説明

電気透析方法及び電気透析装置

【課題】複数種類の酸を、酸糖化液から分別回収するための電気透析方法、及びそのような電気透析方法の実施に使用される電気透析装置を提供すること。
【解決手段】本発明では、電気透析装置を用いてセルロース系バイオマスの酸糖化液から複数種類の酸を分別して回収する。電気透析装置には、脱塩室と濃縮室とが設けられており、濃縮室は、陰イオン交換膜によって陰極側の第一濃縮室と陽極側の第二濃縮室とに分割されている。脱塩室には、脱塩糖化液回収経路が接続されており、第一濃縮室には、脱塩室内の糖化液に含有される酸のうち、陰イオン交換膜に対する透過速度の低い酸を回収する第一酸回収経路が接続されており、第二濃縮室には、陰イオン交換膜に対する透過速度の高い酸を回収する第二酸回収経路が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸を用いてセルロース系バイオマスを糖化処理した生成物である酸糖化処理液のような酸含有液から、複数種の酸を電気透析法によって分別回収する方法、及びそのような分別回収のための電気透析方法に使用する電気透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスエネルギー利用の一環として、植物の主成分であるセルロース又はヘミセルロースを分解し、エタノール(バイオエタノール)を得ようとする試みがある。得られたエタノールは、燃料用として主として自動車燃料に一部混入させたり、ガソリンの代替燃料として利用されたりすることが計画されている。
【0003】
植物の主な成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン又はデンプンであるが、エタノールはセルロースを分解して得られるグルコース、ヘミセルロースを分解して得られるキシロース、及びそれらの複合体であるオリゴ糖等の糖類を原料として、酵母菌のような微生物の醗酵作用によって生成される。
【0004】
セルロース又はヘミセルロースのようなセルロース系バイオマスを糖類に分解するには、リン酸又は硫酸のような酸の酸化力により加水分解する方法(酸加水分解法)が一般的に利用されている。この酸加水分解法では、添加した酸が酵母菌の醗酵に対して阻害物質となることから、セルロース又はヘミセルロースを糖類に分解した後、糖化液に含有される糖類をエタノール発酵させる前に、酸を除去又は中和する必要がある。
【0005】
特許文献1は、消石灰を酸糖化液に添加して硫酸を中和し、生成した石膏を固液分離することによって、糖化液中の硫酸を除去する技術を開示している。ここで、糖化液から添加した強酸を回収できれば、中和のための塩基も不要となり、コストを削減することが可能となるが、特許文献1に開示されている方法では、石膏から硫酸を再生することは困難である。
【0006】
一方、特許文献2は、酸糖化液をイオン交換樹脂に流し、硫酸を分離及び回収する技術を開示している。また、特許文献3は、セルロース系バイオマスを酸糖化処理することによって酸・糖混合液を製造する酸糖化工程と、該酸糖化工程から得られる酸・糖混合液を、陰イオン交換膜を用いる拡散透析法により50℃以下の温度で透析処理を行って酸と糖液を分離する透析処理工程とを有することを特徴とする、セルロース系バイオマスから糖液を製造する方法を開示している。特許文献3に開示されている方法は、イオン交換膜を用いて酸の回収及び再利用を可能とし、プロセス全体のエネルギーコスト及び環境負荷を低減することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−75007号公報
【特許文献2】特開2005−40106号公報
【特許文献3】特開2009−22180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
糖化液中には、セルロース又はヘミセルロースの糖化反応の副生成物である有機酸(弱酸)も含有されている。糖化工程で添加する無機酸は、高濃度、かつ、高価であるため、無機酸を糖化液から回収し、リサイクルすることが好ましい。しかし、糖化液中には、無機酸及び有機酸が共存しているため、有機酸が混合した無機酸を糖化工程で再利用すると、糖化工程の有機酸濃度が増加し、糖化工程に悪影響を及ぼす他、酸回収コストが上昇する要因にもなり、さらには、回収しきれなくなった有機酸が、後段の醗酵工程において醗酵を阻害するという問題点があった。
【0009】
一方、特許文献2及び3に開示されている方法では、糖化液中に含有されている複数種類の酸を分別して回収することはできない。
【0010】
本発明は、セルロース系バイオマスを無機酸によって糖化処理した生成物である酸糖化液から、糖及び複数種類の酸を分別回収するための電気透析方法、及びそのような電気透析方法の実施に使用される電気透析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、酸糖化液のような酸含有液から複数種の酸を分別回収する方法について、鋭意検討した。その結果、脱塩室と濃縮室とが設けられている電気透析装置において、陰イオン交換膜によって濃縮室を分割し、脱塩室と分割された濃縮室とにそれぞれ独立した回収経路(循環経路)を設けて糖化液を脱塩すれば、陰イオン交換膜に対する透過速度が互いに異なる複数種類の酸を分離して収集及び回収可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
具体的に、本発明は、
電気透析により酸含有液から、複数種類の酸を分別して回収する方法であって、
前記複数種類の酸は、陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる第一の酸及び第二の酸を含み、
前記第一の酸の陰イオン交換膜に対する透過速度が、前記第二の酸の陰イオン交換膜に対する透過速度より低いことを利用して、前記酸含有液に含有される前記第二の酸を第一の陰イオン交換膜の陰極側から陽極側へ透過させる第一透過工程と、
前記第二の酸を、前記第一の陰イオン交換膜の陽極側に位置する第二の陰イオン交換膜の陰極側から陽極側に透過させるとともに、前記酸糖化液に含有される前記第一の酸を前記第一の陰イオン交換膜の陰極側から陽極側へ透過させる第二透過工程と、
を有することを特徴とする方法に関する。
【0013】
前記第一の酸が有機酸であり、前記第二の酸が無機酸であることが好ましい。
【0014】
前記酸含有液は、セルロース系バイオマスの酸糖化液であることが好ましい。
【0015】
本発明の方法は、前記第一の酸、前記第二の酸及び前記第一の酸と前記第二の酸が除去された酸糖化液を回収する回収工程を有することが好ましい。
【0016】
回収された前記第二の酸は、セルロース系バイオマスの酸糖化工程に再利用されることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、
セルロース系バイオマスの酸糖化処理液に含有される糖及び陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる複数種類の酸を分別して回収するための電気透析装置であって、
前記電気透析装置は、
脱塩室と濃縮室とを備え、
前記脱塩室には、脱塩糖化液回収経路が接続されており、
前記濃縮室は、陰イオン交換膜を互いの間に有する陰極側の第一濃縮室と陽極側の第二濃縮室とを備え、
前記第一濃縮室には、前記第二の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の低い前記第一の酸を回収する第一酸回収経路が接続されており、
前記第二濃縮室には、前記第一の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の高い前記第二の酸を回収する第二酸回収経路が接続されていることを特徴とする、電気透析装置(第一の電気透析装置)に関する。
【0018】
本発明はまた、
セルロース系バイオマスの酸糖化処理液に含有される糖及び陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる複数種類の酸を分別して回収するための電気透析装置であって、
前記複数種類の酸は、陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる第一の酸及び第二の酸を含み、
前記電気透析装置は、
脱塩室と濃縮室とを備え、
前記脱塩室は、陽極側に陰イオン交換膜を有し、かつ、脱塩糖化液回収経路が接続されており、
前記濃縮室は、陽極側に陽イオン交換膜を、陰極側に陰イオン交換膜をそれぞれ有し、かつ、陰イオン交換膜を互いの間に有する陰極側の第一濃縮室と陽極側の第二濃縮室とを備え、
前記第一濃縮室には、前記第二の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の低い前記第一の酸を回収する第一酸回収経路が接続されており、
前記第二濃縮室には、前記第一の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の高い前記第二の酸を回収する第二酸回収経路が接続されており、
前記脱塩室内の前記酸糖化液を脱塩処理すると共に、前記第一酸回収経路及び前記第二酸回収経路から、前記第一の酸及び前記第二の酸をそれぞれ回収することを特徴とする、電気透析装置(第二の電気透析装置)に関する。
【0019】
本発明の電気透析装置においては、濃縮室が陰イオン交換膜によって分割されている。その結果、脱塩室内の糖化液に含有される複数の酸成分(陰イオン)は、それぞれ、陰イオン交換膜に対する透過速度に応じて移動し、分割された濃縮室のいずれかに収集される。脱塩室内の糖化液に含有される強酸である無機酸は、脱塩室から第一濃縮室、さらに第一濃縮室から第二濃縮室へと移動しやすいために、第二濃縮室内に収集される。一方、脱塩室内の糖化液に含有される弱酸である有機酸は、陰イオン交換膜に対する透過速度が無機酸と比較して相対的に低いため、第一濃縮室から第二濃縮室へと移動しにくく、第一濃縮室内に収集される。
【0020】
脱塩室は、内部の水溶液(糖化液)を循環させるための脱塩糖化液回収経路で接続されており、複数の脱塩室が設けられている場合には、糖化液回収経路が互いに接続されていてもよい。第一濃縮室は、内部の水溶液を循環させるための第一酸回収経路で接続されており、複数の第一濃縮室が設けられている場合には、第一酸回収経路が互いに接続されていてもよい。第二濃縮室は、内部の水溶液を循環させるための第二酸回収経路で接続されており、複数の第二濃縮室が設けられている場合には、第二酸回収経路が互いに接続されていてもよい。
【0021】
その結果、糖化液から効率よく酸が取り除かれると共に、第一濃縮室内及び第二濃縮室内の水溶液には、陰イオン交換膜への透過速度が異なる酸が、それぞれ効率よく収集される。陰イオン交換膜への透過速度が異なる酸とは、好ましくは透過速度が相対的に低い有機酸と、透過速度が相対的に高い無機酸とである。
【0022】
セルロース系バイオマスの酸加水分解反応を目的として添加される無機酸としては、硫酸、リン酸などがある。セルロース系バイオマスの酸加水分解の反応副産物として生成され、発酵阻害の原因となる主な有機酸には、酢酸、ギ酸などがある。これらの酸は、いずれも分別回収することが可能であるが、硫酸と酢酸の組み合わせ、あるいはリン酸と酢酸の組み合わせが好ましい。
【0023】
濃縮室は、1の陰イオン交換膜によって第一及び第二濃縮室の2室に分割されていてもよく、2つの陰イオン交換膜によって第一〜第三濃縮室の3室に分割されていてもよく、さらに複数の陰イオン交換膜によって4室以上に分割された構成されていてもよい。濃縮室の分割数は、分別したい酸の数によって任意に選択することができる。
【0024】
第二の電気透析装置は、前記脱塩室の陰極側に陽イオン交換膜を有することが好ましい。
【0025】
第二濃縮室の陽極側と脱塩室の陰極側との間は、陽イオン交換膜によって隔離されていると、脱塩室内の糖化液中に含有されているCa2+及びMg2+のような陽イオンは、脱塩室から第二濃縮室へと移動し、第二濃縮室内で濃縮される。従って、第二濃縮室内では、酸は塩として収集される。
【0026】
第一及び第二の電気透析装置において、脱塩室と濃縮室とは、各々1室であってもよく、交互に複数設けられていてもよい。
【0027】
通常は、1〜200組、好ましくは10〜100組の脱塩室と濃縮室とが設けられる。濃縮室内の第一濃縮室及び第二濃縮室は同数である。脱塩室は、濃縮室と同数であってもよいし、脱塩室を濃縮室より1多い数として、陰極又は陽極に接する両端を脱塩室としてもよい。交互に複数の脱塩室と濃縮室とを設ける構成とすれば、より効率的に脱塩処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、糖化液中に含有されている複数種の酸を分別して回収できるため、加水分解反応を目的として添加した酸と反応副生成物である酸とを分別し、加水分解反応を目的として添加した酸を再利用することができる。従って、酸の再利用によるセルロース系バイオマスの酸加水分解の処理コストを軽減し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電気透析装置の概略構成図を示す。
【図2】実施例における脱塩室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。
【図3】実施例における第一濃縮室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。
【図4】実施例における第二濃縮室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。
【図5】比較例で使用した電気透析装置の概略構成図を示す。
【図6】比較例における脱塩室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。
【図7】比較例における濃縮室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参酌しながら説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0031】
図1は、本発明の電気透析装置の概略構成図を示す。図1では、無機酸がリン酸であり、有機酸が酢酸の場合について説明されている。
【0032】
図1に示される電気透析装置1は、陰極14側から陽極15側へ向かって、脱塩室2aと第一濃縮室3aと第二濃縮室4aとが順に設けられており、第二濃縮室4aの陽極側には、脱塩室2bと第一濃縮室3bと第二濃縮室4bとが順に設けられている。第一濃縮室3aと第二濃縮室4aとは、陰イオン交換膜17aによって隔離されている。第一濃縮室3bと第二濃縮室4bとは、陰イオン交換膜17bによって隔離されている。電気透析装置1は、図示されている以外にも、同数の脱塩室と第一濃縮室と第二濃縮室とが同数設けられていてもよい。
【0033】
陰イオン交換膜17a及び17bは、同一の陰イオン交換膜であってもよく、異なる陰イオン交換膜であってもよい。陰イオン交換膜の例は、アストム社製ネオセプタAMX又はAGCエンジニアリング社製セレミオンAMVであるが、これらに限定されない。
【0034】
脱塩室2bの陰極側と第二濃縮室4aの陽極側は、陽イオン交換膜16bによって隔離されている。脱塩室2aの陰極側と第二濃縮室4bの陽極側には、陽イオン交換膜16a及び16cが設けられている。図1では、脱塩室、第一濃縮室及び第二濃縮室は2個ずつであるが、3個以上ずつである場合についても、左端に位置する(最も陰極に近い)脱塩室の陰極側と、右端に位置する(最も陽極に近い)第二濃縮室の陽極側には、陽イオン交換膜16が設けられる。陽イオン交換膜の例は、アストム社製ネオセプタCMX又はAGCエンジニアリング社製セレミオンCMVであるが、これらに限定されない。
【0035】
脱塩室2a及び2bは、脱塩糖化液回収経路5によって接続されている。第一濃縮室3a及び3bは、第一酸回収経路6によって接続されている。第二濃縮室4a及び4bは、第二酸回収経路7によって接続されている。
【0036】
セルロース系バイオマスは、粉砕された後、リン酸又は硫酸のような強酸を添加してスラリー状態とされる。その後、加熱及び加圧され、セルロース又はヘミセルロースが酸加水分解され、糖化液が得られる。脱塩室には、こうして得られた糖化液が、適宜濃度又は粘度を調整された後に供給される。糖化液は、糖類としてC5糖を主に含有する糖化液であってもよく、糖類としてC6糖を主に含有する糖化液であってもよい。脱塩処理する糖化液は、糖化液タンク(図示せず)→脱塩室(2a,2b)→糖化液回収経路5→脱塩糖化液回収タンク8へと流れる。電気透析装置1によって糖化液を脱塩する間、糖化液は、脱塩室(2a,2b)と糖化液回収経路5とを循環する。
【0037】
第一濃縮室3,3bと第一酸回収経路6には、脱イオン水が供給される。脱イオン水は、第一濃縮室(3a,3b)→第一酸回収経路6→第一酸回収タンク10へと流れ、これらの間を循環させられる。第二濃縮室4,4bと第二酸回収経路7には、脱イオン水が供給される。脱イオン水の循環は、第一酸回収経路6の場合と同様である。
【0038】
電気透析装置1を作動させて、陰極14及び陽極15間に通電すると、脱塩室2a,2b内の糖化液中に含有されている酢酸及びリン酸が第一濃縮室3a,3bへと移動する。このとき、陰イオン交換膜17a,17bとの親和性が大きいリン酸(ほとんどがリン酸イオン:PO3−の状態)の移動速度は、陰イオン交換膜17a,17bとの親和性が小さい酢酸(ほとんどが酢酸分子:CHCOOHの状態)の移動速度よりも高い。
【0039】
リン酸イオンは、陰イオン交換膜18a,18bを通過して、さらに第二濃縮室4a,4bへと移動するため、第一濃縮室3a,3b内のリン酸濃度は、一旦増加した後に徐々に減少し始め、第二濃縮室4a,4b内のリン酸濃度が増加し始める。代わりに、第一濃縮室3a,3b内の酢酸濃度が増加し始める。
【0040】
一方、脱塩室2b内の糖化液中に含有されているCa2+及びMg2+のような陽イオンは、陽イオン交換膜16bを通過して第二濃縮室4aへと移動する。脱塩室2aにおいては、糖化液に含有される陽イオンは除去されないが、脱塩糖化液回収経路5によって糖化液が脱塩室2bへと循環されるため、脱塩室2bにおいて陽イオンが除去される。図1に図示されていない脱塩室が存在する場合には、そのような脱塩室において陽イオンが除去される。
【0041】
一定時間、電気透析装置を運転した後、脱塩糖化液回収経路5内を循環する糖化液からは、リン酸、酢酸及び陽イオンが脱塩される。そして、第一酸回収経路6内の水溶液には酢酸が収集され、第二酸回収経路7内の水溶液にはリン酸塩(リン酸イオン及び陽イオン)が、それぞれ収集される。
【0042】
脱塩された糖化液(脱塩糖化液9)は、脱塩糖化液回収経路5に接続されている脱塩糖化液回収タンク8へと回収される。脱塩糖化液9は、エタノール発酵工程へと供給される。
【0043】
第一酸回収経路6内を循環する酢酸水溶液は、第一酸液回収経路6に接続されている第一酸回収タンク10へと回収される。第二酸回収経路7内を循環するリン酸塩水溶液は、第二酸液回収経路7に接続されている第二酸回収タンク12へと回収される。このように、本発明では、電気透析装置1を用いて、糖化液中に含有される酢酸及びリン酸を十分に除去し、かつ、分離回収することが可能である。
【0044】
回収されたリン酸塩水溶液13は、セルロース系バイオマスの酸加水分解に再利用される。一方、回収された酢酸水溶液11は、廃棄されてもよく、他のプロセスの原料として再利用されてもよい。
【0045】
[実施例]
(1.糖化液の調製)
セルロース系バイオマスとして、稲藁を粉末の状態に粉砕し、精製水及びリン酸を添加し、スラリーを調製した。このスラリーは、所定の条件で加熱され、セルロース系バイオマスが酸加水分解された。
【0046】
(2.糖化液の電気透析)
酸加水分解後の糖化液を、図1に示される構造に準じた電気透析装置(自作品)を用いて、脱塩処理した。当該電気透析装置は、脱塩室(容積100mL)、第一濃縮室(容積100mL)及び第二濃縮室(容積100mL)を、それぞれ1個備えている。
【0047】
陽イオン交換膜としてセレミオンCMV(AGCエンジニアリング株式会社)、陰イオン交換膜としてセレミオンAMV(AGCエンジニアリング株式会社)が用いられた。脱塩糖化液回収経路、第一酸回収経路及び第二酸回収経路の循環水量は、それぞれ1 Lとし、流速は5L/分とした。印加電圧は、20 Vとした。電気透析装置は、液温30℃の条件下で運転された。
【0048】
脱塩糖化液回収経路、第一酸回収経路及び第二酸回収経路内のリン酸濃度及び酢酸濃度は、液体クロマトグラフィーを用いて測定された。
【0049】
図2は、脱塩室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。透析開始時のリン酸及び酢酸の濃度は、それぞれ0.02 mol/L及び0.008 mol/Lであった。強酸であるリン酸の濃度は、弱酸である酢酸の濃度よりも早く減少し、電気透析装置の運転開始後6時間で0mol/Lとなった。一方、弱酸である酢酸は、リン酸濃度が0.04 mol/Lとなった4時間後から徐々に濃度が低下し、14時間後で0mol/Lとなった。
【0050】
図3は、第一濃縮室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。回収液11には0.005 mol/Lリン酸水溶液が用いられた。強酸であるリン酸の濃度は、電気透析装置の運転開始直後から増加するが、運転開始後4時間後からは減少に転じた。これは、脱塩室から第一濃縮室へと移動したリン酸イオンが、さらに第二濃縮室へと移動したためである。一方、弱酸である酢酸の濃度は、リン酸濃度が減少し始める4時間後までは0 mol/Lであり、その後は徐々に増加し始めた。
【0051】
図4は、第二濃縮室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。回収液13には0.005 mol/Lリン酸水溶液が用いられた。強酸であるリン酸の濃度は、電気透析装置の運転開始直後から増加し続けた。一方、酢酸濃度は、運転開始後14時間後まで0 mol/Lであった。
【0052】
このように、実施例では、電気透析装置の運転開始後14時間経過した時点で、第一濃縮室内(第一酸回収経路内)には酢酸のみが収集され、第二濃縮室内(第二酸回収経路内)にはリン酸のみが完全に分離して回収された。
【0053】
[比較例]
実施例と同じ糖化液を、図5に示される電気透析装置21を用いて電気透析した。当該電気透析装置は、濃縮室が陰イオン交換膜によって2室に分割されていないこと以外、実施例で用いた電気透析装置と同様である。電気透析条件は、実施例と同じとした。
【0054】
図5に示される電気透析装置21では、脱塩室23a及び23b内の糖化液中に含有されるリン酸及び酢酸は、陰イオン交換膜32を透過して濃縮室22b及び22cへと移動する。
【0055】
図6は、脱塩室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。電気透析装置の運転開始後6時間で、リン酸及び酢酸濃度は0mol/Lとなった。実施例と同様に、リン酸濃度がより早く減少した。
【0056】
図7は、濃縮室内のリン酸及び酢酸の濃度変化のグラフを示す。リン酸の濃度は、電気透析装置の運転開始後6時間までは急激に増加し、その後は緩やかに増加した。一方、酢酸濃度は、運転開始後6時間までは0 mol/Lで、その後緩やかに増加し、その後は急激に増加した。
【0057】
図6より、糖化液を十分に脱塩するためには、電気透析装置を15時間以上運転する必要がある。しかし、図7に示されるように、運転開始後15時間以上では、脱塩室内のリン酸及び酢酸濃度の差が小さくなるため、リン酸及び酢酸を分離して回収することは不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の酸分別回収方法、及び弱酸及び強酸を分別回収するための電気透析装置は、エネルギー分野において有用である。
【符号の説明】
【0059】
1:本発明の電気透析装置
2a,2b:脱塩室
3a,3b:第一濃縮室
4a,4b:第二濃縮室
5:脱塩糖化液回収経路
6:第一酸回収経路
7:第二酸回収経路
8:脱塩糖化液回収タンク
9:脱塩糖化液
10:第一酸回収タンク
11:第一酸回収液
12:第二酸回収タンク
13:第二酸回収液
14:陰極
15:陽極
16a,16b,16c:陽イオン交換膜
17a,17b,17c:陰イオン交換膜
18a,18b,18c:陰イオン交換膜
21:比較例で使用した酸回収用の電気透析装置
22a,22b,22c:濃縮室
23a,23b,23c:脱塩室
24:脱塩糖化液回収経路
25:酸回収経路
26:脱塩糖化液回収タンク
27:脱塩糖化液
28:酸回収タンク
29:酸回収液
30:陰極
31:陽極
32a,32b,32c,32d:陰イオン交換膜
33a,33b,33c:陽イオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気透析により酸含有液から、複数種類の酸を分別して回収する方法であって、
前記複数種類の酸は、陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる第一の酸及び第二の酸を含み、
前記第一の酸の陰イオン交換膜に対する透過速度が、前記第二の酸の陰イオン交換膜に対する透過速度より低いことを利用して、前記酸含有液に含有される前記第二の酸を第一の陰イオン交換膜の陰極側から陽極側へ透過させる第一透過工程と、
前記第二の酸を、前記第一の陰イオン交換膜の陽極側に位置する第二の陰イオン交換膜の陰極側から陽極側に透過させるとともに、前記酸糖化液に含有される前記第一の酸を前記第一の陰イオン交換膜の陰極側から陽極側へ透過させる第二透過工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の酸が有機酸であり、前記第二の酸が無機酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸含有液が、セルロース系バイオマスの酸糖化液である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の酸、前記第二の酸及び前記第一の酸と前記第二の酸が除去された酸糖化液を回収する回収工程を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
回収された前記第二の酸を、セルロース系バイオマスの酸糖化工程に再利用する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
セルロース系バイオマスの酸糖化処理液に含有される糖及び陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる複数種類の酸を分別して回収するための電気透析装置であって、
前記電気透析装置は、
脱塩室と濃縮室とを備え、
前記脱塩室には、脱塩糖化液回収経路が接続されており、
前記濃縮室は、陰イオン交換膜を互いの間に有する陰極側の第一濃縮室と陽極側の第二濃縮室とを備え、
前記第一濃縮室には、前記第二の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の低い前記第一の酸を回収する第一酸回収経路が接続されており、
前記第二濃縮室には、前記第一の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の高い前記第二の酸を回収する第二酸回収経路が接続されていることを特徴とする、電気透析装置。
【請求項7】
セルロース系バイオマスの酸糖化処理液に含有される糖及び陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる複数種類の酸を分別して回収するための電気透析装置であって、
前記複数種類の酸は、陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる第一の酸及び第二の酸を含み、
前記電気透析装置は、
脱塩室と濃縮室とを備え、
前記脱塩室は、陽極側に陰イオン交換膜を有し、かつ、脱塩糖化液回収経路が接続されており、
前記濃縮室は、陽極側に陽イオン交換膜を、陰極側に陰イオン交換膜をそれぞれ有し、かつ、陰イオン交換膜を互いの間に有する陰極側の第一濃縮室と陽極側の第二濃縮室とを備え、
前記第一濃縮室には、前記第二の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の低い前記第一の酸を回収する第一酸回収経路が接続されており、
前記第二濃縮室には、前記第一の酸よりも前記陰イオン交換膜に対する透過速度の高い前記第二の酸を回収する第二酸回収経路が接続されており、
前記脱塩室内の前記酸糖化液を脱塩処理すると共に、前記第一酸回収経路及び前記第二酸回収経路から、前記第一の酸及び前記第二の酸をそれぞれ回収することを特徴とする、電気透析装置。
【請求項8】
前記脱塩室の陰極側に陽イオン交換膜を有する、請求項7に記載の電気透析装置。
【請求項9】
前記脱塩室及び前記濃縮室が交互に複数設けられている、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の電気透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−183031(P2012−183031A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48456(P2011−48456)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】