説明

電気光学装置

【課題】表示パネルごとの光量を上げなくても、多くの光量を得ることができる電気光学装置を提供すること。
【解決手段】電気光学装置としての投射型表示装置100は、各表示ユニットに設けられ互いに異なる発光ピーク波長を有する第1表示パネルおよび第2表示パネルと、第1および第2表示パネルから入射した光を合成して射出するダイクロイックミラー(第1光学素子)と、各表示ユニット10,20,30の表示光(RGB)を合成して射出するクロスダイクロイックプリズム40(第2光学素子)と、を備え、ダイクロイックミラーは、第1表示パネルの発光ピーク波長と第2表示パネルの発光ピーク波長との間に、光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値を有し、クロスダイクロイックプリズム40は、第1表示ユニット10の発光と第3表示ユニット30の発光とを反射して、第2表示ユニット20の発光を透過する光学特性のしきい値を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学素子の1つである有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、有機材料を含む複数の薄膜を、第一の電極と第二の電極との間に挟持した構造を有しており、二つの電極から注入したキャリア(正孔と電子)を有機薄膜中で再結合させることにより、発光させる素子である。このような有機EL素子を多数形成した有機エレクトロルミネッセンスパネル(有機ELパネル)は、薄型・軽量といった特徴を有することから、直視型ディスプレイへの応用はもちろんのこと、レンズ等の光学系を通してスクリーンへ投射する投射型ディスプレイへの応用も期待されている。
【0003】
投射型ディスプレイとしては、例えば、発光色がそれぞれ異なる3枚の有機ELパネルの発光を、ダイクロイックプリズムを用いて合成し、投射レンズを通してスクリーンへ投射する例が示されている(特許文献1)。
1枚の有機ELパネル上に、光の3原色であるRed(R)、Green(G)、Blue(B)の各発光を有する有機EL素子を並べるという、直視型ディスプレイで一般的に用いられる方式に比べ、特許文献1の方式では実質的な開口率を約3倍にすることができる。
したがって、ある一定の投射光量を得る場合、RGBの各画素を並べる直視型ディスプレイに比べ、特許文献1の方式では、各有機EL素子の光量が約1/3で済むという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−67448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の投射型ディスプレイの場合、有機ELパネルのサイズに対して、スクリーンへ投射されたサイズが大きくなればなるほど、視認性を確保するために有機ELパネルの光量を増やすことが要求される。有機ELパネルは、光量を増やすためにより多くの電流を流せば流すほど発光効率が低下し、結果として製品寿命が短くなるという課題がある。
従って、製品寿命を確保するために、例えば、有機ELパネルのサイズを大きくして投射後のサイズとの差を小さくすることが考えられるが、それでは、投射型ディスプレイの大型化を招くという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例の電気光学装置は、互いに異なる発光波長領域を有する第1表示ユニットと、第2表示ユニットと、第3表示ユニットとを備え、前記第1および前記第2ならびに前記第3表示ユニットからそれぞれ射出された光を合成して射出する電気光学装置であって、前記第1から前記第3表示ユニットのうち、少なくとも1つの表示ユニットに設けられた互いに異なる発光ピーク波長を有する第1表示パネルおよび第2表示パネルと、前記第1および前記第2表示パネルからそれぞれ射出された光を合成して射出する第1光学素子と、前記第1および前記第2ならびに前記第3表示ユニットから射出された光を合成して射出する第2光学素子と、を備え、前記第1光学素子は、前記第1表示パネルの発光ピーク波長と前記第2表示パネルの発光ピーク波長との間に、光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値を有し、前記第2光学素子は、前記第1から前記第3表示ユニットにおけるそれぞれの発光波長領域の間に、前記第1表示ユニットの発光と前記第3表示ユニットの発光とを反射して、前記第2表示ユニットの発光を透過する光学特性のしきい値を有し、前記第2光学素子の射出面から前記第1から前記第3表示ユニットのそれぞれの発光が重なって射出されることを特徴とする。
【0008】
本適用例によれば、少なくとも1つの表示ユニットが互いに異なる発光ピーク波長を有する第1表示パネルと、第2表示パネルとを備えることにより、当該表示ユニットが1つの表示パネルのみを備える場合に比べ、表示パネルの光量を増やすことなく、第1光学素子を経由して射出される当該表示ユニットの実質的な光量を増やすことが可能となる。
すなわち、表示パネルのサイズを大きくしなくても所望の光量を確保して、画像などの情報を表示可能な電気光学装置を提供することができる。言い換えれば、小型でも明るい表示が可能な電気光学装置を提供できる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記第1および前記第2光学素子が、光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値を有する誘電体多層膜を備えたダイクロイックミラーであることが好ましい。
【0010】
本適用例によれば、前記第1および第2光学素子は、誘電体多層膜の構造を変えることで、入射する光の透過および反射特性を可変させることができる。例えば、第1光学素子では、第1表示パネルの発光ピーク波長と第2表示パネルの発光ピーク波長との間に光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値を設定することによって、上記第1表示パネルの発光と、上記第2表示パネルの発光とのうち一方を透過し、他方を反射させることができる。
つまり、第1および第2光学素子のそれぞれにおいて、合成光の射出方向に対して異なる方向から入射した光を合成して射出することができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記第1表示ユニットは青色波長領域の発光を有し、前記第2表示ユニットは緑色波長領域の発光を有し、前記第3表示ユニットは赤色波長領域の発光を有することが好ましい。
【0012】
本適用例によれば、光の3原色を第1から第3表示ユニットによってそれぞれ表現することができ、フルカラー表示を実現することが可能となる。
【0013】
[適用例4]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記第1表示ユニットは、前記第1および前記第2表示パネルと前記第1光学素子とを有することが好ましい。
【0014】
本適用例によれば、前記第1および第2表示パネルからそれぞれ射出された光が、前記第1光学素子により合成されるため、前記第1および前記第2表示パネルの各光量を増やすことなく、前記第1表示ユニットの青色発光領域における光量を増やすことができる。
【0015】
[適用例5]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記第1および第2表示パネルが、有機エレクトロルミネッセンスパネルであることが好ましい。
【0016】
本適用例によれば、前記第1および第2表示パネルが、バックライトユニットが不要で薄型軽量であると共に、高速応答性に優れ、高効率発光が可能な自発光型の有機エレクトロルミネッセンス(EL)パネルであるため、表示品位に優れ、低消費電力で薄型軽量の電気光学装置を実現することができる。
【0017】
[適用例6]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記有機エレクトロルミネッセンスパネルが、一対の電極と前記一対の電極間に挟持された複数の機能層とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、前記第1および第2表示パネルにおいて、前記複数の機能層を構成する材料が同一であり、少なくとも1つの前記機能層の膜厚を異ならせることにより、互いに異なる発光ピーク波長を有することが好ましい。
【0018】
本適用例によれば、前記第1および第2表示パネルとにおいて、前記複数の機能層を構成する材料が同一であり、少なくとも1つの前記機能層の膜厚を異ならせるだけで、互いに異なる発光ピーク波長を有することができるため、前記第1および第2表示パネルを製造する際には、少なくとも1つの前記機能層の膜厚を変更するだけで済み、例えば同一の製造装置を用いることが可能となるなど高いコストパフォーマンスを有する電気光学装置を提供できる。
【0019】
[適用例7]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記有機エレクトロルミネッセンスパネルが、一対の電極と前記一対の電極間に挟持された複数の機能層とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、前記第1および第2表示パネルにおいて、前記複数の機能層を構成する材料のうち、少なくとも1つの材料を異ならせることにより、互いに異なる発光ピーク波長を有することが好ましい。
【0020】
本適用例によれば、前記第1および第2表示パネルとにおいて、前記複数の機能層を構成する材料のうち、少なくとも1つの材料を異ならせるだけで、互いに異なる発光ピーク波長を有することができるため、前記第1および第2表示パネルを製造する際には、少なくとも1つの前記機能層の種類を変更するだけで済み、例えば同一の製造装置を用いることが可能となるなど高いコストパフォーマンスを有する電気光学装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置の構成を示す概略平面図。
【図2】(a)表示パネルの構成を示す概略平面図、(b)は表示パネルの構造を示す概略断面図。
【図3】第1表示ユニットの構成を示す概略平面図。
【図4】第1表示ユニットが備える第1および第2表示パネルの発光スペクトルを示すグラフ。
【図5】第1表示ユニットが備える第1光学素子の反射透過特性を示すグラフ。
【図6】第1表示ユニットから射出される光の発光スペクトルを示すグラフ。
【図7】第2表示ユニットの構成を示す概略平面図。
【図8】第2表示ユニットが備える第1および第2表示パネルの発光スペクトルを示すグラフ。
【図9】第2表示ユニットが備える第1光学素子の反射透過特性を示すグラフ。
【図10】第2表示ユニットから射出される光の発光スペクトルを示すグラフ。
【図11】第3表示ユニットの構成を示す概略平面図。
【図12】第3表示ユニットが備える第1および第2表示パネルの発光スペクトルを示すグラフ。
【図13】第3表示ユニットが備える第1光学素子の反射透過特性を示すグラフ。
【図14】第3表示ユニットから射出される光の発光スペクトルを示すグラフ。
【図15】第2光学素子の反射透過特性を示すグラフ。
【図16】第2光学素子から射出される光の発光スペクトルを示すグラフ。
【図17】第2実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置の構成を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態は、電気光学装置としてそれぞれに異なる発光色を有する3つの表示ユニットからの射出光(表示光)を合成して、フルカラーの画像などを投射可能な投射型表示装置を例に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
<電気光学装置>
図1は第1実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置の構成を示す概略平面図である。
図1に示すように、本実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置100は、青色発光領域の表示光(B)が得られる第1表示ユニット10と、緑色発光領域の表示光(G)が得られる第2表示ユニット20と、赤色発光領域の表示光(R)が得られる第3表示ユニット30と、各表示ユニット10,20,30からの表示光(R,G,B)を合成して所定の方向に射出させる第2光学素子としてのクロスダイクロイックプリズム40とを備えている。
【0024】
図2(a)は、第1〜第3の各表示ユニットおける表示パネルの概略平面図である。図2(a)に示すように、表示パネル1は、基板2上にマトリクス状に配置された発光素子としての有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を具備する複数の画素Pを有している。複数の画素Pにより表示領域Eが構成されている。
【0025】
図2(b)は、画素を形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の断面構造を示す模式図である。図2(b)に示すように、基板2上にマトリクス状に配置される有機EL素子7は、基板2に設けられた第一電極3と、第一電極3に対向して設けられた第二電極6と、それら二つの電極によって挟まれた発光層4を含む有機機能層5とを有しており、第二電極6が金属薄膜からなる半透過反射膜である。
なお、図示省略するが、第二電極6の直上には、上記金属薄膜よりも屈折率の大きい薄膜(以下、キャップ層)を成膜してあり、取り出し効率の向上を図っている。キャップ層の上部は不活性ガスを封じ込めた中空のガラス缶封止構造を有している。
【0026】
次に、第1表示ユニット10について図3を参照して説明する。図3は第1表示ユニットの構成を示す概略平面図である。
図3に示すように、第1表示ユニット10は、第1青色表示パネル11と、第2青色表示パネル12と、各青色表示パネル11,12からの光を合成して所定の方向に射出する第1光学素子としてのダイクロイックミラー13とを備えている。
第1および第2青色表示パネル11,12の基本的な構成は、図2に示した表示パネル1と同じであって、有機EL素子7から青色発光領域の発光が得られるものである。
【0027】
第1光学素子としてのダイクロイックミラー13は、平面視が直角二等辺三角形の二つのプリズム13a,13bと、プリズム13a,13bの斜面に挟まれた誘電体多層膜13cとを有している。言い換えれば、二つのプリズム13a,13bが誘電体多層膜13cを挟んで密着して接合されたものである。詳しくは後述するが、誘電体多層膜13cは入射する光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値Fbを有している。
【0028】
第1および第2青色表示パネル11,12は、ダイクロイックミラー13に対して誘電体多層膜13cを挟んで隣り合って配置されている。また、ダイクロイックミラー13によって第1青色表示パネル11からの光と、第2青色表示パネル12からの光が合成されたときに、互いに対応する画素Pがずれを生じないように、それぞれプリズム13a,13bに位置決めされている。また、プリズム13a,13bに対して隙間を空けることなく装着されている。
【0029】
第1青色表示パネル11と第2青色表示パネル12における有機EL素子7の構造は、構成材料とその積層順が同一であり、例えば次の構造を有する。
基板2上には、第一電極/正孔注入層(HIL)/正孔輸送層(HTL)/青色発光層(B−EML)/電子輸送層(ETL)/電子注入層(EIL)/第二電極が順に積層されている。
例えば、第一電極としてAl/ITOの積層陽極、正孔注入層(HIL)に出光興産製HI406、正孔輸送層(HTL)にHT320、青色発光層(B−EML)に出光興産製BH215+BD102、電子輸送層(ETL)にAlq3、第二電極にMgとAgの共蒸着薄膜、キャップ層としてAlq3を用いることができる。
【0030】
第1青色表示パネル11と第2青色表示パネル12における有機EL素子7を構成する各層の膜厚は、次の表1に示す通りである。
【0031】
【表1】

【0032】
図4に、第1青色表示パネル11が射出する発光スペクトル14と、第2青色表示パネル12が射出する発光スペクトル15を示す。
第1青色表示パネル11と第2青色表示パネル12は、有機機能層5を構成する有機化合物の種類は同一で、電子輸送層(ETL)の膜厚が異なっている。これにより、2つの発光スペクトル14,15は、互い異なる発光ピーク波長Bp1,Bp2を有している。第1青色表示パネル11の発光ピーク波長Bp1は、およそ465nmであり、第2青色表示パネル12の発光ピーク波長Bp2は、およそ480nmである。
【0033】
本実施形態で用いている有機EL素子7は、基板2側のAl層が反射層、基板2とは反対側のMgAg層が半透過半反射層として作用し、光共振器構造を形成している。従って、Al層とMgAg層との間の光路長Lを変更することで、特定の波長を中心として光量が強められた発光を外部に取り出すことができる。
光路長Lは、Al層とMgAg層との間の有機機能層5の屈折率nと膜厚dとの積で表すことができる(すなわち、光路長L=n×d)。
本実施形態では、第1および第2青色表示パネル11,12において、互いに有機機能層5の膜厚を変えることで光路長Lを異ならせ、異なる2種類の発光スペクトル14,15を外部に取り出しているが、別の手法として、有機機能層5の膜厚を一定として、有機機能層5を構成する有機化合物の屈折率nを異ならせる方法により光路長Lを異ならせて、異なる2種類の発光スペクトルを取り出すことも可能である。
【0034】
なお、本実施形態の第1および第2青色表示パネル11,12において、MgAg層上のAlq3層(キャップ層)は、共に膜厚がおよそ90nmとなっているが、前述したように光取り出し効率を向上させるために用いているので、光路長Lを変更した場合には、光取り出し効率が最大となるように上記Alq3層の膜厚も最適化することが望ましい。
【0035】
図5は、第1表示ユニット10が備えるダイクロイックミラー13の反射透過特性を示したグラフである。図5のグラフにおいて、反射率Rは縦軸で表され、透過率Tは次の式で表される。
透過率T=1−反射率R
ダイクロイックミラー13の反射透過特性は、第1青色表示パネル11が射出する発光スペクトル14の発光ピーク波長Bp1と、第2青色表示パネル12が射出する発光スペクトル15の発光ピーク波長Bp2との間に、光の透過と反射とを分けるしきい値Fbを有している。具体的には、しきい値Fbは青色の光の反射率が50%となる波長であって、およそ472nmとなっている。
すなわち、青色発光領域において、472nmよりも短い波長の光は誘電体多層膜13cにより反射され、472nmよりも長い波長の光は誘電体多層膜13cを透過してダイクロイックミラー13から射出される。
【0036】
第1青色表示パネル11が射出する発光スペクトル14、および第2青色表示パネル12が射出する発光スペクトル15を、それぞれ図5のグラフで表された反射透過特性を有するダイクロイックミラー13に入射させ、それらが合成されて第1表示ユニット10から射出された発光スペクトル16を図6に示す。
図6に示すように、第1表示ユニット10からは、2つの発光ピーク波長Bp1,Bp2を有する光が射出される。したがって、1つの青色表示パネルの発光に比べて、青色発光波長領域において強い発光が得られている。
【0037】
次に、第2表示ユニットについて図7を参照して説明する。図7は第2表示ユニットの構成を示す概略平面図である。
図7に示すように、第2表示ユニット20は、第1緑色表示パネル21と、第2緑色表示パネル22と、各緑色表示パネル21,22からの光を合成して所定の方向に射出する第1光学素子としてのダイクロイックミラー23とを備えている。
【0038】
第1および第2緑色表示パネル21,22の基本的な構成は、図2に示した表示パネル1と同じであって、有機EL素子7から緑色発光領域の発光が得られるものである。
【0039】
ダイクロイックミラー23の構成は、前述したダイクロイックミラー13の構成と基本的な部分は同一であって、二つのプリズム23a,23bが誘電体多層膜23cを挟んで密着して接合されたものである。誘電体多層膜23cは入射する光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値Fgを有している。
【0040】
第1および第2緑色表示パネル21,22は、ダイクロイックミラー23に対して誘電体多層膜23cを挟んで隣り合って配置されている。また、ダイクロイックミラー23によって第1緑色表示パネル21からの発光と、第2緑色表示パネル22からの発光が合成された後に、互いに対応する画素Pがずれを生じないように、それぞれプリズム23a,23bに位置決めされている。また、プリズム23a,23bに対して隙間を空けることなく装着されている。
【0041】
第1緑色表示パネル21と第2緑色表示パネル22における有機EL素子7の構造は、構成材料とその積層順が同一であり、例えば次の構造を有する。
基板2上には、第一電極/正孔注入層(HIL)/正孔輸送層(HTL)/緑色発光層(G−EML)/電子輸送層(ETL)/電子注入層(EIL)/第二電極が順に積層されている。
例えば、第一電極としてAl/ITOの積層陽極、正孔注入層(HIL)に出光興産製HI406、正孔輸送層(HTL)にHT320、緑色発光層(G−EML)に出光興産製BH215+GD206、電子輸送層(ETL)にAlq3、第二電極にMgとAgの共蒸着薄膜、キャップ層としてAlq3を用いることができる。
【0042】
第1緑色表示パネル21と第2緑色表示パネル22における有機EL素子7を構成する各層の膜厚は、次の表2に示す通りである。
【0043】
【表2】

【0044】
図8に、第1緑色表示パネル21が射出する発光スペクトル24と、第2緑色表示パネル22が射出する発光スペクトル25を示す。
第1緑色表示パネル21と第2緑色表示パネル22は、構成する有機化合物の種類は同一で、一部、正孔輸送層(HTL)の膜厚が異なっている。これにより、2つの発光スペクトル24,25は互いに異なる発光ピーク波長Gp1,Gp2を有している。第1緑色表示パネル21の発光ピーク波長Gp1は、およそ520nmであり、第2緑色表示パネル22の発光ピーク波長Gp2は、およそ545nmである。なお、光の取り出し効率を最大化するためにキャップ層であるAlq3層の膜厚は、第2緑色表示パネル22の方が厚く設定されている。
【0045】
図9は、第2表示ユニット20が備えるダイクロイックミラー23の反射透過特性を示したグラフである。図9のグラフにおいて、反射率Rは縦軸で表され、透過率Tは次の式で表される。
透過率T=1−反射率R
ダイクロイックミラー23の反射透過特性は、第1緑色表示パネル21が射出する発光スペクトル24の発光ピーク波長Gp1と、第2緑色表示パネル22が射出する発光スペクトル25の発光ピーク波長Gp2との間に、光の透過と反射とを分けるしきい値Fgを有している。具体的には、しきい値Fgは緑色の光の反射率が50%となる波長であって、およそ532nmとなっている。
すなわち、緑色発光領域において、532nmよりも短い波長の光は誘電体多層膜23cにより反射され、532nmよりも長い波長の光は誘電体多層膜23cを透過してダイクロイックミラー23から射出される。
【0046】
第1緑色表示パネル21が射出する発光スペクトル24、および第2緑色表示パネル22が射出する発光スペクトル25を、それぞれ図9のグラフで表された反射透過特性を有するダイクロイックミラー23に入射させ、それらが合成されて第2表示ユニット20から射出された発光スペクトル26を図10に示す。
図10に示すように、第2表示ユニット20からは、2つの発光ピーク波長Gp1,Gp2を有する光が射出される。したがって、1つの緑色表示パネルの発光に比べて、緑色発光波長領域において強い発光が得られている。
【0047】
次に、第3表示ユニットについて図11を参照して説明する。図11は第3表示ユニットの構成を示す概略平面図である。
図11に示すように、第3表示ユニット30は、第1赤色表示パネル31と、第2赤色表示パネル32と、各赤色表示パネル31,32からの光を合成して所定の方向に射出する第1光学素子としてのダイクロイックミラー33とを備えている。
【0048】
第1および第2赤色表示パネル31,32の基本的な構成は、図2に示した表示パネル1と同じであって、有機EL素子7から赤色発光領域の発光が得られるものである。
【0049】
ダイクロイックミラー33の構成は、前述したダイクロイックミラー13の構成と基本的な部分は同一であって、二つのプリズム33a,33bが誘電体多層膜33cを挟んで密着して接合されたものである。誘電体多層膜33cは入射する光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値Frを有している。
【0050】
第1および第2赤色表示パネル31,32は、ダイクロイックミラー33に対して誘電体多層膜33cを挟んで隣り合って配置されている。また、ダイクロイックミラー33によって第1赤色表示パネル31からの光と、第2赤色表示パネル32からの光が合成されたときに、互いに対応する画素Pがずれを生じないように、それぞれプリズム33a,33bに位置決めされている。また、プリズム33a,33bに対して隙間を空けることなく装着されている。
【0051】
第1赤色表示パネル31と第2赤色表示パネル32における有機EL素子7の構造は、構成材料とその積層順が同一であり、例えば次の構造を有する。
基板2上には、第一電極/正孔注入層(HIL)/正孔輸送層(HTL)/赤色発光層(R−EML)/電子輸送層(ETL)/電子注入層(EIL)/第二電極が順に積層されている。
例えば、第一電極としてAl/ITOの積層陽極、正孔注入層(HIL)に出光興産製HI406、正孔輸送層(HTL)にHT320、赤色発光層(R−EML)に出光興産製BH215+RD001、電子輸送層(ETL)にAlq3、第二電極にMgとAgの共蒸着薄膜、キャップ層としてAlq3を用いることができる。
第1赤色表示パネル31と第2赤色表示パネル32における有機EL素子7を構成する各層の膜厚は、次の表3に示す通りである。
【0052】
【表3】

【0053】
図12に、第1赤色表示パネル31が射出する発光スペクトル34と、第2赤色表示パネル32が射出する発光スペクトル35を示す。
第1赤色表示パネル31と第2赤色表示パネル32は、構成する有機化合物の種類は同一で、正孔輸送層(HTL)と電子注入層(EIL)の膜厚が異なっている。これにより、2つの発光スペクトル34,35は互いに異なる発光ピーク波長Rp1,Rp2を有している。第1赤色表示パネル31の発光ピーク波長Rp1は、およそ610nmであり、第2赤色表示パネル32の発光ピーク波長Rp2は、およそ670nmである。なお、光の取り出し効率を最大化するためにキャップ層であるAlq3層の膜厚は、第2赤色表示パネル32の方が厚く設定されている。
【0054】
図13は、第3表示ユニット30が備えるダイクロイックミラー33の反射透過特性を示したグラフである。図13のグラフにおいて、反射率Rは縦軸で表され、透過率Tは次の式で表される。
透過率T=1−反射率R
ダイクロイックミラー33の反射透過特性は、第1赤色表示パネル31が射出する発光スペクトル34の発光ピーク波長Rp1と、第2赤色表示パネル32が射出する発光スペクトル35の発光ピーク波長Rp2との間に、光の透過と反射とを分けるしきい値Frを有している。具体的には、しきい値Frは赤色の光の反射率が50%となる波長であって、およそ645nmとなっている。
すなわち、赤色発光領域において、645nmよりも短い波長の光は誘電体多層膜33cを透過し、645nmよりも長い波長の光は誘電体多層膜33cにより反射されてダイクロイックミラー33から射出される。
【0055】
第1赤色表示パネル31が射出する発光スペクトル34、および第2赤色表示パネル32が射出する発光スペクトル35を、それぞれ図13のグラフで表された反射透過特性を有するダイクロイックミラー33に入射させ、それらが合成されて第3表示ユニット30から射出された発光スペクトル36を図14に示す。
図14に示すように、第3表示ユニット30からは、2つの発光ピーク波長Rp1,Rp2を有する光が射出される。したがって、1つの赤色表示パネルの発光に比べて、赤色発光波長領域において強い発光が得られている。
【0056】
また、第1表示ユニット10や第2表示ユニット20に比べて、第3表示ユニット30における第1赤色表示パネル31の発光スペクトル34と、第2赤色表示パネル32の発光スペクトル35とは、ダイクロイックミラー33のしきい値Frを境にして、発光ピーク波長Rp1を含む発光強度分布と発光ピーク波長Rp2を含む発光強度分布とがきれいに分かれている。したがって、第1および第2赤色表示パネル31,32のそれぞれの発光が効率よく合成されて表示光(R)となっている。言い換えれば、より明るい表示光(R,G,B)を得ようとするならば、第1光学素子の透過と反射とを分ける光学特性のしきい値を境にして、二つの表示パネルの発光ピーク波長を含む発光強度分布がきれいに分かれるように、それぞれの有機EL素子7における有機機能層5の膜厚や屈折率を異ならせることが好ましい。
【0057】
第1表示ユニット10、第2表示ユニット20および第3表示ユニット30からそれぞれ射出された各発光スペクトル16,26,36は、図1に示した投射型表示装置100の第2光学素子としてのクロスダイクロイックプリズム40へ入射する。
クロスダイクロイックプリズム40は2つのダイクロイックミラー41,42を備えている。ダイクロイックミラー41,42は、それぞれ反射透過特性おいて透過と反射とが分かれるしきい値を有する誘電体多層膜からなり、お互いに直交するように配置されている。
【0058】
図15は、ダイクロイックミラー41の反射透過特性43、およびダイクロイックミラー42の反射透過特性44をそれぞれ示したグラフである。
図15のグラフにおいて、反射率Rは縦軸で表され、透過率Tは次の式で表される。
透過率T=1−反射率R
ダイクロイックミラー41の反射透過特性43は、第1表示ユニット10が射出する発光スペクトル16の発光を反射し、第2表示ユニット20が射出する発光スペクトル26の発光を透過するようにしきい値Fbg(反射率が50%となる波長がおよそ500nm)が設定されている。
ダイクロイックミラー42の反射透過特性44は、第3表示ユニット30が射出する発光スペクトル36の発光を反射し、第2表示ユニット20が射出する発光スペクトル26の発光を透過するようにしきい値Fgr(反射率が50%となる波長がおよそ590nm)が設定されている。
以上により、第1表示ユニット10と、第2表示ユニット20と、第3表示ユニット30とから射出された各表示光(R,G,B)は、クロスダイクロイックプリズム40により合成され、図16で示した発光スペクトルの形状で射出される。
図16に示すように、クロスダイクロイックプリズム40から射出された光は、6つの発光ピーク波長Bp1,Bp2,Gp1,Gp2,Rp1,Rp2を有し、光量が各表示ユニット10,20,30において1つの有機ELパネルを用いる場合に比べて増加している。
【0059】
以上のように、互いに異なる発光ピーク波長を有する、青色表示パネル11,12、緑色表示パネル21,22、および赤色表示パネル31,32のそれぞれ2枚、合計6枚を同時に発光させ、それらを合成させることで高輝度でフルカラー表示が可能な投射型表示装置100を実現することができる。
【0060】
また、青色表示パネル11,12、緑色表示パネル21,22、赤色表示パネル31,32は、それぞれ全く同じ有機EL材料と積層構成を有しており、膜厚のみが一部異なる構成に過ぎないため、製造装置の成膜時間や成膜レートを変更するだけで各色2種類の有機ELパネルを製造することが可能となり、製造コストが低減できる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電気光学装置として、それぞれに異なる発光色の1つの表示ユニットと、2つの表示パネルからの射出光(表示光)を合成してフルカラー表示を投射可能な投射型表示装置を例に説明する。図17は第2実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置の構成を示す概略平面図である。なお、第1実施形態の投射型表示装置100と同じ構成には、同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0062】
図17に示すように、本実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置200は、青色発光領域の表示光(B)が得られる第1表示ユニット10と、緑色発光領域の表示光(G)が得られる緑色表示パネル21と、赤色発光領域の表示光(R)が得られる赤色表示パネル32と、第1表示ユニット10、緑色表示パネル21、赤色表示パネル32からの光を合成して所定の方向に射出させる第2光学素子としてのクロスダイクロイックプリズム40とを備えている。
【0063】
第1表示ユニット10は、第1青色表示パネル11と、第2青色表示パネル12と、各青色表示パネル11,12からの光を合成して所定の方向に射出する第1光学素子としてのダイクロイックミラー13とを備えている。
【0064】
緑色表示パネル21および赤色表示パネル32がそれぞれ1枚で所望の輝度が得られ、青色表示パネル1枚では所望の輝度が得られない場合、第2実施形態のように、青色表示パネルを2枚用い、ダイクロイックミラー13により発光スペクトル14,15を合成して輝度を高める方法がある。この場合、投射型表示装置200全体として部材の削減ができ、より小型にすることが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
10…第1表示ユニット、11…第1表示パネルとしての第1青色表示パネル、12…第2表示パネルとしての第2青色表示パネル、13…第1光学素子としてのダイクロイックミラー、13c…誘電体多層膜、20…第2表示ユニット、21…第1表示パネルとしての第1緑色表示パネル、22…第2表示パネルとしての第2緑色表示パネル、23…第1光学素子としてのダイクロイックミラー、23c…誘電体多層膜、30…第3表示ユニット、31…第1表示パネルとしての第1赤色表示パネル、32…第2表示パネルとしての第2赤色表示パネル、33…第1光学素子としてのダイクロイックミラー、33c…誘電体多層膜、40…第2光学素子としてのクロスダイクロイックプリズム、100…第1実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置、200…第2実施形態の電気光学装置としての投射型表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる発光波長領域を有する第1表示ユニットと、第2表示ユニットと、第3表示ユニットとを備え、前記第1および前記第2ならびに前記第3表示ユニットからそれぞれ射出された光を合成して射出する電気光学装置であって、
前記第1から前記第3表示ユニットのうち、少なくとも1つの表示ユニットに設けられた互いに異なる発光ピーク波長を有する第1表示パネルおよび第2表示パネルと、
前記第1および前記第2表示パネルからそれぞれ射出された光を合成して射出する第1光学素子と、
前記第1および前記第2ならびに前記第3表示ユニットから射出された光を合成して射出する第2光学素子と、を備え、
前記第1光学素子は、前記第1表示パネルの発光ピーク波長と前記第2表示パネルの発光ピーク波長との間に、光の透過と反射とが分かれる光学特性のしきい値を有し、
前記第2光学素子は、前記第1から前記第3表示ユニットにおけるそれぞれの発光波長領域の間に、前記第1表示ユニットの発光と前記第3表示ユニットの発光とを反射して、前記第2表示ユニットの発光を透過する光学特性のしきい値を有し、
前記第2光学素子の射出面から前記第1から前記第3表示ユニットのそれぞれの発光が重なって射出されることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記第1および前記第2光学素子は、光の反射と透過とが分かれる光学特性のしきい値を有する誘電体多層膜を備えたダイクロイックミラーであることを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記第1表示ユニットは青色波長領域の発光を有し、
前記第2表示ユニットは緑色波長領域の発光を有し、
前記第3表示ユニットは赤色波長領域の発光を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記第1表示ユニットは、前記第1および前記第2表示パネルと前記第1光学素子とを有することを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記第1および前記第2表示パネルは、有機エレクトロルミネッセンスパネルであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記有機エレクトロルミネッセンスパネルは、一対の電極と前記一対の電極間に挟持された複数の機能層とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、
前記第1および前記第2表示パネルにおいて、
前記複数の機能層を構成する材料が同一であり、少なくとも1つの前記機能層の膜厚を異ならせることにより、互いに異なる発光ピーク波長を有することを特徴とする請求項5に記載の電気光学装置。
【請求項7】
前記有機エレクトロルミネッセンスパネルは、一対の電極と前記一対の電極間に挟持された複数の機能層とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、
前記第1および前記第2表示パネルにおいて、
前記複数の機能層を構成する材料のうち、少なくとも1つの材料を異ならせることにより、互いに異なる発光ピーク波長を有することを特徴とする請求項5に記載の電気光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−230151(P2012−230151A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96848(P2011−96848)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】