説明

電気機械式ブレーキブースタ

本発明は電気機械式ブレーキブースタに関する。本発明は、反対方向に作動し、軸線方向力が相補的な2つのウォームギヤ(11,13)を有するブレーキブースタ(1)を構成することを提案する。ウォームギヤ(11,13)は歯付きラックギヤ(14,15)を駆動し、歯付きラックギヤ(14,15)は、回転駆動運動を、ブレーキ・マスターシリンダを作動するための並進駆動運動に変換する。2つのギヤ経路を設けることにより、それぞれのギヤ経路の負荷が半減され、ギヤ出力を形成するブースタボディ(6)に力が対称的に加えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部(第1段落)に記載の電気機械式ブレーキブースタに関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツ国特許出願公開第10327553号明細書は、中空シャフト式電動モータ有し、電動モータの中空ロータがスピンドルナットを備え、スピンドルナットが中空スピンドルと係合した電気機械式ブレーキブースタを開示している。スピンドルナットおよびスピンドルはスピンドル駆動装置を形成するか、または一般に、電動モータの回転駆動運動を、液圧式ブレーキ・マスターシリンダを作動するための並進的な被駆動運動に変換するねじギヤ装置を形成する。したがって、既知の電気機械式ブレーキブースタのスピンドル駆動装置は、回転/並進変換ギヤを形成している。中空スピンドルの並進的な被駆動運動は、ブレーキブースタのピストンロッドに不動に配置された連行部に伝達される。ピストンロッドはブレーキペダルに枢着的に結合されており、ブレーキペダルによってブレーキ操作のために車両運転手の筋力を負荷される。ピストンロッドは、ブレーキ・マスターシリンダのピストンと結合しており、筋力およびブレーキブースタの倍力をブレーキ・マスターシリンダのピストンに伝達する。一般的にいえば、既知のブレーキブースタのピストンロッドは同時に加圧ロッドを形成している。
【0003】
ドイツ国特許出願公開第3031643号明細書が、別の電気機械式ブレーキブースタを開示している。このブレーキブースタは同様に、ウォームギヤを介してマルチ・ディスククラッチを駆動する電動モータを備える。マルチ・ディスククラッチを介して電動モータの回転駆動運動が開始される。電動モータによって、後置されたウォームギヤを介して加えられたモーメントは、ブレーキ操作のために車両運転手によって加えられた筋力によるマルチ・ディスククラッチの軸線方向負荷に関係している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第10327553号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第3031643号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の特徴を有する本発明による電気機械式ブレーキブースタは、電動モータと、電動モータによって駆動されるギヤとを備える。ギヤは、電動モータの回転駆動運動を、液圧式のブレーキ・マスターシリンダを操作するための並進的な被駆動運動に変換する回転/並進変換ギヤを備える。回転/並進変換ギヤとしては、例えばラックギヤ、スピンドル駆動装置などのねじギヤ、ボール・ナット式ギヤ、遊星ローラねじ式駆動装置などの形態のローラねじ式ギヤ、または牽引ギヤが考慮される。ここに列挙したものは包括的ではない。回転/並進変換ギヤの駆動部もしくは入力部は、必ずしもギヤ全体の駆動部もしくは入力部である必要はなく、別のギヤまたはギヤ段を回転/並進変換ギヤに前置していてもよい。回転/並進変換ギヤの出力部または被駆動部についても同様であり、これらも必ずしもギヤの出力部または被駆動部である必要はない。回転/並進変換ギヤに別のギヤまたはギヤ段を後置してもよい。
【0006】
本発明による電気機械式ブレーキブースタのギヤは、分配ギヤ(Verteilergetriebe)と連結ギヤ(Vereinigungsgetriebe)とを備える。分配ギヤおよび/または連結ギヤは、回転/並進変換ギヤの部分であってもよい。分配ギヤはギヤ入力を少なくとも2つのギヤ経路に分配し、連結ギヤは、これらのギヤ経路を再び共通のギヤ出力に連結する。回転/並進変換ギヤのために説明したように、分配ギヤのギヤ入力は、ブレーキブースタのギヤの入力である必要はなく、分配ギヤにギヤまたはギヤ段を前置してもよい。同様に、連結ギヤのギヤ出力部はギヤ全体の出力部である必要はなく、連結ギヤにギヤまたはギヤ段を後置してもよい。ギヤは、それぞれのギヤ経路に設けてもよく、有利には、それぞれのギヤ経路は同じギヤを備えている。もちろんこれは不可避的ではない。ギヤは連結ギヤを形成してもよい。
【0007】
本発明の利点は、ギヤの負荷、すなわち、ギヤによって伝達されるモーメントおよび/またはギヤによって伝達される力が少なくとも2つのギヤ経路に分配されることである。これにより、ギヤ経路の負荷が低減され、このことは、例えば、ギヤの部品を鋼の代わりにプラスチックから製造することを可能にする。本発明の別の利点は、対称的な構成、および並進的な被駆動運動をブレーキブースタの出力部に対称的に導入することが可能な点である。
【0008】
従属請求項は、請求項1に記載した本発明の有利な構成および改良形態を対象としている。
【0009】
請求項4ではギヤの多段式構成を設けており、例えば、回転/並進変換ギヤに減速ギヤが前置されている。減速ギヤとしては、ウォームギヤ、場合によっては多段式の平歯車、遊星歯車、かさ歯車またはクラウンギヤなどが考慮される。ここに列挙したものは包括的ではない。ギヤは、分配ギヤを形成してもよいし、および/またはそれぞれのギヤ経路に設けてもよい。有利には、それぞれのギヤ経路が同じギヤを備えることは多段式のギヤ構成についてもいえるが、これはもちろん本発明にとって不可避的なことではない。
【0010】
請求項5では、変化する伝達比を有するギヤを設けている。特に、ブレーキブースタの出力部を次第に変位させることにより、伝達比が減少するか、もしくは減速比が増大する。電動モータの駆動モーメントが等しい場合、ブレーキブースタによって加えられる倍力はより大きく、これに対してブレーキ操作の開始時には、電動モータの所定回転数におけるブレーキブースタの出力部の変位速度はより大きい。変化する伝達比を有するギヤとしては、円筒曲線を有する曲線ギヤなどの曲線ギヤも既知である。曲線ギヤには、回転式または特に旋回式に駆動可能なカムを有するカムギヤが挙げられる。ここに列挙したものは包括的ではない。変化する伝達比を有するギヤでは、複数のギヤ経路におけるこのような複数のギヤへの分配が、個々のギヤの負荷を減じるために有利である。
【0011】
次に本発明を図示の実施形態に基づき詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による電気機械式ブレーキブースタを簡略化して軸線方向に断面した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面に示した本発明による電気機械式のブレーキブースタ1はピストンロッド2を備え、ピストンロッドは、ブレーキブースタ1の一部ではないブレーキペダル3に枢着的に結合されており、加圧ロッド4を備えている。加圧ロッド4によって、図示しない液圧式のブレーキ・マスターシリンダが既知の形式で操作可能である。すなわち、ピストンは、ブレーキ・マスターシリンダの内部に摺動可能である。ピストンロッド2と加圧ロッド4との間には、いわゆる「反応ディスク5」が配置されており、反応ディスク5を介して加圧力がピストンロッド2から加圧ロッド4に伝達される。ブレーキペダル3を踏み込むことにより、ピストンロッド2を介して、図示しないブレーキ・マスターシリンダの反応ディスク5およびピストンの加圧ロッド4は、ブレーキ・マスターシリンダの内部に摺動可能である。すなわち、ブレーキ・マスターシリンダはこのようにして筋力によって操作可能である。反応ディスク5はゴムまたは弾性的なプラスチックからなる。
【0014】
ブレーキブースタ1は、同軸的な貫通孔7を有するブースタボディ6を備え、貫通孔7にはピストンロッド2が軸線方向に摺動可能に収容されている。ブースタボディ6は同様に軸線方向に摺動可能であり、外側が加圧ロッド4の方向に円錐状にテーパしており、加圧ロッド側端部は円錐台の脚部直径に向けて拡開している。加圧ロッド側端部に、ブースタボディ6は円筒状の凹部8を備え、凹部8の底部には貫通孔7が開口しており、凹部には反応ディスク5が挿入されており、これに続いて加圧ロッド4のプレート状の脚部9が収容されている。
【0015】
ブースタボディ6に対して横方向にウォームシャフト10が配置されており、ウォームシャフト10はウォーム11を備え、ウォーム11はウォームシャフト10に堅固に結合されているか、またはこれと一体化されており、ブースタボディ6の両側に対称的に位置する。駆動バーは、電動モータ12を有するウォームシャフト10である。2つのウォーム11は同じ大きさで互いに反対の勾配を有する。ウォーム11はウォームホイール13と噛み合い、ウォームホイール13と共にウォームギヤ装置11,13を形成している。ウォーム11の互いに反対の勾配、ひいては2つのウォームギヤ11,13が反対方向に作動することにより、ウォームホイール13の駆動時に2つのウォーム11の軸線方向力は補償され、したがって、ウォームシャフト10は軸線方向力から自由である。継手16がウォームシャフト10を電動モータ12のモータシャフトに回動不能および軸線方向に可動に結合している。軸線方向摺動性により、ウォームシャフト10はギヤ経路に場合によって存在する許容差を補償し、ギヤ経路は等しく加重される。
【0016】
ウォームホイール13は、ブースタボディ6の両側に向かい合って配置された平歯車14に対して回動不能である。平歯車14は、ブースタボディ6の長手方向に円錐台状領域に延在する、ブースタボディ6のラック15と噛み合う。2つのラック15の相互間隔は加圧ロッド4の方向に減少している。平歯車14は相互に、およびブースタボディ6から一定の軸線方向間隔を有し、偏心的であり、これにより、平歯車14は、ブースタボディ6の軸線方向及び摺動方向に対してラック15の傾斜を補償する。平歯車14とラック15とはラックギヤ14,15を形成しており、ラックギヤ14,15は、平歯車14の偏心性およびラック15の摺動方向に対して傾斜した配置により、変化する伝達率を有する。ラックギヤ14,15の伝達率は、したがって、図示していないブレーキ・マスターシリンダの操作時には小さくなる。ブレーキ・マスターシリンダの操作方向にブースタボディ6を摺動した場合、電動モータ12の回転数が一定であると仮定すれば、ブースタボディ6の摺動速度は減少し、電動モータ12の駆動モーメントが一定であると仮定すればブレーキブースタ1の倍力は増大する。ラック15の真っすぐな延びは本発明では不可避的ではなく、説明した実施形態とは異なり、ラック15は任意の湾曲した延びを有していてもよいし、特に凸状または凹状に丸みをつけてもよい。平歯車14の形状は、歯列が常に噛み合うようにラック15の延びに適合させる必要がある。平歯車14の軸線方向の相互間隔およびブースタボディ6からの間隔を可変とすることも考えられる。摺動方向に対して平行な延びを有するラック15および同心的な平歯車14も可能であり、この場合、ラックギヤは一定の伝達率を有する(説明しない)。平歯車14は周方向領域にのみ歯列を有し、この歯列は、回転または旋回時にラック15と噛み合うか、もしくは係合する。
【0017】
ブレーキブースタ1の倍力は、ブースタボディ6の凹部8により反応ディスク5を介して加圧ロッド4の脚部9に伝達される。反応ディスク5は、ブレーキペダル3を介してピストンロッド2に加えられた筋力およびブレーキブースタ1のブースタボディ6によって加えられた倍力を加算し、これらの力を一緒に操作力として加圧ロッド4の脚部9に伝達する。2つのウォームギヤ11,13は、ギヤ入力を2つのギヤ経路に分配する分配ギヤを形成している。ギヤ入力は、ここではギヤシャフト10もしくは電動モータ12の駆動モーメントである。2つのギヤ経路は、それぞれ1つのウォームギヤ11,13およびラックギヤ14,15を備える。2つのラックギヤ14,15はブースタボディ6と共に、2つのギヤ経路のモーメントを軸線方向に作用する倍力としてギヤ出力、すなわち、ブースタボディ6に連結する連結ギヤを形成している。2つのギヤ経路を対称的に構成し、対称的に配置したことにより2つのギヤ経路は同じ負荷を伝達し、同じ大きさのモーメントまたは力およびギヤ出力を伝達し、したがって、ブースタボディ6は対称的に負荷される。ブースタボディ6にはモーメントも横方向力も作用しない。全体として、2つのウォームギヤ11,13および2つのラックギヤ14,15はブレーキブースタ1のギヤを形成する。
【0018】
2つのギヤ経路は、複数段式、すなわち2段式である。ウォームギヤ11,13はギヤ経路の第1ギヤ段を形成し、ラックギヤ14,15は第2ギヤ段を形成する。ウォームギヤ11,13は減速ギヤであり、回転駆動運動を回転被駆動運動に変換する。ラックギヤ14,15は、回転駆動運動を並進被駆動運動に変換する回転/並進変換ギヤである。上述のように、ラックギヤ14,15は変化する伝達比を有する。2つのギヤ経路に負荷を分配することにより、ウォームホイール13をプラスチックにより製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(12)と、前記電動モータ(12)によって駆動されるギヤ(11,13,14,15)と、前記電動モータ(12)の回転駆動運動を液圧式のブレーキ・マスターシリンダを操作するための並進的な被駆動運動に変換する回転/並進変換ギヤと、を備える電気機械式ブレーキブースタにおいて、
前記ギヤ(11,13,14,15)が、1つのギヤ入力(10)を少なくとも2つのギヤ経路に分配する分配ギヤ(11,13)と、前記ギヤ経路を1つのギヤ出力部(6)に連結する連結ギヤ(14,15)と、を備えることを特徴とする、電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項2】
前記ギヤ経路が同じ負荷を伝達する、請求項1に記載の電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項3】
前記連結ギヤ(14,15)が前記ギヤ出力部(6)を対称的に動かす、請求項1に記載の電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項4】
前記ギヤ(11,13,14,15)が多段式である、請求項1に記載の電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項5】
前記ギヤ(11,13,14,15)が変化する伝達比を有する、請求項1に記載の電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項6】
前記分配ギヤ(11,13)が、共通のウォーム駆動部(10)を有する2つのウォームギヤ(11,13)を備え、前記ウォームギヤ(11,13)が2つのギヤ経路の部分である、請求項1に記載の電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項7】
前記ウォームギヤ(11,13)が逆方向に作動する、請求項6に記載の電気機械式ブレーキブースタ。
【請求項8】
前記連結ギヤ(14,15)が2つの歯車ギヤ(14,15)を備え、前記2つの歯車ギヤ(14,15)のラック(15)が共通のギヤ出力を形成する、請求項1に記載の電気機械式ブレーキブースタ。

【図1】
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【公表番号】特表2012−517935(P2012−517935A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550435(P2011−550435)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067937
【国際公開番号】WO2010/097135
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】