説明

電池容器用めっき鋼板、その製造方法、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器及びその電池容器を用いた電池

【課題】アルカリ電池の長期保存におけるガス発生を抑制するとともに、優れた電池特性を有する電池とすることが可能な電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池を提供する。
【解決手段】鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、鉄−ニッケル合金層、銀層が形成されており、前記鉄−ニッケル合金層は、鋼板上にニッケルめっきをした後に拡散熱処理によって形成されたものであり、前記銀層のめっき厚みが50〜500mg/mであることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。また、その電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器。さらに、その電池容器を用いてなる電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池容器用めっき鋼板、その製造方法、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器及びその電池容器を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ機器やデジタルカメラなどのヴィジュアル機器など、多方面において携帯用機器が用いられ、その作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。これらの電池においては、機器の高性能化に伴い高出力化および長寿命化など、高性能化が求められている。アルカリ乾電池に例をとると、正極および負極活物質を充填する電池容器も電池性能に直接影響する重要な構成要素であり、その性能の向上が求められている。例えば、長寿命化を目的として電解液であるアルカリ溶液に対する耐食性を向上させるために、電池ケースの内面となる側にニッケル−リン合金層が形成されている電池容器用表面処理鋼板(特許文献1)が提案されている。
【0003】
また、電池の高容量化、および貯蔵後の重負荷特性の劣化を防止するため、缶内面になる面の圧延鋼板材にニッケル−銀合金メッキ層、またはニッケル−クロム合金メッキ層を形成し、プレス絞りしごき加工して細かいひび割れを生じさせて凹凸面を構成し、正極合剤や導電性被膜との接触面積を大きくして電池の内部抵抗を減少させる方法(特許文献2)や、ニッケルメッキ層を形成させ、その上に銀メッキ層を形成させた後、加熱処理してニツケル−銀メッキ層を形成させてメッキの結晶を緻密化して硬度を高め、ひび割れの間隔を一層密にすることにより、正極合剤や導電性被膜との接触面積をさらに大きくして電池の内部抵抗を減少させる電池缶(特許文献3)が提案されている。
【0004】
しかし、電池容器内面に用いる鋼板面に直接形成させるニッケル−リン合金層は硬くて脆いために、絞り加工や絞りしごき加工を施して容器に成形加工する際に、下地の鋼が露出して電解液であるアルカリ溶液に対する耐食性が低下する恐れがある。同様に、特許文献2や特許文献3に記載の電池缶においても、プレス絞りしごき加工して細かいひび割れを生じさせると、地鋼が露出して電解液に用いられるアルカリ溶液に対する耐食性が低下する恐れがある。
【0005】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【特許文献1】国際公開公報WO99/03161号公報
【特許文献2】特開平11−102671号公報
【特許文献3】特開2001−325924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては、絞り加工や絞りしごき加工により成形加工する電池容器において、アルカリ電池の長期保存におけるガス発生を抑制するとともに、優れた電池特性を有する電池とすることが可能な電池容器用めっき鋼板、その製造方法、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器及びその電池容器を用いた電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するため、本発明は、以下の特徴を有する。
(1)本発明の電池容器用めっき鋼板は、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、鉄−ニッケル合金層、銀層が形成されており、
前記鉄−ニッケル合金層は、鋼板上にニッケルめっきをした後に拡散熱処理によって形成されたものであり、
前記銀層のめっき厚みが50〜500mg/mであることを特徴とする。
(2)本発明の電池容器は、上記(1)において、電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなることを特徴とする。
(3)本発明の電池は、上記(2)の電池容器を用いてなることを特徴とする。
【0008】
(4)本発明の電池容器用めっき鋼板の製造方法は、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、順に、ニッケルめっき、50〜500mg/m厚みの銀めっきをし、
その後、熱処理を施して、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、拡散による鉄−ニッケル合金層、銀層を形成させることを特徴とする。
(5)本発明の電池容器用めっき鋼板の製造方法は、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、ニッケルめっきをし、
その後、熱処理を施して、拡散による鉄−ニッケル合金層を形成し、
さらに、前記鉄−ニッケル合金層上に50〜500mg/m厚みの銀めっきをし、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、拡散による鉄−ニッケル合金層、銀層を形成させることを特徴とする。
(6)本発明の電池容器用めっき鋼板の製造方法は、上記(4)又は(5)において、
前記熱処理が、
未焼鈍の冷延鋼板にニッケルめっきをし、又はニッケルめっき及び銀めっきをし、
その後、再結晶焼鈍と拡散熱処理とを同時に施す熱処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の電池容器内面となる側にニッケルめっきを施し、次いでその上に銀めっきを施し、またはニッケルめっきを施し、次いでその上に銀めっきを施した後にさらに拡散熱処理することにより、鋼板上にニッケル層とその上に銀層が形成されたもの、または鋼板上に鉄−ニッケル合金層(拡散層)とその上にニッケル層、およびさらにその上に銀層が形成されたもの、もしくは鋼板上に鉄−ニッケル合金層(拡散層)とその上に銀層が形成されたものであり、アルカリ電池の長期保存におけるガス発生を抑制するとともに、優れた電池特性を有する電池とすることが可能な電池容器用めっき鋼板を提供し、さらにその電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器、およびその電池容器を用いた電池を提供することができる。
【0010】
従来、下地のニッケル層が薄く鋼素地が露出した場合、あるいは硬い鉄−ニッケル合金層(拡散層)が厚い場合には、プレス成形時に地金(鋼素地)が露出したり、鉄−ニッケル合金層(拡散層)自体の鉄の表層露出度が高くなるため、長期貯蔵において鉄の溶解によりガス発生を招来し、最悪の場合は発生したガスによる電池内圧により電池の構成要素である電解液(水酸化カリ)が電池の封口部から漏液して、電池としての機能が失われるなどの問題が生じる。本発明の電池容器用めっき鋼板を用いて電池缶に成形加工した場合には、ニッケル層が薄く鋼素地が露出した場合でも、あるいは硬い鉄−ニッケル合金層(拡散層)が厚く、成形加工時に地鋼が露出しり、鉄−ニッケル合金層(拡散層)の鉄表層露出度が高くなったとしても、展延性に富み、耐アルカリ性に優れている銀がニッケル層または鉄−ニッケル合金層(拡散層)上に被覆されていることにより、正極合剤中に含浸されたアルカリ電解液中への鉄溶出が押さえられるために電池缶内のガス圧を低減できると考えられる。
【0011】
銀の被覆量としては、500mg/mを超えるとで効果が飽和に達し、それ以上の量を被覆することは経済的に不利となる。一方、ニッケルめっきの厚さに関しては、ニッケルめっき厚が薄いために鋼素地が露出したり、ニッケルめっき後に熱処理し鉄−ニッケル合金層(拡散層)が形成され、過度に表層鉄濃度が高くなったとしても、銀を被覆することによりガス発生が抑制されるため、下地のニッケルめっき厚を薄くすることが可能となる。ニッケルめっき後の熱拡散処理によっては、形成される鉄−ニッケル合金層(拡散層)はニッケルめっき厚さの4〜5倍にまでの厚さに達することがあり、鉄−ニッケル合金層(拡散層)の厚さが過度に厚くなると表層の鉄濃度が高くなり、ガス発生上好ましくなかったが、銀を被覆することにより鉄−ニッケル合金層(拡散層)の厚さがある程度大きくなってもガス発生は生じなくなる。
【0012】
ニッケルめっき後に拡散熱処理する方法として箱型焼鈍法を用いる場合と連続焼鈍法を用いる方法があり、いずれを用いてもよい。拡散熱処理の工程として、予め再結晶焼鈍した冷延鋼板にニッケルめっきを施し、次いで拡散熱処理のみの目的で箱型焼鈍炉または連続焼鈍炉で熱処理する方法がある。また他の工程として、冷延鋼板に再結晶焼鈍を施さず、冷延時の圧延潤滑剤をアルカリ電解洗浄した後にニッケルめっきを施し、次いで再結晶焼鈍して鉄−ニッケル合金層(拡散層)を形成せる、焼鈍と熱拡散処理を同時に行なう方法がある。前者の方法は冷延鋼板の再結晶焼鈍しニッケルめっき層の拡散熱処理を別々の工程、即ち2回に亘る熱処理を施さなければならない。後者の場合は1回の熱処理で再結晶焼鈍と拡散熱処理を同時に行なうことができるので、経済的に有利である。しかしながら、特に通常の深絞り用冷延鋼板の鋼成分を用いて箱型焼鈍炉を用いて再結晶焼鈍して拡散熱処理を同時に施す場合、通常加熱温度が650〜700℃の加熱温度で、6〜15時間の長時間均熱する熱処理を行わないと、深絞り成形加工が可能な適正な再結晶組織と機械的性質が得られない。この場合、ニッケルめっき層と鋼素地の界面には鉄−ニッケル合金層(拡散層)が形成されるが、前記の再結晶焼鈍の熱処理条件では、鉄−ニッケル合金層(拡散層)の厚さはニッケルめっき厚さの4〜5倍もの厚さとなり、鉄−ニッケル合金層(拡散層)の最表層の鉄濃度が過度に高くなり、厚い鉄酸化物の不働態皮膜が生成して接触抵抗が高くなり電池性能を劣化させるばかりでなく、相対的に厚い鉄−ニッケル合金層(拡散層)が形成されるために鋼素地の露出度合いも多くなり、アルカリ電解液への鉄の溶解によるガス発生が起こりやすくなる。本発明では、このように再結晶焼鈍と拡散熱処理を同時に施した場合に必然的に鉄−ニッケル合金層(拡散層)が厚くなることによる問題を解消することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の内容を説明する。本発明の電池容器用めっき鋼板の基板となる鋼板としては、汎用の低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01〜0.15重量%)、またはニオブやチタンを添加した非時効性の極低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01重量%未満)を用いる。これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケールを除去した後、冷間圧延し次いで電解洗浄、焼鈍、調質圧延したものをめっき基板として用いる。または冷間圧延し次いで電解洗浄した未焼鈍冷延鋼板をめっき基板とする。
【0014】
めっき基板である焼鈍済みまたは未焼鈍の冷延鋼板に鋼板の両面に、まずニッケルめっきを施す。ニッケルめっきはワット浴、無光沢浴若しくはこれに有機添加剤を含有させた半光沢浴を用いて電気めっきにより形成させる。また、スルファミン酸浴など他のニッケルめっき浴を用いることもできる。硫黄成分を含む光沢剤を含有した光沢めっき浴は銀めっきとの密着性が劣り、また拡散熱処理を施す場合は、熱処理によりめっき皮膜中に含有する硫黄成分により硫化ニッケルが生成することにより皮膜の脆化を生じて耐食性が損なわれるため好ましくない。めっき量としては電池容器内面となる側については2.0〜18g/mが好ましい。ニッケルめっき量が2.0g/m未満ではニッケルめっき後の拡散熱処理により厚い鉄−ニッケル合金層(拡散層)が形成されることがあり、過度に鋼素地が露出するため好ましくない。
【0015】
ニッケルめっきの上に施す銀めっきは通常は電池容器内面となる側に形成させるが、電池容器内外面となる両側に形成させてもよい。めっき厚を厚くすることにより鋼素地の露出をある程度補うことが可能であるが、鋼素地が露出した状態で銀めっきを施すと、鋼素地との密着性が低下し、電池容器に成形加工する際に銀層が脱落する問題が発生する。一方、電池容器内面となる側に施すニッケルめっき厚さが18g/mを超えるとガス発生抑制効果が飽和し、電池性能の向上効果も飽和するので不経済になる。ニッケルめっきに引き続いて拡散熱処理を施さない場合は、ニッケルめっきに引き続き銀めっきを施す。銀めっきはニッケルめっきと同じく電気めっきにより形成させることが好ましく、また毒性の少ない非シアン浴を用いることがより好ましく、有機酸塩浴を用いて銀めっきすることが特に好適である。銀めっきの厚さはフラッシュめっき程度の厚さで良好な電気伝導性が得られ、好適には50〜500mg/m(厚さで0.005〜0.05μm)の範囲である。50mg/m未満では電池性能を向上させる効果が不十分であり、500mg/mを超えると向上効果は飽和に達するとともに、高価な銀のため不経済である。
【0016】
銀めっき後に拡散熱処理を施す場合は、箱型焼鈍法または連続焼鈍法を用いて拡散熱処理を施す。箱型焼鈍法を用いる場合、未焼鈍の冷延鋼板に予めニッケルめっきおよび銀めっきを施した場合には、前記のように鋼の再結晶焼鈍し拡散熱処理を同時に行うため、600〜700℃の加熱温度で6〜15時間均熱する熱処理を行う。好都合なことに、ニッケルと銀は熱処理を施しても冶金学的に合金化せず、拡散層を形成しない。そのため、前記熱処理条件では最上層の銀めっき層は下地のニッケルめっき層とは互いに固溶する溶解度がないため合金化せず、薄層の銀層、または銀酸化物層がそのまま最表層に残存し、良好な導電性と低接触抵抗を保持することが可能となる。その結果、銀は銀層の下には再結晶により軟化したニッケル層または鉄−ニッケル合金層(拡散層)の上に残存し、ニッケルめっき後に拡散熱処理を施さない場合と同様の銀被覆による効果が得られる。一方、連続焼鈍法を用いる場合は鋼の再結晶焼鈍と拡散熱処理を同時に行うため、600〜800℃の加熱温度で1〜3分の加熱時間で熱処理する。この場合の鉄−ニッケル合金層(拡散層)の厚さは、凡そ0.4〜7μmとなる。通常の場合は、ストレッチャーストレインの発生を抑制するため、拡散熱処理後に1〜2%の伸び率(圧延率)で調質圧延を施す。
【0017】
このようにして、鋼板の電池容器の外面となる片面にニッケル層、または鉄−ニッケル合金層(拡散層)、もしくは鉄−ニッケル合金層(拡散層)上にニッケル層が形成されてなり、電池容器の内面となる他の片面に下記のA)〜C)のいずれかの層、すなわち鋼板側から順にA)ニッケル層、銀層、B)鉄−ニッケル合金層(拡散層)、ニッケル層、銀層、C)鉄−ニッケル合金層(拡散層)、銀層のいずれかの層が形成されてなるめっき鋼板が得られる。このめっき鋼板を本発明の電池容器用めっき鋼板とする。なお、鋼板の電池容器の外面となる片面に、ニッケルめっきのみのめっき層に替えて、電池容器の内面となる他の片面に施す上記と同様の各めっき層を形成させてもよい。
【0018】
本発明の電池容器は、上記の電池容器用めっき鋼板を、絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法を用いて、有底の筒型形状に成形加工して得られる。筒型形状としては、底面が円、楕円、または長方形や正方形などの多角形の形状であり、用途に応じて側壁の高さを適宜選択した筒型形状に成形加工する。このようにして得られる電池容器に正極合剤、負極活物質等を充填して電池とする。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
[電池容器用めっき鋼板の作成]
めっき基板として、焼鈍済みの冷延鋼板を用いて、ニッケルめっきおよび銀めっきを施す場合は表1に学組成を示す低炭素アルミキルド鋼(I)または極低炭素アルミキルド鋼(II)を用い、
(イ)冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき→銀めっき、
(ロ)冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき→銀めっき→拡散熱処理(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延、
(ハ)冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき→拡散熱処理(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延→銀めっき
のいずれかの3工程でそれぞれ電池容器用めっき鋼板を作成した。
【0020】
【表1】

【0021】
上記の(イ)〜(ハ)の高低において、定法により冷間圧延、電解洗浄を施した後、鋼種Iの場合は箱型焼鈍法によりで均熱温度640〜680℃、均熱時間8時間の再結晶焼鈍を行ない、、鋼種IIの場合は連続焼鈍法により加熱温度780℃、加熱時間1分の再結晶焼鈍を行った。再結晶焼鈍の後、伸び率1.0〜1.2%の調質圧延を行った。次いで以下に示す条件でニッケルめっきおよび銀めっきを施した。
<ニッケルめっき>
浴組成 硫酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 35g/L
ピット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルペレット(チタンバスケットに充填)
攪拌 空気撹拝
pH 4〜4.6
浴温 55〜60℃
電流密度 25A/dm
めっき量は電解時間を変えることにより調整した。
【0022】
<銀めっき>
浴組成 銀含有有機酸塩(ダインシルバーNEC(大和化成研究所(株)製))
200g/L
有機酸(錯塩)(ダインシルバーAGI(大和化成研究所(株)製))
500g/L
有機添加剤(平滑剤)(ダインシルバーAGH(大和化成研究所(株)製))
25g/L
陽極 銀板(厚さ5mm)
攪拌 めっき浴の循環
浴温 35〜40℃
電流密度 1A/dm
めっき量は電解時間を変えることにより調整した。
【0023】
【表2】

【0024】
銀めっき後に引続き拡散熱処理を行なう(ロ)の方法において、鋼種(I)を用いて箱型焼鈍法により熱処理する場合、および鋼種(II)を用いて連続焼鈍法により熱処理する場合は、表2に示す条件で拡散熱処理を施した。また(ハ)の場合のニッケルめっき後の熱処理は(ロ)と同様の条件で行った。以上のようにして表2に示す電池容器用めっき鋼板の試料(試料番号1〜4)を作成した。
めっき基板として、未焼鈍の冷延鋼板の上にニッケルめっきおよび銀めっきを施す場合は、表1に化学組成を示す低炭素アルミキルド鋼(I)または極低炭素アルミキルド鋼(II)を用い、
(ニ)冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき→銀めっき→熱処理(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延、
(ホ)冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき→熱処理(箱型焼鈍法または連続焼鈍法)→調質圧延→銀めっきの工程
のいずれかの2工程でそれぞれ電池容器用めっき鋼板を作成した。ニッケルめっきおよび銀めっきは上記と同様の条件で実施し、表2に示す拡散熱処理を行い、表2に示す電池容器用めっき鋼板の試料(試料番号5〜8)を作成した。また、比較用に銀めっきを施さなず、ニッケルめっきのままの試料とニッケルめっき後、箱型焼鈍炉を用い拡散熱処理を施した試料(試料番号9、10)も作成した。
【0025】
[電池容器の作成]
これらの試料番号1〜10の試料から57mm径でブランクを打ち抜いた後、10段の絞り加工により、外径13.8mm、高さ49.3mmの円筒形のLR6型電池(単三型電池)容器に成形加工した。
【0026】
[電池の作成]
この電池容器を用いて、以下のようにしてアルカリマンガン電池を作成した。二酸化マンガン粉末とカーボン粉末を混合混練し、金型中で加圧して所定寸法のドーナツ形状のペレットに作成し正極合剤とした。次いで缶内面に黒鉛粉末を主成分とする塗料を塗布した。次いで電池容器にペレットを挿入した。次いで、金属容器の開口端を内側にビード加工した。さらに電池容器に圧挿入した正極合剤ペレットの内周に沿うようにしてビニロン製不織布からなるセパレータを挿入した。 次いでセパーレータの内側に亜鉛粒と酸化亜鉛を飽和させた水酸化カリウムからなる負極ゲルを電池容器内に充填した。次いで負極底板と負極集電棒をスポット溶接した集電体をガスケットを予め装着した部品を電池容器に装着した。 次いで電池容器と該部品をカシメ加工してアルカリマンガン電池を作成した。
【0027】
[特性評価]
以上のようにして試料番号1〜10の試料から作成した電池容器を用いて作成した電池の特性を、以下のようにして評価した。
【0028】
<短絡電流>
電池を80℃で3日間放置した後、電池に電流計を接続して閉回路を設けて電流値を測定し、これを短絡電流とした。短絡電流が大であるほど特性が良好であることを示す。
【0029】
<放電特性>
電池を80℃で3日間放置した後、電池を1.5Aの一定電流に放電し、電圧が0.9Vに到達するまでの時間を放電時間として測定した。放電時間が長いほど放電特性が良好であることを示す。
<ガス発生>
電池を作製し、1日(24時間)保存後、3.9Ωの定抵抗で1.5時間の部分放電を行った後、80℃で3日間保存し、保存終了後ガス発生量を測定した。ガス発生量は保存後の電池を水中で開口し、メモリ付きビューレットに捕集して測定した。
評価結果を表3に示した。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、本発明の電池容器用めっき鋼板は、ニッケルめっき層、または鉄ニッケル拡散層を設けたニッケル鋼板を用いて作製したアルカリ電池に比較して、一部放電させ、保存した後のガス発生は少ない。また内部抵抗(短絡電流)および重負荷放電特性(1.5A連続放電)においても優れている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
鋼板の電池容器内面となる側にニッケルめっきを施し、次いでその上に銀めっきを施し、またはニッケルめっきを施しさらにその上に銀めっきを施した後に拡散熱処理することにより、鋼板上にニッケル層と銀層、または鋼板上に鉄−ニッケル合金層、ニッケル層とその上に銀層、もしくは鋼板上に鉄−ニッケル合金層とその上に銀層が形成されてなる本発明の電池容器用めっき鋼板は、アルカリ電池容器およびアルカリ電池に適用した場合に長期保存におけるガス発生を抑制するとともに、優れた電池特性を有する電池とすることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、鉄−ニッケル合金層、銀層が形成されており、
前記鉄−ニッケル合金層は、鋼板上にニッケルめっきをした後に拡散熱処理によって形成されたものであり、
前記銀層のめっき厚みが50〜500mg/mであることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器。
【請求項3】
請求項2に記載の電池容器を用いてなる電池。
【請求項4】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、順に、ニッケルめっき、50〜500mg/m厚みの銀めっきをし、
その後、熱処理を施して、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、拡散による鉄−ニッケル合金層、銀層を形成させることを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、ニッケルめっきをし、
その後、熱処理を施して、拡散による鉄−ニッケル合金層を形成し、
さらに、前記鉄−ニッケル合金層上に50〜500mg/m厚みの銀めっきをし、
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に、下から順に、拡散による鉄−ニッケル合金層、銀層を形成させることを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理が、
未焼鈍の冷延鋼板にニッケルめっきをし、又はニッケルめっき及び銀めっきをし、
その後、再結晶焼鈍と拡散熱処理とを同時に施す熱処理であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電池容器用めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−114097(P2012−114097A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49335(P2012−49335)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【分割の表示】特願2005−310887(P2005−310887)の分割
【原出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】