電気機器用ボビン及びその製造方法
【課題】電線の線積率が高く、且つ部材の接合強度が良好な電気機器用ボビン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電気機器用ボビン21は、胴部22と第一鍔部23と第二鍔部24とを備えている。胴部22は、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔22eが形成されている。第一鍔部23および第二鍔部24は、合成樹脂製であり、胴部22の軸方向の端部に設けられ、係合孔22eに係合している。
【解決手段】電気機器用ボビン21は、胴部22と第一鍔部23と第二鍔部24とを備えている。胴部22は、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔22eが形成されている。第一鍔部23および第二鍔部24は、合成樹脂製であり、胴部22の軸方向の端部に設けられ、係合孔22eに係合している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータ、発電機、変圧器及びインバータ等の電気機器に用いられる電気機器用ボビン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気モータ、発電機、変圧器及びインバータ等に用いられる電気機器用ボビンは、丸型または角型の筒状をなす胴部と、胴部の軸方向両端部のそれぞれに設けられた鍔部とを備えている。胴部および鍔部は、通常合成樹脂製であり、例えば、特許文献1に示すように射出成形によって一体に成形されている。このように胴部および鍔部を射出成形により一体に成形された電気機器用ボビンは、胴部の厚さが通常2〜3mmと厚いため、電線の線積率を高めることが困難であるという問題がある。
胴部を薄くした構成としては、例えば特許文献2に開示されているものがある。特許文献2に開示されている電気機器用ボビンの胴部は、合成樹脂製の第1の保持部材と、非磁性体である薄膜体の第2保持部材とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−167598号公報
【特許文献2】特開2009−213311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、胴部を第1の保持部材と第2の保持部材との2つの部材から構成する場合、2つの部材の接合強度が不十分であると、胴部に電線を巻く際や当該電気機器用ボビンを固定子鉄心に装着する際などに、第1保持部材が第2保持部材から外れるという問題を招くことがある。また、厚い第1の保持部材が胴部の一部を形成しているため、線積率の向上や熱伝導性の向上といった観点からも、不十分なものであった。
そこで、本発明の目的は、電線の線積率が高く、熱伝導性に優れ、且つ部材の接合強度が良好な電気機器用ボビン及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明の電気機器用ボビンは、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、を備えたことを特徴としている。
【0006】
また、本発明の電気機器用ボビンの製造方法は、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、を備えた電気機器用ボビンの製造方法であって、前記胴部を構成する前記絶縁材料を所定形状に整形し、前記絶縁材料の所定の位置に前記係合孔を形成する胴部整形工程と、整形された前記胴部に前記鍔部を成形する鍔部成形工程と、を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電気機器用ボビンによれば、胴部が厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成されているので、電線の線積率を高めることができるとともに、電線で発生した熱を本発明の電気機器用ボビンを装着する固定子鉄心等を通じて、速やかに拡散させることができる。さらに、本発明の電気機器用ボビンによれば、胴部の軸方向の端部に係合孔が形成され、胴部の軸方向の端部に鍔部が設けられ、この鍔部が係合孔に係合しているので、胴部の部材と鍔部の部材との接合強度は良好となり、鍔部が胴部から外れにくくなる。
また、本発明の電気機器用ボビンの製造方法によれば、電線の線積率が高く、熱伝導性に優れ、且つ接合強度に優れる電気機器用ボビンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態の電気機器用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を示す横断平面図
【図2】電気機器用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を固定子鉄心の中心側から見た図
【図3】図1のA−A線に沿う断面図
【図4】図1のB−B線に沿う断面図
【図5】図1に示す第一鍔部と胴部の接合部分とを拡大して示す横断平面図
【図6】電気機器用ボビンが固定子鉄心に嵌められる前の状態を示す横断平面図
【図7】電気機器用ボビンの斜視図
【図8】右側面図
【図9】平面図
【図10】図8のC−C線に沿う断面図
【図11】図8のD−D線に沿う断面図
【図12】電気機器用ボビンの製造工程を概略的に示す図
【図13】低温プラズマ処理機を概略的に示す図
【図14】電線の線積率を示す図で、(a)は本実施形態の電気機器用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図、(b)は従来構成の電気機器用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図
【図15】本発明の第2実施形態を示す図5相当図
【図16】本発明の第3実施形態の電気機器用ボビンを示す縦断側面図
【図17】図16のE−E線に沿う断面図
【図18】本発明の第4実施形態の電気機器用ボビンを示す図16相当図
【図19】図18のF−F線に沿う断面図
【図20】本発明の第5実施形態の製造工程を概略的に示す図
【図21】本発明の第6実施形態を示す胴部を展開した絶縁フォルムの平面図
【図22】本発明の第7実施形態を示す図21相当図
【図23】本発明の第8実施形態を示す図21相当図
【図24】本発明の第9実施形態を示す図5相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複数の実施形態を、ハイブリッド自動車や電気自動車等に使用される電機モータ、発電機などの回転電機に適用した場合について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、変圧器やインバータ等の他の電気機器にも適用することができる。
図面には、適宜、前後、左右及び上下の各方向を矢印で示し、便宜上、回転電機の軸方向を上下方向として説明する。また、各実施形態では、同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については省略する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について、図1〜図14を参照して説明する。
図1〜図4に、インナーロータ型の回転電機11の一部を拡大して示す。回転電機11は、図1に示すように、固定子12と、固定子12の内周側に隙間を介して設けられる回転子13とを有している。
回転子13は、回転子鉄心14と、回転子鉄心14に埋め込まれた図示しない永久磁石とを有している。回転子鉄心14は、円筒形状をなしている。回転子鉄心14の内周部には、図示しないシャフトが設けられている。
【0011】
固定子12は、固定子鉄心15と、コイル16とを有している。固定子鉄心15は、円筒状のヨーク部17と、ヨーク部17の内周面から当該ヨーク部17の内周側、すなわち中心軸側に突出する複数のティース部18とを有している。ここで、図1などには、1つのティース部18のみ図示する。ヨーク部17は、外周が完全な円形でなく、楕円形や多角形などのさまざまな形状を採用することが可能である。ティース部18は、図2〜図4に示すように、略直方体に形成されている。また、ティース部18が固定子鉄心15の周方向に等間隔に配置されることにより、図1、図5、図6に示すように、固定子鉄心15の周方向に隣り合うティース部18,18間にスロット15aが形成される。
【0012】
コイル16は、銅線などの電線が後述する電気機器用ボビン21の胴部22の外周に巻かれることによって構成されている。第1実施形態では、図6に示すように、コイル16が設けられた電気機器用ボビン21を固定子鉄心15の内周側からティース部18に嵌めることにより、コイル16が電気機器用ボビン21の胴部22を介してティース部18に集中巻きに設けられる。図6中の矢印X方向は、電気機器用ボビン21を嵌め込む方向である。
【0013】
電気機器用ボビン21は、図1〜図11に示すように、胴部22と、第一鍔部23と、第二鍔部24と、被係合部25とを有している。
胴部22は、筒状、例えば角筒状をなし、例えば図7〜図11に示すように上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dから構成されている。上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dで囲われて内周に形成される空間21aは、ティース部18の形状とほぼ一致している。上側壁22aおよび下側壁22bは、図2〜図4に示すように、ティース部18に電気機器用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15の軸方向の端部の外側にそれぞれ位置する部分である。また、右側壁22cおよび左側壁22dは、ティース部18に電気機器用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15内、すなわち固定子鉄心15のスロット15a内に位置する部分である。
【0014】
ここで、上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dは、絶縁材料、例えば絶縁フィルムから形成されている。この絶縁フィルムには、絶縁性を有するフィルム、例えば汎用絶縁材からなるフィルムや積層絶縁材からなるフィルムが使用できる。例示すると、米国デュポン(Du Pont)社製のノーメックス(登録商標)などのアラミド紙や、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。特に、アラミド紙とプラスチックフィルムを積層した積層フィルムは耐熱性、絶縁性、機械的特性等に優れているため好適に使用でき、特にアラミド紙とポリフェニレンサルファイドフィルムの積層フィルム、もしくはアラミド紙とポリイミドフィルムの積層フィルムが好ましい。また、図14(a)のT1で示す絶縁フィルムの厚さは、0.05〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.4mm、より好ましくは0.2〜0.3mmである。絶縁フィルムの厚さが0.05mm未満であると、強度が不足して、例えば本発明の電気機器用ボビン21に電線を巻いた際に変形する等の不具合が生じやすくなり、0.5mm超では、線積率の向上や熱伝導性向上の効果が得難くなる。この胴部22は、後述する射出成形のインサート成形によって第一鍔部23および第二鍔部24に一体化されている。
【0015】
胴部22の軸方向の両側の端部には、複数の係合孔22eが形成されている。係合孔22eは、例えば図5および図7に示すように、胴部22を構成する絶縁フィルムの厚さ方向を貫通する円筒の孔である。
【0016】
胴部22を構成する絶縁フィルムの表面には、例えばプラズマ処理、コロナ処理、化学処理等の表面処理を施すことができる。このような表面処理を施すことにより、絶縁フィルムの表面は親水性等が改質されて濡れ性が良好になり、当該絶縁フィルムの接着性が向上し、第一鍔部23および第二鍔部24との接合をより強固にすることができる。表面処理としては、処理の簡便さや濡れ性向上等の効果の強さから、プラズマ処理を施すことが特に好ましい。本明細書では、プラズマ処理について後述する。
【0017】
第一鍔部23および第二鍔部24は、胴部22に設けられたコイル16が固定子鉄心15の径方向にずれるのを防止する規制部として機能するものである。
第一鍔部23は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の一方の端部、具体的には、ティース部18に電気機器用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15のヨーク部17側に位置する端部に設けられている。この第一鍔部23の内周部には、複数の被係合部25が設けられている。被係合部25の形状は、係合孔22eに係合する柱状、この場合、円柱である。
【0018】
第二鍔部24は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の他方の端部、具体的にはティース部18に電気機器用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15の中心側に位置する端部に設けられている。この第二鍔部24は、第一鍔部23よりも固定子鉄心15の中心側に位置している分、固定子鉄心15の周方向に隣り合う第二鍔部24が当らないように、固定子鉄心15の周方向の長さが第一鍔部23の周方向の長さよりも短く形成されていることが好ましい。さらに、第二鍔部24の面のうちの回転子13側の面は、平面方向から見て胴部22側に膨らむ湾曲状に形成されていてもよい。また、第一鍔部23の面のうちの固定子鉄心15側の面は、固定子鉄心15のヨーク部17の内周面に当たるように湾曲していてもよい。第一鍔部23がヨーク部17の内周面に当たることにより、電気機器用ボビン21の位置決めが容易になる。この第二鍔部24の内周部にも、第一鍔部23と同形状の複数の被係合部25が形成されている。
【0019】
第一鍔部23、第二鍔部24および被係合部25は、合成樹脂製、例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などで成形されていることが好ましい。この第一鍔部23、第二鍔部24および被係合部25は、上述したインサート成形により成形され、胴部22と一体に設けられている。インサート成形で成形される第一鍔部23および第二鍔部24の厚さは、任意であるが、例えば2〜3mmである。この第一鍔部23および第二鍔部24の厚さを、図14にT2で示す。なお、第一鍔部23および第二鍔部24の厚さT2をインサート成形が可能な範囲で小さくして、その分、電気機器用ボビン21の胴部22の幅方向を長くし、胴部22に巻く電線の量を多くし、電線の線積率を高めてもよい。
【0020】
また、被係合部25は、インサート成形による上述の樹脂が胴部22の係合孔22eに充填されることにより、第一鍔部23および第二鍔部24にそれぞれ一体に成形されている。これにより、第一鍔部23および第二鍔部24は、被係合部25が係合孔22eに係合し、胴部22に強固に係合した状態となる。
【0021】
胴部22の内周側の面、第一鍔部23の内周側の面および第二鍔部24の内周側の面には、図5に示すように、熱伝導性に優れる充填部材26を設けても良い。充填部材26は、熱を加えるほど流動性が増すもの、例えば熱可塑性樹脂、グリースなどである。
【0022】
次に、上記インサート成形に用いるインサート成形金型を図12を参照して説明する。
図12(f)に示すインサート成形金型31は、土台部32と、土台部32上に設けられた下型33と、下型33上に設けられた上型34とから構成されている。
土台部32は、下型33および上型34を保持するものである。また、土台部32には、電気機器用ボビン21の胴部22の位置決め用の四角柱のブロック部35が設けられている。ブロック部35は、固定子鉄心15のティース部18とほぼ同じ形状である。また、土台部32は、上方に突出する複数本の突出ピン36を有している。突出ピン36は、後述する下型33内においてインサート成形で成形された電気機器用ボビン21を下型33から外すためのものである。
【0023】
下型33は、一対のブロック状の可動下型37,37から構成されている。一対の可動下型37,37は、土台部32上にあって土台部32の上面をスライドし、型開き可能な構成である。図12(c)に型開き方向を矢印Y方向で示す。各可動下型37には、図12(d)に示すように電気機器用ボビン21の略半分の形状の切り欠き38´、38´が形成されている。また、可動下型37,37同士を合わせることにより、図12(f)に示すように電気機器用ボビン21を収納するキャビティ38が形成される。
【0024】
可動下型37の上部には、当該可動下型37の上面からキャビティ38まで連通するノズル39が形成されている。ノズル39は、第一鍔部23および第二鍔部24を成形するための図示しない溶融した樹脂、例えば溶融したPPS樹脂などを、上型34からキャビティ38に供給するための通路である。
【0025】
上型34は、上述したように下型33のノズル39に溶融した樹脂を供給するためのものであり、全体がブロック状をなし、上型34の上下方向を貫通するスプールランナー40が形成されている。また、スプールランナー40の上端部である上型34の上面には、貯留部41が形成されている。貯留部41は、外部から供給される溶融した樹脂を貯留するためのものである。上型34は、下型33の上面に取付けられる構成である。そして、上型34と下型33とを合わせることにより、スプールランナー40の下端部はノズル39と連通する。
【0026】
次に、上記プラズマ処理について図13を参照して説明する。
プラズマ処理とは、電極間に直流または交流の高電圧を印加することによって開始持続する放電、例えば大気圧下でのコロナ放電あるいは真空でのグロー放電などに処理基材を曝すことによって成される処理をいう。このとき、特に限定されないが、処理ガスの選択が広い真空での処理が好ましい。処理ガスとしては、特に限定されないが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、酸素、炭酸ガス、空気、水蒸気等が単独あるいは混合した状態で使用される。なかでもアルゴン、炭酸ガスが放電開始効率の点から好ましい。処理圧力は特に限定されないが、0.1Pa〜1330Paの圧力範囲であり、さらに好ましくは、1Pa〜266Paの範囲である。
【0027】
図13に示すプラズマ処理機51は、密閉可能な処理室52を有している。処理室52内には、処理用ローラ53が設けられ、処理用ローラ53の周囲に僅かな隙間を空けて囲むような電極54が設けられている。図示はしないが、処理用ローラ53は、アース接続されている。電極54には、高周波電源55が接続されている。そして、処理室52内は、図示しない真空ポンプに接続されたバルブ56の開放によって減圧されるとともに、ガス供給源に接続されたバルブ57の開放によって、放電する処理部分に処理用のガス、例えばアルゴンや窒素が供給されるようになっている。処理室52には、当該処理室52内の圧力を計測する圧力計58も設けられている。
【0028】
そして、ロール状に巻回された絶縁フィルム42は、供給部59から引出され、処理室52内の複数個の案内ローラ60により案内されながら処理用ローラ53に一周近く巻付けられるようにして、電極54との間の処理部分を通され、ここでプラズマ処理が行われた後、案内ローラ60により案内されながら巻取部61において再び巻取られるようになっている。
この実施形態において、絶縁フィルム42にプラズマ処理が施される場合、絶縁フィルム42の片面もしくは両面に施される。絶縁フィルム42の片面にプラズマ処理が施されている場合、プラズマ処理が施されている面側が胴部22の外周側になるように配置されることが好ましい。
【0029】
次に、電気機器用ボビン21の製造手順について図12を参照して説明する。
まず、胴部22を構成する絶縁フィルム42の表面に、必要に応じて、上述のプラズマ処理等の表面処理工程を行う。
図12(a)に示すように、フィルム状の絶縁フィルム42を胴部22の展開した長方形に裁断する。具体的には、裁断後の絶縁フィルム42の一方の辺の長さP、すなわち長辺の長さは、上側壁22aの左右方向の長さ、左側壁22dの上下方向の長さ、下側壁22bの左右方向の長さ、右側壁22cの上下方向の長さの合計に、必要に応じて糊代の長さを加えた長さである。また、裁断後の他方の辺の長さQ、すなわち短辺の長さは、胴部22の前後方向、例えば上側壁22aの前後方向の長さである。絶縁フィルム42の厚さは、例えば0.05〜0.5mmである。
【0030】
この絶縁フィルム42の両長辺付近には、長辺の延びている方向に沿って係合孔22eが並んで形成されている。
本発明において、係合孔22eの形成は、絶縁フィルム42を所定の形状に裁断後に行っても良く、予め係合孔22eを形成した後に、絶縁フィルム42の裁断を行っても差し支えない。また、金型を用いた打ち抜きプレス等により、絶縁フィルム42の裁断と係合孔22eの形成を同時に行うこともできる。
【0031】
次に、図12(b)に示すように、裁断した絶縁フィルム42を、折り曲げて胴部形状に整形する。第1実施形態では、裁断工程で得られた絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げている。絶縁フィルム42の寸法に糊代の長さが含まれている場合、絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げるときに、糊代の部分が上側壁22aまたは下側壁22bに位置することが好ましい。また、胴部整形工程では、糊代に接着剤などを塗布し、インサート成形前に絶縁フィルム42を角筒状に仮止めし、インサート成形時に絶縁フィルム42が型崩れしてしまうことを防止するようにしてもよい。
この明細書では、絶縁フィルム42の裁断、係合孔22eの形成および胴部形状の成形を行う工程を胴部整形工程と称する。なお、上記のように、絶縁フィルム42の裁断と係合孔22e形成の順序は、いずれが先でも、同時でも差し支えない。
【0032】
次に、図12(c)および図12(d)に示すように、下型33が型開きしている状態、すなわち可動下型37,37が離れている状態で、角筒状に折り曲げた絶縁フィルム42からなる胴部22を、インサート成形金型31の所定の位置、すなわち土台部32のブロック部35に嵌める胴部配置工程を行う。絶縁フィルム42をブロック部35に嵌める際、絶縁フィルム42を土台部32から少し離れていることが好ましい。これにより、インサート成形後において、胴部22の軸方向の外側に、インサート成形で成形された樹脂が設けられ、胴部22の軸方向の端部が補強される。
【0033】
次に、図12(e)に示すように、可動下型37,37同士を合わせて、下型33内に電気機器用ボビン21のキャビティ38を形成する下型固定工程を行う。
次に、図12(f)に示すように、下型33の上面に上型34を取付ける。そして、上型34の貯留部41に溶融した樹脂を注入する。貯留部41に注入された樹脂は、スプールライナー40およびノズル39を通って、キャビティ38に供給され、これにより、インサート成形が行われ、胴部22と一体になった第一鍔部23、第二鍔部24および被係合部25が成形される鍔部成形工程が行われる。ここで、被係合部25は、インサート成形によって胴部22の係合孔22e内に形成され、被係合部25が係合孔22eに係合した状態となる。
【0034】
プラズマ処理等の表面処理を絶縁フィルムに施した場合、胴部22の表面は、表面処理によって濡れ性および接着性が向上されているので、溶融した鍔部である第一鍔部23および第二鍔部24を形成する樹脂は絶縁フィルム42上を流動しやすく胴部22に十分な範囲で接着し、胴部22と鍔部とが十分に接合し、成形後の鍔部において割れ等の発生が抑制される。
【0035】
上記インサート成形後、上型34を下型33から取外し、下型33の可動下型37,37を型開きし、土台部32の突出ピン36を土台部32の上面から突出させることにより、土台部32からの電気機器用ボビン21の取外しが行われる。
なお、上述では、胴部整形工程を行う前にプラズマ処理等の表面処理を施すとして説明したが、胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前、例えば、絶縁フィルム42を所定の大きさに裁断した後に当該絶縁フィルム42に表面処理を施してもよい。また、必要に応じて胴部整形工程を行う前に、および胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前の両方に表面処理を施してもよい。
【0036】
次に、コイル16を固定子鉄心15のティース部18に取付ける手順について図1〜図4、図6、図11を参照して説明する。
まず、図11に示す電気機器用ボビン21の胴部22の外周に電線を巻いて、図6に示すように胴部22の外周にコイル16を設ける。次に、胴部22の内周側の面に、必要に応じて充填部材26を設ける。そして、図6中の矢印X方向に示すように、コイル16が設けられた電気機器用ボビン21を固定子鉄心15のティース部18に固定子鉄心15の内周側から嵌める。これにより、ティース部18に集中巻きされたコイル16が電気機器用ボビン21を介して設けられる。このとき、図1〜図4に示すように、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に絶縁フィルムから構成された右側壁22cおよび左側壁22dが位置し、固定子鉄心15の軸方向外側に上側壁22aおよび下側壁22bが位置する。また、胴部22とティース部18との間は、充填部材26によって埋められている。
固定子鉄心15の他のティース部18にも、上記と同様に、コイル16が設けられた電気機器用ボビン21が固定子鉄心15のティース部18に嵌められる。これにより、固定子鉄心15のすべてのティース部18にコイル16が設けられた構成となる。
【0037】
次に、上記構成の効果を説明する。
第1実施形態によれば、固定子鉄心15のティース部18に嵌められる電気機器用ボビン21の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dは、厚さが0.05〜0.5mmの絶縁フィルムから構成される。したがって、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dを、インサート成形から構成される従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を電気機器用ボビン21の胴部22に巻くことができる。これにより、第1実施形態の構成では、従来構成よりも電線の線積率を高めることができる。また、胴部22を薄くすることで、電線で発生した熱を固定子鉄心15を通じて、速やかに拡散させることができる。その結果、高出力化・高効率化が図られた回転電機11を得ることができる。
【0038】
上記電線の線積率について、図14を参照して説明する。図14(a)は、本実施形態の電気機器用ボビン21を模式的に示した断面図であり、図14(b)は、従来構成の電気機器用ボビン101を模式的に示した断面図である。電気機器用ボビン101はインサート成形で胴部102と第一鍔部103と第二鍔部104とが一体に成形されたものである。この場合、胴部102がインサート成形で成形されるので、胴部102における固定子鉄心内に位置する部分の厚さT0は、少なくともインサート成形後に割れが生じない寸法、例えばT0=1〜3mmである。
【0039】
一方、この実施形態では、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dが絶縁フィルムから構成されているので、この実施形態の電線の線積率を、従来構成における電線の線積率よりも、(T0−T1)に相当する分、高くすることができる。
【0040】
また、一般に、円形のコイル導体に電流I(A)が流れる場合、コイルの軸中心Oの磁束密度Bは、「B=μ0Nl/2r ただし、μ0は真空の透磁率、Nは1m当たりの巻き数、lはコイルの長さ、rはコイルの半径」で表される。第1実施形態の胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は、上記従来構成の胴部102の固定子鉄心15内に位置する部分よりも薄いので、胴部22の外周に設けられるコイル16の半径r1を従来のコイルの半径r0よりも(T0−T1)に相当する分、小さくすることができ、この実施形態では、従来構成よりもコイル16の磁束密度を高くすることができる。したがって、磁束密度の観点から、回転電機11の回転効率を向上させることができる。
【0041】
電気機器用ボビン21は、胴部22の軸方向の端部に係合孔22eが形成され、胴部22の軸方向の端部に第一鍔部23および第二鍔部24が設けられ、この第一鍔部23の被係合部25および第二鍔部24の被係合部25が係合孔22eのそれぞれに係合しているので、胴部22と第一鍔部23との接合強度、および胴部22と第二鍔部24との接合強度は良好となる。これにより、第一鍔部23および第二鍔部24とも胴部22から外れにくくなる。
【0042】
第一鍔部23および第二鍔部24は、インサート成形で成形されているので、製造が容易であり、厚みを十分に確保できて強度を高めることができる。また、第一鍔部23および第二鍔部24が胴部と一体に設けられているので、電気機器用ボビン21を固定子鉄心15などの部品へ取付けることが容易となる。
【0043】
胴部22の内周側の面に、必要に応じて充填部材26が設けられ、充填部材26によって胴部22とティース部18との隙間が埋められているので、コイル16をなす電線で発生した熱は胴部22および充填部材26を介して固定子鉄心15に伝わりやすくなる。これにより、コイル16は高温となりにくく、コイル16の温度上昇を抑制することができる。特に、充填部材26が熱伝導性に優れるほど、コイル16の温度上昇をより抑制することができる。
胴部整形工程を行う前に、または胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前に、絶縁材料の表面に濡れ性を良好にする表面処理を施すことにより、インサート成形時において溶融した樹脂は流動しやすくなる。これにより、樹脂が胴部22に十分に接着し、胴部22と鍔部である第一鍔部23および第二鍔部24とが十分に接合し、鍔部成形後に割れ等の発生を抑制することができる。
【0044】
この実施形態の製造方法により、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔22eが形成された胴部22と、胴部22の軸方向の端部に設けられ、係合孔22eに係合している合成樹脂製の第一鍔部23および第二鍔部24と、を備えた電気機器用ボビン21を得ることができる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態について、図15を参照して説明する。なお、第一鍔部23および第二鍔部24は、前後方向においてほぼ対称な構成であるため、第一鍔部23側の構造を説明し、第二鍔部24側の構成については説明を省略する。
【0046】
第一鍔部23は、図15に示すように、一対の挟み片23a,23aを有している。一対の挟み片23a,23aは、胴部22の厚さ方向において胴部22を挟むようにして設けられ、インサート成形により成形されている。一対の挟み片23a,23aのうち一方の挟み片23aは、第一鍔部23の内周側の面から胴部22の軸方向の外側を回り込み胴部22の内周側の面に沿って延びている。また、他方の挟み片23aは、第一鍔部23の部位のうち胴部22の外周側の面に接する部位である。
【0047】
この実施形態では、係合孔22eが一対の挟み片23a,23aの間に配置されている。また、被係合部25は、インサート成形によって一対の挟み片23a,23a間に成形されている。さらに、充填部材26は、胴部22の内周側の面および第一鍔部23の内周面に、ティース部18との隙間を埋めるようにして設けられている。
【0048】
上記構成によれば、胴部22は、一対の挟み片23,23および被係合部25からなる環状構造で第一鍔部23に固定されるので、胴部22と第一鍔部23とがより一層強固に接合した状態となる。
なお、上述したように、第二鍔部24も上述と同様の一対の挟み片を有することにより、胴部22と第二鍔部24とがより一層強固に接合した状態となる。
その他、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0049】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図16および図17を参照して説明する。
図16および図17に示す第3実施形態の電気機器用ボビン71は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部72を備えている。
つなぎ部72は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部72は、上側壁22aの外周側である上側および下側壁22bの外周側である下側にそれぞれ設けられている。
電気機器用ボビン71は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部72は、このインサート成形の際に、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部72の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
【0050】
第3実施形態によれば、第一鍔部23と第二鍔部24との間に、胴部22の厚さよりも大きいつなぎ部72を設けたので、胴部22の強度、特に胴部22の軸方向からの圧縮に対する強度が増し、胴部22の変形を防止することができる。これにより、第3実施形態は、第1実施形態よりも強度を有する電気機器用ボビン71を得ることができる。
また、つなぎ部72が上側壁22aの外周側および下側壁22bの外周側にそれぞれ設けられ、かつ、右側壁22cおよび左側壁22dが絶縁フィルムからなるため、胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は薄い。したがって、第3実施形態の電気機器用ボビン71は、図14(b)に示す従来構成の電気機器用ボビン101よりも、電線の線積率を高くすることができる。
その他、第3実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0051】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について図18および図19を参照して説明する。
図18および図19に示す第4実施形態の電気機器用ボビン81は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部82を備えている。
つなぎ部82は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部82は、上側壁22aの内周側である下側および下側壁22bの内周側である上側にそれぞれ設けられている。
電気機器用ボビン81は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部82は、このインサート成形の際に第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部62の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
この第4実施形態は、第3実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について図20を参照して説明する。
図20(f)は、第5実施形態の電気機器用ボビン91の底面図である。この電気機器用ボビン91は、第1〜第4実施形態のインサート成形の代わりに、プレス成形を行って成形されている。
第5実施形態では、図20(b),(e)に示すように、胴部22の軸方向の両端部がそれぞれ外周方向に折り曲げられ、胴部22の軸方向両側にフランジ部22fが形成されている。そして、フランジ部22fに係合孔22eが配置されている。また、第5実施形態では、第一鍔部23および第二鍔部24がそれぞれ2層構造で構成されている。
【0053】
第一鍔部23は、図20(c),(e)に示すような当該第一鍔部23の厚さ方向を二等分する2枚の第一鍔部片23b,23bと、図20(d),(e)に示すような第一鍔部片23bと胴部22とを接着するための接着部材92とを有している。接着部材92は、図20(d)に示すように、例えば第一鍔部23と同形状の枠状に形成された両面に接着性を有する接着シートである。そして、第一鍔部23は、軸方向の外側から順に第一鍔部片23b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第一鍔部片23bが積層して、胴部22に一体に設けられている。このとき、胴部22の係合孔22eは、一対の第一鍔部片23b,23bの間に配置された構成となる。
【0054】
第二鍔部24も、図20(e)に示すように、当該第二鍔部24の厚さ方向を二等分する2枚の第二鍔部片24b,24bと、第二鍔部片24bと胴部22とを接着するための上述の接着部材92とを有している。そして、第二鍔部24は、軸方向の外側から順に第二鍔部片24b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第二鍔部片24bが積層して、胴部22に一体に設けられている。このとき、胴部22は、係合孔22eが一対の第二鍔部片24b,24bの間に配置して設けられた構成となる。
第5実施形態では、一対の第一鍔部片23b,23bが一対の挟み片23a,23aとなり、一対の第二鍔部片24b,24bが一対の挟み片24a,24aとなる。
【0055】
次に、電気機器用ボビン91の製造手順について説明する。
まず、胴部22を構成する絶縁フィルム42の表面に、必要に応じてプラズマ処理等の表面処理を施す表面処理工程を行う。
次に、図20(a)に示すように、フィルム状の絶縁フィルム42を胴部22の展開した長方形に裁断する。ここで、絶縁フィルム42には、図20(b)に示すように折り曲げが容易になるように、絶縁フィルム42の長辺において、必要に応じて切込み部42aが形成されている。
次に、図20(b)に示すように、裁断した絶縁フィルム42を、角筒状に折り曲げて胴部形状に整形し、胴部22の軸方向の両端を外周側に折り曲げてフランジ部22fを形成する胴部整形工程を行う。
【0056】
次に、図20(c)に示す第一鍔部片23b、第二鍔部片24b、および図20(d)に示す接着部材92を、図20(e)および図20(f)に示すように、各鍔部片、接着部材92、胴部22のフランジ部22fを積層し、プレス成形して鍔部を成形する鍔部成形工程を行う。具体的には、第一鍔部23側では、胴部22の軸方向外側から順に第一鍔部片23b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第一鍔部片23bの順に積層してプレス成形により各部材を接着部材92によって接着させる。また、第二鍔部24側では、胴部22の軸方向外側から順に第二鍔部片24b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第二鍔部片24bの順に積層してプレス成形により各部材を接着部材92によって接着させる。
【0057】
ここで、2枚の接着部材92に挟まれた胴部22のフランジ部22fにおいて、接着部材92の一部は、フランジ部22fに形成されている係合孔22e内に入り込み、係合孔22e内で接着部材92同士がくっつく。これにより、接着部材92同士が強固に結合した状態となり、胴部22のフランジ部22fも接着部材92に強固に結合した状態となる。この場合、接着部材92のうち係合孔22e内に位置する部分が被係合部となる。
【0058】
なお、上述では、胴部整形工程を行う前に表面処理を施すとして説明したが、胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前、例えば、絶縁フィルム42を所定の大きさに裁断した後に当該絶縁フィルム42に表面処理を施してもよい。また、必要に応じて胴部整形工程を行う前に、および胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前の両方に表面処理を施してもよい。
【0059】
得られた電気機器用ボビン91は、第一実施形態の電気機器用ボビン21と同様にして、図1に示す固定子鉄心15のティース部18に嵌められる。これにより、固定子鉄心15のティース部18に嵌められる電気機器用ボビン91の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分には胴部22の絶縁フィルムが位置する。
【0060】
次に、上記構成の効果を説明する。
第5実施形態によれば、第1実施形態と同様に、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分を従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を電気機器用ボビン91に巻くことができ、図示しない回転電機の高出力化・高効率化を図ることができる。
第5実施形態によれば、インサート成形を行わずに、プレス成形によって鍔部である第一鍔部23および第二鍔部24を胴部22に一体に設けることができる。
【0061】
(第6〜第9実施形態)
第1〜第5実施形態では係合孔22eは円筒状として説明したが、この係合孔22eの代わりに、第6実施形態として図21に示すような角筒状の係合孔22g、または第7実施形態として図22に示すような三角形の筒状の係合孔22hを形成させてもよい。第6実施形態および第7実施形態とも、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0062】
さらに、第8実施形態として図23に示すように孔の一部が開放した形状、すなわち切欠き状の係合孔22iとしてもよい。係合孔22iとした場合には、絶縁フィルム42の平面方向から見てクサビ状であることが好ましい。係合孔22iの形状がクサビ状であることにより、係合孔22iの断面積が増して接着部材92同士の接着面積が増えるとともに、絶縁フィルム42が幅方向にずれてしまうこともより一層防止することができる。
【0063】
第9実施形態は、図24に示すように、第1実施形態とほぼ同一の構成であるが、電気機器用ボビン21の胴部22の内周側の面、第一鍔部23の内周側の面および第二鍔部24の内周側の面に充填部材を設けない構成である。コイル16で発生する熱が少ない場合、充填部材を省略させても良い。
【0064】
尚、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されず、次のような変形、拡張が可能である。
胴部22の上側壁22a、下側壁22b、右側壁22c、左側壁22dが絶縁フィルムで構成されているとして説明したが、少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22c、左側壁22dが絶縁フィルムで構成されていればよい。この場合、上側壁22a、下側壁22bは、第一鍔部23および第二鍔部24と同じ材料からなり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けてもよい。
【0065】
第3実施形態および第4実施形態では、つなぎ部72,82の形状を側壁として説明したが、つなぎ部72,82の形状は任意であり、例えば複数の柱状であってもよい。
第5実施形態の接着部材92は、一例として接着シートとして説明したが、流動性を有する接着剤でもよい。
表面処理として、プラズマ処理を行うとして説明したが、プラズマ処理の代わりに、コロナ処理や化学処理を行ってもよい。
【0066】
上記した実施形態は一例に過ぎず、絶縁フィルムの材質や厚みは、各電気機器用ボビンの使用により適宜決定され、その他、材料、形状、つなぎ部の位置などについても、適宜変更することができる。また、本発明は、変圧器、インバータ等の電気機器の他、アウターロータ形の回転電機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
図面中、21,71,81,91は電気機器用ボビン、22は胴部、22eは係合孔、23は第一鍔部(鍔部)、23b,24bは挟み片、24は第二鍔部(鍔部)、26は充填部材を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータ、発電機、変圧器及びインバータ等の電気機器に用いられる電気機器用ボビン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気モータ、発電機、変圧器及びインバータ等に用いられる電気機器用ボビンは、丸型または角型の筒状をなす胴部と、胴部の軸方向両端部のそれぞれに設けられた鍔部とを備えている。胴部および鍔部は、通常合成樹脂製であり、例えば、特許文献1に示すように射出成形によって一体に成形されている。このように胴部および鍔部を射出成形により一体に成形された電気機器用ボビンは、胴部の厚さが通常2〜3mmと厚いため、電線の線積率を高めることが困難であるという問題がある。
胴部を薄くした構成としては、例えば特許文献2に開示されているものがある。特許文献2に開示されている電気機器用ボビンの胴部は、合成樹脂製の第1の保持部材と、非磁性体である薄膜体の第2保持部材とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−167598号公報
【特許文献2】特開2009−213311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、胴部を第1の保持部材と第2の保持部材との2つの部材から構成する場合、2つの部材の接合強度が不十分であると、胴部に電線を巻く際や当該電気機器用ボビンを固定子鉄心に装着する際などに、第1保持部材が第2保持部材から外れるという問題を招くことがある。また、厚い第1の保持部材が胴部の一部を形成しているため、線積率の向上や熱伝導性の向上といった観点からも、不十分なものであった。
そこで、本発明の目的は、電線の線積率が高く、熱伝導性に優れ、且つ部材の接合強度が良好な電気機器用ボビン及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明の電気機器用ボビンは、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、を備えたことを特徴としている。
【0006】
また、本発明の電気機器用ボビンの製造方法は、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、を備えた電気機器用ボビンの製造方法であって、前記胴部を構成する前記絶縁材料を所定形状に整形し、前記絶縁材料の所定の位置に前記係合孔を形成する胴部整形工程と、整形された前記胴部に前記鍔部を成形する鍔部成形工程と、を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電気機器用ボビンによれば、胴部が厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成されているので、電線の線積率を高めることができるとともに、電線で発生した熱を本発明の電気機器用ボビンを装着する固定子鉄心等を通じて、速やかに拡散させることができる。さらに、本発明の電気機器用ボビンによれば、胴部の軸方向の端部に係合孔が形成され、胴部の軸方向の端部に鍔部が設けられ、この鍔部が係合孔に係合しているので、胴部の部材と鍔部の部材との接合強度は良好となり、鍔部が胴部から外れにくくなる。
また、本発明の電気機器用ボビンの製造方法によれば、電線の線積率が高く、熱伝導性に優れ、且つ接合強度に優れる電気機器用ボビンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態の電気機器用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を示す横断平面図
【図2】電気機器用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を固定子鉄心の中心側から見た図
【図3】図1のA−A線に沿う断面図
【図4】図1のB−B線に沿う断面図
【図5】図1に示す第一鍔部と胴部の接合部分とを拡大して示す横断平面図
【図6】電気機器用ボビンが固定子鉄心に嵌められる前の状態を示す横断平面図
【図7】電気機器用ボビンの斜視図
【図8】右側面図
【図9】平面図
【図10】図8のC−C線に沿う断面図
【図11】図8のD−D線に沿う断面図
【図12】電気機器用ボビンの製造工程を概略的に示す図
【図13】低温プラズマ処理機を概略的に示す図
【図14】電線の線積率を示す図で、(a)は本実施形態の電気機器用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図、(b)は従来構成の電気機器用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図
【図15】本発明の第2実施形態を示す図5相当図
【図16】本発明の第3実施形態の電気機器用ボビンを示す縦断側面図
【図17】図16のE−E線に沿う断面図
【図18】本発明の第4実施形態の電気機器用ボビンを示す図16相当図
【図19】図18のF−F線に沿う断面図
【図20】本発明の第5実施形態の製造工程を概略的に示す図
【図21】本発明の第6実施形態を示す胴部を展開した絶縁フォルムの平面図
【図22】本発明の第7実施形態を示す図21相当図
【図23】本発明の第8実施形態を示す図21相当図
【図24】本発明の第9実施形態を示す図5相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複数の実施形態を、ハイブリッド自動車や電気自動車等に使用される電機モータ、発電機などの回転電機に適用した場合について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、変圧器やインバータ等の他の電気機器にも適用することができる。
図面には、適宜、前後、左右及び上下の各方向を矢印で示し、便宜上、回転電機の軸方向を上下方向として説明する。また、各実施形態では、同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については省略する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について、図1〜図14を参照して説明する。
図1〜図4に、インナーロータ型の回転電機11の一部を拡大して示す。回転電機11は、図1に示すように、固定子12と、固定子12の内周側に隙間を介して設けられる回転子13とを有している。
回転子13は、回転子鉄心14と、回転子鉄心14に埋め込まれた図示しない永久磁石とを有している。回転子鉄心14は、円筒形状をなしている。回転子鉄心14の内周部には、図示しないシャフトが設けられている。
【0011】
固定子12は、固定子鉄心15と、コイル16とを有している。固定子鉄心15は、円筒状のヨーク部17と、ヨーク部17の内周面から当該ヨーク部17の内周側、すなわち中心軸側に突出する複数のティース部18とを有している。ここで、図1などには、1つのティース部18のみ図示する。ヨーク部17は、外周が完全な円形でなく、楕円形や多角形などのさまざまな形状を採用することが可能である。ティース部18は、図2〜図4に示すように、略直方体に形成されている。また、ティース部18が固定子鉄心15の周方向に等間隔に配置されることにより、図1、図5、図6に示すように、固定子鉄心15の周方向に隣り合うティース部18,18間にスロット15aが形成される。
【0012】
コイル16は、銅線などの電線が後述する電気機器用ボビン21の胴部22の外周に巻かれることによって構成されている。第1実施形態では、図6に示すように、コイル16が設けられた電気機器用ボビン21を固定子鉄心15の内周側からティース部18に嵌めることにより、コイル16が電気機器用ボビン21の胴部22を介してティース部18に集中巻きに設けられる。図6中の矢印X方向は、電気機器用ボビン21を嵌め込む方向である。
【0013】
電気機器用ボビン21は、図1〜図11に示すように、胴部22と、第一鍔部23と、第二鍔部24と、被係合部25とを有している。
胴部22は、筒状、例えば角筒状をなし、例えば図7〜図11に示すように上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dから構成されている。上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dで囲われて内周に形成される空間21aは、ティース部18の形状とほぼ一致している。上側壁22aおよび下側壁22bは、図2〜図4に示すように、ティース部18に電気機器用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15の軸方向の端部の外側にそれぞれ位置する部分である。また、右側壁22cおよび左側壁22dは、ティース部18に電気機器用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15内、すなわち固定子鉄心15のスロット15a内に位置する部分である。
【0014】
ここで、上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dは、絶縁材料、例えば絶縁フィルムから形成されている。この絶縁フィルムには、絶縁性を有するフィルム、例えば汎用絶縁材からなるフィルムや積層絶縁材からなるフィルムが使用できる。例示すると、米国デュポン(Du Pont)社製のノーメックス(登録商標)などのアラミド紙や、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。特に、アラミド紙とプラスチックフィルムを積層した積層フィルムは耐熱性、絶縁性、機械的特性等に優れているため好適に使用でき、特にアラミド紙とポリフェニレンサルファイドフィルムの積層フィルム、もしくはアラミド紙とポリイミドフィルムの積層フィルムが好ましい。また、図14(a)のT1で示す絶縁フィルムの厚さは、0.05〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.4mm、より好ましくは0.2〜0.3mmである。絶縁フィルムの厚さが0.05mm未満であると、強度が不足して、例えば本発明の電気機器用ボビン21に電線を巻いた際に変形する等の不具合が生じやすくなり、0.5mm超では、線積率の向上や熱伝導性向上の効果が得難くなる。この胴部22は、後述する射出成形のインサート成形によって第一鍔部23および第二鍔部24に一体化されている。
【0015】
胴部22の軸方向の両側の端部には、複数の係合孔22eが形成されている。係合孔22eは、例えば図5および図7に示すように、胴部22を構成する絶縁フィルムの厚さ方向を貫通する円筒の孔である。
【0016】
胴部22を構成する絶縁フィルムの表面には、例えばプラズマ処理、コロナ処理、化学処理等の表面処理を施すことができる。このような表面処理を施すことにより、絶縁フィルムの表面は親水性等が改質されて濡れ性が良好になり、当該絶縁フィルムの接着性が向上し、第一鍔部23および第二鍔部24との接合をより強固にすることができる。表面処理としては、処理の簡便さや濡れ性向上等の効果の強さから、プラズマ処理を施すことが特に好ましい。本明細書では、プラズマ処理について後述する。
【0017】
第一鍔部23および第二鍔部24は、胴部22に設けられたコイル16が固定子鉄心15の径方向にずれるのを防止する規制部として機能するものである。
第一鍔部23は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の一方の端部、具体的には、ティース部18に電気機器用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15のヨーク部17側に位置する端部に設けられている。この第一鍔部23の内周部には、複数の被係合部25が設けられている。被係合部25の形状は、係合孔22eに係合する柱状、この場合、円柱である。
【0018】
第二鍔部24は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の他方の端部、具体的にはティース部18に電気機器用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15の中心側に位置する端部に設けられている。この第二鍔部24は、第一鍔部23よりも固定子鉄心15の中心側に位置している分、固定子鉄心15の周方向に隣り合う第二鍔部24が当らないように、固定子鉄心15の周方向の長さが第一鍔部23の周方向の長さよりも短く形成されていることが好ましい。さらに、第二鍔部24の面のうちの回転子13側の面は、平面方向から見て胴部22側に膨らむ湾曲状に形成されていてもよい。また、第一鍔部23の面のうちの固定子鉄心15側の面は、固定子鉄心15のヨーク部17の内周面に当たるように湾曲していてもよい。第一鍔部23がヨーク部17の内周面に当たることにより、電気機器用ボビン21の位置決めが容易になる。この第二鍔部24の内周部にも、第一鍔部23と同形状の複数の被係合部25が形成されている。
【0019】
第一鍔部23、第二鍔部24および被係合部25は、合成樹脂製、例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などで成形されていることが好ましい。この第一鍔部23、第二鍔部24および被係合部25は、上述したインサート成形により成形され、胴部22と一体に設けられている。インサート成形で成形される第一鍔部23および第二鍔部24の厚さは、任意であるが、例えば2〜3mmである。この第一鍔部23および第二鍔部24の厚さを、図14にT2で示す。なお、第一鍔部23および第二鍔部24の厚さT2をインサート成形が可能な範囲で小さくして、その分、電気機器用ボビン21の胴部22の幅方向を長くし、胴部22に巻く電線の量を多くし、電線の線積率を高めてもよい。
【0020】
また、被係合部25は、インサート成形による上述の樹脂が胴部22の係合孔22eに充填されることにより、第一鍔部23および第二鍔部24にそれぞれ一体に成形されている。これにより、第一鍔部23および第二鍔部24は、被係合部25が係合孔22eに係合し、胴部22に強固に係合した状態となる。
【0021】
胴部22の内周側の面、第一鍔部23の内周側の面および第二鍔部24の内周側の面には、図5に示すように、熱伝導性に優れる充填部材26を設けても良い。充填部材26は、熱を加えるほど流動性が増すもの、例えば熱可塑性樹脂、グリースなどである。
【0022】
次に、上記インサート成形に用いるインサート成形金型を図12を参照して説明する。
図12(f)に示すインサート成形金型31は、土台部32と、土台部32上に設けられた下型33と、下型33上に設けられた上型34とから構成されている。
土台部32は、下型33および上型34を保持するものである。また、土台部32には、電気機器用ボビン21の胴部22の位置決め用の四角柱のブロック部35が設けられている。ブロック部35は、固定子鉄心15のティース部18とほぼ同じ形状である。また、土台部32は、上方に突出する複数本の突出ピン36を有している。突出ピン36は、後述する下型33内においてインサート成形で成形された電気機器用ボビン21を下型33から外すためのものである。
【0023】
下型33は、一対のブロック状の可動下型37,37から構成されている。一対の可動下型37,37は、土台部32上にあって土台部32の上面をスライドし、型開き可能な構成である。図12(c)に型開き方向を矢印Y方向で示す。各可動下型37には、図12(d)に示すように電気機器用ボビン21の略半分の形状の切り欠き38´、38´が形成されている。また、可動下型37,37同士を合わせることにより、図12(f)に示すように電気機器用ボビン21を収納するキャビティ38が形成される。
【0024】
可動下型37の上部には、当該可動下型37の上面からキャビティ38まで連通するノズル39が形成されている。ノズル39は、第一鍔部23および第二鍔部24を成形するための図示しない溶融した樹脂、例えば溶融したPPS樹脂などを、上型34からキャビティ38に供給するための通路である。
【0025】
上型34は、上述したように下型33のノズル39に溶融した樹脂を供給するためのものであり、全体がブロック状をなし、上型34の上下方向を貫通するスプールランナー40が形成されている。また、スプールランナー40の上端部である上型34の上面には、貯留部41が形成されている。貯留部41は、外部から供給される溶融した樹脂を貯留するためのものである。上型34は、下型33の上面に取付けられる構成である。そして、上型34と下型33とを合わせることにより、スプールランナー40の下端部はノズル39と連通する。
【0026】
次に、上記プラズマ処理について図13を参照して説明する。
プラズマ処理とは、電極間に直流または交流の高電圧を印加することによって開始持続する放電、例えば大気圧下でのコロナ放電あるいは真空でのグロー放電などに処理基材を曝すことによって成される処理をいう。このとき、特に限定されないが、処理ガスの選択が広い真空での処理が好ましい。処理ガスとしては、特に限定されないが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、酸素、炭酸ガス、空気、水蒸気等が単独あるいは混合した状態で使用される。なかでもアルゴン、炭酸ガスが放電開始効率の点から好ましい。処理圧力は特に限定されないが、0.1Pa〜1330Paの圧力範囲であり、さらに好ましくは、1Pa〜266Paの範囲である。
【0027】
図13に示すプラズマ処理機51は、密閉可能な処理室52を有している。処理室52内には、処理用ローラ53が設けられ、処理用ローラ53の周囲に僅かな隙間を空けて囲むような電極54が設けられている。図示はしないが、処理用ローラ53は、アース接続されている。電極54には、高周波電源55が接続されている。そして、処理室52内は、図示しない真空ポンプに接続されたバルブ56の開放によって減圧されるとともに、ガス供給源に接続されたバルブ57の開放によって、放電する処理部分に処理用のガス、例えばアルゴンや窒素が供給されるようになっている。処理室52には、当該処理室52内の圧力を計測する圧力計58も設けられている。
【0028】
そして、ロール状に巻回された絶縁フィルム42は、供給部59から引出され、処理室52内の複数個の案内ローラ60により案内されながら処理用ローラ53に一周近く巻付けられるようにして、電極54との間の処理部分を通され、ここでプラズマ処理が行われた後、案内ローラ60により案内されながら巻取部61において再び巻取られるようになっている。
この実施形態において、絶縁フィルム42にプラズマ処理が施される場合、絶縁フィルム42の片面もしくは両面に施される。絶縁フィルム42の片面にプラズマ処理が施されている場合、プラズマ処理が施されている面側が胴部22の外周側になるように配置されることが好ましい。
【0029】
次に、電気機器用ボビン21の製造手順について図12を参照して説明する。
まず、胴部22を構成する絶縁フィルム42の表面に、必要に応じて、上述のプラズマ処理等の表面処理工程を行う。
図12(a)に示すように、フィルム状の絶縁フィルム42を胴部22の展開した長方形に裁断する。具体的には、裁断後の絶縁フィルム42の一方の辺の長さP、すなわち長辺の長さは、上側壁22aの左右方向の長さ、左側壁22dの上下方向の長さ、下側壁22bの左右方向の長さ、右側壁22cの上下方向の長さの合計に、必要に応じて糊代の長さを加えた長さである。また、裁断後の他方の辺の長さQ、すなわち短辺の長さは、胴部22の前後方向、例えば上側壁22aの前後方向の長さである。絶縁フィルム42の厚さは、例えば0.05〜0.5mmである。
【0030】
この絶縁フィルム42の両長辺付近には、長辺の延びている方向に沿って係合孔22eが並んで形成されている。
本発明において、係合孔22eの形成は、絶縁フィルム42を所定の形状に裁断後に行っても良く、予め係合孔22eを形成した後に、絶縁フィルム42の裁断を行っても差し支えない。また、金型を用いた打ち抜きプレス等により、絶縁フィルム42の裁断と係合孔22eの形成を同時に行うこともできる。
【0031】
次に、図12(b)に示すように、裁断した絶縁フィルム42を、折り曲げて胴部形状に整形する。第1実施形態では、裁断工程で得られた絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げている。絶縁フィルム42の寸法に糊代の長さが含まれている場合、絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げるときに、糊代の部分が上側壁22aまたは下側壁22bに位置することが好ましい。また、胴部整形工程では、糊代に接着剤などを塗布し、インサート成形前に絶縁フィルム42を角筒状に仮止めし、インサート成形時に絶縁フィルム42が型崩れしてしまうことを防止するようにしてもよい。
この明細書では、絶縁フィルム42の裁断、係合孔22eの形成および胴部形状の成形を行う工程を胴部整形工程と称する。なお、上記のように、絶縁フィルム42の裁断と係合孔22e形成の順序は、いずれが先でも、同時でも差し支えない。
【0032】
次に、図12(c)および図12(d)に示すように、下型33が型開きしている状態、すなわち可動下型37,37が離れている状態で、角筒状に折り曲げた絶縁フィルム42からなる胴部22を、インサート成形金型31の所定の位置、すなわち土台部32のブロック部35に嵌める胴部配置工程を行う。絶縁フィルム42をブロック部35に嵌める際、絶縁フィルム42を土台部32から少し離れていることが好ましい。これにより、インサート成形後において、胴部22の軸方向の外側に、インサート成形で成形された樹脂が設けられ、胴部22の軸方向の端部が補強される。
【0033】
次に、図12(e)に示すように、可動下型37,37同士を合わせて、下型33内に電気機器用ボビン21のキャビティ38を形成する下型固定工程を行う。
次に、図12(f)に示すように、下型33の上面に上型34を取付ける。そして、上型34の貯留部41に溶融した樹脂を注入する。貯留部41に注入された樹脂は、スプールライナー40およびノズル39を通って、キャビティ38に供給され、これにより、インサート成形が行われ、胴部22と一体になった第一鍔部23、第二鍔部24および被係合部25が成形される鍔部成形工程が行われる。ここで、被係合部25は、インサート成形によって胴部22の係合孔22e内に形成され、被係合部25が係合孔22eに係合した状態となる。
【0034】
プラズマ処理等の表面処理を絶縁フィルムに施した場合、胴部22の表面は、表面処理によって濡れ性および接着性が向上されているので、溶融した鍔部である第一鍔部23および第二鍔部24を形成する樹脂は絶縁フィルム42上を流動しやすく胴部22に十分な範囲で接着し、胴部22と鍔部とが十分に接合し、成形後の鍔部において割れ等の発生が抑制される。
【0035】
上記インサート成形後、上型34を下型33から取外し、下型33の可動下型37,37を型開きし、土台部32の突出ピン36を土台部32の上面から突出させることにより、土台部32からの電気機器用ボビン21の取外しが行われる。
なお、上述では、胴部整形工程を行う前にプラズマ処理等の表面処理を施すとして説明したが、胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前、例えば、絶縁フィルム42を所定の大きさに裁断した後に当該絶縁フィルム42に表面処理を施してもよい。また、必要に応じて胴部整形工程を行う前に、および胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前の両方に表面処理を施してもよい。
【0036】
次に、コイル16を固定子鉄心15のティース部18に取付ける手順について図1〜図4、図6、図11を参照して説明する。
まず、図11に示す電気機器用ボビン21の胴部22の外周に電線を巻いて、図6に示すように胴部22の外周にコイル16を設ける。次に、胴部22の内周側の面に、必要に応じて充填部材26を設ける。そして、図6中の矢印X方向に示すように、コイル16が設けられた電気機器用ボビン21を固定子鉄心15のティース部18に固定子鉄心15の内周側から嵌める。これにより、ティース部18に集中巻きされたコイル16が電気機器用ボビン21を介して設けられる。このとき、図1〜図4に示すように、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に絶縁フィルムから構成された右側壁22cおよび左側壁22dが位置し、固定子鉄心15の軸方向外側に上側壁22aおよび下側壁22bが位置する。また、胴部22とティース部18との間は、充填部材26によって埋められている。
固定子鉄心15の他のティース部18にも、上記と同様に、コイル16が設けられた電気機器用ボビン21が固定子鉄心15のティース部18に嵌められる。これにより、固定子鉄心15のすべてのティース部18にコイル16が設けられた構成となる。
【0037】
次に、上記構成の効果を説明する。
第1実施形態によれば、固定子鉄心15のティース部18に嵌められる電気機器用ボビン21の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dは、厚さが0.05〜0.5mmの絶縁フィルムから構成される。したがって、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dを、インサート成形から構成される従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を電気機器用ボビン21の胴部22に巻くことができる。これにより、第1実施形態の構成では、従来構成よりも電線の線積率を高めることができる。また、胴部22を薄くすることで、電線で発生した熱を固定子鉄心15を通じて、速やかに拡散させることができる。その結果、高出力化・高効率化が図られた回転電機11を得ることができる。
【0038】
上記電線の線積率について、図14を参照して説明する。図14(a)は、本実施形態の電気機器用ボビン21を模式的に示した断面図であり、図14(b)は、従来構成の電気機器用ボビン101を模式的に示した断面図である。電気機器用ボビン101はインサート成形で胴部102と第一鍔部103と第二鍔部104とが一体に成形されたものである。この場合、胴部102がインサート成形で成形されるので、胴部102における固定子鉄心内に位置する部分の厚さT0は、少なくともインサート成形後に割れが生じない寸法、例えばT0=1〜3mmである。
【0039】
一方、この実施形態では、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dが絶縁フィルムから構成されているので、この実施形態の電線の線積率を、従来構成における電線の線積率よりも、(T0−T1)に相当する分、高くすることができる。
【0040】
また、一般に、円形のコイル導体に電流I(A)が流れる場合、コイルの軸中心Oの磁束密度Bは、「B=μ0Nl/2r ただし、μ0は真空の透磁率、Nは1m当たりの巻き数、lはコイルの長さ、rはコイルの半径」で表される。第1実施形態の胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は、上記従来構成の胴部102の固定子鉄心15内に位置する部分よりも薄いので、胴部22の外周に設けられるコイル16の半径r1を従来のコイルの半径r0よりも(T0−T1)に相当する分、小さくすることができ、この実施形態では、従来構成よりもコイル16の磁束密度を高くすることができる。したがって、磁束密度の観点から、回転電機11の回転効率を向上させることができる。
【0041】
電気機器用ボビン21は、胴部22の軸方向の端部に係合孔22eが形成され、胴部22の軸方向の端部に第一鍔部23および第二鍔部24が設けられ、この第一鍔部23の被係合部25および第二鍔部24の被係合部25が係合孔22eのそれぞれに係合しているので、胴部22と第一鍔部23との接合強度、および胴部22と第二鍔部24との接合強度は良好となる。これにより、第一鍔部23および第二鍔部24とも胴部22から外れにくくなる。
【0042】
第一鍔部23および第二鍔部24は、インサート成形で成形されているので、製造が容易であり、厚みを十分に確保できて強度を高めることができる。また、第一鍔部23および第二鍔部24が胴部と一体に設けられているので、電気機器用ボビン21を固定子鉄心15などの部品へ取付けることが容易となる。
【0043】
胴部22の内周側の面に、必要に応じて充填部材26が設けられ、充填部材26によって胴部22とティース部18との隙間が埋められているので、コイル16をなす電線で発生した熱は胴部22および充填部材26を介して固定子鉄心15に伝わりやすくなる。これにより、コイル16は高温となりにくく、コイル16の温度上昇を抑制することができる。特に、充填部材26が熱伝導性に優れるほど、コイル16の温度上昇をより抑制することができる。
胴部整形工程を行う前に、または胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前に、絶縁材料の表面に濡れ性を良好にする表面処理を施すことにより、インサート成形時において溶融した樹脂は流動しやすくなる。これにより、樹脂が胴部22に十分に接着し、胴部22と鍔部である第一鍔部23および第二鍔部24とが十分に接合し、鍔部成形後に割れ等の発生を抑制することができる。
【0044】
この実施形態の製造方法により、筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔22eが形成された胴部22と、胴部22の軸方向の端部に設けられ、係合孔22eに係合している合成樹脂製の第一鍔部23および第二鍔部24と、を備えた電気機器用ボビン21を得ることができる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態について、図15を参照して説明する。なお、第一鍔部23および第二鍔部24は、前後方向においてほぼ対称な構成であるため、第一鍔部23側の構造を説明し、第二鍔部24側の構成については説明を省略する。
【0046】
第一鍔部23は、図15に示すように、一対の挟み片23a,23aを有している。一対の挟み片23a,23aは、胴部22の厚さ方向において胴部22を挟むようにして設けられ、インサート成形により成形されている。一対の挟み片23a,23aのうち一方の挟み片23aは、第一鍔部23の内周側の面から胴部22の軸方向の外側を回り込み胴部22の内周側の面に沿って延びている。また、他方の挟み片23aは、第一鍔部23の部位のうち胴部22の外周側の面に接する部位である。
【0047】
この実施形態では、係合孔22eが一対の挟み片23a,23aの間に配置されている。また、被係合部25は、インサート成形によって一対の挟み片23a,23a間に成形されている。さらに、充填部材26は、胴部22の内周側の面および第一鍔部23の内周面に、ティース部18との隙間を埋めるようにして設けられている。
【0048】
上記構成によれば、胴部22は、一対の挟み片23,23および被係合部25からなる環状構造で第一鍔部23に固定されるので、胴部22と第一鍔部23とがより一層強固に接合した状態となる。
なお、上述したように、第二鍔部24も上述と同様の一対の挟み片を有することにより、胴部22と第二鍔部24とがより一層強固に接合した状態となる。
その他、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0049】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図16および図17を参照して説明する。
図16および図17に示す第3実施形態の電気機器用ボビン71は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部72を備えている。
つなぎ部72は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部72は、上側壁22aの外周側である上側および下側壁22bの外周側である下側にそれぞれ設けられている。
電気機器用ボビン71は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部72は、このインサート成形の際に、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部72の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
【0050】
第3実施形態によれば、第一鍔部23と第二鍔部24との間に、胴部22の厚さよりも大きいつなぎ部72を設けたので、胴部22の強度、特に胴部22の軸方向からの圧縮に対する強度が増し、胴部22の変形を防止することができる。これにより、第3実施形態は、第1実施形態よりも強度を有する電気機器用ボビン71を得ることができる。
また、つなぎ部72が上側壁22aの外周側および下側壁22bの外周側にそれぞれ設けられ、かつ、右側壁22cおよび左側壁22dが絶縁フィルムからなるため、胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は薄い。したがって、第3実施形態の電気機器用ボビン71は、図14(b)に示す従来構成の電気機器用ボビン101よりも、電線の線積率を高くすることができる。
その他、第3実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0051】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について図18および図19を参照して説明する。
図18および図19に示す第4実施形態の電気機器用ボビン81は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部82を備えている。
つなぎ部82は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部82は、上側壁22aの内周側である下側および下側壁22bの内周側である上側にそれぞれ設けられている。
電気機器用ボビン81は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部82は、このインサート成形の際に第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部62の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
この第4実施形態は、第3実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について図20を参照して説明する。
図20(f)は、第5実施形態の電気機器用ボビン91の底面図である。この電気機器用ボビン91は、第1〜第4実施形態のインサート成形の代わりに、プレス成形を行って成形されている。
第5実施形態では、図20(b),(e)に示すように、胴部22の軸方向の両端部がそれぞれ外周方向に折り曲げられ、胴部22の軸方向両側にフランジ部22fが形成されている。そして、フランジ部22fに係合孔22eが配置されている。また、第5実施形態では、第一鍔部23および第二鍔部24がそれぞれ2層構造で構成されている。
【0053】
第一鍔部23は、図20(c),(e)に示すような当該第一鍔部23の厚さ方向を二等分する2枚の第一鍔部片23b,23bと、図20(d),(e)に示すような第一鍔部片23bと胴部22とを接着するための接着部材92とを有している。接着部材92は、図20(d)に示すように、例えば第一鍔部23と同形状の枠状に形成された両面に接着性を有する接着シートである。そして、第一鍔部23は、軸方向の外側から順に第一鍔部片23b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第一鍔部片23bが積層して、胴部22に一体に設けられている。このとき、胴部22の係合孔22eは、一対の第一鍔部片23b,23bの間に配置された構成となる。
【0054】
第二鍔部24も、図20(e)に示すように、当該第二鍔部24の厚さ方向を二等分する2枚の第二鍔部片24b,24bと、第二鍔部片24bと胴部22とを接着するための上述の接着部材92とを有している。そして、第二鍔部24は、軸方向の外側から順に第二鍔部片24b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第二鍔部片24bが積層して、胴部22に一体に設けられている。このとき、胴部22は、係合孔22eが一対の第二鍔部片24b,24bの間に配置して設けられた構成となる。
第5実施形態では、一対の第一鍔部片23b,23bが一対の挟み片23a,23aとなり、一対の第二鍔部片24b,24bが一対の挟み片24a,24aとなる。
【0055】
次に、電気機器用ボビン91の製造手順について説明する。
まず、胴部22を構成する絶縁フィルム42の表面に、必要に応じてプラズマ処理等の表面処理を施す表面処理工程を行う。
次に、図20(a)に示すように、フィルム状の絶縁フィルム42を胴部22の展開した長方形に裁断する。ここで、絶縁フィルム42には、図20(b)に示すように折り曲げが容易になるように、絶縁フィルム42の長辺において、必要に応じて切込み部42aが形成されている。
次に、図20(b)に示すように、裁断した絶縁フィルム42を、角筒状に折り曲げて胴部形状に整形し、胴部22の軸方向の両端を外周側に折り曲げてフランジ部22fを形成する胴部整形工程を行う。
【0056】
次に、図20(c)に示す第一鍔部片23b、第二鍔部片24b、および図20(d)に示す接着部材92を、図20(e)および図20(f)に示すように、各鍔部片、接着部材92、胴部22のフランジ部22fを積層し、プレス成形して鍔部を成形する鍔部成形工程を行う。具体的には、第一鍔部23側では、胴部22の軸方向外側から順に第一鍔部片23b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第一鍔部片23bの順に積層してプレス成形により各部材を接着部材92によって接着させる。また、第二鍔部24側では、胴部22の軸方向外側から順に第二鍔部片24b、接着部材92、胴部22のフランジ部22f、接着部材92、第二鍔部片24bの順に積層してプレス成形により各部材を接着部材92によって接着させる。
【0057】
ここで、2枚の接着部材92に挟まれた胴部22のフランジ部22fにおいて、接着部材92の一部は、フランジ部22fに形成されている係合孔22e内に入り込み、係合孔22e内で接着部材92同士がくっつく。これにより、接着部材92同士が強固に結合した状態となり、胴部22のフランジ部22fも接着部材92に強固に結合した状態となる。この場合、接着部材92のうち係合孔22e内に位置する部分が被係合部となる。
【0058】
なお、上述では、胴部整形工程を行う前に表面処理を施すとして説明したが、胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前、例えば、絶縁フィルム42を所定の大きさに裁断した後に当該絶縁フィルム42に表面処理を施してもよい。また、必要に応じて胴部整形工程を行う前に、および胴部整形工程を行った後且つ鍔部成形工程を行う前の両方に表面処理を施してもよい。
【0059】
得られた電気機器用ボビン91は、第一実施形態の電気機器用ボビン21と同様にして、図1に示す固定子鉄心15のティース部18に嵌められる。これにより、固定子鉄心15のティース部18に嵌められる電気機器用ボビン91の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分には胴部22の絶縁フィルムが位置する。
【0060】
次に、上記構成の効果を説明する。
第5実施形態によれば、第1実施形態と同様に、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分を従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を電気機器用ボビン91に巻くことができ、図示しない回転電機の高出力化・高効率化を図ることができる。
第5実施形態によれば、インサート成形を行わずに、プレス成形によって鍔部である第一鍔部23および第二鍔部24を胴部22に一体に設けることができる。
【0061】
(第6〜第9実施形態)
第1〜第5実施形態では係合孔22eは円筒状として説明したが、この係合孔22eの代わりに、第6実施形態として図21に示すような角筒状の係合孔22g、または第7実施形態として図22に示すような三角形の筒状の係合孔22hを形成させてもよい。第6実施形態および第7実施形態とも、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0062】
さらに、第8実施形態として図23に示すように孔の一部が開放した形状、すなわち切欠き状の係合孔22iとしてもよい。係合孔22iとした場合には、絶縁フィルム42の平面方向から見てクサビ状であることが好ましい。係合孔22iの形状がクサビ状であることにより、係合孔22iの断面積が増して接着部材92同士の接着面積が増えるとともに、絶縁フィルム42が幅方向にずれてしまうこともより一層防止することができる。
【0063】
第9実施形態は、図24に示すように、第1実施形態とほぼ同一の構成であるが、電気機器用ボビン21の胴部22の内周側の面、第一鍔部23の内周側の面および第二鍔部24の内周側の面に充填部材を設けない構成である。コイル16で発生する熱が少ない場合、充填部材を省略させても良い。
【0064】
尚、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されず、次のような変形、拡張が可能である。
胴部22の上側壁22a、下側壁22b、右側壁22c、左側壁22dが絶縁フィルムで構成されているとして説明したが、少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22c、左側壁22dが絶縁フィルムで構成されていればよい。この場合、上側壁22a、下側壁22bは、第一鍔部23および第二鍔部24と同じ材料からなり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けてもよい。
【0065】
第3実施形態および第4実施形態では、つなぎ部72,82の形状を側壁として説明したが、つなぎ部72,82の形状は任意であり、例えば複数の柱状であってもよい。
第5実施形態の接着部材92は、一例として接着シートとして説明したが、流動性を有する接着剤でもよい。
表面処理として、プラズマ処理を行うとして説明したが、プラズマ処理の代わりに、コロナ処理や化学処理を行ってもよい。
【0066】
上記した実施形態は一例に過ぎず、絶縁フィルムの材質や厚みは、各電気機器用ボビンの使用により適宜決定され、その他、材料、形状、つなぎ部の位置などについても、適宜変更することができる。また、本発明は、変圧器、インバータ等の電気機器の他、アウターロータ形の回転電機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
図面中、21,71,81,91は電気機器用ボビン、22は胴部、22eは係合孔、23は第一鍔部(鍔部)、23b,24bは挟み片、24は第二鍔部(鍔部)、26は充填部材を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、
前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、
を備えたことを特徴とする電気機器用ボビン。
【請求項2】
前記鍔部は、射出成形により成形され、前記胴部と一体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気機器用ボビン。
【請求項3】
前記鍔部は、前記胴部の厚さ方向において前記胴部を挟む一対の挟み片を有し、
前記胴部は、前記係合孔が前記一対の挟み片の間に配置して設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気機器用ボビン。
【請求項4】
前記胴部の内周側の面に、充填部材が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の電気機器用ボビン。
【請求項5】
筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、
前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、
を備えた電気機器用ボビンの製造方法において、
前記胴部を構成する前記絶縁材料を所定形状に整形し、前記絶縁材料の所定の位置に前記係合孔を形成する胴部整形工程と、
整形された前記胴部に前記鍔部を成形する鍔部成形工程と、を行うことを特徴とする電気機器用ボビンの製造方法。
【請求項6】
前記胴部整形工程を行う前に、または前記胴部整形工程を行った後且つ前記鍔部成形工程を行う前に、前記絶縁材料の表面に表面処理を施す表面処理工程を行うことを特徴とする請求項5記載の電気機器用ボビンの製造方法。
【請求項1】
筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、
前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、
を備えたことを特徴とする電気機器用ボビン。
【請求項2】
前記鍔部は、射出成形により成形され、前記胴部と一体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気機器用ボビン。
【請求項3】
前記鍔部は、前記胴部の厚さ方向において前記胴部を挟む一対の挟み片を有し、
前記胴部は、前記係合孔が前記一対の挟み片の間に配置して設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気機器用ボビン。
【請求項4】
前記胴部の内周側の面に、充填部材が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の電気機器用ボビン。
【請求項5】
筒状をなし、厚さ0.05〜0.5mmの絶縁材料から形成され、軸方向の端部に係合孔が形成された胴部と、
前記胴部の軸方向の端部に設けられ、前記係合孔に係合している合成樹脂製の鍔部と、
を備えた電気機器用ボビンの製造方法において、
前記胴部を構成する前記絶縁材料を所定形状に整形し、前記絶縁材料の所定の位置に前記係合孔を形成する胴部整形工程と、
整形された前記胴部に前記鍔部を成形する鍔部成形工程と、を行うことを特徴とする電気機器用ボビンの製造方法。
【請求項6】
前記胴部整形工程を行う前に、または前記胴部整形工程を行った後且つ前記鍔部成形工程を行う前に、前記絶縁材料の表面に表面処理を施す表面処理工程を行うことを特徴とする請求項5記載の電気機器用ボビンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2012−44780(P2012−44780A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183933(P2010−183933)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
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