説明

電気化学セル用包装材料およびその製造方法

【課題】 本発明は、製造コストを削減しながら、内部短絡の発生を防止する電気化学セル用包装材料を提供する。
【解決手段】 少なくとも基材層111と金属箔層112と熱接着性樹脂層113とを順次積層して構成され、熱接着性樹脂層113を対向させて周縁をヒートシールして形成される収納部内部に、電気化学セル本体122を密封する電気化学セル用包装材料において、熱接着性樹脂層113の内側の一部に耐熱性樹脂層142を含み耐電解液性を有する耐熱性フィルム140を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストを抑えながら安定した耐熱性を示す電気化学セル用包装材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図である。電気化学セル用包装材料210は基材層211、金属箔層212、熱接着性樹脂層213が順次積層しており、熱接着性樹脂層213同士を対向させて周縁部をヒートシールすることにより電気化学セルの外装体が形成される。
【0003】
このような外装体を備えるリチウムイオン電池において、過充電等によりリチウムイオン電池自身が発熱し、熱接着性樹脂層213の一部が溶融することがある。このとき、外装体内部に収納されたセル又は集電体と金属箔層212が接触して内部短絡を起こすことが問題となっていた。
【0004】
特許文献1では熱接着性樹脂層を酸変性ポリオレフィン層と高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層(熱接着性樹脂層)の3層で構成した外装体が開示されている。高融点のポリプロピレン層は溶融し難いため、電池タブと金属箔層212の内部短絡が防止される。また、特許文献2では絶縁性樹脂で覆われた集電体を有するリチウムイオン電池が開示されている。熱接着性樹脂層の一部が溶融しても絶縁性樹脂が溶融せず、集電体と金属箔層の接触が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−273398号公報
【特許文献2】特開2009−181899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の外装体によると高融点ポリプロピレン層が溶融押出しにより積層されている。溶融押出しされるポリプロピレン樹脂は一般的に融点が140℃前後であり、高融点タイプのものでも160℃前後である。このため、発熱に起因する内部短絡を十分に抑制することができない。また、特許文献2の外装体によると集電体を絶縁性樹脂で覆う工程は複雑であり、リチウムイオン電池の製造コストが高くなる。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、製造コストを削減しながら、内部短絡の発生を防止する電気化学セル用包装材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、少なくとも基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層して構成され、前記熱接着性樹脂層を対向させて周縁をヒートシールして形成される収納部内部に、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含む電気化学セル本体を密封する電気化学セル用包装材料であって、前記熱接着性樹脂層の内側の一部に耐熱性樹脂層を含み耐電解液性を有する耐熱性フィルムを設けたことを特徴としている。
【0009】
また本発明は、上記構成の電気化学セル用包装材料において、複数の前記正極集電体又は前記負極集電体が重畳状態で正極タブ又は負極タブにそれぞれ接合され、前記正極タブ及び前記負極タブを挟持しながら先端を外部に延出させる電気化学セル用包装材料であって、前記耐熱性フィルムが前記正極集電体及び前記負極終電体と対向する領域に設けられることを特徴としている。
【0010】
また本発明は、上記構成の電気化学セル用包装材料において、前記電気化学セル用包装材料がエンボス成型されており、エンボス成型により形成された側壁と底面との境界部を含む領域に前記耐熱性フィルムが設けられることを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記構成の電気化学セル用包装材料において、前記耐熱性フィルムが耐熱性樹脂層の一方の面に酸変性ポリオレフィン層を備え、前記酸変性ポリオレフィン層と前記熱接着性樹脂層が接合することを特徴としている。
【0012】
また本発明は、上記構成の電気化学セル用包装材料において、前記耐熱性樹脂層の融点が200℃以上であることを特徴としている。
【0013】
また本発明の電気化学セルは、上記構成の電気化学セル用包装材料を用いたことを特徴としている。
【0014】
また本発明の電気化学セル用包装材料の製造方法は、少なくとも基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層した電気化学セル用包装材料の一部に耐熱性樹脂層の一方の面に粘着性を有する酸変性ポリオレフィン層を備え耐電解液性を有する耐熱性フィルムを仮着する仮着工程と、前記仮着工程の後工程であって、前記電気化学セル用包装材料を所定温度の環境下で所定時間加熱して前記熱接着性樹脂層と粘着性を有する前記酸変性ポリオレフィン層とを熱融着させる熱融着工程とを含むことを特徴としている。
【0015】
また本発明の電気化学セル用包装材料の製造方法は、前記仮着工程の前工程であって、前記電気化学セル用包装材料をエンボス成型して側壁を形成する成型工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の構成によれば、電気化学セル本体が発熱して熱接着性樹脂層の一部が溶融した場合でも、耐熱性樹脂層を含む耐熱性フィルムを介して電気化学セル本体と金属箔層が接触しない。これにより、内部短絡の発生を防ぐことができる。
【0017】
本発明の第2の構成によれば、正極集電体又は負極集電体が発熱した場合でも、正極集電体及び負極終電体と対向する領域に設けられた耐熱性フィルムを介して正極集電体又は負極集電体と金属箔層が接触するのを防ぐことができる。
【0018】
本発明の第3の構成によれば、電気化学セル用包装材料をエンボス成型することにより側壁と底面が形成され、側壁と底面により形成される空間に電気化学セル本体を収納することができる。このとき、側壁と底面との境界部を含む領域に耐熱性フィルムを設けることで、正極集電体及び負極集電体と近接する領域が耐熱性フィルムで保護される。したがって、耐熱性フィルムを介して正極集電体又は負極集電体と金属箔層が接触するのを防ぐことができる。
【0019】
本発明の第4の構成によれば、耐熱性フィルムが耐熱性樹脂層の一方の面に酸変性ポリオレフィン層を備えることにより、熱接着性樹脂層と酸変性ポリオレフィン層とを溶融接着して熱接着性樹脂層の内側に耐熱性フィルムを容易に設けることができる。
【0020】
本発明の第5の構成によれば、耐熱性樹脂層の融点が200℃以上であるため、電気化学セル本体が発熱しても耐熱性フィルムは容易に溶融しない。これにより、電気化学セル本体と金属箔層が接触するのを安定して防ぐことができる。
【0021】
本発明の第6の構成によれば、電気化学セル用包装材料を用いることにより、内部短絡の発生を防止する電気化学セルを提供することができる。
【0022】
本発明の第7の構成によれば、少なくとも基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層した電気化学セル用包装材料の一部に耐熱性フィルムを仮着することにより、耐熱性フィルムを接着する際の位置決めが容易になる。
【0023】
本発明の第8の構成によれば、耐熱性フィルムを仮着する仮着工程の前に、電気化学セル用包装材料をエンボス成型して凹部を形成することにより、凹部の内部形状に密着させて耐熱性フィルムを接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図
【図2】本発明の電気化学セル用包装材料を外装体に用いたリチウムイオン電池の斜視図
【図3】図2中のリチウムイオン電池のA−A’線断面図
【図4】本発明の電気化学セル用包装材料が収納するリチウムイオン電池本体の斜視図
【図5】本発明の電気化学セル用包装材料が収納するリチウムイオン電池本体の断面図
【図6】本発明の電気化学セル用包装材料に係る外装体の変形例を示す断面図
【図7】本発明の電気化学セル用包装材料を外装体に用いたリチウムイオン電池の変形例を示す分解断面図
【図8】従来の電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の電気化学セル用包装材料について説明する。図1は本発明の電気化学セル用包装材料の層構造を示す概略断面図であり、図2は本発明の電気化学セル用包装材料を用いたリチウムイオン電池の斜視図であり、図3は図2中のリチウムイオン電池のA−A’線断面図である。
【0026】
多層フィルムである電気化学セル用包装材料110は、基材層111、金属箔層112、酸変性ポリオレフィン層115、熱接着性樹脂層113が順次積層して構成され、熱接着性樹脂層113の一部には耐熱性フィルム140が設けられている。耐熱性フィルム140は耐熱性樹脂層142に酸変性ポリオレフィン層141を積層して構成される。図示していないが、耐熱性樹脂層142表面にはアンカーコート処理が施されている。また、金属箔層112の両面には化成処理層が施され、金属箔層112と酸変性ポリオレフィン層115及び接着層114との層間接着強度を高めている。金属箔層112と基材層111との間には接着層114が設けられている。
【0027】
なお、本発明に係る電気化学セル用包装材料110は上記各層を含むとともに各層間に異なる層を介在させてもよい。電気化学セル用包装材料110を構成する各層の具体例については後で詳細に説明する。
【0028】
リチウムイオン電池121は電気化学セル用包装材料110により作製される外装体120内部にリチウムイオン電池本体122を密封収納して構成される。外装体120は収納部を有する凹部120aと収納部を覆うシート部120bにより構成される。凹部120aは矩形状の電気化学セル用包装材料110をプレス成型して作製する。凹部120aは底面120cと底面120cの外周縁から上方に起立する側壁120dと側壁120dの上端縁から外方へ水平方向に延出する周縁面120eにより構成される。
【0029】
側壁120dと底面120cとの境界部120f近傍は、リチウムイオン電池本体122が収納された状態においてリチウムイオン電池本体122と最も近接する位置である。少なくとも境界部120fを含む領域に耐熱性フィルム140が設けられる。また、側壁120dの斜面から底面120cの一部にまたがる領域は密集する集電体125a、125bと近接する領域である。このため、耐熱性フィルム140が側壁120dの斜面から底面120cの一部にまたがって設けられる。また、シート部120bの一部にも耐熱性フィルム140が設けられる。
【0030】
凹部120aの底面120cと側壁120dで囲まれる収納空間にリチウムイオン電池本体122が収納される。リチウムイオン電池本体122に連結される正極タブ123a及び負極タブ123は周縁面120eにおいてタブフィルム130を介在させて凹部120aとシート部120bにより挟持されながら外部に延出する。正極タブ123a及び負極タブ123bは側壁120dの斜面から周縁面120eの水平面に沿って一部が屈曲している。
【0031】
図4は本発明の電気化学セル用包装材料が収納するリチウムイオン電池本体の斜視図であり、図5は本発明の電気化学セル用包装材料が収納するリチウムイオン電池本体の断面図である。リチウムイオン電池本体122は、正極活物質及び正極集電体125aから成る正極と、負極活物質及び負極集電体125bから成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質(図示せず)とを含むセル(蓄電部)126により構成される。セル126は正極集電体125aが延出する正極板と負極集電体125bが延出する負極板を複数積層して構成される。正極板と負極板はセパレータ(図示せず)を介して交互に複数積層される。積層された複数の正極集電体125a、負極集電体125bは重畳してそれぞれ一枚の正極タブ123a、負極タブ123bに連結する。
【0032】
リチウムイオン電池本体122を凹部120aの収納空間に収納したとき正極集電体125a及び負極集電体125bと耐熱性フィルム140は対向して近接する。これにより、熱接着性樹脂層113の一部が溶融した場合でも、耐熱性フィルム140により正極集電体125a又は負極集電体125bと金属箔層112とが接触するのが防止される。したがって、リチウムイオン電池121の内部短絡の発生を防ぐことができる。
【0033】
図6は本発明の電気化学セル用包装材料に係る外装体の変形例を示す断面図である。パウチタイプの外装体120においても、正極集電体125a及び負極集電体125bと対向する領域に耐熱性フィルム140を配置することにより、正極集電体125a又は負極集電体125bと金属箔層112とが接触するのを防ぐことができる。
【0034】
図7は本発明の電気化学セル用包装材料を外装体に用いたリチウムイオン電池の変形例を示す分解断面図である。耐熱性フィルム140はリチウムイオン電池本体122の他の部位と対向する領域に設けてもよい。例えば、耐熱性フィルム140が底面120c全体を覆うように設けられることにより、セル126と金属箔層112とが接触するのを防ぐことができる。
【0035】
次に電気化学セル用包装材料の製造方法について説明する。成型工程では、基材層112と金属箔層112と最内層の熱接着性樹脂層113とを順次積層した積層フィルムを矩形状に裁断した後、プレス成型して収納部を有する凹部120aを形成する。凹部120aの収納部は底面120cと側壁120dによって構成される。
【0036】
仮着工程では、弱粘着性の酸変性ポリオレフィン層141を備える耐熱性フィルム140を底面120cと側壁120dの境界部120fを含む所定領域に仮着する。酸変性ポリオレフィン層141は粘着性付与樹脂が添加されており粘着性又は感圧性を有する。
【0037】
熱融着工程では、耐熱性フィルム140が仮着した積層フィルムを所定温度の環境下で所定時間加熱する。これにより、低融点の酸変性ポリオレフィン層141が熱接着性樹脂層113に熱融着して電気化学セル用包装材料110が完成する。なお、酸変性ポリオレフィン層141を熱接着性樹脂層113より低い融点の樹脂で構成することにより、熱接着性樹脂層113を変性させることなく酸変性ポリオレフィン層141を熱接着性樹脂層113に熱融着させることができる。
【0038】
熱融着工程の前に仮着工程を設けることにより、耐熱性フィルム140を接着する際の位置決めを容易に行うことができる。また、仮着工程の前に、成型工程を設けることにより、プレス成型の際に耐熱性フィルム140aが熱接着性樹脂層113から剥離するのを防ぐことができる。これにより、凹部120aの内部形状に密着させて耐熱性フィルム140を接着することができる。
【0039】
次に、電気化学セル用包装材料110を構成する各層について詳細に説明する。基材層111は、延伸ポリエステルまたは延伸ナイロンフィルムを用いることができ、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0040】
また、基材層111は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、ポリエステルフィルム又はナイロンフィルムの他、異なる材質のフィルムを積層化することも可能である。
【0041】
金属箔層112は、外部からリチウムイオン電池121の内部に水蒸気が浸入することを防止するための層で、金属箔層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形性)を安定化し、かつ耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウムを用いる。
【0042】
また、ピンホールの発生を改善し、リチウムイオン電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする場合、エンボス成形におけるクラックなどの発生のないものとするために、金属箔層112として用いるアルミニウムの材質を、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%とすることが望ましい。
【0043】
これによって、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、外装体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、包装材料料をエンボス成形する時に側壁を容易に形成することができる。なお、鉄含有量が、0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、包装材料として製袋性が悪くなる。
【0044】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本発明において用いるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムがよい。
【0045】
また、化成処理は、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の非クロム系(塗布型)化成処理等により金属箔層112面に形成されるものであるが、連続処理が可能であると共に水洗工程が不要で処理コストを安価にすることができるという点などから塗布型化成処理、特にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物、リン化合物、を含有する処理液で処理するのが最も好ましい。
【0046】
また、化成処理の形成方法は、処理液をバーコー卜法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等の周知の塗布法を選択して成形すればよい。また、化成処理を施す前に金属箔層112表面に、予め、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、酸活性化法等の周知の脱脂処理法で処理を施しておく方が、化成処理の機能を最大限に発現させるとともに、長期間維持することができる点から好ましい。
【0047】
熱接着性樹脂層113は、熱接着性樹脂層113と正極タブ123a又は負極タブ123bとの間にタブフィルム130を介在させるか否かで樹脂種が異なる。タブフィルム130を介在させる場合には、プロピレン系樹脂の単体ないし混合物などからなるフィルムを用いればよく、タブフィルム130を介在させない場合、不飽和カルボン酸でグラフト変性した酸変性オレフィン樹脂からなるフィルムを用いればよい。
【0048】
また、熱接着性樹脂層113としてはポリプロピレンが好適に用いられるが、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンの単層または多層、または、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンのブレンド樹脂からなる単層または多層からなるフィルムとしても使用できる。
【0049】
前記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムプロピレン、ホモプロピレン、ブロックプロピレンおよび、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンには、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。
【0050】
酸変性ポリオレフィン層115は金属箔層112と熱接着性樹脂層113とを安定して接着するために酸変性ポリプロピレンが好適に用いられる。酸変性ポリオレフィン層115、141は熱接着性樹脂層113に用いる樹脂種により適宜選択して用いる必要があり、酸変性ポリプロピレン以外の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いる場合、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等があり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよい。
【0051】
また、酸変性ポリプロピレンを用いる場合、
(1)ビガット軟化点115℃以上、融点150℃以上のホモタイプ、
(2)ビガット軟化点105℃以上、融点130℃以上のエチレンープロピレンとの共重合体(ランダム共重合タイプ)
(3)融点110℃以上である不飽和カルボン酸を用い酸変性重合した単体又はブレンド物等を用いることができる。
【0052】
酸変性ポリオレフィン層141に粘着性付与樹脂を含有させて、粘着性又は感圧性を付与することができる。これにより、酸変性ポリオレフィン層141を耐熱性樹脂層113に仮着させることができる。使用される粘着性付与樹脂としては、例えば、ロジン類(重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油樹脂などである。
【0053】
耐熱性樹脂層142は二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(以下、PENと呼称する)又は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETと呼称する)を用いることができる。PENやPETは熱接着性樹脂層113を形成する一般ポリオレフィン系樹脂と比べて融点・ガラス転移点が高い。このため、熱接着性樹脂層113の一部が溶融した場合でも耐熱性樹脂層142は溶融することなく残る。したがって、金属箔層112と発熱したリチウムイオン電池本体122が接触して内部短絡するのを防止することができる。なお、PEN又はPENの表面には必要に応じて、アンカーコート処理、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理等の周知の易接着手段を施してもよい。
【0054】
PENやPET以外の耐熱性樹脂としては、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(TPX(登録商標))、ポリアセタール(POM)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン(PP)等の無延伸または延伸フィルムを用いることができる。
【0055】
接着層114は、基材層111と金属箔層112及び耐熱性樹脂層142と酸変性ポリオレフィン層141を強固に接着するものである。これらの層間接着はドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法を用いることができる。
【0056】
ドライラミネート法により貼り合わせを行う際には、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリエーテル系、シアノアクリレート系、ウレタン系、有機チタン系、ポリエーテルウレタン系、エポキシ系、ポリエステルウレタン系、イミド系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、シリコーン系の各種接着剤を用いることができる。
【0057】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
また、電気化学セルとはリチウムイオン電池以外にニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムメタル一次電池あるいは二次電池、リチウムポリマー電池等の化学電池及び電気二重層キャパシタ、キャパシタ、電解コンデンサを含み、電気化学セル本体とは包装材料封入前の正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質とを含むセル(蓄電部)と、セル内の正極及び負極に連結される電極端子等、電気エネルギーを発生させる電気デバイス要素全てを含むものである。本発明はこれら電気化学セルを包装する包装材料に関する。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明の作用及び効果について、実施例を用いて具体的に説明する。実施例1は、耐熱性フィルムを接着した電気化学セル用包装材の絶縁性について評価したものである。
【0060】
アルミニウム(厚さ40μm)の両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、延伸ナイロンフィルム(厚さ25μm)を2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により貼り合わせた。次に、他の化成処理面に酸変性ポリプロピレンフィルム(厚さ23μm、以下酸変性PPと略す)とポリプロピレンフィルム(厚さ23μm、以下PPフィルムと略す)の2層共押出しフィルムを積層した。これにより、延伸ナイロンフィルム/アルミニウム/酸変性PP/PPフィルムから構成される積層フィルムを得た。
【0061】
なお、化成処理層には、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸からなる処理液をロールコート法により塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件において焼付けた。ここで、クロムの塗布量は10mg/m2(乾燥重量)とした。
【0062】
次に、アンカーコート処理が施されたポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)の片面に弱粘着性を有する酸変性ポリプロピレンフィルム(28μm)を溶融押出ししてPEN/酸変性PPから構成される耐熱性フィルムを得た。
【0063】
積層フィルムを55mm×32mmに断裁した後、ストレート金型を用いて深さ5.5mmにエンボス成型した。耐熱性フィルムをエンボス成型により形成された側壁と底面の境界部近傍に仮着した。次に、80℃の環境下で2分間加熱した。
【0064】
耐熱性フィルムを接着した積層フィルムにタブが外部に突出するように電池要素を収納し、新しい積層フィルムで蓋をした。最後に周縁部をヒートシールして(シール温度190℃、面圧1MPa、シール時間3.0秒、シール幅7mm)、電池要素を内部に密封収納した。
【0065】
上記工程により作製された電池に対して過充電を繰り返し行ったところ、短絡は発生しなかった。以上より、耐熱性フィルムを接着した電気化学セル用包装材は一定の絶縁性を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムメタル一次電池あるいは二次電池、リチウムポリマー電池等の化学電池及び電気二重層キャパシタ、キャパシタ、電解コンデンサを包装する外装体として用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
110 電気化学セル用包装材料
111 基材層
112 金属箔層
113 熱接着性樹脂層
114 接着層
115 酸変性ポリオレフィン層
120 外装体
120a 凹部
120b シート部
120c 底面
120d 側壁
120e 周縁面
120f 境界部
121 リチウムイオン電池
122 リチウムイオン電池本体
123a 正極タブ
123b 負極タブ
125a 正極集電体
125b 負極集電体
126 セル
130 タブフィルム
140 耐熱性フィルム
141 酸変性ポリオレフィン層
142 耐熱性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層して構成され、
前記熱接着性樹脂層を対向させて周縁をヒートシールして形成される収納部内部に、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含む電気化学セル本体を密封する電気化学セル用包装材料であって、
前記熱接着性樹脂層の内側の一部に耐熱性樹脂層を含み耐電解液性を有する耐熱性フィルムを設けたことを特徴とする電気化学セル用包装材料。
【請求項2】
複数の前記正極集電体又は前記負極集電体が重畳して正極タブ又は負極タブにそれぞれ接合され、前記正極タブ及び前記負極タブを挟持しながら先端を外部に延出させる電気化学セル用包装材料であって、
前記耐熱性フィルムが前記正極集電体及び前記負極終電体と対向する領域に設けられることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項3】
前記電気化学セル用包装材料がエンボス成型されており、
エンボス成型により形成された側壁と底面との境界部を含む領域に前記耐熱性フィルムが設けられることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項4】
前記耐熱性フィルムが耐熱性樹脂層の一方の面に酸変性ポリオレフィン層を備え、前記酸変性ポリオレフィン層と前記熱接着性樹脂層が接合することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項5】
前記耐熱性樹脂層の融点が200℃以上であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学セル用包装材料。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電気化学セル用包装材料を用いたことを特徴とする電気化学セル。
【請求項7】
少なくとも基材層と金属箔層と最内層の熱接着性樹脂層とを順次積層した電気化学セル用包装材料の一部に耐熱性樹脂層の一方の面に粘着性を有する酸変性ポリオレフィン層を備え耐電解液性を有する耐熱性フィルムを仮着する仮着工程と、
前記仮着工程の後工程であって、前記電気化学セル用包装材料を所定温度の環境下で所定時間加熱して前記熱接着性樹脂層と粘着性を有する前記酸変性ポリオレフィン層とを熱融着させる熱融着工程とを含むことを特徴とする電気化学セル用包装材料の製造方法。
【請求項8】
前記仮着工程の前工程であって、前記電気化学セル用包装材料をエンボス成型して側壁を形成する成型工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の電気化学セル用包装材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−174438(P2012−174438A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34143(P2011−34143)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】