説明

電気防食装置

【課題】 小型の熱交換器等に用いられ、簡便、かつ安価に流電陽極を大幅に長寿命化することができる電気防食装置を提供すること。
【解決手段】 中空部を有する板状流電陽極を該中空部でボルト及びナットを用いて被防食体に取り付け、該中空部の空隙を充填材により充填してなる電気防食装置において、該板状流電陽極が重ね合わされた第1段及び第2段板状流電陽極又は第1〜3段板状流電陽極とからなり、該板状流電陽極をナット部とボルト部を有する取付ボルトを用いて固定し、該被防食体に取り付けることを特徴とする電気防食装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食装置に関し、詳しくは小型熱交換器等に用いられ、安価、かつ簡便に流電陽極を長寿命化させた電気防食装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラント向けの小型熱交換器等は、海水や工業用水等の電解質と接しているため、腐食電流が発生し、小型熱交換器を構成する金属が腐食する。この腐食を防止するため、外部電源により防食を図る外部電源方式の防食法と共に、流電陽極により防食を図る流電陽極方式の防食法が採用されている。この流電陽極方式の防食法においては、従来、中空部を有する一定規格の板状流電陽極(厚さ30〜50mm)をその中空部でボルト及びナットにより被防食体に固定して取り付け、空隙に充填材を充填してなるものが用いられているが、その陽極量に限界があり、プラントの定期検査の期間内に陽極が消耗するといった事態を招いていた。このため、流電陽極の長寿命化が特に指向されていた。
【0003】
従来、このような小型熱交換器等に用いられる流電陽極には、様々な提案がなされている。例えば特許文献1(特開昭58−78097号公報)には、犠牲陽極板の取付ボルトの下端部に段差を設け、陽極交換時のライニング材の剥離を防止した海水熱交換器が記載されている。しかし、この海水熱交換器は取付ボルトを溶接後、水室をライニングする必要があり、手間がかかる。通常は、このような手間を回避すべく、無ライニングの水室内の仕切板に取付ボルトを溶接して陽極を取付けている。
【0004】
また、特許文献2(実開昭49−17904号全文明細書)には、多数の流電陽極を所要の間隔を隔てて、取付け面より浮かせて設けることにより大きな防食電流を発生できることが記載されている。しかし、この防食装置は流電陽極が仕切板から離れているので、冷却水の流れに悪影響を及ぼす。
【0005】
特許文献3(特開昭51−5651号公報)には、熱交換器の管板を流電陽極材料との複合金属板で構成した熱交換器の防食法が記載されており、このことにより被防食体の電位を防食電位に保ち、また。陽極の寿命を延長するとされている。しかし、この防食法では熱交換器の効率が低下するため、このような複合金属板は実質的に使用されていない。
【0006】
上記のような特許文献1〜3に記載の装置又は方法では、流電陽極を本質的に長寿命化することは困難である。
【0007】
【特許文献1】特開昭58−78097号公報
【特許文献2】実開昭49−17904号全文明細書
【特許文献3】特開昭51−5651号公報
【0008】
現在、流電陽極を長寿命化させるためには、熱交換器に取り付けられている流電陽極の増設を行うか、あるいは板厚の板状流電陽極を特別に製造することに限られていた。
【0009】
しかし、流電陽極の増設は、熱交換器等への加工が数多く必要となり、増設コストや手間がかかることになる。
【0010】
一方、板厚の板状流電陽極を特別に製造することは、陽極製造にコストや時間がかかることとなる。また、流電陽極交換時に、板厚の流電陽極を固定するボルト穴が深いため充填材の除去も困難となる。
【0011】
上述のように、流電陽極を簡便、かつ安価に長寿命化させる電気防食装置は得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、小型の熱交換器等に用いられ、簡便、かつ安価に流電陽極を大幅に長寿命化することができる電気防食装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、検討の結果、従来用いられている標準タイプの板状流電陽極を特定の取付ボルトを用いて2段又は3段付けすることにより上記目的が達成し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、中空部を有する板状流電陽極を該中空部でボルト及びナットを用いて被防食体に取り付け、該中空部の空隙を充填材により充填してなる電気防食装置において、該板状流電陽極が重ね合わされた第1段及び第2段板状流電陽極又は第1〜3段板状流電陽極とからなり、該板状流電陽極をナット部とボルト部を有する取付ボルトを用いて固定し、該被防食体に取り付けることを特徴とする電気防食装置を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記板状流電陽極が、第1段及び第2段板状流電陽極からなり、上記第1段板状流電陽極をボルトと取付ボルトのナット部で固定し、上記第2段板状流電陽極を取付ボルトのボルト部とナットで固定する上記電気防食装置を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記板状流電陽極が第1〜3段板状流電陽極からなり、上記第1段板状流電陽極をボルトと第1の取付ボルトのナット部で固定し、上記第2段板状流電陽極を第1の取付ボルトのボルト部と第2の取付ボルトのナット部で固定し、上記第3段板状流電陽極を第2の取付ボルトのボルト部とナットで固定する上記電気防食装置を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記第1段及び第2段板状流電陽極又は第1〜3段板状流電陽極が同一形状である上記電気防食装置を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、上記被防食体が小型熱交換器である上記電気防食装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電気防食装置は、従来用いられている標準タイプの板状流電陽極を取付ボルトにより2段又は3段付けすることにより1ヶ所への取付数量が倍増できることから、被防食体への取付ボルト増設等の加工なしで、しかも特注の流電陽極を使用しなくても電気防食期間の大幅な増加、すなわち流電陽極の長寿命化が容易に可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は、本発明に係る電気防食装置1の一実施形態を示す概略断面図である。
【0021】
図1において、第1段板状流電陽極2aは、その中空部でボルト3及び取付ボルト4のナット部で固定し被防食体7に取り付けられている。そして、第1段板状流電陽極2aの中空部の空隙には充填材6が充填されている。
【0022】
また、第2段板状流電陽極2bは、上記板状流電陽極2aの上に重ね合わせて配置され、その中空部で取付ボルト4のボルト部及びナット5で固定されており、中空部の空隙は、上記と同様に充填材6が充填されている。
【0023】
ここで用いられる板状流電陽極2a,2bは、上述のように中空部を有するものであり、材質はアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金等からなる。この板状流電陽極2a,2bは、異なった厚みのものを用いてもよいが、経済性を考慮した場合には、標準タイプの厚さ30〜50mmの同一形状のものを用いることが望ましい。
【0024】
また、本発明に係る電気防食装置1が設置される被防食体7としては小型の熱交換器が挙げられ、特に円筒多管式熱交換器である。その材質は銅合金、二層ステンレス鋼、チタン等が使用され、熱交換器に用いられる冷却水は海水、工業用水等である。
【0025】
本発明に用いられる取付ボルト4の側断面図を図2に、また横断面図を図3にそれぞれ示す。図2及び3に示すように、取付ボルト4は空孔部4a、ナット部4b及びボルト部4cから構成され、標準タイプの板状流電陽極(厚さ40mm)2a,2bを用いる場合には、取付ボルト4のナット部4bは40mmとボルト部4cは30mmの一体形状となっており、空孔部4a(完全ネジ部)は30mmである。
【0026】
次に、この取付ボルト4を用いた板状流電陽極2a,2bの取付方法を詳述する。まず、第1段板状流電陽極2aの中空部に既設ボルト3を設置し、ボルト3を取付ボルト4の空孔部4aに螺合し、ナット部4bで締め込み固定し、中空部の空隙を充填材6により充填する。なお、ボルト3は、予め被防食体7に固定されている。
【0027】
次に、第2段板状流電陽極2bの中空部に取付ボルト4のボルト部4cを設置し、既設ナット5で締め込み固定し、中空部の空隙を充填材6により充填する。
【0028】
このようにして2段の板状流電陽極2a,2bが被防食体7に設置され、陽極取付量が2倍となる。なお、上述のように、板状流電陽極2a,2bの厚みを変えることも可能であり、また取り付けられる流電陽極の一部を2段の板状流電陽極とすることもできる。このため、陽極取付量を1.2倍、1.5倍等の微調整が可能となる。
【0029】
また、板状流電電極を第1〜3段の3段とする場合には、第1及び第2の取付ボルトを用い、第1段板状流電陽極を既設のボルトと第1の取付ボルトのナット部で固定し、第2段板状流電陽極を第1の取付ボルトのボルト部と第2の取付ボルトのナット部で固定し、上記第3段板状流電陽極を第2の取付ボルトのボルト部と既設のナットで固定することとなる(図示せず)。この場合には、流電陽極量は3倍となる。板状流電陽極を4段以上とすることも可能ではあるが、取付ボルトの強度を考慮すると実用的ではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
上述したように、本発明に係る電気防食装置は、簡便、かつ安価に流電陽極を長寿命化することが可能である。従って、本発明に係る電気防食装置は、小型の熱交換器の電気防食に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に係る電気防食装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明に用いられる取付ボルトの縦断面図である。
【図3】図3は、本発明に用いられる取付ボルトの横断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:電気防食装置
2:板状流電陽極
2a:第1段板状流電陽極
2b:第2段板状流電陽極
3:ボルト
4:取付ボルト
4a:空孔部
4b:ナット部
4c:ボルト部
5:ナット
6:充填材
7:被防食体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有する板状流電陽極を該中空部でボルト及びナットを用いて被防食体に取り付け、該中空部の空隙を充填材により充填してなる電気防食装置において、該板状流電陽極が重ね合わされた第1段及び第2段板状流電陽極又は第1〜3段板状流電陽極とからなり、該板状流電陽極をナット部とボルト部を有する取付ボルトを用いて固定し、該被防食体に取り付けることを特徴とする電気防食装置。
【請求項2】
上記板状流電陽極が、第1段及び第2段板状流電陽極からなり、上記第1段板状流電陽極をボルトと取付ボルトのナット部で固定し、上記第2段板状流電陽極を取付ボルトのボルト部とナットで固定する請求項1記載の電気防食装置。
【請求項3】
上記板状流電陽極が第1〜3段板状流電陽極からなり、上記第1段板状流電陽極をボルトと第1の取付ボルトのナット部で固定し、上記第2段板状流電陽極を第1の取付ボルトのボルト部と第2の取付ボルトのナット部で固定し、上記第3段板状流電陽極を第2の取付ボルトのボルト部とナットで固定する請求項1記載の電気防食装置。
【請求項4】
上記第1段及び第2段板状流電陽極又は第1〜3段板状流電陽極が同一形状である請求項1、2又は3記載の電気防食装置。
【請求項5】
上記被防食体が小型熱交換器である請求項1〜4のいずれかに記載の電気防食装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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