説明

電気絶縁用樹脂組成物およびそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法

【課題】 作業性が良好で、臭気が少なく、また、熱劣化後の電気絶縁性が良好で、高固着の保持性が良好な電気絶縁用樹脂組成物、これを用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供する。
【解決手段】 分子鎖中にイミドジカルボン酸と、α,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として得られる不飽和ポリエステルイミド(A)と、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)、および2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(D)を必須材料としてなる電気絶縁用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法に関する。
さらに、詳しくは、モータ、変圧トランス、アーマチュア(回転子)、ステ−タ(固定子)などの電気機器用コイルの含浸性を低下することなく、柔軟な硬化皮膜を持ち、短時間で硬化可能で高固着性を有し、かつ作業時の臭気が少なく、作業環境が良好で、さらに熱劣化後の絶縁破壊電圧や固着力の保持率が良好な電気機器絶縁処理用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転機、変圧器等の機器には、固着、絶縁補強、防振、防錆等の目的でコイル含浸ワニスが用いられている。上記コイル含浸ワニスは、大別すると溶剤型ワニスと無溶剤型ワニスの二つに分けられ、機器の種類、処理方法等により適宜に選択される。
上記溶剤型ワニスは、アルキッド樹脂をナフサ等で溶解したものであって、このため加熱硬化処理時には、大量の溶剤飛散が伴うという問題が生じる。また、上記無溶剤型ワニスは、一般にスチレン等の反応性モノマーに不飽和基を有する樹脂を溶解させたものであって、加熱硬化処理時に上記溶剤型ワニスほど溶剤が飛散することはないが、スチレンの持つ刺激特性のために少量の飛散量にもかかわらず取り扱い作業者に及ぼす影響は大きく、作業環境の劣化が生じるという問題を有している。このように、作業者および作業環境問題に関してはいずれのワニスにおいても何ら解決されていない。そして、最近では、高作業性(短処理時間)、省資源、防錆性能等の理由から、溶剤型から無溶剤型への検討が進められている。この無溶剤型ワニスのひとつに、不飽和ポリエステルワニスが上げられる。不飽和ポリエステルワニスは、不飽和ポリエステルと架橋性単量体からなり、機械的、電気的及び熱的特性、作業性、経済性などの点で調和がとれているため、FRP積層板やライニング等の建築機材をはじめ多くの用途に使用されている。
この無溶剤型ワニスへの要求事項として(1)低温短時間硬化及びワニスからの溶剤揮発量の減少(無溶剤化)や高固着性の付与、(2)熱劣化時の絶縁破壊電圧や固着力の保持率の向上があげられる。
低温短時間硬化及びワニスからの溶剤揮発量の減少(無溶剤化)や高固着性の付与に対応する方法として、スチレンの含有量を低減する方法や添加剤の配合によるスチレン揮発量を低減するなど方法が採られている。しかしながらこれらの方法は、基本的にスチレンを含有する樹脂であることに変わりなく、その臭気対策としては不十分なものである。スチレンに替えて他の重合性不飽和モノマーを使用する方法も多く報告されている。例えば、特開平7−216040号公報や特開平9−151225号公報に記載されているような重合性不飽和モノマーとしてジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートのようなオリゴエチレングリコールアルキルエーテルメタクリレートを必須成分として含有するモノマーや、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルメタクリレートのようなオリゴエーテルモノアルキルエーテルメタクリレートを必須成分として含有するモノマーを使用した樹脂組成物、特開平10−87770号公報に記載されているような重合性不飽和モノマーとしてオリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよび/またはオリゴプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートを必須成分として使用した樹脂組成物、また、特開2002−114829号公報に記載されているような、重合性不飽和モノマーとしてアルキルシクロヘキシル(メタ)アクリレートを必須成分として含有する樹脂組成物がある。
また、例えば、特開平10−36461号公報記載のように重合性不飽和結合基を有するマクロモノマーと重合性不飽和単量体として炭素数2〜4のジオールのオリゴエーテルモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートを含有する樹脂組成物や、特開2003−268054号公報記載のような、分子末端に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂、(メタ)アクリレート基を有する単量体およびアセチルラクトン化合物を含有する樹脂組成物、さらに、特開2003−89709号公報のようなジシクロペンタジエン変性不飽和ポリエステルオリゴマー、シクロヘキセン環およびアリルエーテル基を有するエステル化合物、およびヒドロキシアルキルメタクリレートを必須成分とする不飽和ポリエステル樹脂組成物等種々報告されている。
【0003】
また、高固着性については、例えば、特開平5−140261号公報記載のように、エポキシ樹脂をフェノ−ル類ジメチロ−ル化物とナフト−ル類との縮合物のエポキシ化物とビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂を50〜95:50〜5(質量比)の割合で含むエポキシ樹脂混合物や、該エポキシ樹脂混合物と硬化剤と硬化促進剤を含むエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を用いる方法や特開平11−131042号公報記載のようにエポキシ樹脂、ニトリルゴムの混合物、硬化剤、イミダゾール化合物、硼弗化物及びオクチル酸塩より選択された1種又は2種以上の硬化促進剤からなる熱硬化性固着剤を用いる方法、特開2005−139289号公報記載のように、エポキシ樹脂、酸無水物、アンモニウム塩を含有するエポキシ樹脂組成物を使用する方法等種々報告されている。
【0004】
熱劣化時の絶縁破壊電圧保持率の向上および固着力の保持方法としては、従来、耐熱性を有する絶縁電線用に使用されていた、ポリイミド線用樹脂、ポリアミドイミド線用樹脂及びポリエステルイミド線用樹脂がある。これらのうち、例えば、特性と価格のバランスの点から、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(以下、THEICと略す)を使用して分子鎖中にイミド結合及びイソシアヌレート環を導入したポリエステルイミド樹脂を使用する場合が多い。しかし、従来のTHEICを使用したポリエステルイミドワニスの固着力は、要求に対しては不十分であった。
また、THEICを使用したポリエステルイミドワニスの固着を向上させる手段としては、特開平2−58567号公報および特開平7−316425号公報に、チオール化合物をポリエステルイミドワニスに配合することが開示されている。しかし、この方法を用いると、固着力は向上するが、空気乾燥性が悪化し作業性や生産性が悪くなること、また、得られる樹脂の分子量が高く、相溶姓の良い有機溶剤が存在しない状況下では、作業性が悪い等の不具合が発生する。さらに、熱劣化させた後の固着力が極端に低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−216040号公報
【特許文献2】特開平9−151225号公報
【特許文献3】特開平10−87770号公報
【特許文献4】特開2002−114829号公報
【特許文献5】特開平10−36461号公報
【特許文献6】特開2003−268054号公報
【特許文献7】特開2003−89709号公報
【特許文献8】特開平5−140261号公報
【特許文献9】特開平11−131042号公報
【特許文献10】特開2005−139289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑み、今後、作業環境が良好な電気機器用の含浸ワニスの提供を目的に、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いた電気機器絶縁物の製造方法において、作業性が良好で、臭気が少なく、熱劣化後の電気絶縁性が良好で、かつ、高固着性の保持に優れた電気絶縁用樹脂組成物を提供するものであり、さらに、本発明は、この電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、[1]分子鎖中にイミドジカルボン酸と、α,β−不飽和二塩基酸をイミドジカルボン酸量が全酸成分の0.1〜0.5molと、α,β−不飽和二塩基酸が全酸成分の0.5〜0.9molと成るように設定したものと1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として得られる不飽和ポリエステルイミド(A)と、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)、および2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(D)を必須材料としてなる電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[2]不飽和ポリエステルイミド(A)の数平均分子量が、1,000〜10,000の範囲である上記[1]に記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、[3]20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)を、不飽和ポリエステルイミド(A)100質量部に対して、50〜400質量部含有する上記[1]又は[2]に記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、[4]電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対し、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)1〜100質量部を含有してなる上記[1]ないし[3]の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、[5]電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対し、2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(D)0.01〜20質量部を含有してなる上記[1]ないし[4]の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、[6](E)重合開始剤及び(F)安定剤を含有する上記[1]ないし[5]の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、[7]電気機器を上記[1]ないし[6]の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、ワニス硬化物の柔軟性にすぐれ、かつ初期および熱劣化後の固着力およびツイストペア絶縁破壊電圧の保持率が高いワニス硬化物を提供できる。また、樹脂組成物の粘度は従来品と同等であるため、含浸作業方法に幅広く対応可能である。さらに、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の電気絶縁性、固着性等の硬化物特性の提供が可能で、良好な安定性を示すため、信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における分子鎖中にイミドジカルボン酸を有するものとしては、酸成分の一部として一般式(1)で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0010】
【化1】

〔一般式(1)中、Rはトリカルボン酸残基の3価の有機基、Rはジアミン残基の2価の有機基を意味する〕
一般式(1)で表されるイミドジカルボン酸としては、例えばジアミン1モルに対してトリカルボン酸無水物2モルを反応させることにより得られるイミドジカルボン酸(特公昭51−40113号公報参照)が挙げられる。また、あらかじめジアミンとトリカルボン酸無水物とを反応させてイミドジカルボン酸として用いないで、ジアミンとトリカルボン酸無水物をポリエステルイミド樹脂の製造時に加えて、イミドジカルボン酸を形成してもよい。
【0011】
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4'−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4'−ビフェニルトリカルボン酸無水物等が挙げられ、トリメリット酸無水物が好ましい。
【0012】
ジアミンとしては、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。
【0013】
イミドジカルボン酸の使用量は、全酸成分の0.1〜0.5mol(10〜50当量%)の範囲とすることが好ましく、10〜20当量%の範囲とすることがより好ましい。イミドジカルボン酸の使用量が少なすぎると耐熱性が劣り、保持率が維持できない傾向にあり、これ以上にしても耐熱性は向上せず、可とう性が低下する場合がある。
【0014】
本発明におけるα,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステルは、不飽和二塩基酸を必須成分とする酸成分及びアルコール成分、さらに必要に応じて変性成分を反応させて得られる。
本発明で用いる不飽和ポリエステルイミド(A)のα,β−不飽和二塩基酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などが用いられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
酸成分としては、上記記載の不飽和二塩基酸のほか飽和酸及びこの飽和酸低級アルキルのジエステル等を併用することも出来る。例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。また、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸などを用いることもできる。 飽和酸としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の飽和二塩基酸などが挙げられる。飽和酸低級アルキルのジエステルとしては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。これらは単独で用いても併用してもよい。
さらに、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、トール油脂肪酸等の食用油脂肪酸などを併用することもできる。α,β−不飽和酸の量は、全酸成分中0.5〜0.9mol(50〜90当量%)の範囲で選択されることが好ましい。
【0015】
1個以上の水酸基を持つアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が用いられ、これらは単独で用いても併用してもよい。必要に応じて用いられる変性成分としては、例えば、アマニ油、大豆油、トール油、脱水ヒマシ油、ヤシ油、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン等が挙げられる。
【0016】
本発明で用いる不飽和ポリエステルイミド(A)の酸成分は、イミドジカルボン酸量が全酸成分の0.1〜0.5molと、α,β−不飽和二塩基酸が全酸成分の0.5〜0.9molと成るように設定した物が好ましく、イミドジカルボン酸量が全酸成分の0.1〜0.2molと、α,β−不飽和二塩基酸が全酸成分の0.55〜0.75molであるものがより好ましい。イミドジカルボン酸が0.1mol以下では耐熱性に不具合が発生し、また0.5molを超えると得られる硬化物の強度が低下する不具合が発生する。同様にα,β−不飽和二塩基酸が全酸成分の0.5mol未満では、硬化物の強度が低下する不具合が発生し、0.9mol以上では耐熱性に不具合が発生する。
【0017】
本発明で用いる不飽和ポリエステルイミド(A)の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、1,000〜10,000であることが好ましいより好ましくは、1,500〜5,000である。1,000未満では、樹脂組成物の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10,000を超えると粘度が高すぎ含浸作業性が悪化する。
【0018】
本発明に使用される不飽和ポリエステルイミド(イミド変性不飽和ポリエステル)(A)の製造方法としては、従来から公知の方法によることができる。例えば、まず必須成分である前記の酸成分とアルコール成分とをエステル化触媒の存在下に160〜250℃、好ましくは170〜250℃の温度で、3〜15時間、好ましくは5〜10時間加熱反応させることにより行われる。この際、用いられるエステル化触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、ジブチルスズラウレート、ナフテン酸亜鉛などが挙げられる。また、反応は、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。前記のイミドジカルボン酸は、あらかじめ合成したものを用いてもよく、また、ジアミン及び無水トリメリット酸のイミド酸となる成分を他の酸成分、アルコール成分と同時に混合加熱してイミド化及びエステル化を同時に行ってもよい。このときジアミンと無水トリメリット酸の配合量は、前記のイミドジカルボン酸の配合量に対応する量とするのが好ましい。また、合成時の粘度が高いため、例えば、キシレノール等の溶媒の共存下で合成を行うこともできる。
その後α,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコールのみ、または多塩基酸成分、多価アルコール成分を併用し、縮合反応させ、両成分が反応するときに生じる縮合水を系外に除きながら進められる。全酸成分1当量に対して全アルコール成分は1〜2当量の範囲で使用することが好ましい。
縮合水を系外に除去することは、好ましくは不活性気体を通じることによる自然留出又は減圧留出によって行われる。縮合水の留出を促進するため、トルエン、キシレンなどの溶剤を共沸成分として系中に添加することもできる。反応の進行は、一般に反応により生成する留出分量の測定、末端の官能基の定量、反応系の粘度の測定などにより知ることができる。
合成反応を行うための反応温度は150〜250℃とすることが好ましい。このことから、反応装置としては、ガラス、ステンレス製等のものが選ばれ、撹拌装置、水とアルコール成分の共沸によるアルコール成分の留出を防ぐための分留装置、反応系の温度を高める加熱装置、この加熱装置の温度制御装置等を備えた反応装置を用いるのが好ましい。
合成における重縮合反応を行うために調整する反応装置内圧力は、常圧でも全く問題なく反応を進めることができるが、加圧し、多価アルコ−ルの沸点をあげることにより、反応を促進することができる。この場合、常圧〜0.1MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0019】
本発明で使用する20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)としては、低臭気性の樹脂組成物を得るとする目的から、蒸気圧が0.1mmHg(20℃)以下であるもので、さらに不飽和ポリエステルイミド(A)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)を溶解するものが選択される。この要件を満足する重合性単官能(メタ)アクリレートとして、具体的には、例えばジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、プラクセルFA1、FA2D、FA3、FM1D、FM2D、FM3(ダイセル化学工業株式会社)などの(ポリ)カプロラクトンモノエトキシ(メタ)アクリレートなどの水酸基を持つ(メタ)アクリレートを使用することができる。また分子中に1個の水酸基を有する単官能(メタ)アクリレートと飽和二塩基酸との反応物である不飽和一塩基酸も使用することが可能である。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
不飽和ポリエステルイミド(A)と20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)の使用量は、不飽和ポリエステルイミド(A)100質量部に対して、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)を50〜100質量部の範囲とするのが好ましい。50質量部未満の場合、得られる樹脂組成物の粘度が高すぎてしまい、トランス表面に厚く付着するばかりでなく、内部浸透性も悪くなる。また、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤を、100質量部を超えて配合した場合、樹脂組成物の外観が濁るうえ、ワニス粘度が低すぎて、内部に浸透した樹脂付着物が加熱硬化時に流れ出してしまう不具合が発生する。
【0020】
本発明に用いられる(C)成分の分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−トとして、1,4−ブタンジオールモノメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノメタクリレート、1,9−ノナンジオールモノメタクリレート、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。また、炭素数12〜15の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマーの混合物(例えば、共栄社化学株式会社製のライトエステルL−7、ライトエステルL−8、日本油脂株式会社製のブレンマーSLMA、ブレンマーCMAなど)も使用できる。これらの中からモノマーの臭気を考慮して選定して使用することが好ましい。好ましくは、(メタ)アクリル酸ラウリル、炭素数12〜15の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマーの混合物を使用するなどの長鎖アルキルアルコールモノ(メタ)アクリレート類が使用でき、これらは単独または2種以上併用で使用することもできる。
【0021】
また、分子中に1個の水酸基とアリル基を有する化合物としては、例えば、1,5−ペンタンジオールモノアリルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、などの多価アルコールのアリルエーテル化合物が例示される。これらは単独または2種以上併用で使用することもできる。
【0022】
上記記載の分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)の使用量は、(A)成分の不飽和ポリエステルイミドと(B)成分の20℃の蒸気圧が1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤の総量100質量部に対し1〜100質量部の範囲とするのが好ましい。1質量部未満の場合、得られる樹脂組成物の粘度が高すぎてしまい、得られる樹脂組成物外観が濁る上、含浸する電気機器表面に厚く付着するばかりでなく、内部浸透性も悪くなる。
また、20℃の蒸気圧が1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤を100質量部を超えて配合すると、樹脂組成物の外観が濁るうえ、ワニス粘度が低すぎて、内部に浸透した樹脂付着物が加熱硬化時に流れ出してしまう不具合が発生する。
【0023】
本発明に用いられる、(D)成分の2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤は、メチルオキシ基を官能基に有するシランカップリング剤であれば特に限定されないが、例えば、式(1)又は(2):R−SiX (1)又はR−Si(CH)X (2)(ここで、Rは、1価の有機官能基であり、Xは、メトキシ基である)で示されるシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが使用可能である。また、これらは単独または2種以上併用で使用することもできる。
本発明に用いられる(D)成分の2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤の使用量は、(A)成分の不飽和ポリエステルイミドと(B)成分の20℃の蒸気圧が1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤の総量100質量部に対し、2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(D)0.01〜20質量部であるのが好ましく、0.1〜10質量部であるのがより好ましく、さらに好ましくは0.5〜5質量部である。
2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤を、20質量部を超えて配合しても、揮発量は少なくなるが、固着性が逆に低下し、かつ、表面乾燥時間および樹脂組成物の硬化時間が延長し、硬化しづらくなる。また、配合量を0.1質量部未満にすると、得られる樹脂組成物の固着力が低下する不具合が発生する。
【0024】
本発明では、さらに、(E)重合開始剤と(F)安定剤を含有することが好ましい。
本発明で用いられる(E)重合開始剤(硬化剤)としては、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類などが挙げられる。(E)重合開始剤(硬化剤)の量は、硬化条件や樹脂硬化物の外観、特性等の面に影響があるため、それぞれに応じて決定される。材料の保存性、成形サイクルの面から前記不飽和ポリエステルイミド(A)及び(B)、(C)成分の総量100質量部に対して0.5〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
【0025】
本発明で必要に応じて用いられる(F)安定剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジ−アセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、電気絶縁用樹脂組成物の貯蔵安定性、実機処理時の硬化温度及び硬化時間により便宜に決定されるが、通常、電気絶縁用樹脂組成物の総量100質量部に対して0.01〜5.0質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量部であり、特に0.5質量部以下が好ましく、極めて好ましくは0.01〜0.1質量部である。
【0026】
また、本発明の電気絶縁用樹脂組成物には、必要に応じて硬化物表面の空気遮断効果を持つ公知の市販の各種添加剤などを添加することが好ましい。これらの添加剤を配合することにより、表面硬化(表面乾燥)時間を短縮することができる。表面硬化性を短縮させるための添加剤としてその一例を挙げれば、各種融点のパラフィンワックスなどのワックス類、BYK−S740やBYK−S750(ビックケミージャパン株式会社製)などの低揮散剤などが挙げられる。
ワックス類の配合量としては、電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対して、0.05〜1質量部、好ましくは0.1〜0.5質量部である。
本発明の電気絶縁用樹脂組成物を用いた絶縁処理は、公知の方法で処理されるが、本発明の電気絶縁用樹脂組成物中に電気機器を2〜20分間浸漬した後引き上げ、または滴下含浸した後、100〜160℃で1〜5時間加熱して樹脂組成物を硬化させる方法で行われることが望ましい。
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、臭気が少なく、良作業性を有するだけではなく、得られるワニス皮膜が柔軟性を有するため、トランスやモ−タ等の代表される電気機器含浸処理用に好適である。とくに、作動温度が高温になり、高固着を要求するジューサ・ミシン・電動工具向けの回転子などの電気機器の絶縁処理に最適である。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、例中の「部」は特に断らない限り「質量部」を意味する。
【0028】
(1) 不飽和ポリエステルイミド(A−1)の合成
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた5リットルのフラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオール1035部、4,4'-ジアミノフェニルエタン297部、無水トリメリット酸597部、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート261部、無水フタル酸365部を入れ、窒素気流中で室温(25℃)から1時間で175℃に昇温して4時間反応させた。次いで、得られた溶液を5時間で200℃に昇温して3時間反応させ、樹脂酸価5mgKOH/gの樹脂を得た。得られた溶液に無水マレイン酸588部を加え、再び215℃まで昇温し、6時間反応させたところ、酸価18mgKOH/g、数平均分子量2600の不飽和ポリエステルイミド(A−1)を得た。
【0029】
(2) 不飽和ポリエステルイミド(A−2)の合成
不飽和ポリエステルイミド(A−1)の合成のうち、無水フタル酸を657部、無水マレイン酸392部にした以外は同様の配合で反応させ、酸価17mgKOH/g、数平均分子量2700の不飽和ポリエステルイミド(A−2)を得た。
【0030】
(3) 不飽和ポリエステルイミド(A−3)の合成
不飽和ポリエステルイミド(A−1)の合成のうち、無水フタル酸を73部、無水マレイン酸784部にした以外は同様の配合で反応させ、酸価19mgKOH/g、数平均分子量2550の不飽和ポリエステルイミド(A−3)を得た。
【0031】
(4) 不飽和ポリエステルイミド(B−1)の合成
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた5リットルのフラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオール1035部、4,4'-ジアミノフェニルエタン198部、無水トリメリット酸384部、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート261部、無水フタル酸730部を入れ、窒素気流中で室温(25℃)から1時間で175℃に昇温して4時間反応させた。次いで、得られた溶液を5時間で200℃に昇温して3時間反応させ、樹脂酸価4mgKOH/gの樹脂を得た。得られた溶液に無水マレイン酸392部を加え、再び215℃まで昇温し、6時間反応させたところ、酸価16mgKOH/g、数平均分子量2200の不飽和ポリエステルイミド(B−1)を得た。
【0032】
(5) 不飽和ポリエステルイミド(B−2)の合成
不飽和ポリエステルイミド(B−1)の合成のうち、無水フタル酸を438部、無水マレイン酸588部にした以外は同様の配合で反応させ、酸価15mgKOH/g、数平均分子量2800の不飽和ポリエステルイミド(B−2)を得た。
【0033】
(6) 不飽和ポリエステルイミド(C−1)の合成
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた5リットルのフラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオ−ル1035部、4,4'-ジアミノフェニルエタン396部、無水トリメリット酸768部、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート261部、無水フタル酸594部を入れ、窒素気流中で室温(25℃)から1時間で175℃に昇温して4時間反応させた。次いで、得られた溶液を5時間で200℃に昇温して3時間反応させ、樹脂酸価5mgKOH/gの樹脂を得た。得られた溶液に無水マレイン酸392部を加え、再び215℃まで昇温し、6時間反応させたところ、酸価16mgKOH/g、数平均分子量2500の不飽和ポリエステルイミド(C−1)を得た。
【0034】
(7) 不飽和ポリエステルイミド(C−2)の合成
不飽和ポリエステルイミド(C−1)の合成のうち、無水フタル酸を292部、無水マレイン酸588部にした以外は同様の配合で反応させ、酸価14mgKOH/g、数平均分子量2300の不飽和ポリエステルイミド(C−2)を得た。
【0035】
(8) 不飽和ポリエステル(D)の合成
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた5リットルのフラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオ−ル1035部、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート261部、無水フタル酸730部を入れ、無水マレイン酸392部を加え、215℃まで昇温し、6時間反応させたところ、酸価17mgKOH/g、数平均分子量2450の不飽和ポリエステル(D)を得た。
【0036】
(実施例1〜3)
上記で合成した不飽和ポリエステルイミド(A−1)、(A−2)、(A−3)60部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(C)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)10部、(D)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部、ハイドロキノン0.01部および1,1−ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物a−1、a−2、a−3を得た。
【0037】
(比較例1〜2)
上記で合成した不飽和ポリエステルイミド(B−1)、(B−2)60部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(C)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)10部、(D)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部、ハイドロキノン0.01部および1,1−ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物b−1、b−2を得た。
【0038】
(比較例3〜4)
不飽和ポリエステルイミド(C−1)、(C−2)60部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(C)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)10部、(D)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部、ハイドロキノン0.01部および1,1−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物c−1、c−2を得た。
【0039】
(比較例5)
不飽和ポリエステル(D)60部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(C)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)10部、(D)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部、ハイドロキノン0.01部および1,1−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物dを得た。
【0040】
(比較例6)
不飽和ポリエステル(A−1)60部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(C)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)10部、ハイドロキノン0.01部および1,1-ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物e−1を得た。
【0041】
(比較例7)
不飽和ポリエステル(A−1)60部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(D)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部、ハイドロキノン0.01部および1,1-ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物e−2を得た。
【0042】
(比較例8)
不飽和ポリエステルイミド(A−1)60部に、(B)成分の代わりにスチレンを40部、(C)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)10部、(D)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部、ハイドロキノン0.01部および1,1-ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ベンゾエ−ト(化薬アクゾ株式会社製、製品名カヤブチルB)を1部配合し、不飽和ポリエステル組成物f−1を得た。
【0043】
実施例および比較例の樹脂組成物について、粘度、ゲル化時間、臭気、揮発量、表面乾燥性、硬化物の硬さ、固着力を以下のようにして測定した。
【0044】
・ワニス粘度の測定:JIS C 2105に準拠して、ブルックフィ−ルド型粘度計を用いて測定した。
・ワニス比重の測定:JIS C 2105に準拠して,浮秤法で測定した。
・ゲル化時間測定:JIS C 2105に準拠して、試験管法にてゲル化時間を測定した。
・ポットライフ:JIS C 2105に準拠して、試験管法にてポットライフを測定した。
・臭気試験:直径70mm、高さ140mmのポリビ−カに実施例および比較例の樹脂組成物をそれぞれ100gずつ入れ、ふたをして、25℃の恒温槽内で1時間放置後の臭気を官能試験で評価した。臭気の官能試験は表1に示す評価基準を用いて4段階評価で実施した。
【0045】
【表1】

・固着力:JIS C 2105に準拠し、日立マグネットワイヤ株式会社製直径2mmのAIW電線を使用し、ストラッカ試験片を作製した。これに、樹脂組成物を含浸させ、130℃、1.5時間硬化させ試験片を作製した。この試験片を用い、支点間距離を80mmにし、株式会社島津製作所製オ−トグラフを用いて5mm/minの速さで、試験片の中央部に荷重を加えた。試験片が破壊する荷重をもって固着力とした。
・熱劣化後の固着力:上記の固着力で作製した試験片を240℃の高温槽で240時間静置した後、上記の固着力と同様な方法で固着力を測定した。
・ツイストペア絶縁破壊電圧:JIS C 3003に準拠し、日立マグネットワイヤ株式会社製直径2mmのAIW電線を使用し、ツイストペア試験片を作製した。これに、樹脂組成物を含浸させ、160℃、1時間硬化を2回実施し試験片を作製した。この試験片を用い、絶縁破壊電圧を測定した。
・熱劣化後のツイストペア絶縁破壊電圧:上記のツイストペア絶縁破壊電圧で作製した試験片を240℃の高温槽で240時間静置した後、上記と同様に絶縁破壊電圧を測定した。
得られた結果を纏めて表2、表3に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
比較例5の分子鎖中にイミドジカルボン酸を有さない不飽和ポリエステルを用いた場合、ポットライフ、加熱劣化試験後の固着力、絶縁破壊電圧の保持力が低下する。また、比較例6〜8では、(D)成分を含有しない比較例6の場合、加熱劣化試験後の固着力、絶縁破壊電圧の保持力が低下する。(C)成分を含有しない比較例7の場合、絶縁破壊電圧の保持力の低下が見られ、(B)成分を含有せず従来のスチレンを用いた比較例8の場合では、臭気に劣る。
また、不飽和ポリエステルイミドの含有量を変えた場合の比較例1〜4の場合、加熱劣化試験後の固着力に劣る。
本発明の、(A)〜(D)成分を含有する電気絶縁用樹脂組成物を用いた場合、ワニス硬化物が柔軟性にすぐれ、かつ初期および熱劣化後の固着力およびツイストペア絶縁破壊電圧の保持率が高いワニス硬化物を提供できる。また、樹脂組成物の粘度は従来品と同等であるため、含浸作業方法に幅広く対応可能である。さらに、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の電気絶縁性、固着性等の硬化物特性の提供が可能で、良好な安定性を示すため、信頼性の高い電気機器を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖中にイミドジカルボン酸と、α,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として得られ、かつイミドジカルボン酸量が全酸成分の0.1〜0.5molと、α,β−不飽和二塩基酸が全酸成分の0.5〜0.9molと成るように設定したものと、1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として得られる不飽和ポリエステルイミド(A)と、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)、および2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(D)を必須材料としてなる電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
不飽和ポリエステルイミド(A)の数平均分子量が1,000〜10,000の範囲である請求項1に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)を、不飽和ポリエステルイミド(A)100質量部に対して、50〜400質量部含有する請求項1または請求項2に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対し、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(C)1〜100質量部を含有する請求項1ないし3の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対し、2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(D)0.01〜20質量部を含有する請求項1ないし4の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(E)重合開始剤及び(F)安定剤を含有する請求項1ないし5の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項7】
電気機器を請求項1ないし6の何れかに記載の電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法。

【公開番号】特開2010−244965(P2010−244965A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94771(P2009−94771)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】