説明

電池式電子キー及びそれを用いた電気錠システム

【課題】電池寿命の向上を図る。
【解決手段】電気錠システム1は、電磁波を使ってIDデータの交信を行う電池式電子キー2を用い、電池式電子キー2に定期的に問い合わせ用電磁波を送信し、問い合わせ用電磁波に応答して電池式電子キー2から送信されるIDデータを受信してその正当性を判別し、その判別結果に基づいて電気錠4を施解錠制御する制御器3を備える。電池式電子キー2は、正規信号と見なす電磁波の信号幅が予め設定されており、信号受信によって起動し、制御器3からの問い合わせ用電磁波を受信したときは正規信号と見なしてIDデータを送信し、正規信号と見なされない信号を規定回数以上連続して受信したときは低消費電力動作を行うスリープ状態に移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を使ってIDデータの交信を行う電池式電子キーに関するとともに、この電池式電子キーに問い合わせ用電磁波を送信し、該問い合わせ用電磁波に応答して返信されるIDデータの正当性を判別し、その判別結果に基づいて電気錠を施解錠制御する制御器を備えた電気錠システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気錠の施解錠を行う電気錠システムとしては、様々な形態のものが従来より提案されており、その中の一つとして、電池式電子キーと制御器とを用いたものが知られている。この電池式電子キーと制御器とを用いた電気錠システムでは、電磁波でIDデータの交信を行うために、予め周波数と変調方式とを決めておき、制御器が定期的に問い合わせ用電磁波を送信し、この問い合わせ用電磁波を制御器近傍の電池式電子キーが受信すると、制御器に対してIDデータを返信している。制御器は、電池式電子キーから返信されるIDデータを予め登録されたデータと照合して正当性を判別し、正常認証したときに電気錠を解錠又は施錠制御している。
【0003】
なお、上述した電池式電子キーと制御器とを用いた電気錠システムとしては、例えば下記特許文献1に開示される建物用ドア施解錠システムが知られている。
【特許文献1】特開2004−003147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在では、携帯電話などの電子機器が必需品であるが、上述した電気錠システムに採用される電池式電子キーを携帯電話などと一緒にポケットに入れておくと、携帯電話の電波を電池式電子キーが自分への信号と勘違いしてID送信を行い、電池が一気に消耗するという問題があった。
【0005】
また、電池式電子キーが制御器から離れた場所で頻繁にID送信を行うと、電池式電子キーのIDデータのシーケンス番号がどんどん更新されてしまい、制御器のIDデータのシーケンス番号と不一致になり、扉が解錠されないという問題が発生する。なお、シーケンス番号は、他で電磁波を傍受して不正使用されることを防ぐための暗号化キー番号である。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、電池寿命の向上を図ることができる電池式電子キー及びそれを用いた電気錠システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の電池式電子キーは、IDデータの正当性を判別し、この判別結果に基づいて電気錠を施解錠制御する電気錠システムに用いられ、電磁波を使って前記IDデータの交信を行う電池式電子キーにおいて、
正規信号と見なす電磁波の信号幅が予め設定されており、信号受信によって起動し、前記正規信号を受信したときは前記IDデータを送信し、前記正規信号と見なされない信号を規定回数以上連続して受信したときは低消費電力動作を行うスリープ状態に移行することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の電池式電子キーを用いた電気錠システムは、電磁波を使ってIDデータの交信を行う電池式電子キーを用い、該電池式電子キーに定期的に問い合わせ用電磁波を送信し、該問い合わせ用電磁波に応答して前記電池式電子キーから送信されるIDデータを受信してその正当性を判別し、その判別結果に基づいて電気錠を施解錠制御する制御器を備えた電気錠システムにおいて、
前記電池式電子キーは、正規信号と見なす電磁波の信号幅が予め設定されており、信号受信によって起動し、前記制御器からの前記問い合わせ用電磁波を受信したときは該問い合わせ電磁波を前記正規信号と見なして前記IDデータを送信し、前記正規信号と見なされない信号を規定回数以上連続して受信したときは低消費電力動作を行うスリープ状態に移行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電池式電子キーを携帯電話等の電子機器と一緒に持ち歩いた場合でも、十分な電池寿命を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明に係る電池式電子キーを含む電気錠システムの全体構成を示す概略ブロック図、図2は本発明に係る電池式電子キーの信号受信時の動作フローチャート、図3は本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーにおける受信割込み回数測定結果を示す図、図4は本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーにおける電池寿命特性を示す図である。
【0011】
本発明に係る電気錠システム1は、図1に示すように、利用者が携帯する電池式電子キー2を用いたもので、制御器3と電気錠4とを備えて構築される。以下、各構成について説明する。
【0012】
利用者が携帯する電池式電子キー2は、図1に示すように、電池2a、受信回路2b、制御部(マイコン)2c、送信回路2dを備えて概略構成される。
【0013】
受信回路2bは、電池2aを駆動電源として動作するもので、外部からの信号(電磁波)を受信し、この受信した信号を制御部2cに出力している。
【0014】
制御部2cは、電池2aを駆動電源として動作するもので、通常は低消費電力動作を行うスリープ状態にある。制御部2cは、受信回路2bが信号を受信したときの受信割り込みによって起動し、受信回路2bが受信した信号の信号幅を計測している。また、制御部2cは、計測した信号幅が正規信号(電池式電子キー2に対する正当な問い合わせ用電磁波)の信号幅か否かを判別している。そして、受信した信号が正規信号の信号幅であると判別したときには、その信号がOFFするタイミングで送信回路2dにIDデータを出力している。その際、正規信号でない信号(ノイズ)を計数した計数値Nを0にリセットし、シーケンス番号をインクリメントしている。これに対し、受信した信号が正規信号の信号幅でない、すなわちノイズと判別したときは、その回数を計数し、計数した回数が規定回数以上になったか否かを判別している。そして、計数値が規定回数以上になったと判別したときは、計数値を0にリセットし、受信割り込みマスクを働かせてハードウエアタイマーを起動し、低消費電力動作を行うスリープ状態に移行する。なお、受信割り込みマスクは、受信回路2bが信号を受信しても受け付けないようにする機能である。そして、ハードウエアタイマーが所定時間経過してハードウエアタイマー割り込みがあると、受信割り込みマスクを解除し、低消費電力動作を行って電池2aの消耗を防ぐスリープ状態に移行する。
【0015】
送信回路2dは、電池2aを駆動電源として動作するもので、受信回路2bが正規信号(制御器3からの問い合わせ用電磁波)を受信したときに、制御部2cの制御により、その正規信号に応答してIDデータを送信している。
【0016】
制御器3は、外部電源としての商用電源(AC100V)から電源供給を受けて動作するもので、電池式電子キー2で正規信号と見なされる問い合わせ用電磁波(例えばT1ms幅で変調を行っていない電磁波)を定期的に送信している。この問い合わせ用電磁波は、電池式電子キー2がIDデータを送信する際の条件として、携帯電話等の電子機器の信号幅(T2ms以下)と異なる信号幅(T3ms:T2との違いを判断可能な時間)に設定されている。
【0017】
また、制御器3は、問い合わせ用電磁波に対する電池式電子キー2からのIDデータを受信し、この受信したIDデータの正当性を判別し、正常認証したときのみ電気錠4を解錠又は施錠するべく駆動制御信号を出力している。
【0018】
電気錠4は、例えばモータやソレノイド等の駆動装置と錠前で構成され、制御器3から入力される駆動制御信号により錠前を施錠または解錠するべく駆動し、扉枠の係止穴に対してデッドボルトを突出(施錠時)又は引き込む(解錠時)ことにより錠前が施解錠される。
【0019】
次に、上記電気錠システム1における電池式電子キー2の信号受信時の動作について図2を参照しながら説明する。
【0020】
電池式電子キー2は、制御部2cが通常低消費電力動作を行うスリープ状態にある。この状態で、受信回路2bが外部から信号を受信すると(ST1)、この信号受信の受信割り込みによって制御部2cが起動する(ST2)。そして、制御部2cは、受信回路2bが受信した信号の信号幅を計測する(ST3)。続いて、制御部2cは、計測した信号幅が正規信号の信号幅か否か判別する(ST4)。そして、制御部2cは、計測した信号幅が正規信号の信号幅と判別すると(ST4−Yes)、この正規信号がOFFするタイミングで送信回路2dからIDデータを送信し(ST5)、計数値N=0とし(ST6)、シーケンス番号をインクリメントして(ST7)、低消費電力動作を行うスリープ状態に移行する(ST8)。
【0021】
また、制御部2cは、計測した信号幅の判別において、計測した信号幅が正規信号の信号幅でない、すなわちノイズと判別すると(ST4−No)、計数値N=N+1とし(ST9)、計数値Nが規定回数より大きいか否かを判別する(ST10)。そして、制御部2cは、計数値Nが規定回数より大きくないと判別すると(ST10−No)、低消費電力動作を行うスリープ状態に移行する(ST8)。これに対し、制御部2cは、計数値Nが規定回数より大きいと判別すると(ST10−Yes)、計数値N=0とし(ST11)、受信割込みマスクハードウエアタイマーを起動して(ST12)、低消費電力動作を行うスリープ状態に移行する(ST8)。そして、制御部2cは、所定時間が経過すると、ハードウエアタイマー割り込みにより受信割り込みマスクを解除し(ST13)、その後、低消費電力動作を行うスリープ状態に移行する(ST8)。
【0022】
ここで、本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーとの寿命比較について図3及び図4を参照しながら説明する。
【0023】
図3は本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーにおける受信割込み回数測定結果を示す図である。なお、図3において、横軸は、電池式電子キーと携帯電話との間の距離である。
【0024】
受信割り込み回数の対策実施理論値K=60n/(T8+60n/N)…式(1)として計算した。式(1)において、N:未対策の電池式電子キーの受信割り込み回数、n:停止までのノイズ受信回数、T8:n回受信後の停止時間(秒)である。また、受信割り込み回数Kは、全て1分間当たりの回数であり、式(1)の分母(T8+60n/N)はn回ノイズを受信してT8秒間停止するまでの1サイクルの時間(秒)を表しており、分子の60秒をこれで割ると、1分間に動作停止する回数になる。これに分子のnを掛ければ、1分間当たりの受信割り込み回数になる。
【0025】
図3に示すように、本発明に係る電池式電子キーでは、対策実施理論値とほぼ同等の値を示し、携帯電話との間の距離が0〜4cmでほぼ一定の受信割り込み回数となるのに対し、未対策の電池式電子キーでは、携帯電話との間の距離によってバラツキがあり、特に携帯電話との間の距離が3cmのときに本発明に係る電池式電子キーの約17倍にもなることが判る。
【0026】
図4は本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーにおける電池寿命特性を示す図である。
【0027】
図4において、未対策の電池式電子キーの電池寿命は、ノイズパルス幅T5(秒)≒1/Nと仮定すると、T5に関係なくほぼ一定値(約95日)になる。これに対し、本発明に係る電池式電子キーの電池寿命は、未対策の電池式電子キーよりも長くなっており、ノイズパルス幅T5が小さい(停止までのノイズ受信回数nが小さい)ほどその寿命も大幅に改善されていることが判る。
【0028】
なお、図4では、Nが1分間当たりの受信割り込み回数、T5が割り込み動作時間であり、最悪条件で計算している。実際のT5は、1/Nよりも十分小さい場合もあり、その場合は寿命がさらに改善されることになる。
【0029】
このように、本例では、制御器から電池式電子キーに送信する信号に、携帯電話の電波とは異なる信号幅を持たせて、電池式電子キーで本来の信号かノイズかの判定を行っている。また、連続して規定回数以上ノイズを受信したら、規定時間回路を低消費電力動作するスリープ状態に移行することで、電池の消耗を防止している。
【0030】
そして、携帯電話等の電子機器は現在は必需品だが、上述した構成を電池式電子キーに適用することにより、電池式電子キーを携帯電話等の電子機器と一緒に持ち歩いた場合でも、十分な電池寿命を確保することができる。
【0031】
ところで、上述した実施の形態では、制御器3が問い合わせ用電磁波に対する電池式電子キー2からのIDデータを正常認証したときに電気錠4を解錠又は施錠制御する構成として説明したが、利用者が手で触れると反応するタッチスイッチを制御器3に設け、制御器3が問い合わせ用電磁波に対する電池式電子キー2からのIDデータを正常認証したときに解錠モード又は施錠モードに移行し、このモード移行後にタッチスイッチにタッチすることで電気錠4を解錠又は施錠制御する構成とすることもできる。また、電気錠4の解錠後、所定時間が経過したときに自動的に電気錠4を施錠制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電池式電子キーを含む電気錠システムの全体構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本発明に係る電池式電子キーの信号受信時の動作フローチャートである。
【図3】本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーにおける受信割込み回数測定結果を示す図である。
【図4】本発明に係る電池式電子キーと未対策の電池式電子キーにおける電池寿命特性を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 電気錠システム
2 電池式電子キー
2a 電池
2b 受信回路
2c 制御部
2d 送信回路
3 制御器
4 電気錠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDデータの正当性を判別し、この判別結果に基づいて電気錠を施解錠制御する電気錠システムに用いられ、電磁波を使って前記IDデータの交信を行う電池式電子キーにおいて、
正規信号と見なす電磁波の信号幅が予め設定されており、信号受信によって起動し、前記正規信号を受信したときは前記IDデータを送信し、前記正規信号と見なされない信号を規定回数以上連続して受信したときは低消費電力動作を行うスリープ状態に移行することを特徴とする電池式電子キー。
【請求項2】
電磁波を使ってIDデータの交信を行う電池式電子キーを用い、該電池式電子キーに定期的に問い合わせ用電磁波を送信し、該問い合わせ用電磁波に応答して前記電池式電子キーから送信されるIDデータを受信してその正当性を判別し、その判別結果に基づいて電気錠を施解錠制御する制御器を備えた電気錠システムにおいて、
前記電池式電子キーは、正規信号と見なす電磁波の信号幅が予め設定されており、信号受信によって起動し、前記制御器からの前記問い合わせ用電磁波を受信したときは該問い合わせ用電磁波を前記正規信号と見なして前記IDデータを送信し、前記正規信号と見なされない信号を規定回数以上連続して受信したときは低消費電力動作を行うスリープ状態に移行することを特徴とする電池式電子キーを用いた電気錠システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215795(P2009−215795A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61135(P2008−61135)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)
【出願人】(593145836)北部通信工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】