説明

電気光学装置の製造方法及び電気光学装置

【課題】クロストークの発生を抑えることが可能な電気光学装置の製造方法及び電気光学
装置を提供すること。
【解決手段】複数の画素電極27を形成する工程と、複数の画素電極27を共通して区画
する隔壁25を形成する工程と、隔壁25により囲まれた領域に、グリコール系の溶剤が
添加された有機導電性層61を含む機能層を形成する工程と、有機導電性層61に光Rを
照射する工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置の製造方法及び電気光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と
いう)を使用したディスプレイやプリンタの光書き込みヘッドといった電気光学装置の開
発が盛んに行われている。
【0003】
この種の電気光学装置は、有機EL素子を構成する発光材料(以下、「有機EL材料」
という)が高分子系有機材料であるか、または低分子系有機材料であるかによってその製
造方法が異なる。そして、有機EL材料が高分子系有機材料である場合は、該有機EL材
料を所定の溶媒に溶解または分散させて液状組成物を形成し、その液状組成物を液滴吐出
ヘッドのノズルから吐出して基板の所定の画素電極上に塗布させる、所謂液滴吐出法を使
用して製造することが知られている。この場合、画素電極の周囲を隔壁で区画することで
、塗布された有機材料液体が他の位置にある画素電極上に塗布された液状組成物と混ざり
合うのを抑制することで高精細なパターニングを可能としている。
【0004】
また、有機EL素子の金属系電極の形成方法として、レーザーアブレーション加工法が
提案されている。この方法は、有機化合物層と有機化合物層上に積層された金属系電極と
を同時に飛散させる方法であり、具体的には、金属系電極にレーザ光を照射し、金属系電
極を帯状に形成するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3556990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、有機EL素子の正孔注入層のような有機導電性層を形成する際、保水性と湿
潤性をもたらす目的で、高沸点水溶性有機溶媒からなるグリコール系の溶剤が添加された
液滴吐出用の液状組成物を用いることがある。このように、有機導電性層にグリコール系
の溶剤を添加することにより、平坦膜を形成することが可能となっている。しかしながら
、グリコール系の溶剤の添加に起因して、有機導電性層の電気伝導度が高くなり、画素電
極に供給された電子が、画素電極周囲の有機導電性層に染み出してしまい、画素電極周囲
の有機導電性層も発光し、その結果、隣接する画素とのクロストークが発生してしまう。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、クロストークの発生を
抑えることが可能な電気光学装置の製造方法及び電気光学装置を提供することを目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の電気光学装置の製造方法は、複数の画素電極を形成する工程と、前記複数の画
素電極を共通して区画する隔壁を形成する工程と、前記隔壁により囲まれた領域に、グリ
コール系の溶剤が添加された有機導電性層を含む機能層を形成する工程と、前記有機導電
性層に光を照射する工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る電気光学装置の製造方法では、グリコール系の溶剤が添加された有機導電
性層を含む機能層を形成することにより、平坦性に優れた膜を形成することができる。さ
らに、この有機導電性層に光を照射すると、有機導電性層が高抵抗化される。ここで、有
機導電性層は、グリコール系の溶剤が添加されているため、有機導電性層に光を照射する
前の状態は、低抵抗な層となっている。そして、この有機導電性層は、画素電極に供給さ
れた電子が周囲の有機導電性層に流れ込み、その画素電極の周囲の有機導電性層が同時に
発光し、その結果、隣接する画素とのクロストークが発生してしまう。しかしながら、有
機導電性層に光を照射することにより、有機導電性層は高抵抗、すなわち、有機導電性層
の電気伝導度は低くなるため、電子が周囲の有機導電性層に流れ込むのを防止することが
できるので、クロストークの発生を抑えることが可能となる。
【0009】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、前記複数の画素電極上の前記有機導電性層
の一部の領域に選択的に光を照射することが好ましい。
本発明に係る電気光学装置の製造方法では、画素電極に供給された電子が周囲の有機導
電性層に流れ込む可能性がある複数の画素電極上の有機導電性層の一部の領域に選択的に
、例えば、画素電極の形状に開口したマスクを用いて光を照射する。これにより、電子が
周囲の有機導電性層に流れ込むのを効率良く防止することができる。
【0010】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、前記有機導電性層の抵抗値に応じて、前記
有機導電性層に照射する光量を調整することが好ましい。
本発明に係る電気光学装置の製造方法では、有機導電性層の抵抗値を全面的に測定し、
有機導電性層の抵抗値の低い箇所には、高い箇所に比べて、例えば、長い時間光を照射す
ることにより、有機導電性層の抵抗値を抑えるとともに、有機導電性層を均一な抵抗値に
することが可能となる。
【0011】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、前記有機導電性層が、ポリエチレンジオキ
シチオフェンを含むことが好ましい。
本発明に係る電気光学装置の製造方法では、有機導電性層上に、例えば、発光層を含む
機能層を形成した場合、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含んだ有機導
電性層は、高い導電性を得るとともに、発光層に対する高い正孔注入効果を得ることがで
きる。ここで、有機導電性層に光を照射することにより、有機導電性層の導電性を低くす
ることができるので、クロストークの発生を抑え、かつ、低い駆動電圧で高い発光効率を
得ることが可能となる。
【0012】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、前記光が、紫外光であることが好ましい。
本発明に係る電気光学装置の製造方法では、有機導電性層に紫外光を照射することによ
り、有機導電性層を構成する分子構造が変性し易くなり、その結果、電気伝導度を容易に
低くすることができる。
【0013】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、前記有機導電性層を形成する際、液滴吐出
法により形成することが好ましい。
本発明に係る電気光学装置の製造方法では、直接画素を描画できるためマスクを必要と
せず、したがって高精細な電気光学装置の製造が可能となる。また、液相プロセスである
ため真空を必要とせず、したがって、エネルギーコストおよび材料コストの面でも有利と
なり、特に大面積のパターニングに有効となる。
また、有機導電性層は、高沸点のグリコール系の溶剤が添加されているため、液滴吐出
法に用いられる吐出ヘッドは乾きづらくなる。したがって、液滴吐出法を用いることによ
り、容易に平坦膜を形成することが可能となる。
【0014】
本発明の電気光学装置は、上記の電気光学装置の製造方法により製造されたことを特徴
とする。
本発明に係る電気光学装置では、上記電気光学装置の製造方法を用いることにより、有
機導電性層の電気伝導度は低くなり、クロストークの発生を抑えることが可能となるため
、輝度ムラ等の表示ムラを抑えた装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態としての光書き込みヘッドを備えた電気光学装置の製造方法
について説明する。
まず、電気光学装置の製造方法に先立ち、本発明に係る電気光学装置の構造について説
明する。また、電気光学装置としては、光プリンタについて各図に従って説明する。尚、
以下に説明する光プリンタは、フルカラー表示が可能なタンデム方式の光プリンタである

【0016】
[光プリンタ]
図1は、光プリンタの主要断面図である。
図1に示すように、光プリンタ1は、光書き込みヘッド及び発光部ユニットとしてのブ
ラック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、マゼンダ用有機E
L露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yを備えている。また、光プリン
タ1は、各露光ヘッド2K,2C,2M,2Yの下方に、ブラック用感光ドラム3K、シ
アン用感光ドラム3C、マゼンダ用感光ドラム3M、イエロ用感光ドラム3Yをそれぞれ
備えている。
【0017】
さらに、光プリンタ1は、駆動ローラ4、従動ローラ5、テンションローラ6、及び該
テンションローラ6によりテンションを加えられて張架されながら図1において反時計周
り方向へ循環駆動される中間転写ベルト7を備える。そして、各感光ドラム3K,3C,
3M,3Yは、中間転写ベルト7に対して所定間隔に配置されている。
【0018】
各感光ドラム3K,3C,3M,3Yは、中間転写ベルト7の駆動と同期して図1にお
いて時計周り方向へ回転駆動されるようになっている。そして、各露光ヘッド2K,2C
,2M,2Yは、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの外周面を各感光ドラム3K,3
C,3M,3Yの回転に同期して順次ライン走査することで、描画データに応じた静電潜
像を対応する感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成する。
【0019】
また、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの周囲には、該感光ドラム3K,3C,3
M,3Yの各外周面を一様に帯電させるコロナ帯電器8K,8C,8M,8Yが設けられ
ている。
【0020】
また、光プリンタ1は、ブラック用感光ドラム3Kの周囲にブラック用現像装置9Kを
、シアン用感光ドラム3Cの周囲にシアン用現像装置9Cを、マゼンダ用感光ドラム3M
の周囲にマゼンダ用現像装置9Mを、イエロ用感光ドラム3Yの周囲にイエロ用現像装置
9Yをそれぞれ備えている。この各現像装置9K,9C,9M,9Yは、対応する有機E
L露光ヘッド2K,2C,2M,2Yによって各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に
形成された静電潜像に対応する色の現像剤であるトナーを付与して可視像(トナー像)を
形成するものである。例えば、シアン用現像装置9Cは、シアン用有機EL露光ヘッド2
Cによってシアン用感光ドラム3C上に形成された静電潜像にシアン色のトナーを付与し
て可視像(トナー像)を形成する。
【0021】
詳しくは、各現像装置9K,9C,9M,9Yは、例えば、トナーとして非磁性一成分
トナーを用いるもので、その一成分現像剤を、例えば供給ローラで現像ローラへ搬送し、
現像ローラ表面に付着したトナーの膜厚を規制ブレードで規制する。この規制により、現
像ローラを各感光ドラム3K,3C,3M,3Yに接触或いは押圧させることにより、各
感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成された静電潜像の電位レベルに応じて現像剤
を付着させて可視像(トナー像)として現像する。
【0022】
さらに、光プリンタ1は、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの周囲に、各現像装置
9K,9C,9M,9Yで現像された可視像(トナー像)を一次転写対象である中間転写
ベルト7に順次転写する一次転写ローラ10K,10C,10M,10Yを備えている。
さらにまた、光プリンタ1は、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの周囲に、クリーニ
ング装置11K,11C,11M,11Yを備えている。クリーニング装置11K,11
C,11M,11Yは、一次転写の後に、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの表面に
残留しているトナーを除去するためのものである。
【0023】
このような各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成されたブラック,シアン,マ
ゼンタ,イエロの各可視像(トナー像)は、一次転写ローラ10K,10C,10M,1
0Yによって中間転写ベルト7上に順次一次転写される。この一次転写により中間転写ベ
ルト7上で順次重ね合わされてフルカラーとなった可視像(トナー像)は、二次転写ロー
ラによって用紙等の記録媒体P上に二次転写され、一対の定着ローラ12を通ることで記
録媒体P上に定着される。可視像(トナー像)が定着した記録媒体Pは、排紙ローラ13
によって案内されて光プリンタ1の上部に形成された排紙トレイ14上へ排出される。
【0024】
また、光プリンタ1は、多数枚の記録媒体Pを保持する給紙カセット15、該給紙カセ
ット15から記録媒体Pを一枚ずつ給送するピックアップローラ16、二次転写ローラ6
6の二次転写部への記録媒体Pの供給タイミングを規定するゲートローラ17を備えてい
る。さらに、光プリンタ1は、中間転写ベルト7とで二次転写部を形成する二次転写ロー
ラ18、及び二次転写後に中間転写ベルト7の表面に残留しているトナーを除去するクリ
ーニングブレード19を備えている。
【0025】
次に、有機EL露光ヘッド2K,2C,2M,2Yの詳細について説明する。尚、ブラ
ック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、マゼンダ用有機EL
露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yは、全て同じ構造をしているので
、説明の便宜上、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kについて説明し、他の有機EL露光
ヘッド2C,2M,2Yについては、その詳細な説明を省略する。
【0026】
図2は、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kの斜視図である。ブラック用有機EL露光
ヘッド2Kは、一方向、即ち中間転写ベルト7の搬送方向に対して直交する方向に配設さ
れた箱体21と、箱体21とブラック用感光ドラム3Kとの間に位置するように箱体21
に支持固定された光学部材23とを備えている。箱体21は、ブラック用感光ドラム3K
側に開口部を有しており、その開口部に向かって光が出射するように発光素子アレイ22
を固定している。
【0027】
[発光装置]
図3(a)は、発光素子アレイ22の上面図であり、図3(b)は、図3(a)中a−
a線断面図である。
図3(a)に示すように、発光素子アレイ22は、基板S上に発光素子としての有機エ
レクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という)24を複数個配列してい
る。本実施形態の発光素子アレイ22は、縦一列に等ピッチに配列された複数個(本実施
形態では、10個)の有機EL素子24が2列配列されている。そして、各有機EL素子
24は、隣接する他の列の有機EL素子24と縦方向に半ピッチだけずれるようにして配
置されている。つまり、各有機EL素子24は、千鳥格子状に配列されている。
【0028】
また、複数の有機EL素子24の周囲には、その複数の有機EL素子24全体を囲むよ
うに隔壁としての隔壁25が形成されている。本実施形態における隔壁25は、図3(a
)に示すように、複数の有機EL素子24全体を囲むように略四角形状を成している。
【0029】
図3(b)に示すように、隔壁25は、基板S上に形成された親液性バンク25aと、
該親液性バンク25a上に形成された撥液性バンク25bとから構成されている。親液性
バンク25aの一部は、撥液性バンク25bより基板S中央側に張り出すようにして形成
されている。親液性バンク25aは、元来、親液性を備えた材料であって、例えば、酸化
珪素(SiO2)で構成されたものである。また、親液性を備えていないものであっても
、通常用いられる公知の親液化処理を施すことで表面を親液化したものであってもよい。
一方、撥液性バンク25bは、元来、撥液性を備えた材料、例えば、フッ素系樹脂で構成
されたものであってもよい。また、撥液性を備えていないものであっても、通常用いられ
るアクリル樹脂やポリイミド樹脂等の有機樹脂をパターン形成し、CF4プラズマ処理等
により表面を撥液化したものであってもよい。
【0030】
また、図3(b)に示すように、隔壁25によって基板S中央には素子形成領域として
の凹状領域26が形成されている。凹状領域26の底部には、陽極としての画素電極27
が形成されている。本実施形態の画素電極27は、円形形状である。また、本実施形態の
画素電極27は、縦一列に等ピッチに配列された複数個(本実施形態では、10個)形成
されるとともに、横方向に2列配列されている。そして、各画素電極27は、隣接する他
の列の画素電極27と縦方向に半ピッチだけずれるようにして配置されている。各画素電
極27は、それぞれに独立した配線を介して図示しないデータ信号出力駆動回路に接続さ
れている。そして、このデータ信号出力駆動回路から出力された描画データ信号が画素電
極27に供給されるようになっている。
【0031】
また、凹状領域26の底部には、各画素電極27上を被覆するように、正孔注入層(有
機導電性層)61が形成されている。この正孔注入層61は、ポリエチレンジオキシチオ
フェン(以下、「PEDOT」と書く)及びポリスチレンスルフォン酸(以下、「PSS
」と記載)の混合物にジエチレングリコール(DEG)が添加されて構成されている。
【0032】
正孔注入層61上には、発光層28が形成されている。発光層28上には、電子注入層
62が形成されている。また、電子注入層62上には、各画素電極27と撥液性バンク2
5bを共通して覆うように陰極29が形成されている。
また、この電子注入層62は、ポリフェニレンビニレン系のポリマーで構成された公知
の電子注入層材料である。
【0033】
陰極29の上面全体に、前記封止部材30が形成されている。そして、正孔注入層61
L、発光層28及び電子注入層62Lで、機能層が構成される。また、画素電極27およ
び陰極29と、これらの間に挟持される機能層により発光素子である有機EL素子24が
構成される。
【0034】
このような構成を有する有機EL露光ヘッド2Kは、図3(b)に示すように、正孔注
入層61、発光層28、電子注入層62の各膜厚が凹状領域26内全域に渡って均一にな
っている。従って、各画素電極27上には均一な膜厚の発光層28が形成される。
【0035】
また、図4に示すように、光学部材23は、発光素子アレイ22と対向する位置に備え
られている。この光学部材23は、内部に複数のレンズ31を備えており、有機EL素子
24から出射した光を集光し、その後、その他端側から出射してブラック用感光ドラム3
Kに照射(描画)する。
【0036】
次に、有機EL露光ヘッド2K,2C,2M,2Yの製造方法を図5から図7に従って
説明する。尚、ブラック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、
マゼンダ用有機EL露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yは、全て同じ
方法によって製造される。従って、説明の便宜上、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kの
製造方法のみを説明し、他の有機EL露光ヘッド2C,2M,2Yについては、その詳細
な説明を省略する。
【0037】
先ず、基板S上の略中央に、公知の方法によって千鳥格子状に20個の画素電極27を
パターニングする。続いて、図5(a)に示すように、基板S上であって、各画素電極2
7全体を囲むように酸化珪素(SiO2)をパターニングして親液性バンク25aを形成
する。その後、形成した親液性バンク25a上に、親液性バンク25aの一部が基板S中
央側に張り出すようにフッ素系樹脂を、例えば高さが1〜2μm程度になるようにパター
ニングして撥液性バンク25bを形成する。これにより、基板S上には、各画素電極27
全体を囲むように隔壁25が形成される(バンク形成工程)。この結果、各画素電極27
が形成された基板S中央には凹状領域26が形成される。
【0038】
続いて、凹状領域26内に正孔注入層61を、液体プロセスの1種である液滴吐出法に
よって形成する。即ち、図5(b)に示すように、PEDOT/PSSを主体とした正孔
注入層材料をジエチレングリコール(グリコール溶剤)といった所定の溶媒に溶解または
分散させて形成された液状組成物LAを吐出ヘッド65のノズルNから吐出させる。この
とき、吐出ヘッド65に設けられた、紙面手前及び奥に沿って延設されるガイドレール6
5Aに沿って吐出ヘッド65を基板Sに対して紙面手前及び奥方向に移動させながら液状
組成物LAを凹状領域26内に複数回吐出する。これにより、液状組成物LAが凹状領域
26内全面に塗布される(機能層形成工程)。
【0039】
次に、基板Sを密閉容器内に搬送し、容器内を減圧することにより基板S上に配置した
液状組成物LAから溶媒を除去し、膜化する。減圧は、大気圧から1Torrまでを30
秒から数分程度の時間で行うと、より平坦性の高い正孔注入層61を形成することができ
る。また、複数の種類の溶媒を使用する場合は、使用する各溶媒の蒸気圧に合わせて、そ
の溶媒の蒸気圧付近で圧力を保持する様に複数のステップで減圧を行っても良い。この様
にすることで、配置した液状組成物LA全面での乾燥の速度をより均一にすることが可能
となり、より平坦性の高い膜を形成することができる。本発明では、各画素電極27が隔
壁25からある程度離れた領域に配置されているため、その上に配置された液状組成物L
Aの乾燥状態に対する隔壁25の影響が低減され、全ての画素電極27上に平坦で、膜厚
の均一性の高い正孔注入層61を形成することができる。
【0040】
また、基板Sを、例えばホットプレート上に載置することによって加熱して液状組成物
LA中の溶媒を蒸発させ、凹状領域26上全面に正孔注入層61を形成しても良い(図5
(c)参照)。
【0041】
そして、図6(a)に示すように、正孔注入層61全面に対して紫外光Rを照射する(
光照射工程)。照射する紫外光の波長は、365nmである。この結果、紫外光Rが照射
された正孔注入層61は、その層を構成する分子構造が変性し、電気抵抗値は高くなる(
電気伝導度は低くなる)。すなわち、紫外光Rを照射する前に比べて、正孔注入層61の
電気抵抗値は全体的に高くなる。
【0042】
更には、100℃〜150℃で1分〜数分の加熱処理を実施する。加熱処理を行うこと
で、紫外光で露光された領域の反応がより安定して進行し、再現性良く紫外光を照射した
領域の電気抵抗を高くすることができる。
【0043】
続いて、発光層28を液滴吐出法によって形成する。即ち、図6(b)に示すように、
発光層28を構成する組成物としての発光材料をキシレンといった所定の溶媒に溶解また
は分散させて形成された液状組成物Lを吐出ヘッド40のノズルNから吐出させる。この
とき、吐出ヘッド40に設けられた前記ガイドレール41に沿って吐出ヘッド40を基板
Sに対して紙面手前及び奥方向に移動させながら液状組成物Lを順次吐出することで正孔
注入層61の全面に液状組成物Lを吐出する。これにより、正孔注入層61の上全面に液
状組成物Lが塗布される。
【0044】
次に、正孔注入層61を形成する工程と同様に、基板Sを密閉容器内に搬送し、容器内
を減圧することにより基板S上に配置した液状組成物Lから溶媒を除去し、膜化する。各
画素電極27が隔壁25からある程度離れた領域に配置されているため、全ての画素電極
27上に平坦で、膜厚の均一性の高い発光層28を形成することができる。
【0045】
また、基板Sを、例えばホットプレート上に載置することによって加熱して液状組成物
L中の溶媒を蒸発させ、発光層28を形成しても良い。このとき、正孔注入層61は、凹
状領域26の全面に渡って均一な膜厚となっているので、蒸発後においては、この発光層
28は凹状領域26の全面に渡って均一な膜厚となる。
【0046】
続いて、発光層28上に電子注入層62を液滴吐出法によって形成する。即ち、電子注
入層62を構成する組成物としてのポリフェニレンビニレン系のポリマーを含んだ電子注
入層材料をキシレンといった所定の溶媒に溶解または分散させて形成された液状組成物を
吐出ヘッドのノズルから吐出させ発光層28の全面に電子注入層材料を所定の溶媒に溶解
又は分散した液状組成物を吐出する。その後、基板Sを、密閉容器中に搬送し、容器内を
減圧することで、液状組成物中の溶媒を蒸発させ、基板S上に配置した液状組成物を膜化
する。また、例えばホットプレート上に載置することによって加熱して前記電子注入層材
料の液状組成物中の溶媒を蒸発させても良い。このとき、図7(a)に示すように、発光
層28は全面に渡って均一な膜厚であるので、電子注入層62は、凹状領域26の全面に
渡って均一な膜厚となる。
【0047】
続いて、図7(b)に示すように、隔壁25及び電子注入層62上に、LiF層、Ca
層、Al層等を公知の蒸着方法等により積層し、陰極29を形成する。続いて、陰極29
全面に光透過性を有する、例えば樹脂等で構成された封止部材30を形成する。
【0048】
本実施形態に係る電気光学装置の製造方法では、ジエチレングリコールの溶剤が添加さ
れた有機導電性層を形成することにより、平坦性に優れた膜を形成することができる。し
かしながら、ジエチレングリコールを添加した正孔注入層は、抵抗値が低くなり、正孔注
入層61の一部が電極としても作用する様になるため、発光させる発光素子の周辺部が発
光したり、複数の発光素子を発光させた場合にその間に配置された発光素子が発光する所
謂発光のクロストークが発生し易くなる。しかしながら、本発明では、有機導電性層61
に光を照射することにより、有機導電性層61は高抵抗となり、有機導電性層の電気伝導
度は低くなるため、電子が周囲の機能層に流れ込むのを防止することができるので、クロ
ストークの発生を抑えることが可能となる。
【0049】
次に、有機EL素子24の紫外線照射前及び紫外線照射後の発光領域の変化を示す。
紫外線Rを照射する前の有機EL素子24の発光領域Aは、図8の点線で示す領域とな
っており、紫外線Rを照射した後の有機EL素子の発光領域Bは、図8の実線で示す領域
となっている。すなわち、一点鎖線で示す実発光領域Cに対し、紫外線Rを照射する前、
発光領域Aは、実発光領域Cから染み出している。しかしながら、正孔注入層61に紫外
光Rを照射することにより、発光領域Bは、紫外線Rを照射する前に比べ狭くなり、ほぼ
実発光領域Cと同じ領域になる。これにより、実発光領域Cの外側の領域が発光すること
がないため、クロストークの発生を確実に抑えることが可能となる。
【0050】
次に、紫外線照射前及び紫外線照射後の正孔注入層61のスペクトル特性の変化につい
て説明する。
紫外光照射前(点線)及び紫外光照射後(実線)の正孔注入層61のスペクトル特性を
比較すると、図9に示すように、紫外線照射後の正孔注入層61のスペクトル特性は、紫
外光照射前の正孔注入層のスペクトル特性に61に比べ波長が高い側にシフトしている。
すなわち、正孔注入層61に紫外光Rを照射することにより、構造が変化しているのが分
かる。
【0051】
次に、本発明に係る第2実施形態について、図10を参照して説明する。なお、以下に
説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る電気光学装置1と構成を共通
とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る電気光学装置の製造方法では、画素電極27上の正孔注入層61のみ
に光を照射する点において、第1実施形態の電気光学装置1の製造方法と異なる。
【0052】
また、説明の便宜上、正孔注入層71のうち、図10(a)及び図10(b)画素電極
27と陰極29に挟持される領域Q1に配置された(画素電極27上の領域Q1に形成さ
れた)正孔注入層71を符号「71L」とし、複数の画素電極27の間の領域Q2に配置
された正孔注入層71を符号「71H」とする。
【0053】
本実施形態に係る電気光学装置の製造方法について説明する。
まず、第1実施形態と同様にして、凹状領域26上全面に正孔注入層71を形成した後
、図11(a)に示すように、正孔注入層71上にマスクM1を載置する。マスクM1は
、正孔注入層71の全面を覆う大きさのものであって、紫外光Rの透過を遮断する非透過
領域Taと、紫外光Rに対して透過性を有する透過領域Tbとを備えている。マスクM1
は、縦一列に等ピッチに10箇所配列された円形形状の透過領域Tbが2列配列されてい
る。そして、各透過領域Tbは、隣接する他の列の透過領域Tbと縦方向に半ピッチだけ
ずれるようにして配置されている。つまり、マスクM1の各透過領域Tbは、図11(a
)に示すように、画素電極27上の領域Q1に相対向する位置に配置され、非透過領域T
aは、画素電極27以外の領域Q2に相対向する位置に配置されている。従って、各画素
電極27上の領域Q1に形成された正孔注入層71には透過領域Tbが、また、各画素電
極27上の領域Q2に形成された正孔注入層71には非透過領域Taが配置される。
【0054】
そして、図11(a)に示すように、マスクM1を介して正孔注入層71全面に対して
紫外光Rを照射する(光照射工程)。照射する紫外光の波長は、365nmである。この
結果、領域Q2に位置する正孔注入層51には紫外光Rが照射されず、領域Q1に位置す
る正孔注入層61にのみ紫外光Rが照射される。紫外光Rが照射された領域Q1に位置す
る正孔注入層61は、その層を構成する分子構造が変性し、電気抵抗値が高くなる。一方
、紫外光Rが照射されなかった領域Q2に位置する正孔注入層71は、その層を構成する
分子構造は変性せず、電気抵抗値は低い。このようにして、高い電気抵抗値を有する正孔
注入層71Lと、低い電気抵抗値を有する正孔注入層71Hとを備えた正孔注入層71が
形成される。
【0055】
更には、100℃〜150℃で1分〜数分の加熱処理を実施する。加熱処理を行うこと
で、紫外光で露光された領域の反応がより安定して進行し、再現性良く紫外光を照射した
領域の電気抵抗を高くすることができる。
続いて、上記第1実施形態の図6(b),図7(a),(b)に示す方法と同様に、発
光層28を液滴吐出法によって形成した後、隔壁25及び電子注入層62上に、陰極29
を形成する。
【0056】
本実施形態に係る電気光学装置の製造方法では、画素電極27に供給された電子が周囲
の正孔注入層71に流れ込む可能性のある複数の画素電極27上の正孔注入層71のみに
紫外光Rを照射する。これにより、電子が周囲の正孔注入層71に流れ込むのを効率良く
防止することができる。
なお、本実施形態では、紫外光を選択的に照射する方法として、直接基板Sに密着或い
は近接させるマスク使用する方式を記載したが、投影型の露光装置を用いて、ガラスマス
ク上に形成したマスクを用いて選択的に紫外光を照射する様にしても良い。
【0057】
次に、本発明に係る第3実施形態について、図12を参照して説明する。
本実施形態に係る電気光学装置1の製造方法では、正孔注入層61の抵抗値に応じて、
正孔注入層61に照射する紫外光Rの光量を調整する点において、第1実施形態と異なる

【0058】
本実施形態に係る電気光学装置の製造方法について説明する。
まず、第1実施形態の図5(c)に示すように、凹状領域26上全面に正孔注入層71
を形成する。その後、正孔注入層61の全体の抵抗値を測定する。そして、測定した正孔
注入層61の抵抗値に応じて、図12の照射時間と抵抗値との関係を示すグラフから紫外
光Rを照射する時間を決定する。
続いて、決定された照射時間の紫外光Rを正孔注入層61に照射し、上記第1実施形態
の図6(b),図7(a),(b)に示す方法と同様に、発光層28を液滴吐出法によっ
て形成した後、隔壁25及び電子注入層62上に、陰極29を形成する。
なお、第2実施形態のように、画素電極27上の正孔注入層61のみに光を照射する場
合、画素電極27上の正孔注入層61のみの抵抗値を測定し、図12に示すグラフより抵
抗値に応じた照射時間を決定すれば良い。
【0059】
本実施形態に係る電気光学装置の製造方法では、正孔注入層61の抵抗値の低い箇所に
は、高い箇所に比べて、長い時間光を照射することにより、正孔注入層61を均一な抵抗
値にすることが可能となる。
なお、本実施形態において、正孔注入層61の抵抗値に応じて紫外光Rの照射時間を変
えたが、これに代えて、紫外光Rの強度を変えても良い。すなわち、正孔注入層61の抵
抗値の低い箇所には、高い箇所に比べて、強度の大きい紫外光Rを照射することにより、
画素電極27上の正孔注入層61を均一な抵抗値にすることが可能となる。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸
脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、グリコール系の溶剤として、ジエチレングリコールを用いたが、トリエチレン
グリコール等であっても良い。
【0061】
また、上記各実施形態において、光として紫外光Rを使用した化学反応により電気抵抗
値を高くするようにしているが、紫外光R以外の光を使用して電気抵抗値を高くするよう
にしてもよい。例えば、炭酸レーザ、エキシマーレーザ、YAGレーザ等を利用して照射
した領域を熱的に変性させて高抵抗する様にしても良い。また、更に高いエネルギーでレ
ーザ照射を行うことで、レーザアブレーションにより照射した領域の膜を除去する様にし
てもよい。更には、高抵抗化させたい領域に予め照射するレーザ光の吸収率の高い材料を
選択的に配置しておき、適当な値で膜を形成した面全面にレーザを照射する様な工程を使
用しても良い。この様なレーザによる加工は、減圧雰囲気中或いは不活性気体の雰囲気中
で行うことが、汚染や機能層の劣化を防止する上で望ましい。特にレーザによる加工は、
発光層の形成前の工程で行うことが、発光層の劣化を防止するために望ましい。例えば、
正孔注入層上に発光層を形成する構成の場合、正孔注入層に対してレーザによる加工を行
うことが有効である。
また、上記各実施形態において、正孔注入層を形成する際、液滴吐出法により形成した
が、この方法に限らず、例えば、スピンコート法により形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気光学装置を示す主要断面図である。
【図2】図1の電気光学装置の有機EL露光ヘッドの斜視図である。
【図3】図1の電気光学装置の発光素子アレイの(a)は上面図、(b)はa−a線における断面図である。
【図4】図1の電気光学装置の有機EL素子の発光状態を示す平面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る電気光学装置の製造方法を示す要部断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る電気光学装置の製造方法を示す要部断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る電気光学装置の製造方法を示す要部断面図である。
【図8】図3の有機EL素子の紫外線照射前及び紫外線照射後の発光領域の変化を示す平面図である。
【図9】図3の有機EL素子の紫外線照射前及び紫外線照射後のスペクトル特性の変化を示す平面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る電気光学装置の電気光学装置の発光素子アレイの(a)は上面図、(b)はa−a線における断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る電気光学装置の製造方法を示す要部断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る電気光学装置の製造方法に用いる照射時間と抵抗値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
R…紫外光(光)、1…電気光学装置(光プリンタ)、25…隔壁(バンク)、27…
画素電極、61…正孔注入層(有機導電性層)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素電極を形成する工程と、
前記複数の画素電極を共通して区画する隔壁を形成する工程と、
前記隔壁により囲まれた領域に、グリコール系の溶剤が添加された有機導電性層を含む
機能層を形成する工程と、
前記有機導電性層に光を照射する工程とを備えることを特徴とする電気光学装置の製造
方法。
【請求項2】
前記複数の画素電極上の前記有機導電性層の一部の領域に選択的に光を照射することを
特徴とする請求項1に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項3】
前記有機導電性層の抵抗値に応じて、前記有機導電性層に照射する光量を調整すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項4】
前記有機導電性層が、ポリエチレンジオキシチオフェンを含むことを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか1項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記光が、紫外光であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載
の電気光学装置の製造方法。
【請求項6】
前記有機導電性層を形成する際、液滴吐出法により形成することを特徴とする請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電気光学装置の製造方法により製造され
たことを特徴とする電気光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−220392(P2007−220392A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37572(P2006−37572)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】