説明

電池冷却構造

【課題】 組電池を構成する電池の電池温度をより均一化できる電池冷却構造を提供する。
【解決手段】 平板状電池2を積層状に並べた組電池1を、電池間の隙間を通過するように冷却風を送って電池を冷却する。組電池の上流側には、電池2の上流側端縁に対向して、流れ制御板5が配置され、流れ制御板5には、電池間の隙間に沿う方向に延在する複数のスリット51が設けられ、該スリットを通じて冷却風が流れるようにされる。それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリット51,51は、少なくとも当該隙間の両側に隣接するそれぞれの電池2,2の上流側端縁に対向する位置に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池が組み合わされた組電池を冷却する電池冷却構造に関する。特に平板状の電池が所定間隔を隔てる積層状態で配置される組電池を冷却風により冷却する空冷式の電池冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車などには、動力源として二次電池を集合させた組電池が用いられている。充電や放電の過程において、電池が過熱したり電池間の温度差が大きくなったりすると、電池の性能が低下したり、電池が損傷することが起こるため、通常、これら組電池を電池ケースに収納して、冷却風を電池ケース内に送り込んで組電池を冷却することが行われる。
【0003】
組電池に用いられる電池には、リチウムイオン電池のように、略平板状の電池があり、このような電池はその形状から角型電池と呼ばれることもある。
平板状の電池を組電池として構成する場合には、冷却風による冷却が効率的に行われるように、電池の広い面同士が対向するように、互いに所定の間隔を隔てるように平板状電池を積層状態に配置して、電池間の隙間に冷却風を送って電池を冷却することが一般的に行われている。
【0004】
そして、これら組電池の冷却にあたっては、組電池を構成する複数の電池の温度を極力均一化し、かつ、効率的に電池を冷却することが必要であり、そのために、さまざまな組電池構造や電池冷却構造が提案されるに至っている。
例えば、特許文献1には、所定間隔を隔てて配置された平板状電池の間に分配された冷却風を導いて、複数の電池が均一に冷却されるようにした組電池冷却構造が開示されている。また、特許文献2には、電池と電池の間に絶縁セパレータを挟みこんで、絶縁セパレータの凹凸形状によって冷却風通路(冷却隙間)を形成し、電池間の絶縁性を確保した組電池構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−254627号公報
【特許文献2】特開2010−153141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような電池冷却構造において、各電池の温度を均一化するための基本手段は、各電池周りを流れる冷却風の流量の均等化である。
特許文献1に記載の電池冷却構造においては、冷却風を組電池の上流側空間に導入するダクトの形状を工夫することによって、流量均等化を図っている。
【0007】
発明者らは、各電池の周りを流れる冷却風の流量均等化を図る技術として、細孔やスリットなどを有する流れ制御板を、冷却風流れをさえぎるように組電池の上流や下流に設け、細孔やスリットによって流れを絞って冷却風の均等化を図る技術を検討している。(例えば図11のような電池冷却構造)
【0008】
そして、発明者らは、組電池1の上流側に、スリット991を有する流れ制御板99を設ける電池冷却構造を検討した(図11)。発明者は、その検討を行う中で、スリットによって各電池の周りを流れる冷却風風量を均一化したにも関わらず、電池温度の均一化がうまく行われないケースがあることを発見した。
【0009】
即ち、本発明の目的は、組電池を構成する電池の電池温度をより均一化できる電池冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者が入念な検討を繰り返した結果、各電池の周りを流れる冷却風風量を均一化したにも関わらず、電池温度の均一化がうまく行われないケースは、流れ制御板99に設けられるスリット991の幅を、電池間の隙間よりも狭くした場合に発生しやすいことを発見した。そして、スリットの幅が小さくなるほど、電池温度の不均一化が顕著となりやすい傾向があることを発見した。
【0011】
発明者らは、スリットの幅を小さくした際の電池間の隙間の流れがどのようになるのかを数値流体シミュレーション等により検討したところ、以下の現象が、電池温度の均一化を妨げる要因となっていると推定するに至った。
【0012】
図6は、図11に示した検討例においてスリットを狭くした場合の電池間隙間を流れる冷却風の流れの様子を、シミュレーションにより求めた流速分布図である。狭いスリットを通して電池間の隙間に流れ込んでくる冷却風は、いわゆるジェット噴流のように勢い良く流れ込んでくる。このような噴流が電池のような固定物の表面近くを流れると、噴流には物体表面に沿って流れようとする、いわゆるコアンダ効果が働いて、互いに対向する電池表面のいずれか一方に沿って流れようとする傾向が生ずる。すると、図6に示したように、流れは、一方の電池表面に沿って流れ、他方の電池表面側には流れがよどんだ領域が発生することになる。
【0013】
このように、狭いスリットから吹き出す冷却風は、電池間の隙間でいずれか一方の電池表面に偏在して流れるようになる。また、このような流れは不安定であり、その不安定さのために電池間の隙間の間で冷却風流れが蛇行して流れるようになる。その結果、所定の冷却風風量が電池間隙間に供給されているにも関わらず、その隙間の両側の電池の間で、あるいは1つの電池の部位の間で、冷却性や電池温度にばらつきが生ずる結果となる。
【0014】
発明者は、さらに検討を行い、流れ制御板に設けられるスリットを特定の形態とすると、即ち、電池間隙間の両側の電池の上流側端縁にそれぞれ対向するようにスリットを設けるようにすると、それらスリットからの流れが、合流して電池間の隙間に安定して流れ込むような流れが実現できて、図6に見られたような電池間の隙間における冷却風流れの偏在や蛇行を効果的に抑制でき、電池温度の均一化が図れることを知見し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、複数の平板状の電池が所定間隔を隔てた積層状に並べられた組電池を電池ケース内に収容し、電池ケース内を通流する冷却風を、電池間の隙間を通過するように送って電池を冷却する電池冷却構造であって、組電池の上流側には、電池の上流側端縁に対向して、冷却風の通路を遮断するように流れ制御板が配置され、流れ制御板には、電池間の隙間に沿う方向に延在する複数のスリットが設けられて、該スリットを通じて流れ制御板の上流側から下流側に冷却風が流れるようにされ、それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリットが、少なくとも当該隙間の両側に隣接するそれぞれの電池の上流側端縁に対向する位置に設けられた電池冷却構造である。
【0016】
本発明においては、流れ制御板が電池間隙間に対向する部分にはスリットが設けられていないことが好ましい(第2発明)。
【0017】
また、本発明においては、それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリットが、当該電池間隙間の中心面に対し対称な位置に設けられることが好ましい(第3発明)。また、本発明においては、電池の上流側端縁と流れ制御板との間には冷却風流れを仕切る部材が設けられ、スリットと電池間の隙間によって形成される通気経路が、電池間の隙間ごとにそれぞれ独立した通気経路となるようにされることが好ましい(第4発明)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリットが、少なくとも当該隙間の両側に隣接するそれぞれの電池の上流側端縁に対向する位置に設けられているので、スリットを通過した冷却風が電池間隙間で合流して、電池表面に沿って流れるようにすることができる。そして、隙間の左右の電池表面に新規な冷却風が供給されるようになって、電池温度が均一化されるという効果が得られる。
【0019】
また、本発明において、第2発明のように、流れ制御板が電池間隙間に対向する部分にはスリットが設けられないようにした場合には、新規な冷却風を効率的に電池表面に供給することが可能となって、冷却の効率性も高められるという効果が得られる。
【0020】
さらに、本発明において、第3発明のように、それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリットが、当該電池間隙間の中心面に対し対称に設けられるようにした場合には、より効果的に電池温度が均一化される。
【0021】
さらに、本発明において、第4発明のように、電池の上流側端縁と流れ制御板との間には冷却風流れを仕切る部材が設けられ、スリットと電池間の隙間によって形成される通気経路が、電池間の隙間ごとにそれぞれ独立した通気経路となるようにされるようにした場合には、電池間の隙間ごとに冷却風の風量が調整可能となるので、さらに効果的に電池温度の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の電池冷却構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態の電池冷却構造に用いられる組電池構造と流れ制御板の構成を示す分解図である。
【図3】本発明の実施形態に用いられる流れ制御板を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態における冷却風流れの様子を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態における冷却風流れのシミュレーション結果の流速分布図である。
【図6】比較例における冷却風流れのシミュレーション結果の流速分布図である。
【図7】本発明におけるスリットの他の形状例を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態における流れ制御板付近を示す断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態における流れ制御板付近を示す断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態における流れ制御板付近を示す断面図である。
【図11】電池冷却構造の検討例(比較例)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面に基づいて、本発明の電池冷却構造の実施形態について、ハイブリッド自動車用の組電池を冷却する電池冷却構造を例にして説明する。図1は本発明の電池冷却構造の第1実施形態の断面図である。また、図2は本実施形態の電池冷却構造に組み込まれる流れ制御板や組電池の構造および構成を分解図で示した図である。
【0024】
図1に示す本発明実施形態の電池冷却構造について説明する。複数の平板状電池2,2が所定間隔の隙間を隔てて積層状に配置された組電池構造体1とされて、電池ケース6の中に配置されている。平板状電池2、2は図1の紙面奥行き方向に延在するように配置されていて、電池2,2は、電池ケース6の内面や隣接する電池との間に所定の間隔(隙間)を有し、その隙間に冷却風が流れるように、スペーサや支持部材によって、箱状の電池ケース6の内部に収容、支持されている。
【0025】
電池ケース6は金属や合成樹脂により成形された中空の箱状の部材であり、電池ケース6には冷却風導入口61と冷却風導出口62が設けられて、電池ケース6の内部空間が冷却風通路となる。そして電池ケース6は、冷却風導入口61や冷却風導出口62がダクトや送風ファンなどの周辺部材と接続されて一連の冷却風通路となって、組電池の冷却に使用される。
【0026】
本実施形態では、冷却風導出口62の下流側に送風ファン(図示せず)が設けられて、図の左上の冷却風導入口61の上流側に接続される冷却風ダクト(図示せず)から、冷却風が電池ケース6の内部に流れ込み、電池2,2や電池ケース6の間の隙間を通りながら電池を冷却して、冷却風導出口62から図の右下側へと暖められた冷却風が流れ出ていく。
【0027】
本実施形態の電池冷却構造に組み込まれる組電池構造体1について説明する。図2には本実施形態の電池冷却構造の分解図を、電池ケースを省略して示しており、組電池構造体1は、電池2とホルダ部材3とエンドプレート4とが一体に組み立てられて構成されている。組電池を構成する平板状の電池2,2は、互いに所定の間隔を隔てて積層状態に配置されている。電池2,2は直列あるいは並列に電気的に接続されて組電池を構成する。本実施形態においては、電池モジュールを構成する電池はリチウムイオンバッテリーであり、電池2は平板状(扁平な直方体状)の形状となっている。電池2,2は広い平坦面が互いに対向するように積層されて、それぞれの電池の側面(広い平坦面に隣接する面)に端子が設けられている。
【0028】
電池2,2が積層状態で位置決めされて保持されるために、電池2,2の側面に対向するように、一対のホルダ部材3,3が設けられる。ホルダ部材3は電池2,2の両端の側面部全体を覆うような板状に形成されるとともに、ホルダ部材3、3には、電池の両端部21,21をそれぞれ保持する形状の保持部31,31が設けられている。本実施形態においては、保持部31は電池の両端部21を取り囲んで嵌合するような形状に、ホルダ部材本体から突出して設けられている。ホルダ部材には、電池の端子部分や固定用突起等が貫通する貫通穴Hが設けられている。ホルダ部材の貫通穴から外部に露出させた電池端子を互いに結線して、組電池として機能させる。
【0029】
積層状に位置決めされた組電池の積層方向の両端の電池の広い面に対向するように、一対のエンドプレート4、4が設けられている。エンドプレート4、4には、一対のホルダ部材3,3が取付けられて、ボルトやバンドなどによって固定され、互いに電池の固定構造を維持する働きをする。エンドプレート4,4はホルダ部材の取付けが適切に行われる限りにおいて、省略あるいは簡素化することができる。そして、電池2,2は、電池ケース6内に、ホルダ部材やエンドプレートを備えた組電池構造体1として組み込まれる。
【0030】
本実施形態においては、ホルダ部材3,3とエンドプレート4,4とは、角筒状の通気経路を構成して、冷却風通気経路の一部を構成するようにされている。このようにすれば、ホルダ部材やエンドプレートを、冷却風通路を画成する電池ケース6として兼用することができる。なお、必ずしも、ホルダ部材3,3やエンドプレート4,4によって冷却風通気経路を構成しなければならないわけではなく、もっぱら電池ケースによって通気経路を構成することもできる。
【0031】
本発明においては、電池ケース6の内部に、電池ケースの内部空間を冷却風導入口側と冷却風導出口側とに仕切り、冷却風の流れをさえぎるように、流れ制御板5が設けられている。そして、本実施形態においては、流れ制御板5は組電池の上流側の端縁部を覆うような大きさとされて、組電池よりも上流側となる位置に、組電池の上流側端縁部と略平行となるように、電池ケース6に対して一体に取り付けられている。即ち、それぞれの電池の上流側の端縁(端面)は、流れ制御板5と所定間隔を隔てて対向するようにされている。
【0032】
図1にその断面を、図2および図3にその斜視図を示すように、流れ制御板5には、電池間の隙間に沿う方向に延在して、複数のスリット51,51が設けられている。スリット51、51は、電池間の隙間の長さ方向(図1における紙面奥行き方向)において、隙間の全長にわたる長さに設けられている。そして、スリット51,51は、流れ制御板5の上流側空間と下流側空間とを互いに連通するように流れ制御板5を貫通して設けられている。そして、流れ制御板5によって流れをせき止められた冷却風は、流れ制御板に設けられたスリット51を通じて、上流側から下流側に流れる。
【0033】
図4に流れ制御板5のスリット51,51と電池2,2の位置関係を詳細に示すが、本実施形態においては、スリット51,51は、電池2,2の上流側端縁に対向する位置に、すなわち、電池間の隙間とは直接には対向しない位置に設けられている。そして、スリット、51,51は全ての電池2,2の上流側端縁に対向するように設けられており、その結果、電池間の隙間のそれぞれに冷却風を供給するスリットは、それぞれの電池間隙間の両側に位置する電池の上流側端縁に対向して、それぞれ1つずつ対をなして存在するようにされている。
【0034】
そして、これら対をなすスリット51,51は、電池間の隙間の中心面(図中の一点鎖線mで示す面)に対して互いに対称となる位置に設けられている。また本実施形態においては、スリット51は電池の上流側端縁の中央位置に対向して設けられている。
【0035】
それぞれのスリット51,51は、スリットを通過した冷却風が電池の上流側端縁に吹付けるように設けられている。そして、本実施形態においては、一対のスリット51,51の大きさ(すなわちスリットの幅)は、ほぼ等しい大きさ(幅)とされており、対をなすスリット51,51から電池間の隙間に向かって、互いに拮抗するようなほぼ等しい風量の冷却風が供給されるようになっている。本実施形態のように、流れ制御板5の上流側では、冷却風が左から右に流れる(図1)ように電池冷却構造が構成されている場合などには、対をなすスリット51,51の間で、流量に差が生ずる場合があるので、このような場合には、流量が少なくなりやすい側のスリットの幅をやや大きめに調整して、左右のスリットから電池間隙間に供給される風量がほぼ等しくなるように(拮抗するように)調整することがより好ましい。
【0036】
スリット51の幅Sは、電池間の隙間の幅d以下と(即ちS≦dとなるように)されることが好ましく、そのようにすれば、各電池間の冷却風流れは、スリット51によって絞られて、その流量が調整されうる。例えば、本実施形態においては、電池間の隙間を流れる冷却風の流れ方向(図1の上下方向)に沿って見て、スリット51の幅Sが、電池間の隙間の幅dの40%(即ちS/d=0.4)にされている。
【0037】
流れ制御板5と電池の上流側端縁部とは、スリット51から流れ出る冷却風の流れを妨げないように、互いに所定の間隔だけ離間して設けられるが、その離間距離Lは、スリット51の幅Sの0.3〜5倍程度であることが好ましく、0.5〜3倍程度であることがより好ましい。離間距離が小さいと、スリットから冷却風が流れにくくなる。逆に、離間距離が大きくなると、スリットから流れ出す冷却風流れが電池間隙間に流れ込む際の整流効果が小さくなる。
【0038】
上記電池冷却構造を構成する電池ケースの製造方法は、公知の製造方法により行うことができ、例えば、電池ケース6は開口状の箱と蓋に分けたケース部材を合成樹脂(例えばポリプロピレン樹脂)の射出成形により形成することができる。流れ制御板5も合成樹脂(例えばポリプロピレン樹脂)の射出成形により形成することができ、可能であれば、電池ケース6のケース部材と一体成形してもよい。もちろん、流れ制御板5を金属板や合成樹脂の射出成形などによりケースとは別体に作成して、電池ケース組み立て時に所定位置に取り付けるようにしてもよい。
【0039】
上記電池冷却構造に組み込まれる組電池構造体1は、公知の製造方法により構成することができる。例えば、ホルダ部材3やエンドプレート4は例えば合成樹脂の射出成形により製造することができ、互いにボルトやクリップなどの締結部材を介して結合して、上記組電池構造を構成できる。強度や熱的要件等の要件に応じて、これら部材を金属部材で構成することもできる。
【0040】
電池ケースやホルダ部材やエンドプレートにおいてシール性が必要となる部位には、ゴムやエラストマーや発泡樹脂などからなるシール材を備えさせることが好ましい。また、これら部材について、少なくとも一部をゴムやエラストマーにより一体成形することも好ましい実施の形態である。
【0041】
完成した電池構造体1を電池ケース6内の所定位置に配置し、流れ制御板5を組み込んだ状態で電池ケースの蓋を閉じて、上記実施形態の組電池が収容された電池ケースおよび電池冷却構造が完成される。
【0042】
本発明の電池冷却構造による作用と効果を説明する。
本発明の組電池構造においては、電池間隙間の両側の電池に対し、それぞれの電池の上流側端縁に対向するように流れ制御板5のスリット51が設けられているので、スリットを通過した冷却風が電池の表面に沿って流れ、安定した流れが実現できる。
【0043】
すなわち、図4に示すように、スリット51を通過した冷却風流れは、スリット51が電池端縁部に対向するように設けられているため、直接には電池間の隙間に流れ込まず、一旦、電池の上流側端縁に吹付けられる。そして、電池上流側端縁にぶつかった冷却風流れは、左右に分かれて流れ、左右の電池間隙間へと流れ込んでいく。
【0044】
そして、冷却風は電池の表面に沿って流れながら、電池間の隙間へと流れ込んでいく。このとき、スリット51,51が、隙間の両側の電池上流側端縁に対をなすように設けられているので、それぞれのスリットからの冷却風流れが、互いに拮抗して電池間隙間で合流するように流れる。そして、両側のスリットからの流れは、左右それぞれの電池の表面を離れることなく(即ち剥離せずに)流れていく。
【0045】
そのため、隙間に隣接するいずれの側の電池表面にも、新鮮な冷却風が連続して届けられて、電池表面付近に冷却風がよどむ領域が発生することが抑制あるいは未然防止される。従って、図6に示したシミュレーション結果に代表されるような、所定の冷却風風量を送っているにも関わらず、冷却風が蛇行したり電池表面から剥離したりして電池の温度がうまく均一化できないといった現象が起こりにくくなり、電池温度が均一化される。
【0046】
また、本実施形態に示したように、それぞれの電池間隙間に対して冷却風を供給するスリットが、電池間隙間の中心面に対して対称な位置に設けられていると、隙間の両側に位置するスリットから流れ込む冷却風が電池間隙間で合流する際に、両方からの流れがうまく拮抗するように流れて、互いの流れを電池表面に押し付けるように働きあうので、上述した冷却風流れをより効果的かつ安定的に実現でき、電池温度の均一化に特に効果的である。
【0047】
発明者は上記効果に関する数値流体解析シミュレーション検討を行った。シミュレーションでは、上述した第1実施形態に準ずる組電池および流れ制御板をモデル化して、電池ケース6の入り口側と出口側の間に所定の圧力差を与えた際の電池間に流れる冷却風流れの様子を数値流体解析により求めた。なお、数値流体解析の解析領域は、左右のそれぞれの電池の中心面(即ち、第1実施形態における電池の上流側端縁に対向して設けられる1本のスリットの中心面)を境界として設定し、解析を実行し結果を表示している。
【0048】
計算結果を図5に示す。図5には、第1実施形態(図1)での、電池間隙間の上流側部分における冷却風の流速分布を示しており、色が薄い部分ほど流速が高く、その部分に冷却風が流れていることを示している。図中では、流れ制御板や電池は白抜きで示されている。また、電池の外枠部分(電池の外周面)はグレーで示している。
【0049】
図5の計算結果によれば、冷却風流れが一旦電池上流側端縁にぶつかった後に、電池の表面に沿うように電池間隙間に向かって流れ、電池間隙間で左右からの流れが合流して、下流側に流れていく様子が見て取れる。冷却風流れは、電池間の隙間においても電池表面に沿って平行に流れ、電池表面から剥離することなく均一に流れている。
【0050】
一方、図11に示した検討例(比較例)のように、スリット991を電池間隙間に直接対向する位置に設けた場合には、スリット991からの噴流が直接隙間に流れ込んで、冷却風の偏向や蛇行が生じやすい。図6には、図11のような検討例において、狭いスリットを電池間隙間に直接対向させて設けた比較例について、冷却風流れの様子を数値流体解析により求めたものを示す。なお、冷却風量や電池配置などに代表される、スリット形状・配置以外の解析条件は図5の実施形態における解析条件と同じである。
【0051】
図6には、比較例において、狭いスリットから勢い良く吹き出す冷却風が、電池間隙間に流れ込む際に、冷却風が蛇行し、隙間の左右の電池に偏って吹付けられている様子が示されている。この場合、冷却風が直接電池表面に沿って流れる部分では、電池表面の冷却性がよいものの、冷却風が電池表面から剥離して離れて流れている部分では、電池表面の冷却性が悪くなる。従って、電池の表面温度が均一でなくなりやすい。また、隙間の左右の電池間の温度差も生じやすくなる。
【0052】
以上のように、本発明の電池冷却構造とすれば、電池間隙間において、新規な冷却風を隙間の両側の電池表面に沿って安定して流すことができ、電池間の冷却温度ばらつきを抑制し、電池温度の均一化を図ることができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその説明を簡略化または省略する。
【0054】
まず、流れ制御板に設けられるスリットの変更例を説明する。
図8には、本発明の第2実施形態の流れ制御板および電池の配置を断面図で示している。本実施形態においては、流れ制御板7が電池2の上流側端縁と対向する部分に突条73,73が形成されて、突条73先端部が電池2の上流側端縁に当接し、シールするようにされている。このような構成をとることによって、突条部分が冷却風流れを仕切る仕切り部材として機能し、互いに対応して設けられたスリットと電池間の隙間とによって構成される冷却風通路が、それぞれ独立した複数の冷却風通路となる。これら独立した冷却風通路は、電池ケース6の中で互いに並列に配置されて設けられることになる。
【0055】
本実施形態においては、スリットは、流れ制御板7が電池の上流側端縁に対向する部分に突条73を挟んで、それぞれ2本ずつ設けられている。即ち、突条73の右側に配置されるスリット71は、その右側の電池間隙間に冷却風を供給し、突条73の左側に配置されるスリット72は、その左側の電池間隙間に冷却風を供給する。そして、電池間隙間の側から見れば、隙間の左右に配されたスリット71,72からの流れが電池間隙間で合流して、冷却風が流れることになる。
【0056】
本実施形態のようにしても、第1実施形態と同様に、電池間隙間において、新規な冷却風を電池表面に沿って安定して流すことができ、電池間の冷却温度ばらつきを抑制し、電池温度の均一化を図ることができる。
【0057】
さらに、本第2実施形態のように、凸条73のような、流れ制御板と電池上流側端縁の間の冷却風流れを仕切る部材を設けて、互いに対応して設けられたスリット71、72と電池間の隙間とが一連の通気経路を構成し、電池間の隙間ごとにそれぞれ独立した冷却風通路が構成されるようにした場合には、それぞれの通気経路に設けられたスリットの幅や大きさを調整することによって、それぞれの電池間隙間を流れる冷却風の流量を独立して調整できるようになる。電池ケース6の構成や形状の制限により、それぞれの電池間の温度差が生じやすい場合などには、このような構成をとることにより電池間の冷却風配分を効果的に調整し、電池温度の均一化に一層効果的である。
【0058】
図9には本発明の第3実施形態を示す。本実施形態においては、流れ制御板8の電池上流側端面に対向する位置に、スリットが2本ずつ設けられている。本実施形態における冷却風流れは、図9中にも示すように、第2実施形態とほぼ同様のものとなり、本実施形態においても、他の実施形態と同様に、電池間隙間において、新規な冷却風を電池表面に沿って安定して流すことができ、電池間の冷却温度ばらつきを抑制し、電池温度の均一化を図ることができる。
【0059】
本実施形態に示されるように、流れ制御板が電池上流側端縁に対向する部分に設けられるスリットは、1本に限定されず、2本、またはそれ以上であっても良い。これらスリットからの流れは、電池上流側端縁に一旦ぶつかって、電池表面に沿うように流れて電池間隙間に流れ込んでいく。
【0060】
図10には、本発明の第4実施形態を示す。本実施形態においては、第1実施形態と同様に電池の上流側端縁に対向する位置に設けられるスリット91,91に加え、さらに、流れ制御板9が電池間隙間に直接対向する位置にもスリット92が追加されている。このように、電池間隙間に対向する位置にもスリットが追加されていても、図10に冷却風流れを模式的に示すように、電池の上流側端縁に対向して設けられたスリットから流れ込んだ冷却風が、電池間隙間で合流するように流れ込み、電池表面に沿って流れるようになって、第1実施形態と同様の効果を発揮できる。
【0061】
なお、冷却風を積極的に電池表面に供給し、効率的に電池を冷却する観点からは、第1実施形態のように、流れ制御板が電池間隙間に対向する部分には、スリットが設けられていないことが好ましい。
【0062】
このように、スリットの本数や形状が変化しても、電池間隙間に隣接する両側の電池の上流側端縁に対向するように、それぞれスリットを設けて、スリットからの冷却風流れが互いに拮抗するように電池間隙間で合流するようにすれば、本発明を実施することができ、新規な冷却風が電池表面に沿って流れるようになって、第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0063】
また、上記実施形態の説明においては、電池間隙間の中心面に対し、スリットが対称となるように設けられた例を中心に説明したが、それに限定されず、左右のスリットからの冷却風流れが互いに拮抗するように電池間隙間で合流するようになる限りにおいて、スリットを非対称に設けても良い。例えば、隙間の左右でスリットの本数を変えたり、スリットの幅や開口面積を変えたりしても良い。
【0064】
また、上記代1実施形態においては、スリットが連続した1つの長穴である場合を説明したが、スリットとして他の形態のものも使用可能である。例えば、複数個の長穴81、81を長軸方向に並べて連設してスリット(図7(a)参照)としたり、複数個の角穴82、82を並べて連設してスリット(図7(b)参照)としたり、多数の小さな穴83,83を、細長い領域の中に(例えばメッシュ状に)分散させて設けてスリットとしたりすることができる(図7(c)参照)。要するに、電池間の隙間に沿う方向に、流れ制御板に細長い領域にわたって通気性がある部分(代表的には貫通穴)を設けることにより、その部分をスリットとして使用できる。
【0065】
また、第2実施形態(図8)に示したように、スリット・貫通穴や電池間の隙間によって形成される冷却風通路を互いに独立して並列配置されたものとする際の具体的構成には、第2実施形態に示した突条73に代えて、他の構成を採用することもできる。例えば、突条73に代えて、流れ制御板と電池端縁の間に別部材である仕切り部材を設けてもよい。また、これら部材の接触部には、必要に応じてゴムやエラストマーや発泡樹脂などからなるシール部材を設けることが好ましい。
【0066】
また、所定の間隔の隙間を隔てて積層配置される電池の間には、適宜スペーサを挟持させて、電池の膨張を抑制することも、本発明の実施において好ましい形態である。電池間の隙間が小さくなると冷却風流量の減少や電池表面温度の上昇が顕著となり、電池温度の均一性が失われやすいので、本発明を実施する際には、電池間に挟持するスペーサなどの膨張変位の制限手段を付加的に設けて、電池間の隙間が過小になることを防止するようにするのが好ましい。電池の膨張抑制部材としてのスペーサ部材としては、棒状のものやくし状のもの、板状のものなどが例示される。スペーサ部材は、電池の周りに巻き回したリング状のもの(ゴム製バンドなど)であっても良い。これらスペーサ部材は、冷却風の流れを妨げないように冷却風流れ方向に沿って配置されるようにすることが好ましい。スペーサ部材の材料は、金属や合成樹脂等の比較的硬質な材料であっても良いが、エラストマやゴムといった比較的軟質な材料であっても良い。
【0067】
このようなスペーサ部材を本発明の流れ制御板やスリットの構成と併用するようにすれば、本発明の効果をより効果的に発揮することができる。
【0068】
なお、第1実施形態においては、組電池構造体1を構成するホルダ部材3やエンドプレート4を板状の部材で構成して角筒状の通気経路とする実施形態について説明したが、このように構成した場合には、これら部材を電池ケースの一部として使用することができる。ケース単独で冷却風通路を構成できる電池ケースを有する場合には、必ずしも、ホルダ部材やエンドプレートを板状とする必要はなく、組電池の構造が適切に維持可能な範囲で、棒状部材やブロック状部材、バンド部材などにより構成してもよい。また、これら部材は、適宜、分割して構成することもできる。
【0069】
また、上記実施形態の説明においては、中空箱状の電池ケース1に組電池が収容される形態について説明したが、電池ケースの実施形態は、ケース専用に成形された中空箱状のものに限定されるものではなく、電池ケースは、パネル部材やブロック部材などの複数の部材を組み合わせて構成されるものであってもよい。例えば、車体のフロアパネル上に組電池を配置して、組電池を取り囲むように、断熱パネルや電極パネルを設けて、フロアパネルや断熱パネル、電極パネルの間を冷却風通路とした電池ケースを構成するようにすることもできる。このように、本発明における電池ケースには、専用の構成部材で構成された電池ケースのほか、組電池の周辺に配置される部材を利用・兼用して構成される電池ケースを含む。
【0070】
組電池を構成する電池の種類には、一次電池、二次電池(リチウムイオンバッテリー、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池など)、二重電気キャパシタなどが例示できる。電池は、上記実施形態においては、平板状のものについて説明したが、その表面は完全に平坦である必要はなく、冷却性向上や電池外装缶の剛性向上のための凹凸条などを有する電池であってもよい。
【0071】
組電池が使用される目的・用途も、自動車用に限定されるものではなく、例えば、風力発電装置や太陽電池発電装置などにおいて発電電力を平準化する目的で二次電池が使用される用途など、広い用途に使用される組電池の冷却に本発明は活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車、発電装置などに使用される大容量組電池の電池冷却構造として使用することができ、それら組電池を構成する平板状電池を効果的に冷却することができ、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0073】
1 組電池構造体
2 電池
3 ホルダ部材
31 保持部
4 エンドプレート
5 流れ制御板
51 スリット
6 電池ケース
7 流れ制御板
71,72 スリット
73 突条
8,9 流れ制御板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の平板状の電池が所定間隔を隔てた積層状に並べられた組電池を電池ケース内に収容し、電池ケース内を通流する冷却風を、電池間の隙間を通過するように送って電池を冷却する電池冷却構造であって、
組電池の上流側には、電池の上流側端縁に対向して、冷却風の通路を遮断するように流れ制御板が配置され、流れ制御板には、電池間の隙間に沿う方向に延在する複数のスリットが設けられて、該スリットを通じて流れ制御板の上流側から下流側に冷却風が流れるようにされ、
それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリットが、少なくとも当該隙間の両側に隣接するそれぞれの電池の上流側端縁に対向する位置に設けられた電池冷却構造。
【請求項2】
流れ制御板が電池間隙間に対向する部分にはスリットが設けられていない
請求項1に記載の電池冷却構造。
【請求項3】
それぞれの電池間隙間に冷却風を供給するスリットが、当該電池間隙間の中心面に対し対称な位置に設けられた
請求項1または請求項2に記載の電池冷却構造。
【請求項4】
電池の上流側端縁と流れ制御板との間には冷却風流れを仕切る部材が設けられ、スリットと電池間の隙間によって形成される通気経路が、電池間の隙間ごとにそれぞれ独立した通気経路となるようにされた
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電池冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−155867(P2012−155867A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11491(P2011−11491)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】