説明

電池システム

【課題】複雑な制御回路を用いることなく過充電や過放電を抑制することが可能な電池システムを提供する。
【解決手段】電池と、該電池から電気エネルギーが供給される負荷と、電池及び負荷を接続する導体と、を有し、導体に、特定の電位で電子伝導性能が低下する電子伝導性物質が接続されている、電池システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、電気自動車やハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
このような二次電池が過充電や過放電の状態になると、電池性能の低下や安全性低下等の不具合が発生しやすい。そのため、かかる事態を回避すべく、二次電池の過充電や過放電を防止するための技術がこれまでに提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、二次電池または組電池を使用する機器内あるいは二次電池または組電池内に組み込まれた制御回路により、二次電池または組電池を構成する素電池の電圧をモニターし、各電池の放電終止電圧が2.9V以上となるように放電を制御する、非水電解質二次電池の充放電制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−85566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術では、制御回路を用いて過放電を抑制している。しかしながら、特許文献1のような従来技術で用いられている制御回路は複雑である。従来技術では複雑な制御回路を用いずに過充電や過放電を抑制することは困難であり、過充電や過放電をこれまでよりも容易に抑制し得る技術が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、複雑な制御回路を用いることなく過充電や過放電を抑制することが可能な電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、電池と、該電池から電気エネルギーが供給される負荷と、電池及び負荷を接続する導体と、を有し、導体に、特定の電位で電子伝導性能が低下する電子伝導性物質が接続されていることを特徴とする、電池システムである。
【0009】
ここに、本発明における「電池」は、リチウムイオン二次電池等に代表される、充放電可能な電池(二次電池)をいう。また、本発明における「負荷」は、電池で発生させた電気エネルギーを供給されることによって作動し得る機器をいう。本発明における負荷としては、電気自動車やハイブリッド自動車用等で使用されるモーター等を例示することができる。また、「特定の電位で電子伝導性能が低下する」とは、特定の電位で、過充電や過放電を抑制できる程度にまで、電子伝導性能が低下することをいう。
【0010】
上記本発明において、電子伝導性物質は、電池の電極における導電助剤として用いられる、EMIm(A)Cl−xEMImClで表されるイオン液体であることが好ましい。ただし、(A)はFe、Cr、Vからなる群より選択される1つの元素であり、xは0<x<100の数である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電池システムでは、電池と負荷とを接続する導体に、特定の電位で電子伝導性能が低下する電子伝導性物質が接続されている。そのため、本発明によれば、従来のような複雑な制御回路を用いることなく容易に過充電や過放電を抑制することが可能な、電池システムを提供することができる。
【0012】
また、本発明の電池システムにおいて、電子伝導性物質が、電池の電極における導電助剤として用いられる、EMIm(A)Cl−xEMImClで表されるイオン液体であることにより、特定の電位(例えば、(A)がFeでありxが0.2である場合には0.1V〜0.7V程度、及び、−0.3V程度。)で電極の電子伝導性能が低下する。そのため、かかる形態とすることにより、容易に過充電や過放電を抑制することが可能な電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】EMImFeCl−0.2EMImClを用いて3電極式セルにて行ったCV測定の結果を示す図である。
【図2】本発明の電池システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
電極層に含有されるカーボンのような電子伝導性物質は常に電子を流し、信号入力された電流値分だけ反応が進むため、過充電や過放電が生じる虞がある。そこで、従来は、複雑な制御回路を用いて過充電や過放電を防いでいた。このように、過充電や過放電を防ぐために複雑な制御回路を用いるのは、特定の電位で電子を流さなくなる適当な電子伝導性物質を発見できていなかったためであると考えられる。本発明者は、特定の電位で電子を流さなくなる電子伝導性物質を特定することができれば、二次電池の過充電や過放電を防ぐための構成を簡略化することが可能になると考え、そのような電子伝導性物質の特定を試みた。
【0015】
本発明者は、電子伝導性イオン液体であるEMImFeCl−0.2EMImClを用いて、3電極式セル(基準極:Ag/Ag、作用極:C、対極:Ni)にてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。CV測定の結果を図1に示す。
【0016】
図1に示すように、EMImFeCl−0.2EMImClは、0.1V〜0.7V程度の電位範囲において電子伝導性能が一時的に低下(充電電流値が低下)し、−0.3V程度の電位時に電子伝導性能が一時的に急低下(放電電流値が急低下)することを発見した。したがって、EMImFeCl−0.2EMImClのように、特定の電位で電子伝導性能が低下するイオン液体を電池の電極等に用いることで、従来のような複雑な制御回路を用いることなく、電池の過充電や過放電を抑制し得る電池システムを提供することが可能になると考えられる。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。本発明は、特定の電位で電子伝導性能が低下する電子伝導性物質(例えば、イオン液体)を用いることによって、従来のような複雑な制御回路を用いることなく過充電や過放電を抑制することが可能な電池システムを提供することを、主目的とする。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0019】
図2は、本発明の電池システムの形態例を説明する図である。図2に示す電池システム10は、リチウムイオン二次電池1(以下において、「電池1」という。)、電池1で発生させた電気エネルギーを供給されることによって作動可能な負荷2、及び、電池1と負荷2とを接続する導体3を有している。電池1は、正極1aと、電解質層1bと、負極1cと、これらを収容する筺体1dと、を有している。電池システム10の正極層1aには、活物質及び導電剤に加え、導電助剤として、電子伝導性イオン液体であるEMImFeCl−0.2EMImClが用いられている。
【0020】
このように構成される電池システム10では、電池1で発生させた電気エネルギーが、導体3を介して負荷2へと供給され、負荷2が作動される。例えば、電池システム10が電気自動車やハイブリッド自動車に用いられる場合、負荷2はモーターとすることができる。電池1の正極1aには、電子伝導性イオン液体であるEMImFeCl−0.2EMImClが用いられている。図1に示すように、このイオン液体は、電位が0.1V〜0.7V程度の時に充電電流値が一時的に低下し、電位が−0.3V程度の時に放電電流値が一時的に急低下する。それゆえ、このイオン液体を正極1aに用いた電池1を備える電池システム10によれば、従来用いられていたような複雑な制御回路を用いなくても、電池1の過充電及び過放電を抑制することができる。
【0021】
電池システム10において、正極1aに用いられる活物質や導電剤は特に限定されるものではなく、公知の二次電池で使用可能な、公知の活物質、導電剤を適宜用いることができる。また、電解質層1bの形態も特に限定されるものではなく、公知の二次電池で使用可能な、公知の非水電解液や水系電解液等の液体電解液を用いた形態のほか、固体電解質を用いた形態とすることができる。また、負極1cの形態も特に限定されるものではなく、公知の二次電池で使用可能な、カーボン材料等に代表される公知の活物質に加え、必要に応じて公知の導電剤や導電助剤等が含有されていても良い。また、筺体1dの形態も特に限定されるものではなく、電池1の形態に応じて公知の材料を適宜用いることができる。また、負荷2は、電池1で発生させた電気エネルギーを供給されることによって作動可能であれば良く、モーター等、公知の電気機器とすることができる。また、導体3の形態も特に限定されるものではなく、電池が用いられる電気機器で使用可能な公知の材料を適宜用いることができる。
【0022】
本発明に関する上記説明では、電子伝導性を有するイオン液体が正極1aに含有されることによって、イオン液体が導体3に接続されている形態の電池システム10を例示したが、本発明の電池システムは当該形態に限定されるものではない。特定の電位で電子伝導性能が低下するイオン液体は、電池の過充電や過放電を抑制し得る形態で導体に接続されていれば良い。それゆえ、このようなイオン液体は、例えば、電池の負極に含有されていても良く、電池の外側に配置される形態で導体に接続されていても良い。
【0023】
また、本発明に関する上記説明では、特定の電位で電子伝導性能が低下するイオン液体として、EMImFeCl−0.2EMImClを例示したが、本発明では、EMIm(A)Cl−xEMImCl((A)はFe、Cr、Vからなる群より選択される1つの元素、xは0<x<100。)で表されるイオン液体を適宜用いることができる。電子伝導性を有するイオン液体であるため、本発明では、EMImFeCl−xEMImClで表されるイオン液体のみならず、EMImCrCl−xEMImClやEMImVCl−xEMImClで表されるイオン液体も用いることができる。さらに、高い電子伝導性を発現するため、xは0よりも大きいことが好ましく、電子伝導性の著しい低下を防止するため、xは100未満であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に関する上記説明では、EMImFeCl−0.2EMImClを用いて過充電及び過放電を抑制する形態の電池システム10を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明は、特定の電位で電子伝導性能が低下する、EMImFeCl−0.2EMImClとは異なる電子伝導性物質を用いることによって、複雑な制御回路を用いることなく、過充電又は過放電のみを抑制することが可能な電池システムとすることも可能である。
【0025】
また、本発明に関する上記説明では、正極1a、電解質層1b、及び、負極1cをそれぞれ1つずつ備える電池1(単電池)が備えられる形態を例示したが、本発明の電池システムに備えられる電池は、当該形態に限定されるものではない。本発明の電池システムは、複数の単電池を電気的に直列及び/又は並列に接続して構成した電池が備えられる形態とすることも可能である。
【0026】
また、本発明に関する上記説明では、電池1、負荷2、及び、導体3を有する形態の電池システム10を例示したが、本発明の電池システムには、電池、負荷、及び、導体に加えて、他の要素が備えられていても良い。本発明の電池システムに備えられ得る他の要素としては、従来よりも構成を簡素化した制御回路のほか、過充電や過放電を防止するために用いられる保護回路等を例示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の電池システムは、電気自動車やハイブリッド自動車用等に利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…電池
1a…正極
1b…電解質層
1c…負極
1d…筺体
2…負荷
3…導体
10…電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、該電池から電気エネルギーが供給される負荷と、前記電池及び前記負荷を接続する導体と、を有し、
前記導体に、特定の電位で電子伝導性能が低下する電子伝導性物質が接続されていることを特徴とする、電池システム。
【請求項2】
前記電子伝導性物質は、前記電池の電極における導電助剤として用いられる、EMIm(A)Cl−xEMImClで表されるイオン液体であることを特徴とする、請求項1に記載の電池システム。
ただし、前記(A)はFe、Cr、Vからなる群より選択される1つの元素であり、前記xは0<x<100の数である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−258483(P2011−258483A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133513(P2010−133513)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】