説明

電気接点材料、その製造方法、及び電気接点

【課題】1N程度あるいはそれ以上の比較的高い荷重においても耐摩耗性を有し、摺動特性に優れ、耐熱性に優れ、かつ耐食性を有する電気接点材料を提供する。また、そのような特性を有する電気接点材料を製造する方法、及び前記電気接点材料を用いてなる電気接点を提供する。
【解決手段】貴金属ないしはこれを主成分とする合金1からなる表層を有する電気接点材料であって、前記表層の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する有機皮膜2を設けてなる、耐食性及び摺動特性に優れた電気接点材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点材料に関する。詳しくは、耐食性及び摺動特性に優れ、寿命が長い電気接点材料、その製造方法、及びそれを用いてなる電気接点に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接点部品には、古くは電気伝導性に優れた銅又は銅合金が利用されてきたが、近年の接点特性の向上が進み、裸の銅又は銅合金を用いるケースは減少し、銅又は銅合金上に各種表面処理を施した製品が製造・利用されつつある。特に電気接点材料として多く利用されている物として、貴金属被覆が電気接点部に施されるものがある。中でもAu、Ag、Pd、Pt、Ir、Rh、Ruなどの貴金属は、その材料の持つ安定性や優れた電気伝導率を持つことなどから、各種電気接点材料として利用されており、殊にAgに関しては、金属の中で最も電気導電性に優れており、貴金属類でも比較的安価なことから多方面において汎用されている。
最近の電気接点材として、自動車ハーネス用のコネクター端子やスライドスイッチ、携帯電話搭載のコンタクトスイッチ、あるいはメモリーカードやPCカードの端子など、繰返しの挿抜や摺動を伴う電気接点材において、耐摩耗性に優れるといわれる電気接点材料が利用されている。耐摩耗性の向上に関しては、汎用的なものでは硬質Agや硬質Auを使用した接点材などが一般的であるが、中でもAgがAuやPdなどより安価なことから、近年は硬質光沢Agめっき材などの開発が進み、各種耐摩耗性を要求される箇所において使用されている。さらにはマイクロ粒子を分散させためっきやクラッド材なども研究開発されており、電気接点材の摺動特性においてさまざまな表面処理材が開発されている。
また、表面の摺動特性を向上させるためにめっき後の表面に封孔処理や潤滑処理を施すものも存在している。例えば、特許文献1では、Ag合金の上に純Agめっきを施し、さらにその上に脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる有機皮膜を設け、耐硫化性や耐摩耗性を向上することが記載されている。
【特許文献1】特開平6−212491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の硬質Agあるいは硬質Agめっき処理を施した電気接点材では、無光沢Ag材よりは摩耗性が少ないものの、比較的高い荷重での摺動が必要な箇所に用いるとそれらがすぐに消耗し、基材が露出して酸化や腐食を生じることで摺動接点材の導通不良をしばしば起こすことがあった。貴金属厚を厚くして基材露出を遅くさせるような手法も取られているが、高価な貴金属を大量に使用しているため、コストが高くなってしまうデメリットがある。また、上記特許文献1の手法では、0.5N以下の比較的低荷重での耐摩耗性は有効であったが、荷重が0.5N以上になると摩耗が加速度的に進行し、荷重1N〜1.5Nではすぐに摺動特性が低下することが分かった。そのうえ、Ag合金の上に純Ag層を設けるような二層構造であるため、製造コストが上昇するという問題点があった。
さらに、上述の電気接点材料は、高温環境下において摺動特性の低下がみられることがあるが、この原因は有機皮膜の耐熱性が不十分であることがわかってきた。
上記のような問題点を解消するため、本発明の目的は、1N程度あるいはそれ以上の比較的高い荷重においても耐摩耗性を有することにより摺動特性に優れ、耐熱性に優れ、かつ耐食性を有する電気接点材料を提供することにある。また、本発明の目的は、そのような特性を有する電気接点材料を製造する方法、及び前記電気接点材料を用いてなる電気接点を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記問題点に対して鋭意検討を重ねた結果、貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する電気接点材料であって、前記表層の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる耐熱性を有する有機皮膜を設けることによって得られた電気接点材料が、耐摩耗性や摺動特性に優れることを見出した。本発明はこの知見によってなされるに至ったものである。すなわち、本発明は、
(1)貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する電気接点材料であって、前記表層の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する有機皮膜を設けてなることを特徴とする、耐食性及び摺動特性に優れた電気接点材料、
(2)貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する電気接点材料であって、前記表層の表面上に脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる第1の有機皮膜層を設け、さらに、前記第1の有機皮膜表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する第2の有機皮膜を設けてなることを特徴とする、耐食性及び摺動特性に優れた電気接点材料、
(3)前記表層を形成する前記貴金属がAu、Ag、Cu、Pt、Pdまたはこれら何れか1種以上を主成分とする合金であることを特徴とする、前記(1)記載の電気接点材料、
(4)前記表層を形成する前記貴金属がAgないしはAgを主成分とする合金であることを特徴とする、前記(2)記載の電気接点材料、
(5)前記貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる前記表層が、めっき法あるいはクラッド法で形成されることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか1項に電気接点材料の製造方法、及び
(6)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電気接点材料を用いてなる、電気接点
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の電気接点材料は、1N程度あるいはそれ以上の比較的高い荷重においても耐摩耗性を有することにより摺動特性に優れ、かつ耐食性を有する。
本発明の電気接点材料は、特に摺動を伴うようなスライドスイッチ、タクトスイッチ等の電気接点に長い寿命で好適に使用される。
本発明の製造方法によれば、より大きな耐食性および潤滑性を有し、かつ摺動特性に優れた電気接点材料を製造できる。
本発明の電気接点は、耐熱性、耐食性、耐摩耗性が優れるので寿命が長く、摺動を伴うようなスライドスイッチ、タクトスイッチ等として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の電気接点材料について説明する。
本明細書及び特許請求の範囲において、「貴金属」とは、イオン化傾向が水素よりも小さく、貴である金属をいう。
本明細書及び特許請求の範囲において、「貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する電気接点材料」とは、有機皮膜形成前の最表面に貴金属ないしはこれを主成分とする合金が現れている電気接点材料をいう。
本発明の電気接点材料の形状は、板、棒、線、管、条、異型条など、電気接点材料として使用される形状であれば特に制限はない。また、表面が貴金属またはその合金で完全に覆われている必要はなく、例えばフープ条のストライプ状、スポット状等、接点材料として利用される箇所であれば部分的に露出しているものでもよい。
本明細書及び特許請求の範囲において、「貴金属を主成分とする合金」とは、前記貴金属の含有量として、貴金属を50質量%以上含有する合金をいい、70質量%以上含有する合金が好ましい。
本発明の電気接点材料において、貴金属ないしはこれを主成分とする合金の組成について特に制限はないが、金(Au)ないしはAu合金の具体例としては、例えば、Au、Au−Ag合金、Au−Cu合金、Au−Ni合金、Au−Co合金、Au−Pd合金、Au−Fe合金等が挙げられ、銀(Ag)ないしはAg合金の具体例としては、例えばAg、Ag−Cu合金、Ag−Ni合金、Ag−Se合金、Ag−Sb合金、Ag−Sn合金、Ag−Cd合金、Ag−Fe合金、Ag−In合金、Ag−Zn合金、Ag−Li合金、Ag−Co合金、Ag−Pb合金等が挙げられ、銅(Cu)ないしはCu合金の具体例としては、例えばCu、Cu−Sn合金、Cu−Zn合金、Cu−Ag合金、Cu−Au合金、Cu−Ni合金、Cu−Fe合金等が挙げられる。
【0007】
図1は、本発明の電気接点材料の1つの実施形態の断面図を示す図である。
図1中、貴金属ないしはその合金1の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する有機皮膜2を設けてなる形態である。
図2は、本発明の電気接点材料のもう1つの実施形態の断面図を示す図である。
図2中、基体3の表面上に貴金属ないしはその合金1からなる表層が形成され、その表層の表面上にエーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する有機皮膜2を設けてなる形態である。
本発明において、前記貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる前記表層が形成される基体としては、電気接点材料の基体として用いられる基体である限り特に制限はないが、例えば、銅(Cu)ないしはその合金、鉄(Fe)ないしはその合金、ニッケル(Ni)ないしはその合金、アルミニウム(Al)ないしはその合金等が挙げられる。
さらにこれらの貴金属ないしはその合金からなる前記表層がめっき法で形成される場合は、基体成分と貴金属ないしはその合金からなる表層の拡散防止や密着性向上のため、Niおよびその合金、もしくはコバルト(Co)およびその合金、もしくはCuおよびその合金など、適宜任意の下地層を設けてもよい。また、下地層は複数層あっても良く、被覆仕様用途等に応じて各種の下地構成を設けるのが好ましい。これらの厚さについても特に制限はないが、電気接点材としての使用条件やコスト等を考慮すると、前記貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる前記表層の厚さは、下地層を含めても0.01〜10μmが好ましく、0.1〜2μmがより好ましい。
【0008】
貴金属ないしはその合金からなる表層の表面上に形成される有機皮膜は、エーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる耐熱性を有する有機皮膜である。ここで、「耐熱性を有する」とは、雰囲気温度80℃における100回摺動後の動摩擦係数が0.4以下であって、雰囲気温度80℃におけるJIS H 8502記載のレイティングナンバーの値が6以上となる性質を付与することをいう。
この有機皮膜は、貴金属に対して物理吸着ないしは化学吸着するエーテル結合基を有し、かつ潤滑性を兼ね備えた有機皮膜であって、耐食性向上および潤滑性向上を目的とするために設けた耐熱性を有する皮膜である。
本発明において、前記有機皮膜の厚さについては特に制限はないが、接触抵抗の上昇抑制の観点から、0.0001〜0.1μmが好ましく、0.0001〜0.01μmがより好ましい。
【0009】
前記エーテル結合基を有する有機化合物としては、例えば、炭素原子数5〜40のエーテル化合物が挙げられ、炭素原子数6〜30のエーテル化合物が好ましい。また、前記エーテル結合基を有する有機化合物としては、少なくとも1つの不飽和結合を有するエーテル化合物がより好ましい。炭素原子数が上述の範囲内のエーテル化合物は、耐熱性、耐食性、摺動特性が優れた有機皮膜を形成する。
前記エーテル化合物の具体例としては、ジプロピルエーテル、アリルフェニルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、アルキル(例えば、ノニル、エイコシルなど)ジフェニルエーテル等が挙げられる。また、特に分子量が100以上(好ましくは600以下)のエーテル化合物は、沸点が比較的高く、耐熱性に特に優れた有機皮膜が得られ、よりすぐれた効果を発揮する。さらに、エーテル化合物を構成する炭化水素基が不飽和炭化水素であると、同じ炭素数の飽和炭化水素である場合と比較して、耐熱性が高くなる傾向にあるため望ましい。
【0010】
前記有機皮膜の形成方法については、貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する材料を、上記有機化合物を含有する溶液中に浸漬して乾燥することで前記皮膜を形成する方法が好ましいが、そのほか、上記有機化合物を含有する溶液ミスト中を通過させたり、上記溶液を湿らせた布等で拭いたりするなどしたのち、乾燥させることにより形成することもできる。
前記溶液中のエーテル化合物等のエーテル結合基を有する有機化合物の濃度は特に制限されることはないが、好ましくは0.01〜10質量%となるように、トルエン、アセトン、トリクロロエタン、市販品合成溶剤(例えば、NSクリーン100W;株式会社ジャパンエナジー製)等、適当な溶剤に溶解して使用することができる。有機皮膜形成の処理温度・処理時間については特に制限はないが、常温(25℃)で0.1秒以上(好ましくは0.5〜10秒)浸漬すれば目的とする有機皮膜が形成される。
この有機皮膜処理は、1種の有機皮膜を2回以上形成処理したり、2種以上のエーテル化合物からなる混合液による有機皮膜を2回以上形成処理したり、さらにはこれらを交互に形成処理したりしても良いが、工程数やコスト面を考慮すると多くても形成処理は3回以内にするのが好ましい。
【0011】
次に、図3を参照して、本発明の電気接点材料のさらにもう1つの実施形態について説明する。
図3は、本発明の電気接点材料のさらにもう1つの実施形態の断面図を示す図である。図3中、基体3の表面上に貴金属ないしはその合金1からなる表層が設けられ、その表層の表面上に脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる第1の有機皮膜層4を設け、さらに、前記第1の有機皮膜層4の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する第2の有機皮膜2を設けてなる形態である。
貴金属ないしはその合金からなる表層の表面上に形成される有機皮膜が、脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる第1の有機皮膜層を設け、さらに、前記第1の有機皮膜層の表面上にエーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる耐熱性を有する第2の有機皮膜を設けることで、その潤滑性や耐食性がより向上する。具体的には、脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる前記第1の有機皮膜層は、貴金属に対して吸着しやすい脂肪族アミン、メルカプタンによる皮膜形成処理を施すことで、主に耐食性向上を目的として設けられた皮膜層である。
本発明に用いられる脂肪族アミン及びメルカプタンとしては、炭素原子数5〜50の脂肪族アミン及びメルカプタンが好ましく、具体的には、ドデシルアミン、アイコシルアミン、ノニルアミン、ドデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、アイコシルメルカプタン、ノニルメルカプタン等が挙げられる。上述の炭素原子数の範囲の脂肪族アミンまたはメルカプタンにより形成される第1の有機皮膜は、その後に形成される第2の有機皮膜の耐熱性に悪影響をもたらさない。
皮膜形成処理方法としては、貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する材料を、脂肪族アミン、メルカプタンを含有する溶液中に浸漬する方法で処理することが好ましいが、その他、上記脂肪族アミン等を含有する溶液ミスト中を通過させたり、前記溶液を湿らせた布等で拭くなどしても皮膜形成処理をすることができる。
【0012】
前記溶液中の脂肪族アミン、メルカプタンの濃度は特に制限されることはないが、好ましくは0.01〜10質量%となるように、トルエン、アセトン、トリクロロエタン、市販品合成溶剤等、適当な溶剤に溶解して使用することができる。処理時間も特に制限されることはないが、常温で0.1秒以上(好ましくは0.5〜10秒)浸漬すれば目的とする有機皮膜が形成される。
この有機皮膜処理においても、1種の有機皮膜を2回以上形成処理したり、1種以上の脂肪族アミン及び/又はメルカプタンを含有する混合液を用いて有機皮膜を2回以上形成処理したり、さらにはこれらを交互に形成処理したりしても良いが、工程数やコスト面を考慮すると多くても形成処理は3回以内にするのが好ましい。
前記第1の有機皮膜を形成後、さらに、前記第1の有機皮膜層の表面上にエーテル結合基を含む有機化合物からなる耐熱性を有する第2の有機皮膜を形成する。この第2の有機皮膜は、前述の効果に加え、比較的高荷重での摺動接点として用いられる場合において、前記第1の有機皮膜では耐え切れない摺動を保護するために設けた皮膜であり、かつ前記第1の有機皮膜層の耐食性を長時間保護する効果もあり、さらに耐熱性にも優れた皮膜である。表面処理方法は、上記脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる第1の有機皮膜層を設けた後、前述と同様の手法で皮膜形成処理することによって得ることができる。
本発明において、前記第1及び第2の有機皮膜の厚さについては特に制限はないが、接触抵抗上昇抑制の観点から、0.0001〜0.1μmが好ましく、0.0001〜0.01μmがより好ましい。
【0013】
これらの処理に関しては、全ての貴金属およびその合金において、エーテル結合基を有する有機化合物からなる有機皮膜のみの処理、あるいは脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる有機皮膜処理後にエーテル結合基を有する有機化合物から有機皮膜を形成する処理、どちらでも効果を発揮するが、前記処理では特にAu、Ag、Cu、Pt、Pdあるいはこれら何れか1種以上を主成分とする合金において強い効果を発揮し、後記処理に関しては特にAg又はAgを主成分とする合金において殊に効果を発揮する。
また、上記貴金属ないしはその合金からなる表層をめっき法あるいはクラッド法で形成した場合、その他の被覆法よりも有機皮膜形成前の最表層の状態が活性であるため、有機皮膜がより強固に吸着し、より大きな耐食性および潤滑性に対する効果が期待される。
これらの手法で形成された本発明の電気接点材料を用いた電気接点は、従来の接点材と比べて耐熱性を有し、耐食性もよく、かつ摺動を伴うような接点材において、耐摩耗性が従来材と比して優れた特性を持った電気接点が形成できる。
本発明の電気接点としては、繰返しの挿抜や摺動を伴う電気接点が挙げられ、具体的には、自動車ハーネス用のコネクター端子やスライドスイッチ、携帯電話搭載のコンタクトスイッチ、あるいはメモリーカードやPCカードの端子等が挙げられる。これらの用途は、基本的には電気信号用または小電流用であって、スイッチの開閉または端子の接続の際にスパーク等により有機皮膜の状態が変化することはない。また、本発明の電気接点は、耐熱性を有する有機皮膜が形成されているため、高温環境下における使用にも耐えうるものとなる。
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
(実施例1)
厚さ0.3mm、幅180mmのC14410条(基体)を電解脱脂、酸洗の前処理を行った後、表1に示しためっき厚0.5μmのめっき構成材を作製した。次に、得られためっき構成材に有機皮膜形成処理を施し、有機皮膜厚0.01μmの本発明(実施例1〜14)および比較例1〜8の電気接点材料を得た。また、従来例としてAg−5%Sb合金を上記基体上にめっきを施し、従来例1の電気接点材料を得た。
上記の電気接点材料に関して、耐食性を判断するために、硫化試験を行った。その結果をレイティングナンバー(以後「RN」と表記)で数値化し、評価を行った。RNは、JIS H 8502記載の標準図表を判定基準としており、数値が大きいほど耐食性が良好であることを示唆している。また、摺動特性を求めるために、摺動電気接点として使用される部分における動摩擦係数測定を行い、100回摺動後の動摩擦係数について上記硫化試験の結果とともに表1に併記した。
【0015】
前処理条件およびめっき条件を下記に示す。
(前処理条件)
[電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/l
脱脂条件:2.5 A/dm、温度60℃、脱脂時間60秒
[酸洗]
酸洗液:10%硫酸
酸洗条件:30秒浸漬、常温(25℃)
【0016】
(めっき条件)
[Auめっき]
めっき液:KAu(CN) 14.6g/l、C 150g/l、K 180g/l
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 40℃
[Au−Coめっき]
めっき液:KAu(CN) 14.6g/l、C 150g/l、K 180g/l、EDTA−Co(II) 3g/l、ピペラジン 2g/l
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 40℃
[Agめっき]
めっき液:AgCN 50g/l、KCN 100g/l、KCO 30g/l
めっき条件:電流密度 0.5〜3A/dm、温度 30℃
[Cuめっき]
めっき液:CuSO・5HO 250g/l、HSO 50g/l、NaCl 0.1g/l
めっき条件:電流密度 6A/dm、温度 40℃
【0017】
[Pdめっき]
めっき液:Pd(NHCL 45g/l、NHOH 90ml/l、(NHSO 50g/l
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Pd−Ni合金めっき:Pd/Ni(%) 80/20]
めっき液:Pd(NHCl 40g/l、NiSO 45g/l、NHOH 90ml/l、(NHSO 50g/l
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Ruめっき]
めっき液:RuNOCl・5HO 10g/l、NHSOH 15g/l
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 50℃
[Ptめっき]
めっき液:Pt(NO(NH 10g/l、NaNO 10g/l、NHNO 100g/l、NH 50ml/l
めっき条件:電流密度 5A/dm、温度 90℃
【0018】
皮膜形成処理条件を下記に示す。
浸漬溶液:0.5質量%エーテル化合物溶液(溶剤トルエン)
浸漬条件:常温 5秒浸漬
乾燥:40℃ 30秒
【0019】
また、硫化試験条件および動摩擦係数測定条件について、以下に記す。
[硫化試験]
硫化試験条件:HS 3ppm、40℃、48時間、80%Rh
[動摩擦係数測定]
測定条件:R(半径)=3.0mmの鋼球プローブ、摺動距離 10mm、摺動速度 100mm/秒、摺動回数 往復100回、荷重 1N、65%Rh、25℃
【0020】
【表1】

【0021】
表1中、「最表層」とは、有機皮膜形成前の貴金属ないしはこれを主成分とする合金が現れている表層をいう。表2においても同様である。
表1から明らかなように、貴金属ないしはその合金の表面にエーテル結合基を有する有機化合物から形成した有機皮膜を設けることによって、耐食性及び摺動特性が大幅に向上していることが分かる。また、従来例1では荷重が1Nになると動摩擦係数が上昇してしまう結果が明らかとなっている。
なお、雰囲気温度を80℃まで上昇させて同様の試験を行ったが、各実施例の特性は表1に示される雰囲気温度25℃における結果と大差がなかった。特に、実施例4、実施例6以外の実施例におけるエーテル化合物は不飽和炭化水素基を含んでおり、雰囲気温度を上昇させた場合の特性の変化が小さくなる傾向があり、より耐熱性が高くなっている。これに対して、各比較例および従来例1のサンプルは、雰囲気温度を80℃まで上昇させて同様の試験を行ったところ、動摩擦係数がすべて1を超え、RNの値もすべて5以下となった。
【0022】
(実施例2)
厚さ0.3mm、幅180mmのC14410条(基体)を電解脱脂、酸洗の前処理を行った後、表2に示しためっき厚0.5μmのめっき構成材を作製した。次に、得られためっき構成材に有機皮膜形成処理を施し、第1の有機皮膜厚0.01μm、第2の有機皮膜厚0.01μmの本発明(実施例15〜28)の電気接点材料を得た。また、比較例1〜8及び従来例1の電気接点材料については表1で前述したものと同様である。
【0023】
皮膜形成処理条件を下記に示す。
(第1の有機皮膜形成)
浸漬溶液:0.2質量%脂肪酸アミン又はメルカプタン溶液(溶剤トルエン)
浸漬条件:常温 5秒浸漬
乾燥:40℃ 30秒
(第2の有機皮膜形成)
浸漬溶液:1.0質量%エーテル化合物溶液(溶剤NSクリーン100W)
浸漬条件:常温 5秒浸漬
乾燥:40℃ 30秒
【0024】
上記の電気接点材料に関して、耐食性を判断するために、硫化試験を行った。その結果を実施例1同様にRNで数値化し、評価を行った。また、摺動特性を求めるために、摺動電気接点として使用される部分における動摩擦係数測定を行い、100回摺動後の動摩擦係数について上記硫化試験の結果とともに表2に併記した。なお、前処理条件、めっき条件、硫化試験条件及び動摩擦係数測定条件は、実施例1と同様の条件で行った。
【0025】
【表2】

【0026】
表2から明らかなように、貴金属ないしはその合金の表面に脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる有機皮膜層を設け、さらにその上層にエーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる有機皮膜を設けた実施例15〜28は、表1のエーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる有機皮膜を設けたのみの実施例1〜14に比べ、耐食性及び摺動特性がさらに向上していることが分かる。殊にAgに関しては、動摩擦係数のみならず耐食性がさらに大幅に向上することが伺える。
なお、雰囲気温度を80℃まで上昇させて同様の試験を行ったが、各実施例の特性は表2に示される雰囲気温度25℃における結果と大差がなかった。これに対して、各比較例および従来例1のサンプルは、雰囲気温度を80℃まで上昇させて同様の試験を行ったところ、動摩擦係数がすべて1を超え、RNの値もすべて5以下となった。
【0027】
なお、上述の実施例において、エーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる有機皮膜の厚さは0.01μmの例のみを挙げたが、実際にはエーテル結合基を有する有機化合物から形成してなる有機皮膜の厚さは0.0001μm〜0.1μmの範囲であれば、耐熱性、耐食性、摺動特性についてほぼ同様の結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の電気接点材料の1つの実施形態の断面図を示す図である。
【図2】図2は、本発明の電気接点材料のもう1つの実施形態の断面図を示す図である。
【図3】図3は、本発明の電気接点材料のさらにもう1つの実施形態の断面図を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 貴金属ないしはその合金
2 エーテル基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する有機皮膜
3 基体
4 脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる有機皮膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する電気接点材料であって、前記表層の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する有機皮膜を設けてなることを特徴とする、耐食性及び摺動特性に優れた電気接点材料。
【請求項2】
貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる表層を有する電気接点材料であって、前記表層の表面上に脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなる第1の有機皮膜層を設け、さらに、前記第1の有機皮膜層の表面上に、エーテル結合基を有する有機化合物から形成した耐熱性を有する第2の有機皮膜を設けてなることを特徴とする、耐食性及び摺動特性に優れた電気接点材料。
【請求項3】
前記表層を形成する前記貴金属がAu、Ag、Cu、Pt、Pdまたはこれら何れか1種以上を主成分とする合金であることを特徴とする、請求項1に記載の電気接点材料。
【請求項4】
前記表層を形成する前記貴金属がAgないしはAgを主成分とする合金であることを特徴とする、請求項2に記載の電気接点材料。
【請求項5】
前記貴金属ないしはこれを主成分とする合金からなる前記表層が、めっき法あるいはクラッド法で形成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気接点材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気接点材料を用いてなる、電気接点。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−192610(P2008−192610A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3755(P2008−3755)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】