説明

電気絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法。

【課題】 皮膜を柔軟化でき、かつ従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の良好な固着性や電気絶縁性などの硬化物特性及び良好な安定性を示すことができる電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供する。
【解決手段】 α,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)と、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(D)、および2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(E)を必須材料としてなる樹脂組成物であり、(A)100質量部に対して、(B)を50〜400質量部、(A)及び(B)の総計100質量部に対して、(C)を0.1〜20質量部、(D)を1〜100質量部、(E)を0.01〜20質量部含有する電気絶縁用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法に関する。
さらに、詳しくは、モータ、変圧トランス、アーマチュア(回転子)、ステ−タ(固定子)などの電気機器用コイルの含浸性を低下することなく、柔軟な硬化皮膜を持ち、短時間で硬化可能で高固着性を有し、かつ作業時の臭気が少なく、作業環境が良好な電気絶縁用樹脂組成物とそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転機、変圧器等の機器には、固着、絶縁補強、防振、防錆等の目的でコイル含浸ワニスが用いられている。上記コイル含浸ワニスは、大別すると溶剤型ワニスと無溶剤型ワニスの二つに分けられ、機器の種類、処理方法等により適宜に選択され使用されている。
上記溶剤型ワニスは、アルキッド樹脂をナフサ等で溶解したものであって、このため加熱硬化処理時には大量の溶剤飛散が伴うという問題が生じる。また、上記無溶剤型ワニスは、一般にスチレン等の反応性モノマーに不飽和基を有する樹脂を溶解させたものであって、加熱硬化処理時に上記溶剤型ワニスほど溶剤が飛散することはないが、スチレンの持つ刺激特性のために少量の飛散量にもかかわらず取り扱い作業者に及ぼす影響は大きく、作業環境の劣化が生じるという問題を有している。
このように、作業者および作業環境問題に関してはいずれのワニスにおいても何ら解決されていない。そして、最近では、高作業性(短処理時間)、省資源、防錆性能等の理由から、溶剤型から無溶剤型への検討が進められている。この無溶剤型ワニスのひとつに、不飽和ポリエステルワニスが挙げられる。不飽和ポリエステルワニスは、不飽和ポリエステルと架橋性単量体からなり、機械的、電気的及び熱的特性、作業性、経済性などの点で調和がとれているため、FRP積層板やライニング等の建築機材をはじめ多くの用途にも使用されている。
【0003】
この無溶剤型含浸ワニスの要望事項としては、低温短時間硬化及びワニスからの溶剤揮発量の減少(無溶剤化)や高固着性の付与が挙げられる。
この要求に対応する方法として、スチレンの含有量を低減する方法や添加剤の配合によるスチレン揮発量を低減するなどの方法が採られている。しかし、これらの方法は、基本的にスチレンを含有する樹脂であることに変わりなくその臭気対策としては不十分なものである。スチレンに替えて他の重合性不飽和モノマーを使用する方法も多く報告されている。例えば、特許文献1、2に記載されているような重合性不飽和モノマーとして、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートのようなオリゴエチレングリコールアルキルエーテルメタクリレートを必須成分として含有するモノマーや、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルメタクリレートのようなオリゴエーテルモノアルキルエーテルメタクリレートを必須成分として含有するモノマーを使用した樹脂組成物、特許文献3に記載されているような重合性不飽和モノマーとしてオリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよび/またはオリゴプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートを必須成分として使用した樹脂組成物、また、特許文献4に記載されているような、重合性不飽和モノマーとしてアルキルシクロヘキシル(メタ)アクリレートを必須成分として含有する樹脂組成物がある。
また、例えば、特許文献5に記載のように重合性不飽和結合基を有するマクロモノマーと重合性不飽和単量体として炭素数2〜4のジオールのオリゴエーテルモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートを含有する樹脂組成物や、特許文献6に記載のような、分子末端に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂、(メタ)アクリレート基を有する単量体およびアセチルラクトン化合物を含有する樹脂組成物、さらに、特許文献7に記載のようなジシクロペンタジエン変性不飽和ポリエステルオリゴマー、シクロヘキセン環およびアリルエーテル基を有するエステル化合物、およびヒドロキシアルキルメタクリレートを必須成分とする不飽和ポリエステル樹脂組成物等種々報告されている。
また、高固着性については、例えば、特許文献8に記載のように、エポキシ樹脂をフェノ−ル類ジメチロ−ル化物とナフト−ル類との縮合物のエポキシ化物とビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂を50〜95:50〜5(重量比)の割合で含むエポキシ樹脂混合物や、そのエポキシ樹脂混合物と硬化剤と硬化促進剤を含むエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を用いる方法や特許文献9に記載のようにエポキシ樹脂、ニトリルゴムの混合物、硬化剤、イミダゾール化合物、硼弗化物及びオクチル酸塩より選択された1種又は2種以上の硬化促進剤からなる熱硬化性固着剤を用いる方法、特許文献10に記載のように、エポキシ樹脂、酸無水物、アンモニウム塩を含有するエポキシ樹脂組成物を使用する方法等が種々報告されている。
【0004】
【特許文献1】特開平07−216040号公報
【特許文献2】特開平09−151225号公報
【特許文献3】特開平10−087770号公報
【特許文献4】特開2002−114829号公報
【特許文献5】特開平10−036461号公報
【特許文献6】特開2003−268054号公報
【特許文献7】特開2003−089709号公報
【特許文献8】特開平05−140261公報
【特許文献9】特開平11−131042公報
【特許文献10】特開2005−139289公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる問題に鑑み、作業環境が良好となる電気機器用の含浸ワニスの提供を目的に、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供するもので、皮膜を柔軟化でき、かつ従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の良好な固着性や電気絶縁性などの硬化物特性及び良好な安定性を示すことができる電気絶縁用樹脂組成物を提供する。さらに、本発明は、この電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、[1]α,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)と、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(D)、および2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(E)を必須材料としてなる樹脂組成物であり、(A)100質量部に対して、(B)を50〜400質量部、(A)及び(B)の総計100質量部に対して、(C)を0.1〜20質量部、(D)を1〜100質量部、(E)を0.01〜20質量部含有する電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[2]不飽和ポリエステル(A)の分子量が、1000〜10000の範囲である上記[1]記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、[3]上記[1]又は[2]に記載の電気絶縁用樹脂組成物に、さらに、重合開始剤を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[4]電気機器を上記[1]ないし[3]のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、ワニス硬化物の柔軟性にすぐれるため、応力が加わっても、クラック等が起こりにくい皮膜を提供できる。また、樹脂組成物の粘度、表面乾燥性は従来品と同等であるため、含浸作業方法に幅広く対応可能である。さらに、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の電気絶縁性、固着性等の硬化物特性及び低誘電率化・高熱伝導性が可能で、良好な安定性を示すため、信頼性の高い電気機器を提供することができる。また、臭気を低く抑えることができ作業環境が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる(A)α,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステルは、α,β−不飽和二塩基酸を必須成分とする酸成分及びアルコール成分、さらに必要に応じて変性成分を反応させて得られる。
α,β−不飽和二塩基酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などが用いられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
酸成分とは、上記記載のα,β−不飽和二塩基酸の他飽和酸又はこの飽和酸低級アルキルのジエステル等を併用することも出来る。
飽和酸としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の飽和二塩基酸などが挙げられる。
飽和酸低級アルキルのジエステルとしては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。これらは単独で用いても併用してもよい。
さらに、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、トール油脂肪酸等の食用油脂肪酸などを併用することもできる。不飽和酸の量は、全酸成分中50〜90当量%の範囲で選択されることが好ましい。
【0009】
アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が用いられ、これらは単独で用いても併用してもよい。必要に応じて用いられる変性成分としては、例えば、アマニ油、大豆油、トール油、脱水ヒマシ油、ヤシ油、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン等が挙げられる。
【0010】
本発明で用いる不飽和ポリエステル(A)の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、1000〜10000とされる。好ましくは、1500〜5000である。1000未満では、樹脂組成物の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10000を超えると粘度が高すぎ含浸作業性が悪化する。
【0011】
本発明に使用される不飽和ポリエステル(A)の製造方法としては、従来から公知の方法によることができる。例えば、必須成分であるα,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコ-ルのみ、または多塩基酸成分、多価アルコール成分を併用し、縮合反応させ、両成分が反応するときに生じる縮合水を系外に除きながら進められる。全酸成分1当量に対して全アルコール成分は1〜2当量の範囲で使用することが好ましい。
縮合水を系外に除去することは、好ましくは不活性気体を通じることによる自然留出又は減圧留出によって行われる。縮合水の留出を促進するため、トルエン、キシレンなどの溶剤を共沸成分として系中に添加することもできる。反応の進行は、一般に反応により生成する留出分量の測定、末端の官能基の定量、反応系の粘度の測定などにより知ることができる。
合成反応を行うための反応温度は150〜250℃とすることが好ましい。このことから、反応装置としては、ガラス、ステンレス製等のものが選ばれ、撹拌装置、水とアルコール成分の共沸によるアルコール成分の留出を防ぐための分留装置、反応系の温度を高める加熱装置、この加熱装置の温度制御装置等を備えた反応装置を用いるのが好ましい。
合成における重縮合反応を行うために調整する反応装置内圧力は、常圧でも全く問題なく反応を進めることができるが、加圧し、多価アルコ−ルの沸点をあげることにより、反応を促進することができる。この場合、常圧〜0.1MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0012】
本発明で使用する20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)としては、低臭気性の樹脂組成物を得るとする目的から、蒸気圧が0.1mmHg(20℃)以下であるもので、さらに不飽和ポリエステル樹脂(A)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(D)を溶解するものが選択される。この要件を満足する反応性希釈剤(B)は、重合性単官能(メタ)アクリレートとして、例えばジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、プラクセルFA1,FA2D,FA3,FM1D,FM2D,FM3(ダイセル化学工業株式会社製品名)などの(ポリ)カプロラクトンモノエトキシ(メタ)アクリレートなどの水酸基を持つ(メタ)アクリレートを使用することができる。また分子中に1個の水酸基を有する単官能(メタ)アクリレートと飽和二塩基酸との反応物である不飽和一塩基酸も使用することが可能である。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタアクリレート及びそれらの混合物を意味する。
【0013】
不飽和ポリエステル(A)と不飽和基を有する反応性希釈剤(B)の使用量は、不飽和ポリエステル(A)を100質量部に対して、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)が50〜400質量部の範囲とするのが好ましい。50質量部未満の場合、得られる樹脂組成物の粘度が高すぎてしまい、トランス表面に厚く付着するばかりでなく、内部浸透性も悪くなる。また、400質量部を超えて配合すると、樹脂組成物の外観が濁るうえ、ワニス粘度が低すぎて、内部に浸透した樹脂付着物が加熱硬化時に流れ出してしまう不具合が発生する。このため、100質量部以下とすることが好ましい。
【0014】
本発明で用いられる(C)成分のアルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂は、トルエン・キシレン等のアルキルベンゼンとホルムアルデヒドをアルカリ触媒、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、トリエルアミンなどの存在下で反応させて得られるレゾールタイプの樹脂である。キシレン・ホルムアルデヒド樹脂の市販品としては、ゼネラル石油化学工業株式会社のゼネライト30、ゼネライト50、ゼネライト100、三菱瓦斯化学工業株式会社製のニカノールL、ニカノールLL、ニカノールLLLなどがある。
本発明で用いられる(C)成分のアルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂の使用量は、(A)成分の不飽和ポリエステルと(B)成分の20℃の蒸気圧が1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤の総量100質量部に対し、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)0.1〜20質量部であり、1〜15質量部であるのが好ましいく、さらに好ましくは5〜10質量部である。アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂が20質量部を超えて配合してしまうと、表面乾燥時間および樹脂組成物の硬化時間が延長し、硬化しづらくなる。また、配合量を0.1質量部未満にすると、樹脂組成物の硬化皮膜が柔軟にならない不具合が発生する。
【0015】
本発明で用いられる(D)成分は、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物である。
分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−トとして、1,4−ブタンジオールモノメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノメタクリレート、1,9−ノナンジオールモノメタクリレート、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。また、炭素数12〜15の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマーの混合物(例えば、共栄社化学株式会社製のライトエステルL−7、ライトエステルL−8、日本油脂株式会社製のブレンマーSLMA、ブレンマーCMAなど)も使用できる。これらの中からモノマーの臭気を考慮して選定して使用することが好ましい。好ましくは、(メタ)アクリル酸ラウリル、炭素数12〜15の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマーの混合物などの長鎖アルキルアルコールモノメタクリレート類が使用でき、これらは単独または2種以上併用で使用することもできる。
また、分子中に1個の水酸基とアリル基を有する化合物としては、例えば、1,5−ペンタンジオールモノアリルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、などの多価アルコールのアリルエーテル化合物が例示される。これらは単独または2種以上併用で使用することもできる。
【0016】
上記の分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(D)の使用量は、(A)成分の不飽和ポリエステルと(B)成分の20℃の蒸気圧が1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤の総量100質量部に対し1〜100質量部の範囲とするのが好ましい。1質量部未満の場合、得られる樹脂組成物の粘度が高すぎてしまい、得られる樹脂組成物外観が濁る上、含浸する電気機器表面に厚く付着するばかりでなく、内部浸透性も悪くなる。
また、(D)成分を100質量部を超えて入れてしまうと、樹脂組成物の外観が濁るうえ、ワニス粘度が低すぎて、内部に浸透した樹脂付着物が加熱硬化時に流れ出してしまう不具合が発生する。
【0017】
本発明で用いられる、(E)成分の2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤は、メチルオキシ基を官能基に有するシランカップリング剤であれば特に制限されないが、例えば、
R−SiX ‥‥(1)
又は
R−Si(CH)X ‥‥(2)
(ここで、Rは、有機官能基であり、Xは、メトキシ基である)で示されるシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが使用可能である。また、これらは単独または2種以上併用で使用することもできる。
【0018】
本発明に用いられる(E)成分の2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤の使用量は、(A)成分の不飽和ポリエステルと(B)成分の20℃の蒸気圧が1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤の総量100質量部に対し、2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(E)0.01〜20質量部であり、0.1〜10質量部であるのが好ましいく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤を、20質量部を超えて配合しても、揮発量は少なくなるが、固着性が逆に低下し、かつ、表面乾燥時間および樹脂組成物の硬化時間が延長し、硬化しづらくなる。また、配合量を0.1質量部未満にすると、得られる樹脂組成物の固着力が低下する不具合が発生する。
【0019】
本発明では必要に応じて重合禁止剤を使用することができる。使用する重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、得られる電気絶縁用樹脂組成物の硬化性により便宜決定されるが、その配合量は、電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対して0.01〜5.0質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量部である。
【0020】
本発明では、硬化剤とし有機過酸化物を用いることができ、有機過酸化物としてケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類などが挙げられる。硬化剤の量は、硬化条件や樹脂硬化物の外観、特性等の面に影響があるため、それぞれに応じて決定される。材料の保存性、成形サイクルの面から前記電気絶縁用樹脂組成物の総量に対して0.5〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
【0021】
また、本発明では必要に応じて安定剤を用いることができる。安定剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、樹脂組成物の貯蔵安定性、実機処理時の硬化温度及び硬化時間により便宜に決定されるが、その配合量は、通常、電気絶縁用樹脂組成物の総量100質量部に対して0.5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1質量部である。
【0022】
また、本発明の電気絶縁用樹脂組成物には、必要に応じて硬化物表面の空気遮断効果を持つ公知の市販の各種添加剤などを添加することが好ましい。これらの添加剤を配合することにより、表面硬化(表面乾燥)時間を短縮することができる。表面硬化性を短縮させるための添加剤としてその一例を挙げれば、各種融点のパラフィンワックス類、BYK−S740やBYK−S750(ビックケミー社製)などの低揮散剤などが挙げられる。
ワックス類の配合量としては、電気絶縁用樹脂組成物100質量部に対して、0.05〜1質量部、好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0023】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物を用いた絶縁処理は、公知の方法で処理されるが、本発明の電気絶縁用樹脂組成物中に電気機器を2〜20分間浸漬した後、引き上げ、100〜160℃で1〜5時間加熱して樹脂組成物を硬化させる方法で行われることが望ましい。
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、臭気が少なく、良作業性を有するだけではなく、得られるワニス皮膜が柔軟性を有するため、トランスやモ−タ等の代表される電気機器含浸処理用に好適である。とくに、高電圧で使用するフェライトを使用した高周波トランス・スイッチングトランスなどの電気機器の絶縁処理に最適である。
【実施例】
【0024】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、例中の「部」は特に断らない限り「質量部」を意味する。
(1) 不飽和ポリエステル(A−1)の合成
温度計、チッ素吹き込み管、冷却管及び撹拌装置を備えた3リットルのフラスコに、ジプロピレングリコール1474部(11モル)、イソフタル酸498部(3モル)、無水マレイン酸392部(4モル)、テトラヒドロ無水フタル酸456部(3モル)及びハイドロキノン0.22部をいれ、210℃で10時間加熱縮合し、酸価21.5mgKOH/gの不飽和ポリエステル(A−1)を合成した。
【0025】
(実施例1)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を4.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−1を得た。
【0026】
(実施例2)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、トリメチロ−ルプロパンジアリルエ−テル(ダイソー株式会社製、商品名ネオアリルT−20)60部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を4.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−2を得た。
【0027】
(比較例1)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを40部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アク株式会社ゾ製、製品名トリゴノックス22E−70)を3.3部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−3を得た。
【0028】
(比較例2)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを450部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を9.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−4を得た。
【0029】
(比較例3)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を4.2部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−5を得た。
【0030】
(比較例4)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を3.6部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−6を得た。
【0031】
(比較例5)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)120部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を6.6部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−7を得た。
【0032】
(比較例6)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートのかわりにスチレンモノマを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)120部、(E)成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM−503)1.5部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を4.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−8を得た。
【0033】
(比較例7)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部および1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を4.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−9を得た。
【0034】
(比較例8)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、トリメチロ−ルプロパンジアリルエ−テル(ダイソー株式会社製、商品名ネオアリルT-20)60部及び1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を4.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−10を得た。
【0035】
(比較例9)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2-ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部、(E)成分として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM-503)65部および1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を5.5部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a-11を得た。
【0036】
(比較例10)
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、(B)成分として2-ヒドロキシエチルメタクリレートを120部、(C)成分として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名ニカノ−ルLL)20部、(D)成分として、(メタ)アクリル酸ラウリル(共栄社化学株式会社製ライトエステルL)60部、(E)成分として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン株式会社製、KBM-503)90部および1,1-ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ株式会社製、製品名トリゴノックス22E−70)を5.9部配合し、電気絶縁用樹脂組成物a−12を得た。
【0037】
実施例1、2および比較例1〜10の電気絶縁用樹脂組成物について、ワニス外観、粘度、比重、ゲル化時間、臭気、揮発量、表面乾燥性、硬化物の硬さ、固着力を測定した。これらの試験方法を下記により実施した。
【0038】
(1)粘度測定:JIS C 2105に準拠して、ブルックフィ−ルド型粘度計法で測定した。
(2)比重測定:JIS C 2105に準拠して,浮秤法で測定した。
(3)ゲル化時間測定:JIS C 2105に準拠して、試験管法にてゲル化時間を測定した。
(4)臭気試験:直径70mm、高さ140mmのポリビ−カに実施例および比較例の樹脂組成物をそれぞれ100gずつ入れ、ふたをして、25℃の恒温槽内で1時間放置後の臭気を官能試験で評価した。臭気の官能試験は、表1に示す評価基準を用いて4段階評価で実施した。
【0039】
【表1】

(5)揮発量の測定:直径60mmの金属シャーレに実施例および比較例の樹脂組成物をそれぞれ10gずつ入れ、120℃の恒温槽中に2時間静置し、質量変化により揮発量を測定した。
(6)表面乾燥性:JIS C 2105に準拠し、50mm×180mmのブリキ板に塗布し、120℃の恒温槽中に静置し、表面のベタツキがなくなる時間を測定した。
(7)硬化物の硬さ:直径60mmの金属シャーレに樹脂組成物を20g入れ、130℃で1.5時間加熱して硬化物を作製する。この硬化物を23℃に保ち、ショアD硬度計を用いて測定した。
(8)固着力:JIS C 2105に準拠し、日立マグネットワイヤ株式会社製、直径2mmのPEW電線を使用し、ストラッカ試験片を作製した。これに、樹脂組成物を含浸させ、130℃、1.5時間硬化させ試験片を作製した。この試験片を用い、支点間距離を80mmにし、株式会社島津製作所製オ−トグラフを用いて5mm/minの速さで、試験片の中央部に荷重を加えた。試験片が破壊する荷重をもって固着力とした。
得られた結果を纏めて表2、表3に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
比較例1は、(B)成分の反応性希釈剤の配合量50〜400質量部の範囲に対し、40質量部と少ないものであり、ワニス粘度が高く、濁りを生じた、配合量が450質量部と多い比較例2は、ワニス粘度が低く、ゲル化時間が長く表面乾燥性、固着力に劣る。
(C)成分を配合しない比較例3は、ワニスが濁り、硬化物が硬く柔軟性に劣る。
(D)成分を配合しない比較例4は、ワニスが濁り、粘度が高目となり、配合量が1〜100質量部の範囲より高い120質量部を用いた比較例5は、ゲル化時間が長く乾燥時間が長くなる。
(B)成分をスチレンモノマーに代えた比較例6は、ワニス粘度は低く、ゲル化時間は速くなるが、臭気が強い。
(E)成分を配合しない比較例7、8では、固着力に劣り、配合量が0.01〜20質量部の範囲より高い65質量部の比較例9、90質量部の比較例10では、表面乾燥性に劣るようになる。
これらに対し、本願発明の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)成分を有し、それらの配合量が範囲内である電気絶縁用樹脂組成物は、ワニス硬化物の柔軟性にすぐれるため、応力が加わっても、クラック等が起こりにくい皮膜を提供できる。また、樹脂組成物の粘度、表面乾燥性は従来品と同等であるため、含浸作業方法に幅広く対応可能である。さらに、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の電気絶縁性、固着性等の硬化物特性及び低誘電率化・高熱伝導性が可能で、良好な安定性を示すため、信頼性の高い電気機器を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和二塩基酸と1個以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)と、20℃の蒸気圧が0.1mmHg以下である不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族の単官能(メタ)アクリレ−ト及び/または分子中に1個の水酸基を有する主鎖が脂肪族で分子末端にアリル基を有する化合物(D)、および2または3個のメチルオキシ基を含有するシランカップリング剤(E)を必須材料としてなる樹脂組成物であり、(A)100質量部に対して、(B)を50〜400質量部、(A)及び(B)の総計100質量部に対して、(C)を0.1〜20質量部、(D)を1〜100質量部、(E)を0.01〜20質量部含有する電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
不飽和ポリエステル(A)の分子量が1000〜10000の範囲である請求項1記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気絶縁用樹脂組成物に、さらに、重合開始剤を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
電気機器を請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法。

【公開番号】特開2010−116461(P2010−116461A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289784(P2008−289784)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】