説明

電気痙攣療法(「ECT」)に対する治療応答を増大させるための方法

【課題】本発明は、ECTによって影響を受ける疾患を有する患者におけるECTに対する治療応答を増大させるための医薬組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、真核細胞の単離、及び/又は精製されたラットのアポトーシスに特異的開始因子-5A(eIF-5A)及びデオキシハイプシン・シンターゼ(DHS)核酸及びポリペプチドに関する。さらに本発明は、アポトーシスに特異的なeIF-5A及びDHSを用いて、アポトーシスを調節する方法、及びこうした方法に有益なアンチセンス・オリゴヌクレオチド及び発現ベクターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般に、精神医学の分野に関する。特に、本発明は、グルココルチコイドレセプターに対するコルチゾールの結合を阻害する薬剤が、電気痙攣療法(「ECT」)に対する治療応答を増大させる方法において用いられ得るという知見に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ECTは、深刻な形態の精神病についての、有効であるが、議論の余地がある処置である。米国においては、ECTを用いて重篤な精神障害について処置される患者が1年間におよそ100,000人存在する(Datto,Depression and Anxiety,12:130−134(2000)、Fogg−Waberskiら,Connecticut Medicine 64:335−337(2000)Wijeratneら,Medical Journal of Australia,171:250−254を参照のこと)。ECT処置は、制御された痙攣を誘導するために、脳を通して電流を施すことを含む。ECTの正の安全性の記録および高レベルの有効性にも拘らず、ECTに関連した危険性が無視できない。種々の程度の重篤度を有する副作用は、高血圧、不整脈、不全収縮および頻脈から、筋肉痛、急性錯乱状態、持続性記憶欠損、疲労、頭痛、および悪心までの範囲に及ぶ。Datto,前出を参照のこと。いくつかの薬物適用 (例えば、血圧および心拍数を制御するための薬物適用)が、副作用を低減するためにECTとともに投与されているが、顕著な危険性が各ECT処置に伴って残っている(Folkら,The Journal of ECT,16(2)157−170,(2000)を参照のこと)。
【0003】
ステロイドホルモンは、動物細胞に対して顕著な効果を有することが周知である。コルチコステロイドは、副腎によって放出されるステロイドホルモンである。最も顕著なヒト副腎コルチコステロイドは、コルチゾール、コルチコステロンおよびアルドステロンである。炭水化物、無機質および水の代謝に対するそれらの観察された効果に基づいて、これらの化合物は、以下の2つのクラスに分けられている:無機質および水の代謝に影響を与える、ミネラルコルチコイド(例えば、アルドステロン);ならびに炭水化物代謝に影響を与えるグルココルチコイド(例えば、コルチコステロンおよびコルチゾール(ヒドロコルチゾン、17−ヒドロキシコルチコステロン)。コルチコステロンは、グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドの両方として作用し得る。
【0004】
コルチコステロイドは、細胞の細胞質中に位置するレセプターへの結合後に細胞への影響を生じる。リガンドに結合したレセプターは、細胞の核へと移動し、核においてこれらは、核物質に対して作用して、細胞中の遺伝子発現を変更させる。コルチコステロイドレセプターの2つの一般的クラス(ミネラルコルチコイドレセプター(I型またはMRとも呼ばれる)およびグルココルチコイドレセプター(II型またはGRとも呼ばれる))が新たに認識されている。さらに、いくつかの動物細胞に存在し得る他のステロイドレセプターもまた存在することが周知である。別のステロイドホルモンレセプターの例は、プロゲステロンレセプターである。
【0005】
ミネラルコルチコイドレセプター(MR)は、グルココルチコイドレセプター(GR)がグルココルチコイドに結合するよりも10倍高い親和性でコルチゾールに結合する。従って、これらの2つのクラスのレセプターの活性化は、コルチコステロイド(コルチゾール)濃度に依存して異なり得る。グルココルチコイドコルチゾールの血中レベルは、1日の間に広範囲に変化する。一般に、血中の正常なコルチゾール濃度は、約0.5nM〜約50nMの範囲に及ぶ;しかし、ストレスに応答して、コルチゾール濃度は、100nMを超え得る。
【0006】
グルココルチコイドブロッカーは、グルココルチコイドの効果をブロックまたは低減する薬剤である。グルココルチコイド作用とのこのような相互作用は、例えば、グルココルチコイドレセプター(GR)に対するグルココルチコイドアゴニストの結合の妨害、または細胞核における、アゴニストに結合したGRの作用の妨害、または核において、アゴニストに結合したGRの作用によって誘導される遺伝子産物の発現もしくはプロセシングの妨害に起因し得る。グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト(GRアンタゴニスト)は、GRに対するネイティブなリガンドの効果、またはGRに対するグルココルチコイドアゴニストの効果を阻害する化合物である。GRアンタゴニストの1つの作用形態は、GRに対するGRリガンドの結合を阻害することである。グルココルチコイドアンタゴニストの考察は、Agarwalら、「Glucocorticoid antagonists」,FEBS Lett.,217:221−226(1987)に見出され得る。GRアンタゴニストの一例は、ミフェプリストン(11β,17β)−11−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン;RU−486またはRU−38486としても公知)である。米国特許第4,368,085号を参照のこと。ミフェプリストンは、高い親和性(Kd≦10−9M)でGRに特異的に結合する。これは、コルチゾールのGR親和性の約18倍の親和性である。GRアンタゴニストは、ステロイド(例えば、ミフェプリストン)または非ステロイドであり得る。
【0007】
他のステロイド性GRアンタゴニストの例としては、米国特許第5,929,058号に記載される通りのアンドロゲン型ステロイド化合物、ならびに以下に開示される化合物が挙げられる:米国特許第4,296,206号;同第4,386,085号;同第4,447,424号;同第4,477,445号;同第4,519,946号;同第4,540,686号;同第4,547,493号;同第4,634,695号;同第4,634,696号;同第4,753,932号;同第4,774,236号;同第4,808,710号;同第4,814,327号;同第4,829,060号;同第4,861,763号;同第4,912,097号;同第4,921,638号;同第4,943,566号;同第4,954,490号;同第4,978,657号;同第5,006,518号;同第5,043,332号;同第5,064,822号;同第5,073,548号;同第5,089,488号;同第5,089,635 号;同第5,093,507号;同第5,095,010号;同第5,095,129号;同第5,132,299号;同第5,166,146号;同第5,166,199号;同第5,173,405号;同第5,276,023号;同第5,380,839号;同第5,348,729号;同第5,426,102号;同第5,439,913号;同第5,616,458号、および同第5,696,127号。このようなステロイド性GRアンタゴニストとしては、以下が挙げられる:コルテキソロン、デキサメタゾン−オキセタノン(oxetanon)、19−ノルデオキシコルチコステロン、19−ノルプロゲステロン、コルチゾール−21−メシレート;デキサメタゾン−21−メシレート、11β−(4−ジメチルアミノエトキシフェニル)−17α−プロピニル−17β−ヒドロキシ−4,9−エストラジエン−3−オン(RU009)、および17β−ヒドロキシ−17α−19−(4−メチルフェニル)アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オン(RU044)。
【0008】
他の非ステロイド性GRアンタゴニストの例としては、以下が挙げられる:ケトコナゾール、クロトリマゾール;N−(トリフェニルメチル)イミダゾール;N−([2−フルオロ−9−フェニル]フルオレニル)イミダゾール;N−([2−ピリジル]ジフェニルメチル)イミダゾール;N−(2−[4,4’,4”−トリクロロトリチル]オキシエチル)モルホリン;1−(2[4,4’,4”−トリクロロトリチル]オキシエチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンジマレエート;N−([4,4’,4”]−トリクロロトリチル)イミダゾール;9−(3−メルカプト−1,2,4−トリアゾリル)−9−フェニル−2,7−ジフルオロフルオレノン;1−(2−クロロトリチル)−3,5−ジメチルピラゾール;4−(モルホリノメチル)−A−(2−ピリジル)ベンズヒドロール;5−(5−メトキシ−2−(N−メチルカルバモイル)−フェニル)ジベンゾスベロール;N−(2−クロロトリチル)−L−プロリノールアセテート;1−(2−クロロトリチル)−2−メチルイミダゾール;1−(2−クロロトリチル)−1,2,4−トリアゾール;1,S−ビス(4,4’,4”−トリクロロトリチル)−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;およびN−(2,6−ジクロロ−3−メチルフェニル)−ジフェニル)メチルイミダゾール(米国特許第6,051,573号を参照のこと);ならびに米国特許第5,696,127号に開示されるGRアンタゴニスト化合物;PCT国際出願第WO 96/19458号に開示される化合物(これは、ステロイドレセプターに対して高親和性で高選択的なアンタゴニストである非ステロイド性化合物(例えば、6−置換−1,2−ジヒドロ−N−保護−キノリン)を記載する);ならびに、いくつかのκオピオイドリガンド(例えば、κオピオイド化合物ジノルフィン−1,13−ジアミド、U50,488(トランス−(1R,2R)−3,4−ジクロロ−N−メチル−N−[2−(1−ピロリジニル)シクロヘキシル]ベンゼンアセトアミド)、ブレマゾシン(bremazocine)およびエチルケトシクラゾシン(ethylketocyclazocine);ならびに非特異的オピオイドレセプターリガンドであるナロキソン(Evansら,Endocrin.,141:2294−2300(2000)に開示される通り)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、患者におけるECTに対する治療応答を増大させることを決定した。本発明の前には、アンチグルココルチコイド療法がECTを受ける患者において望ましいという証拠は存在しない。ECTを、精神病に罹患している患者についての有効な処置としてより安全かつより広範囲に受け入れられるようにする方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
患者におけるECTに対する治療応答を増大させることにより、本発明は、この必要性および他の必要性に取り組む。
【0011】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、ECTによって影響を受ける疾患を有する患者におけるECTに対する治療応答を増大させるための方法又は医薬組成物に関する。本発明の方法は、アンチグルココルチコイド薬物を投与する工程、およびECTを患者に施す工程を包含する。投与されるアンチグルココルチコイドの量は、この患者におけるECTに対する治療応答を増大させるために充分である。
【0012】
本発明の1つの局面では、ECTに対する増大した治療応答は、ECTに関連した副作用の減少によって測定される。1つの実施形態では、ECTと副次的に関連する副作用は、頻脈、心房性不整脈、心室性不整脈、高血圧、不全収縮、筋肉痛、疲労、頭痛、悪心、健忘症または錯乱である。
【0013】
本発明の第2の局面では、ECTに対する増大した治療応答は、所望の治療効果を達成するために必要なECT処置の数、長さまたは頻度の減少によって測定される。
【0014】
第3の局面では、ECTに対する増大した治療応答は、所望の治療効果を達成するために必要なECT処置の電気強度または刺激投与量の減少によって測定される。
【0015】
本発明の第4の局面では、ECTの影響を受ける疾患としては、例えば、メランコリー鬱病、精神病的大鬱病、躁病、精神分裂病、および緊張病が挙げられる。
【0016】
本発明の第5の局面では、本発明において用いられるアンチグルココルチコイドは、少なくとも1つのフェニル含有部分をステロイド骨格の11位に有するステロイド骨格を含む。1つの実施形態では、このアンチグルココルチコイドは、ミフェプリストンを含む。
【0017】
本発明の第6の局面では、アンチグルココルチコイドを含んで成る医薬組成物は、ECT処置の前に投与される。
【0018】
第7の局面では、本発明において用いられるアンチグルココルチコイドは、ECT処置の前に、1日あたり体重1キログラムあたり2〜20mgの割合で15日間投与される。
【0019】
第8の局面では、本発明において用いられるアンチグルココルチコイドは、ECT処置の前に、1日あたり体重1キログラムあたり2〜20mgの割合で7日間投与される。
【0020】
第8の局面では、本発明において用いられるアンチグルココルチコイドは、ECT処置の前に、1日あたり600mgの割合で4日間投与される。
【0021】
第9の局面では、アンチグルココルチコイドを含んで成る医薬組成物は、ECT処置の当日に投与される。
【0022】
第10の局面では、アンチグルココルチコイドを含んで成る医薬組成物は、ECT処置の4時間前まで投与される。
【0023】
本発明の第11の局面では、アンチグルココルチコイドを含んで成る医薬組成物は、経口投与される。
【0024】
第12の局面では、このアンチグルココルチコイドを含んで成る医薬組成物は、経皮投与される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(発明の詳細な説明)
(I.序論)
本発明は、患者におけるECTへの治療応答を増大させるための方法に関する。ECTは、例えば、メランコリー鬱病、精神病的大鬱病、躁病、精神分裂病、および緊張病などの重篤な形態の精神病に関して、効果的な処置である。多くの理論が、ECTの作用機序について説明およびECTの治療効果を説明するために提案されているが、ECTがなぜその治療効果を発揮するか、そしてECTがどのようにその治療効果を発揮するかに関わる詳細な理解は、未だ不明である。それにもかかわらず、本発明者らは、ECT処置の投与前に、アンチグルココルチコイド療法で患者を処置することが、患者におけるECTへの治療応答を改善する効果的な方法であることを見い出した。
【0026】
ECTで患者を処置する方法は、当該分野で公知である。代表的に、ECTを受ける患者は、1週間あたり約2〜3回のECT処置の頻度で、平均約6〜12回のECT処置が施される(Datto,前出,Olfoonら、Am.J.Psych 155:22−24(1998)を参照のこと)。処置される疾患の重篤度および疾患のタイプに依存されて調整が行われ得る。ECT処置は、例えば、準備、麻酔導入、刺激の投与、痙攣および回復の5つの異なる段階に分けられ得る。ECT処置の準備段階は、必要なモニタリング装置を患者に適用することを含む。標準のモニタリング装置としては、例えば、患者の血圧モニタリング装置、酸素飽和モニタリング装置および心拍数モニタリング装置が挙げられる。痙攣の持続時間をモニターするデバイスもまた、使用され得る。ECT処置が、一側性であるか両側性であるかによって、電極は患者の頭皮上に、片側または両側に適用され得る。
【0027】
ECTと組み合わせて使用される麻酔の実施は、異なり得る。代表的に、麻酔薬(例えば、バルビツレート)は、睡眠導入のために投与され、そして筋脱分極剤は、麻痺状態を誘導するために投与され、痙攣の間の損傷を予防する。多くの異なる麻酔薬または筋脱分極剤が使用され得る。熟練した実施者は、適切な薬物および適切な投与量を投与する方法を知っている。例えば、Brevitalは、1〜3mg/kgの用量で使用され得る。使用され得る他のバルビツレートは、チオペンタール(Penithal)またはProprofal(Deprivan)を含む。筋脱分極剤の例は、スクシニルコリンを含む。麻酔薬および筋脱分極剤に加えて、他の薬物は、ECTまたは麻酔の副作用を打ち消すために投与され得る。例えば、血圧の上昇および心拍数の上昇を制御する薬物は、麻酔誘発性の悪心または筋肉痛を制御するための薬物と同様に投与され得る。
【0028】
患者が例えば、当該分野で公知の方法によって、適切に準備され、麻痺された後に、電気的刺激が与えられ得る。ECTのために設計されたどんなデバイス(例えば、最大8秒の長さで双方向性の一連の四角波刺激を作成する特別に設計された機械)も、電気的刺激を与えるために使用され得る。実施者は、特定の患者への使用に対して、ECTデバイスのパラメーター(例えば、パルス幅、周波数、刺激持続時間)を変更する方法を知っている(例えば、全身痙攣を誘導するのに必要とされる最小エネルギーは、刺激用量を徐々に増加させることによって決定され得る)。両側処置のための最少用量は、片方の処置の2.5〜6倍増加させ得る。
【0029】
ECT誘導性痙攣は、てんかんで認められる全身性強直間代発作と区別がつかない。ECT誘導性痙攣は、EEG上に古典的なスパイクおよび波形を生じる。しかし、ECT誘導性痙攣は、制御される(例えば、筋脱分極剤は、痙攣に通常関連する筋収縮を減少させ、患者の口に置かれた咬合阻止器は咀嚼筋(massaters)の緊張性収縮で引き起こされる歯の損傷を予防し、酸素マスクは低酸素症を予防する)。代表的に、痙攣は、15〜120秒の持続時間を有する。
【0030】
痙攣後、回復時期は、生命徴候がモニターされる時点で始まり、そして追加投薬は、上昇した血圧、心拍数または処置の他の副作用を制御するために投与され得る。
【0031】
本発明の方法を使用して、ECTを受ける患者は、アンチグルココルチコイドで処置される。ECT処置のための電気的刺激適用前のアンチグルココルチコイドの投与は、患者におけるECTの治療応答を増大させる。ECT処置前(例えば、電気的刺激の適用前)にアンチグルココルチコイドを投与することによって、患者におけるECTに関連する副作用は、低下する(lessen)か、または減少する(diminish)かもしれない。例えば、本発明の方法によって処置された患者は、患者がECT単独で処置された場合よりも少ない錯乱および記憶障害をECT処置後に経験し得る。本発明の方法によって処置された患者はまた、ECTにより速く反応し得る。例えば、本発明の方法を使用して、患者は、ECT処置の後に改善した精神状態および幸福感(well−being)を経験し得る。より少ない頻度がより低い、またはより短いECT処置が、患者に施され得る。従って、本発明の方法は、例えば、負の副作用を減少させることによって、処置の頻度、長さもしくは回数を減少させることによって、または処置の電気的強度を減少させることによって、ECTの効力およびECTの安全性を改善する。
【0032】
(II.定義)
用語「精神病的大鬱病」はまた、「精神病性鬱病」(Schatzberg(1992)Am.J.Psychiatry 149:733−745)、「精神病性(妄想性)鬱病」(同書)、「妄想性鬱病」(Glassman(1981)前出)および「精神病性特徴を伴う大鬱病」(DSM−III−Rを参照のこと)ともいわれ、鬱病の特徴および精神病の特徴の両方を含む異なる精神障害をいう。鬱病および精神病の両方を表す(すなわち、精神病性鬱病)個体は、本明細書で「精神病性鬱病」といわれる。これは、例えば、Schatzberg(1992)前出によって記載されるように、当該分野で「異なる症候群」と長期間認識されている。この独特さの例証は、グルココルチコイド活性、ドーパミンβ−水酸化酵素活性、ドーパミン代謝産物およびセロトニン代謝産物のレベル、睡眠測定ならびに脳室対脳比において、精神病性鬱病を有する患者と非精神病性鬱病を有する患者との間で、有意な相違を見出した研究である。精神病性鬱病は、例えば、「非精神病的大鬱病」などの他の形態の鬱病を有する個体と比較して、処置に対して非常に異なって応答する。精神病性鬱病は、低いプラセボに応答率を有し、単独の抗うつ薬療法(抗精神病薬処置の併用なし)に対して不十分に応答する。精神病性鬱病は、三環系(抗鬱病)薬物療法に対して著しく非応答性である(Glassmanら(1975)前出)。「精神病的大鬱病」の臨床症状および診断パラメーターは、DSM−IVで詳細に記載されている(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(1994)Task Force on DSM−IVの第4版、American Psychiatric Association(「DSM−IV」);Kaplan編(1995)Comprehensive Textbook of Psychiatry/VI、vol.1、第6版、621〜627頁、Williams & Wilkins,Balt.,Md.を参照のこと)。従って、この独特な病態生理学(高い罹患率および処置に対する応答)に起因して、非精神病性鬱病と比べて、精神病的大鬱病を区別して診断し、そして特異的に処置するための大きな実用的な必要性がある。
【0033】
用語精神分裂病は、認知、推測思考、言語およびコミュニケーション、行動モニタリング、情動、思考および会話の流暢さおよび生産力、快楽能力、意欲および動因ならびに注意を含む、一定範囲の認知機能障害および感情機能障害によって特徴付けられる独特の精神障害をいう。精神分裂病の活動期の症状は、DSM−IVで記載されるように、妄想、幻覚、混乱した会話、ひどく混乱した行動、緊張性行動および陰性症状を含む。「精神分裂病」のさらなる臨床症状および診断パラメーターは、DSM−IVで詳細に記載される(Kaplan編(1995)前出)。
【0034】
メランコリー鬱病は、DSM−IVで記載されるように、異なるタイプの鬱病を特定し、ここで、個体は、全ての活動またはほとんど全ての活動において、目的の欠如または楽しみの欠如、あるいは通常楽しい刺激に対する反応性の欠如を表す。「メランコリー鬱病」のさらなる臨床症状および診断パラメーターは、DSM−IVで詳細に記載される(Kaplan編(1995)前出)。
【0035】
用語「躁病」は、個体が、異常におよび持続して向上した、発展的な気分または易刺激性気分を有する精神病性障害をいう。異常な気分は、DSM−IVで記載されるように、少なくとも1週間続き、苦痛の結果のために高いポテンシャルを有する楽しい活動において、誇張した自尊心、誇張、睡眠の必要性の減少、会話のプレッシャー、観念奔逸、散漫性、目標を持った活動または精神運動興奮における増強されたやる気、および増強されたやる気を含む他の症状を伴う。「躁病」または「躁病エピソード」のさらなる臨床症状および診断パラメーターは、DSM−IVで詳細に記載される(Kaplan編(1995)前出)。
【0036】
用語「緊張病」とは、個体が、運動非活動性、過度の運動活動、極端な拒絶、随意運動および反響言語の特性または反響動作症を含む緊張性特徴を有する精神病性障害をいう。「緊張病」または「緊張病エピソード」のさらなる臨床症状および診断パラメーターは、DSM−IVで詳細に記載される(Kaplan編(1995)前出)。
【0037】
「電気痙攣療法(「ECT」)」は、電流の短い適用が個体に適用される、重度の精神病のための処置である。電流は、個体の脳を通り抜け、それにより、脳を活性化して、全身痙攣を生じる。
【0038】
「電気痙攣療法によって影響を受ける疾患を有する」患者とは、重度の精神障害を有する患者をいう。代表的に、この患者は、従来の治療(例えば、抗精神病薬、抗うつ薬およびさらにアンチグルココルチコイドの投与を含む薬物療法)にあまりよく反応しない。ECTによって影響を受ける疾患を有する人は、ECT療法が適切な処置過程であることをメンタルヘルス専門家に示す適切な指標を全て有する。これらの指標は、以下の疾患のうちの任意の一つを含み得る:メランコリー鬱病、精神病性大鬱病、躁病、精神分裂病および緊張病。自殺のリスクが増大した個体(精神障害の急性エピソードを患っている)は、薬物療法に非応答性を示すか、またはECTによって影響を受ける疾患を患者が有することを示し得る激しい苦痛もしくは無能を有する。熟練した実施者は、個体がECTによって影響を受ける疾患を有し、その結果、本発明の方法によって処置可能であるか否かを決定する方法を知っている。
【0039】
重度の精神障害は、メランコリー鬱病、精神病性大鬱病、躁病、精神分裂病および緊張病などの障害を含み得る。従来の薬物療法は、抗精神病療法または抗うつ療法のレジメを含む。
【0040】
用語「ECTに対する治療応答の増大」とは、ECTによって影響を受ける疾患のECT処置における成功のしるしをいい、例えば、症状の緩和、軽快または軽減、または患者の身体的な健康または精神的な健康の改善などの任意の客観的パラメーターまたは主観的パラメーターを含む。症状の改善は、客観的パラメーターまたは主観的パラメーターに基づき得る:身体的検査および/または精神鑑定の結果を含む。例えば、精神病性大鬱病またはメランコリー鬱病などの精神障害の有効な回復をモニターするための臨床ガイドは、Structured Clinical Interview for DSM−IV Axis I mood disorders(「SCID−P」)(Kaplan編(1995)前出)で見い出される。
【0041】
「ECTに対する治療応答を増大させる」ことは、ECTに代表的に関連した副作用の重篤度または発生を減少させることにより達成され得る。ECTに関連した副作用としては、ECT処置の副産物である任意の負の影響が挙げられる。負の副作用としては例えば、頻脈、心房性不整脈、心室性不整脈、高血圧、不全収縮、筋肉痛、疲労、頭痛、悪心、健忘症および錯乱が挙げられる。
【0042】
「ECTに対する増大した治療応答」を示す、本発明の方法によって処置される個体は、より少ないか、より頻度が低いか、またはより短い、ECT処置からなる改変ECT処置スケジュールに配置され得る。ECT処置の改変としては、ECTを個体への投与に対してより安全にする任意の改変(例えば、ECTの電気強度または刺激投与量の減少が挙げられる)が挙げられる。
【0043】
用語「コルチゾール」とは、ヒドロコルチゾンとも呼ばれる化合物のファミリー、およびその任意の合成アナログまたは天然アナログをいう。
【0044】
用語「グルココルチコイドレセプター」(「GR」)とはまた、コルチゾールおよび/またはコルチゾールアナログと特異的に結合する、コルチゾールレセプターともいわれる細胞内レセプターのファミリーをいう。この用語は、GRのアイソフォーム、組換えGRおよび変異したGRを包含する。
【0045】
用語「ミフェプリストン」とは、代表的には高い親和性でGRと結合し、そしてGRレセプターに対する任意のコルチゾールまたはコルチゾールアナログの結合によって開始/媒介される生物学的効果を阻害する、RU486もしくはRU38.486、または17−β−ヒドロキシ−11−β−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17−α−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン)、もしくは11−β−(4−ジメチルアミノフェニル)−17−β−ヒドロキシ−17−α−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン)ともいわれる化合物のファミリー、あるいはそれらのアナログをいう。RU−486についての化学名は、変化する;例えば、RU486は、以下のようにも称される:11B−[p−(ジメチルアミノ)フェニル]−17B−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;11B−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17B−ヒドロキシ−17A−(プロプ−1−イニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−1)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−l)−E;(11B,17B)−11−[4−ジメチルアミノ)−フェニル]−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ4,9−ジエン−3−オン;および11B−[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]−17A−(プロプ−1−イニル)−D−4,9−エストラジエン−17B−オール−3−オン。
【0046】
用語「特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト」または「アンチグルココルチコイド」とは、グルココルチコイドレセプター(GR)アゴニスト(例えば、コルチゾール)または合成もしくは天然のコルチゾールアナログの、GRに対する結合を部分的または完全に阻害する(アンタゴナイズする)、任意の構成物または化合物をいう。「特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト」とはまた、アゴニストに対するGRの結合に関連した任意の生物学的応答を阻害する、任意の構成物または化合物をいう。「特異的」により、本発明者らは、この薬物が少なくとも100倍、頻繁には1000倍の割合でミネラルコルチコイドレセプター(MR)よりも優先的にGRに結合する意図する。
【0047】
「薬学的に受容可能な賦形剤」とは、一般に安全で、非毒性でかつ望ましい薬学的組成物を調製する際に有用である賦形剤を意味し、そして獣医学的使用ならびにヒトの薬学的使用のために受容可能である賦形剤を包含する。このような賦形剤は、固体でもよく、液体でもよく、半固体物質でもよく、またはエアゾール組成物の場合、ガスでもよい。
【0048】
「薬学的に受容可能な塩およびエステル」とは、薬学的に受容可能であって、かつ所望の薬理学的特性を有する、塩およびエステルを意味する。このような塩としては、この化合物中に存在する酸性陽子が、無機塩基または有機塩基と反応し得るところで形成され得る塩が挙げられる。適切な無機塩としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウムおよびカリウム)、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムを用いて形成される無機塩が挙げられる。適切な有機塩としては、例えば、有機塩基(例えば、アミン塩(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミンなど))を用いて形成される有機塩が挙げられる。このような塩としてはまた、無機酸(例えば、塩酸および臭化水素酸)および有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、ならびにアルカンスルホン酸およびアレーンスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸およびベンゼンスルホン酸))を用いて形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に受容可能なエステルとしては、その化合物中に存在するカルボキシ基、スルホニルオキシ基およびホスホノキシ基から形成されるエステル(例えば、C1−6アルキルエステル)が挙げられる。2つの酸性基が存在する場合、薬学的に受容可能な塩またはエステルは、一酸−一塩または一酸−一エステルであってもよく、または、二塩もしくは二エステルであってもよい;そして同様に、2つより多くの酸性基が存在する場合、このような基のうちのいくつかのまたは全ては、塩形成またはエステル化され得る。本発明において命名される化合物は、塩形成されていないかもしくたはエステル化されていない形態で、または塩形成されたかおよび/もしくはエステル化された形態で存在し得、そしてこのような化合物の命名は、元の(塩形成されておらず、エステル化されていない)化合物ならびにその薬学的に受容可能な塩およびエステルの両方を包含することが意図される。また、本発明において命名された特定の化合物は、1より多くの立体異性体形態で存在してもよく、そしてこのような化合物の命名は、単一の立体異性体および(ラセミ体であろうとそうでなかろうと)このような立体異性体の全ての混合物の全てを包含することが意図される。
【0049】
「アンチグルココルチコイド療法」とは、患者へのアンチグルココルチコイドの投与をいう。
【0050】
「治療有効量」とは、疾患を処置するために患者に投与されたときに、その疾患についての処置をもたらすに充分である量を意味する。ECTに対する治療応答を増大させるための治療有効量のアンチグルココルチコイドの場合、アンチグルココルチコイドの治療有効量は、ECTに対する治療応答の増大をもたらすのに必要な量である。この応答は、患者の改善された精神的幸福、ECTに関連した副作用の減少、または治療応答を達成するのに必要なECT処置の量もしくは強度の減少によって測定され得る。従って、ECTとともに投与されるアンチグルココルチコイドは、ECT処置単独によって達成可能な治療応答よりも大きい、ECTに対する治療応答を達成する際に有効である。
【0051】
「ECT処置よりも前」のアンチグルココルチコイドの投与とは、各々のECT処置の投与の間に、アンチグルココルチコイドが患者におけるECTに対する治療応答の増大を達成し得るようなレベルでアンチグルココルチコイドが血液中に存在するような、アンチグルココルチコイドの投与を意味する。例えば、アンチグルココルチコイドは、ECT処置より14日前に、ECT処置より7日前に、またはECT処置より1日前に、投与され得る。アンチグルココルチコイドは、ECT処置の1〜14日前に投与され得る。アンチグルココルチコイドはまた、ECT処置の当日に投与され得る。例えば、アンチグルココルチコイド療法は、モニタリング装置を患者に適用する前に、ECTの準備段階の間に、またはECTの麻酔段階の間に、投与され得る。アンチグルココルチコイドは、電気刺激の投与の1〜6時間前に投与され得る。ECTおよびグルココルチコイドブロッカーについての知識を有する当業者は、ECT処置の間にグルココルチコイドブロッカーが適切な投与量で患者中に存在するような、グルココルチコイドブロッカーの投与の適切なタイミング、順序および投与量を決定することに困難性を有さない。
【0052】
(III.ECTに対する治療応答を増大させるためのグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明は、コルチゾールまたはコルチゾールアナログのGRへの結合に関連する生物学的応答をブロックし得る、任意の組成物または化合物を利用して、患者におけるECTに対する治療応答を増大させる方法を、提供する。本発明の方法において利用されるGR活性のアンタゴニストは、科学文献および特許文献において十分に記載される。幾つかの例証を、以下に示す。
【0053】
(A.GRアンタゴニストとしてのステロイド性アンチグルココルチコイド)
本発明の種々の実施形態において、ステロイド性グルココルチコイドアンタゴニストを、患者におけるECTに対する治療応答を増大させるために投与する。ステロイド性アンチグルココルチコイドは、グルココルチコイドアゴニストの基本構造を改変することによって得られ得る(すなわち、ステロイド骨格の改変形態)。コルチゾールの構造は、種々の方法において改変され得る。グルココルチコイドアンタゴニストを作製するためのコルチゾールステロイド骨格の構造的改変の2つの最も一般に知られるクラスとして、11−βヒドロキシ基改変および17−β側鎖の改変が、挙げられる(例えば、Lefebvre,J.Steroid Biochem.33:557−563,1989を参照のこと)。
【0054】
((i)11−βヒドロキシ基の除去または置換)
11−βヒドロキシ基の除去または置換を含む改変されたステロイド性骨格を有するグルココルチコイドアゴニストを、本発明の1つの実施形態において投与する。このクラスとしては、コルテキソロン誘導体、プロゲステロン誘導体およびテストステロン誘導体、ならびにミフェプリストン(Lefebvreら,同書)のような合成構成物を含む天然のアンチグルココルチコイドが挙げられる。本発明の好ましい実施形態は、全ての11−β−アリールステロイド骨格誘導体を含む。何故なら、これらの化合物は、プロゲステロンレセプター(PR)結合活性を欠くからである(Agarwal FEBS 217:221−226,1987)。別の好ましい実施形態は、11−βフェニル−アミノジメチルステロイド骨格誘導体(すなわち、ミフェプリストン)を含み、これは、有効なアンチ−グルココルチコイド剤でもあり、かつ有効なアンチ−プロゲステロン剤でもある。これらの構成物は、可逆的結合性ステロイドレセプターアンタゴニストとして作用する。例えば、11−βフェニル−アミノジメチルステロイドに結合する場合、ステロイドレセプターは、その天然のリガンド(例えば、GRの場合のコルチゾール)に結合し得ない高次構造に維持される。(Cadepond,1997,前出)。
【0055】
合成11−βフェニル−アミノジメチルステロイドとしては、ミフェプリストン(RU486としても知られる)または17−β−ヒドロキシ−11−β−(4−ジメチル−アミノフェニル)17−α−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン)が、挙げられる。ミフェプリストンは、プロゲステロンレセプターおよびグルココルチコイド(GR)レセプターの両方の強力なアンタゴニストであることが示されている。GRアンタゴニスト作用を有することが示されている別の11−βフェニル−アミノジメチルステロイドとしては、RU009(RU39.009)、11−β−(4−ジメチル−アミノエトキシフェニル)−17−α−(プロピニル−17β−ヒドロキシ−4,9−エストラジエン−3−オン)が、挙げられる(Bocquel,J.Steroid Biochem.Molec.Biol.45:205−215,1993を参照のこと)。RU486に関連する別のGRアンタゴニストは、RU044(RU43.044)17−β−ヒドロキシ−17−α−19−(4−メチル−フェニル)−アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オン)(Bocquel,1993,前出)である。Teutsch,Steroids 38:651−665,1981;米国特許第4,386,085号および同第4,912,097号もまた、参照のこと。
【0056】
1つの実施形態としては、基本的なグルココルチコイドステロイド構造を含む構成物が挙げられ、これは、不可逆的アンチ−グルココルチコイドである。このような化合物としては、以下を含むコルチゾールのα−ケト−メタンスルホネート誘導体が挙げられる:コルチゾール−21−メシレート(4−プレグネン−11−β,17−α,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホネートおよびデキサメタゾン−21−メシレート(16−メチル−9α−フルオロ−1,4−プレグナジエン−11β,17−α,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホネート)。Simons,J.Steroid Biochem.24:25−32 1986;Mercier,J.Steroid Biochem.25:11−20,1986;米国特許第4,296,206号を参照のこと。
【0057】
((ii)17−β側鎖基の改変)
17−β側鎖の種々の構造的改変によって得られ得るステロイド性アンチグルココルチコイドもまた、本発明の方法において使用される。このクラスとしては、合成アンチグルココルチコイド(例えば、デキサメタゾン−オキセタノン、デキサメタゾンの種々の17,21−アセトニド誘導体およびデキサメタゾンの17−β−カルボキサミド誘導体が、挙げられる(Lefebvre,1989,前出;Rousseau,Nature 279:158−160,1979)。
【0058】
((iii)他のステロイド骨格改変)
本発明の種々の実施形態において使用されるGRアンタゴニストは、GR−アゴニスト相互作用からもたらされる生物学的反応をもたらす、任意のステロイド骨格改変を含む。ステロイド骨格アンタゴニストは、コルチゾールの任意の天然のバリエーション(例えば、C−19メチル基を欠失した副腎ステロイド)または合成のバリエーション(例えば、19−ノルデオキシコルチコステロンおよび19−ノルプロゲステロン)であり得る(Wynne,Endocrinology 107:1278−1280,1980)。
【0059】
一般に、11−β側鎖置換基(特にこの置換基の大きさ)は、ステロイドのアンチグルココルチコイド活性の程度を決定する際に、重要な役割を果たし得る。ステロイド骨格のA環における置換もまた、重要であり得る。17−ヒドロキシプロペニル側鎖は、17−プロピニル側鎖含有化合物と比較して、一般にアンチグルココルチコイド活性を減少させる。
【0060】
(B.アンタゴニストとしての非ステロイド性アンチ−グルココルチコイド)
非ステロイド性グルココルチコイドアンタゴニストもまた、本発明の方法において、MCIを処置するために使用される。これらとしては、部分的ペプチド性分子、偽ペプチド性分子、および非ペプチド性分子を含む、タンパク質の合成模倣体およびアナログが挙げられる。例えば、本発明において有用なオリゴマーペプチド模倣体としては、(α−β−不飽和)ペプチドスルホンアミド、N−置換グリシン誘導体、オリゴカルバメート、オリゴ尿素ペプチド模倣体、ヒドラジノペプチド、オリゴスルホンなど(例えば、Amour,Int.J.Pept.Protein Res.43:297−304,1994;de Bont,Bioorganic & Medicinal Chem.4:667−672,1996を参照のこと)が、挙げられる。合成分子の大型ライブラリーの作製および同時スクリーニングは、コンビナトリアルケミストリーにおける周知の技術を使用して実行され得る(例えば、van Breemen,Anal Chem 69:2159−2164,1997;およびLam,Anticancer Drug Des 12:145−167,1997を参照のこと)。GRに特異的なペプチド模倣体の設計は、コンピュータープログラムを、コンビナトリアルケミストリー(コンビナトリアルライブラリー)スクリーニングアプローチと併せて使用して、設計され得る(Murray,J.of Computer−Aided Molec.Design 9:381−395,1995;Bohm,J.of Computer−Aided Molec.Design 10:265−272,1996)。このような「合理的薬物設計」は、シクロアイソマー、レトローインベルソ(retro−inverso)アイソマー、レトロアイソマーなどを含むペプチド異性体およびペプチド配座異性体の開発を促進し得る(Chorev,TibTech 13:438−445,1995において議論される通り)。
【0061】
(C.特定のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストの同定)
上述の化合物および構成物に加えて、任意の特定のGRアンタゴニストが、本発明の方法において存在し得るので、さらなる有用なGRアンタゴニストが、当業者によって決定され得る。種々のこのような慣用的な周知の方法が使用され得、科学文献および特許文献において記載される。これらは、さらなるGRアンタゴニストの同定についての、インビトロおよびインビボのアッセイを包含する。幾つかの例を、以下に示す。
【0062】
本発明のGRアンタゴニストを同定するために用いられ得る1つのアッセイは、推定GRアンタゴニストのチロシンアミノ−トランスフェラーゼ活性に対する影響を、Granner,Meth.Enzymol.15:633,1970の方法に従って測定するために使用され得る。この分析は、ラット肝臓癌細胞(RHC)の培養における、肝酵素チロシンアミノ−トランスフェラーゼ(TAT)の活性の測定に基づく。TATは、チロシンの代謝における最初の工程を触媒し、肝細胞および肝臓癌細胞の両方において、グルココルチコイド(コルチゾール)によって誘導される。この活性は、細胞抽出物中で容易に測定される。TATは、チロシンのアミノ基を、2−オキソグルタル酸に変換する。P−ヒドロキシフェニルピルベートもまた、形成される。これは、アルカリ性溶液中でより安定なp−ヒドロキシベンズアルデヒドに変換され得、331nmでの吸光度で定量され得る。推定GRアンタゴニストは、インビボもしくはエキソビボで肝臓全体にコルチゾールと共投与されるか、または肝臓癌細胞もしくは細胞抽出物に、コルチゾールと共投与される。化合物は、その投与が、誘導されるTAT活性の量をコントロール(すなわち、コルチゾールのみまたはGRアゴニストのみの添加)と比較して減少する場合、GRアンタゴニストとして同定される(Shirwany,Biochem.Biophys.Acta 886:162−168,1986もまた、参照のこと)。
【0063】
TATアッセイに加えて、本発明の方法において利用される構成物を同定するために使用され得る多くのアッセイのさらなる例は、インビボでのグルココルチコイド活性に基づくアッセイである。例えば、推定GRアンタゴニストが、グルココルチコイドによって刺激された細胞におけるH−チミジンのDNA内への取り込みを阻害する能力を評価するアッセイが、使用され得る。あるいは、推定GRアンタゴニストは、H−デキサメタゾンと、肝臓癌組織培養物GRへの結合について競合し得る(例えば、Choiら,Steroids 57:313−318,1992を参照のこと)。別の例として、推定GRアンタゴニストがH−デキサメタゾン−GR複合体の核結合をブロックする能力が、使用され得る(Alexandrovaら,J.Steroid Biochem.Mol.Biol.41:723−725,1992)。推定GRアンタゴニストをさらに同定するため、グルココルチコイドアゴニストとグルココルチコイドアンタゴニストとの間をレセプター結合速度論によって区別することを可能にする速度アッセイもまた、使用され得る(Jones,Biochem J.204:721−729,1982において記載される通り)。
【0064】
別の例として、Daune,Molec.Pharm.13:948−955,1977;および米国特許第4,386,085号に記載されるアッセイが、アンチ−グルココルチコイド活性を同定するために使用され得る。簡潔には、腎臓切除された(surrenalectomized)ラットの胸腺細胞を、デキサメタゾンと試験化合物(推定GRアンタゴニスト)とを種々の濃度で含有する栄養培地中でインキュベートする。H−ウリジンを、細胞培養物に添加し、これをさらにインキュベートし、放射性標識のポリヌクレオチドへの取り込みの程度を、測定する。グルココルチコイドアゴニストは、H−ウリジン取り込みの量を減少させる。従って、GRアンタゴニストは、この効果を妨害する。
【0065】
本発明の方法において利用され得るさらなる化合物、ならびにこのような化合物を同定および生成する方法については、以下を参照のこと:米国特許第4,296,206号(上述);同第4,386,085号(上述);同第4,447,424号;同第4,477,445号;同第4,519,946号;同第4,540,686号;同第4,547,493号;同第4,634,695号;同第4,634,696号;同第4,753,932号;同第4,774,236号;同第4,808,710号;同第4,814,327号;同第4,829,060号;同第4,861,763号;同第4,912,097号;同第4,921,638号;同第4,943,566号;同第4,954,490号;同第4,978,657号;同第5,006,518号;同第5,043,332号;同第5,064,822号;同第5,073,548号;同第5,089,488号;同第5,089,635号;同第5,093,507号;同第5,095,010号;同第5,095,129号;同第5,132,299号;同第5,166,146号;同第5,166,199号;同第5,173,405号;同第5,276,023号;同第5,380,839号;同第5,348,729号;同第5,426,102号;同第5,439,913号;および同第5,616,458号;ならびにWO 96/19458(これは、非ステロイド性化合物を記載し、この化合物は、ステロイドレセプターに対する高親和性の、高度に選択的な調節因子(アンタゴニスト)(例えば、6−置換−1,2−ジヒドロN−1保護キノリン)である)。
【0066】
アンタゴニストのGRに対する(MRと相対的な)特異性は、当業者に公知の種々のアッセイを使用して測定され得る。例えば、特異的なアンタゴニストは、アンタゴニストがGRに結合する能力をMRと比較して測定することにより、同定され得る(例えば、米国特許第5,606,021号;同第5,696,127号;同第5,215,916号;同第5,071,773号を参照のこと)。このような分析は、直接結合アッセイを使用するかまたは既知のアンタゴニスト存在下において、精製GRもしくは精製MRに対する競合的結合を評価することにより、実行され得る。例示的なアッセイでは、グルココルチコイドレセプターまたはミネラルコルチコイドレセプター(例えば、米国特許第5,606,021号を参照のこと)を安定的に高レベルで発現する細胞が、精製レセプターの供給源として使用される。次いで、レセプターのアンタゴニストの親和性を、直接測定する。MR親和性と比較して少なくとも100倍(しばしば1000倍)高いGR親和性を示すアンタゴニストを、次いで、本発明の方法において使用するために選択する。
【0067】
GR特異的アンタゴニストもまた、GR媒介性活性を阻害する能力を有するが、MR媒介性活性は阻害しない化合物として定義され得る。このようなGR特異的アンタゴニストを同定する1つの方法は、アンタゴニストがレポーター構築物の活性化を妨害する能力を、トランスフェクションアッセイを用いて評価することである(例えば、Bocquelら,J.Steroid Biochem Molec.Biol.45:205−215,1993,米国特許第5,606,021号、同第5,929,058号を、参照のこと)。代表的なトランスフェクションアッセイにおいて、レセプターをコードする発現プラスミドおよびレセプター特異的調節エレメントに連結するレポーター遺伝子を含むレポータープラスミドを、適切なレセプターネガティブな宿主細胞内に共トランスフェクトする。次いで、トランスフェクトした宿主細胞を、レポータープラスミド内でホルモン応答性のプロモーター/エンハンサーエレメントを活性化し得るホルモン(例えば、コルチゾールまたはそのアナログ)の存在下および非存在下で、培養する。次に、トランスフェクトし、培養した宿主細胞を、レポーター遺伝子配列の生成物の誘導(すなわち、存在)についてモニターする。最後に、ホルモンレセプタータンパク質(発現プラスミド上でレセプターDNA配列によってコードされ、トランスフェクトして培養した宿主細胞内で生成される)の発現および/またはステロイド結合能力を、アンタゴニストの存在下および非存在下におけるレポーター遺伝子の活性を決定することによって測定する。化合物のアンタゴニスト活性は、GRレセプターおよびMRレセプターの公知のアンタゴニストに対して比較して決定され得る(例えば、米国特許第5,696,127号を参照のこと)。次いで、各化合物について観察された最大応答の、参照アンタゴニスト化合物に対する相対%として、効力が報告される。GR−特異的アンタゴニストは、MRに対するのと比較して少なくとも100倍、しばしば1000倍以上の活性を、GRに対して示すと考えられる。
【0068】
(IV.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いたECTに対する治療応答の増大)
アンチグルココルチコイド(例えば、ミフェプリストン)は、本発明の方法において、ECTによって影響を受ける疾患を有する患者における、ECTに対する治療応答を増大させるために使用されるべき医薬品として処方される。GRに対するコルチゾールまたはコルチゾールアナログの結合に関連する生物学的応答をブロックし得る、任意の組成物または化合物は、本発明において医薬品として使用され得る。本発明の方法を実行するための、GRアンタゴニスト薬物レジメンおよびGRアンタゴニスト薬物処方を決定するための慣用的手段は、特許文献および科学文献において十分に記載され、そして幾つかの例を以下に示す。
【0069】
(A.医薬品組成物としてのグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明の方法において使用されるGRアンタゴニストは、当該分野で公知の任意の手段によって(例えば、非経口投与、局所(topically)投与、経口投与、またはエアゾール、もしくは経皮投与によるような局所(local)投与によって)投与され得る。本発明の方法は、予防処置および/または治療処置を提供する。薬学的処方物としてのGRアンタゴニストは、状態もしくは疾患および痴呆の程度、各患者の一般的な医学的状態、得られる好ましい投与方法などに基づく種々の単位投与形態で投与され得る。処方および投与のための技術の詳細は、科学文献および特許文献において十分に記載される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing Co,Easton PA)の最新版(「Remington’s」)を、参照のこと)。
【0070】
GRアンタゴニスト薬学的処方物は、医薬品製造分野で公知の任意の方法に従って、調製され得る。このような薬物は、甘味料(sweetening agent)、香料(flavoring agent)、着色料(coloring agent)および保存料(preserving agent)を、含み得る。任意のGRアンタゴニスト処方物は、製造に適切な、非毒性の薬学的に受容可能な賦形剤(excipient)と混合され得る。
【0071】
経口投与のための薬学的処方物は、当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを、妥当かつ適切な投与で使用して処方され得る。このようなキャリアは、薬学的処方物を、患者による摂取のために適切な、単位投与形態(錠剤、丸剤、散剤、糖剤、カプセル、液剤、トローチ剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤など)で処方されるようにする。経口使用のための薬学的調製物は、GRアンタゴニスト化合物と固形賦形剤(excipient)とを組み合わせ(必要に応じて、得られる混合物を粉砕して)、そして所望であれば、適切なさらなる化合物の添加の後に顆粒の混合物を加工して、錠剤または糖剤のコアを得ることを介して得られ得る。適切な固形賦形剤(excipient)は、炭水化物またはタンパク質フィラー(filler)であり、これらとしては、糖類(乳糖、ショ糖、マンニトールまたはソルビトールを含む);トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、または他の植物由来のデンプン;セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウム);およびゴム(アラビアゴムおよびトラガカントを含む);ならびにタンパク質(例えば、ゼラチンおよびコラーゲン)が、挙げられるがこれらに限定されない。所望であれば、崩壊剤または可溶化剤(例えば、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、アルギン酸、またはアルギン酸ナトリウムのようなこれらの塩)を、添加し得る。
【0072】
糖剤のコアを、適切なコーティング(例えば、アラビアゴム、滑石、ポリビニルピロリドン、カルボポール(carbopol)ゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または有機溶媒混合物もまた含み得る、濃縮糖液)を提供する。染料または色素は、製品の識別または活性化合物の量(すなわち、投与量)の特徴づけのために、錠剤または糖剤コーティングに添加され得る。本発明の薬学的調製物はまた、経口的に使用され得る(例えば、ゼラチン製のプッシュフィット(push−fit)カプセル、およびゼラチンおよびコーティング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)で作られた軟質密閉カプセル)。プッシュフィットカプセルは、フィラーまたは結合剤(例えば、乳糖またはデンプン)、滑沢剤(滑石またはステアリン酸マグネシウム)、および必要に応じて安定剤と混合したGRアンタゴニストを含有し得る。軟質カプセル中で、GRアンタゴニスト化合物は、適切な液体(例えば、安定剤を含むかまたは含まない、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチエレングリコール)に溶解され得るかまたは懸濁され得る。
【0073】
本発明の水性懸濁剤は、水性懸濁剤の製造のために適切な賦形剤との混合物中にGRアンタゴニストを含む。このような賦形剤としては、懸濁剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴム、ならびに分散剤または湿潤剤(例えば、天然に存在するホスファド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール(hexitol)からル誘導した部分的エステとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノ−オレエート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導した部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノ−オレエート))が、挙げられる。水性懸濁剤はまた、1つ以上の保存剤(例えば、安息香酸エチルまたは安息香酸n−プロピルp−ヒドロキシ)、1つ以上の着色料、1つ以上の香料および1つ以上の甘味料(例えば、ショ糖、アスパルテーム、またはサッカリン)を含み得る。処方物は、用量オスモル濃度に関して調整される。
【0074】
油性懸濁剤は、GRアンタゴニストを植物油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油)または鉱油(例えば、流動パラフィン)、またはこれらの混合物の中に懸濁することにより、処方され得る。油性懸濁剤は、増粘剤(蜜蝋、硬質パラフィンまたはセチルアルコール)を含み得る。甘味料(例えば、グリセロール、ソルビトールまたはショ糖)は、口当たりのいい経口調製物を提供するために加えられ得る。これらの処方物は、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)の添加によって保存され得る。注射用油性ビヒクルの例は、Minto,J.Pharmacol.Exp.Ther.281:93−102,1997を、参照のこと。本発明の薬学的処方物はまた、水中油乳剤の形態であり得る。油相は、上述の植物油もしくは鉱油、またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤としては、天然に存在するゴム(例えば、アカシアゴムおよびトラガカントゴム)、天然に存在するホスファド(例えば、ダイズレシチン)、脂肪酸および無水ヘキシトールに由来するエステルもしくは部分エステル(例えば、ソルビタンモノ−オレエート)、ならびにこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノ−オレエート)が挙げられる。乳剤はまた、シロップ剤およびエリキシル剤の処方においてのように、甘味料および香料を含み得る。このような処方物はまた、粘滑剤、保存剤、または着色料を含み得る。
【0075】
水の添加による水性懸濁物の調製のために適切な本発明の分散可能な散剤および顆粒剤は、分散剤、懸濁化剤および/または湿潤剤、ならびに1つ以上の保存剤と混合してGRアンタゴニストから処方され得る。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤は、上記で開示されたものによって例示される。さらなる賦形剤(例えば、甘味料、香料、および着色料)もまた、存在し得る。
【0076】
本発明のGRアンタゴニストはまた、この薬物の直腸投与のための坐剤の形態で投与され得る。これらの処方物は、薬物を適切な非刺激性の賦形剤と混合することにより、調製され得る。この賦形剤は常温で固体であるが、直腸の温度で液体であり、従って、直腸においてよく融けて、薬物を放出する。このような物質は、カカオ脂およびポリエチレングリコールである。
【0077】
本発明のGRアンタゴニストはまた、鼻腔内、眼内、膣内、および直腸内の経路で投与され得、坐剤、吸入剤、散剤およびエアゾール処方物(ステロイド吸入剤の例については、Rohatagi,J.Clin.Pharmacol.35:1187−1193,1995;Tjwa,Ann.Allergy Asthma Immunol.75:107−111,1995を、参照のこと)が挙げられる。
【0078】
本発明のGRアンタゴニストは、棒状の塗布器、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏、ペースト剤、ゼリー剤、塗布剤、散剤、およびエアゾール剤として処方され、経皮送達され得るか、局所経路によって送達され得る。
【0079】
本発明のGRアンタゴニストはまた、体内での徐放のためのミクロスフィアとして送達され得る。例えば、ミクロスフィアは、薬物(例えば、ミフェプリストン)を含有する皮下で徐放されるミクロスフィアの皮内注射を介して投与され得る(Rao,J.Biomater Sci.Polym.Ed.7:623−645,1995を参照のこと)か;生分解性かつ注射用のゲル処方物として投与され得る(例えば、Gao Pharm.Res.12:857−863,1995を、参照のこと)か;または、経口投与のためのミクロスフィアとして投与され得る(例えば、Eyles,J.Pharm.Pharmacol.49:669−674,1997を、参照のこと)。経皮経路および皮内経路の両方が、何週間または何ヶ月もの一定の送達を提供する。
【0080】
本発明のGRアンタゴニスト薬学的処方物は、塩として提供され得、そして多くの酸を用いて形成され得る。酸としては、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。対応する遊離塩基形態である水性溶媒または他のプロトン放出性溶媒(protonic solvent)中で、塩はより溶けやすくなる傾向がある。他の場合において、好ましい調製物は、1mM〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%ショ糖、2%〜7%マンニトール(pH4.5〜pH5.5の範囲)中の凍結乾燥粉末であり得、これは、使用前に緩衝液と混合される。
【0081】
別の実施形態において、本発明のGRアンタゴニスト処方物は、非経口投与(例えば、静脈内(IV)投与または体腔内もしくは器官の管腔内への投与)に有用である。投与のための処方物は、一般に、薬学的に受容可能なキャリア中に溶解したGRアンタゴニスト(例えば、ミフェプリストン)の溶液を含む。使用し得る受容可能なビヒクルおよび受容可能な溶媒には、水およびRinger’s溶液(等張塩化ナトリウム)がある。さらに、無菌の不揮発性油が、溶媒または懸濁媒質として、慣用的に使用され得る。この目的のために、任意の低刺激不揮発性油(合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含む)が、使用され得る。さらに、脂肪酸(例えば、オレイン酸)が、同様に、注射剤の調製において使用され得る。これらの溶液は、無菌であり、一般的に、望ましくない物質を含まない。これらの処方物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。この処方物は、生理学的条件に近付けるために必要であるような、薬学的に受容可能な補助物質(例えば、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど))を含有し得る。これらの処方物中のGRアンタゴニストの濃度は、広く変化し得、そして選択された特定の投与様式および患者の必要に従い、主に液体の容積、粘性、体重などに基づいて選択される。IV投与のために、処方物は、無菌注射用調製物(例えば、無菌注射用水溶液または無菌注射用油性懸濁液)であり得る。この懸濁液は、公知の技術に従い、これらの適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、処方され得る。無菌注射用調製物はまた、非毒性の非経口で受容可能な希釈剤または非毒性の非経口で受容可能な溶媒(例えば、1,3−ブタンジオール溶液)中の、無菌注射用溶液または無菌注射用懸濁液であり得る。
【0082】
別の実施形態において、本発明のGRアンタゴニスト処方物は、細胞膜と融合するかまたはエンドサイトーシスされるリポソームを用いて(すなわち、リポソームに接着するリガンドを使用するか、エンドサイトーシスにおいて生じる細胞の表面膜タンパク質レセプターに結合するオリゴヌクレオチドに直接接着することにより)送達され得る。リポソームを使用することにより、特に、リポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを有する場合か、または優先的に特定の器官を指向する場合、インビボでのGRアンタゴニストの標的細胞への送達に、焦点をあわせ得る(例えば、A1−Muhammed,J.Microencapsul.13:293−306,1996;Chonn,Curr.Opin.Biotechnol.6:698−708,1995;Ostro,Am.J.Hosp.Pharm.46:1576−1587,1989を、参照のこと)。
【0083】
(B.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストについての投薬レジメンの決定)
本発明の方法は、患者においてECTに対する治療応答を増大させる(例えば、患者の精神状態を改善するかまたはECTに代表的に関連する副作用を軽減する)。これを達成するために適切なGRアンタゴニストの量を、「治療有効用量」と定義する。この使用のために有効な投薬計画および量、すなわち「投薬レジメン」は、患者の健康の全身状態、患者の身体的状態、年齢などを含む種々の因子に依存する。患者のための投薬レジメンの計算において、投与の様式もまた、考慮に入れられる。
【0084】
投薬レジメンはまた、当該分野で周知の薬物速度論パラメーター(すなわち、GRアンタゴニストの、吸収速度、バイオアベイラビリティー、代謝、クリアランスなど)も考慮する(例えば、Hidalgo−Aragones(1996)J.Steroid Biochem.Mol.Biol.58:611−617;Groning(1996)Pharmazie 51:337−341;Fotherby(1996)Contraception 54:59−69;Johnson(1995)J.Pharm.Sci.84:1144−1146;Rohatagi(1995)Pharmazie 50:610−613;Brophy(1983)Eur.J.Clin.Pharmacol.24:103−108;Remington’s(前出)最新版を参照のこと)。例えば、1つの研究において、1日用量0.5%未満のミフェプリストンが、尿中に排泄された;薬物は、循環するアルブミンに、広範に結合した(Kawai(1989)(前出)を参照のこと)。技術水準は、それぞれの個々の患者、GRアンタゴニストおよび処置される疾患または状態について、臨床医が投薬レジメンを決定することを可能にする。例として、ミフェプリストンについて以下に提供する指針は、本発明の方法を実施する際に、投与される任意のGRアンタゴニストの投薬レジメン(すなわち、投薬計画および投薬レベル)を決定するための手引きとして使用され得る。
【0085】
GRアンタゴニスト処方物の単回投与または複数回投与は、患者に必要なような、かつ患者に耐えられるような投与量および頻度に依存して、投与され得る。処方物は、痴呆を有効に処置するために十分な量の活性薬剤(すなわち、ミフェプリストン)を提供するべきである。従って、ミフェプリストンの経口投与のための1つの代表的な薬学的処方物は、1日あたり体重1キログラムあたり約0.5mg〜約20mgの1日用量である。代替の実施形態において、患者1人あたり、1日あたり体重1キログラムあたり約1mg〜約4mgの投与量が、使用される。特に、薬物が解剖学上見えない部位(例えば、大脳髄液(CSF)腔)に投与される場合、経口投与、血流内投与、体腔内投与または器官管腔内投与とは対照的に、より低い投与量が使用され得る。実質的により高い投与量が、局所投与において使用され得る。非経口投与可能なGRアンタゴニスト処方物を調製するための実際の方法は、当業者に公知または明らかであり、Remington’s(前出)のような刊行物において、より詳細に記載される。Nieman,「Receptor Mediated Antisteroid Action」、Agarwalら(編)De Gruyter,New York(1987)もまた、参照のこと。
【0086】
本発明のGRアンタゴニストを含む薬剤を受容可能なキャリア中に処方した後、これを、適切な容器に容れ、ECTの処置についてのラベルをつけ得る。GRアンタゴニストの投与のために、このようなラベルは、例えば、投与の量、頻度、および方法に関する指示を含む。
【0087】
(C.アンチグルココルチコイドと共の使用のためのECT療法のためのパラメーターの決定)
本発明の方法を使用し、患者においてECTに対する治療応答を増大させる。本発明の幾つかの実施形態において、増大した治療応答は、より少ない回数のECT処置の投与をもたらす。例えば、現在、急性鬱病エピソードを処置するために、週に2〜3回の処置の頻度で、平均6〜12回の処置が施される。本発明の1つの実施形態において、より少ない回数の処置またはより頻度の少ない処置は、所望の治療効果を達成し得る(例えば、2週に1〜3回の処置の頻度で平均3〜10回の処置が施される)。本発明の第2の実施形態において、本発明の方法は、同じ数および頻度の処置を必要とし得るが、患者は、患者がECTだけで処置されるよりも改善された精神状態を有し得る。第3の実施形態において、処置の数および頻度は、同じままであり得るが、ECTに関連した副作用が低減され得る(例えば、患者は、より少ない錯乱を示し得る)。本発明の第4の実施形態において、ECTパラメーターが、調整され得る。例えば、現在、脳に電流を施すために、0.5〜2ミリ秒のパルス幅、1〜20Hzの周波数および15〜120秒の長さの痙攣が使用される。本発明の方法を使用して、パルス幅を減らし得、周波数を減らし得、痙攣の長さを減らし得る。第5の実施形態において、ECT処置の電気強度または刺激投与量が、減少され得る。
【0088】
熟練した実施者は、患者がECTに対する増大した治療応答を有するか否かを、いかにして決定するか(例えば、患者を検査することによる)を熟知しており、それに応じてECT処置を調整可能である。
【0089】
本明細書中で記載される実施例および実施形態は、説明の目的でのみ記載され、種々の改変または変更は、その観点から、当業者によって示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲に包含されるべきであることが、理解される。
【0090】
本明細書中に記載した全ての刊行物または特許公報は、本明細書中で、それぞれの刊行物および特許公報が具体的かつ独立に参考として援用されることが示されるように、参考として援用される。
【実施例】
【0091】
(実施例1:アンチグルココルチコイド療法に次ぐECTによる精神病の処置)
ミフェプリストン療法を受けている患者は、実質的に改善されていなかった。この患者は、続いて両側のECTの4回の処置を受け、同時に、ミフェプリストン治療を続けた。5回の処置の前に、患者は、劇的に改善した。患者は、短期記憶における幾らかの改善を経験したが、この処置様式からの副作用を有さなかった。各処置セッションの間、患者は、60mgと100mgとの間のメトヘキシタールおよび60mgと80mgとの間のサクシニルコリンを受けた。
【0092】
最初のECT処置について、患者に、Thymatron ECTデバイスを、35%で用いて刺激を送達し、45秒間のeeg痙攣持続時間および115秒間の運動持続時間であった。最初の処置の後、患者は、患者の思考をまとめることができ、そしてより適切な会話に参加し得るほどよくなった。2回目の処置もまた35%であったが、しかしeeg持続時間は61秒まで減少し、運動痙攣は検出されなかった。続いて3回目の処置において、エネルギー設定を40%まで上げると、115秒間の第2のeeg持続時間および91秒間の運動持続時間があった。3回目の処置の後、患者は、身体的妄想がより少なく、書かれた文章を理解し得、より容易に会話に参加し得た。4回目の処置において、40%または45%で、痙攣は観察されなかった。70%での第3の刺激は、33秒間の運動持続時間および84秒間のeeg持続時間を生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気痙攣療法(「ECT」)によって影響を受ける疾患を有する患者におけるECTに対する治療応答を増大させるための医薬組成物であって、以下:
アンチグルココルチコイド薬物を投与する工程、およびECTを該患者に施す工程を包含し、ここで、投与されるアンチグルココルチコイドの量が、該患者におけるECTに対する治療応答を増大させるに充分である、医薬組成物。

【公開番号】特開2011−116771(P2011−116771A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45207(P2011−45207)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【分割の表示】特願2004−500971(P2004−500971)の分割
【原出願日】平成15年4月28日(2003.4.28)
【出願人】(503345477)コーセプト セラピューティクス, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】