説明

電気透析用電極装置

【課題】 色素などの汚染物質の沈着が抑制され、家畜の屎尿などの脱イオン処理にも長時間にわたって安定に電気透析による脱イオン処理を行うことが可能な電気透析用電極装置を提供する。
【解決手段】 内部に電極が挿入されているイオン交換円筒膜3,5の周囲を覆うようにスポンジから成る多孔質フィルターシート70が着脱自在に設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析用電極装置に関するものであり、より詳細には、家畜の屎尿の処理に好適に使用される電気透析用電極装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換膜を供えた電気透析装置は、例えば海水の濃縮、結晶化を行う製塩装置などに使用されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平09−227120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、最近では、電気透析による脱イオン処理が畜産系汚水(例えば家畜の屎尿)の処理などにも試みられている。このような処理によれば、屎尿の浄化とともに、アンモニアイオン等のカチオンやリン酸イオン等のアニオンなどの有用成分が回収され、肥料としての再利用などが期待される。
【0004】
しかしながら、屎尿のような液には、高分子色素や低分子色素などの天然の着色成分が多く含まれているため、用いるイオン交換膜表面に色素沈着などが生じ、膜の特性が短時間で低下し、処理効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
従って本発明の目的は、色素などの汚染物質の沈着が抑制され、家畜の屎尿などの脱イオン処理にも長時間にわたって安定に電気透析による脱イオン処理を行うことが可能な電気透析用電極装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の電極装置を用いての電気透析によって脱イオン処理を行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上部ホルダーと下部ホルダーとの間に固定されたイオン交換円筒膜と、上部ホルダーから該イオン交換円筒膜の内部に挿入されたロッド状電極とからなり、該イオン交換円筒膜の周囲を覆うように多孔質フィルターシートが設けられていることを特徴とする電気透析用電極装置が提供される。
【0007】
本発明の電気透析用電気透析装置では、
(1)前記多孔質フィルターシートが着脱自在に上部ホルダー及び下部ホルダーに固定されていること、
(2)前記イオン交換膜がアニオン交換膜であり、電気透析に際して正極部材として使用されること、或いは前記イオン交換膜がカチオン交換膜であり、電気透析に際して負極部材として使用されること、
(3)前記多孔質フィルターシートが、発泡樹脂シートであること、
(4)前記発泡樹脂シートがスポンジであること、
が好適である。
【0008】
本発明によれば、また、正極部材及び負極部材を処理槽内に対向して配置し、該処理槽に処理液を供給して電気透析による脱イオン処理を行う方法において、
前記正極部材及び負極部材の少なくとも一方に、上記の電気透析用電極装置を使用する方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気透析用電極装置においては、ロッド状電極を取り囲むように設けられているイオン交換円筒膜の周囲が、多孔質フィルターシートで覆われていることが重要な特徴である。即ち、このような多孔質フィルターシートを設けておくことにより、電気透析による脱イオン処理を行うに際して、処理液中の汚染物質がイオン交換円筒膜に沈着することが有効に抑制され、このような沈着によるイオン交換膜の性能低下を回避でき、長時間にわたって安定に脱イオン処理を行うことができる。また、多孔質フィルターシートに目詰まり等が生じた場合には、これを交換し或いは洗浄等に付して再利用することができる。
【0010】
従って、上記の電極装置は、特に家畜の屎尿などの畜産系汚水の脱イオン処理に有効であり、屎尿に含まれる高分子或いは低分子の色素などの天然着色成分のイオン交換円筒膜への沈着が有効に抑制され、安定に脱イオン処理を行うことができ、屎尿の浄化及び屎尿からの有用イオン成分を回収し、再利用を図ることができる。
また、本発明の電極装置を用いての電気透析による脱イオン処理は、畜産系汚水の処理以外にも、着色成分を含む各種液の処理にも有効に適用することができる。例えば、食品の製造工程や保存中において、糖などのカルボニル化合物とアミノ酸などのアミノ化合物との非酵素的な化学反応(アミノカルボニル反応)により生成するメライジンのような褐色物質は、食品工場の排水や多くの食品中に含まれ、必要に応じて除去する必要がある。本発明の電極装置を、食品工場の排水或いは食品の処理に適用すれば、このような褐色物質を任意の濃度に低減することができる。さらに、木材中に20〜30%程度含まれるリグニンは、パルプ工場廃液(黒液)中に多量に含まれ、天然の腐植土由来の褐色成分を含む排水も、主としてリグニンにより着色したものである。本発明の電極装置を用いての処理は、これらの廃液、排水の処理に適用することにより、その脱色を効果的に行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1及び図2には、本発明の電気透析用電極装置を用いた電気透析装置の一例を示した(図1は、電気透析装置の側断面図であり、図2は、図1の装置のA−A断面を示す図である)。
【0012】
図1及び図2において、この電気透析装置では、円筒状のハウジング1により処理槽51が形成されており、この処理槽51の内部には、円筒状のアニオン交換膜(以下、アニオン円筒膜と呼ぶ)3を備えた正極装置X及び同じく円筒状のカチオン交換膜(以下、カチオン円筒膜と呼ぶ)5を備えた負極装置Yが互いに対向するように配置されている。
【0013】
図1に示されているように、正極装置Xにおいて、アニオン円筒膜3の下端部は、嵌合或いは接着剤等によって下部ホルダー7aに固定されており、また、その上端部は、嵌合或いは接着剤等によって上部ホルダー9aが固定されている。同様に、負極装置Yにおいては、カチオン円筒膜5の下端部が、下部ホルダー7bに固定され、その上端部は、上部ホルダー9bに固定されている。
【0014】
また、上部ホルダー9a,9bの上方部分には、それぞれ、液排出管11が接続されている。さらに、上部ホルダー9aの上端からは、両端が開放されている中空の筒状金属管(一般にステンレススチール製である)からなる正極13が挿入されており、同様に、上部ホルダー9bの上端からは、両端が開放されている中空の筒状金属管からなる負極15が挿入され、これらの正極13及び負極15の内部空間は、図1に示されているように、その下端において、アニオン円筒膜3或いはカチオン円筒膜5の内部空間と連通している。
【0015】
上述した構造を有する電気透析装置においては、図2に示されているように、処理槽51の内部に、アニオン円筒膜3によって区画され且つ正極13を内部に有する正極室53と、カチオン円筒膜5によって区画され且つ負極15を内部に有する負極室55とが形成されており、正極室53及び負極室55内に極液を循環させ、且つ正極13と負極15との間に適当な電圧を印加することにより、処理槽51に処理液を供給して電気透析による脱イオン処理が行われる。
【0016】
なお、正極室53及び負極室55に循環する極液としては、イオン伝導性を示す電解液が使用され、例えば水道水、或いは食塩などの電解質塩を水に添加した塩水溶液などが使用される。このような極液は、正極13或いは負極15の上端から注入されて正極室53或いは負極室55内に充填され、上部ホルダー9a,9bの上方部分に接続されている液排出管11から排出され、再び、正極13或いは負極15の上端から注入されて循環されるようにするのが一般的である。
【0017】
上記のような脱イオン処理の原理を簡単に説明すると、以下の通りである。
即ち、アニオン円筒膜3は、表面から内面に貫通している多数の細孔を有する多孔質の架橋樹脂から形成されており、その表面及び内部には、第4級アンモニウム塩基等のアニオン交換基が存在する構造を有している。同様に、カチオン円筒膜5は、その表面及び内部には、スルホン酸基等のカチオン交換基が存在する構造を有している。
【0018】
このため、正極13及び負極15に電圧を印加することにより、処理液のアニオンは、生じた電界によって、正電極装置Xのアニオン円筒膜3を通過して正極室53内に移行する。一方、処理液中のカチオンは、負電極装置Yのカチオン円筒膜5を通過して、負極室55内に移行する。従って、正極室53内を循環する極液のアニオン濃度は次第に増大し、負極室55内を循環する極液のカチオン濃度は次第に増大することとなる。
【0019】
ところで、本発明においては、上述した正電極装置X及び負電極装置Yにおいて、アニオン円筒膜3及びカチオン円筒膜5の周囲が、多孔質フィルターシート70によって覆われていることが重要である。即ち、このような多孔質フィルターシート70を設けていないときには、処理液中に含まれる着色成分等の非イオン性の汚染物質が、アニオン或いはカチオンに追随して流れ、アニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5の表面もしくは内部に沈着してしまい、次第にアニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5の性能低下(例えば電流値の低下)を引き起こし、処理液中のアニオンやカチオンを回収することができなくなってしまう。しかるに、本発明にしたがって、多孔質フィルターシート70を設けることにより、汚染物質のアニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5への流れを遮断し、該フィルターシート70の表面及び内部に汚染物質を沈着させることができ、長時間にわたって安定に電気透析による脱イオン処理を行うことができる。
【0020】
このような多孔質フィルターシートは、イオン交換機能を有していないものであるが、表面から裏面に通じる孔を多数有しており、所謂フィルター機能を有するものである限り、樹脂、紙、布など、任意の材料から形成されていてよく、例えば発泡樹脂シート、コルクシートなどを多孔質フィルター70として使用することができる。但し、孔径が必要以上に小さかったり、孔の数が少なかったりすると、電気抵抗値が増大し、透析時の電流が低減し、脱イオンを効果的に行うことが困難となり、また汚染物質の沈着により目詰まりを直ちに生じてしまうなどの不都合があり、孔径が必要以上に大きいと、フィルター機能が低くなり、汚染物質が沈着せず、アニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5への汚染物質の沈着を防止することが困難となるおそれがあるため、予め、実験等により、適宜の孔径や孔数を有するものを選択しておくことがよい。また、このようなフィルターシート70は、目詰まり等を生じることなく、汚染物質の沈着を長時間にわたって安定に行うという点で、ある程度の厚みを有し、且つ表面積の大きなものであることが好適であり、このような観点から、発泡樹脂シート、特にスポンジシートが多孔質フィルター70として好適であり、最も好適には、平均して20〜30mm程度の厚みを有し、表面に凹凸が形成されているスポンジシートが多孔質フィルター70として最適であり、中でも発泡ポリウレタン製のものは安価であり、コストの点でも有利である。
【0021】
上記のような多孔質フィルターシート70は、アニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5の周囲を覆うように、着脱自在に設けられている限り、任意の手段で上部ホルダー9a,9bや下部ホルダー7a,7bに取り付けられていてよい。例えば、フィルターシート70を、アニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5の周囲に巻き付け、その上端及び下端を、結束バンドや紐などで上部ホルダー9a,9b及び下部ホルダー7a,7bに固定したり、或いは上部ホルダー9a,9b及び下部ホルダー7a,7bに嵌合固定することもできる。さらには、フィルターシート70を袋状に成形し、アニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5及び下部ホルダー7a,7bをフィルターシート70の袋で包み込み、該袋の開口部を、結束バンドなどにより或いは嵌合により上部ホルダー9a,9b及び下部ホルダー7a,7bに固定することも可能である。
【0022】
上記のように着脱自在に取り付けられた多孔質フィルターシート70は、汚染物質の沈着等により目詰まりを生じた場合には、これを取り外し、水等により洗浄した後、再利用することができる。
【0023】
上述した正電極装置X及び負電極装置Yが使用された電気透析装置による処理は、これに限定されるものではないが、特に家畜の屎尿の処理に好適に適用される。即ち、屎尿には、低分子色素や高分子色素などの着色した汚染物質を多く含んでいる。本発明は、このような屎尿の処理により適用することにより、屎尿中の多くの汚染物質のこのような多くの汚染物質のアニオン円筒膜3やカチオン円筒膜5への沈着を有効に抑制し、長時間にわたって安定に電気透析による脱イオン処理を行うことができる。また、屎尿を処理液として用いた場合には、正極室53中の極液には、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオンなどが回収され、負極室55中の極液には、NaやKなどのアルカリイオンやアンモニウムイオンなどが回収される。
【0024】
また、本発明において、処理液として屎尿を用いる場合には、負電極装置Yのみを使用し、正極側には、通常のロッド状或いは板状のステンレススチール製電極(正極)を配置して、電気透析を行うと、処理後の液を静置すると、直ちにフロックを生じ、このフロックが沈降して透明に近い浄化液が得られるという利点がある。このようなフロックの生成及び沈降が生じる理由は明確に解明されたわけではないが、おそらく、正極からFe3+イオンが溶出し、これが凝集剤として作用することが大きな要因となっているものと思われる。従って、このような負電極装置Yのみを用いての脱イオン処理を行った後に、電気透析による脱イオン処理を行う場合には、処理液中の汚染物質はほとんど取り除かれているため、多孔質フィルターシート70が設けられていない通常の電極装置を用いて電気透析による脱イオン処理を行い、正極室53にアニオンを回収することができる。勿論、この場合には、負極側には、カチオン円筒膜5を設ける必要はなく、通常の電極ロッド或いは電極板を負極として用いることができる。
【0025】
以上のように、本発明によれば、着色成分などの汚染物質の沈着によるイオン交換膜の性能低下を回避でき、長時間にわたって安定に電気透析による脱イオン処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の電気透析用電極装置を用いた電気透析装置の側断面図である。
【図2】図1に示されている装置のA−A断面を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
X:正電極装置
Y:負電極装置
3:円筒型アニオン透過性イオン交換膜
5:円筒型カチオン透過性イオン交換膜
7a,7b:下部ホルダー7a,7b
9a,9b:上部ホルダー
70:多孔質フィルターシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部ホルダーと下部ホルダーとの間に固定されたイオン交換円筒膜と、上部ホルダーから該イオン交換円筒膜の内部に挿入されたロッド状電極とからなり、該イオン交換円筒膜の周囲を覆うように多孔質フィルターシートが設けられていることを特徴とする電気透析用電極装置。
【請求項2】
前記多孔質フィルターシートが着脱自在に上部ホルダー及び下部ホルダーに固定されている請求項1に記載の電気透析用電極装置。
【請求項3】
前記イオン交換膜がアニオン交換膜であり、電気透析に際して正極部材として使用される請求項1に記載の電気透析用電極装置。
【請求項4】
前記イオン交換膜がカチオン交換膜であり、電気透析に際して負極部材として使用される請求項1に記載の電気透析用電極装置。
【請求項5】
前記多孔質フィルターシートが、発泡樹脂シートである請求項1乃至3の何れかに記載の電気透析用電極装置。
【請求項6】
前記発泡樹脂シートがスポンジである請求項5に記載の電気透析用電極装置。
【請求項7】
正極部材及び負極部材を処理槽内に対向して配置し、該処理槽に処理液を供給して電気透析による脱イオン処理を行う方法において、
前記正極部材及び負極部材の少なくとも一方に、請求項1に記載の電気透析用電極装置を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−289177(P2006−289177A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109616(P2005−109616)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(596025146)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【Fターム(参考)】