説明

電池システム、車両、および電池搭載機器

【課題】 電池ケースの内部に収容した潜熱放出液から確実に潜熱を放出させて、低温下の発電要素を加熱し、その温度を上昇させることができる電池システム、そのシステムを用いる車両、および電池搭載機器を提供する。
【解決手段】 電池システム2は、発電要素20と、潜熱Hを放出する潜熱放出液12、及び、凝固開始部材11h、を液密に収容してなる潜熱放出液容器10と、発電要素20及び潜熱放出液容器10を、自身の内部に収容してなる電池ケース30と、を含む電池1、及び、潜熱放出液容器10内の凝固開始部材11hについて、凝固の起点となる移動を起こさせる凝固開始部材移動手段60を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システム、電池システムを用いる車両、および電池システムを用いる電池搭載機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、リチウムイオン二次電池のような電池に用いる発電要素は、イオン導電性に依存する部分と電子導電性に依存する部分とがあり、イオンと電子の両者が動くことによって電気を発電する。そのうち、イオン導電性は温度依存しており、低温ほどイオンは動き難くなる。さらに、発電要素が電解質溶液を使用した場合、低温ほど溶液の粘度が上昇し、発電要素内の抵抗が大きくなる。このため、低温時に電池を使用するときには、発電要素の温度を上昇させる必要がある。
そこで、発電要素を取り囲んでいる過冷却状態の物質が、液体から固体に相転移した時に発生する潜熱を用いて、発電要素を加熱する発電要素の起動方法、およびそのような方法を備える二次電池が提案されている(特許文献1参照)。
この技術では、発電要素の起動方法を備える二次電池に用いた場合、放出された潜熱が、発電要素を加熱し温度を上昇させるので、低温下での発電要素の特性低下が緩和され、電池出力を大きく取れるなど、電池特性を改善することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−141929公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の文献に記載のものは、過冷却とする液体を、発電要素の外部を取り囲むように配置して、電池は全体の体積が大きくなる。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電池ケースの内部に収容した潜熱放出液から確実に潜熱を放出させて、低温下の発電要素を加熱し、その温度を上昇させることができる電池システム、そのシステムを用いる車両、および電池搭載機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、その解決手段は、発電要素と、潜熱放出液容器であって、過冷却状態から固体状態への凝固により潜熱を放出可能な潜熱放出液、及び、上記潜熱放出液内に保持された凝固開始部材であって、自身の上記潜熱放出液に対する相対移動により、上記潜熱放出液の過冷却状態から固体状態への凝固の起点となる凝固開始部材、を液密に収容してなる潜熱放出液容器と、上記発電要素及び上記潜熱放出液容器を、自身の内部に収容してなる電池ケースと、を含む電池、及び、上記潜熱放出液容器内の上記凝固開始部材について、上記凝固の起点となる移動を起こさせる凝固開始部材移動手段、を備える電池システムである。
【0007】
本発明の電池システムによれば、電池の使用開始前に、電池が冷却されて、潜熱放出液が過冷却状態となっている場合において、この電池の使用開始にあたり、凝固開始部材移動手段で、潜熱放出液容器内の凝固開始部材を移動させた場合には、凝固開始部材を起点に、過冷却状態の潜熱放出液が固体状態へ凝固する。これにより、潜熱放出液から潜熱が放出される。すると、同じ電池ケース内の発電要素が加熱されて温度を上昇させることができる。これにより、低温下での発電要素の特性低下が緩和され、電池の使用開始当初から電池出力を大きく取れるなど、電池使用開始時の電池特性を改善することができる。
【0008】
また、本発明の電池システムでは、発電要素と潜熱放出液容器とを電池ケース内に収容しているので、潜熱放出液から放出される潜熱を、発電要素の加熱に有効に利用することができる。
【0009】
さらに、本発明の電池システムでは、潜熱放出液容器中に、潜熱放出液のほか、凝固開始部材を収容しており、電池とは別の凝固開始部材移動手段で、凝固開始部材を移動させる。従って、潜熱放出液が過冷却状態となっているのであれば、潜熱放出液容器を発電要素と共に電池ケース内に収容していながらも、潜熱放出液について、過冷却状態から固体状態への凝固を確実に起こさせて、確実に潜熱を放出させることができる。
【0010】
なお、発電要素としては、例えば、正極活物質を担持した正電極板、負極活物質を担持した負電極板、およびこれらの間に介在するセパレータを備える発電要素が挙げられる。従って例えば、帯状の正電極板と帯状の負電極板を帯状のセパレータを介して捲回した捲回形状の発電要素や、複数の正電極板と複数の負電極板とを、セパレータを介して交互に積層した積層形状の発電要素が挙げられる。
【0011】
また、潜熱放出液としては、低温下で過冷却状態となりうる液体で、固体に凝固する際には潜熱を発生するものであれば良いが、潜熱の大きいものが好ましい。具体的には、酢酸ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、ヨウ化カルシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、これらの混合物等が挙げられる。
また、凝固開始部材としては、潜熱放出液による変質、腐食等が生じにくい材質を選択すると良く、例えば、ステンレス等の金属、アルミナ、窒化ケイ素等のセラミック、ガラス、ポリエチレン、PTFE等のフッ素樹脂などのプラスチックからなる部材、金属等をプラスチックで包囲した部材等が挙げられる。また、フィライトその他の永久磁石や永久磁石をプラスチックで内包したものも挙げられる。また、形状としては、球形のほか、サイコロ状、棒状、十字状等、適宜の形態とすることができる。
【0012】
さらに、潜熱放出液容器としては、潜熱放出液を液密に収容できるものであればよいが、潜熱放出液、および、電解液による変質、腐食等が生じにくい材質を選択すると良い。また、絶縁性を有する材質を選択すると良い。具体的には、ポリエチレン、PET、ポリプロピレン、PTFE等のフッ素樹脂などのプラスチックが挙げられる。
また、この潜熱放出液容器の、電池ケース内における配置位置としては、例えば、捲回形の発電要素における軸心、電池ケース内隅部の空きスペース、積層形の発電要素における層間等が挙げられる。
【0013】
さらに、電池システムとしては、1つの電池および凝固開始部材移動手段を備えるもののほか、複数の電池を直列、並列等に接続した組電池を備える一方、各電池に対応して、それぞれ凝固開始部材移動手段を備える電池システムが挙げられる。また、複数の電池を直列、並列等に接続した組電池を備える一方、複数の電池について凝固開始部材を移動させうる凝固開始部材移動手段を1つまたは電池の数より小数だけ備える電池システムも挙げられる。
【0014】
上述の電池システムであって、前記発電要素または前記潜熱放出液の温度に応じた温度信号を出力する温度検知手段、及び、上記温度信号に基づき、前記電池の使用開始時に、前記凝固開始部材移動手段の駆動を制御する制御手段、を備える電池システムとすると良い。
【0015】
本発明の電池システムでは、温度検知手段を備えているので、潜熱放出液が過冷却の状態となっているかどうか、また、発電要素を潜熱放出液の発熱によって加熱するのが好ましいのか否かを適切に判断することができる。
また、温度信号に基づいて制御を行うので、電池の使用開始時であっても、凝固開始部材移動手段の駆動が不要の場合(電池の温度が高い場合など)には、この凝固開始部材移動手段の駆動を行わないなど、適切な駆動制御を行うことができる。
【0016】
なお、温度検知手段としては、例えば、サーミスタや熱電対等の温度検知素子を使用するものが挙げられる。温度検出素子は、電池内に配置されても良いし、電池外に配置されても良い。また、複数の電池を備える場合には、すべての電池について温度を検出するほか、1つあるいは一部の電池について温度を検出するようにしても良い。
【0017】
さらに、上述の電池システムであって、前記凝固開始部材は、前記潜熱放出液より大きな比重を有する、大比重部材であり、前記凝固開始部材移動手段は、前記電池ケースに衝撃を与えることにより、上記大比重部材を相対移動させる衝撃付与手段である電池システムとすると良い。
【0018】
本発明の電池システムでは、大比重部材を潜熱放出液容器内に有する一方、衝撃付与手段を備えているので、電池ケースに与えられた衝撃が、電池ケースに収容されている潜熱放出液容器内の大比重部材の潜熱放出液との相対移動を生じさせる。これにより、大比重部材を起点として、確実に潜熱放出液に凝固させ、潜熱放出液から確実に潜熱を放出させることができる。
【0019】
なお、衝撃付与手段としては、電池ケースに衝撃を与えて大比重部材を相対移動させうる構成としたものであれば良い。例えば、電磁石駆動のハンマが挙げられる。
【0020】
さらに、上述の電池システムであって、前記凝固開始部材は、永久磁石からなるまたは永久磁石を内包する磁石部材であり、前記凝固開始部材移動手段は、磁束を発生させることにより、上記磁石部材を相対移動させる磁石部材移動手段である電池システムとすると良い。
【0021】
本発明の電池システムでは、磁石部材を潜熱放出液容器内に有する一方、磁石部材移動手段を備えている。このため、この磁石部材移動手段で磁束を発生させると、磁石部材を非接触で移動させることができる。かくして、この磁石部材を起点として、確実に潜熱放出液に凝固が生じさせ、潜熱放出液から確実に潜熱を放出させることができる。
【0022】
さらに、上述の電池システムであって、前記発電要素は、帯状の正電極板及び負電極板を、帯状のセパレータを介して、前記潜熱放出液容器の回りを囲んで捲回された捲回形発電要素である電池システムとすると良い。
【0023】
本発明の電池システムでは、潜熱放出容器の回りを捲回形発電要素で囲んでいる。このため、潜熱放出液から放出される潜熱を、これをとり囲む発電要素で効率良く利用してその温度を上昇させることができる。従って、他の形態の電池よりも、容易に電池特性の向上を得ることができる。
【0024】
さらに、他の解決手段は、上述の電池システムを用いた車両である。
【0025】
本発明の車両では、上述の電池システムを用いているので、低温下にある車両が搭載する電池の温度を確実に上昇させることができる車両とすることができる。
【0026】
なお、電池システムを用いた車両としては、その動力源の全部あるいは一部に電池による電気エネルギーを使用している車両であれば良く、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、フォークリフト、電気車いす、電動アシスト自転車、電動スクータ、鉄道車両が挙げられる。
【0027】
さらに、他の解決手段は、上述の電池システムを用いた電池搭載機器である。
【0028】
本発明の電池搭載機器は、上述の電池システムを用いているので、低温下にある電池搭載機器が備える電池の温度を確実に上昇させることができる電池搭載機器とすることができる。
【0029】
なお、電池搭載機器としては、電池を搭載しこれをエネルギー源の少なくとも1つとして利用する機器であれば良く、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、電池駆動の電動工具など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(実施形態1)
次に、本発明の実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。
まず図1は、本実施形態1にかかる電池システム2を示す図であり、この電池システム2は、電池1、衝撃付与装置60、制御装置70、およびサーミスタ80を備える。
【0031】
本実施形態1にかかる電池システム2のうち、電池1は、潜熱放出液容器10、発電要素20、正極端子部材24、負極端子部材25、および電池ケース30を備え、軸心AXを有する捲回形リチウムイオン二次電池である。
この電池ケース30は、金属製で上部が開いた有底円筒形状の電池ケース本体31、金属製の凹型円盤形状の封口蓋32、凸型円盤形状の正極端子部材33、および電池ケース本体31と封口蓋32の間を介在するガスケット35を備える。また、封口蓋32と正極端子部材33の間隙に安全弁34を備える。電池ケース30内には図示しない電解液が充填されている。
また、発電要素20は、正電極板21および負電極板22が、セパレータ23を介して捲回されており、断面で見ると、積層構造にされている。そして、正電極板21は正極集電部材24に、および負電極板22は負極集電部材25にそれぞれ溶接されている。さらに、正極集電部材24は封口蓋32に、負極集電部材25は電池ケース本体31にそれぞれ電気的に接続している。
【0032】
さらに、潜熱放出液容器10は、図2に示すように、ポリエチレン製の円筒形容器であり、その内部には1つのSUS製の球体である凝固開始部材11hと、酢酸ナトリウム飽和水溶液からなる潜熱放出液12を液密に備える。
凝固開始部材11hは、その比重が潜熱放出液12のものよりも大きい、大比重部材であるので、潜熱放出液12が液体である場合には、凝固開始部材11hの表面10fは潜熱放出液容器10の内底面10Bと接触している。
【0033】
一方、サーミスタ80は、図1に示すように、電池1の電池ケース本体31の外表面31aに直接接触し保持されている。また、衝撃付与装置60は、強磁性を有するフェライトからなる円柱形状のハンマ62、このハンマ62が内部を移動可能な内径を有する電磁コイル63、およびこの電磁コイル63を駆動可能な駆動回路61を備える。そして、この衝撃付与装置60は、駆動時に、ハンマ62の上面62aが、電池ケース本体31の外底面31bを直接的に衝撃を与えるように配置されている。さらに、制御装置70は、サーミスタ80から出力される温度信号を基に、電池1(発電要素20)の温度を検出し、検出温度が基準温度以下の場合には、衝撃付与装置60の駆動を駆動回路61に指令する。
【0034】
具体的には、この電池システム2を搭載した車両(後述する)などを、所定時間以上停止させていた場合など、所定の条件下で、電池1の使用を再開する場合に、図3のフローチャートに従って、衝撃付与装置60を駆動する。
まず、ステップS1において、サーミスタ80により電池1の温度を測定する。次いで、ステップS2でこれが所定温度(本実施形態1では0℃)以下であるか否かを判断する。ここで、YES(所定温度以下)の場合には、ステップS3に進み、衝撃付与装置60を駆動する。これにより、後述するように潜熱放出液12を凝固させて放熱させ、発電要素20を加熱する。一方、NO(所定温度を上回る)の場合には、ステップS3をスキップしてこの処理を終える。
【0035】
図4は、本実施形態1にかかる電池システム2のうち、潜熱放出液容器10の潜熱放出液12の状態変化を示す説明図であり、図4(a)は、凝固開始部材11hの移動直前を示す図、図4(b)は、凝固開始部材11hの移動直後を示す図である。
潜熱放出液容器10(潜熱放出液12)が過冷却とされた状態で、凝固開始部材11hが、潜熱放出液容器10内で、潜熱放出液12に対して相対移動をする。すると潜熱放出液12は、移動した凝固開始部材11hを起点にして凝固が始まる。その際、潜熱放出液12は、潜熱Hを外部に放出しながら、潜熱放出液容器10内にあるすべてが凝固して、固体12Sになる。
【0036】
次に、図5は、本実施形態1において衝撃付与装置60を駆動させた直後の説明図である。衝撃付与装置60は、ハンマ62を通じて、電池ケース本体31の外底面31bに直接衝撃を与える。前述のように、電池1の凝固開始部材11hは潜熱放出液12より比重が大きい大比重部材である。このため、衝撃付与装置60により電池ケースに衝撃を与えると、潜熱放出液容器10内の凝固開始部材11hと、潜熱放出液12との相対移動が生じる。これにより、凝固開始部材11hを起点として、確実に潜熱放出液12を凝固させ、潜熱放出液12から確実に潜熱を放出させることができる。
【0037】
かくして、上述の潜熱放出容器10を備える電池1、および衝撃付与装置60を備える電池システム2では、使用開始前の電池1の潜熱放出液12が過冷却状態となっている場合、発電要素20を加熱してその温度を上昇させることができる。これにより、低温下での発電要素20の特性低下を緩和し、電池1の使用開始当初から電池出力を大きく取れるなど、電池使用開始時の電池1の電池特性を改善することができる。
また、発電要素20と潜熱放出液容器10とを電池ケース30内に収容しているので、潜熱放出液12から放出される潜熱Hを、発電要素20の加熱に有効に利用することができる。
さらに、この電池システム2は、潜熱放出液容器10を発電要素20と共に電池ケース30内に収容していながらも、潜熱放出液12について、過冷却状態から固体状態への凝固を確実に起こさせて、確実に潜熱Hを放出させることができる。
【0038】
なお、本実施形態1にかかる上述の電池システム2は、サーミスタ80を備えているので、潜熱放出液12が過冷却の状態となっているかどうか、また、発電要素20を潜熱放出液12の発熱によって加熱するのが好ましいのか否かを適切に判断することができる。
また、制御装置70で温度信号に基づいた制御を行うので、電池1の使用開始時であっても、衝撃付与装置60の駆動が不要の場合(電池1の温度が高い場合など)には、駆動を行わないなど、適切な駆動制御を行うことができる。
【0039】
(実施形態2)
次いで、本実施形態2の電池システム102ついて、図6および図7を参照して説明する。この電池システム102は、電池101、磁束発生装置160、制御装置170、およびサーミスタ180を備える。
【0040】
本実施形態2にかかる電池101は、図6に示すような、潜熱放出液容器110、発電要素20、正極端子部材24、負極端子部材25、および電池ケース130を備え、軸心AXを有する捲回形リチウムイオン二次電池である。
このうち、電池ケース130および発電要素20は、実施形態1とほぼ同様であり、電池ケース130は、電池ケース本体131のほか、実施形態1と同じ封口蓋32、正極端子部材33、ガスケット35、安全弁34を備える。さらに電池ケース130内には図示しない電解液が充填されている。電池ケース本体131は、実施形態1における電池ケース本体31とほぼ同様であるが、図6に示すように、電池ケース本体131の底部131cの一部が、磁束Wの透過可能な樹脂からなる樹脂部材131Pで構成されている点で異なっている。
また、本実施形態2にかかる電池101のうち、発電要素20は、実施形態1と同様であり、正電極板21および負電極板22が、セパレータ23を介して捲回されており、断面で見ると、積層構造にされている。そして、正電極板21は正極集電部材24に、および負電極板22は負極集電部材25にそれぞれ溶接され、さらに、正極集電部材24は封口蓋32に、負極集電部材25は電池ケース本体131にそれぞれ接続されている。
【0041】
また、潜熱放出液容器110は、ポリエチレン製の円筒形容器であり、その内には、永久磁石からなる楕円球体状の凝固開始部材111mと、酢酸ナトリウム飽和水溶液からなる潜熱放出液12を液密に備える。
【0042】
一方、サーミスタ180は、電池101の電池ケース本体131の外表面131aに直接接触し保持されている。また、磁石部材移動手段である磁束発生装置160は、磁束Wの発生可能な磁束発生コイル162、および磁束発生コイル162に通電する通電回路161を備える。そして、図7に示すように、この磁束発生装置160は、磁束発生コイル162への通電時に発生する磁束Wが樹脂部材131Pおよび潜熱放出液容器110を透過することによって、潜熱放出液容器110内の凝固開始部材(永久磁石)111mが移動できるように配置される。さらに、制御装置170は、サーミスタ180が出力する電池101の発電要素20の温度信号を基に、実施形態1に於いて図2を参照して説明したのと同様に、電池101(発電要素20)の温度を検出し、検出温度が所定温度(本実施形態2では0℃)以下の場合には、磁束発生装置160の駆動を通電回路161に指令する。
【0043】
上述の潜熱放出容器110を備える電池101、および磁束発生装置160を備える電池システム102では、使用開始前の電池101の潜熱放出液12が過冷却状態となっている場合、発電要素20を加熱してその温度を上昇させることができる。これにより、低温下での発電要素20の特性低下を緩和し、電池101の使用開始当初から電池出力を大きく取れるなど、電池使用開始時の電池101の電池特性を改善することができる。
また、発電要素20と潜熱放出液容器110とを電池ケース130内に収容しているので、潜熱放出液12から放出される潜熱Hを、発電要素20の加熱に有効に利用することができる。
また、この電池システム102は、潜熱放出液容器110を発電要素20と共に電池ケース130内に収容していながらも、潜熱放出液12について、過冷却状態から固体状態への凝固を確実に起こさせて、確実に潜熱Hを放出させることができる。
さらに、サーミスタ180を備えているので、潜熱放出液12が過冷却の状態となっているかどうか、また、発電要素20を潜熱放出液12の発熱によって加熱するのが好ましいのか否かを適切に判断することができる。
さらに、制御装置170により温度信号に基づいた制御を行うので、電池101の使用開始時であっても、衝撃付与装置160の駆動が不要の場合(電池101の温度が高い場合など)には、駆動を行わないなど、適切な駆動制御を行うことができる。
【0044】
(実施形態3)
本実施形態3の車両200は、前述した実施形態1または実施形態2で示した電池システム2,102を、公知の手法で搭載したものである。具体的には、図9に示すように、本実施形態3の車両200は、エンジン210、フロントモータ220およびリアモータ230を併用して駆動するハイブリッド電気自動車である。この車両200は、車体290、エンジン210、これに取り付けられたフロントモータ220、リアモータ230、ケーブル250、インバータ260およびバッテリパック240を有している。バッテリパック240は、車両200の車体290に取り付けられている。そして、このバッテリパック240の内部には、図示しないが複数の電池1(または電池101)が電気的に直列に連結されて配置されている。そして、この複数の電池1(または電池101)は、それぞれ凝固開始部材11h(または111m)を移動させうる衝撃発生装置60(あるいは磁束発生装置160)を1つずつ備えて、電池システム2,102を構成している。
前述したように、この電池システム2,102を用いる車両200は、低温下でもバッテリパック240の温度を確実に上昇させることができる車両とすることができる。
【0045】
(実施形態4)
また、本実施形態4のノート型パーソナルコンピュータ300は、前述した実施形態1または実施形態2で示した電池システム2,102を、公知の手法で搭載したものであり、図10に示すように、バッテリパック310、本体320を有する電池搭載機器である。バッテリパック310はノート型パーソナルコンピュータ300の本体320に収容されており、バッテリパック310の内部には、図示しないが複数の電池1(または101)が電気的に直列に連結されて配置されている。そして、この複数の電池1(または電池101)は、それぞれ凝固開始部材11h(または111m)を移動させうる衝撃発生装置60(あるいは磁束発生装置160)を1つずつ備えて、電池システム2,102を構成している。
前述したように、この電池システム2,102を用いるノート型パーソナルコンピュータ300は、低温下でもバッテリパック310の温度を確実に上昇させることができる電池搭載機器とすることができる。
【0046】
以上において、本発明を実施形態1〜4に即して説明したが、本発明は上述の実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、実施形態1として電池をリチウムイオン二次電池としたが、本発明は、リチウムイオン二次電池に限らず、低温下でも駆動する電池であれば、いずれの種類の電池にも適用することができる。
また、実施形態1等では、捲回形の発電要素を持つ電池に適用した例を示した。しかし、複数の正電極板および負電極板を積層した、積層形の電池において、積層形の発電要素における層間に、あるいは積層体の外側に隣接して、潜熱放出液容器を配置することもできる。
さらに、電池システムとして、1つの電池および1つの凝固開始部材移動手段を備えるものを例示した。しかし、複数の電池を直列、並列等に接続した組電池を備える一方、この複数の電池のいずれかについても凝固開始部材を移動させうるように、凝固開始部材移動手段を1つまたは電池の数より小数だけ備える電池システムとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施形態1にかかる電池システムを示す説明図である。
【図2】実施形態1にかかる潜熱放出液容器を示す斜視図である。
【図3】実施形態1にかかる電池システムの制御装置のフローチャートである。
【図4】実施形態1にかかる潜熱放出液容器を示す説明図であり、(a)は凝固開始部材の移動直前を示す図、(b)は凝固開始部材の移動直後を示す図である。
【図5】実施形態1にかかる電池システムの衝撃付与装置の駆動直後の説明図である。
【図6】実施形態2にかかる電池システムを示す説明図である。
【図7】実施形態2にかかる電池システムの磁束発生装置の駆動直後の説明図である。
【図8】実施形態3にかかり、実施形態1または実施形態2にかかる電池システムを用いた車両(ハイブリッド電気自動車)を示す説明図である。
【図9】実施形態4にかかり、実施形態1または実施形態2にかかる電池システムを用いたノート型パーソナルコンピュータ(電池搭載機器)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1,101 電池
10,110 潜熱放出液容器
11h 凝固開始部材(大比重部材)
12 潜熱放出液
20 発電要素
21 正電極板
22 負電極板
23 セパレータ
30 電池ケース
60 衝撃付与装置(凝固開始部材移動手段)
70 制御装置(制御手段)
80 サーミスタ(温度検知手段)
111m 凝固開始部材(磁石部材)
130 電池ケース
131 電池ケース本体
160 磁束発生装置(凝固開始部材移動手段)
170 制御装置(制御手段)
180 サーミスタ(温度検知手段)
200 車両
300 ノート型パーソナルコンピュータ(電池搭載機器)
H 潜熱
W 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素と、
潜熱放出液容器であって、
過冷却状態から固体状態への凝固により潜熱を放出可能な潜熱放出液、及び、
上記潜熱放出液内に保持された凝固開始部材であって、自身の上記潜熱放出液に対する相対移動により、上記潜熱放出液の過冷却状態から固体状態への凝固の起点となる凝固開始部材を液密に収容してなる
潜熱放出液容器と、
上記発電要素及び上記潜熱放出液容器を、自身の内部に収容してなる電池ケースと、を含む
電池、及び、
上記潜熱放出液容器内の上記凝固開始部材について、上記凝固の起点となる移動を起こさせる凝固開始部材移動手段、を備える
電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電池システムであって、
前記発電要素または前記潜熱放出液の温度に応じた温度信号を出力する温度検知手段、及び、
上記温度信号に基づき、前記電池の使用開始時に、前記凝固開始部材移動手段の駆動を制御する制御手段、を備える
電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池システムであって、
前記凝固開始部材は、前記潜熱放出液より大きな比重を有する、大比重部材であり、
前記凝固開始部材移動手段は、
前記電池ケースに衝撃を与えることにより、上記大比重部材を相対移動させる
衝撃付与手段である
電池システム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電池システムであって、
前記凝固開始部材は、永久磁石からなるまたは永久磁石を内包する磁石部材であり、
前記凝固開始部材移動手段は、
磁束を発生させることにより、上記磁石部材を相対移動させる
磁石部材移動手段である
電池システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池システムであって、
前記発電要素は、
帯状の正電極板及び負電極板を、帯状のセパレータを介して、前記潜熱放出液容器の回りを囲んで捲回された捲回形発電要素である
電池システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電池システムを用いた車両。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電池システムを用いた電池搭載機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−198390(P2008−198390A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29631(P2007−29631)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】