説明

電気運搬適用のためのポリマーのバッファー調製物の調製法

本発明は、薬剤イオン及び結合対イオンを含んでなる薬剤溶液を提供する工程、第1のイオン交換物質と薬剤溶液を接触させることにより薬剤溶液のpHを調整する工程、第1のイオン交換物質をpH調整済み薬剤溶液から分離する工程、pH調整済み薬剤溶液を電気運搬送達システムのレザボアに添加する工程、並びにpH調整済み薬剤溶液を第2のイオン交換物質と接触させる工程、を含んでなる電気運搬送達システム中に使用のための組成物を調製する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤調製物の電気運搬送達システム中への取り込みの前にそのpHを調整しそして電気運搬送達システム中への取り込み時に薬剤調製物にバッファー物質を添加する工程を伴う、電気運搬による送達のための薬剤調製物を調製する(ここで該バッファー物質が電気運搬期間中に薬剤調製物のpHの変動を減少する)ための新規の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚を通る活性物質の送達は快適さ、便宜及び侵襲性の不在を包含する多数の利点を提供する。更に、経口送達において遭遇される胃腸の刺激並びに吸収及び代謝の変わりやすい速度が回避される。経皮送達はまた、任意の特定の活性物質の血中濃度に対して高度な制御を提供する。
【0003】
多数の活性物質はそれらの粒度、イオン帯電性及び親水性のために受動的経皮送達に適さない。このような活性物質の経皮送達の1つの方法は電気運搬又はイオン導入薬剤送達として知られる、正常な(intact)皮膚を通して身体中に活性物質を能動的に運搬するための電流の使用を伴う。本発明の電気運搬装置においては、皮膚のある部分と密接な電気的接触にあるように配置された、少なくとも2個の電極が使用される。能動的又はドナー電極と呼ばれる一方の電極は活性物質がそこから身体中に送達される電極である。対電極又はリターン電極と呼ばれる他方の電極は身体を通る電気回路を閉じる役目をもつ。患者の皮膚と協力して、回路は電気エネルギー源そして通常、装置を通過する電流を制御することができる回路に対する電極の接続により完成される。身体中に誘導されるイオン性物質が陽性に帯電すると、陽性電極(陽極)は能動的電極になり、そして陰性電極(陰極)は対電極として働くであろう。送達されるイオン性物質が陰性に帯電されると、陰極が能動的電極になり、そして陽極が対電極になるであろう。
【0004】
電気運搬装置はまた、身体中に送達又は誘導され得る活性物質のレザボア又は源を必要とする。このようなレザボアは1種又は複数の所望の活性物質の固定された又は更新可能な源を提供するために電気運搬装置の陽極又は陰極に接続される。電流が電気運搬装置中を流れると化学物質の酸化が陽極で起り、他方、化学物質の還元が陰極で起る。これらの双方の反応がイオン形態にある活性物質のもののような帯電状態をもつ移動性のイオン物質を生成する。このような移動性イオン物質は、物質が電気運搬による送達に対して活性物質と競合するために、競合物質又は競合イオンと呼ばれる。
【0005】
多数の活性物質は遊離酸/塩基形態及び塩形態の双方で存在する。活性物質の塩形態はより高い水溶性をもちそうであるが、活性物質の塩の水溶液のpHは特定のpHにおける薬剤の経皮流動性及び安定度の観点から最適ではないかも知れない。例えば、ヒトの皮膚は電気運搬装置のドナー溶液のpHに左右される帯電イオンにある程度の選択透過性を示す。陽性のドナーのレザボア溶液に対してはカチオン物質の経皮的電気運搬流動性はドナー溶液のpHが約4〜約10、より好ましくは、約5〜約8、そしてもっとも好ましくは、約6〜約7である時に最適化される。陰性のドナーのレザボア溶液に対しては、アニオン物質の経皮的電気運搬流量は、ドナー溶液のpHが約2〜約6、そしてより好ましくは約3〜約5である時に最適化される。
【0006】
電気運搬装置における活性物質の溶液へのpH変更物質(例えば、酸又は塩基)の添加により起る問題は、活性物質と同等な荷電を有する外来のイオンが溶液中に導入されることである。これらのイオンは概括的に体表を通過する電気運搬のための活性物質のイオンと競合する。例えば、カチオンの活性物質含有溶液のpHを上昇させるための水酸化ナト
リウムの添加は患者の体内への電気運搬による送達のためのカチオンの活性物質と競合するであろうナトリウムイオンを溶液中に導入し、それにより電気運搬送達の効率を低くさせ、すなわち、装置により提供される単位電流当たり、より少量の活性物質が送達されるであろう。
【0007】
この問題に対処するために、外来のイオンの導入を伴わない、電気運搬送達システム中への取り込みの前に活性物質の調製物のpHを調整する方法が開発されてきた。このような方法は特許文献1及び2及び3に記載されている(特許文献1、2及び3参照)。しかし、活性物質の調製物のpHはしばしば、電気運搬期間中に変化し、それが活性物質の安定度に不都合な影響を与え、そして電気運搬の効率を減少する。活性物質のpHはまた、長期間の貯蔵中にも変化し得る。当該技術分野には、緩衝能を提供し、そして電気運搬及び長期間の貯蔵期間中に起る活性物質のpHの変化を減少する方法及び調製物に対する需要が存在する。
【特許文献1】米国特許第6,071,508号明細書
【特許文献2】米国特許第5,853,383号明細書
【特許文献3】国際公開第96/34597号パンフレット
【発明の開示】
【0008】
本発明は薬剤イオン及び会合された対イオンを含んでなる薬剤溶液を提供する工程、第1のイオン交換物質と薬剤溶液を接触させることにより薬剤溶液のpHを調整する工程、第1のイオン交換物質をpH調整済み薬剤溶液から分離する工程、pH調整済み薬剤溶液を電気運搬送達システムのレザボアに添加する工程、並びにpH調整済み薬剤溶液を第2のイオン交換物質と接触させる工程、を含んでなる電気運搬送達システムに使用のための組成物を調製する方法に関する。
【0009】
本発明の特定の態様において、薬剤のイオンはカチオンであり、会合された対イオンはアニオンであり、第1のイオン交換物質はポリマーのアニオン交換物質であり、そして第2のイオン交換物質はポリマーのアニオン又はカチオン交換物質である。本発明の他の特定の態様において、薬剤のイオンはアニオンであり、会合された対イオンはカチオンであり、第1のイオン交換物質はポリマーのカチオン交換物質であり、そして第2のイオン交換物質はポリマーのカチオン又はアニオン交換物質である。
【0010】
具体的な態様の詳細な説明
本明細書で使用される用語「調整」、「調整する」及びそれらのすべての変形は、溶液又は物質のpHを任意の測定可能な程度だけ変更することを意味する。
【0011】
本明細書で使用される用語「接触」、「接触する」及びそれらのすべての変形は、部分が相互に物理的に接触するように部分を直接又は間接的に一緒に配置させる任意の方法を表わす。従って接触させることは容器内に部分を一緒に配置する、部分を合わせる又は部分を混合することのような物理的動作を包含する。
【0012】
本明細書で使用される用語「薬剤」及び「製薬学的活性物質」は所望の局所的又は全身的効果を誘導し、そして電気運搬により送達され得る任意の化学物質又は化合物を表わす。用語「薬剤イオン」及び「会合された対イオン」は薬剤の電荷に反対の電荷の対イオンがそれと会合されている薬剤の陽性又は陰性いずれかに帯電した形態を表わす。
【0013】
本発明の方法に使用することができるカチオン薬剤は調製物中に存在する時に第1のpKa又は調製物の緩衝領域のpHより低い任意のその次のpKaを有する任意のカチオン薬剤を包含する。更に、カチオン薬剤は所望の貯蔵又は電気運搬操作のpHより低い少なくとも1種のpKaを有し、そして貯蔵又は電気運搬操作のpHより高い少なくとも1種
のpKaを有する。このようなカチオン薬剤の例にはそれらに限定はされないが、例えば、([3−(3−(カルバミミドイル−フェニル)−2−フルオロ−アリル]−{4−[1−(1−イミノ−エチル)−ピペリジン−4−イルオキシ]−フェニル}−スルファモイル)−酢酸塩酸;([3−(3−カルバミミドイル−フェニル)−2−メチル−アリル]−{4−[1−(1−イミノ−エチル)−ピペリジン−4−イルオキシ]−フェニル}−スルファモイル)−酢酸塩酸;及び([3−(3−(カルバミミドイル−フェニル)−2−フルオロ−アリル]−{3−カルバモイル−4−[1−(1−イミノ−エチル)−ピペリジン−4−イルオキシ]−フェニル}−スルファモイル)−酢酸塩酸のような2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1−プロペニル]ベンズアミジン誘導体が包含される。
【0014】
本発明の方法に使用することができるアニオン薬剤には、調製物中に存在する時に、第1のpKa又は調製物の緩衝領域のpHより高い任意のそれに続くpKaを有する任意のアニオン薬剤が包含される。更に、該アニオン薬剤は所望の貯蔵又は電気運搬操作のpHより高い少なくとも1種pKaを有し、そして貯蔵又は電気運搬操作のpHより低い少なくとも1種のpKaを有する。このようなアニオン薬剤の例にはそれらに限定はされないが、カプトプリル及びリシノプリルが包含される。
【0015】
本明細書で使用される用語「分離」、「分離する」及びそれらのすべての変形は薬剤溶液から第1のイオン交換物質の実質的にすべてを除去することを意味する。
【0016】
本明細書で使用される用語「添加」及び「添加する」及びそれらすべての変形は部分又は成分が相互に密接な近位にくるように部分又は成分を直接又は間接的に一緒に配置させる任意の手段を表わす。該用語は、容器内に部分又は成分を一緒に配置すること、部分又は成分を合わせること、部分又は成分を接触させることあるいは部分又は成分を一緒に撹拌すること、渦巻き撹拌すること又はかき回すことのような動作を包含する。
【0017】
本明細書で使用される用語「イオン交換樹脂」又は「イオン交換物質」は(i)ヒドロニウム及びヒドロキシルイオンからなる群から選択される移動性イオン物質並びに(ii)少なくとも1種の反対に帯電された実質的に不動性のイオン物質、を含んでなる任意の物質を表わす。本発明の特定の態様と関連して有用なイオン交換物質はヒドロキシルイオン(すなわちカチオン薬剤調製物のpHを調整するために典型的に使用されるアニオン交換物質又は樹脂)あるいは水素イオン(すなわち、アニオン薬剤の調製物のpHを調整するために典型的に使用されるカチオン交換物質又は樹脂)のいずれかを供与することができる。
【0018】
本明細書で使用される用語「電気運搬」及び「電気的に補助される運搬」は薬剤含有レザボアへの適用された起電力による薬剤の送達を表わすために使用される。薬剤はエレクトロマイグレーション、エレクトロポレーション、電気浸透又はそれらの任意の組み合わせにより送達することができる。電気浸透はまた、電気流体力学、電気対流及び電気誘導浸透とも呼ばれてきた。概括的に、組織中への物質の電気浸透は、治療的物質のレザボアに対する起電力の適用の結果として物質が含有される溶媒の移動、すなわち他のイオン性物質のエレクトロマイグレーションにより誘導される溶媒流からもたらされる。電気運搬工程中に、「エレクトロポレーション」とも呼ばれる、皮膚における一過性に存在する孔の形成のような、皮膚の特定の変更又は変化が起り得る。体表に対する変更又は変化により促進される任意の電気的に補助される物質の運搬(例えば、皮膚中の孔の形成)はまた本明細書で使用される用語「電気運搬」中に包含される。従って、本明細書で使用される用語「電気的運搬」及び「電気的に補助される運搬」は(1)エレクトロマイグレーションによる帯電薬剤の送達、(2)電気浸透の工程による非帯電薬剤の送達、(3)エレクトロポレーションによる帯電又は非帯電薬剤の送達、(4)エレクトロマイグレーション
及び電気浸透の組み合わせた工程による帯電薬剤の送達、並びに/又は(5)エレクトロマイグレーション及び電気浸透の組み合わせた工程による帯電及び非帯電薬剤の混合物の送達を表わす。用語「電気運搬送達システム」は電気運搬を実施するために使用することができる任意の装置を表わす。
【0019】
本明細書で使用される用語「競合イオン」は電気運搬により送達される薬剤と同一記号の電荷を有し、薬剤と交代しそして体表を通って送達されることができるイオン性物質を表わす。同様に、ドナーのレザボア溶液のpHを緩衝するために使用される通常の緩衝剤もドナーのレザボア中への競合イオンの添加をもたらすことができ、それが電気運搬薬剤送達のより低い効率をもたらす。
【0020】
本明細書で使用される用語「ゲルマトリックス」は概括的に、約1,000〜約200,000ポアズ、好ましくは約5,000〜約50,000ポアズの粘度を有する電気運搬送達装置のレザボアがそれからなる組成物を意味する。
【0021】
本明細書で使用される用語「還元」、「還元する」及びそれらすべての変形は薬剤溶液のpHを任意の測定可能な度合いの変動だけ減少することを意味する。
【0022】
本明細書で使用される用語「送達」は電気運搬を使用する患者又は試験の被験体に対する薬剤の投与を意味する。
【0023】
本明細書で使用される用語「患者」は動物、哺乳動物又は人間を表わす。
【0024】
本発明は電気運搬送達システムに使用のための組成物を調製する方法に関する。該方法は流量に不都合に影響を与える可能性がある競合イオンを導入せずに電気的に補助される運搬中及び長期の保存期間中の薬剤溶液のpHの変化を減少させ、それにより薬剤の有効な送達及び安定性をもたらす。該方法はまた、これらの薬剤の溶液のpHを所望レベルに維持することにより特定のpH領域の外側で低い安定性を有する薬剤の触媒作用を妨げる。特定の態様において、本発明の方法は2段階工程を伴い、そこで最初に、溶液中への競合イオンの導入を回避する手段を使用して薬剤溶液のpHが調整され、そして次に緩衝物質がpH調整された薬剤溶液に添加され、それが電気運搬又は貯蔵期間中の薬剤溶液のpHの変化を減少させる。本発明の特定の態様において、工程の第2段階に使用される緩衝物質はポリマー樹脂である。
【0025】
特定の態様において、本発明は電気運搬薬剤送達システム中への溶液の取り込みの前に、薬剤溶液のpHの初回の調整を伴う方法に関する。任意の特定の薬剤溶液のpHは所望に応じて上方又は下方のいずれかに調整することができる。このようにして、皮膚を通る薬剤の流量は特定の薬剤/ポリマーマトリックス組成物の安定度を最適化することができるように、最適化することができる。これに関連して、特に薬剤が2価又は多価の物質である時に、部分的又は完全に中和された薬剤溶液は対応する薬剤の塩の調製物よりもより高い経皮流量をもたらすことができることが見いだされている。
【0026】
電気運搬送達の前にドナーの薬剤溶液のpHを調整するために使用される先行技術の方法に比較して、本発明の方法は体表を通る電気運搬のための薬剤イオンと競合すると考えられる電気運搬システム中への外来のイオンの導入を伴わない。例えば、カチオン薬剤については、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等との混合による部分的又は完全な中和が薬剤調製物中へのカリウムイオン、ナトリウムイオン等の取り込みをもたらすと考えられ、それらの物質が順次、電気運搬送達のためのカチオン薬剤と競合し、薬剤送達の効率を減少すると考えられる。
【0027】
特定の態様において、本発明は、電気運搬薬剤送達システム中への溶液の取り込み前に薬剤イオン及び結合対イオンを含んでなる薬剤溶液のpHが調整される方法に関する。本発明の特定の態様において、薬剤溶液のpHは薬剤溶液を第1のイオン交換物質と接触させることにより調整される。特定のアスペクトにおいて、本発明は薬剤イオンがカチオンであり、結合対イオンがアニオンであり、そして第1のイオン交換物質がポリマーのアニオン交換物質である方法に関する。本発明の好ましい態様において、第1のポリマーのアニオン交換物質はポリマーのアニオン交換樹脂又はポリマーのアニオン交換膜である。
【0028】
本発明の特定の態様において、カチオン薬剤に対しては、第1のイオン交換物質は好ましくは、典型的にはカチオン薬剤、例えばクロライド、ブロマイド、アセテート、トリフルオロアセテート、バイタルトレート、プロピオネート、サイトレート、オキサレート、スクシネート、スルフェート、ナイトレート、ホスフェート、等と会合された陰性に帯電した対イオンとヒドロキシルイオンを交換するであろうポリマーのアニオン交換物質である。適したアニオン交換物質は典型的にはアミン含有ポリマー、例えばポリビニルアミン、ポリエピクロロヒドリン/テトラエチレントリアミン、ペンダントアミン基を含有するポリマー、等の水酸化物形態である。本発明における使用に好ましいアニオン交換物質は第四級アンモニウム官能基及び結合ヒドロキシルイオンを有するスチレンとジビニルベンゼンのコポリマーである。他の適したアニオン交換物質はそれらに限定はされないが、AmberliteTMIRA−958(Rohm and Haasから入手できるアクリル/ジビニルベンゼン・コポリマー)、コレスチルアミン(これもRohm and Haasから入手できるスチレン/ジビニルベンゼン・コポリマー)、Dowex 2X8(Dow Chemicalから入手できるスチレン/ジビニルベンゼン)及びMacro−Prep High Q(BioRad Laboratoriesから入手できるアクリル/エチレングリコールジメタクリレート・コポリマー)を包含する。当業者により認められるように、第一級、第二級及び第三級アミンを含有するアニオン交換物質は比較的弱塩基であり、他方、第四級アミンの官能基を含有するものは強塩基性であり、カチオン薬剤の塩の調製物のpHをより早急にそして有効に上方に調整するであろう。従って、このような物質が本発明における使用に好ましい。
【0029】
特定のアスペクトにおいて、本発明は、薬剤イオンがアニオンであり、結合対イオンがカチオンであり、そして第1のイオン交換物質がポリマーのカチオン交換物質である方法に関する。本発明の好ましい態様において、第1のポリマーのカチオン交換物質はポリマーのカチオン交換樹脂又はポリマーのカチオン交換膜である。
【0030】
本発明の特定の態様において、アニオン薬剤に関しては、使用される第1のイオン交換物質は好ましくは、典型的にアニオン薬剤と会合された陽性に帯電された対イオンと水素又はヒドロニウムイオンを交換するであろうカチオン交換物質である。カチオン薬剤の塩は通常、製薬学的に許容できる塩基、典型的にはジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン等のようなアミンで薬剤の遊離酸形態を処理して、薬剤と会合された陽性に帯電された第四級アンモニウム部分を誘発することにより形成される。このような物質を水素イオンと交換するであろうカチオン交換樹脂は例えば、1個又は複数の酸部分を有するポリマーを含んでなるカチオン交換樹脂を包含する。このようなポリマーは例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリアクリルリン酸及びポリアクリルグリコール酸を包含する。カルボン酸部分を含有するカチオン交換樹脂は比較的弱酸であり、そして緩衝のために比較的有用であるが、他方、スルホン酸のような官能基を含有するものはより強酸性であり、従ってより早急でより効率的なpH調整を提供するものとして本発明の方法に関連して好ましい。緩衝に有用な、より弱酸のカチオン交換樹脂にはAmberlite IRP−64(Rohm and Haasからの)及びBioradからのBio−Rex 70のようなアクリルポリマーが包含される。
【0031】
ヒトの皮膚を通る電気運搬送達に適合された薬剤溶液を調製する際の、pH調整の好ましい方向及びタイプは、薬剤がカチオンであるか、そして従って陽極のレザボアから送達されるか又はアニオン性で、そして従って陰極のレザボアから送達されるかに、並びに送達される特定の薬剤の溶解度特性に左右されるであろう。概して、ヒトの皮膚を通る電気運搬送達に対しては、陽極のレザボア調製物のpHは典型的には約4〜約10の範囲内、より好ましくは、約5〜約8の範囲内、そしてより好ましくは、約6〜約7の範囲内にある。概してヒトの皮膚を通る電気運搬送達に対しては、陰極のレザボアのpHは典型的には約2〜約6の範囲内、より好ましくは約3〜約5の範囲内にある。
【0032】
本発明の方法において第1のイオン交換物質として使用される通常のイオン交換物質、例えばカチオン及びアニオン交換樹脂は、薬剤分子中に存在するイオン化官能基の転化が物質中に存在するプロトン又はヒドロキシルイオンとの交換により実施され、そしてそれからの薬剤溶液の分離が物質の分子量のお陰で容易にされるであろうように、酸又は塩基の官能基を有する任意の比較的高分子の物質と交換することができることは当業者により認められるであろう。概して、必須ではないが、物質の分子量は少なくとも約200Dalton、より好ましくは少なくとも約300Daltonそしてもっとも好ましくは少なくとも約500Daltonであることが好ましい。
【0033】
特定の態様において、本発明は、電気運搬薬剤送達システム中への溶液の取り込みの前に、薬剤イオン及び結合対イオンを含んでなる薬剤溶液のpHが調整される方法に関する。本発明の特定の態様において、薬剤溶液のpHは第1のイオン交換物質と薬剤溶液を接触させることにより調整される。特定の態様において、薬剤溶液は、典型的には薬剤の塩の溶液との、固形支持体(例えばビーズ等)と会合されたイオン交換樹脂の形態の第1のイオン交換物質の単純な混合により第1のイオン交換物質と接触される。第1のイオン交換物質及び薬剤の塩の相対的量は、順次、薬剤の塩の中和度に左右される、pHの所望の変化に左右されるであろう。概括的に、薬剤調製物のpHは電気運搬薬剤送達期間中の皮膚を通る薬剤流が最適化されるように調整されるであろう。従って、任意の与えられた薬剤の塩の調製物に対する好ましいpHは最適な薬剤流を評価するための定常実験を実施することにより容易に決定することができる。2価又は多価の薬剤に対しては、中和は概括的に典型的には約80%を超える薬剤の塩の実質的な割合を1価の形態に転化させるのに有効な程度に実施される。
【0034】
本発明の特定の態様において、薬剤はカチオン又はアニオンのファクターXaインヒビター及び抗凝固剤である。好ましい態様において、薬剤はカチオンのベンズアミジン又はナフトアミジン誘導体である。より好ましい態様において、薬剤はカチオンのベンズアミジン誘導体である。更により好ましい態様において、薬剤は、例えば、それらの全体を引用することにより本明細書に取り入れている、特開平15−002832号公報及び国際公開第02/089803号パンフレットに記載されたような2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1−プロペニル]ベンズアミジン誘導体である。更により好ましい態様において、薬剤は図1に示され、化合物1と呼ばれる2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1−プロペニル]ベンズアミジン誘導体である。本発明の特定の態様において、薬剤は例えば、カプトプリル又はリシノプリルのようなアニオン薬剤である。本発明の他の態様において、薬剤はテルブタリンである。
【0035】
本発明の方法及び組成物の特定の態様において使用することができる2価及び多価の薬剤はそれらに限定はされないが、アルニジタン並びにタリペキソール二塩酸、カルピプラミン二塩酸、ヒスタミン二塩酸、プロフラビン二塩酸及びグスペリムス三塩酸を包含する。
【0036】
本発明の特定の態様の方法により調製される調製物中の薬剤の濃度は薬剤に対する送達
の要求条件に左右される。薬剤添加率は例えば、約1%〜約30%、より好ましくは、約1.5%〜約20%、そしてより好ましくは約2%〜約10%の範囲内にあることができる。
【0037】
薬剤溶液と第1のイオン交換物質間の反応は典型的には分の次元で、極めて急速である。反応を終結まで進行させた後に、遠心分離、標準の濾過法(例えばフィルター、スクリーン、等)を使用して又はシリンジ及び細いゲージ(例えば、26ゲージ)の針を使用して、薬剤溶液を第1のイオン交換物質から分離することができる。
【0038】
次に、pH調整済み薬剤溶液を典型的には薬剤レザボアとして働くゲルマトリックス物質中への取り込みにより電気運搬送達システムのレザボア中に導入することができる。本発明の特定の態様はそこでpH調整済み薬剤溶液が第2のイオン交換物質と接触させられる電気運搬送達システム中への使用のための組成物を調製する方法に関する。本発明のいくつかの態様において、pH調整済み薬剤溶液は最初に電気運搬送達システムのレザボアに添加され、そして次に第2のイオン交換物質を薬剤溶液を含有するレザボアに添加する。本発明の他の態様において、pH調整済み薬剤溶液を最初に第2のイオン交換物質と接触させ、次に生成された混合物を電気運搬送達システムのレザボアに添加する。本発明の更に他の態様において、第2のイオン交換物質を最初に電気運搬送達システムのレザボアに添加し、次にpH調整済み薬剤溶液を第2のイオン交換物質を含有するレザボアに添加する。
【0039】
本発明の特定の態様において、薬剤イオンはカチオンであり、会合された対イオンはアニオンであり、そして第2のイオン交換物質はポリマーのアニオン又はカチオン交換物質である。当業者により理解されるように、適当な第2のポリマーのイオン交換樹脂の選択は樹脂の酸/塩基特性により決定される。本発明の方法に従って調製された特定の調製物に対しては、ポリマーのアニオン交換物質が所望の特性を提供し、そして本発明の方法に従って調製された特定の他の調製物に対しては、ポリマーのカチオン交換物質が所望の特性を提供する。
【0040】
本発明の特定の態様において、薬剤のイオンはアニオンであり、会合された対イオンはカチオンであり、そして第2のイオン交換物質はポリマーのアニオン又はカチオン交換物質である。再度、当業者により理解されるように、適当な第2のポリマーのイオン交換樹脂の選択は樹脂の酸/塩基特性により決定される。
【0041】
特定の態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換物質はポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂である。他の態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換物質はポリマーのアニオン又はカチオン交換膜である。適当な第2のポリマーのカチオン交換樹脂は例えば、ポラクリリン、アクリレート、メチルスルホネート、メタクリレート、カルボン酸官能基、スルホン酸、スルホイソブチル又はスルホキシエチルを含んでなる。特に好ましい態様において、第2のポリマーのカチオン交換樹脂はポラクリリン又はアクリレートを含んでなる。
【0042】
適した第2のポリマーのカチオン交換樹脂は例えば、1個又は複数の酸部分を有するポリマーを含んでなる。このようなポリマーは例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリアクリルリン酸及びポリアクリルグリコール酸を包含する。アニオン交換物質を使用する緩衝のためには、弱アニオンと認定されるこれらのイオン交換物質が好ましい。幾つかのこれらのポリマーはBioradからの樹脂の「Bio−Rex」及び「AG」ファミリー(すなわちBio−Rex 5及びAG4−X4)内で入手できる。他のアニオン交換物質はAmberliteの形態(Rohm and Haasから入手可能)、例えばAmberlite IRA67を包含する。更なるアニオン交換樹脂はD
ow Chemicalからの樹脂の「Dowex」ファミリー(Dowex Monosphere 77)を包含する。
【0043】
本発明の方法の特定の態様に従って調製される調製物中の第2のイオン交換樹脂の中和度及び第2のイオン交換樹脂の濃度は広範な値に広がる。本発明の特定の態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の中和度は約2%〜約70%である。より好ましい態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の中和度は約5%〜約50%である。更により好ましい態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の中和度は約5%〜約30%である。
【0044】
本発明の方法の特定の態様に従って調製される調製物中の第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の濃度は約20meq/mL〜約200meq/mLである。より好ましい態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の濃度は約20meq/mL〜約140meq/mLである。更により好ましい態様において、第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の濃度は約25meq/mL〜約60meq/mLである。第2のイオン交換樹脂の百分率の下端はそれが調製物に対する競合するナトリウムイオンの最少量を加えるので、好ましい。更に、より低い濃度では、定常状態の流量を達成する際の不都合な効果が、定常状態の流量を達成するためのより短い上昇時間により回避される。
【0045】
本発明の特定の好ましい態様において、薬剤は2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1−プロペニル]ベンズアミジン誘導体であり、第2のイオン交換樹脂はポラクリリンである。本発明の方法のこのような態様に従って調製される調製物中のポラクリリンの所望量は約5%〜約10%の間に中和された約0.23%〜約1.13%である。本発明の特定の態様において、送達中のより厳しいpH調整に対しては、この範囲は約5%〜約8%の間に中和された約0.23%〜約0.40%の第2のアニオン交換樹脂まで狭められると考えられる。
【0046】
本発明の方法により調製される調製物は、この方法がこれに関してはどんな方法でも限定されないので、広範な電気運搬薬剤送達システムと一緒に使用することができる。例えば、電気運搬薬剤送達システムについては、それらの全体を引用することによりそれぞれの明細が本明細書に取り入れられている、Theeuwes等に対する米国特許第5,147,296号、Theeuwes等に対する第5,080,646号、Theeuwes等に対する第5,169,382号及びGyory等に対する第5,169,383号明細書を参照することができる。
【0047】
電気運搬送達装置のレザボアは概括的にゲルマトリックスを含んでなり、そこで薬剤溶液が少なくとも1種のレザボア中に均一に分散されている。ゲルマトリックスに適したポリマーは本質的に任意の非イオンの合成及び/又は天然に存在するポリマー物質を含んでなることができる。物質の溶解度を高めるために、活性物質が極性でそして/又はイオン化可能な時は極性の性状が好ましい。ゲルマトリックスは場合により水膨潤性であってもよい。適した合成ポリマーの例にはそれらに限定はされないが、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(n−メチロールアクリルアミド)、ポリ(ジアセトンアクリルアミド)、ポリ(2−ヒドロキシルエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)及びポリ(アリルアルコール)が包含される。ヒドロキシル官能基縮合ポリマー(すなわちポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン)もまた適した極性の合成ポリマーの例である。ゲルマトリックスとしての使用に適する極性の天然に存在するポリマー(又はそれらの誘導体)はセルロースエーテル、メチルセルロースエーテル、セルロース及びヒドロキシル化セルロース、メチルセルロース及びヒドロキシル化メチルセルロース、グア、イナゴマメ、カラヤゴム、キサンタン、ゼラチンのようなガム及びそれらの誘導体により代表される。利用可能な対イオンが薬剤イオン又は活性物質に対して反対に帯電した他のイオンのいずれかであると仮定すると、イオン性ポリマーもまたマトリックスとして使用することができる。
【0048】
本発明の特定の態様において、電気運搬送達システムのレザボアはヒドロゲルを含んでなる。本発明の他の態様において、レザボアは非ヒドロゲルの乾燥したマトリックスを含んでなる。
【0049】
本発明の特定の好ましい態様において、電気運搬送達システムのレザボアは例えば、それらの全体を引用することにより本明細書に取り入れられている、米国特許第6,039,977号明細書に記載されたようなポリビニルアルコールのヒドロゲルを含んでなる。ポリビニルアルコールのヒドロゲルは例えば、米国特許第6,039,977号明細書に記載されたように調製することができる。本発明の方法の特定の態様において、電気運搬送達装置のレザボアのためのゲルマトリックスを調製するために使用されるポリビニルアルコールの重量パーセントは約10%〜約30%、好ましくは、約15%〜約25%、そしてもっとも好ましくは約19%である。
【0050】
ゲルマトリックス中への薬剤溶液の取り込みは多数の方法で、すなわちレザボアマトリックス中に溶液を吸収する、ヒドロゲル形成の前にマトリックス物質と薬剤溶液を混合する等により実施することができる。
【0051】
従って、本発明の方法を使用して薬剤溶液のpHを調整後そして、第2のイオン交換物質とpH調整済み溶液を接触させる前又は後のいずれかに、溶液を薬剤レザボア、例えば、直前に記載されたようなゲルマトリックス中に取り入れ、次に電気運搬薬剤送達システムを使用して患者に投与する。第2のイオン交換物質は電気運搬期間中の薬剤レザボアのpHの変動を減少させ、そしてレザボアの所望のpHを維持させて、薬剤のより大きな安定度及び高い送達率をもたらす役目をもつ。
【0052】
本発明の特定の態様において、pH調整済み薬剤溶液は第2のイオン交換物質と接触され、次に溶液は患者への投与のための電気運搬送達装置のレザボア中に取り入れられるよりむしろ、貯蔵される。第2のイオン交換物質は薬剤溶液のpHの変動を減少し、そして長期の貯蔵期間中、溶液の所望のpHを維持する役割を果たす。従って本発明の方法に従って調製される薬剤溶液は例えば、数週間から数カ月から数年のような長期間にわたり安定に貯蔵されることができる。
【0053】
本発明の特定の他の態様において、pH調整済み溶液は電気運搬送達システムのレザボア中に導入され、レザボア中への取り入れの前又は後のいずれかに第2のイオン交換物質と接触される。即座に使用される代わりに、レザボアは長期間貯蔵される。第2のイオン交換物質はレザボアのpHの変動を減少させ、貯蔵期間中、レザボアの所望のpHを維持する働きをする。本発明の方法に従って調製されるpH調整済み薬剤溶液を含有するレザボアは例えば、数週間から数カ月から数年までのような長期間にわたり安定に貯蔵することができる。
【0054】
以下の実施例は本発明の特定の態様の具体例であり、本発明の範囲を限定するものと考えてはならない。
【実施例1】
【0055】
電気運搬のためのカチオン薬剤の調製物の調製
図1に示され、化合物1と呼ばれる2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニ
リノ]−1−プロペニル]ベンズアミジン誘導体の濃厚溶液のpHを、薬剤溶液にNaOH又は少量のヒドロキシル化アニオン交換樹脂(AG1−X8)のいずれかを添加することにより調整した。薬剤分子のクロライド対イオンの樹脂からのヒドロキシドとの交換は、電気運搬期間中に薬剤流量を減少する可能性があると考えられるどんな競合イオンをも導入せずに薬剤溶液のpHを上昇させた。薬剤溶液のpHを所望の値に調整した後に、樹脂をシリンジフィルター(0.2μm)を通す濾過により除去した。
【0056】
ヒドロゲルを典型的には、90℃で30分間精製水中19重量%のポリビニルアルコール(PVOH)を入れ、温度を50℃に低下させ、ディスク中にゲル懸濁液を分散させ、そして凍結硬化させることにより調製した。次に形成されたヒドロゲルを室温で濃厚水溶液としてpH調整済み薬剤溶液を吸収させて、所望の薬剤添加物を得た。あるいはまた、薬剤添加は凍結前にPVOHヒドロゲル溶液に薬剤のpH調整済み溶液を添加することにより達成された。熱処理調製物においてPVOHは90℃の精製水に溶解された。50℃への温度の低下後、薬剤のpH調整済み水溶液をPVOH溶液に添加し、30分間撹拌した。PVOH−薬剤混合物をディスク中に懸濁させ、凍結硬化させた。完成ヒドロゲルを流量の研究に使用するか又は薬剤安定度分析用に精製水で抽出した。
【0057】
電気運搬期間中、ヒドロゲルのpHを維持するために、異なるバッファーをヒドロゲル中に直接に又は薬剤添加溶液を通してのいずれかで取り込んだ。カルボン酸官能基をもつアニオン交換樹脂のポラクリリン(Amberlite(R)IRP−64)を種々の重量パーセントにおける熱処理中にヒドロゲル溶液に直接添加した。
【0058】
最初に薬剤溶液のpHを調整するためにNaOHを使用した時には、10〜12時間の遅延後、定常状態の流量が典型的に達成された。薬剤溶液のpHを最初に調整するためのアニオン交換樹脂の使用は薬剤ヒドロゲル中への競合ナトリウムイオンの導入を排除した。その結果、定常状態の流量に達する時間が図2に示すように約3〜4時間に短縮された。
【0059】
ポリマー(ポラクリリン又はアクリレート)のバッファーをヒドロゲル中に取り入れると、pHは0.1mA/cmの電流密度において24時間、インビトロの電気運搬期間中に95meq/mLの濃度の30%中和ポラクリリンバッファーに対して0.21の初回値内に維持された。すべての調製物に対して、定常状態の流量は未緩衝ヒドロゲルで認めたものと同様であった。ポリマーのバッファーの緩衝能は中和度の関数であった。pHの変動は中和度の増加とともに減少した。薬剤流量に対して主要な影響を伴わずに、流量の研究(インビトロ)の異なる中和度において種々のイオン強度を使用した。表1はポリマーのイオン強度に対する中和度の効果を示す。中和度が増加するに従って、pHの変動はすべての事例で急激でなかった。
【0060】
表1:ポリマー樹脂(n=3)の種々のイオン強度及び中和度における、化合物1含有ポラクリリンで緩衝されたヒドロゲルのpHの変動
バッファー濃度(meq/mL) 中和度パーセント pH変動
28 5 0.38
28 10 0.7
28 30 −0.04
57 5 −0.38
57 30 0.85
44 6 −0.78
95 30 0.21
140 25 0.77
【0061】
更に、前記のように調製され、ポラクリリン及び化合物1を含有するヒドロゲルは4℃、25℃又は40℃で12週間貯蔵され、ヒドロゲルのpHが毎週測定された。図3は経時的に起ったヒドロゲルのpHの変化を示し、ポラクリリンが貯蔵期間中のヒドロゲルを緩衝する役割を果たしたことを示す。
【実施例2】
【0062】
電気運搬のためのアニオン薬剤の調製物の調製
アニオン薬剤のpHはポリマーのカチオン交換物質で調整され、次に以下の方法に従ってポリマーのイオン交換物質で緩衝される。
【0063】
薬剤のセフトリアキソン(ceftriaxone)(二ナトリウム塩として供給)は溶液中で塩基として働く以下の3種のpKa:3(カルボン酸)、3.2(アミン)及び4.1(エノールOH)を有する。ヘンダーソン−ハッセルバッハの方程式(Henderson−Hasselbach equation)を使用すると、このシステムの理論的最終pHを計算することができる。
【0064】
ポリマーのカチオン交換物質をセフトリアキソンの溶液に添加して、薬剤の第2及び第3のpKaの中間の値に溶液のpHを調整する。次に適当なpKaをもつ適当なポリマーのイオン交換物質を使用して、貯蔵及び/又は電気運搬装置の操作期間中のpHを維持するように溶液を緩衝する。
【0065】
2.85、3.37及び4.18のpKa値をもつ薬剤のセホジザイム二ナトリウム塩に対して同様な方法を使用する。
【0066】
本文書中に引用又は記載された各特許、特許出願物及び刊行物の開示全体が引用により本明細書に取り入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】化合物1、2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1−プロペニル]ベンズアミジン誘導体の化学構造を表わす。
【図2】ポリマー樹脂又はNaOHのいずれかでpH調整された化合物1の溶液を添加されたヒドロゲルから熱分離されたヒトの表皮を横切る化合物1のイオン導入流(0.1mA/cm)を表わす。
【図3】ポラクリリン及び化合物1を含有するヒドロゲル中の緩衝を表わす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤のイオン及び会合された対イオンを含んでなる薬剤溶液を提供する工程、
薬剤溶液を第1のイオン交換物質と接触させることにより薬剤溶液のpHを調整する工程、
第1のイオン交換物質をpH調整済み薬剤溶液から分離する工程、
pH調整済み薬剤溶液を電気運搬送達システムのレザボアに添加する工程、並びに
pH調整済み薬剤溶液を第2のイオン交換物質と接触させる工程、
を含んでなる電気運搬送達システムにおいて使用するための組成物の調製方法。
【請求項2】
電気運搬送達システムのレザボアがゲルマトリックスを含んでなる請求項1の方法。
【請求項3】
ゲルマトリックスがポリ(アクリルアミド)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(n−メチロールアクリルアミド)、ポリ(ジアセトンアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシルエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アリルアルコール)、ポリエステル、ポリカルボネート、ポリウレタン、セルロースエーテル、メチルセルロースエーテル、セルロース及びヒドロキシル化セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシル化メチルセルロース、グア、イナゴマメ、カラヤゴム、キサンタン、ゼラチン又はそれらの誘導体を含んでなる請求項2の方法。
【請求項4】
ゲルマトリックスがポリ(ビニルアルコール)を含んでなる請求項3の方法。
【請求項5】
薬剤のイオンがカチオンであり、結合対イオンがアニオンであり、そして第1のイオン交換物質が第1のポリマーのアニオン交換物質である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項6】
薬剤のイオンがカチオンであり、結合対イオンがアニオンであり、そして第1のイオン交換物質が第1のポリマーのアニオン交換物質であり、そして薬剤溶液が第1のポリマーのアニオン交換物質と接触される時にヒドロキシルイオンがカチオン薬剤のイオンと結合したアニオンの対イオンに交換される、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項7】
薬剤溶液のpHがpH3〜pH9の間に調整される、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項8】
第1のポリマーのイオン交換物質が第1のポリマーのアニオン交換樹脂である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項9】
第1のポリマーのイオン交換物質が水酸化物形態のアミン含有ポリマーを含んでなる第1のポリマーのアニオン交換樹脂である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項10】
アミン含有ポリマーがポリビニルアミン、ポリエピクロロヒドリン/テトラエチレントリアミン、スチレンとジビニルベンゼンのコポリマー、アクリル/ジビニルベンゼン・コポリマー及びアクリル/エチレングリコールジメタクリレート・コポリマーからなる群から選択される請求項9の方法。
【請求項11】
第1のポリマーのイオン交換物質が第1のポリマーのアニオン交換膜である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項12】
第2のイオン交換物質が第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂である、先行
する請求項のいずれかの方法。
【請求項13】
第2のイオン交換物質がポラクリリン、アクリレート、メチルスルホネート、メタクリレート、カルボン酸官能基、スルホン酸、スルホイソブチル又はスルホキシエチルを含んでなる第2のポリマーのイオン交換樹脂である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項14】
第2のイオン交換物質がポラクリリン又はアクリレートを含んでなる、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項15】
第2のイオン交換物質がポリアクリル酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリアクリルリン酸又はポリアクリルグリコール酸を含んでなる第2のポリマーのカチオン交換樹脂である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項16】
第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の中和度が2%〜70%である請求項12の方法。
【請求項17】
第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の濃度が20meq/mL〜200meq/mLである請求項12の方法。
【請求項18】
第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の中和度が2%〜70%でありそして第2のポリマーのアニオン又はカチオン交換樹脂の濃度が20meq/mL〜200meq/mLである請求項12の方法。
【請求項19】
薬剤溶液がファクターXaインヒビターであるカチオン薬剤及び抗凝固剤を含有する、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項20】
カチオン薬剤がベンズアミジン誘導体である請求項19の方法。
【請求項21】
薬剤イオンがアニオンであり、結合対イオンがカチオンであり、そして第1のイオン交換物質が第1のポリマーのカチオン交換物質である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項22】
薬剤溶液がアニオン薬剤のイオンを含有し、そして溶液が第1のイオン交換物質と接触される時に、ヒドロニウムイオンがアニオン薬剤のイオンと結合したカチオンの対イオンと交換される、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項23】
第1のイオン交換物質が1個又は複数の酸部分を有するポリマーを含んでなる、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項24】
薬剤溶液が水溶液である、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項25】
第1のイオン交換物質が濾過又は遠心分離によりpH調整済み薬剤溶液から分離される、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項26】
電気的に補助される運搬を使用して患者に第2のイオン交換物質と接触させたpH調整済み薬剤溶液を送達する工程を更に含んでなる、先行する請求項のいずれかの方法。
【請求項27】
第2のイオン交換物質と接触されたpH調整済み薬剤溶液のpHの変動が電気的に補助される運搬の期間中に減少される請求項26の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−511617(P2007−511617A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541596(P2006−541596)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/039096
【国際公開番号】WO2005/051484
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】