説明

電気光学装置の製造方法及び電気光学装置並びに電子機器

【課題】平坦性の高い均一な有機機能層が得られる電気光学装置の製造方法及び電気光学装置並びに電子機器を提供すること。
【解決手段】陽極層6を形成する陽極層形成工程と、陽極層6上に正孔注入輸送層7及び発光層8を有する発光機能層3を形成する発光機能層形成工程と、発光機能層3上に陰極層5を形成する陰極層形成工程とを備え、発光機能層形成工程で、発光層材料を有機溶媒に溶解させた液状体を用いて発光層8を形成し、有機溶媒は、高蒸気圧溶媒に低蒸気圧溶媒を混入させた混合溶媒であると共に、前記低蒸気圧溶媒の混入率が0.01体積%以上0.1体積%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL(Electroluminescence)素子などの電気光学装置の製造方法及び電気光学装置並びに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)素子は、薄型、全固体型、面状自発光及び高速応答であるといった特徴を有する発光素子であり、フラットディスプレイパネルやバックライトへの応用が期待されている。
また、エレクトロクロミック素子は、固体の酸化還元による色変化を利用した等方的な反射散乱特性を有しており、低消費電力化を目指した電子ペーパーへの応用が期待されている。
このような有機EL素子やエレクトロクロミック素子は、一般に表面に陽極層が形成された基板上にスピンコート法などの湿式法を用いて発光層や反射層などを形成し、その上に陰極層を形成することで製造されている。ここで、スピンコートを行うために発光層や反射層を構成する発光層材料や反射層材料を有機溶媒に溶解または分散させた液状体を滴下して発光層を形成している(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2005−302567号公報
【特許文献2】特開2005−266711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の電気光学装置の製造方法においては、以下の課題が残されている。すなわち、上記従来の電気光学装置の製造方法では、発光層材料や反射層材料を高蒸気圧溶媒(例えば、トルエンやキシレン、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、メタノールなど)に溶解または分散させているため、スピンコート時に有機溶媒が蒸発し、平坦性の高い均一な発光層を形成することが困難となり、均一な発光面や反射面が得られないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、平坦性の高い均一な有機機能層が得られる電気光学装置の製造方法及び電気光学装置並びに電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明にかかる発光素子の製造方法は、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、前記第1電極層上に少なくとも1層の有機層を有する有機機能層を形成する有機機能層形成工程と、前記有機機能層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを備え、前記有機機能層形成工程で、有機層材料を有機溶媒に溶解または分散させた液状体を用いて前記一の有機層を形成し、前記有機溶媒は、高蒸気圧溶媒に低蒸気圧溶媒を混入させた混合溶媒であると共に、前記低蒸気圧溶媒の混入率が0.01体積%以上0.1体積%以下であることを特徴とする。
【0006】
この発明では、低蒸気圧溶媒の混入率を0.01体積%以上とすることで高い平坦性を有する一の有機層を形成することができると共に、混入率を0.1%体積以下とすることで形成した有機層を乾燥させたときに乾燥前と後との層厚の変化を小さくすることができる。
すなわち、液状体を塗布して有機層を形成すると、蒸発しやすい高蒸気圧溶媒が蒸発するが、蒸発しにくい低蒸気圧溶媒が有機層中に残存する。このように、低蒸気圧溶媒の混入率を0.01体積%以上とした低蒸気圧溶媒を有機溶媒に混入させることで、有機溶媒の蒸発量を少なくし、塗布した液状体を平坦化しやすくする。したがって、高い平坦性を有する有機層を形成することができる。また、低蒸気圧溶媒の混入率を0.1%体積以下とし、塗布した液状体中の有機溶媒量を少なくすることで、形成した有機層の乾燥前と後との層厚の変化率を抑制できる。
以上より、均一な発光面や反射面を有する有機層を設計どおりの層厚で容易に形成できる。
なお、本発明において、高蒸気圧溶媒は室温で蒸気圧が6mmHg(799.93Pa)以上であるものをいい、低蒸気圧溶媒は室温で蒸気圧が4mmHg(533.29Pa)以下であるものをいう。
【0007】
また、本発明にかかる電気光学装置の製造方法は、前記一の有機層が、発光層であることとしてもよい。
この発明では、発光層を平坦化することで、均一な面発光が得られる。
【0008】
また、本発明にかかる電気光学装置は、上記記載の電気光学装置の製造方法で製造されていることを特徴とする。
この発明では、上述した電気光学装置の製造方法で製造することで、一の有機層の平坦性が高められると共に乾燥前と後との層厚の変化率が抑制された電気光学装置が得られる。
【0009】
また、本発明にかかる電子機器は、上記記載の電気光学装置を備えることを特徴とする。
この発明では、一の有機層の平坦性が向上すると共に乾燥前後の層厚の変化率が抑制された電気光学装置を備えているので、均一な発光面や反射面を有する有機層を設計どおりの層厚で容易に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明による電気光学装置の製造方法及び電気光学装置の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
本実施形態における電気光学装置は、有機EL素子1であって、図1に示すように、基板2と、基板2の上面に基板2側から順に積層された発光機能層3及び陰極層(第2電極層)4とを有する。また、有機EL素子1は、発光機能層(有機機能層)3で発光した光を基板2側から射出するボトムエミッション方式となっている。
【0011】
基板2は、例えばガラスなどの透光性材料で構成された基板本体5上に薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと称する)素子からなる駆動素子(図示略)や信号線及び走査線などを形成して構成されており、表面に陽極層(電極層)6が形成されている。また、基板2は、上記駆動素子や信号線及び走査線上に絶縁層や平坦化膜が形成されている。そして、陽極層6は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極で構成され、駆動素子や信号線及び走査線などと接続するようにパターニングすることで形成されている。
【0012】
発光機能層3は、基板本体5側から順に積層された正孔注入輸送層(有機層)7と発光層(有機層)8とを有する。
正孔注入輸送層7は、陽極層6が形成された基板2上の全面に形成されており、陽極層6から注入した正孔を発光層8に輸送する構成となっている。ここで、正孔注入輸送層7を構成する正孔注入輸送層材料としては、アリールアミン誘導体やフタロシアニン誘導体、ポリアニリン誘導体+有機酸、ポリチオフェン誘導体+ポリマー酸、PEDOT+ポリマー酸(PSS、ナフィオン(デュポン社登録商標)など)などを用いることができる。
【0013】
発光層8は、正孔注入輸送層7上に形成されており、陰極層4から注入される電子と正孔注入輸送層7から注入される正孔とが結合して所定波長の光を発光する構成となっている。ここで、発光層8を構成する発光層材料としては、ポリフルオレン誘導体(PF)やポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などの高分子有機材料を用いることができる。
また、発光層8としては、上記高分子有機材料に、ペニレン系色素やクマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子有機材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドンなどの低分子有機材料をドープしたものを用いてもよい。
【0014】
そして、発光層8は、高分子有機材料あるいはこれに低分子有機材料をドープしたものを有機溶媒中に溶解させた有機液を正孔注入輸送層7上に塗布、乾燥させることによって形成されている。ここで、有機溶媒は、室温で蒸気圧の高い高蒸気圧溶媒に室温で蒸気圧の低い低蒸気圧溶媒を0.01体積%以上0.1体積%以下混入させた溶媒である。また、この液状体における発光層材料の含有率は、1〜2重量%となっている。なお、本実施形態において、高蒸気圧溶媒は室温で蒸気圧が6mmHg(799.93Pa)以上であるものをいい、低蒸気圧溶媒は室温で蒸気圧が4mmHg(533.29Pa)以下であるものをいう。
【0015】
陰極層4は、発光層8上に形成されており、発光層8の上面から順にLiF(フッ化リチウム)層、Ca(カルシウム)層及びAl(アルミニウム)層を積層した構成となっている。そして、陰極層4上には、封止層(図示略)が形成されている。
【0016】
次に、以上のような構成の有機EL素子1の製造方法について、図2を用いて説明する。
まず、従来と同様の手法により、基板2を形成する。これは、最初に基板本体5上に、上記TFT素子や信号線及び走査線などを形成する。そして、これらTFT素子や信号線及び走査線上に上記層間絶縁膜や平坦化膜を形成する。
次に、陽極層形成工程(第1電極層形成工程)を行う。これは、蒸着法などによってITOを成膜し、パターニングすることで陽極層6を形成する(図2(a))。ここで、陽極層6が形成された基板2の洗浄後、大気圧において酸素プラズマ処理を行い、基板2の表面を親水性に改質する。これにより、陽極層6の仕事関数を増大することができる。
【0017】
そして、発光機能層形成工程(有機機能層形成工程)を行う。これは、陽極層6が形成された基板2の全面に正孔注入輸送層7を形成する、正孔注入輸送層形成工程と、正孔注入輸送層7上に発光層8を形成する発光層形成工程とを有する。
まず、正孔注入輸送層形成工程を行う。これは、最初に正孔注入輸送層材料を溶媒または分散液に溶解または分散させた液状体をスピンコーティング法を用いて所定の層厚となるように、プレ正孔注入輸送層7aを形成する(図2(b))。
【0018】
続いて、プレ正孔注入輸送層7aの不溶化処理を行う。これは、プレ正孔注入輸送層7aが成膜された基板2を加熱されたホットプレート(図示略)上に載置して焼成処理を行う。これにより、プレ正孔注入輸送層7aは、基板2側が不溶化された不溶化層7bとなる。つまり、正孔注入輸送層7上に形成する発光層8の形成工程において用いる有機溶媒(特定溶媒に対して不溶な不溶化層7bが形成される(図2(c))。
このプレ正孔注入輸送層7aのうち不溶化されるのは上記ホットプレート側の一部であって、ホットプレートとは反対側の不溶化層7b上には、図2(c)に示すように、プレ正孔注入輸送層7aの一部が残存する。ここで、プレ正孔注入輸送層7aは、有機溶媒(特定溶媒)に対して溶解性(易溶性)を示すものを用いている。
【0019】
この不溶化処理は、プレ正孔注入輸送層7aを構成する材料の分子について、この分子間に架橋を生じさせることで不溶化層7bを形成することにより行われている。分子間に架橋を生じさせる方法としては、プレ正孔注入輸送層7aに対して架橋可能な官能基を導入し、この官能基が活性化される条件で加熱処理を施すことによって行われる。なお、プレ正孔注入輸送層7aに架橋剤を含有させてから加熱処理を施して架橋剤を活性化させることによって行ってもよい。また、加熱処理を施しているが、紫外線を照射することで架橋を生じさせたり、架橋剤を活性化させたりしてもよい。
さらに、不溶化処理としては、以下の方法を用いてもよい。この方法は、プレ正孔注入輸送層7aを構成する材料として、その分子中に特定溶媒に対して難溶性を示すユニット(難溶性ユニット)と特定溶媒に対して易溶性を示すユニット(易溶性ユニット)とを結合した構成を有するものを用いる。そして、プレ正孔注入輸送層7aを構成する材料の分子内の各ユニットの結合を切断させる処理を施す。これにより、難溶性ユニットからなる分子と、易溶性ユニットからなる分子とが分解生成され、結果的に難溶性ユニットにより不溶化層7bが構成される。
【0020】
その後、残存したプレ正孔注入輸送層7aを洗浄して除去する。これは、残存したプレ正孔注入輸送層7aに対して低蒸気圧溶媒をスピンコータなどでリンス処理し、プレ正孔注入輸送層7aを除去する(図2(d))。これにより、不溶化されていないプレ正孔注入輸送層7aが洗浄されて、選択的に不溶化層7bのみを基板2上に残存させることができる。この残存した不溶化層7bが正孔注入輸送層7を構成する。ここで、リンス処理で用いられる低蒸気圧溶媒としては、上述した発光層材料を溶解させる有機溶媒に含有されたものを用いることができる。
そして、残存させた不溶化層7bに対して高蒸気圧溶媒をスピンコータなどで再びリンス処理し、上記リンス処理で残存している低蒸気圧溶媒を除去する。これにより、発光層8を形成するときに残存した低蒸気圧溶媒が混入することを防止できる。ここで、再リンス処理で用いられる高蒸気圧溶媒としては、上述した発光層材料を溶解させる有機溶媒に使用されるものを用いることができる。
【0021】
次に、発光層形成工程を行う。これは、正孔注入輸送層7上に、発光層8を形成する発光層材料を有機溶媒に溶解させた液状体をスピンコーティング法を用いて所定の層厚となるように形成し、この層に焼成処理を施して有機溶媒を蒸発させることで発光層8を形成する(図2(e))。ここで、発光層材料を溶解させる有機溶媒は、高蒸気圧溶媒に低蒸気圧溶媒を0.01体積%以上0.1体積%以下だけ混入させた溶媒である。
【0022】
この高蒸気圧溶媒としては、ベンゼン(蒸気圧76mmHg(20℃))、トルエン(蒸気圧10mmHg(20℃))、キシレン(蒸気圧6mmHg(20℃))、ジフェニルエーテル(蒸気圧20mmHg(13.2℃))、クロロホルム(蒸気圧159mmHg(20℃))、テトラヒドロフラン(THF)(蒸気圧150mmHg(20℃))、脂肪族ケトン(例えばアセトン(蒸気圧175mmHg(20℃)))、脂肪族エーテル(例えばジエチルエーテル(蒸気圧440mmHg(20℃)))、脂肪族エステル(例えば酢酸エチル(蒸気圧73mmHg(20℃)))などが適用可能である。
【0023】
また、低蒸気圧溶媒としては、トリメチルベンゼン(蒸気圧1.5mmHg(20℃))やクメン(蒸気圧3.9mmHg(20℃))、テトラリン(蒸気圧2.0mmHg(20℃))、アセトフェノン(蒸気圧0.37mmHg(20℃))、酢酸ベンジル(蒸気圧0.4mmHg(46℃))、ベンジルエチルエーテル(蒸気圧1mmHg(26℃))、エトキシベンゼン(蒸気圧1.3mmHg(20℃))、脂肪族ケトン(例えば2−ヘキサノン(蒸気圧2.7mmHg(20℃)))、脂肪族エーテル(例えばジヘキシルエーテル(蒸気圧0.008mmHg(20℃)))、脂肪族エステル(例えばプロピオン酸イソペンチル(蒸気圧2mmHg(25℃)))などが適用可能である。
【0024】
このとき、液状体をスピンコーティング法によって塗布した際、有機溶媒中に低蒸気圧溶媒が0.01体積%以上混入しているので、スピンコート中で高蒸気圧溶媒が蒸発しても液状体中には低蒸気圧溶媒が残存する。これにより、液状体の適度な流動性が確保されて、高い平坦性を有する発光層8が形成される。また、低蒸気圧溶媒の混入率が0.1体積%以下なので、焼成処理前の発光層8に残存する低蒸気圧溶媒が適宜の量となる。これにより、発光層8に焼成処理を施した際に蒸発する低蒸気圧溶媒の量を少なくして、焼成処理の前後における発光層8の層厚の変化率が抑制される。
【0025】
そして、発光層8上に陰極層4を形成する陰極形成工程(第2電極層形成工程)を行う。これは、発光層8上に、真空蒸着法を用いて上記LiF層、Ca層及びAl層を順に形成し、陰極層4を形成する(図2(f))。最後に、陰極層4上に上記封止層を形成する封止工程を行う。以上のようにして、有機EL素子1を製造する。
【0026】
このように製造された有機EL素子1は、図3に示すような有機EL装置(電気光学装置)10に設けられている。
この有機EL装置10は、基板2の中央部分に、上記有機EL素子1をマトリックス状に配置することで形成された実表示領域11a(図3中の二点差線で囲まれた領域)と、実表示領域11aの周囲に形成されたダミー領域11b(図3中の一点鎖線で囲まれた領域と二点差線で囲まれた領域との間)とで構成された画素部11(図3中の一点鎖線で囲まれた領域)を備えている。
【0027】
また、有機EL装置10は、ダミー領域11bに設けられた走査線駆動回路12、信号線駆動回路(図示略)及び検査回路13と、画素部11の外側に設けられた陰極用配線14とを備えている。
走査線駆動回路12は、実表示領域11aの外側であって図3に示す+X方向と−X方向とにそれぞれ設けられており、上記走査線に接続されている。そして、走査線駆動回路12は、走査線を介して上記駆動素子に走査信号を供給する構成となっている。
信号線駆動回路は、上記信号線に接続されており、この信号線を介して上記駆動素子に画像信号を供給する構成となっている。
検査回路13は、実表示領域11aの外側であって図3に示す+Y方向に設けられており、製造途中や出荷時における有機EL装置10の品質や欠陥の検査を行うことが可能な構成となっている。
陰極用配線14は、基板2上に形成されており、後述する駆動IC17と陰極層4とを接続する構成となっている。
【0028】
そして、有機EL装置10は、基板本体5の−Y側の端部に接続されたフレキシブル基板15を備えている。このフレキシブル基板15には、走査線駆動回路12や信号線駆動回路、検査回路13に接続される配線パターン16と、配線パターン16に接続された駆動IC17が設けられている。
【0029】
この有機EL装置10は、例えば図4(a)に示すようなノート型パーソナルコンピュータ50などの電子機器の表示部51として適用される。このノート型パーソナルコンピュータ50は、キーボード52を有する本体部53と、上記表示部51とを備えている。
また、有機EL素子1は、例えば図4(b)に示すような携帯電話機60の表示部61として適用することもできる。この携帯電話機60は、複数の操作ボタン62、受話口63、送話口64及び上記表示部61を有する本体部65を備えている。
【0030】
以上のように、本実施形態における有機EL素子1の製造方法及び有機EL素子1並びに有機EL装置10によれば、発光層8を構成する発光層材料を溶解させる有機溶媒において、高蒸気圧溶媒に低蒸気圧溶媒を0.01体積%以上0.1体積%以下で混入させることで、発光層8の平坦性を向上させると共に発光層8の乾燥前後の層厚の変化率が抑制できる。したがって、発光機能層3から均一な面発光が得られると共に、設計どおりの所望の厚さの発光層8を容易に形成できる。
【実施例1】
【0031】
次に、本発明にかかる有機EL素子の製造方法を、実施例により具体的に説明する。
まず、陽極層6が形成された基板2上に層厚50nm〜60nmのプレ正孔注入輸送層7aを形成し、150℃で加熱する焼成処理を施した。ここで、正孔注入輸送層材料として、ポリオレフィン誘導体である3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を用いた。
そして、正孔注入輸送層7上にスピンコーティング法を用いて層厚60nm〜80nmの層を形成し、これを窒素雰囲気下において130℃、30分の焼成処理を施し、発光層8を形成した。このとき、正孔注入輸送層7は、上述した不溶化処理によって発光層材料を溶解させた有機溶媒に溶解されなかった。
ここで、発光層材料を溶解させる有機溶媒は、後述するように高蒸気圧溶媒に低蒸気圧溶媒を適宜の混入率で混入させたものである。本実施例では、高蒸気圧溶媒をキシレン(蒸気圧6mmHg(20℃))とし、低蒸気圧溶媒をクメン(蒸気圧3.9mmHg(20℃))としている。
その後、真空度が10−6Torr(1.33×10−4Pa)の真空下において、真空蒸着法により層厚4nmのLiF層、層厚10nmのCa層及び層厚200nmのAl層を積層して陰極層4を形成した。
【0032】
このようにして製造した有機EL素子において、発光層の形成後に、発光層の表面粗さ及び発光層の焼成処理前後の層厚変化を測定した。この結果を表1に示す。ここで、高蒸気圧溶媒であるキシレンに混入されるクメンの混入率を、0.01体積%、0.05体積%、0.1体積%、0体積%、0.005体積%、0.5体積%、1体積%とし、それぞれ実施例1〜3及び比較例1〜4とした。
また、表1において、表面粗さはAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)を用いて測定した算術平均粗さRaを示している。なお、一般に、有機EL素子として、発光層の表面粗さ(算術平均粗さRa)は0.5nm以下であることが要請されており、好ましくは0.3nm以下となっている。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、有機溶媒に混入した低蒸気圧溶媒の混入率を0.01体積%以上とすることで、液状体の適度な流動性が確保されることにより、発光層の高い平坦性が得られることを確認した。また、低蒸気圧溶媒の混入率を0.1体積%以下とすることで、焼成処理を施した際に蒸発する有機溶媒の量が少なくなり、焼成処理の前後における発光層の層厚の変化率が抑制されることを確認した。
【0035】
続いて、高蒸気圧溶媒をキシレン(蒸気圧6mmHg(20℃))、低蒸気圧溶媒をトリメチルベンゼン(蒸気圧1.5mmHg(20℃))とし、上述と同様に発光層の表面粗さ及び発光層の焼成処理前後の層厚変化を測定した。この結果を表2に示す。ここで、高蒸気圧溶媒であるキシレンに混入されるトリメチルベンゼンの混入率を、0.01体積%、0.05体積%、0.1体積%、0体積%、0.005体積%、0.5体積%、1体積%とし、それぞれ実施例4〜6及び比較例5〜8とした。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、低蒸気圧溶媒の混入率を0.01体積%以上0.1体積%以下とすることで、上述と同様に、発光層の高い平坦性が得られると共に焼成処理の前後における発光層の層厚の変化率が抑制されることを確認した。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、ボトムエミッション方式の有機EL素子としているが、トップエミッション方式の有機EL素子としてもよい。
また、発光層の形成時に高蒸気圧溶媒と低蒸気圧溶媒とを混合した有機溶媒に発光層材料を溶解させて塗布しているが、発光層の形成時に限らず、正孔注入輸送層の形成時に本発明を適用し、上記有機溶媒に正孔注入輸送層材料を溶解あるいは分散させた液状体を塗布してもよい。
また、スピンコート法を用いて発光層を形成しているが、液状体を用いて発光層を形成すれば、インクジェット法など他の湿式法を用いて形成してもよい。
【0039】
また、発光機能層が正孔注入輸送層及び発光層を積層した構成となっているが、発光層のみで構成されてもよく、発光層と陰極層との間に電子注入層や電子輸送層、正孔阻止層を積層した構成としてもよい。この電子注入層や電子輸送層は、陰極層から電子を陽極層の方向へ進めて電子を通す機能を有している。また、正孔阻止層は、正孔が陰極層の方向へ進行することを防止する機能を有している。同様に、発光層と陽極層との間に電子阻止層を積層した構成としてもよい。この電子阻止層は、電子が陽極層の方向へ進行することを防止する機能を有している。
また、発光機能層が正孔注入輸送層を有しているが、正孔注入輸送層に代えて正孔注入層または正孔輸送層を有する構成としてもよい。
ここで、上述と同様に、電子注入層や電子輸送層などの形成時に本発明を適用し、上記有機溶媒に有機材料を溶解あるいは分散させた液状体を塗布してもよい。
【0040】
また、電気光学装置は、一対の電極層の間に配置されて電圧の印加によって発光や着色する有機機能層を備えていれば、有機EL素子に限らず、エレクトロクロミック素子など他の電気光学装置であってもよい。同様に、電気光学装置としては、有機EL装置に限られず、エレクトロクロミック表示装置など、他の電気光学装置であってもよい。
また、電気光学装置を備える電子機器としては、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話機に限らず、PDA(Personal Digital Assistant:携帯情報端末機)やパーソナルコンピュータ、ワークステーション、デジタルスチルカメラ、車載用モニタ、カーナビゲーション装置、デジタルビデオカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ページャ、電子手帳、電卓、電子ブックやプロジェクタ、ワードプロセッサ、テレビ電話機、POS端末、タッチパネルを備える機器、照明装置、プリンタの露光ヘッドなどのような他の電子機器であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態における有機EL素子を示す概略断面図である。
【図2】一実施形態における有機EL素子の製造方法を示す工程図である。
【図3】有機EL素子を備える有機EL装置を示す概略平面図である。
【図4】有機EL装置を備える電子機器を示す外観図である。
【符号の説明】
【0042】
1 有機EL素子(発光装置)、3 発光機能層(有機機能層)、4 陰極層(第2電極層)、6 陽極層(第1電極層)、7 正孔注入輸送層(有機層)、8 発光層(有機層)、10 有機EL装置(発光装置)、50 ノート型パーソナルコンピュータ(電子機器)、60 携帯電話機(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、
前記第1電極層上に少なくとも1層の有機層を有する有機機能層を形成する有機機能層形成工程と、
前記有機機能層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを備え、
前記有機機能層形成工程で、有機層材料を有機溶媒に溶解または分散させた液状体を用いて前記一の有機層を形成し、
前記有機溶媒は、高蒸気圧溶媒に低蒸気圧溶媒を混入させた混合溶媒であると共に、前記低蒸気圧溶媒の混入率が0.01体積%以上0.1体積%以下であることを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項2】
前記一の有機層が、発光層であることを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気光学装置の製造方法で製造されていることを特徴とする電気光学装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電気光学装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−234395(P2007−234395A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54683(P2006−54683)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】