説明

電気化学的装置

電気化学的装置は、(a)半導体がシリコン又は炭化ケイ素でありかつ1〜1000μmの厚さを有する半導体層と、(b)MTiO3になる量までのアルカリ土類酸化物MOを含むことができかつ5nm〜1μmの厚さを有する半導体層上のTiO2層と、(c)TiO2層に電界を印加することができるように配置された該TiO2層上の不活性金属グリッドと、(d)半導体層上のオーム接触部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OHラジカルを生成するための電気化学的装置、並びにそのような装置を流体の消毒及び/又は無毒化のために使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
OHラジカルの生成は、水の無毒化のために開発中である多くの最新式酸化処理法(AOP)(「水及び排水処理のための最新式酸化処理法」、Ed.S.Parsons(2004年、ロンドン所在のIWA出版社))の中心をなすものである。UV照射下でTiO2ベースの材料がOHラジカルを生成する能力があることは広く報告されているが、この処理法の技術的利用は、低い光触媒効率により制限されてきた。
【0003】
OH生成の効率は、TiO2にわたる電界の印加によって上昇するが、電流密度は、高出力UVランプを用いても1mA cm-2をかなり下回るままである(Rodriguez,J.外の「固体薄膜」360、250−255(2000年))。
【発明の開示】
【0004】
本発明者達は、TiO2面を第2の半導体上に蒸着させかつ不活性金属グリッドで覆った場合に、光照射なしでTiO2面においてOHラジカルを生成することができることを発見した。グリッドは、TiO2層に電界を直接印加するために使用される。この装置を通って流れる電流(TiO2面におけるOH生成の比率の尺度と考えられる)は、従来のUV照射TiO2電極で一般的に観察されるものよりも遙かに高い。
【0005】
従って、本発明は、電気化学的装置を提供し、本電気化学的装置は、
(a)半導体がシリコン又は炭化ケイ素でありかつ1〜1000μmの厚さを有する半導体層と、
(b)MTiO3になる量までのアルカリ土類酸化物MOを含むことができかつ5nm〜1μmの厚さを有する半導体層上のTiO2層と、
(c)TiO2層に-電界を印加することができるように配置された該TiO2層上の不活性金属グリッドと、
(d)半導体層上のオーム接触部と、
を含む。
【0006】
金属グリッド及びオーム接触部を用いて、グリッドが半導体に対して負にバイアスされるように装置に電界を印加することによって、H2Oを含む流体(液体、気体又は蒸気)と接触状態になった時に、TiO2層の表面においてOHラジカルが生成される。
【0007】
理論に拘束されるのを欲するのではないが、半導体層からの正孔は、TiO2層内に移動し、電界によって表面に駆動される。グリッドワイヤの直ぐ下方に生成されたそれら正孔は、それらがグリッドに到達すると消滅する。消滅しない正孔は、水と反応してOHラジカルを形成する。
TiO2(h)+OH-→TiO2+OH
【0008】
半導体層
半導体層は、シリコン又は炭化ケイ素で作ることができる。シリコンが通常、費用の理由で好ましいが、炭化ケイ素ウェーハは、TiO2層とのより良好なバンドエネルギー整合性の利点を有する。また、SiCは化学的に不活性であり、これは、幾つかの用途で使用することができる。
【0009】
層は、1〜1000μmの厚さを有する。厚さの下限値は、10、100、200、300又は500μmとさえすることができる。厚さの上限値は、900、800又は600μmとさえすることができる。シリコンウェーハは、500〜600μmの範囲、例えば550μmの厚さを有することが多い。
【0010】
ウェーハがシリコンウェーハである場合には、ウェーハは、例えば(100)又は(111)などのあらゆる好適な結晶方位を有することができる。炭化ケイ素ウェーハの場合には、結晶方位は例えば(0001)などである。
半導体層上のオーム接触部は、当技術分野でよく知られているようにあらゆる好適な構成とすることができる。
【0011】
TiO2
TiO2層は、半導体層上に蒸着され、例えばSrOなどのアルカリ土類酸化物(MO)を含むことができる。MOの最大量は、層がMTiO3となる量であるが、MOの量は、TiO2に対するモル基準で5%よりも少なくすることができる。幾つかの実施形態では、MOが存在しない、すなわち層がTiO2だけであることが好ましい。
【0012】
TiO2層は5nm〜1μmの厚さを有する。上限値は、2000、1500、1000又は500Åとすることができる。下限値は100、200又は250Åとすることができる。好ましい厚さの範囲は、100〜500Åである。
【0013】
金属グリッド
金属グリッドは、不活性金属を含む。金属は、装置を使用することになる条件に対して不活性でなければならない。好適な金属には、例えば金、プラチナなどの貴金属が含まれる。
【0014】
グリッドは、TiO2層に均一な電界を印加することができるように配置されるのが好ましい。一般的に、グリッドによって覆われずに残った空間は、グリッドによって覆われた表面積の40%〜60%であるが、グリッドで覆われた表面積の30%までにも狭く又は75%までにも広くすることができる。グリッドワイヤは、1〜1000μmの厚さを有することができ、また互いに1〜1000μmだけ間隔をおいて配置することができるが、間隔はワイヤの幅と同じ大きさのオーダであるのが好ましい。
【0015】
好ましいグリッドは、互いに5〜10μmだけ間隔をおいて配置された状態で5〜10μmのワイヤを有することになる。
TiO2層と金属グリッドとの間には、例えば5〜50ÅのTi層などの接着層を用いることができる。
【0016】
製造
TiO2層は、例えばスパッタリング、電子ビーム蒸着、熱蒸着などの当技術分野で公知のあらゆる好適な方法を使用して半導体層上に蒸着させることができる。好ましい方法は、優れた制御及び実験自由度の利点を有しかつ広面積高品質の膜蒸着に好適な確立した工業プロセスであるDCマグネトロンスパッタリング(DCMS)である。そのようなプロセスは、Cドープ又はNドープTiO2膜を蒸着させるのに使用することができる(例えばTorres,G.R.外の「J.Phys.Chem.B」108、5995−6003(2004年)を参照されたい)。
【0017】
蒸着の前に通常、例えばアセトン、イソプロピルアルコール及び脱塩水を使用して半導体を洗浄し、その後に例えば6%のHF内での5分間の処理によるなどのような「RCA」洗浄及び脱酸素処理が行われる。
【0018】
蒸着は真空チャンバ内で行われ、望ましい厚さのTiの蒸着を生じ、その後にTiO2層を生成するための酸化処理が行われる。層がまたMOも含む場合には、初期蒸着はTiと例えばSrなどのMとの両方によるものとなる。当技術分野で公知の方法によるTiO2層の直接蒸着もまた、使用することができる。
金属グリッドは、フォトリソグラフィ及び湿式化学エッチングを含む標準的方法を使用してTiO2層上に蒸着される。
【0019】
作動条件
TiO2層に印加される電圧は、電流が流れることができるように正孔電流に対するエネルギー障壁を低下させるのに十分のものでなければならない。一般的に、電圧は、少なくとも0.5Vにすることになるが、より小さくすることもできる。
以下に示す実施例の装置では、グリッドとシリコンとの間の4Vの電圧レベルで435mAの電流レベルに達した。
【0020】
印加される好ましい最小電圧は0.5V、1V又は2Vであり、また印加される好ましい最大電圧は9V、8V又は7Vである。
本発明の装置は、OHラジカルを生成するために光を必要とせず、従って暗所で作動させることが好ましいといえる。本装置は、例えば0〜300℃などのあらゆる適当な温度で作動させることができる。
【0021】
TiO2の表面においてOHラジカルが生成されるようにするためには、表面と接触状態になる流体は、0.1体積%の最小含水率でなければならない。流体は、例えば空気などの気体又は例えば水などの液体とすることができる。
【0022】
本発明の装置は、例えば空気及び水などの汚染流体の消毒に特定の適用性を有する。OHラジカルは、非常に広範囲の化学汚染物質を破壊し、細菌を死滅させ、またそれらの幾つかは従来の消毒法には耐性がある大腸菌、レジオネラ菌及びクリプトスポリジウム菌を含む病原体を死滅させるのに効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
実施例
25cm2500μmのn−Si(100)(1〜10オームcm)ウェーハを、トリクロロエチレン(80℃で5分間)、アセトン(80℃で5分間)及びイソプロピルアルコール(80℃で5分)内で入念に洗浄した後に脱イオン水で洗い流した。シリコンは次に、標準RCA処理法(NH4OH:H22:H2Oにより80℃で5分間、その後、HCl:H22:H2Oにより80℃で5分間)を使用してさらに清浄化した。試料は次に、真空チャンバ内に入れる直前に、6%のHF内で5分間脱酸素処理した。次に、1200Åの厚さまでチタンを蒸着させ、試料は次に、ランプ加熱炉内に入れて、およそ900℃で90秒間急速酸化させた。試料は次に、真空チャンバに戻して、金を蒸着させた(1000Åの金の前に20Åの薄いTi接着層を先行させた)。金グリッドは次に、標準フォトレジストを表面上で回転させ、マスクを介して露光したUV光でパターニングすることによってパターン化させた。レジストをハードベーキングした後に、王水内で金をエッチングして、0.5mmの厚さを有しかつ互いに1mmだけ間隔をおいたワイヤを有するグリッドを生成した。
【0024】
その後のテストでは、金グリッドは、シリコンに対して、Sycopel AEW2ポテンシオスタットによって制御された両者間の様々な電圧において負にバイアスされた。
【0025】
本装置は、暗所において、1.4mMのNa2SO4内における大腸菌(108cfu ml-1)の懸濁液100ml中に浸漬させ、この懸濁液は、セルの一側に配置した磁気攪拌器により350〜400rpmで攪拌した。この懸濁液は250mlの懸濁液から取り出したものであり、その未使用部分150mlは、暗所に保存し、45分及び90分の時点でサンプリングし、実験対照として使用した。
【0026】
大腸菌懸濁液は、培養液(英国Oxoid社)内で大腸菌(NCIMB、4481)を一晩培養することによって108cfu ml-1を含有するものとして準備した。この懸濁液は次に、滅菌超純水で2回洗浄したが、各洗浄後に、再懸濁させる前に3000rpmで10分間遠心分離した。
【0027】
大腸菌の計数は、アナリスト常任委員会の「水の細菌学、1994年パート1、飲料水」(1994年、ロンドン所在のHMSO、ISBN0117530107)に記載されているような「膜ラウリル硫酸培養液」(英国Oxoid社)を用いる膜ろ過によって実施した。
【0028】
結果は図1に示しており、この中で、N0は、実験開始時のml当たりの大腸菌の個数であり、またNtは、消毒してt分間後の個数であり、電位依存性死滅を明らかに示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の装置によって処理中の懸濁液内の大腸菌の量の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)半導体がシリコン又は炭化ケイ素でありかつ1〜1000μmの厚さを有する半導体層と、
(b)MTiO3になる量までのアルカリ土類酸化物MOを含むことができかつ5nm〜1μmの厚さを有する前記半導体層上のTiO2層と、
(c)前記TiO2層に電界を印加することができるように配置された該TiO2層上の不活性金属グリッドと、
(d)前記半導体層上のオーム接触部と、
を含む電気化学的装置。
【請求項2】
前記半導体層がシリコンである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記半導体層が、500〜600μmの範囲の厚さを有する、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の装置。
【請求項4】
前記アルカリ土類酸化物がSrOである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記TiO2層のMOの量が、該TiO2に対するモル基準で5%よりも少ない、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記TiO2層内にMOが存在しない、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記TiO2層が100〜500Åの厚さである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記金属グリッドが貴金属で作られる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記金属グリッドが、前記TiO2層に均一の電界を印加することができるように配置される、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項による装置の前記TiO2層の表面においてOHラジカルを生成する方法であって、
(i)H2Oを含む流体に前記表面を接触させる段階と、
(ii)前記装置に電界を印加する段階と、
を含む方法。
【請求項11】
前記TiO2層に印加される電圧が、電流が流れることができるように正孔電流に対するエネルギー障壁を低下させるのに十分である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電圧が少なくとも0.5Vである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記OHラジカルが、汚染流体の消毒又は無毒化に使用される、請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記流体が、化学汚染物質、細菌及び病原体からなる群から選択される1つ又はそれ以上の成分で汚染されている、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−511435(P2008−511435A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529387(P2007−529387)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003406
【国際公開番号】WO2006/024869
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(507070711)ジェン−エックス パワー コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】