説明

電気抵抗測定装置

【課題】高温域における電気抵抗率を簡易な構造で精度良く測定することができる電気抵抗測定装置を得る。
【解決手段】試料10が設置される測定室1と、測定室1内で試料10を保持するための保持部材4,5と、保持部材4,5に保持された試料10に直流電流を通電し加熱するための直流電源14と、試料10の測定部における温度を測定するための温度測定手段と、試料10の電気抵抗率を測定するための電気抵抗率測定手段とを備える電気抵抗測定装置であって、測定室1の外周部を構成する壁部1aが、試料10からの輻射による熱線を透過する材質から形成されており、試料10からの熱線が、測定室1の壁部1aに直接照射されて通り外部に放射されるように構成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により加熱することができる試料の電気抵抗率を測定する電気抵抗測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黒鉛をはじめとする炭素材料やセラミックス及び金属などの導電性材料においては、試料に直流電流を通電し、加熱することにより、高温での電気抵抗率を測定することが行われている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2においては、高温での熱膨張率を測定する熱膨張率測定装置が開示されている。これらの熱膨張率測定装置においては、試料の周囲を断熱材や試料容器となる反射板などで覆う構造が採用されている。試料の測定部における温度は、このような断熱材や反射板に、光学窓を形成し、この光学窓を通して光学的に温度を測定している。また、温度測定に熱電対を用いる場合には、断熱材等に孔を形成し、この孔内に熱電対を挿入し試料の測定部に熱電対の先端を配置して測定している。このような構造は、高温での電気抵抗率を測定する従来の電気抵抗測定装置においても同様であった。
【0004】
従って、上記従来技術のように、試料の測定部の周辺を断熱材や反射板などで覆う場合、温度等の測定のため、断熱材や反射板に光学窓や孔などを形成する必要があり、測定装置の構造が複雑になるという問題があった。
【0005】
また、高温域での電気抵抗率の測定においては、高温に加熱する試料の雰囲気ガスとして、アルゴンなどの不活性ガスが一般に用いられている。しかしながら、非特許文献1に開示されているように、高温域においては、アルゴンガスなどの不活性ガスがイオン化し、放電が生じるため、電気抵抗率を正確に測定することが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−128977号公報
【特許文献2】特開2009−128066号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】炭素 TANSO 1991[No.146]P.33-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高温域における電気抵抗率を簡易な構造で精度良く測定することができる電気抵抗測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、試料が設置される測定室と、前記測定室内で前記試料を保持するための保持部材と、前記保持部材に保持された前記試料に直流電流を通電し、加熱するための直流電源と、前記試料の測定部における温度を測定するための温度測定手段と、前記試料の電気抵抗率を測定するための電気抵抗率測定手段とを備える電気抵抗測定装置であって、前記測定室の外周部を構成する壁部が、前記試料からの輻射による熱線を透過する材質から形成されており、前記試料からの前記熱線が、前記測定室の前記壁部に直接照射されて外部に放射されるように構成されていることを特徴としている。
【0010】
通電により加熱することができる試料の高温域での電気抵抗率の測定において、従来は、熱の拡散を防止して試料の温度を高くするために、試料の測定部の周囲に断熱材を設け、さらに測定室の外周部の温度上昇を防止し、特に測定人が手を触れた際の危険性を低減するために冷却設備等を設けていた。しかしながら、本発明者らは、測定室の外周部を構成する壁部を、試料からの輻射による熱線を透過する材質から形成することにより、測定室内及び測定室の外周部を構成する壁部の温度上昇を抑えることができ、断熱材や冷却設備等を必要とせず、簡易な構造で精度良く高温域における電気抵抗率をより正確に測定できることを見出した。
【0011】
例えば、試料温度が3000℃まで昇温したとしても、本発明によれば、測定室における試料の周囲の温度を、例えば200℃程度までにすることができる。すなわち、従来は、試料の周囲を覆っていた断熱材や遮蔽材が、試料からの熱線を吸収する材質であるので、試料の昇温と共に温度上昇していた。この断熱材や遮蔽材の温度上昇により試料の周囲の温度も上昇して高温になるため、試料周囲のガス等の影響によって高温における電気抵抗率の正確な測定が難しかった。さらに測定室の外周部の温度が高くなるため、冷却設備が必要となっていた。本発明者らは、このような従来の発想を転換し、試料からの熱線が測定室の外周部を構成する壁部に直接照射されるように構成し、さらに壁部に前記熱線を吸収しにくい材質を用いることにより、測定室の外周部を構成する壁部及び測定室内の温度上昇を抑制できることを見出した。本発明においては、試料からの熱線が直接測定室の壁部を通り、外部にほぼ放射される。このため、測定室内に試料からの熱線を吸収する部材がほぼ設けられていないので、測定室の外周部及び測定室内の温度を高温に上昇させることなく、簡易な構造で精度良く、高温域における電気抵抗率を測定することができる。さらに、測定室の外周部の壁部は、外部雰囲気と接しているため、熱を外部に放出する効果も有し、温度が上がりにくくなっている。
【0012】
また、測定室内の雰囲気ガスとして、アルゴンなどの不活性ガスを用いた場合においても、通電により加熱された試料の周囲の温度が高くなり過ぎないため、不活性ガスがイオン化し、放電が生じるのを防止することができる。このため、放電による電気抵抗率測定への影響を低減することができ、より正確な電気抵抗率を測定することができる。
【0013】
本発明において、前記測定室の壁部の材質は、波長0.4〜2.0μmの光の透過率が80%以上であることが好ましい。すなわち、上記範囲における各波長での光の透過率が80%以上であることが好ましい。試料からの輻射による熱線は、広い範囲の波長域で発生し、温度が高いほど強度が強くなる。しかしながら、低温領域では強度が強くなく、熱線が照射される物体に対する温度上昇への寄与はそれほど大きくはないと考えられる。また、輻射による熱線の強度は、高温になるほどピークが短波長側になり、特に1500℃以上では2.0μm以下の波長でピークとなるとともに、輻射による加熱の影響も無視できなくなる。従って、特に試料の温度が1500℃以上となる場合には、壁部において2.0μm以下の波長域の光をより多く透過させることにより、壁部の温度上昇を抑制し、ひいては測定室内部の温度上昇も抑制することができる。
【0014】
本発明においては、測定室に設置された試料の長さ方向に移動可能なように保持部材が、測定室内に保持されていることが好ましい。試料に直流電流を通電し、加熱することにより、試料は熱膨張する。試料の長さ方向に移動可能なように保持部材を測定室内に保持することにより、このような試料の熱膨張で、試料が長さ方向に膨張しても、それに伴い保持部材が移動するので、試料の熱膨張による試料への歪みの負荷を軽減することができ、試料の変形等を防止することができる。つまり、前記保持部材は、測定室において固定されておらず、直接測定室に置かれている構成となっている。これにより、保持部材は測定室上で移動可能になる。また、上記測定室は円筒状であることが好ましく、保持部材は円筒状の測定室の形状に沿って置く、半円形状であることが好ましい。これにより、保持部材の安定性を向上させ、測定を容易にすることができる。
【0015】
また、本発明においては、試料の測定部と保持部材との間に、試料からの熱線を反射するためのリフレクターが設けられていることが好ましい。このようなリフレクターを設けることにより、試料からの熱線で保持部材が温度上昇するのを低減することができる。そのため、測定室の外周部の壁部及び測定室内の温度上昇をさらに抑制することができる。また、熱による保持部材の劣化を防止することができる。
【0016】
また、本発明においては、前記測定室の外周部の壁部と試料との間の距離は、50mm以上であることが好ましい。試料からの輻射による熱線は、その到達距離に応じてより減衰されるため、試料からの距離が長いほど照射された物体は加熱されにくくなる。本発明では測定室の外周部の壁部に輻射の熱線により加熱されにくい材質を用いており、壁部を試料から50mm以上離すことにより、壁部の加熱をさらに抑制することができる。なお、測定室の外周部の壁部は、試料からの距離のとりやすさ等から円柱状であることが好ましく、その直径は100mm以上が好ましい。また、測定室を不活性ガスで置換するためには容積が大きくなりすぎないことが好ましく、直径が200mm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明において用いる温度測定手段としては、低温域を測定する熱電対と、高温域を測定する放射型温度計が挙げられる。低温域(室温〜約1300℃程度)は、熱電対で温度を測定し、高温域(約900℃以上)は、放射型温度計で温度を測定することができる。これにより、低温域から高温域までより正確な温度を測定することができる。
【0018】
本発明の電気抵抗測定装置は、上述のように、測定室内の雰囲気ガスとして、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いることができる。この場合、測定室内に不活性ガスを導入するための導入口と、測定室からガスを排出するための排出口と、排出口からガスを排気する排気手段とをさらに備えることが好ましい。
【0019】
本発明における測定室内の雰囲気ガスは、不活性ガスに限定されるものではないが、不活性ガスを雰囲気ガスとして用いることにより、酸化等により試料が変性するのを防止することができる。不活性ガスを用いた場合、上述のように、高温域において、不活性ガスがイオン化し、電気抵抗測定の正確性を損ねる場合がある。本発明によれば、上述のように、測定室内の温度上昇を抑制することができるので、不活性ガスのイオン化を抑制することができる。従って、不活性ガスのイオン化による電気抵抗測定への悪影響を低減することができ、より精度良く電気抵抗率を測定することができる。
【0020】
本発明において、測定室の壁部としては、特に限定されるものではないが、好ましいものとして石英ガラス、アルミナ等が挙げられる。これらの材質は、上記熱線を透過しやすいために温度が上昇せず、測定室の壁部及び測定室内の温度の上昇を抑制することができる。特に石英ガラスが好ましく用いられる。特に、石英ガラスは透明であり、耐熱性が高いため、加熱された試料を直接観察することができ好ましい。このため、測定室の壁部に窓等を設置する必要はなく、熱放射型温度計などにより、容易に高い温度の測定を行うことができる。また、試料の観察により測定できる他の物理的特性を容易に測定することができる。また、石英ガラスは、摩擦係数が小さく、保持部材を直接測定室に置いた場合に保持部材が自由に移動しやすくなる。
【0021】
本発明においては、試料の測定部の径方向の端縁の変位量を測定するための変位量測定手段をさらに備えていてもよい。このような変位量測定手段を用いることにより、試料の熱膨張率を測定することができる。
【0022】
変位量測定手段としては、光学式測定手段であることが好ましい。上述のように、測定室の壁部を透明な材質から形成することにより、測定室の外部に設けた光学的測定手段により、試料の測定部の径方向の端縁の変位量を容易に測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高温域における電気抵抗率を簡易な構造で精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に従う一実施形態の電気抵抗測定装置の測定室を示す斜視図。
【図2】図1に示す電気抵抗測定装置の測定部を示す斜視図。
【図3】図1に示す電気抵抗測定装置の測定部を示す平面図。
【図4】図3に示すA−A線に沿う断面図。
【図5】図1に示す電気抵抗測定装置に用いる保持部材を示す平面図。
【図6】図5に示すA−A線に沿う断面図。
【図7】図1に示す電気抵抗測定装置に用いる押え板を示す平面図。
【図8】図7に示すA−A線に沿う断面図。
【図9】図1に示す電気抵抗測定装置により測定する試料を示す平面図。
【図10】図9に示す試料の側面図。
【図11】図1に示す電気抵抗測定装置に用いるリフレクターを示す側面図。
【図12】図11に示すリフレクターを示す平面図。
【図13】図11及び図12に示すリフレクターの作製に用いる金属板を示す側面図。
【図14】図12に示す電気抵抗測定装置の測定部を示す斜視図。
【図15】本発明の一実施形態の電気抵抗測定装置を模式的に示す図。
【図16】本発明に従う一実施形態の電気抵抗測定装置を用いて測定した1つの試料における測定温度と抵抗変化率との関係を示す図。
【図17】本発明に従う一実施形態の電気抵抗測定装置を用いて測定した別の試料における測定温度と抵抗変化率との関係を示す図。
【図18】従来の測定装置により測定された試料の温度と抵抗との関係を示す図。
【図19】本発明の一実施形態の電気抵抗測定装置に用いる変位量測定装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体的な実施形態により説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1は、本発明に従う一実施形態の電気抵抗測定装置の測定室を示す斜視図である。図1に示すように、測定室1は、石英ガラス管からなる壁部1aの両端と、キャップ2及びキャップ3との間にO−リングを配置してクリップで固定することにより構成されている。本実施形態においてキャップ2及びキャップ3は、ベークライトより形成されているが、耐熱性のあるものであれば特に限定されるものではなく、金属や樹脂であってもよい。キャップ2には、測定室1内に不活性ガスを導入するための導入口18となるパイプが挿入されている。導入口18を通り、不活性ガスが測定室1内に導入される。本実施形態においては、不活性ガスとしてアルゴン(Ar)を用いている。不活性ガスとしては、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)など他の不活性ガスを用いてもよい。また、不活性ガスに代えて、窒素ガスを用いることも可能である。
【0027】
また、反対側に設けられたキャップ3には、排気口19が形成されている。排気口19は、測定室1内のガスを排気するため形成されている。なお、図1においては、排気口19を図示していない。排気口19には、測定室1内のガスを排気するための排気手段としての排気ポンプ(図示せず)が接続されている。
【0028】
排気口19から測定室1内のガスを排気した後、導入口18からアルゴンガスを導入することにより、測定室1内の雰囲気をアルゴンガスの雰囲気にすることができる。
【0029】
本実施形態の電気抵抗測定装置によって電気抵抗率が測定される試料10は、測定室1内において、保持部材4及び5によって保持されることにより、測定室1内に設置されている。
【0030】
図1に示すように、保持部材4には、電線8が接続されており、電線8は、キャップ2と壁部1aとの間を通り、外部に導き出されている。同様に、保持部材5には電線9が接続されており、電線9はキャップ3と壁部1aとの間を通り外部に導き出されている。電線8及び電線9は、図示されない直流電源に接続されている。電線8に接続された保持部材4と、電線9に接続された保持部材5の間に試料10が保持されることにより、試料10に、直流電源からの直流電流が通電され、試料10が加熱される。
【0031】
壁部1aを構成する石英ガラス管は、支持部材31及び32により、台33の上に支持されている。なお、本実施形態では、石英ガラス管として、直径120mmのものを使用し、石英ガラスの0.4〜2.0μmの波長の光の透過率は、80%以上であった。
【0032】
図2は、図1に示す電気抵抗測定装置の測定部を拡大して示す斜視図である。
【0033】
図2に示すように、保持部材4は、台座部4aと、押え板4eとを組み合わせることにより構成されている。同様に、保持部材5も、台座部5aと、押え板5eを組み合わせることにより構成されている。台座部4a及び5aは、本実施形態において、黒鉛から形成されている。押え板4e及び5eは、本実施形態において銅から形成されている。
【0034】
図3は、図1に示す電気抵抗測定装置の測定部を示す平面図であり、図4は、図3に示すA−A線に沿う断面図である。
【0035】
図5は、台座部5aを示す平面図であり、図6は図5のA−A線に沿う断面図である。図7は、押え板5eを示す平面図であり、図8は、図7に示すA−A線に沿う断面図である。
【0036】
台座部4aも、台座部5aと同様の構造を有しており、押え板4eも、押え板5eと同様の構造を有している。
【0037】
図2及び図3に示すように、試料10の一方端部は、台座部5aに形成された溝5i(図5及び図6を参照)内に配置され、その上に、押え板5eを配置し、ボルト及びナットからなる固定具5bのボルトを、台座部5aの孔5f及び押え板5eの孔5jに通し、ナットで締め付けることにより、台座部5aと押え板5eの間に挟み固定されている。
【0038】
試料10の他方端部も、同様に、台座部4aと押え板4eを、固定具4bで固定することにより、台座部4aと押え板4eに挟み固定している。
【0039】
図4には、台座部5aと押え板5eの間に試料10を挟み固定した状態が示されている。
【0040】
図4に示すように、台座部5aの底面は、壁部1aの内面に沿う半円形状を有しており、台座部5aは、筒状の壁部1a内に挿入して配置され、壁部1aには固定されていない。台座部4aも同様に、壁部1a内に挿入して配置され、壁部1aには固定されていない。従って、保持部材4及び5は、測定室1内において、試料10の長さ方向に移動可能な状態で、測定室1内に保持されている。
【0041】
図2及び図3に示すように、試料10の測定部、すなわち保持部材4と保持部材5の間に位置する試料10の部分と、保持部材4との間には、リフレクター6が設けられている。同様に、試料10の測定部と保持部材5との間には、リフレクター7が設けられている。リフレクター6とリフレクター7の間の距離は、特に限定されるものではなく、試料10の長さによって変化させればよい。つまり、リフレクター6及び7を保持部材4及び5に固定し、試料10の長さにより保持部材4及び5とともに距離を変化させるようになっている。
【0042】
図11は、リフレクター6を示す側面図であり、図12は、リフレクター6を示す平面図である。リフレクター6は、図13に示す形状のステンレスSUS304からなる金属板を加工することにより作製される。図13に示すように、試料10を通す切抜き部6aが形成されており、その両側に切込6d及び6eが形成されている。切込6d及び6eの外側のハッチングで示す部分は打ち抜きにより抜き取られる。切込6d及び6eをその根元部分で折り曲げることにより、図11及び図12に示すフラップ部6b及び6cが形成されている。フラップ部6b及び6cには、取り付けねじ4cを通すための切欠が形成されている。リフレクター7も、リフレクター6と同様の形状を有している。
【0043】
図3に示すように、リフレクター6のフラップ部に取り付けねじ4cが通され、リフレクター6が台座部4aに取り付けられている。同様に、リフレクター7のフラップ部に取り付けねじ5cを通すことにより、台座部5aにリフレクター7が取り付けられている。図4、図5及び図6に示すように、取り付けねじ5cは、台座部5aに形成された孔5gにねじ込むことにより取り付けられている。
【0044】
リフレクター6及び7は、上述のように、ステンレスから形成されているので、試料10から放射される熱線を反射することができる。リフレクター6は、試料10の測定部と保持部材4との間に設けられ、リフレクター7は、試料10の測定部と保持部材5との間に設けられている。従って、測定の際、試料10から放射された熱線が、保持部材4及び保持部材5に照射されないように反射することができる。このため、保持部材4及び保持部材5が熱線を吸収して温度上昇するのを抑制することができる。このため、測定室1内の温度が上昇するのを抑制することができる。また、保持部材4及び保持部材5が、試料10からの熱線により劣化するのを防止することができる。前記リフレクター6及び7は、少なくとも赤外線を反射するものが好ましい。
【0045】
図5に示す孔5hには、ボルト及びナットからなる固定具5dが取り付けられ、この固定具5dにより、電線9が保持部材5に取り付けられている。同様に、固定具4dが、台座部4aに形成された孔に取り付けられ、電線8がこの固定具4dにより保持部材4に接続されている。
【0046】
図14は、試料10の測定部に、電圧降下検出端子11及び12を接触させた状態を示す斜視図である。図14に示すように、試料10の測定部に、一対の電圧降下検出端子11及び12の先端を接触させている。電圧降下検出端子11及び12は、黒鉛から形成されている。電圧降下検出端子11及び12は、それぞれステンレスからなる支持棒11a及び12aにより支持されている。なお、電圧降下検出端子11及び12の先端間は、7〜15mmとなるように設定した。しかしながら、電圧降下検出端子11及び12の先端間は、試料10において均熱となる箇所に接触させればよく、上記範囲に限定されるものではない。
【0047】
また、試料10の測定部の下方面には、熱電対13が取り付けられている。熱電対13は、接着剤により試料10に取り付けられている。従って、本実施形態において、熱電対13は、使い捨て可能なものを用いている。
【0048】
図15は、本実施形態の電気抵抗測定装置を模式的に示す図である。
【0049】
図15に示すように、試料10は、壁部1aが石英ガラスからなる測定室1内に配置されている。試料10には、直流電源14に一方端が接続された電線8及び電線9のそれぞれの他方端が接続されている。試料10に直流電流を通電することにより、試料10を加熱し、試料10の温度を上昇させることができる。上記直流電源14としては、定電圧定電流電源を用いることが好ましい。
【0050】
試料10には、上述のように、電圧降下検出端子11及び12が接触するように設けられている。直流電源14と試料10の間には電流計15が設けられている。電圧降下検出端子11及び12の間における電圧降下を測定し、電流計15で電流値を測定することにより、試料10の測定部における電気抵抗率を求めることができる。電流計15における電流値及び電圧降下検出端子11及び12における電圧降下の値は、温度計測回路・データロガ17に送られ、試料温度に対する電気抵抗率が算出される。
【0051】
試料10の測定部の温度は、低温域においては、熱電対13により測定される。熱電対13で測定されたデータは、温度計測回路・データロガ17に送られる。また、高温域における試料10の測定部の温度は、測定室1の外部に設けられた放射型温度計16により測定される。放射型温度計16で測定された温度データは、温度計測回路・データロガ17に送られる。このようにして測定された温度データに基づき、温度計測回路・データロガ17から直流電源14に信号が送られ、試料10に通電させる電流量または電圧を制御し、試料10の昇温速度を制御することができる。
【0052】
また、測定室1の外部には、光学式変位量測定装置20が設けられている。光学式変位量測定装置20は、試料10の測定部の径方向の両端縁の変位量を測定するための装置である。
【0053】
図19は、光学式変位量測定装置20の構成を説明するための模式図である。
【0054】
図19に示すように、光学式変位量測定装置20には、試料10の測定部を拡大して投影する投射レンズ22が設けられている。試料10と投射レンズ22の間には、光学フィルタ(または絞り)21が設けられている。投射レンズ22により拡大された試料10の測定部の像における径方向の両端部10a及び10bは、一対の撮像手段としての一次元CCD23及び24で撮像される。一次元CCD24には、試料10の一方端部10aが撮像される。一次元CCD23には、試料10の他方端部10bが撮像される。一次元CCD23からの電気信号25における変曲点25aにより、試料10の他方端部10bの位置を検出することができる。同様に、一次元CCD24からの電気信号26の変曲点26aにより、試料10の一方端部10aの位置を検出することができる。これにより、試料10の一方端部10aから他方端部10bまでの距離を測定することができる。
【0055】
試料10が加熱され熱膨張すると、径方向においても膨張するので、一方端部10aと他方端部10bの間の距離が変化する。これにより、所定の温度差における径方向の変位量を求めることができ、熱膨張率を算出することができる。
【0056】
以上のように、光学式変位量測定装置20により、試料10の両端部10a及び10bの変位量を測定して、試料10の熱膨張率を求めることができる。
【0057】
図15に戻り、本実施形態の作用効果について説明する。
【0058】
上述のように、本実施形態においては、測定室1の壁部1aが石英ガラスから形成されている。石英ガラスは、熱線を透過する材質であり、試料10から発生する熱線を透過する。このため、測定室1内の温度上昇を抑えることができ、断熱材や冷却設備等を必要とせず、簡易な構造で精度良く高温域における電気抵抗率を測定することができる。
【0059】
放射型温度計16で、試料10の測定部の温度が3000℃程度に昇温している際に、試料10の上方の壁部1aにおける温度を測定したところ、396℃であった。また、試料10の測定部の中央から100mm程度離れた場所、すなわちリフレクター6及び7の上方では149℃であった。また、測定室1の端部、すなわちキャップ2及び3の近傍における温度を測定したところ、約100℃であり、測定室1内の温度が極めて低く抑えられていることがわかる。
【0060】
図16及び17は、本実施形態の電気抵抗測定装置を用いて測定した試料の測定温度と抵抗変化率との関係を示す図である。ここで、試料10としては、等方性黒鉛(東洋炭素社製、グレード名「IG−12」:図16)及び等方性黒鉛(東洋炭素社製、グレード名「TTK−50」:図17)を用いた。図16及び17に示すように、2800℃程度の高温まで抵抗変化率を精度良く測定することができる。
【0061】
図18は、従来技術である非特許文献1の35ページの図2に示された等方性黒鉛(グレード名「IG−110」)の測定結果を示している。図17に示すように、温度が2400K以上になると、抵抗値が低下し始めている。これは、試料近傍のアルゴンガスがイオン化するため、電流が試料内部だけでなく、アルゴンガスを通じても流れるようになり、試料の見かけの電気抵抗が減少するものと考えられる。
【0062】
これに対し、本実施形態では、上述のように、測定室1内での温度上昇を抑制することができるので、雰囲気ガスであるアルゴンガスがイオン化するのを抑制することができ、精度良く電気抵抗率を測定することができる。
【0063】
本実施形態においては、試料10として黒鉛を用いているが、本発明の装置により測定できる試料は、通電により加熱することができる試料であれば、特に限定されるものではなく、セラミックスや金属なども測定することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…測定室
1a…壁部
2…キャップ
3…キャップ
4…保持部材
4a…台座部
4b…固定具
4c…取り付けねじ
4d…固定具
4e…板
5…保持部材
5a…台座部
5b…固定具
5c…取り付けねじ
5d…固定具
5e…板
5f…孔
5g…孔
5h…孔
5i…溝
5j…孔
6…リフレクター
6a…切抜き部
6b,6c…フラップ部
6d,6e…切込
7…リフレクター
8…電線
9…電線
10…試料
10a…一方端部
10b…他方端部
11,12…電圧降下検出端子
11a,12a…支持棒
13…熱電対
14…直流電源
15…電流計
16…放射型温度計
17…温度計測回路・データロガ
18…導入口
19…排気口
20…光学式変位量測定装置
21…光学フィルタ
22…投射レンズ
23…一次元CCD
24…一次元CCD
25…電気信号
25a…変曲点
26…電気信号
26a…変曲点
31,32…支持部材
33…台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が設置される測定室と、
前記測定室内で前記試料を保持するための保持部材と、
前記保持部材に保持された前記試料に直流電流を通電し加熱するための直流電源と、
前記試料の測定部における温度を測定するための温度測定手段と、
前記試料の電気抵抗率を測定するための電気抵抗率測定手段とを備える電気抵抗測定装置であって、
前記測定室の外周部を構成する壁部が、前記試料からの輻射による熱線を透過する材質から形成されており、前記試料からの前記熱線が、前記測定室の前記壁部に直接照射されて外部に放射されるように構成されていることを特徴とする電気抵抗測定装置。
【請求項2】
前記測定室の前記壁部の材質は、波長0.4〜2.0μmの光の透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項3】
前記測定室に設置された前記試料の長さ方向に移動可能なように、前記保持部材が前記測定室内に保持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項4】
前記試料の前記測定部と前記保持部材との間に、前記試料からの前記熱線を反射するためのリフレクターが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項5】
前記測定室の壁部と前記試料との間の距離が、50mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項6】
前記温度測定手段が、低温域を測定する熱電対と、高温域を測定する放射型温度計であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項7】
前記測定室内に不活性ガスを導入するための導入口と、
前記測定室からガスを排気するための排出口と、
前記排出口からガスを排気する排気手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項8】
前記測定室の前記壁部が、石英ガラスから形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項9】
前記試料の前記測定部の径方向の端縁の変位量を測定するための変位量測定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項10】
前記変位量測定手段が、光学式測定手段であることを特徴とする請求項9に記載の電気抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−68092(P2012−68092A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212212(P2010−212212)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】