説明

電気絶縁用樹脂組成物

【課題】臭気の発生原因となるスチレンを含まず、スチレンを用いた場合と同等以上の耐湿性および耐クラック性を有し、信頼性に優れた硬化物を得ることのできる電気絶縁用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルと、(B)1官能または2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の反応性単量体、および(C)3官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体であって水酸基を有しないものから選ばれる少なくとも1種の反応性単量体をそれぞれ必須成分とする。そして、樹脂分全体に対して、(A)不飽和ポリエステルを25〜70重量%、(B)成分と(C)成分の合計を30〜75重量%、かつ(C)成分の反応性単量体を5〜10重量%の割合で含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気絶縁用樹脂組成物に係り、特に低粘度であり、従来の電気絶縁用樹脂組成物と比較して硬化物の耐クラック性、耐候性および耐湿性に優れ、自動車部品、一般家電品、産業用の電気機器類などの絶縁処理に好適する電気絶縁用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車部品、一般家電品、産業用電気機器におけるコイルの絶縁処理に用いられる電気絶縁用樹脂組成物は、不飽和ポリエステルを主成分とし、反応性単量体(モノマー)としてスチレンが用いられている。
【0003】
しかしながら、スチレンが使用された樹脂組成物では、臭気が問題になることが多かった。例えば、電気絶縁用樹脂組成物を製造する工場の近くに住宅などがある場合には、環境への配慮から臭気を抑制することが求められていた。また、この電気絶縁用樹脂組成物を用いた成形品においては、残留したスチレンによるスチレン臭が問題となることがあった。さらに、スチレンは化学物質管理促進法(PRTR法)の第一種指定化学物質にも指定されており、スチレンの使用は制限される傾向にある。
【0004】
このようなことから、残留スチレンを少なくすることで、スチレン臭の発生を抑制することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、反応性単量体として、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルまたはそれらの誘導体などのアリル酸エステルを使用することも検討されている。そして、特に費用の点から、これらの中でも2−HEMA(メタクリル酸2ヒドロキシエチル)が好適なものと考えられている。
【特許文献1】特開2001−294633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、電気絶縁用樹脂組成物においては、臭気などの問題からスチレンの使用が制限される傾向にあり、スチレンに代わり、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどのアリル酸エステルの使用が検討されている。
【0006】
しかしながら、前記した2−HEMA(メタクリル酸2ヒドロキシエチル)は、脂肪族化合物であることから、芳香族のスチレンと比較して不飽和ポリエステルとの共重合反応が起こりにくいという欠点があった。
【0007】
また、フリーの水酸基(−OH)を有しているので、硬化物が水を吸収しやすく、さらに吸湿により硬化物が加水分解しやすいという問題があった。
【0008】
特に、屋外で使用される蛍光灯の安定器などの絶縁処理に用いられる場合には、風雨や直射日光に曝されることにより、硬化物にクラックが発生したり、あるいは吸湿による層間ショートが発生することが多かった。そのため、反応性単量体としてスチレンを使用しない低臭気の電気絶縁用樹脂組成物においては、蛍光灯安定器などの電気機器類の信頼性を確保するため、スチレンを使用したものと同等以上の耐湿性が求められていた。
【0009】
本発明は上述したような課題を解決するためになされたもので、スチレンを含まず、従来と同等以上の耐湿性および耐クラック性を有し、信頼性に優れた硬化物を得ることのできる電気絶縁用樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルと、(B)1官能または2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の反応性単量体、および(C)3官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体であって水酸基を有しないものから選ばれる少なくとも1種の反応性単量体をそれぞれ必須成分とし、樹脂分全体に対して、前記(A)不飽和ポリエステルを25〜70重量%、前記(B)成分と(C)成分の合計を30〜75重量%の割合で含有し、かつ前記(C)成分の反応性単量体を5〜10重量%の割合で含有してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の(A)不飽和ポリエステルにおいて、酸成分全体に対する飽和酸の割合は5〜30重量%であることができる。また(C)成分の反応性単量体は、トリメチロールプロパントリメタクリレートを含むことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物によれば、(A)成分である不飽和ポリエステルに対して、架橋剤である反応性単量体として、(B)1官能または2官能のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル等と、(C)OH基を持たない3官能のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル等が組合せて使用されているので、反応率が高く架橋密度が向上し、耐クラック性および耐湿性に優れた信頼性の高い硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステルと、(B)1官能または2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の反応性単量体、および(C)3官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体であって水酸基を有しないものから選ばれる少なくとも1種の反応性単量体をそれぞれ必須成分とするものである。そして、樹脂分全体に対して、(A)不飽和ポリエステルを25〜70重量%、(B)成分と(C)成分の合計を30〜75重量%の割合で含有し、かつ(C)成分の反応性単量体を5〜10重量%の割合で含有することを特徴としている。
【0015】
本発明に用いられる(A)不飽和ポリエステルは、酸成分(多塩基酸)とアルコール成分(多価アルコール)とを反応させて得られる。
【0016】
酸成分としては、不飽和結合を有する不飽和酸と変性成分である飽和酸とがそれぞれ使用される。不飽和酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また飽和酸としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
アルコール成分としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ポリエーテルポリアルコールなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0018】
また、本発明の(A)不飽和ポリエステルにおいては、上記した以外の変性成分として、アマニ油、大豆油、トール油、米ぬか油、ジシクロペンタジエンなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
さらに本発明において、このような(A)成分の不飽和ポリエステルは熱硬化性ポリエステル樹脂により変性することができる。
【0020】
(A)成分である不飽和ポリエステルの配合割合は、樹脂分全体の25〜70重量%とすることが望ましい。(A)不飽和ポリエステルの配合割合が25重量%未満では、硬化物の十分な可とう性が得られず、また70重量%を超えると十分な電気的、機械的特性が得られず好ましくない。
【0021】
本発明の(B)成分の反応性単量体は、1官能または2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体から選ばれるものである。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0022】
このような(B)反応性単量体のうちで1官能のものとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸アリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0023】
2官能の反応性単量体としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,3ブタンジオールジアクリレート、1,4ブタンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロポキシカネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3ブチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0024】
(C)成分の反応性単量体は、3官能のアクリル酸エステルおよびその誘導体ならびに3官能のメタクリル酸エステルおよびその誘導体から選ばれるものであって、水酸基を有しないものである。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0025】
このような3官能の反応性単量体としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。硬化物の耐湿性、接着性などの観点から、特にトリメチロールプロパントリメタクリレートを用いることが好ましい。
【0026】
これらの反応性単量体の配合割合は、(B)成分と(C)成分の合計で樹脂分全体の30〜75重量%とすることが望ましい。(B)成分+(C)成分の配合割合が30重量%未満では、粘度が高く作業性が低下し、また75重量%を超えると十分な可とう性を有する硬化物が得られず、好ましくない。
【0027】
また、(C)成分である3官能の反応性単量体の配合割合は、樹脂分全体の5〜10重量%とすることが望ましい。(C)成分の配合割合が5重量%未満では、
また10重量%を超える
好ましくない。
【0028】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、前記した(A)不飽和ポリエステル、(B)1官能または2官能の反応性単量体および(C)3官能の反応性単量体を必須成分とするが、本発明の目的に反しない範囲において、かつ必要に応じて他の成分、例えば硬化剤(重合開始剤)、硬化促進剤、重合禁止剤、着色剤、消泡剤、レべリング剤などを添加配合することができる。
【0029】
硬化剤としては、例えば有機過酸化物が挙げられる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、アシルパーオキサイド、クメンパーオキサイドなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
硬化促進剤としては、例えばナフテン酸またはオクチル酸の金属塩(コバルト、亜鉛、ジルコニウム、マンガン等の金属塩)が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。硬化促進剤の配合割合は、樹脂分全体に対して、0.1〜2.0重量%とすることが好ましい。配合割合が0.1重量%未満では、反応性が低く十分な硬化物特性が得られず、また2.0重量%を超えるとポットライフが短くなるおそれがある。
【0031】
重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、パラターシャリブチルカテコール、ピロガロールなどのキノン類が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、前記した(A)不飽和ポリエステル、(B)1官能または2官能の反応性単量体および(C)3官能の反応性単量体をそれぞれ所定量配合し、必要に応じてその他の成分である硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤、着色剤、消泡剤、レベリング剤などを所定の割合で配合し、均一に混合することにより調製することができる。
【0033】
このようにして調製された本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、例えば蛍光灯の安定器などの電気機器の絶縁処理に好適に用いることができ、耐クラック性および耐湿性に優れ信頼性の高い電気機器を得ることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によって説明する。以下の実施例および比較例において、「部」とは「重量部」を意味する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】
まず、実施例および比較例の電気絶縁用樹脂組成物の調製に用いられる不飽和ポリエステル(A−1、A−2の2種)を調製した。
【0036】
[不飽和ポリエステルの調製]
(A−1)
無水フタル酸7部、大豆油54部、ペンタエリスリトール14部、無水マレイン酸14部、プロピレングリコール11部に、ハイドロキノン0.02重量部を加えて180〜210℃で反応させ、酸価15の樹脂を得た。この樹脂にハイドロキノン0.01部を配合し、不飽和ポリエステルを得た。
【0037】
(A−2)
無水テトラヒドロフタル酸14部、無水マレイン酸22部、大豆油脂肪酸24部、エチレングリコール22部、ジエチレングリコール14部、グリセリン4部に、ハイドロキノン0.02重量部を加えて180〜210℃で反応させ、酸価25の樹脂を得た。この樹脂にハイドロキノン0.01部を配合し、不飽和ポリエステルを得た。
【0038】
実施例1〜3
不飽和ポリエステルとして上記(A−1)または(A−2)の不飽和ポリエステルを、(B)1官能または2官能の反応性単量体としてポリエチレングリコールジメタクリレートを、(B)3官能の反応性単量体としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、硬化促進剤としてナフテン酸コバルト(6重量%)を、硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドを、それぞれ表1に示す組成で配合し、均一に混合して電気絶縁用樹脂組成物を得た。なお、表1中、各成分の配合量は重量部で示した。
【0039】
また、比較例として、前記不飽和ポリエステルに、反応性単量体として2−HEMA(メタクリル酸2ヒドロキシエチル)、硬化促進剤としてナフテン酸コバルト(6重量%)、硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドをそれぞれ表1に示す組成で配合し、均一に混合して電気絶縁用樹脂組成物を得た。
【0040】
次に、実施例1〜3および比較例で得られた電気絶縁用樹脂組成物について、硬化物の吸湿処理前と吸湿処理後の接着力(MPa)を、プレスボード法(SPCC鋼板)により測定した。なお、吸湿処理は、90℃×95%RH、1000時間の条件で行った。
【0041】
また、以下に示すようにして、クラック試験を行った。すなわち、直径60mmのブリキ製シャーレの中央に直径10mmのスプリングワッシャーを配置し、その上から実施例1〜3および比較例で得られた樹脂組成物を供給し、25℃の温度で7日間放置して硬化させた。次いで、こうして得られた試験片に、以下に示す条件1〜7の温度サイクルをそれぞれ加えた後、クラックの発生を調べた、
【0042】
条件1… 0℃×30分⇔100℃×30分,3サイクル
条件2… 5℃×30分⇔100℃×30分,3サイクル
条件3… 5℃×30分⇔110℃×30分,3サイクル
条件4…10℃×30分⇔110℃×30分,3サイクル
条件5…15℃×30分⇔110℃×30分,3サイクル
条件6…20℃×30分⇔110℃×30分,3サイクル
条件7…25℃×30分⇔110℃×30分,3サイクル
【0043】
これらの測定結果を表1に示す。なお、耐クラック性の項目では、5個の試験片を分母とし、そのうちで樹脂硬化物にクラックが発生したものの数を分子として表した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、反応性単量体として2−HEMAを用いた比較例の電気絶縁用樹脂組成物は、吸湿処理後に接着力が大幅に低下するばかりでなく、耐クラック性も十分でないことがわかった。これに対して、実施例1〜3の電気絶縁用樹脂組成物は、吸湿処理後も接着力の低下はあまり見られず、耐湿性に優れていることが認められた。また、実施例1〜3の電気絶縁用樹脂組成物は、比較例のものに比べて硬化物の耐クラック性が良好であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上の説明から明らかなように、本発明の電気絶縁用樹脂組成物によれば、従来のものと比べて耐クラック性および耐湿性が向上し、信頼性の高い硬化物を得ることができる。したがって、蛍光灯安定器のような一般家電品や産業用電気機器の絶縁処理に好適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和ポリエステルと、
(B)1官能または2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の反応性単量体、および
(C)3官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルならびにそれらの誘導体であって水酸基を有しないものから選ばれる少なくとも1種の反応性単量体をそれぞれ必須成分とし、
樹脂分全体に対して、前記(A)不飽和ポリエステルを25〜70重量%、前記(B)成分と(C)成分の合計を30〜75重量%の割合で含有し、かつ前記(C)成分の反応性単量体を5〜10重量%の割合で含有してなることを特徴とする電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の反応性単量体は、トリメチロールプロパントリメタクリレートを含むことを特徴とする請求項1記載の電気絶縁用樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−49071(P2006−49071A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227858(P2004−227858)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】