説明

電池セル筐体およびその製造方法

【課題】
耐薬品性及び耐透水性の両者の要求を満たし、しかも、生産性に優れた樹脂製の電池セル筐体を提供する。
【解決手段】
樹脂成形体とその表面に形成された金属層とを少なくとも備えてなる電池セル筐体。樹脂成形体は、ポリプロピレン系樹脂(A)50〜90質量%と、ゴム強化スチレン系樹脂(B)50〜10質量%とを含有し、更に、ポリプロピレン系樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)との合計量100質量部あたり、相溶化剤(C)5〜40質量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなることが好ましい。相溶化剤(C)は、水素添加率が10〜95%の水素添加共役ジエン系重合体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に好適な電池セル筐体、詳しくは、少なくとも1層の金属層が積層された樹脂成形体からなり、リチウムイオン二次電池の電解液などに対する耐薬品性に優れ、かつ、金属層により外部からの水分の浸入が良好に遮断された電池セル筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電池セル筐体は、電解液と接触するため耐薬品性が要求され、また、外部からの水分の浸入を防止することが要求される。
したがって、従来、かかる電池セル筐体としては、薄肉のアルミ板や鉄鋼板からなる筐体が使用されてきた。しかし、金属製筐体はコストが高く、加工法も複雑であり、製品重量も重くなるという欠点があった。
【0003】
最近、リチウムイオン二次電池の軽量化や生産性の向上の要求を満たすために、樹脂成形体からなる電池セル筐体が提案されており、例えば、ポリプロピレン/ポリフェニレンエーテルアロイ樹脂からなる樹脂成形体の内面にポリプロピレン/アルミ箔/ポリプロピレンの3層からなるアルミ複合フィルムを積層したものが提案されている(参考文献1参照)。
【0004】
しかし、アルミ複合フィルムを樹脂成形体に積層するために貼り付け作業を行うことは生産性に乏しく、量産できないという欠点があった。また、樹脂成形体の射出成形時にインモールド成形でアルミ複合フィルムを積層することも提案されているが、インモールド成形時にアルミ箔にクラックが入り、耐透水性が十分に確保できないという欠点があった。
また、ポリプロピレン系樹脂の成形体の場合、その表面のメッキ性が悪いため、その表面に直接金属層をメッキによって形成することは困難であった。
【特許文献1】特開2004−87359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、樹脂成形体からなるリチウムイオン二次電池用の電池セル筐体であって、耐薬品性及び耐透水性の両者の要求を満たし、しかも、生産性に優れたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的の下に鋭意研究した結果、ポリプロピレン系樹脂とゴム強化スチレン系樹脂のブレンド物に相溶化剤を配合したポリプロピレン系樹脂組成物を用いることにより、その樹脂成形体の表面に直接金属層をメッキによって簡単に形成することができ、このようにして形成された樹脂成形体が、リチウムイオン二次電池用の電池セル筐体に要求される耐薬品性と耐透水性の両者を満たすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一局面によれば、樹脂成形体とその表面に形成された金属層とを少なくとも備えてなる電池セル筐体が提供される。
好ましい実施形態によれば、この樹脂成形体は、ポリプロピレン系樹脂(A)50〜90質量%と、ゴム強化スチレン系樹脂(B)50〜10質量%とを含有し、更に、ポリプロピレン系樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)との合計量100質量部あたり、相溶化剤(C)5〜40質量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなる。
【0008】
かくして、本発明の他の局面によれば、ポリプロピレン系樹脂(A)50〜90質量%と、ゴム強化スチレン系樹脂(B)50〜10質量%とを含有し、更に、ポリプロピレン系樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)との合計量100質量部あたり、相溶化剤(C)5〜40質量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物を成形して樹脂成形体を得た後、該樹脂成形体に金属をメッキして金属層を積層させることを特徴とする電池セル筐体の製造方法が提供される。
【0009】
上記相溶化剤(C)は、水素添加率が10〜95%の水素添加共役ジエン系重合体であることが好ましく、さらに好ましくは、少なくとも1つの芳香族ビニル化合物重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物重合体ブロックとを有するブロック共重合体であり、該共役ジエン化合物重合体ブロックの二重結合部分の10〜95%が水素添加されているものである。
他の好ましい実施形態によれば、上記金属層はメッキにより樹脂成形体表面に積層され、金属層はアルミニウムからなることがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、相溶化剤を用いることによりゴム強化スチレン系樹脂を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって電池セル筺体の成形材料として好適な機械的強度、耐薬品性、メッキ性などを備えたものを提供することに成功したので、樹脂成形体とその表面に直接形成された金属層とを少なくとも備えてなる電池セル筐体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本明細書において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0012】
本発明において上記樹脂成形体の成形材料として用いるポリプロピレン系樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン系樹脂、(B)ゴム強化スチレン系樹脂及び(C)相溶化剤を主として含有してなる。
【0013】
(A)ポリプロピレン系樹脂
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とし、更にエチレンまたは炭素数4以上のα―オレフィンをコモノマーとして含有するランダムまたはブロック共重合体、並びにこれらの混合物等が挙げられる。
【0014】
本発明のポリプロピレン系樹脂は、230℃ 2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、通常0.1〜200g/10分、好ましくは1〜150g/10分、より好ましくは2〜100g/10分で、GPCで測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.2〜10、好ましくは1.5〜8、より好ましくは2〜6であり、融点(Tm)は、通常150〜170℃、好ましくは155〜167℃である。
【0015】
本発明の(A)ポリプロピレン系樹脂は、上記のMFR、分子量分布および融点が満足されていれば、特にその製造法が限定されるものではないが、通常、チーグラー(ZN)触媒、あるいはメタロセン触媒を用いて製造される。
チーグラー(ZN)触媒としては、高活性触媒が好ましく、特に、マグネシウム、チタン、ハロゲン、電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物を組み合わせた高活性触媒が好ましい。
【0016】
メタロセン触媒としては、ジルコニウム、ハフニウム、チタンなどの遷移金属にシクロペンタジエニル骨格を有する有機化合物、ハロゲン原子などが配位したメタロセン錯体と、アルモキサン化合物、イオン交換性珪酸塩、有機アルミニウム化合物などを組み合わせた触媒が有効である。
【0017】
プロピレンと共重合させるコモノマーとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1等が挙げられる。これらコモノマー成分の含有量は、共重合体全体を100質量%として、通常0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%である。これらのうち、特に好ましいものは、プロピレンとエチレンおよび/又はブテン−1とのブロック共重合体である。
【0018】
反応系中の各モノマーの量比は経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも可能であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
【0019】
重合様式は、触媒成分と各モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方法を採用することができる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液法、実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法などを採用することができる。
【0020】
また、連続重合、回分式重合のいずれを用いてもよい。スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素を単独で又は混合して用いることができる。
【0021】
重合条件としては重合温度が通常−78〜160℃、好ましくは0〜150℃であり、そのときの分子量調節剤として補助的に水素を用いることができる。また、重合圧力は通常0〜90kg/cm2・G、好ましくは0〜60kg/cm2・G、特に好ましくは1〜50kg/cm2・Gである。
【0022】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂組成物を構成する(A)成分の使用量は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量%中、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%である。(A)成分が少なすぎると耐薬品性が劣り、また、(A)成分が多すぎるとメッキ性及び耐薬品性が劣る。
【0023】
(B)ゴム強化スチレン系樹脂
本発明で用いるゴム強化スチレン系樹脂(B)としては、特に制限されるものではないが、 スチレン系樹脂のマトリックス中にゴム成分が分散した島海構造を備えたスチレン系樹脂であって、とりわけ、当該ゴム成分にスチレン系樹脂がグラフト重合したグラフト重合体を含有するものが好ましい。かかる好ましいゴム強化スチレン系樹脂(B)は、通常、ゴム質重合体(a)の存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなる単量体成分(b)を重合して得られる。
上記(B)成分のゴム質重合体(a)の含有量は、当該(B)成分を100質量%として、好ましくは3〜80質量%、更に好ましくは5〜70質量%、特に好ましくは10〜60質量%である。
【0024】
上記ゴム質重合体(a)としては、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、及びこれらの水素添加物、並びに、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン・アクリル系IPNゴム等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらのうちポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、及びこれらの水素添加物、並びに、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴムが好ましい。ここで用いられるブタジエン・スチレン共重合体には、ブロック共重合体及びランダム共重合体が包含される。
【0025】
上記ゴム質重合体(a)のゲル含率は、特に限定しないが、乳化重合で(a)成分を得る場合、ゲル含率は、好ましくは98質量%以下であり、更に好ましくは40〜98質量%である。この範囲において、特に耐衝撃性に優れた樹脂成形体を与える樹脂組成物を得ることができる。
尚、上記ゲル含率は、以下に示す方法により求めることができる。すなわち、ゴム質重合体1gをトルエン100mlに投入し、室温で48時間静置したのち、100メッシュの金網(質量をWグラムとする)で濾過したトルエン不溶分と金網を80℃で6時間真空乾燥して秤量(質量Wグラムとする)し、下記式(1)により算出する。
【0026】
ゲル含率(質量%)=[{W(g)―W(g)}/1(g)]×100…(1)
ゲル含率は、ゴム質重合体の製造時に、分子量調節剤の種類および量、重合時間、重合温度、重合転化率等を適宜設定することにより調整される。
【0027】
上記ビニル系単量体成分(b)を構成する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を組合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン、α―メチルスチレンが好ましい。
【0028】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、ビニルシアン化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、および、その他の各種官能基含有不飽和化合物などが挙げられる。好ましくは、ビニル単量体成分(b)は、芳香族ビニル化合物を必須単量体成分とし、これに必要に応じて、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上が単量体成分として併用され、更に必要に応じて、その他の各種官能基含有不飽和化合物の少なくとも1種が単量体成分として併用される。その他の各種官能基含有不飽和化合物としては、不飽和酸化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物等が挙げられる。上記その他の各種官能基含有不飽和化合物は1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
ここで使用されるシアン化ビニル合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。シアン化ビニル化合物を使用すると、耐薬品性が付与される。シアン化ビニル化合物を使用する場合、その使用量は、(b)成分中、好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは5〜50質量%である。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用すると、表面硬度が向上するので好ましい。(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用する場合、その使用量は、(b)成分中、好ましくは1〜80質量%、さらに好ましくは5〜80質量%である。
【0031】
マレイミド化合物としては、マレイミド、N―フェニルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、マレイミド単位を導入するために、無水マレイン酸を共重合させ、後イミド化してもよい。マレイミド化合物を使用すると、耐熱性が付与される。マレイミド化合物を使用する場合、その使用量は、(b)成分中、好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは5〜50質量%である。
【0032】
不飽和酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
エポキシ基含有不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
水酸基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N―(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられ、これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N―ビニルジエチルアミン、N―アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N―メチルアクリルアミン、アクリルアミド、N―メチルアクリルアミド、p―アミノスチレン等があり、これらは、1種単独で、または2種以上を組合わせて用いることができる。
【0035】
上記その他の各種官能基含有不飽和化合物を使用した場合、(A)成分と(B)成分とをブレンドした時、両者の相溶性を向上させることができる場合がある。かかる効果を達成するために好ましい単量体は、エポキシ基含有不飽和化合、不飽和酸化合物、および水酸基含有不飽和化合物である。
上記その他の各種官能基含有不飽和化合物の使用量は、スチレン系樹脂中に使用される該官能基含有不飽和化合物の合計量で、スチレン系樹脂全体に対して0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がさらに好ましい。
【0036】
単量体成分(b)中の芳香族ビニル化合物以外の単量体の使用量は、単量体成分(b)の合計を100質量%とした場合、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。単量体成分(b)を構成する単量体のより好ましい組み合わせは、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/(メタ)アクリル酸、スチレン/N―フェニルマレイミド、スチレン/メタクリル酸メチル/シクロヘキシルマレイミド等であり、ゴム質重合体(a)の存在下に重合される単量体の特に好ましい組み合わせは、スチレン/アクリロニトリル=65/45〜90/10(質量比)、スチレン/メタクリル酸メチル=80/20〜20/80(質量比)、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチルで、スチレン量が20〜80質量%、アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの合計が20〜80質量%の範囲で任意のものである。
【0037】
本発明の(B)成分は、公知の重合法、例えば、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合およびこれらを組み合わせた重合法で製造することができる。これらのうち、好ましい重合法は、乳化重合および溶液重合である。
【0038】
乳化重合で製造する場合、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤等が用いられるが、これらは公知のものが全て使用できる。
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、p―メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert―ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方等のレドックス系を用いることが好ましい。
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n―ドデシルメルカプタン、t―ドデシルメルカプタン、n―ヘキシルメルカプタン、ターピノーレン類等が挙げられる。
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ラウリル酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩、ロジン酸カリウム等のロジン酸塩等を用いることができる。
【0039】
尚、乳化重合において、ゴム質重合体(a)およびビニル系単量体成分(b)の使用方法は、ゴム質重合体(a)全量の存在下にビニル系単量体成分(b)を一括添加して重合してもよく、分割もしくは連続添加して重合してもよい。また、ゴム質重合体(a)の一部を重合途中で添加してもよい。
【0040】
乳化重合後、得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、水洗、乾燥することにより、本発明の(B)成分粉末を得る。この際、乳化重合で得た2種以上の(B)成分のラテックスを適宜ブレンドしたあと、凝固してもよい。ここで使用される凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩、または硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の酸を用いることができる。
【0041】
溶液重合により(B)成分を製造する場合に用いることのできる溶剤は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶媒であり、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N―メチルピロリドン等が挙げられる。
重合温度は、好ましくは80〜140℃、更に好ましくは85〜120℃の範囲である。
重合に際し、重合開始剤を用いてもよいし、重合開始剤を使用せずに、熱重合で重合してもよい。重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、1,1′―アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等が好ましく用いられる。
また、連鎖移動剤を用いる場合、例えば、メルカプタン類、ターピノレン類、α―メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
また、塊状重合、懸濁重合で製造する場合、溶液重合において説明した重合開始剤、連鎖移動剤等を用いることができる。
上記各重合法によって得た(B)成分中に残存する単量体量は、好ましくは10,000ppm以下、更に好ましくは5,000ppm以下である。
【0042】
また、(B)成分には、通常、上記ビニル系単量体成分(b)がゴム質重合体(a)にグラフト共重合した共重合体とゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分が含まれる。
上記(B)成分のグラフト率は、好ましくは20〜200質量%、更に好ましくは30〜150質量%、特に好ましくは40〜120質量%であり、グラフト率は、下記式(2)により求めることができる。
【0043】
グラフト率(質量%)={(T−S)/S}×100…(2)
上記式(2)中、Tは(B)成分1gをアセトン(ただし、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムを使用したものである場合、アセトニトリル)20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは(E)成分1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。
【0044】
また、本発明に関わる(B)成分のアセトン(ただし、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムを使用したものである場合、アセトニトリル)可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.2〜1.0dl/g、特に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
本発明に関わる(B)成分中に分散するグラフト化ゴム質重合体粒子の平均粒径は、好ましくは500〜30,000Å、更に好ましくは1,000〜20,000Å、特に好ましくは、1,500〜8,000Åの範囲である。平均粒径は、電子顕微鏡を用いる公知の方法で測定できる。
【0045】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を構成する(B)成分の使用量は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量%中、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。(B)成分が少なすぎるとメッキ性及び耐薬品性が劣り、また、(B)成分が多すぎると耐薬品性が劣る。
【0046】
(C)相溶化剤
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物で用いられる相溶化剤(C)としては、上記所定量のポリプロピレン系樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とを相溶化させる性質を有するものであればよく、特に制限はない。該相溶化剤としては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体及びこれらの水素添加物などのスチレン系熱可塑性エラストマーに代表される共役ジエン系重合体の他、アクリル系熱可塑性エラストマー、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。このような相溶化剤を用いることにより、ポリプロピレン系樹脂(A)中にゴム強化スチレン系樹脂(B)が目的とする平均粒子径にて分散し、優れた物性、メッキ性、耐薬品性を有する組成物が得られる。これらの相溶化剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの相溶化剤のうち、共役ジエン系重合体及びその水素添加物が好ましく、水素添加共役ジエン系重合体がより好ましい。該共役ジエン系重合体を構成する共役ジエン系ゴム質重合体としては、共役ジエン化合物の重合体の他、共役ジエン化合物と、共役ジエン化合物と共重合可能な他のビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0047】
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチル−1、3―ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。好ましいものは、ブタジエン及びイソプレンである。
また、共役ジエン化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド化合物、不飽和酸化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、及び置換又は非置換のアミノ基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、芳香族ビニル化合物が好ましく用いられる。
【0048】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ο―メチルスチレン、p―メチルスチレン、ビニルトルエン、臭素化スチレン、ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、スチレンが好ましい。
【0049】
前記(C)成分として好ましく用いられる水素添加共役ジエン系重合体では、ジエン部分の水素添加率は好ましくは10〜95%、より好ましくは20〜70%、更により好ましくは30〜65%である。ジエン部分の水添率が10%未満の領域と95%を超えた領域では、前記(A)成分と前記(B)成分の分散性を向上させる効果が低くなり、目的の樹脂成形体の耐衝撃性、耐薬品性、メッキ性が十分に改善されないことがある。
【0050】
前記(C)成分として好ましく用いられる水素添加共役ジエン系重合体は、好ましくは、芳香族ビニル化合物単位(C1)0〜90質量%と、共役ジエン化合物単位(C2)10〜100質量%とから成る共役ジエン系重合体を水素添加したものである。好ましいC1/C2比は、10〜90/90〜10質量%、更に好ましくは30〜90/70〜10質量%、特に好ましくは50〜80/50〜20質量%の範囲である。
【0051】
前記水素添加共役ジエン系重合体としては、芳香族ビニル化合物が共重合されていることが好ましく、1分子中に少なくとも1個の芳香族ビニル化合物重合体ブロックを有することが、本発明の目的を達成する上で特に好ましい。また、芳香族ビニル化合物の共重合量は、(C)成分の50〜80質量%であることが特に好ましい。
【0052】
水素添加共役ジエン系重合体の前駆体としての共役ジエン系重合体としては、前記例示した共役ジエン化合物(ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチルー1、3―ヘキサジエン、4,5−ジエチルー1,3−オクタジエン等の1種又は2種以上)の単独(共)重合体、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物のランダム共重合体若しくはブロック共重合体、又はそれらの混合物が好ましい。水素添加共役ジエン系重合体が種類の異なる共役ジエン系重合体の混合物である場合は、水素添加前に混合し、その後に水素添加したものでもよく、また、水素添加後に混合したものでもよい。
【0053】
水素添加共役ジエン系重合体の前駆体としての共役ジエン系重合体に於いて、共役ジエン系重合体のジエン部分のミクロ構造である1,2−及び3,4−ビニル結合含有量は、全ビニル結合量の合計を100%として、好ましくは10〜80%の範囲である。目的の樹脂成形体の耐衝撃性を特に重視する場合、20〜80%が好ましく、更に好ましくは30〜60%の範囲である。
【0054】
前記(C)成分に於いて、共役ジエン系重合体の数平均分子量は、好ましくは5000〜1000000、更に好ましくは10000〜300000、特に好ましくは20000〜200000である。
【0055】
前記(C)成分に於いて、共役ジエン系重合体の構造としては下記(1)〜(14)を例示できる。即ち、前記共役ジエン系重合体は下記(1)〜(14)を骨格とし、更に下記(1)〜(14)の基本骨格を繰り返し有する共重合体等であることが好ましい。また、それらをカップリングして得られる共役ジエン系重合体であってもよい。
以下で、A〜Cは、下記の通りである。
A:芳香族ビニル化合物重合体,
B:ジエン重合体,
A/B:芳香族ビニル化合物/ジエン化合物のランダム共重合体,
C:ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であり、かつ芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロック.
(1)A−B
(2)A−B−A
(3)A−B−C
(4)A−B1−B2(B1のビニル結合は好ましくは20%以上、B2のビニル結合は好ましくは20%未満)
(5)B
(6)A/B
(7)A−A/B
(8)A−A/B−C
(9)A−A/B−A
(10)B2−B1−B2(B1のビニル結合は好ましくは20%以上、B2のビニル結合は好ましくは20%未満)
(11)C−B
(12)C−B−C
(13)C−A/B−C
(14)C−A−B
【0056】
前記共役ジエン系重合体の製造方法は特に限定されるものでは無く、公知の方法を採用できる。例えば、特公昭36−19286号公報に記載されている有機リチウム触媒を用いたリビングアニオン重合の技術を用いて不活性溶媒中で芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を重合することで、(ブロック共)重合体を製造することができる。有機リチウム触媒としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのモノリチウム化合物等がある。共役ジエン化合物のビニル結合量の調節は、N,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジアゾビシクロ(2,2,2)オクタン等のアミン類、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、チオエーテル類、ホスフィン類ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等を用いて行える。
【0057】
前記(C)成分として好ましく用いられる水素添加共役ジエン系重合体は、上記で得た共役ジエン系重合体を公知の方法で水素添加反応することにより、また、公知の方法で水素添加率を調整することにより、目的の重合体を得ることができる。具体的な方法としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公昭63−5401号公報、特願昭63−285774号、特願昭63−127400号に示されている方法がある。
上記芳香族ビニル化合物重合体Aとジエン重合体Bとを備え、ジエン重合体Bが1,3−ブタジエンの重合体ブロックである共役ジエン系重合体の場合、非選択的に水素添加すると、1,4−ビニル結合で重合した部分からはエチレンが、1,2−ビニル結合で重合した部分からはブチレンが生成し、スチレン―エチレン―ブチレン―スチレン共重合体(SEBS)などが水素添加物として生成し、1,2−ビニル結合を選択的に水素添加すると、スチレン―ブタジエン―ブチレン―スチレン共重合体(SBBS)などが水素添加物として生成する。これらのうち、本発明では、SBBSなどの1,2−ビニル結合を選択的に水素添加した共役ジエン系重合体(以下、選択部分水添共役ジエン系重合体)が好ましい。
【0058】
この選択部分水添共役ジエン系重合体は、少なくとも1つの芳香族ビニル化合物重合体ブロック(上記A)と、少なくとも1つの共役ジエン化合物重合体ブロック(上記B)とを有するブロック共重合体であり、該共役ジエン化合物重合体ブロックの二重結合部分の10〜95%が水素添加されているものであることが好ましく、該水素添加率は、より好ましくは20〜70%、更により好ましくは30〜65%である。また、この選択部分水添共役ジエン系重合体は、水素添加された1,2−ビニル結合量/水素添加された全2重結合量の比率が0.6〜1.0の範囲であることが好ましく、0.7〜1.0の範囲であることがさらに好ましい。水素添加された1,2−ビニル結合量/水素添加された全2重結合量の比率が低すぎると、水素添加された1,4−ビニル結合量すなわちテトラメチレン単位が多くなり硬度が増加して加工性が悪化する傾向がある。
【0059】
上記選択部分水添共役ジエン系重合体は、前記共役ジエン系重合体のブタジエン部分の二重結合を、チタン系水素添加触媒を用いて水素添加することにより得ることができる。チタン系水素添加触媒としては、チタンの有機金属化合物、又はそれとリチウム、マグネシウム、アルミニウムなどの有機金属化合物からなる均一系水素添加触媒を用いることができる。上記選択的部分水素添加は、かかる触媒を用い、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報などの記載に従い、低圧、低温の比較的穏和な条件下、触媒量、水素の供給量などを適宜調節することにより実施できる。
【0060】
前記(C)成分の使用量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部中、5〜40質量部が好ましく、さらに好ましくは5〜25質量部、特に好ましくは5〜15質量部である。(C)成分が少なすぎると、目的の樹脂成形体の耐衝撃性及び耐薬品性が劣る。また、(C)成分が多すぎると、目的の樹脂成形体の耐薬品性及びメッキ性が劣る。
【0061】
(D)その他の配合剤
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物には、上記の成分(A)から成分(C)の他に、必要に応じて、酸化防止剤、加工安定剤、紫外吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、金属不活性剤、着色顔料、各種無機充填剤、ガラス繊維、強化剤、難燃剤、離型剤、発泡剤などの各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。また、必要に応じ他の樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミドなどを本発明の目的を損なわない範囲で配合することもできる。
【0062】
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂組成物は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。更に、各々の成分を混練するに際しては、それらの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練したあと、押出機によりペレット化することもできる。また、無機充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜260℃、好ましくは220〜240℃である。
【0063】
かくして、各成分を溶融混練して得られる本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、成分(A)が連続相を形成し、連続相を形成する成分(A)中に成分(B)および成分(C)から構成される成分が分散相を形成する。したがって、樹脂成形体の表面上に、成分(B)の分散相の一部及び/又は成分(B)中のゴム相の一部をアンカー部として、金属層をメッキなどの方法で直接形成することができる。分散相の平均粒子径は0.01〜10.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.1〜10.0μm、特に好ましくは0.2〜5.0μmである。この平均粒子径は電子顕微鏡により公知の方法により測定することができる。分散相の平均粒子径の調整は、溶融混練温度、せん断速度等を調整することによって行うことができ、混練機として押出機などの連続混練機を使用する場合は、樹脂組成物の供給量、回転数等によっても調整できる。
【0064】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂組成物は熱可塑性樹脂組成物であって、射出成形、プレス成形、シート押出成形、真空成形、異形押出成形、発泡成形等の公知の成形法により、樹脂成形体を得ることができる。樹脂成形体の表面に金属層を施す方法としては、金属箔を接着する方法、金属をメッキする方法など公知の方法が使用できるが、メッキによる方法が好ましい。樹脂成形体の表面に金属メッキを施す方法としては、無電解メッキ、電気メッキ等の湿式メッキ法や、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の乾式メッキ法が挙げられる。無電解メッキ法によれば、ニッケル、銅等の金属イオンを含む水溶液に還元剤(次亜リン酸ナトリウム、ホウ水素ナトリウム等)を加え、該水溶液に樹脂成形体を浸漬して90〜100℃に加熱することにより、樹脂成形体の表面に均一に金属をメッキすることができる。この場合、樹脂成形体の表面を硫酸/クロム酸等のエッチング液で予め化学的に粗面化(エッチング)したり、感応性付与(センシタイジング)しておくことが望ましい。真空蒸着法によれば、10-4〜10-5mmHgの高真空中において各種金属を加熱して蒸発させることで樹脂成形体の表面に金属をメッキすることができる。
本発明においては、耐透水性の観点から湿式メッキ法が好ましい。高い耐透水性を得るためには、無電解メッキを行った後、電気メッキを行うことが好ましいが、求める性能及びポリプロピレン系樹脂組成物の組成によっては、無電解メッキのみでよい場合がある。
【0065】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記のような優れた性質を有するので、上記成形法によって得られる各種形状の樹脂成形体の表面に金属層を形成した積層体は、電池セル筐体、特にリチウムイオン二次電池のセル筐体として使用することができる。なお、本発明における樹脂成形体は、金属層が形成されていない面に他の樹脂からなる層を積層することを妨げるものではない。
【実施例】
【0066】
以下、例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら制約されるものではない。尚、実施例中、部および%は、特に断らない限り質量基準である。
【0067】
(1)評価方法
本実施例において用いられる各種評価方法は、以下の通りである。
【0068】
(1−1)耐衝撃性
耐衝撃性は、シャルピー衝撃強さをISO179に準拠し測定した。なお、試験片は日本製鋼所社製射出成形機J100で成形した。
【0069】
(1−2)剛性
剛性は、曲げモデュラスをISO178に準拠して測定した。なお、試験片は日本製鋼所社製射出成形機J100で成形した。
(1−3)メルトフローレート(MFR)
MFRは、220℃,10kg荷重の条件でISO1133に準拠して測定した。
【0070】
(1−4)メッキ性
熱可塑性樹脂を成形して縦150mm、横90mm、厚さ3mmの試験片を作製した。成形は東芝機械社製射出成形機IS170を用いて行った。
この試験片を50℃の脱脂液に4〜5分間浸漬した後、純水で洗浄した。そして、〔98%硫酸/無水クロム酸=400g/L/400g/L〕の混合液を68℃とし、試験片を10〜20分間浸した後、純水で洗浄した。次に、10%塩酸水溶液を23℃とし、試験片を2分間浸漬した後、純水で洗浄した。そして、塩化パラジウム、塩化第一スズ及び塩酸からなる水溶液を20℃とし、試験片を2分間浸漬した後、純水で洗浄した。次に、10%硫酸水溶液を35℃とし、試験片を3分間浸漬した後、純水で洗浄した。そして、硫酸ニッケル、クエン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、塩化アンモニウム及びアンモニア水からなる水溶液を35〜40℃とし、試験片を5分間浸漬した後、純水にて洗浄し、水分をふき取り、無電解メッキ品とした。その後、この無電解メッキされた試験片を80℃で約2時間乾燥した後、硫酸銅、硫酸及び光沢剤からなる水溶液を20℃とし、電流密度3A/dmにて120分間浸漬して試験片に電気メッキを施し、純水で洗浄し、80℃で2時間乾燥した後、常温で十分乾燥させた。メッキ被膜の厚みは約80μmであった。この試験片に形成されたメッキ被膜を一定の幅(10mm)に切削した後、試験片から90度の角度で剥離するときの強度を測定した。なお、無電解メッキ品の被覆状態を観察し、メッキされていない場合はそれ以降の評価を実施せず、結果を×で表示した。
【0071】
(1−5)耐薬品性
肉厚2.4mm×幅55mm×長さ80mmの試験片を、23℃の電解液(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート/ビニレンカーボネート=30/30/40/1中、LiPF 1mole%)中に、7日間浸漬した後取り出し、表面の溶媒をふき取った後、重量を測定し、浸漬前後の重量変化を測定した。なお、試験片は新潟鐵工所社製射出成形機NN30Bで成形した。
(1−6)耐透水性
上記(1−4)と同様にメッキされた試験片を用い、JIS Z0208に準拠し40℃にて測定した。メッキ性評価を無電解メッキで中断した場合は、無電解メッキ品を用いて評価した。
【0072】
(2−1)成分(A)(ポリプロピレン系樹脂)
成分(A−1):プロックタイプポリプロピレン「ノバテックBC6C」(商品名:日本ポリプロ社製)を用いた。
【0073】
(2−2)成分(B)(ゴム強化スチレン系樹脂)
[製造例B−1]
撹拌機を備えた内容積7Lのガラス製フラスコに窒素気流中で、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、t―ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンラテックス(平均粒子径;3500Å、ゲル含率;85%)40部(固形分)、スチレン15部、アクリロニトリル5部を加え、撹拌しながら昇温した。内温が45℃に達して時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部およびブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。1時間重合させた後、更にイオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、t―ドデシルメルカプタン0.05部およびクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加し、更に、1時間重合を継続させた後、2,2′―メチレン−ビス(4−エチル−6−t―ブチルフェノール)0.2部を添加し重合を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してゴム含有グラフト共重合体を得た。このグラフト共重合体のグラフト率は80%、アセトン可溶分の極限粘度〔η〕は、0.45dl/gであった。
なお、上記製造例B−1で得られた共重合体を成分(B−1)という。
【0074】
(2−3)成分(C)(相溶化剤)
成分(C−1):スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー「タフテックP−2000」(商品名:旭化成社製)を用いた。
【0075】
実施例1〜3および比較例1〜2
表1に記載の配合割合で上記成分(A)〜(C)をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製TEX44、バレル設定温度220℃)で混練し、ペレット化した。得られたペレットを射出成形機で評価用の各種試験片を成形した。そして、得られた試験片を用いて、前記の方法で評価した。以上の評価結果を表1に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
表1から明らかなように、本発明の実施例1〜3の樹脂成形体は、耐衝撃性、剛性、成形性、メッキ性、耐薬品性に優れていることが判る。これに対し、比較例1は成分(B)を含まない例であり、耐衝撃性、メッキ性、耐透水性において劣る。比較例2は成分(B)の含有量が多すぎる例であり、耐衝撃性、メッキ性、耐薬品性において劣る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の電池セル筐体は、ポリプロピレン系樹脂組成物からなる樹脂成形体の表面に金属層が形成されたものであるため、耐薬品性、耐透水性、耐衝撃性、生産性に優れており、電池セル筐体、特に、リチウムイオン二次電池用の電池セル筐体として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体とその表面に形成された金属層とを少なくとも備えてなる電池セル筐体。
【請求項2】
上記樹脂成形体が、ポリプロピレン系樹脂(A)50〜90質量%と、ゴム強化スチレン系樹脂(B)50〜10質量%とを含有し、更に、ポリプロピレン系樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)との合計量100質量部あたり、相溶化剤(C)5〜40質量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなる請求項1に記載の電池セル筐体。
【請求項3】
上記相溶化剤(C)は、水素添加率が10〜95%の水素添加共役ジエン系重合体である請求項2に記載の電池セル筐体。
【請求項4】
前記水素添加共役ジエン系重合体は、少なくとも1つの芳香族ビニル化合物重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物重合体ブロックとを有するブロック共重合体であり、該共役ジエン化合物重合体ブロックの二重結合部分の10〜95%が水素添加されているものである請求項3に記載の電池セル筐体。
【請求項5】
金属層がメッキにより積層されたものである請求項1乃至4の何れか1項に記載の電池セル筐体。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂(A)50〜90質量%と、ゴム強化スチレン系樹脂(B)50〜10質量%とを含有し、更に、ポリプロピレン系樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)との合計量100質量部あたり、相溶化剤(C)5〜40質量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物を成形して樹脂成形体を得た後、該樹脂成形体に金属をメッキして金属層を積層させることを特徴とする電池セル筐体の製造方法。
【請求項7】
上記相溶化剤(C)は、水素添加率が10〜95%の水素添加共役ジエン系重合体である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水素添加共役ジエン系重合体は、少なくとも1つの芳香族ビニル化合物重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物重合体ブロックとを有するブロック共重合体であり、該共役ジエン化合物重合体ブロックの二重結合部分の10〜95%が水素添加されているものである請求項7に記載の製造方法。


【公開番号】特開2007−227121(P2007−227121A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46217(P2006−46217)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】