説明

電気掃除機用ホース

【課題】 掃除機などに使用される可撓性ホースにおいて、特に良好な曲げ特性を持ち、引っ張り強度および耐久性に優れるとともに、気流共鳴音の発生を防止可能な可撓性ホースを提供する。
【解決手段】 断面が略S字状の帯状体14を螺旋状に捲回し、互いに隣接する前記帯状体の重ね合わせ部14a、14cを接着剤13により接着一体化した可撓性ホース10において、帯状体の内壁部14dと立ち上がり部14eと重ね合わせ部14aとが互いに、略円弧状で肉厚が一定である接続部14g、14hによって接続されたような帯状体により可撓性ホースを形成した。前記内壁部14dの少なくとも一部が前記接続部14g、14hがホース中心線に最も近づく部分よりも、ホース中心線から遠い位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性ホースに関する。特に、電気掃除機の吸い込みホースとして使用される可撓性ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気掃除機の吸い込みホース等に使用されている可撓性ホースは、塩化ビニル樹脂(PVC)を主体に形成されたものが汎用されている。例えば、硬鋼線をPVCによって被覆した樹脂被覆補強線材を螺旋状に捲回して螺旋状の補強体を形成し、この補強体の外側に、軟質PVCよりなるチューブを被覆したり、軟質PVCよりなるテープを螺旋状に捲回したりして、蛇腹状のホース壁を形成すると共に、ホース壁と補強体を融着一体化した構造の可撓性ホースが知られている。
しかしながら、近年の地球環境問題において、PVCの廃棄燃焼物が有毒ガスを発生させたり、酸性雨の原因とされたりして、その使用に制限が加えられる傾向にある。また、樹脂被覆補強線材を持つPVC製のホースは誤って足で強く踏んだりした場合に、硬鋼線が永久変形してホースが偏平化してしまうことがある。
そこで、可撓性ホースにおいては、ポリオレフィン系樹脂のみを使用して、可撓性ホースを成形することに移行しつつある。ポリオレフィン系樹脂には、PVCのような環境有害性がなく、かつ、それ自体でホース形状を保持して永久変形しない可撓性ホースを製造できる。特に、軟質PVCより硬度の高いポリオレフィン系樹脂が好ましく使用される。
【0003】
そのような可撓性ホースとしては、例えば特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1には、ホースを小さな半径で曲げた際の座屈を防止するために、螺旋状に捲回され互いに重ね合わされるポリオレフィン系樹脂製の帯状体34の接合部分を、帯状体34よりも硬度の高いホットメルト接着剤樹脂33により接合し、補強体としたホース30が開示されている。(図7参照)
図6に特許文献1に示された従来の可撓性ホースにおける帯状体34の断面図を示す。帯状体34は、略S字状の断面を持ち、その両端部には、帯状体が捲回された際に互いに重なり合い、接着剤によって接着一体化される重ね合わせ部34a、34cが設けられている。帯状体34の両端の重ね合わせ部34a、34cの間には、捲回された際にホース内周面側を構成する部分(以下内壁部34d)と、捲回された際にホース外周面側を構成する部分(以下外壁部34f)と、内壁部と外壁部の間の立ち上がり部34eが設けられている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載されたような可撓性ホース30においては、以下に示すような課題があり、更なる改善が待たれていた。
まず第1の課題として、ホースの曲げやすさの改善が求められていた。図6にその帯状体の断面を示した従来例においては、重ね合わせ部34aと内壁部34dを接続している角部分A部、および、立ち上がり部34eと内壁部34dを接続している角部分B部において実質的に肉厚が厚くなっていた。従って、角部分A部およびB部の変形が他の部分に比べ阻害されるために、ホースが比較的曲げにくいものとなってしまう傾向があった。ホースの曲げやすさを向上させるために、帯状体の肉厚を全体に減少させることも考えられるが、ホースの強度・耐久性・耐座屈性すなわちつぶれにくさを悪化させる方向であるために、帯状体の肉厚の低減には限界があり、ホースの曲げやすさの改善は限定的な範囲にとどまるものであった。
【0005】
また、そのような帯状体34に角部分A部、B部があると、ホース30を曲げた際に、その部分の近傍で応力集中が起こりやすく、ホースの引っ張り強度や耐久性を低下させる恐れがあるという課題もあった。
【0006】
また、従来の可撓性ホースにおいては、完成したホースの使用時において、気流がホース30の内壁と相互作用することによって、笛吹き音のような鋭い共鳴音が発生することがあった。一旦共鳴音が発生すると、かなり大きな騒音となるために、掃除機の使用を一旦中断せざるを得なくなってしまう。共鳴音の発生は、ホース内を流れる気流の流速が高いほど発生しやすく、掃除機用のホースとしては、より高い流速で使用しても、共鳴音が発生しにくいようなホースが望まれていた。
【0007】
また、ホースの耐座屈性すなわちつぶれにくさの更なる改善が望まれていた。特許文献1に示された従来例においては、さらに耐座屈性を向上させるためには、補強体である硬度の高いホットメルト接着剤33の量を増やしたり、接着する領域を広くしたりするなどの方策が考えられる。しかしながら、いずれの方策も、ホースの重量アップやホースの曲げやすさの劣化を伴うものであり無制限に行うことはできず、従って、ホースの耐座屈性の向上も限定的なものとならざるをえなかった。
【0008】
また、ホースの曲げやすさや曲げた際の感触をホース全体にわたって均一なものとするのが困難であるという品質上の課題もあった。すなわち、従来例においては、互いに一部が重なり合うように螺旋状に捲回された帯状体34を接着剤33により接着一体化するが、接着剤の供給量や、帯状体34を螺旋状に巻きつける際の張力や巻きつけ位置・方向によっては、図8(b)及び(c)に示すように、接着剤33が接着の不要な部分にまではみ出してしまうことがあった。接着剤33により接着された部分では、捲回された帯状体34と接着剤33が一体に接着されるため、その部分の剛性は非常に高いものとなる。このように、本来接着が不要である部分まで接着されてしまうと、その分だけ、帯状体34の接着されていない変形可能な部分が相対的に狭くなってしまうことになり、ホース30が曲がりにくくなる。
【0009】
従来の可撓性ホースにおいては、接着される領域の幅や厚さを適切に制限しうる手段が設けられていないため、接着剤33の供給量やホース成形の速度、接着剤の温度、帯状体34に付与される張力やその方向など押さえつけ度合いの程度といった生産時の種々の条件のばらつきにより、形成される接着層の幅や厚さにばらつきが生じることがあり、その結果、ホースの曲げやすさや曲げた際の感触が変化してしまうという、ホースの品質上の問題となることがあった。特に接着剤として比較的硬度の高い高密度ポリエチレン(HDPE)などを使用した際には、この問題が顕著となりやすいため、品質の安定したホースを得ることが困難となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−159668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、良好な曲げ特性を持ち、引っ張り強度および耐久性に優れるとともに、管内の気流に伴って発生する気流共鳴音の発生が防止できる可撓性ホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、帯状体の接着されない部分、特にホースの内壁部分を構成する部分の付近において特定の形状を有する帯状体を採用することによって、上記課題が解決されることを知見し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0013】
すなわち本発明は、帯状体を螺旋状に捲回し、互いに隣接する前記帯状体の重ね合わせ部を接着剤により接着一体化してなる可撓性ホースにおいて、前記帯状体はその断面が略S字状であり、前記断面における両端部が前記重ね合せ部となっており、前記両端部の中間には、捲回時にホース内周面側を形成する内壁部と、捲回時にホース外周面側を形成する外壁部と、内壁部と外壁部との間の立ち上がり部が設けられており、かつ、前記重ね合わせ部と前記内壁部と立ち上がり部とが互いに、略円弧状断面を持ち肉厚が一定である接続部により接続されていることを特徴とする、可撓性ホースである。(請求項1)
【0014】
本発明においては、前記内壁部が肉厚一定で、その少なくとも一部が前記接続部がホース中心線に最も近づく部分よりも、ホース中心線から遠い位置に配置されていても良い(請求項2)。
【0015】
また、本発明においては、前記帯状体には、前記接着剤により接着される領域の境界部に堰状の突起が設けられていても良い(請求項3)。
【0016】
また、請求項3に係る発明において、前記堰状の突起が、互いに隣接する前記帯状体の両側に、それぞれ互いに対向するように設けられていても良い(請求項4)。
【0017】
また、請求項3に係る発明において、前記堰状の突起が、ホース中心線に対して略直角をなす方向に突出するように設けられていても良い(請求項5)。
【0018】
また、本発明においては、前記帯状体を構成する樹脂よりも硬度の高い樹脂を前記接着剤として用いても良い(請求項6)。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、前記帯状体の断面において重ね合わせ部と内壁部と立ち上がり部とが互いに、略円弧状断面を持ち肉厚が一定である接続部によって接続されているので、ホースが曲がりやすくなり、かつ引っ張り強度及び耐久性を向上させ、気流共鳴音の発生を防止することができる。
【0020】
また、請求項2に係る発明においては、前記内壁部を肉厚一定とし、その少なくとも一部が、前記接続部がホース中心線に最も近づく部分よりも、ホース中心線から遠い位置に配置されているので、ホースの曲がりやすさを向上させるとともに、耐座屈性を向上させ、気流共鳴音の発生を防止することができる。
【0021】
また、請求項3に係る発明においては、前記帯状体には、前記接着剤により接着される領域の境界部に堰状の突起が設けられ、特に請求項5に係る発明においては前記堰状の突起が、ホース中心線に対して略直角をなす方向に突出するように設けられているので、接着剤のはみ出しを確実に防止し、ホースの曲げやすさを向上できる。さらに、ホースの曲げやすさや曲げの感触などがホース全体に渡って均一であるように、ホースの品質を安定させることができる。
【0022】
また、請求項4に係る発明においては、前記堰状の突起が、互いに隣接する前記帯状体の両側に、それぞれ互いに対向するように設けられているので、前記帯状体を押出成形によっても容易に得ることができる。
【0023】
さらに、請求項6に係る発明では、前記帯状体を構成する樹脂よりも硬度の高い樹脂を前記接着剤として用いたので、ホースの曲げやすさを確保しながら、耐座屈性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】は本発明の第1の実施形態である可撓性ホースの断面図である。
【図2】は本発明の第1の実施形態の帯状体の断面図である。
【図3】は本発明の第1の実施形態である可撓性ホースの壁面の断面図である。
【図4】は本発明の第2の実施形態の帯状体の断面図である。
【図5】は本発明の第2の実施形態である可撓性ホースの壁面の断面図である。
【図6】は従来例における帯状体の断面図である。
【図7】は従来例である可撓性ホースの壁面の断面図である。
【図8】は従来例である可撓性ホースの壁面の断面図であり、 (a)は正規の接着状態を示す図であり、 (b)は接着剤がはみ出した状態を示す図であり、 (c)は接着剤がはみ出した状態を示す図である。
【図9】は本発明の可撓性ホースの電気掃除機への適用を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を説明する。
(第1実施形態、図1、図2、図3、図9参照)
図9に本発明の第1の実施形態である可撓性ホース10が電気掃除機に適用された例を示す。可撓性ホース10は電気掃除機本体40の接続口41と、手元操作部50との間に接続され、吸引用ホースとして使用される。
図1は、第1の実施形態である可撓性ホース10の断面構造を示し、可撓性ホース10は、図2に示す断面の帯状体14を螺旋状に捲回したものである。図3には、可撓性ホース10の壁面部分の断面図を示す。
【0026】
帯状体14は、ポリオレフィン系樹脂を材料として図2に示す断面を有するように押出成形によって製作される。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)などが例示される。押し出された帯状体14は冷却され、その断面形状が固定された後、図示しないホース製造装置のガイドシャフトの周囲に螺旋状に捲回される。帯状体14は、重ね合わせ部14aが凹部14bに位置するように捲回され、互いに隣接する重ね合わせ部14a,14c間に接着剤13を充填し接着することにより可撓性ホース10に製造される。なお、帯状体14は、押出成形して冷却後に、リール等に巻き取って一旦保管したものを、ホース成形時にガイドシャフトに螺旋状に捲回してホースに成形してもよい。
【0027】
図2に示すように、帯状体14は略S字状の断面形状を有し、その両端部には、帯状体14が捲回された際に互いに重なり合い、接着剤13によって接着一体化される重ね合わせ部14a、14cが設けられている。帯状体14の両端に設けられた重ね合わせ部14a、14cの間には、捲回された際にホース内周面側を構成する部分(以下内壁部)14dと、捲回された際にホース外周面側を構成する部分(以下外壁部)14fと、内壁部14dと外壁部14fの間の立ち上がり部14eが設けられている。ホースの中心軸線に対し、内壁部14dと外壁部14fの断面は略平行に設けられており、内壁部14dの方が外壁部14fよりもホース中心軸の近くに配置され捲回される。重ね合せ部14a、14cと立ち上がり部14eとは、その断面がホース中心軸線に対して、(望ましくは45度から90度の角度をなすように、)交わるように設けられている。重ね合わせ部14aと内壁部14dとの間は、略円弧状の断面を持つ接続部14gによって滑らかに接続され、立ち上がり部14eと内壁部14dとの間は、略円弧状の断面を持つ接続部14hによって滑らかに接続されている。本発明においては、外壁部14f、立ち上がり部14e、接続部14h、内壁部14d、接続部14gは、一定の肉厚で滑らかに接続されている。
【0028】
従って、本実施形態においては、帯状体14において、接続部14gから外周部14fにかけて、その肉厚が一定になっているので、ホース10の伸縮や曲げに伴う帯状体14の変形が阻害される肉厚の厚い部分が無いので、曲げやすいホースとすることができる。さらに、肉厚が一定となっているので、応力集中が発生するような部位も無く、ホースの引っ張り強度や耐久性の劣化が未然に防止される。本発明の目的を鑑みると、特に接続部14g、14hの肉厚を一定にすることが重要である。
【0029】
また、内壁部14dには、帯状体14をホース10に捲回した際にホース外面側に向けて突出する突出部14iが設けられている。この突出部14iを設けたことによって、帯状体14が捲回されホース10に成形された状態において、内壁部14dの突出部14iが、前記接続部14g、14hが最もホース中心線に近づく部分よりも、ホース中心線から遠い位置に配置されるようになる。すなわち、ホース10をホース内部から見た際に、接続部14gおよび内壁部14dおよび接続部14hで構成されるホース内壁部分に、突出部14iに対応した凹状の溝が形成される。
【0030】
従って、接続部14gおよび内壁部14dおよび接続部14hで構成されるホース内壁部分が、いわば波板状の形態を有するものとなるので、ホースがつぶれるような変形に対する抵抗力を著しく高めることができる。よって、形成されたホースの耐座屈性すなわちホースのつぶれにくさを向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態においては、重ね合わせ部14aと内壁部14dとの間が、略円弧状の断面を有する接続部14gによって滑らかに接続され、立ち上がり部14eと内壁部14dとの間も、略円弧状の断面を持つ接続部14hによって滑らかに接続されているので、ホース10の内壁面を滑らかな面によって構成することができ、従来例に見られる様な角部分は無い。気流により発生する共鳴音の原因となる空気の擾乱は、ホース内壁面の角部など滑らかでない部分を起点として生ずることが多く、本発明ではホース内壁面を滑らかな面で構成できるので、本実施形態によれば、空気の擾乱が発生しにくく、従って、高い流速で使用しても気流共鳴音が発生しにくい。
【0032】
さらに、本実施形態では、ホース内壁面に突出部14iに対応する凹状の溝部が形成されているので、この凹状の溝部分によってホース内部を流れる気流の境界層領域が一種の乱流状態となり、気流がホース内壁面から剥離しにくくなる。気流共鳴音が発生している状態では、ホース内の気流は一種の脈動状態にある。特にホースが曲げられた部分等において、気流がホース壁面から剥離したりくっついたりすることが繰り返されることによって、気流内の脈動が成長し、共鳴音の発生に至ることが気流共鳴音発生のメカニズムのひとつであると考えられている。従って、本実施形態によれば、気流の剥離が防止されるので、ホースをより高い流速で使用しても気流共鳴音の発生を防止できる。ホース内を高速の気流が通過する電気掃除機においては、より高い流速まで気流共鳴音が発生しないことが特に望まれており、本実施形態は電気掃除機に対して特に好適に適用できる。
【0033】
さらに、本実施形態においては、接着剤により接着される領域の境界部には、接着剤13の領域外への流出を防止するために、堰状の突起が設けられている。すなわち、帯状体14の重ね合わせ部14aの端部には、成形されるホース10の中心線に対して略直角をなす方向に突出する堰状の突起14jが設けられている。また、重ね合わせ部14aのホース外面側には、堰状の突起14kが設けられており、重ね合わせ部14cのホース内面側には、堰状の突起14mが設けられている。
【0034】
図3は、ホース10の壁面の断面図である。隣接する帯状体14の重ね合わせ部14a、14cが重ね合わせられ、接着剤13によって接着一体化されている。堰状の突起部14jは外壁部14fのホース内面側表面と対向して配置されており、堰状の突起14kおよび堰状の突起14mは、互いに対向するように配置されている。帯状体14の接着は、重ね合わせ部14a、堰状の突起14j、外壁部14f、重ね合わせ部14c、堰状の突起14m、堰状の突起14kとで囲まれた領域に接着剤13を充填し、接着剤を固化することによって行われる。
【0035】
接着剤が充填される領域に塗布・注入された接着剤13は、帯状体14が捲回され、重ね合わせ部14a,14cの間の隙間が小さくなるに従って、他の領域へと広がっていこうとするが、本発明においては、堰状の突起14j、14k、14mによって、接着剤13が他の領域へ流出したりはみ出したりすることを確実に防止できる。従って、隣接する重ね合わせ部14a、14cの間は確実に接着一体化することができ、それ以外の部分には接着剤が付着しないようにでき、接着領域の幅や厚さを一定に保つことができる。従って、本実施形態によれば、ホースの曲げやすさや曲げた際の感触にばらつきを生ずることの無い、品質の安定した可撓性ホースを得ることができる。電気掃除機においては、手元操作部によってホースや掃除機本体を自在に操作する必要があるので、ホースの曲げやすさやその感触が均一でばらつきがないことが必要である。従って、本実施形態の可撓性ホースは電気掃除機に対しても特に好適に適用することができる。
【0036】
接着剤13は、前記帯状体14と同じポリオレフィン系樹脂からなるホットメルト型接着剤であって、その硬度が帯状体14よりも高いものを使用するのが望ましい。帯状体14と接着剤13の材料は同じであっても良いが、望ましくは、例えば、帯状体14がショア硬度D35のEVAであるとき、接着剤13としてはショア硬度D60ないしそれに近い値の硬度を有する高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)が使用される。
【0037】
接着剤13の硬度を帯状体14の硬度よりも高くすることにより、比較的硬度の高い接着剤13が比較的硬度の低い帯状体14の補強体として機能し、ホース10自体の可撓性を損なうことなく小さな曲げによるホースの座屈を未然に防止することができる。
【0038】
(第2実施形態、図4、図5参照)
図4は、本発明の第2の実施形態である可撓性ホース20を構成する帯状体24の断面を示し、図5は、可撓性ホース20の壁面の断面図であり、帯状体24が捲回され一部が重ね合わせられて、接着剤23により接着された状態を示している。
【0039】
第2実施形態においては、帯状体24が略S字状の断面形状を有し、重ね合わせ部24a、略円弧状断面の接続部24g、捲回された際にホース内周面側を構成する部分(以下内壁部)24d、略円弧状断面の接続部24h、立ち上がり部24e、捲回された際にホース外周面側を構成する部分(以下外壁部)24f、重ね合わせ部24cが設けられている点は第1の実施形態と同様であるが、本実施形態においては、内壁部24dには、帯状体24をホース20に捲回した際にホース外面側に向けて突出する突出部24iが2つ設けられている。帯状体24が捲回されホース20に成形された状態において、突出部24iのホース内面側表面は、接続部24h、24gの内周側表面よりもホース中心線との距離が遠くなる位置に設けられており、ホース20をホース内部から見た際に、接続部24gおよび内壁部24dおよび接続部24hで構成されるホース内壁部分に、突出部24iに対応した凹状の溝が2本形成されている。
【0040】
また、帯状体24の外壁部24fのホース内面側には、成形されるホース20の中心線に対して略直角をなす方向に突出する堰状の突起24kが設けられている。また、重ね合わせ部24aのホース外面側には、堰状の突起24jが設けられている。
【0041】
図5に示すように、堰状の突起24kは重ね合わせ部24aの端部と対向して配置されており、堰状の突起24jは、重ね合わせ部24cと対向するように配置されている。帯状体24の接着は、重ね合わせ部24a、堰状の突起24k、外壁部24f、重ね合わせ部24c、堰状の突起24jとで囲まれた領域に接着剤23を充填し、接着剤を固化することによって行われる。
【0042】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同じく、曲がりやすさを改善でき、引っ張り強度及び耐久性に優れ、耐座屈性に富み、曲げ特性や曲げの感触に関して特に品質が安定し、管内の気流に伴って発生する気流共鳴音の発生を防止できる。
特に第2の実施形態においては、内壁部24dに突出部24iが2本設けられているので、可撓性ホースの曲がりやすさと耐座屈性をより大きく改善することができる。
【0043】
(他の実施形態)なお、本発明に係る可撓性ホースは前記実施形態に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0044】
接着剤の接着領域外へのはみ出しを防止する堰状の突起の配置や形状は、第1及び第2の実施形態に示されたものに限定されるものではなく、接着剤の流出を阻止する効果のある形状であれば、例えば、柱状の突起が並べられたものであっても良い。堰状の突起部の配置は、接着する領域の境界部に配置すればよいが、第1の実施形態の堰状の突起14jおよび、第2の実施形態の堰状の突起24kのように、成形されるホースの中心線に対して堰状の突起が略直角をなす方向に突出するような位置に配置することが、より望ましい。帯状体をホースを捲回する際に、帯状体に張力を与えることにより、帯状体が巻きつけられるようになり、堰状の突起と対向する部位の間の隙間が狭くなるので、より効果的に接着剤のはみ出しを防止することができる。
【0045】
また、堰状の突起は、第2の実施形態の堰状の突起24jのように単独の堰状の突起で構成することもできるが、第1の実施形態の堰状の突起14kおよび14mのように互いに対向する2つの堰状の突起で構成することが、より望ましい。互いに対向する2つの堰状の突起とすることによって、それぞれの堰状の突起単独の高さを低くすることができるので、帯状体を押出成形によって形成する工程がより容易となる。
【0046】
また、可撓性ホースを構成する帯状体の断面形状は前記各実施形態に示した形状以外にも、本発明の特徴を有するものであれば、種々の断面形状のものを採用することができる。さらに、前記各実施形態で言及したポリオレフィン系樹脂の種類及び硬度は一例であり、ホース自体の用途あるいは要求される特性に合わせて適宜変更することができる。
【0047】
また、第1の実施形態において、帯状体14の一部を帯状体14の材料よりも高い硬度のポリオレフィン系樹脂で成形したり、帯状体14の一部に帯状体14の材料よりも高い硬度のポリオレフィン系樹脂で形成した補強芯を設けたりしてもよく、この場合には、接着剤13を低硬度のものとすることもできる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)図2に示したような断面形状を持ち、接続部14gから外壁部14fにかけての肉厚が0.8mmであるような帯状体を、硬度がショア硬度D35であるEVA樹脂を押出成形することにより作成し、その帯状体を捲回して、重ね合わせ部をショア硬度D60のHDPE樹脂により接着して、前記第1の実施形態に相当する内径35mm、外径43mmの可撓性ホースを得た。
【0049】
(実施例2)帯状体の断面形状が図4に示したような断面形状であることを除いては、実施例1と同じであるような、前記第2の実施形態に相当する可撓性ホースを得た。
【0050】
(比較例)帯状体の断面形状が図6に示した断面形状であることを除いては、実施例1と同じであるような、従来の可撓性ホースを得た。
【0051】
実施例1、実施例2、比較例の可撓性ホースに関し、曲げやすさ、引っ張り強度、耐久性、耐座屈性、曲げに関する品質の安定度、気流共鳴音の発生のしにくさを評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
それぞれの評価項目の評価方法については、以下の通りである。曲げやすさについては、手で曲げた際の反力により評価を行い、ホースを所定の曲げ形状に曲げる際の反力が小さいほど「良い」とした。引っ張り強度や耐久性の評価に関しては、強度及び耐久性の試験を行い、強度が大きい、破壊までの繰り返し回数が大きいものを「良い」とした。耐座屈性に関しては、ホースを小さい曲げ半径に曲げる目視評価試験を行い、小さい曲げ半径に曲げた際にもホースの断面がつぶれてしまわないものを「良い」とした。曲げに関する品質の安定度に関しては、それぞれ10本の曲げ評価用サンプルを準備し官能評価を行い、曲げやすさの評価にばらつきがないものを「良い」とした。気流共鳴音の発生のしにくさに関しては、それぞれのホースを直径150mmで4回巻いた試験サンプルを準備し、サンプルに対して空気流量を徐々に大きくしながら、気流共鳴音の発生の有無を評価する試験を行った。試験可能な最大流量まで気流共鳴音の発生がなかったもの、あるいは、より高い流量まで気流共鳴音の発生がなかったものを「良い」とした。
【0053】
【表1】

△標準的 ○良い ◎特に良い
【0054】
表1に示したように、実施例1および実施例2は比較例に比べ優れた評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
したがって、本発明によれば、特に良好な曲げ特性を持ち、引っ張り強度および耐久性に優れるとともに、気流共鳴音の発生が防止可能な可撓性ホースを提供することができ、産業上の利用可能性は高い。特に電気掃除機に適用できる可撓性ホースとして好適なホースが提供でき、利用価値が高い。
【符号の説明】
【0056】
10、20、30 可撓性ホース
13、23、33 接着剤
14、24、34 帯状体
14a、24a、34a 重ね合わせ部
14b、24b、34b 凹部
14c、24c、34c 重ね合わせ部
14d、24d、34d 内壁部
14e、24e、34e 立ち上がり部
14f、24f、34f 外壁部
14g、24g 接続部
14h、24h 接続部
14i、24i 突出部
14j、14k、14m 堰状の突起
24j、24k 堰状の突起
40 電気掃除機本体
50 手元操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状体を螺旋状に捲回し、互いに隣接する前記帯状体の重ね合わせ部を接着剤により接着一体化してなる可撓性ホースにおいて、
前記帯状体はその断面が略S字状であり、前記断面における両端部が前記重ね合せ部となっており、前記両端部の中間には、捲回時にホース内周面側を形成する内壁部と、捲回時にホース外周面側を形成する外壁部と、内壁部と外壁部との間の立ち上がり部が設けられており、
かつ、前記重ね合わせ部と前記内壁部と立ち上がり部とが互いに、略円弧状断面を持ち肉厚が一定である接続部により接続されていることを特徴とする、可撓性ホース。
【請求項2】
前記内壁部が肉厚一定で、その少なくとも一部が前記接続部がホース中心線に最も近づく部分よりも、ホース中心線から遠い位置に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の可撓性ホース。
【請求項3】
前記帯状体には、前記接着剤により接着される領域の境界部に堰状の突起が設けられていることを特徴とする、請求項1記載の可撓性ホース。
【請求項4】
前記堰状の突起が、互いに隣接する前記帯状体の両側に、それぞれ互いに対向するように設けられたことを特徴とする、請求項3記載の可撓性ホース。
【請求項5】
前記堰状の突起が、ホース中心線に対して略直角をなす方向に突出するように設けられたことを特徴とする、請求項3記載の可撓性ホース。
【請求項6】
前記帯状体を構成する樹脂よりも硬度の高い樹脂を前記接着剤として用いたことを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の可撓性ホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−97905(P2012−97905A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37023(P2012−37023)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2007−532710(P2007−532710)の分割
【原出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】