説明

電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。

【課題】電気石と酸化ケイ素とからなる複合体を得、これを用いて比較的厚い且つ均質な酸化ケイ素皮膜を物体上に作ることができる複合体の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法は、テトラエトキシシランを塩基性触媒の存在下に加水分解すると共に、ゾル−ゲル反応により高分子初期縮合物を得、該初期縮合物に電気石の微粉末を混合し、造粒し、乾燥した後、250℃から650℃までの温度で焼結することを特徴とする。複合体中の電気石と酸化ケイ素の重量比が4:96ないし76:24である。高分子初期縮合物の平均分子量が200〜300である。複合体の表面積がBET法表面積測定で29m/g〜460m/gである。複合体は、水媒体中で機械的刺激により微水溶性の酸化ケイ素が、物体上に強固な被膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属、プラスチック、光学硝子などの材料から作られた製品表面を化学的に安定で機械的に強固な且つ透明な酸化ケイ素薄膜により、水媒体中より最も効果的に被覆することが可能な比表面積の空間あるいは大なる内部表面を構成している電気石と酸化ケイ素からなる複合体の製造方法、特にミクロ複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、プラスチック、光学硝子などの表面は自然環境下における酸化分解によるサビの発生、劣化などによる強度の低下、キズの生成など表面に欠陥を生じる。これら欠陥は放置すれば内部へ浸透し、その結果、これら材料全体の品質低下を引き起こす。このため、これら材料の表面のキズを防止し、光沢、色などの美観を保護し、更には内部の品質を保護するために、材料表面を酸化ケイ素皮膜で覆う方法が知られている。例えば、ゼオライト、バクハン石を粉砕混合し、焼結した担体の表面に電気石を含んだセラミックス粉末を付着させ焼結して作ったセラミックスが知られており、このセラミックスに水を加え機械的刺激を与えると水改質材を生成する。そしてこの水改質材を物体表面に噴射することにより、物体の表面にセラミックスの薄膜を生成させる方法である(例えば、特許文献1参照)。また特許文献1の水改質材を使用し、効果的に機械的刺激を与え物体表面に噴射し、物体の表面を洗浄するとともにセラミックスの薄膜を形成する装置やこの装置の使用方法などが知られている(例えば、特許文献2参照)。更に物体の表面の洗浄と表面にセラミックスの皮膜を形成する装置として、電荷水生成槽、磁界処理槽、被膜生成槽から構成されており、水装置の電荷水生成槽内には石英斑石、電気石、麦飯石の中から選ばれた1種または2種の鉱石とセラミックスを混合焼結させた複合セラミックスが充填されており、この槽に水を導入すると、水は電荷を帯びて電荷水が得られるので、これを磁界処理槽へ導入して誘電電流を発生させた後、10〜500N/cm2の圧力で物体に噴射し物体の表面を洗浄するとともにセラミックス薄膜を形成することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
これらの方法の特長は、担体上に被覆された電気石及びその他の鉱石と、酸化ケイ素を含むセラミックスとの混合焼結体が外部より機械的刺激により活性化された電気石により、これに接するセラミックスが活性化され、周辺の水に溶ける。したがって、物体上へ噴射されるとセラミックスが不溶化され物体上にセラミックスの薄膜が形成されることにある。
【特許文献1】特許第3612442号(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3648104号(特許請求の範囲、)
【特許文献3】特開2004−351408(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記のように活性化される電気石、またこれにより活性化されセラミックスは複合体は造粒物の表面のみに形成されるので、濃度が低く、物体の表面に形成された膜は数nm以下と薄く、また物体上の複雑な表面を完全に被覆出来ないという欠点を有している。
【0005】
そこで、本発明者は、電気石とセラミックス、特に電気石と酸化ケイ素とから複合セラミックスが、物体上に酸化ケイ素の被膜を形成する際、活性化された電気石により水媒体中で前記被膜を厚くするために、電気石と酸化ケイ素の複合化について鋭意研究を重ねた結果、前述のごとき電気石と酸化ケイ素の混合物と加熱焼結による溶融によらず、電気石と
セラミックスを特定の条件下、即ち4−テトラエトオキシシランが加水分解を経て高分子化するゾル−ゲル反応を利用し、この高分子初期縮合物に電気石微粉末を加えて造粒後に焼結して複合セラミックスを製造し、得られた複合セラミックス、即ち電気石と酸化ケイ素とからなる複合体に水媒体中で機械的なエネルギーを与えることにより、容易に且つ高濃度の活性化された酸化ケイ素を含む水溶液を生成し、この水溶液を物体に噴射することにより比較的厚い且つ均質な酸化ケイ素皮膜を物体上に作ることができることを見出し、ここに本発明をなすに至ったものである。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、電気石と酸化ケイ素の混合物と加熱焼結による溶融によらず、ゾル−ゲル反応を利用して複合セラミックス、即ち電気石と酸化ケイ素とからなる複合体を得、これを用いて比較的厚い且つ均質な酸化ケイ素皮膜を物体上に作ることができる電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の本発明の課題は、以下の各発明によってそれぞれ達成される。
【0008】
(1)テトラエトキシシランを塩基性触媒の存在下に加水分解すると共に、ゾル−ゲル反応により高分子初期縮合物を得、該初期縮合物に電気石の微粉末を混合し、造粒し、乾燥した後、250℃から650℃までの温度で焼結することを特徴とする電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
(2)前記で得られた複合体中の電気石と酸化ケイ素の重量比が4:96ないし76:24であることを特徴とする前記第1項に記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
(3)テトラエトキシシランのゾル−ゲル反応により得られた高分子初期縮合物の平均分子量が200〜300であることを特徴とする前記第1項又は第2項に記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
(4)前記で得られた複合体は、水中で28、45及び100MHzの超音波が交互にくるようなモードで10秒間の超音波素密波により破壊しない強度を有することを特徴とする前記第1項乃至第3項のいずれかに記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
(5)前記複合体の表面積がBET法表面積測定で29m/g〜460m/gであることを特徴とする前記第1項乃至第4項のいずれかに記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
(6)前記複合体が、水媒体中で機械的刺激により電気石が活性化されると共に、該電気石に接する酸化ケイ素より生じた微水溶性の酸化ケイ素が、物体上に強固な被膜を形成することができることを特徴とする前記第1項乃至第5項のいずれかに記載の電気石と酸化ケイ素からなる複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
前記第1項に係る本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法は、テトラエトキシシランを塩基性触媒の存在下に加水分解すると共に、ゾル−ゲル反応により高分子初期縮合物を得、該初期縮合物に電気石の微粉末を混合し、造粒し、乾燥した後、250℃から650℃までの温度で焼結することを特徴とするもので、このような製造方法により、焼結温度を低くすることができるばかりでなく、得られた複合体は表面積を大きくすることができ、また複合体は造粒物の表面のみではなく、ミクロ細孔構造をもっているため内部においても水媒体中の反応が可能な内部表面を有している。そのため被覆液中の水に溶解している水和した酸化ケイ素の濃度が高く、被覆に際し、被覆膜厚を厚くできかつ強度の大きいものが得られるという優れた効果を奏するものである。またこのような複合体を用いて得られた被膜は、前記の如き効果を有することにより屋外に暴露している構
造物(例えば、鉄橋、陸橋、鉄塔、建築物など)、列車、船舶、自動車(乗用車、トラックなど)などに適用される。
【0010】
前記第2項に係る本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法は、前記で得られた複合体中の電気石と酸化ケイ素の重量比が4:96ないし76:24であることにより、得られた複合体は表面積を大きくすることができ、被覆に際し、被覆膜厚を厚くできかつ強度の大きいものが得られるという優れた効果を奏するものである。前記第3項に係る本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法は、テトラエトキシシランのゾル−ゲル反応により得られた高分子初期縮合物の平均分子量が200〜300であることにより、電気石を包括複合化するための適度の粘性が得られ、高温で焼結してクラックのない且つ衝撃に対する強度の大きい最終複合体が得られる。このような複合体を用いて被覆を行う時に、電気石に水流などによる機械的エネルギーに十分耐えるという特性を有している。
【0011】
前記第4項に係る本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法で得られた複合体は、水中で28、45及び100MHzの超音波が交互にくるようなモードで10秒間の超音波素密波により処理し、得られた複合体が破壊しない強度を有することにより、長期にわたって物体表面の状態を保護することができ、したがって、被覆物の補修管理の手間を軽減することができる。
【0012】
前記第5項に係る本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法は、前記複合体の表面積がBET法表面積測定で29m/g〜460m/gであることにより、セラミックの表面のみでなく、内部表面において水と接することができるので、電気石と酸化ケイ素からなる複合体の内部で水と接触して活性化された電気石と酸化ケイ素が形成される。その結果使用時に大量の酸化ケイ素が流出され厚い被膜が形成されると共に、強度も大きくなるという優れた効果を奏するものである。したがって、表面積が大き過ぎるとシリカ構造は保水力が大きいので、自らの構造体内に水を吸収し表面積の大きいセラミック構造を崩壊させる現象が起きるという不都合が生じる。
前記第6項に係る本発明の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法は、前記複合体が、水媒体中で機械的刺激により電気石が活性化されると共に、該電気石に接する酸化ケイ素より生じた微水溶性の酸化ケイ素が、物体上に強固な被膜を形成することができることを特徴とするもので、このようにして得られた被膜は、従来の被膜より厚くかつ均一のものが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電気石と酸化ケイ素からなる複合体(以下、複合体をセラミックスともいう。)の製造方法において、ゾル−ゲル反応により得られたセラミックスの特色として反応条件を制御することによりセラミックスの内部にミクロな空間を生じ、そのため一方、電気石と酸化ケイ素はセラミックの表面のみでなく、内部表面において水と接する。一方、機械的な刺激により電気石は10〜20ミクロンの範囲内に10Volt/mの電場を生じるが、この電場が内部表面においても有効に作用し、厚い酸化ケイ素の膜の形成に役立っていると考えられる。本発明に使用した電気石はブラジル産のトルマリン鉱石シェールで黒色をした結晶であるが、これに限定されるものではなく、ブラジル産のトルマリン鉱石シェールと同様な特性を有するものであれば使用することができる。この鉱石を乾式微粉砕機により平均10μmまでに微粉砕して使用したが、本発明で使用しうる好ましい平均粒径は、50μm〜5μmである。更に好ましくは20μm〜10μmである。平均粒径が5μmより小さい場合、電気石の微結晶より生じる電場が隣の微細晶より生じる電場と交絡し、相殺して電場が弱められるケースが生じ、また50μmを超えると造粒物中の電気石の微結晶の量が小となり、微細晶による電場が小となり、そのため被覆液中の酸化ケイ素の水和分子の濃度も低くなるため、十分な皮膜が得られない。テトラエトキシシラン(沸
点は166℃)は化学1級品を使用した。また酸化ケイ素は、好ましくはテトラエトキシシランがよいが、これに限らずアルコキシシランの中から選択することができる。
【0014】
本発明の電気石と酸化ケイ素からなる複合体の製造方法は、酸化ケイ素としてテトラエトキシシランを塩基性触媒の存在下に加水分解すると共に、ゾル−ゲル反応により高分子初期縮合物を得、該初期縮合物に電気石の微粉末を混合し、造粒し、乾燥した後、250℃から650℃までの温度、好ましくは250℃から650℃までの温度、更に好ましくは500℃から650℃までの温度で焼結することを特徴とするもので、この際焼結温度は、この範囲の温度で1回以上焼結してもよく、例えば、250℃の温度で焼結し、ついで600℃の温度で焼結してもよく、250℃で焼結した後、650℃で焼結してもよい。また焼結温度300℃で1回の焼結でもよい。焼結温度が250℃より低いと、長時間かかるばかりでなく、本発明の好ましい特性が得られない。また650℃を超えると、複合体中のゲル化した酸化ケイ素の一部は溶融による内部表面の減少、更に高温にすると内部表面は喪失し、活性化された電気石による酸化ケイ素の水溶化反応は微弱となる。ここで、塩基性触媒としては、アンモニア水、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン系化合物が好ましい。
【0015】
本発明に用いられる複合体中の電気石と酸化ケイ素の重量比は、4:96ないし76:24であり、好ましくは、8:92ないし50:50である。この重量比が4:96ないし76:24の範囲を外れると、本発明の好ましい効果を得ることができない。またテトラエトキシシランのゾル−ゲル反応により得られた高分子初期縮合物の平均分子量は、200〜300である。この範囲では、電気石を加えた造粒物は、焼成後、複合体の機械物性に優れ、工業的設備に使用した場合にも、激しい機械的な摩擦に対しても破壊しないものが得られるが、平均分子量が200未満である場合は、工業的設備に使用した場合に、激しい機械的な摩擦により破損してしまうので使用できない。また平均分子量が300を超えると、電気石を加えた焼成後の複合体はもろくなり工業的設備には使用することができない。
【0016】
前記で得られた複合体は、水中で28、45及び100MHzの超音波が交互にくるようなモードで10秒間の超音波素密波により破壊しない強度を有することを特徴とするものである。また前記複合体の表面積は、BET法表面積測定で29m/g〜460m/gであり、好ましくは30m/g〜460m/gであり、更に兄好ましくは40m/g〜460m/gである。更にいっそう好ましくは、110m/g〜460m/gである。この複合体の表面積が29m/g未満のときは、酸化ケイ素の皮膜を厚くすることが困難であり、また460m/gを越えてもそれ以上の効果を期待することができない。本発明に用いられる複合体は、水媒体中で機械的刺激により先ず電気石が活性化される。ついで該電気石に接することにより酸化ケイ素が活性化され、水分子と集合体を形成し微水溶性の酸化ケイ素となって放出され、これが、物体上に沈積して強固な被膜を形成する。この機械的刺激としては、特に限定されるものではないが、水流による造粒物相互の摩擦、機械的攪拌による造粒物相互の摩擦、超音波放射による衝撃等が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる電気石とテトラエトキシシランより作られた複合体の物性と、この複合体を用いてコーティング皮膜を生成する方法及び、生成した皮膜の評価方法は以下に示す統一した方法、試験方法で行うものである。
1.衝撃試験:本発明に用いられる複合体の衝撃試験は18℃の水中において超音波発振機により28、45、100MHzが交互にくる様なモードで10秒間発信したとき素密波による破壊の有、無により5段階に分け
+以上: 無、
± : 5秒以上の発信により破壊、
− : 直ちに破壊
に区分して評価した。
【0018】
2.表面積の測定法:本発明に用いられる複合体の表面積はBET表面積測定法による。島津製作所製のFlow sorbII2300を使用し、荒く粉砕した0.5gの試料を用い200℃で吸着しているガスを除いた後、液体窒素温度で冷却した窒素30%、He70%のガスを吸着させ、室温にもどした時の脱ガスより一点法により比表面を求める。
【0019】
3.分子量の測定法:電気石微粉末とテトラエトキシシランの加水分解物の初期縮合物をブレンド造粒する際の初期縮合物の分子量は、カンファーの融点降下により求めるラスト法による。
【0020】
4.コーティングの方法:
コーティングの方法は300mlのビーカーに複合体5gと蒸留水50mlを入れ、ビーカーの下面より28、45、100MHzの超音波が交互に来る様なモードで10秒間作用させる。次いで30秒間ビーカーをよく振り複合体を液でかき混ぜ、これに被皮膜検体を30秒浸漬後に取り出し、ビーカー中で風乾と保存を行う。本発明に用いられる複合体によるコーティングを受ける検体(被皮膜検体)として、日立製 Hus−5GB蒸着装置を用い、表面にアルミニュウムを30nmの厚さに真空蒸着した顕微鏡用のスライドガラスを使用する。
【0021】
5.皮膜の膜厚の測定法:
皮膜の膜厚の測定はオージェ電子分光分析装置を用いる。風乾保在された被覆試料を測定装置にセットする。測定条件として電子線電圧5Kv、アルゴンスパッター3kv、エッチングエリア:1×1mm、測定エリア100×100ミクロン、エッチング60秒で10nmの膜厚と初期値の基盤に対するシリカ量との関係が求められ、これから外挿により膜厚を求めることができる。
【実施例】
【0022】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何等限定されるものではない。
〔実施例1〕
【0023】
1リットル容のガラス製反応器に21gのテトラエトキシシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドを加え、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水1ミリリットルを加える。次いで反応器をマグネティク攪拌機により攪拌しながら加温して内容物を35℃とし6時間反応させる。反応物は蒸留器に移し、80℃で8時間を要して反応により生成したエタノールと水の混合物を溜去する。次いで蒸留容器中の内容物を蒸発器中に移す。内容物は透明な粘性を持った液体である。この液から分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末20gと1ミリリットルのジメチルホルムアミドを加え、約5mmの径の球体に造粒する。造粒物は蒸発皿に入れたまま乾燥機に移し、60℃で4時間、100℃で4時間をかけて、水を溜去させる。更に150℃で4時間かけてジメチルホルムアミドを除く。次に造粒物は高温加熱炉に移し、250℃で4時間、600℃で4時間加熱し電気石−酸化ケイ素複合体の構造を安定化させる。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は210、複合体の表面積は37.9m/g、水中超音波による破壊試験++であった。また、アルミを蒸着したスライドガラスの被覆膜の厚さは12nmであった。
〔実施例2〕
【0024】
ガラス製反応容器に21gのテトラエトキシシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモ
ニア水0.5ミリリットルを加え、35℃で6時間反応させた後、次いで70℃で8時間攪拌しながらゲル化の反応を行う。反応物は蒸留器に移し、78℃で10時間かけて反応により生成したエタノールと水の混合物を溜去させる。次いで蒸留器中の内容物を蒸発皿に移す。内容物は薄く白濁した粘性を持った液体である。この液体から分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末20gと1ミリリットルのジメチルホルムアミドを加え、約5mm径の球体に造粒する。造粒物は乾燥機中で50℃で4時間、100℃で4時間乾燥後、高温加熱炉に移し250℃で4時間、600℃で4時間焼結させる。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は250、複合体の表面積は29.3m2 /g、水中超音波による破壊試験は+であった。また、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは10nmであった。
〔実施例3〕
【0025】
ガラス製反応器に21gのテトラエトキシシラン18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水0.01ミリリットルを加え、35℃で72時間、次いで50℃で72時間反応を行う。反応液は白濁の粘重な液体である。この液体を蒸発皿に移し、少量の分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石微粉末10gとジメチルホルムアミド1gを添加し、約5mm径の球体に造粒する。造粒物は70℃で48時間を要して反応により生成したエタノール水を除き、次いで150℃で48時間加熱しジメチルホルムアミドを除く。更に250℃で24時間加熱し複合体の微細構造を安定化させる。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は270、複合体の表面積は41.2m2 /g、水媒体中の超音波による破壊試験は±であった。また、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは15nmであった。
〔実施例4〕
【0026】
ガラス製反応器に21gのテトラエトキシシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水 1ミリリットルを加え、攪拌しながら35℃で6時間反応を行う。反応物を蒸留器に移し、50℃で8時間かけて反応により生成したエタノール水の混合物を溜去する。内容物は白い微結晶を含んだ粘重な液体である。次にこの中から分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末0.26gとジメチルホルムアミド1gを加え、径5mmの球体に造粒する。造粒物は50℃で4時間乾燥し後、100℃で4時間、150℃で4時間加熱する。水とジメチルホルムアミドを溜去し、これを高温加熱炉中で250℃4時間、500℃で4時間焼成する。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は280、複合体の表面積は452m/g、水媒体中の超音波による破壊試験は±であった。またアルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは55nmであった。
〔実施例5〕
【0027】
ガラス製反応器に21gのテトラエトキシシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水 1ミリリットルを加え、攪拌しながら35℃で6時間反応を行う。反応物を蒸留器に移し、80℃で8時間を要して反応により生成したエタノールと水の混合物を溜去させる。内容物は白い微結晶を含んだ粘重な液体である。これを蒸発皿に移し、分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末0.55gとジメチルホルムアミド1gを加え、径5mmの球体に造粒する。造粒物は50℃で4時間乾燥し後、100℃で4時間、150℃で4時間加熱し、水とジメチルホルムアミドを溜去し、これを高温加熱炉中で250℃4時間焼成した後、550℃で4時間焼成する。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は300、複合体の表面積は350m/g、水媒体中の超音波による破壊試験は±であった。また、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは60nmであった。
〔実施例6〕
【0028】
ガラス製反応器に21gのテトラエトキシシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水1ミリリットルを加え、攪拌しながら35℃で6時間反応を行い。反応物は蒸留器に移し、アスピレーターにより減圧下70℃以下に調整し8時間をかけて反応により生成したエタノールと水の混合物を溜去する。内容物は透明な粘重な液体である。内容物は蒸発皿に移し、これから分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末1.21gとジメチルホルムアミド1gを加え混練りし、5mmの球体に造粒する。造粒物は50℃で4時間乾燥した後、100℃で4時間、150℃で4時間かけて水とジメチルホルムアミドを除くとともにゲル化を進行させる。更に造粒体を高温加熱炉中で250℃4時間、600℃で4時間加熱を行い、最終複合体を得る。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は210、複合体の表面積は178m/g、水媒体中の超音波による破壊試験は+であった。また、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは85nmであった。
〔実施例7〕
【0029】
ガラス製反応器に21gのテトラエトキシキシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水 1ミリリットルを加え、攪拌しながら35℃で6時間反応を行う。反応物は蒸留器に移し、アスピレーターにより減圧下70℃以下で8時間をかけて反応により生成したエタノールと水の混合物を溜去する。内容物は透明な粘重な液体である。これを蒸発皿に移し、分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末2.6g加え混練りし、径5mmの球体に造粒する。造粒物は50℃で4時間、100℃で4時間、150℃で4時間かけて加熱し、水とジメチルホルムアミドを除くとともにゲル化を進行させる。更に造粒体を高温加熱炉中で250℃4時間、650℃で4時間加熱を行い、最終複合体を得る。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は200、複合体の表面積は110m/g、水媒体中の超音波による破壊試験は+であった。また、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは71nmであった。
〔実施例8〕
【0030】
ガラス製反応器に21gのテトラエトキシシラン、18ミリリットルの蒸留水、7.3gのジメチルホルムアミドの混合溶液を入れ、これにゲル化反応触媒として10%アンモニア水 1ミリリットルを加え、攪拌しながら35℃で6時間反応を行う。反応物は蒸留器に移し、アスピレーターにより減圧下70℃以下で8時間を要して反応により生成したエタノールと水の混合物を溜去する。内容物は透明な粘重な液体である。これを蒸発皿に移し、これから分子量測定用の検体を少量採取した後、電気石の微粉末6.05g加え混練りし、径5mmの球体に造粒する。造粒物は50℃で4時間、100℃で4時間、150℃で4時間かけて加熱し、水とジメチルホルムアミドを除くとともにゲル化を進行させる。更に造粒体を高温加熱炉中で250℃4時間、400℃で4時間加熱を行い、最終複合体を得る。造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量は220、複合体の表面積は130m/g、水媒体中の超音波による破壊試験は++であった。また、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜の厚さは35nmであった。
〔参考例〕
【0031】
300gの電気石、550gのケイ砂、15gの長石を混合し、粉砕機により50ミクロン以下に微粉砕する。この混合物をかき混ぜながら造粒可能な程度に水を加え、次に径5mm程度の球体に造粒する。次いで100℃5時間乾燥後高温加熱炉に入れ、900℃で5時間焼結させる。得られた電気石、酸化ケイ素の複合体の表面積10m/g、水媒体中でのアルミ蒸着スライドガラス上の被腹膜の厚さは2nmであった。
【0032】
次に各実施例について、複合体中における電気石の割合(重量%)、造粒前におけるゾル−ゲル法による酸化ケイ素初期縮合物の分子量(造粒時のゲル分子量)、焼結温度、複
合体の表面積、水中における超音波による複合体の破壊試験、アルミ蒸着スライドガラス上の被覆膜厚を表記すると以下のようになる。また各実施例及び参考例に用いた電気石は、ブラジル産のトルマリン鉱石シェールである。
【0033】
【表1】

【0034】

表1から明らかなように、比較例に使用した電気石セラミックスに比して、各実施例はいずれも被覆膜厚が厚く10nm以上の値を示している。そして被覆膜厚に影響を与える要素としては複合体中における電気石の分率で4%〜50%は30ナノメーター以上の値を示している。また、被覆膜厚に直接関連する要素として複合体の表面積があり、110m/g〜452m/gは30nm以上の膜厚を形成している。超音波による破壊試験では±は実際の使用にあたって寿命が短く改良の余地はあるが、実用性は十分あるといえる。しかしながら、+以上が必要である。そして+以上の複合体は造粒時のゲル(初期縮合物)の分子量が250以下であることを示しており、この値はゲル化の反応を進み過ぎないよう反応温度と時間、反応触媒の量を制御することにより達することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
近年、大気汚染の進行に伴い、屋外に暴露している構造物、列車、船舶、車などの輸送媒体は、汚染や腐蝕が著しくなってきている。そのため、塗料による塗装、清掃作業と補修などの経費が増大している。本発明は化学的に最も安定な且つ硬度の大であるガラス質の薄膜を被覆される物体の美的感覚を損なうことなく従来の方法では得られなかった十から数十nmまでの厚さに簡単な方法で被覆することが可能となり、産業上大きな貢献が期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラエトキシシランを塩基性触媒の存在下に加水分解すると共に、ゾル−ゲル反応により高分子初期縮合物を得、該初期縮合物に電気石の微粉末を混合し、造粒し、乾燥した後、250℃から650℃までの温度で焼結することを特徴とする電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
【請求項2】
前記で得られた複合体中の電気石と酸化ケイ素の重量比が4:96ないし76:24であることを特徴とする請求項1に記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
【請求項3】
テトラエトキシシランのゾル−ゲル反応により得られた高分子初期縮合物の平均分子量が200〜300であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
【請求項4】
前記で得られた複合体は、水中で28、45及び100MHzの超音波が交互にくるようなモードで10秒間の超音波素密波により破壊しない強度を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
【請求項5】
前記複合体の表面積がBET法表面積測定で29m/g〜460m/gであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気石と酸化ケイ素とからなる複合体の製造方法。
【請求項6】
前記複合体が、水媒体中で機械的刺激により電気石が活性化されると共に、該電気石に接する酸化ケイ素より生じた微水溶性の酸化ケイ素が、物体上に強固な被膜を形成することができることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電気石と酸化ケイ素からなる複合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−126218(P2008−126218A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317871(P2006−317871)
【出願日】平成18年11月25日(2006.11.25)
【特許番号】特許第4012930号(P4012930)
【特許公報発行日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(504155031)
【出願人】(504155053)
【Fターム(参考)】