説明

電気化学セルおよび酸素富化器

【課題】セル作動時の高温雰囲気下における各電極膜の剥離を防止し、高濃度の透過ガスを安定して得ることができる信頼性の高い電気化学セルを提供する。
【解決手段】イオン伝導性の電解質基板1の表裏両面に電極2、3を配して成る電気化学セルであって、上記電極2、3が、上記電解質基板上に形成されたガス透過部分となる反応電極膜21、31と、この反応電極膜を覆うように形成された給電用の多孔質電極膜22a、32aと、上記反応電極膜外において上記多孔質電極膜より引き出された配線用の緻密質電極膜22b、32bとで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素富化器等に用いられ、電子の授受に伴って電気化学反応を行う電気化学セルに関し、特に、電気化学セルの電極構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気化学反応によって空気等の酸素含有混合ガス中から酸素を分離して選択的に取り出す酸素富化器が知られており、近年、エアコン等の家電機器に上記酸素富化器を搭載して室内に簡易な酸素富化雰囲気を作る試みが為されている。
【0003】
酸素富化器は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質の表裏両面に正極と負極の一対の電極を配した電気化学セル(酸素透過電気化学セル)を備え、所定の高温雰囲気下において、この電気化学セルの正負極間に直流電圧を印加することにより、上記固体電解質が、その一方の面(負電圧が印加される負極側)から他方の面(正電圧が印加される正極側)に酸素を透過させる酸素透過膜として機能することを利用している。
すなわち、上記構成の電気化学セルでは、負極側に酸素含有混合ガス(例えば、空気)を供給することにより、負極側において空気中の酸素分子(O2)が電子を受け取って酸素イオン(O2-)にイオン化され、この酸素イオン(O2-)が電流として固体電解質中を正極側に移動し、正極側において電子を放出して再び酸素分子に戻る現象が生じている。
このような固体電解質の性質を利用して酸素含有混合ガス中から酸素を分離して選択的に取り出すことにより、高酸素濃度の空気を得ることができる。
【0004】
図3は、電気化学セルの一般的な電極構造を示し、各電極(正極、負極)は、イオン伝導性の電解質基板1上に形成され、電気化学反応の場となる反応電極膜21と、給電用としてこの反応電極膜21上に形成された多孔質電極膜22aと、配線用としてこの多孔質電極膜22a上から電解質基板1に引き出された緻密質電極膜22bとで構成されている。
ここで、電解質基板1には、例えば、LSGMC:(LaSr)(GaMgCo)O3が用いられ、反応電極21には、例えば、SSC:(SmSr)CoO3が用いられ、多孔質電極膜22aおよび緻密質電極膜22bには、例えば、Ag粒が用いられている。
【0005】
ところで、図3に示すように、上記電気化学セルの電極部分は、それぞれ熱膨張係数の異なる電極膜が3層に重なり合う構造を有するため、セル作動時の高温雰囲気下において各電極膜の熱膨張係数の差で生じる熱応力による歪み(熱歪み)が積層方向の同じ位置に集中し易いという欠点がある。
電極膜の一カ所に熱歪みが集中すると、特に、大粒径のAg粒で成る多孔質電極膜が反応電極膜より剥離し、反応電極膜への給電に支障を来すことになる。給電が確実に行われないと電極部分の電気化学反応が不安定になり、ガス透過能力が低下するため、高酸素濃度の空気を安定して得られなくなるという問題が生じる。
【0006】
尚、電気化学セルの電極構造として、例えば、特許文献1、特許文献2が開示されている。特許文献1には、第1電極膜の上に第2電極膜を配し、これら電極膜の隣に結線用のリード膜を配した構造が記載され、特許文献2には、ガス検出基板上に多孔質電極と結線用の緻密質電極を配した構造が記載されている。
【特許文献1】特開2007−212280号公報
【特許文献2】特開2000−227409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み為されたもので、熱応力による電極膜の剥離を防止し、高濃度の透過ガスを安定して得ることができる信頼性の高い電気化学セルおよび、これを用いた酸素富化器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の電気化学セルは、イオン伝導性を有する電解質基板の表裏両面に電極を配して成る電気化学セルであって、上記電極が、上記電解質基板上に形成されたガス透過部分となる反応電極膜と、この反応電極膜を覆うように形成された給電用の第1電極膜と、この第1電極膜に電気的に接続され、上記反応電極膜外において上記第1電極膜より引き出された配線用の第2電極膜とで構成されていることを特徴としている。
ここで、電気化学セルとは、電子の授受に伴って電気化学反応を行うセルを意味し、酸素透過セルの他に酸化剤ガスと燃料ガスとにより発電する発電セルや、水を電気分解する電解セルを含むものとする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電気化学セルにおいて、上記第1電極膜は多孔質電極膜で形成され、上記第2電極膜は緻密質電極膜で形成されていることを特徴としている。
ここで、上記多孔質電極膜には、平均粒径10〜20μmの大粒径の貴金属材料が用いられ、上記緻密質電極膜には、平均粒径0.5〜2.0μmの小粒径の貴金属材料が用いられている。なお、上記各電極膜の平均粒径はMicrotrac法によるものである。
貴金属材料としてAg、Au、Pt等が使用可能である。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電気化学セルにおいて、上記電極膜の角部に面取り加工が施されて成ることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3までの何れかに記載の電気化学セルにおいて、上記電気化学セルは、酸素イオン伝導性を有する電解質基板の表裏両面に電極を配して成る酸素透過セルであることを特徴としている。
【0012】
また、請求項5に記載の酸素富化器は、請求項4に記載の電気化学セルを用いて成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4に記載の発明によれば、ガス透過部分となる反応電極膜上に給電用の第1電極膜が形成され、ガス非透過部分となる反応電極膜外において第1電極膜上より配線用の第2電極膜が引き出される構成としたので、従来、これらの電極膜の一部が積層方向に3層に重なる構造であったものを、各電極膜の一部が積層順に2層づつに重なるような電極構造にすることができる。
係る電極構造により、セル作動時の高温雰囲気下において各電極膜の熱膨張係数の差で生じる熱応力の発生位置を2層ごとに分散させることができるため、熱歪みによる各電極膜の剥離を防止でき、セルへの給電は確実に行われるようになる。その結果、常に安定した電気化学反応(電極反応)により、高濃度の透過ガス(請求項4に記載の酸素透過セルでは高酸素濃度の空気)を安定して得ることができるようになる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明のように、ガス透過部分となる第1電極膜を多孔質電極膜で形成したので、電子伝導性とともに十分なガス透過性を確保することができ、且つまた、この多孔質電極膜への給電経路となる第2電極膜を緻密質電極膜で形成したので、緻密質電極膜を細長い電極パターンに形成しても高い電流密度で給電することができ、この面からも、安定した電気化学反応により、高酸濃度の透過ガスが安定して得られるようになる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、電極膜の角部に面取り加工を施すことで、熱応力が電極膜の角部に集中するのを防止できるため、熱歪みによる電極膜の剥離をより確実に防止できる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明によれば、上記構成の酸素透過電気化学セルを用いることにより、高酸素濃度の空気が長期間に渡って安定して得られる高性能で信頼性の高い酸素富化器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1、図2に基づいて本発明に係る電気化学セルの実施の形態を説明する。
図1は本実施形態による電気化学セルを示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図を示し、図2は図1の電極部分の構造を示す要部縦断面図を示している。
【0018】
図1に示すように、本実施形態による電気化学セルは、酸素イオン伝導性を有する薄板状の電解質基板1(固体電解質)と、その表裏両面に形成された一対の電極2、3とで構成される酸素透過セルである。
各々電極2、3は電解質基板1の外側の反応電極膜21(31)と、その外側の給電電極膜22(32)とで構成され、給電電極膜22(32)は、反応電極膜21(31)を覆うように形成された給電用の多孔質電極膜22a(32a)と、反応電極膜21(31)外において上記多孔質電極膜22a(32a)と電気的に接続され、且つ、電解質基板1に引き出された配線用の緻密質電極膜22b(32b)とで構成されている。
尚、反応電極膜21(31)は、電気化学反応の場となる電極で、セル作動時に酸素が透過する電極である。
【0019】
ここで、上記電解質基板1には、(LaSr)(GaMg)O3、(LaSr)(GaMgCo)O3、(LaSr)(GaMgNi)O3 、(LaSr)(GaMgFe)O3等のランタンガレート系材料が用いられ、上記反応電極膜21(31)には、(SmSr)CoO3、(LaBa)CoO3、(LaSr)CoO3等の電子伝導性とイオン伝導性を有する複合金属酸化物材料が用いられ、上記給電電極膜22(32)には、Ag、Au、Pt等の耐熱性に優れる貴金属粒が用いられる。
この内、多孔質電極膜22a(32a)には、大粒径の上記貴金属材料が用いられ、緻密質電極膜22b(32b)には、小粒径の上記貴金属材料が用いられている。
【0020】
これらの各電極膜は、厚さ30〜200μm程の電解質基板1上に、それぞれの電極材料粉末に溶剤やバインダを混練りして調製したペーストを順番に、例えばスクリーン印刷法等で塗布し、焼成することで形成することができる。各電極2、3の厚さは10〜20μm程度である。
【0021】
そして、上記構成の電気化学セルは、400〜800℃の高温雰囲気下において、電極2、3間に直流電圧を印加することにより、電解質基板1が、その一方の低電位電極面(負極3)側から他方の高電位電極面(正極2)側に向けて酸素含有混合ガス(例えば、空気)中から酸素のみを選択的に透過させる酸素透過膜として作用し、正極2側より高酸素濃度の空気を得ることができる。
【0022】
この場合、図1(a)に示すように、直流電源Vの+端子は、リード線8により正極2側の緻密質電極膜22bに接続され、この緻密質電極膜22bを介して多孔質電極膜22aに接続される。他方、直流電源Vの−端子は、リード線9により負極3側の緻密質電極膜32bに接続され、この緻密質電極膜32bを介して多孔質電極膜32aに接続される。
【0023】
また、図示しないが、上記構成の電気化学セルをガス透過側の電極が全て同一方向を向くような状態で絶縁性の支持基板上に複数併設することで任意容量の酸素富化器を構成することができる。この場合、上記緻密質電極膜22b(32b)を電気化学セル相互間の接続用電極パターンとしても使用することができる。
【0024】
以上、本実施形態によれば、給電電極膜22(32)については、酸素透過部分を多孔質電極膜22a(32a)で構成し、その他のガス非透過部分を緻密質電極膜22b(32b)で構成したので、従来、反応電極膜21(31)と多孔質電極膜22a(32a)と緻密質電極膜22b(32b)の一部がそれぞれ積層方向に3層に重なる構造であったものを、各電極膜の一部が積層順に2層づつ重なる電極構造にすることができる。
これにより、セル作動時の高温雰囲気下において各電極膜の熱膨張係数の差で生じる熱応力の発生箇所を各層毎に分散させることができるため、熱歪みによる電極膜の剥離(特に、多孔質電極膜22a、32aの剥離)を防止でき、セルへの給電が確実に行われるようになる。その結果、常に安定した電気化学反応(電極反応)により、高酸素濃度の空気を安定して得ることができるようになる。
さらには、図1(a)、図2に示すように、各電極膜の角部に面取り加工(C加工やR加工)を施すことで、熱応力が電極膜の角部に集中するのを防止できるため、熱歪みによる電極膜の剥離をより確実に防止することができる。
【0025】
また、直流電源Vの電流経路となる給電電極膜22(32)の内、ガス透過部分を多孔質電極膜22a(32a)で形成することで、電子伝導性とともに十分なガス透過性を確保することができ、且つ、この多孔質電極膜22a(32a)への給電を行う電極パターンを緻密質電極膜22b(32b)で形成することで、緻密質電極膜22b(32b)を配線用の細長い電極パターンに形成しても、高い電流密度で給電することができ、この面からも、安定した電気化学反応により、高酸素密度の空気が安定して得られるようになる。
【0026】
従って、係る構成の酸素透過電気化学セルを用いることにより、長期間に渡って高酸素濃度の空気が安定して得られる高性能で信頼性の高い酸素富化器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る電気化学セルを示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図。
【図2】図1の要部縦断面図。
【図3】従来の電気化学セルの要部縦断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 電解質基板
2 正極
3 負極
21、31 反応電極膜
22、32 給電電極膜
22a、32a 第1電極膜(多孔質電極膜)
22b、32b 第2電極膜(緻密質電極膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する電解質基板の表裏両面に電極を配して成る電気化学セルであって、
上記電極が、上記電解質基板上に形成されたガス透過部分となる反応電極膜と、この反応電極膜を覆うように形成された給電用の第1電極膜と、この第1電極膜に電気的に接続され、上記反応電極膜外において上記第1電極膜より引き出された配線用の第2電極膜とで構成されていることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
上記第1電極膜は多孔質電極膜で形成され、上記第2電極膜は緻密質電極膜で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
上記電極膜の角部に面取り加工が施されて成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
上記電気化学セルは、酸素イオン伝導性を有する電解質基板の表裏両面に電極を配して成る酸素透過セルであることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
請求項4に記載の電気化学セルを用いて成ることを特徴とする酸素富化器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−122093(P2009−122093A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268689(P2008−268689)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】