコア層の自発分極と印加する電圧の正負の関係を説明するための説明図であり、図5(a)はコア層の自発分極と印加する電圧の正負の関係を示す模式図であり、図5(b)はコア層の負の自発分極電荷側を陰極とし、コア層の正の自発分極電荷側を陽極としたときの電圧−電流の特性曲線とコア層の負の自発分極電荷側を陽極とし、コア層の正の自発分極電荷側を陰極としたときの電圧−電流の特性曲線とを示すグラフである。
【図6】図6は本発明の実施例2に係る電気光学素子の概要を示す平面図である。
【図7】図7は本発明の実施例3に係る電気光学素子の説明図であり、図7(a)はその電気光学素子の斜視図であり、図7(b)はその平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
以下に、本発明に係る電気光学素子及びその製造方法の実施例を図面を参照しつつ説明する。
(実施例1:底辺一定プリズム電極)
本発明の実施例1に係る電気光学素子を図1ないし図6を参照しつつ説明する。
【0025】
図1において、符号1は、電気光学素子を示している。この電気光学素子1は上面の電極層11と光導波路層を形成するコア12と下面の電極層13とから構成される。コア12はコア層53とクラッド層52からなる。
そのコア層53は電圧を印加することによって屈折率が変化する電気光学材料からなり、上下面の電極間に電圧を印加することによって屈折率を変化させることができる。
【0026】
そのコア層53に用いる材料には、ニオブ酸リチウム(LiNbO3),タンタル酸リチウム(LiTaO3),KTP(KTiOPO4),SBN,KTN等の電気光学材料がある。
そのクラッド層52に用いる材料にはSiO2、Ta2O5、TIO2、Si3N4、Al2O3、HfO2等の誘電体等がある。
【0027】
この実施例1に係る電気光学素子1は、コア層53の屈折率がクラッド層の屈折率よりも高くなるように、コア層53に用いる材料、クラッド層52に用いる材料が選択される。
この実施例1に係る電気光学素子1には、コア層53としてマグネシウム添加ニオブ酸リチウム、クラッド層52としてTa2O5を用いている。
【0028】
コア12は直方体の形状とされ、電極層13はコア12の下面の全面に形成されている。そのコア12は光Pが入射する入射面12aと光Pが出射する出射面12bとを有する。
上面の電極層11は光偏向の機能を電気光学素子1に与えるためにプリズム型の幾何学形状とされ、この上面の電極層11が光Pの入射方向から出射方向に複数個配列されて、底辺一定のプリズム型の幾何学形状からなるプリズム配列体がコア12の表面に形成されている。
【0029】
上面の電極層11と下面の電極層13とに電圧を印加すると、電気光学効果によって電気光学材料からなるコア層53の屈折率が変化し、その結果、コア12の中にプリズム構造を生成することができる。
【0030】
これにより、コア12の内部を伝播する光Pが三角形状のプリズム領域の境界で屈折し、電気光学素子1の入射面12aに入射する光Pの進行方向に対して、電気光学素子1の出射面12bから出射する光Pの進行方向が異なることになり、光Pが電気光学素子1により偏向される。
【0031】
また、式(1)で示したように、印加電圧Vに応じて屈折率が変化するので、この電気光学素子1を光偏向器として利用することが可能となる。
【0032】
なお、この実施例1では、マグネシウム添加二オブ酸リチウム(株式会社山寿セラミックス製)のZcut板を用いているが、その理由は、マグネシウム添加二オブ酸リチウムが他の電気光学材料と比較して、光損傷耐性が高いからである。
【0033】
電極材料として、Au、Pt、Ti、Al、Ni、Cr等の金属材料を用いることができるが、この他に、ITO等の透明電極も用いることができ、ITO等の透明電極が好ましい。
この電気光学素子1では、コア12の下面のクラッド層52は誘電体材料Ta2O5を1umの厚さにスパッタリング法で製膜し、続けて下面の電極層13は金属材料Tiを用いて200nmの厚さに製膜した。
【0034】
また、コア12の上面のクラッド層52は誘電体材料Ta2O5を1umの厚さにスパッタリング法で製膜し、続けて上面の電極層11は三角形形状の電極(底辺1mm、高さ2mm、20個)を形成するため、金属材料Tiを用いて200nmの厚さに製膜し、ダイシング工程で5mm×24mmのチップとして切り出し、端面を研磨することによって、光導波が可能な電気光学素子1を作成した。
【0035】
マグネシウム添加ニオブ酸リチウムからなるコア12のZ cut板は、強誘電体であり、図2に模式的に示すように、外部から電界を加えなくても電気双極子14が存在するので、マグネシウム添加ニオブ酸リチウムの結晶全体の巨視的な現象として自発分極15が存在している。
【0036】
また、このマグネシウム添加ニオブ酸リチウムからなるコア12では、図2に模式的に示すように、その結晶内部に電荷の偏りが存在するため、結晶表面には浮遊電荷(スクリーニング電荷)16が付着しており、その結果、結晶全体の電気的中性が保たれている。
【0037】
このマグネシウム添加ニオブ酸リチウムからなるコア12の正の分極電荷側には、負の浮遊電荷(−)が付着しており、コア12の負の分極電荷側には正の浮遊電荷(+)が付着している。この実施例1の電気光学素子1の自発分極の向きは、上面の電極層11は+Z面、下面の電極層13は−Z面となっている。
【0038】
この実施例1に係る電気光学素子1を光偏向素子に用いる場合、図3(a)に示すように、交流電圧Vを印加すると、電気光学素子1に入射する光Pは、電気光学素子1の光導波路層(コア12の内部)を伝搬中にX方向に走査される。
【0039】
この実施例1に係る電気光学素子1は、コア12のコア層53の厚さが20umであり、印加電圧150V、周波数100kHzの正弦波の電圧信号を印加したとき、コア12の内部を伝搬して電気光学素子1から出射した光PのプロファイルProは、図3(b)に示すように、TEM00モードの良質なプロファイルであった。
なお、このプロファイルProの試験に用いた光Pの波長λは633nmである。
【0040】
この実施例1に係る電気光学素子1に、図4(a)に示すように、100V(ボルト)の直流電圧V’を印加すると、電気光学素子1の光導波路層を伝搬した光PはX方向に偏向される。
図4(b)は、上面の電極層(三角形形状の電極)11を陽極、下面の電極層13を陰極にしたときに、コア12の内部を伝搬して電気光学素子1から出射した光PのプロファイルProであり、図4(c)は上面の電極層(三角形形状の電極)11を陰極、下面の電極層13を陽極にしたときにコア12の内部を伝搬して電気光学素子1から出射した光PのプロファイルProである。
【0041】
すなわち、図4(b)は正電圧を上面の電極層11に印加し、負電圧を下面の電極層13に印加した場合の光PのプロファイルProであり、図4(c)は負電圧を上面の電極層11に印加し、正電圧を下面の電極層13に印加した場合のプロファイルである。
なお、図4(a)には正電圧を上面の電極層11に印加し、負電圧を下面の電極層13に印加した状態が示されている。
【0042】
この実験により、直流電圧V’の極性の差によって、電気光学素子1から出射した光PのプロファイルProの乱れに差があることが分かった。
すなわち、正電圧を上面の電極層11に印加し、負電圧を下面の電極層13に印加した場合の光PのプロファイルProは、図4(b)に示すように大きく乱れているが、負電圧を上面の電極層11に印加し、正電圧を下面の電極層13に印加した場合のプロファイルProは、図4(c)に示すようにほとんど乱れがなく、良質のプロファイルProを維持されている。
【0043】
以下に、この理由を図5(a)、図5(b)を参照しつつ詳述する。
図5(a)は、電極層11に正電圧が印加され、電極層13には負電圧が印加されている状態を示す概念図である。
【0044】
電極層11に正電圧が印加され、電極層13に負電圧が印加されていると、電極層13から電極11層に向かう方向に電子が供給される。
電極層13から飛び出した電子54は、クラッド層52内でホッピング伝導を繰り返してコア層53に到達する。
【0045】
しかしながら、スクリーニング電荷(浮遊電荷(+))55が存在し、このため、注入される電子54とスクリーニング電荷55との間にクーロン力が作用する。このスクリーニング電荷55の符号によって、印加する電圧Vの絶対値が同じでも、コア層53の内部へ電子注入量が異なると考えられる。
【0046】
そこで、この電気光学素子1について、印加すべき電圧の極性によるI-V特性を測定したところ、図5(b)に示す電圧−電流の特性曲線Q1、Q2を得た。
【0047】
ここで、特性曲線Q1は、上面の電極層11に正電圧を印加しかつ下面の電極層13に負電圧を印加した場合の特性曲線であり、特性曲線Q2は上面の電極層11に負電圧を印加しかつ下面の電極層13に正電圧を印加した場合の特性曲線である。
この図5(b)から明らかなように、特性曲線Q1はカーブ特性を示し、特性曲線Q2はほぼリニアー特性を示している。
【0048】
すなわち、特性曲線Q1は電圧100V付近から電流値が非線形的に上昇している。これは空間電荷制限電流量(電子注入量)が増加しているのと対応している。これに対して、特性曲線Q2では、電流値は電圧に線形的に比例している。
【0049】
よって、これらの結果から、直流電圧印加時の光偏向では、電極層11、13からコア層53への電子注入を抑制してプロファイルProの品質を維持するために、コア層53の負の分極電荷側を陽極、正の分極電荷側を陰極として動作させることが好ましい。
【0050】
なお、電気光学素子1の消費電力を問題としない場合には、クラッド層52と電極層11又は電極層13の間に電子注入を阻止するための絶縁層を設けることも可能である。この絶縁層の代表的な材料としては、電気抵抗率の高いSiO2、誘電率の高いTiBaO3等がある。
【0051】
また、電気光学素子1の製作の際に、光導波路層を形成するコア層53を研磨で薄く削ると、ハンドリング時に割れる可能性がある。そのため、光導波路層に図示を略す支持基板を接着し、これにより割れを防止する。
下面の電極層13を作製後、接着剤を用いて下面の電極層13と図示を略す支持基板との接着を行う。接着層は面精度が1um以下となる均一な厚みである。
【0052】
この実施例1では、その後、研磨によりコア12のコア層53の薄膜化を行った。支持基板はコア層53に用いる材料と熱膨張係数が等しい基板が好ましい。熱膨張係数が異なる材料を用いると、接着後に熱膨張が発生した際、コア層53に内部応力による歪みが生じて、クラックが発生する原因になる。
【0053】
電気光学素子1の実際の製作においては、接着剤にはUV硬化性の樹脂接着剤を、支持基板には厚さ300umのニオブ酸リチウム基板を用いて接着を行った。その後、研磨によって、300umの厚さから20umのコア層53を作製した。
【0054】
ニオブ酸リチウムのX軸方向の熱膨張率は1.54×10-5/Kであり、SUS303の熱膨張率は1.46×10-5/Kであり、熱膨張率がほぼ等しいため、支持基板にはSUS303を使用することも可能である。
なお、接着剤による支持基板の貼り付け以外に、支持基板に金属材料を用いて、下部電極層と支持基板を直接接合することも可能である。
【0055】
(実施例2:ホーンプリズム電極)
図6は本発明に係る電気光学素子1の実施例2の説明図であり、三角形の電極層11のサイズが光導波路層の入射側から出射側に向かって段階的に漸次大きくなるホーン型のプリズム配列体を形成することにより、光Pの偏向角をより大きくすることを可能にしたものである。
なお、符号11aは電極層11の三角形の頂点を概略結んでできる包絡線を示しており、この包絡線11a、11aの間に存在する領域が、光Pの偏向に用いるプリズム領域となっている。
【0056】
プリズム幅D(z)、外部偏向角θ(z)は、非特許文献(Yi Chiu ,et al, Journal of Lightwave Technology, VOL 17,No.1 Jan 1999)によると、進行距離z、入射側プリズム幅D0 最大屈折変化量Δnmax、屈折率n0として、
プリズム幅D(z)は、以下の式により求めることができる。
【数4】

また、このときの外部偏向角θ(z)は、以下の式により求めることができる。
【数5】

【0057】
この実施例2では、D0=0.5mm、Δnmax=3.83×10-3 、屈折率n0=2.203、プリズム長L=20mmとして、(2)、(3)式からプリズム幅D(z)を逐次計算によって計算し、出射側プリズム幅は1.56mmとなっている。
【0058】
式(3)、(4)式によって求められたプリズム幅D(z)は、2つの包絡線11a、11a間の距離である。従って、ホーン型のプリズム配列体を作製するには、この包絡線11a、11aから正三角形の領域11a’、11b’、11c’、…で示すように、光Pの入射面12aの側から正三角形のサイズを順次決めて、隙間無くプリズム形状の電極層11を形成するのが好ましい。
【0059】
(実施例3:噛み合わせ型プリズム電極)
図7(a)、図7(b)は、噛み合わせ型プリズムの上面の電極層11が形成された電気光学素子1を示している。
その図7(a)、図7(b)において、符号11bは一方のプリズム配列体を示し、符号11cは他方のプリズム配列体を示している。電極層11は光導波路の入射側から出射側に向かって交互に逆向きとされている。
【0060】
光Pを+X方向に偏向させる時には、プリズム配列体11bの電極層11に印加する電圧をOFFにし、プリズム配列体11cの電極層11に所望の電圧を印加する。
【0061】
その一方、光Pを-X方向に偏向させる時には、プリズム配列体11cの電極層11に印加する電圧をOFFにし、プリズム配列体11bの電極層11に所望の電圧を印加する。
【0062】
なお、プリズム配列体11bの電極層11とプリズム配列体11cの電極層11とは互いにショートしないように間隔を設ける必要がある。
電圧印加時はコア12のコア層53の厚さ程度に電界がXY方向に染み出すことを考慮すると、プリズム配列体11b、11cの電極層11、11の間隔はコア12のコア層53の厚さ以上とすることが望ましい。
【0063】
この実施例3の電気光学素子1は、電極間隔を0.5mmとして、噛み合わせプリズム電極パターンを作製し、動作させてみたところ、光Pga±X方向に偏向され、実施例1に示す片側に電極層11を有する電気光学素子1と比較して、約2倍の偏向角度となることが確認された。
すなわち、上面の電極層11を有するプリズム配列体11b、11c噛み合わせ型の電極層11にすることにより、光Pno偏向角度を約2倍にすることができた。
【0064】
なお、これらの実施例では、上面に三角形状の電極層11を形成することにしたが、下面に三角形状の電極層13を形成しても良い。
【符号の説明】
【0065】
1…電気光学素子
12…コア
11、13…電極層
52…クラッド層
53…コア層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特開2010-26079号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体からなるコア層と、該コア層の上下に形成されたクラッド層とからなるコアにより形成された光導波路層と、前記光導波路層の上下面に形成された電極層からなる電気光学素子において、
前記上下面の電極層の少なくとも一方はプリズム型の幾何形状とされており、前記強誘電体からなるコア層の負の自発分極電荷側を陽極とし、正の自発分極電荷側を陰極としたことを特徴とする電気光学素子。
【請求項2】
前記光導波路層と前記上下面の電極層との間に電子注入抑制層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気光学素子。
【請求項3】
前記電子注入抑制層は、SiO2,Ta2O5,HfO2,TiBaO3のいずれかの材料からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気光学素子。
【請求項4】
前記コア層はニオブ酸リチウム、酸化マグネシウム添加ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムのうちのいずれか1つを電気光学材料とした請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項5】
前記下面の電極層と支持基板との間に接着層が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項6】
前記光導波路層の入射側から出射側に向かって電極層が漸次拡大して配列されたプリズム配列体が前記光導波路層に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項7】
前記光導波路層の入射側から出射側に向かって交互に電極層を構成する三角形状の向きが逆向きとされて光を逆方向に偏向させる一対のプリズム配列体が前記光導波路層に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の電気光学素子。
【請求項8】
前記下面の電極層を前記コアに形成した後、支持基板に接着層を用いて前記コアを接着し、研磨により該コアを薄膜化して請求項5に記載の電気光学素子を製造することを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−155045(P2012−155045A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12517(P2011−12517)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】