説明

電池パック、充電方法および充電システム

【課題】直列、並列または直並列に接続された複数の電池セルの中で、劣化が進行した電池セルのさらなる劣化を防止する。
【解決手段】各電池セルの電圧値が測定され、ST2で、最大セル電圧が満充電電圧値と比較され、最大セル電圧が満充電電圧より大であると判定されると、ST3で、充電前回の充電電流を所定の量低下させた充電電流に変更される。ST4で、最大セル電圧が満充電電圧より小か否かが判定され、最大セル電圧が満充電電圧より小と判定されると、ST5で、前回の充電電流を所定の量上昇させた充電電流に変更される。最大セル電圧=満充電電圧の場合には、充電電流を変化させない。ST6において、充電電流が充電電流最大値より大きいと判定された場合には、ST7において、充電電流最大値が設定される。そして、充電電流指定値がプロセッサ3から充電電源部に対して送信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二次電池を有する電池パック、電池パックに対する充電方法および充電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池例えばリチウムイオン二次電池の充電方法として定電流充電と定電圧充電とを組合せたCCCV(Constant Current Constant Voltage:定電流定電圧)充電方式が知られている。図3は、この充電方法を説明するものであり、横軸が充電電流Aであり、縦軸が電池電圧Vである。(a−b)領域が定電圧充電の範囲であり、(c−d)領域が定電流充電の範囲である。充電のための充電電源部が(a−b)領域では、定電圧制御の動作を行い、(c−d)領域では、定電流制御の動作を行う。
【0003】
例えば電池電圧Vが4.1V以下の領域では、A=500mAによって定電流充電を行う。充電によって二次電池の電池電圧(内部起電力)Vが上昇し、電池電圧Vが4.1Vより大きくなると、充電電源部が定電圧制御の動作に切り換わり、次第に充電電流Aが減少する。電池電圧Vが電源部の出力電圧(4.2V)に向かって上昇する。そして、充電電流がほぼ0に近づくと、充電が完了する。充電が完了したことを検出する方法として、電流検出方式が知られている。
【0004】
電流検出方式は、充電末期の定電圧制御時に充電電流が減少することを利用し、充電電流を抵抗により電圧へ変換し、その電圧を検知電圧と比較することで充電状態の判別を行う方式である。
【0005】
上述したように、充電装置は、充電時に一定の充電電圧を出力するようになされている。しかしながら、電池パックによっては、電池セルの種類によって充電電圧が一定ではなく、電池パックのそれぞれに対応した充電装置を構成する必要があった。複数種類の電池パックに共通の充電装置を構成する場合には、安全性の点から最大充電電圧および最大充電電流(流すことができる最大の充電電流)を最も低い値に設定することが必要とされる。その結果、満充電に要する時間が長くなったり、満充電できない問題が生じる。なお、本明細書において、電池パックの用語は、二次電池と二次電池の充電または放電を制御する回路部とが一体的に構成されたものを指すものとして使用する。
【0006】
かかる問題を解決するために、電池パックから充電電源部に対して最大充電電圧および最大充電電流の情報を通信によって知らせ、最適な最大充電電圧および最大充電電流によって充電を可能とすることが下記の特許文献1に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3508384号
【0008】
特許文献1に記載されている従来の充電電源部が電池パックを充電する際の動作を図4のフローチャートを参照して説明する。この充電処理は、図3を参照して説明したCCCV充電処理である。最初に、電池パックの不揮発性メモリに保持されている最大充電電圧と最大充電電流の情報が充電電源部に対して送信され、充電電源部がこの情報を取得している。
【0009】
図4におけるステップST11において、電池パックの電圧値(以下、パック電圧と適宜称する)が測定される。ステップST12において、パック電圧が定電圧充電電圧(例えば満充電電圧の90%の電圧で、図3においては、4.1V)と比較される。パック電圧が定電圧充電電圧より小の場合には、ステップST13において、指定された電流値(図3における500mAの最大充電電流)でもって定電流充電が行われる。
【0010】
定電流充電によって電池電圧が上昇する。所定の時間間隔でもってパック電圧の測定(ステップST11)がなされ、ステップST12の比較処理がなされる。パック電圧が定電圧充電電圧以上となることがステップST14において検出されると、ステップST15において、指定された電圧値(最大充電電圧)でもって定電圧充電が行われる。充電電源部は、充電中にステップST11からステップST15の処理を繰り返し、満充電が検出された時点で充電が終了する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の充電装置では、電池パックから充電電源部に対して送信される電圧値および電流値の情報は、予め定められた固定値であり、電池パックの状態に合わせた制御を行うものではなかった。実際には、電池パックは、複数の電池セルが直列および/または並列に接続された組電池を使用するものが多い。組電池に用いられている電池セルは、充放電の繰り返しや高温環境下での放置などにより劣化し、例えば、電池セルの内部インピーダンスが増加したり、満充電容量が減少してしまう。
【0012】
各電池セルの劣化の度合は、使用状況によって差が生じる場合がある。例えば、電池パックは、ノート型PC内部でCPU(Central Processing Unit )などから発生する熱の影響を受けてしまう。このとき、全ての電池セルに対する熱の影響が同様の場合、全ての電池セルにおける劣化の度合については、差異が生じることはない。しかしながら、実際に電池パックを使用した場合、熱源との距離の違いなどにより各電池セルに対する熱の影響は異なる場合が多いと考えられる。そのため、各電池セルにおける劣化の度合に差異が生じてしまう。
【0013】
電池セルは、内部インピーダンスによって閉路電圧が決定されるので、電池セルが劣化して内部インピーダンスが増加すると、充電時の閉路電圧も増加する。そのため、電池セルによって劣化の度合が異なると、それぞれの電池セルの内部インピーダンスの増加量が異なることになり、それぞれの電池セルの閉路電圧も異なる。すなわち、それぞれの電池セルの劣化の度合が異なると、内部インピーダンスの増加量が異なることによりセルバランスが崩れ、それぞれの電池セル間の電池電圧に差が生じてしまう。
【0014】
ところで、電池パックは、各電池セルの電圧が充電禁止電圧、例えば4.3V(ボルト)を超えた場合には充電を禁止し、所定の充電許可電圧、例えば4.18V〜4.2Vを下回った場合に充電を許可する過充電保護機能を備えている。そのため、例えば電池セルが劣化し、内部インピーダンスが増加することによって電池電圧が高くなり、電池電圧が所定の充電禁止電圧を超えた場合には、過充電保護機能による保護が行われる。
【0015】
従来の充電電源部は、充電時に各電池セルの電圧ではなく、組電池の全体の電圧を監視している。したがって、セルバランスが崩れ、それぞれの電池セル間で内部インピーダンスに差が生じた場合には、充電電源部から組電池に供給される電圧が所定の電圧であっても、各電池セルの閉路電圧が異なり、いずれかの電池セルの電圧が充電禁止電圧を超える場合が生じる。その場合には、電池パックが有する過充電保護機能によって充電が禁止される。また、組電池の電圧が充電許可電圧を下回った場合には、充電が開始される。このような充電のON/OFFを繰り返すことにより、充電がパルス状に行われる。
【0016】
このように、劣化が進んだ状態の電池セルの場合には、充電時に充電禁止電圧まで電池電圧が上昇し、電池パックの過充電保護機能によって充電が禁止されるまで、充電が行われてしまい。その電池セルのさらなる劣化をひき起こしたり、電池セルに負担がかかり、安全性の点で好ましくなかった。
【0017】
したがって、この発明の目的は、電池セルから充電電源部に対して送信される充電電流を電池パックにおいて測定された各電池セルの電圧に基づいて可変することによって、組電池の中の劣化の進んだ電池セルの一層の劣化を防止することができる電池パック、充電方法および充電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の課題を解決するために、この発明は、複数の電池セルが直列、並列または直並列に接続された二次電池と、
二次電池の充電および放電を制御するスイッチ素子と、
複数の電池セルの電池セル電圧をそれぞれ測定し、最大の電池セル電圧を検出する測定部と、
測定された複数の電池セルの電圧に基づいてスイッチ素子を制御するスイッチ素子制御部と、
満充電電圧および充電電流最大値を記憶する記憶手段と、
検出された最大の電池セル電圧と満充電電圧とを比較し、最大の電池セル電圧が満充電電圧より大なる場合に、充電電流指定値により指定される充電電流を低下させ、最大の電池セル電圧が満充電電圧より小なる場合に、充電電流指定値により指定される充電電流を上昇させるように、充電電流指定値を変化させる充電電流指定値制御を充電中に周期的に行う充電電流指定値制御部と、
充電電源部に対して充電電圧指定値および充電電流指定値を送信する通信部と
を有し、
充電電圧指定値で指定される充電電圧および充電電流指定値で指定される充電電流が二次電池に供給されることを特徴とする電池パックである。
【0019】
また、この発明は、複数の電池セルが直列、並列または直並列に接続された二次電池と、二次電池の充電および放電を制御するスイッチ素子と、複数の電池セルの電池セル電圧をそれぞれ測定し、最大の電池セル電圧を検出する測定部と、測定された複数の電池セルの電圧に基づいてスイッチ素子を制御するスイッチ素子制御部と、満充電電圧および充電電流最大値を記憶する記憶手段とを備える電池パックを充電する充電方法であって、
検出された最大の電池セル電圧と満充電電圧とを比較し、最大の電池セル電圧が満充電電圧より大なる場合に、充電電流指定値により指定される充電電流を低下させ、
検出された最大の電池セル電圧と満充電電圧とを比較し、最大の電池セル電圧が満充電電圧より小なる場合に、充電電流指定値により指定される充電電流を上昇させるに、充電電流指定値を変化させる充電電流指定値制御ステップを充電中に周期的に行い、
充電電源部に対して充電電圧指定値および充電電流指定値を送信する通信ステップと、
充電電圧指定値で指定される充電電圧および充電電流指定値で指定される充電電流を二次電池に供給するステップとからなることを特徴とする充電方法である。
【0020】
この発明は、複数の電池セルが直列、並列または直並列に接続された二次電池と、
二次電池の充電および放電を制御するスイッチ素子と、
複数の電池セルの電池セル電圧をそれぞれ測定し、最大の電池セル電圧を検出する測定部と、
測定された複数の電池セルの電圧に基づいてスイッチ素子を制御するスイッチ素子制御部と、
満充電電圧および充電電流最大値を記憶する記憶手段と、
検出された最大の電池セル電圧と満充電電圧とを比較し、最大の電池セル電圧が満充電電圧より大なる場合に、充電電流指定値により指定される充電電流を低下させ、最大の電池セル電圧が満充電電圧より小なる場合に、充電電流指定値により指定される充電電流を上昇させるように、充電電流指定値を変化させる充電電流指定値制御を充電中に周期的に行う充電電流指定値制御部と、
充電電源部に対して充電電圧指定値および充電電流指定値を送信する通信部とを有する電池パックと、
充電電圧指定値および充電電流指定値を受信する通信部と、
充電電圧指定値で指定される充電電圧および充電電流指定値で指定される充電電流を二次電池に供給する充電電源部とを有する充電装置とからなる充電システムである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、直列、並列または直並列に接続された複数の電池セルの中で、最大電池セル電圧を測定し、最大電池セル電圧が満充電電圧と一致するように、充電電流を制御する充電電流指定値を充電電源部に送信することによって、劣化の進んだ電池セルが過充電電圧領域まで充電されることを防止し、電池セルの劣化を防止でき、また、電池パックの安全性を向上することができる。この発明は、電池パック内のプロセッサのソフトウェア処理を変更するのみで実現可能であり、新たなコストが発生しない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、この発明の一実施の形態による充電装置は、電池パック1と、電子機器(例えば可搬型パーソナルコンピュータ)10と、ACアダプタ20とによって構成されている。ACアダプタ20の入力端子t1およびt2が商用電源と接続され、ACアダプタ20の出力端子t3およびt4に商用電源から生成された所定の直流電圧が発生する。
【0023】
商用電源とACアダプタ20とが接続されている時にACアダプタ20が出力する直流電圧が電子機器10の負荷11および充電電源部12に対して供給される。負荷11は、電子機器10が有する回路等である。充電電源部12は、プロセッサ(MPU(Microprocessing Unit))およびプロセッサの制御によって所望の充電電流および充電電圧を発生することが可能な可変電流源および可変電圧源を有している。充電電圧の最大値は、ACアダプタ20から供給される直流電圧より小である。電子機器10の端子t5およびt6が電池パック1の端子t7およびt8とそれぞれ接続される。充電電流Icが充電電源部12から逆流防止ダイオード13と、端子t5、t6とを介して電池パック1に供給される。
【0024】
電池パック1は、リチウムイオン電池の電池セル2aおよび2bを直列接続した組電池と、プロセッサ3と、スイッチ素子としての充電制御FET(Field Effect Transister)
4aと、放電制御FET4bと、不揮発性メモリ6とを有している。例えば単セル当たりの満充電電圧が4.2Vのリチウムイオン電池を用いた場合、この一実施形態の電池パックの定電圧充電電圧は、8.4Vとなる。FET4aおよび4bのドレインおよびソース間には、それぞれ寄生ダイオード5aおよび5bが存在している。寄生ダイオード5bは、充電電流Icに対して順方向で、放電電流Idに対して逆方向の極性を有する。寄生ダイオード5aは、充電電流Icに対して逆方向で、放電電流Idに対して順方向の極性を有する。
【0025】
充電制御FET4aおよび放電制御FET4bのそれぞれのゲートには、プロセッサ3からの制御信号がそれぞれ供給される。充電制御FET4aおよび放電制御FET4bは、例えばPチャンネル型であるので、ソース電位よりも所定値以上低いゲート電位によってオン状態となる。
【0026】
充電時には、放電制御FET4bおよび充電制御FET4aがオン状態とされ、充電電源部12から出力された充電電流Icが逆流防止用ダイオード13、FET4aおよびFET4bを介して電池セル2aおよび2bに供給される。ACアダプタ20により電子機器10が給電されていない状態では、電池セル2aおよび2bから充電制御FET4a、放電制御FET4bおよび逆流防止用ダイオード14を介して放電電流Idが負荷11に供給される。
【0027】
プロセッサ3のクロック端子およびデータ端子と電子機器10の充電制御部12内のプロセッサのクロック端子およびデータ端子とが接続され、クロック伝送路CLKおよびデータ伝送路DATAが構成される。
【0028】
電池パック1のプロセッサ3は、電池セル2aおよび2bのそれぞれの電池セル電圧および組電池全体の電圧を測定する機能と、充電制御FET4aおよび放電制御FET4bを制御する機能と、測定した電池セル電圧から最適な充電電流値を計算または設定する機能と、計算された最適な充電電流値および不揮発性メモリ6に記憶されている情報を充電電源部12のプロセッサに対してクロック伝送路およびデータ伝送路を介して送信する機能とを有している。
【0029】
なお、電池パック1が電圧測定回路をプロセッサ3と別に設け、測定結果をプロセッサ3に供給する構成としても良い。また、充電制御FET4aおよび放電制御FET4bの一方または両方を負側の電源ライン中に挿入するようにしても良い。さらに、温度が上昇すると、抵抗値が上昇して電流を制限する電流制限素子例えばPTC(Positive Temperature Coefficient :熱抵抗素子) を電池セル2a、2bと直列に接続しても良い。
【0030】
プロセッサ3は、FET4aおよび4bのそれぞれのゲートに対して制御信号を供給して、FET4aおよび4bのオン/オフを制御することにより、保護動作を行う。保護機能としては、過充電および過放電保護機能がある。簡単にこれらの保護機能について説明する。
【0031】
まず、過充電保護機能について説明する。電池セル2aおよび2bを充電していくと、満充電を過ぎても電池電圧が上昇を続ける。この過充電状態になると危険な状態となる可能性が生じる。したがって、充電は、定電圧定電流で行い、最大充電電圧が電池の定格の満充電電圧(例えば単一の電池セルの場合で4.2V)以下で行う必要がある。しかしながら、充電器の故障や、非正規品の充電器の使用等によって、過充電の危険性がある。過充電され、電池電圧が満充電電圧値以上の過充電検出電圧例えば4.3Vであることが検出されると、プロセッサ3の出力信号によって充電制御FET4aがオフされ、充電電流が遮断される。この機能が過充電保護機能である。FET4aがオフすると、放電制御FET4bおよび寄生ダイオード5aを介して放電のみが可能とされる。
【0032】
過放電保護機能について説明する。定格放電終止電圧以下まで放電し、電池電圧が例えば2V〜1.5V以下(単一の電池セルの場合)の過放電状態になった場合は、電池が故障する場合がある。放電され、電池電圧がある電圧値以下になった場合、プロセッサ3の出力信号によって放電制御FET4bがオフされ、放電電流が遮断される。この機能が過放電機能である。FET4bがオフすると、充電制御FET4aおよび寄生ダイオード5bを介して充電のみが可能とされる。
【0033】
この発明の一実施の形態では、電子機器10の充電電源部12から充電電圧値と充電電流値に関する情報(充電電圧指定値および充電電流指定値と称する)の送信が依頼されると、電池パック1のプロセッサ3が測定する各電池セルの電圧値に基づいて、充電電源部12に対して送信される充電電流指定値が可変される。
【0034】
図2を参照して、電池パック1のプロセッサ3の制御でなされる充電電流指定値算出処理(または設定処理)について説明する。この処理は、充電期間中で周期的例えば1秒間に1回の割合で実行される。また、プロセッサ3のソフトウェア処理として説明するが、各処理を実行するハードウェア(回路)によっても同様の処理を実行することができる。
【0035】
ステップST1において、各電池セル(電池セル2aおよび2b)の電圧値が測定される。各電池セルの電圧値は、内部抵抗と電流の積で求められる電圧と起電力との和である。劣化の程度が進んだ電池セルの場合では、内部抵抗が増大しているので、電池セルの電圧値も大きくなる。ステップST2において、測定された電圧値の中で最大のセル電圧値(以下、最大セル電圧と適宜称する)が満充電電圧値(例えば4.2V)と比較される。満充電電圧値(以下、満充電電圧と適宜称する)は、不揮発性メモリ6に電池パックの構成に合わせて記憶されている。
【0036】
ステップST2において、最大セル電圧が満充電電圧より大であると判定されると、ステップST3において、充電電流指定値が前回の充電電流を所定の量例えば10mA低下させた充電電流を指定するものに変更される。充電電流の変化量は、セル電圧の適切な変化を生じさせるものに設定されている。充電電流の変化量を固定せずに、電圧差に応じて可変しても良い。充電電流が減少することによって各セル電圧が低下する。一例として、充電開始時に初期値として充電電流最大値を指定する充電電流指定値が電池パック1のプロセッサ3から充電電源部12に対して送信される。但し、充電開始時の充電電流は、最大値に限らず、より低い電流値であっても良い。充電電流最大値は、不揮発性メモリ6に電池パックの構成に合わせて記憶されている。
【0037】
一方、ステップST2において、最大セル電圧が満充電電圧より大でないと判定されると、ステップST4において、最大セル電圧が満充電電圧より小か否かが判定される。最大セル電圧が満充電電圧より小と判定されると、ステップST5において、充電電流指定値が前回の値に対して所定の量例えば10mA上昇された充電電流を指定するものに変更される。充電電流が上昇することによって各セル電圧が上昇する。
【0038】
上述したステップST4の判定結果が否定の場合、すなわち、最大セル電圧=満充電電圧の場合には、充電電流指定値を変化させずに、ステップST6において、充電電流指定値により指定される充電電流が充電電流最大値より大きいか否かが判定される。ステップST3(充電電流指定値を低下)およびステップST5(充電電流指定値を上昇)の制御後においても、同様に、ステップST6の判定処理がなされる。
【0039】
ステップST6において、充電電流指定値により指定される充電電流が充電電流最大値より大きいと判定された場合には、ステップST7において、充電電流指定値が充電電流最大値を指定するものに設定される。ステップST6の判定結果が否定の場合、すなわち、充電電流指定値が充電電流最大値以下の場合では、充電電流指定値が変更されない。そして、ステップST8において、充電電流指定値がプロセッサ3から充電電源部12に対して送信される。
【0040】
なお、図2では、省略されているが、不揮発性メモリ6から読み出された電池パック1を充電することができる充電電圧最大値(例えば4.2V×2=8.4V以上の所定の電圧)を指定する充電電圧指定値もプロセッサ3から充電電源部12に対して送信される。充電電圧指定値は、固定値であるので、同一の電池パックに関して充電開始に先立って1回送信すれば足りる。これに対して、充電電流指定値は、上述した充電電流指定値算出処理がなされる毎に送信される。
【0041】
充電電源部12は、電池パック1のプロセッサ3から充電電圧指定値を受信すると、充電電圧指定値で指定された充電電圧を電池パック1の端子t7およびt8に供給する。また、電池パック1のプロセッサ3から充電電流指定値を受信すると、充電電流指定値に対応する充電電流Icを発生し、この充電電流Icを電池パック1の端子t7およびt8に供給する。
【0042】
上述したステップST2、ST3,ST4,ST5の処理によって、定電圧充電が行われるように充電動作が制御される。また、上述したステップST6およびST7の処理によって、定電流充電が行われるように充電動作が制御される。すなわち、最大セル電圧を基準として、CCCV方式で充電が行われる。また、この発明の一実施の形態の処理は、従来のソフトウェア処理(図4参照)を変更するのみで良く、電池パック1および充電電源部12の回路構成(ハードウェア)の変更が不要なものであり、コストの上昇を生じない利点がある。
【0043】
この発明の一実施の形態においては、最大セル電圧が満充電電圧よりも高い場合には、充電電流を低下させることにより(ステップST3)、電池セルの内部抵抗分と充電電流の減少量の積で表される電圧低下が発生し、電池セル電圧が低下する。一方、電池セル電圧が満充電電圧よりも低い場合には、充電電流を増加させることにより(ステップST5)、電池セルの内部抵抗分と充電電流の増加量の積で表される電圧上昇が発生する。充電によって、電池セル2aおよび2bの直列接続の開路電圧が上昇するので、時間と共に充電電流が0に向かって収束する。そして、満充電が検出された時点で充電が終了する。満充電の検出は、例えば電池パック1のプロセッサ3が充電電流が0または0に近い値になったことを検出することでなされる。プロセッサ3が満充電を検出した場合には、フラグをセットし、充電電源部12に対して満充電になったことを示すフラグを伝送する。
【0044】
以上、この発明の一実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述した充電電流指定値の算出処理において、ステップST6において比較する充電電流最大値を温度によって変化させるようにしても良い。この場合には、環境温度または電池セルの温度を検出する温度検出素子を設け、環境温度または電池セルの温度が高い場合には、充電電流最大値を低下させるように補正する。この処理によって、充電電流による発熱を抑制し、電池セルの温度上昇を防止することができ、電池セルの劣化を防止することができる。
【0045】
また、ステップST2およびST4において比較する満充電電圧を電池セルの劣化の状態によって変化させるようにしても良い。一般的に電池セルの充電量を低くすることで、電池セルの劣化の進行を抑えることができる。したがって、劣化が進んだ電池セルの場合には、満充電電圧を意図的に低下させることによって、電池セルの劣化の進行を抑えることが可能となる。
【0046】
さらに、この発明の一実施の形態は、充電電源部が電子機器内に設けられている例であるが、充電電源部が充電装置に設けられるようにしても良い。また、複数の電池セルが直列に限らず並列に接続された組電池、または直列接続された複数の電池セルと並列接続された複数の電池セルとの組合せからなる組電池に対してもこの発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明による充電システムの一実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の一実施の形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】定電流定電圧充電方式を説明するための略線図である。
【図4】従来の充電方法の処理の流れを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1・・・電池パック
2a,2b・・・電池セル
3・・・プロセッサ
4a・・・充電制御FET
4b・・・放電制御FET
10・・・電子機器
12・・・充電電源部
20・・・ACアダプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが直列、並列または直並列に接続された二次電池と、
上記二次電池の充電および放電を制御するスイッチ素子と、
上記複数の電池セルの電池セル電圧をそれぞれ測定し、最大の電池セル電圧を検出する測定部と、
測定された上記複数の電池セルの電圧に基づいて上記スイッチ素子を制御するスイッチ素子制御部と、
満充電電圧および充電電流最大値を記憶する記憶手段と、
検出された上記最大の電池セル電圧と上記満充電電圧とを比較し、上記最大の電池セル電圧が上記満充電電圧より大なる場合に、上記充電電流指定値により指定される充電電流を低下させ、上記最大の電池セル電圧が上記満充電電圧より小なる場合に、上記充電電流指定値により指定される充電電流を上昇させるように、上記充電電流指定値を変化させる充電電流指定値制御を充電中に周期的に行う充電電流指定値制御部と、
充電電源部に対して充電電圧指定値および上記充電電流指定値を送信する通信部と
を有し、
上記充電電圧指定値で指定される充電電圧および上記充電電流指定値で指定される充電電流が上記二次電池に供給されることを特徴とする電池パック。
【請求項2】
上記充電電流指定値制御部は、上記充電電流指定値により指定される充電電流が設定された充電電流最大値より大きい場合には、上記指定される充電電流を上記充電電流最大値と等しいものとすることを特徴とする請求項1記載の電池パック。
【請求項3】
上記充電電流最大値を温度によって変化させることを特徴とする請求項2記載の電池パック。
【請求項4】
上記スイッチ素子制御部、上記通信部および上記充電電流指定値制御部がプロセッサの処理によって実現される請求項1記載の電池パック。
【請求項5】
複数の電池セルが直列、並列または直並列に接続された二次電池と、二次電池の充電および放電を制御するスイッチ素子と、上記複数の電池セルの電池セル電圧をそれぞれ測定し、最大の電池セル電圧を検出する測定部と、測定された上記複数の電池セルの電圧に基づいて上記スイッチ素子を制御するスイッチ素子制御部と、満充電電圧および充電電流最大値を記憶する記憶手段とを備える電池パックを充電する充電方法であって、
検出された上記最大の電池セル電圧と上記満充電電圧とを比較し、上記最大の電池セル電圧が上記満充電電圧より大なる場合に、上記充電電流指定値により指定される充電電流を低下させ、
検出された上記最大の電池セル電圧と上記満充電電圧とを比較し、上記最大の電池セル電圧が上記満充電電圧より小なる場合に、上記充電電流指定値により指定される充電電流を上昇させるに、上記充電電流指定値を変化させる充電電流指定値制御ステップを充電中に周期的に行い、
充電電源部に対して充電電圧指定値および上記充電電流指定値を送信する通信ステップと、
上記充電電圧指定値で指定される充電電圧および上記充電電流指定値で指定される充電電流を上記二次電池に供給するステップとからなることを特徴とする充電方法。
【請求項6】
上記充電電流指定値制御ステップは、上記充電電流指定値により指定される充電電流が設定された充電電流最大値より大きい場合には、上記指定される充電電流を上記充電電流最大値と等しいものとすることを特徴とする請求項5記載の充電方法。
【請求項7】
上記充電電流最大値を温度によって変化させることを特徴とする請求項5記載の充電方法。
【請求項8】
複数の電池セルが直列、並列または直並列に接続された二次電池と、
上記二次電池の充電および放電を制御するスイッチ素子と、
上記複数の電池セルの電池セル電圧をそれぞれ測定し、最大の電池セル電圧を検出する測定部と、
測定された上記複数の電池セルの電圧に基づいて上記スイッチ素子を制御するスイッチ素子制御部と、
満充電電圧および充電電流最大値を記憶する記憶手段と、
検出された上記最大の電池セル電圧と上記満充電電圧とを比較し、上記最大の電池セル電圧が上記満充電電圧より大なる場合に、上記充電電流指定値により指定される充電電流を低下させ、上記最大の電池セル電圧が上記満充電電圧より小なる場合に、上記充電電流指定値により指定される充電電流を上昇させるように、上記充電電流指定値を変化させる充電電流指定値制御を充電中に周期的に行う充電電流指定値制御部と、
充電電源部に対して充電電圧指定値および上記充電電流指定値を送信する通信部とを有する電池パックと、
上記充電電圧指定値および上記充電電流指定値を受信する通信部と、
上記充電電圧指定値で指定される充電電圧および上記充電電流指定値で指定される充電電流を上記二次電池に供給する充電電源部とを有する充電装置とからなる充電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−220110(P2008−220110A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56618(P2007−56618)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】