説明

電池用電極の製造方法および電池

【課題】メカノケミカル反応によって生じる金属体を低コストで除去できる電池用電極の製造方法および電池を提供する。
【解決手段】メカノケミカル装置を用いて活物質13の表面に導電材を被覆する被覆工程(ステップS10)と、少なくとも活物質13を含む混練物を生成する混練物生成工程(ステップS18)と、混練物を集電体11の面上に塗工する塗工工程(ステップS19)と、混練物を乾燥させて活物質合剤層を形成する合剤層形成工程(ステップS20)と、メカノケミカル反応によってメカノケミカル装置の金属部材が削られて生じる金属体を除去する金属体除去工程(ステップS11〜S15)とを有する構成とした。この構成によれば、異物としての金属体を原因として内部で電流が流れることはないので、自己放電を起こし難くなる。よって、充電を行えば確実に電池容量を回復させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカノケミカル反応を用いて電池用の電極を製造する電池用電極の製造方法と、その製造方法によって製造された電極を用いる電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では第1に、優れた電極性能および高い電極強度を得ることを目的として、リチウム二次電池用正極活物質等に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。このリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム金属含有酸化物からなる粒状の粒子径の小さな母粒子の表面の少なくとも一部に、この母粒子よりさらに粒子径の小さなリチウム金属含有酸化物からなる粒状の粒子を付着させて一体化した複合粒子よりなる。この複合粒子は、母粒子の表面の少なくとも一部に子粒子が付着し、それぞれの粒子がメカノケミカル反応を起こして一体化させたものである。
【0003】
第2に、電池容量を高め、サイクル劣化を防止することを目的として、リチウムイオン電池材料の製造方法に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献2を参照)。このリチウムイオン電池材料の製造方法では、正極活物質と導電材、結着剤とに加圧力およびせん断力を加えて、正極活物質の表面に導電材と結着剤とを融合させるメカノフュージョン反応(「メカノフュージョン処理」とも呼ぶ。以下同様である。)によって複合粒子を形成する。
【0004】
第3に、電極用複合粒子材料の特性を向上させ、電極板を改良することを目的として、電極用複合粒子材料等に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献3を参照)。この電極用複合粒子材料は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、及び、それらの少なくとも一種を主成分とする固溶体からなる群から選ばれる少なくとも一種の粉体を主成分とする正極活物質に対して、BET比表面積が29m2/g以上の炭素材0.5〜6wt%を混ぜ合わせ、正極活物質の表面に炭素材を付着させて複合化処理する。複合化処理は、メカノフュージョン反応によって実現する。
【0005】
第4に、活物質ペーストに水よりなる溶剤を用いても集電体に腐食が生じないことを目的として、リチウム電池用正極の製造方法に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献4を参照)。このリチウム電池用正極の製造方法では、活物質ペーストと水との反応を抑制する保護被膜を正極活物質の表面に有する活物質を用いる。特許文献4の実施例によれば、保護被膜としてのカーボン被膜が被覆した正極活物質粒子を製造するにあたって、メカノケミカル反応を行うメカノフュージョン装置を用いて、圧縮応力およびせん断応力を付与する。
【0006】
第5に、電池用電極を製造するにあたって、得られる電極の内部抵抗をより一層低減させることを目的として、電池用電極の製造方法に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献5を参照)。この電池用電極の製造方法では、電極合材を調製するにあたって、比較的粒子径の小さい導電材と活物質粒子とをまず混合し、その後に比較的粒子径の大きい導電材を添加する。混合手段には、メカノケミカル反応を利用している。
【0007】
第6に、高容量でかつ電池性能の劣化が抑えられること目的として、正極合剤含有組成物の製造方法に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献6を参照)。この正極合剤含有組成物の製造方法では、不規則に混合された被処理物にせん断、圧縮および摩擦エネルギーなどを作用させ、この被処理物にメカノケミカル反応を生じさせて中心粒子の表面に微粒子が付着・点在した複合素材粒子となるように表面改質を行う。
【0008】
第7に、高容量化および高出力化を図ること目的として、リチウム二次電池に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献7を参照)。このリチウム二次電池は、正極活物質は、表面に導電性物質がメカノケミカル処理により固定化される。
【0009】
第8に、二次電池の内部抵抗を小さくし、大電流による放電特性を良好にできること目的として、電極板に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献8を参照)。この電極板は、炭素結合活物質粒子、第2導電材、電極合材、集電部材を備える。炭素結合活物質粒子は、活物質粒子および炭素材料からなり、メカノケミカル反応により、活物質粒子の表面全体にわたって結合した第1導電材を有する。第2導電材は炭素材料からなる。電極合材には、炭素結合活物質粒子および第2導電材が分散される。集電部材は電極合材を担持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−162825号公報
【特許文献2】特開2000−123876号公報
【特許文献3】特開2003−086174号公報
【特許文献4】特開2003−157836号公報
【特許文献5】特開2006−179367号公報
【特許文献6】特開2007−220510号公報
【特許文献7】特開2009−158239号公報
【特許文献8】特開2009−295438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1〜8の技術では、いずれも活物質の表面に導電材を被覆(コーティング、付着、結合等)するにあたって、メカノケミカル反応を行っている。メカノケミカル反応は、特許文献1の図2や、特許文献2の図1、特許文献3の図1などに図示されるように、金属部材(すなわち容器やケース等)の内壁面と回転部材との間に混合物(すなわち活物質と導電材を混合した物)を配置し、回転部材を内壁面に押し付けながら相対的に回転させることで、混合物に加圧力およびせん断力を加えている。こうした加圧力やせん断力を受けて、活物質の表面には導電材が被覆される。この被覆形態は、例えば特許文献1の図1や、特許文献5の図2、特許文献8の図4などに図示されている。
【0012】
しかし、圧力をかけて回転部材を金属容器の内壁面に押し付けるので、上述したメカノケミカル反応のみならず、回転部材や金属部材の表面が削られて金属体(すなわち金属片や金属粉など)が副産物として生じることがある。金属体は当然に導電性を示し、電極に含まれたままで電池が製造されると、その電池内部で微弱ながらも金属体を通じて電流が流れる。また、金属体が電極の表面に露出している場合には、短絡の起点にもなり得る。さらに金属体が特に正極内に混入されると正極の高い酸化電位により、溶解、イオン化して、負極側に渡り、負極表面で還元されて析出するので、微短絡を起こす。そのため、電池内部で自己放電を起こしやすくなったり、充電を行っても電池容量が回復し難くなるなどの問題がある。
【0013】
メカノケミカル反応によって金属部材の表面が削られて金属体が生じないようにする対策として、例えば電池内で溶解、析出しないセラミックスやタングステン等の超硬合金を回転部材や金属部材に用いることが考えられる。しかし、これら材料は金属部材より靭性が低いので、所要の圧力が繰り返し加えられると破損や欠損が生じ易いために寿命が短く、かえって交換に必要な費用がかさむ。
【0014】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、メカノケミカル反応によって生じる金属体を低コストで除去できる電池用電極の製造方法および電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、メカノケミカル装置を用いて活物質の表面に導電材を被覆する被覆工程と、少なくとも前記活物質を含む混練物(ペースト等)を生成する混練物生成工程と、前記混練物を集電体の面上に塗工する塗工工程と、前記混練物を乾燥させて活物質合剤層を形成する合剤層形成工程とを有する電池用電極の製造方法において、前記混練物生成工程を行う前に、メカノケミカル反応によって前記メカノケミカル装置の金属部材が削られて生じる金属体を除去する金属体除去工程を有することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、メカノケミカル反応の際に金属体が生じても、当該金属体は金属体除去工程によって除去される。その後に行われる混練物生成工程、塗工工程および合剤層形成工程を経て製造される電池用電極には、金属体を含まない。その電極を用いて製造した電池は、金属体(異物)を原因として内部で電流が流れることはないので、自己放電を起こし難くなる。よって、充電を行えば確実に電池容量を回復させることができる。
【0017】
なお、「メカノケミカル反応」は、活物質の表面に導電材を被覆する反応を意味し、「メカノフュージョン処理」などとも呼ぶ。以下では、メカノケミカル反応で統一して説明する。「メカノケミカル装置」は、メカノケミカル反応に用いる装置であれば、構成を問わない。「メカノケミカル装置の金属部材」は、メカノケミカル反応の際に用いられる金属製部品であって、例えば反応を行う容器(ケース)や回転部材(押圧部材)などが該当する。異物である「金属体」には、例えば金属片,金属線,金属粉などのように、金属部材から削れて生じる全てのものを含む。
【0018】
請求項2に記載の発明は、前記金属体除去工程は、篩(ふるい;フィルタ)を用いて所定粒度以上の前記金属体を選別して除去することを特徴とする。この構成によれば、所定粒度以上の大きさの金属体を確実に除去することができる。選別できる粒度が異なる篩を二以上用いて、複数段階で金属体を選別して除去してもよい。なお「篩」は所定粒度以上の金属体を選別できれば、構造等を問わない。「所定粒度」は、活物質の表面に導電材を被覆したときの粒度よりも大きな値を設定する。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記金属体除去工程は、磁力によって前記金属体を吸着させて除去することを特徴とする。一般的に、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)などのような遷移元素(遷移金属)は磁性体になり得る。メカノケミカル装置の金属部材には、このような磁性体になり得る金属を含む場合が多い。この構成によれば、磁性体になり得る金属体を確実に除去することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記金属体除去工程は、前記被覆工程を行った後の物質を、酸溶液に浸漬して前記金属体を除去することを特徴とする。この構成によれば、浸漬する酸溶液によって金属体が溶けるので、金属体を確実に除去することができる。なお「酸溶液」は、金属体の材質(成分)に合わせて適用する。例えば、塩酸や硫酸等が該当する。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記金属体除去工程は、前記酸溶液に浸漬した後、前記酸溶液の除去を行うことを特徴とする。残存する酸溶液によっては、電池性能が影響を受ける場合がある。この構成によれば、金属体が溶けた後に酸溶液の除去を行うので、残存する酸溶液による電池性能の低下を抑制することができる。「酸溶液の除去」は、酸溶液を除去できれば任意の方法を適用可能である。例えば、水で洗い流す酸痕水洗や、中和剤を用いる中和などが該当する。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記酸溶液の除去は、水で洗い流す酸痕水洗であることを特徴とする。この構成によれば、水で洗い流すことで簡単に酸溶液を除去できるので、低コストで行える。「酸痕水洗」は水で洗い流すことができれば任意の方法を適用可能である。例えば、水を加える「加水」と当該水を捨てる「排水(脱水を含む)」とを所定回数(例えば3回や10回等)繰り返す方法や、酸洗浄した後の水が所定条件(例えば水素イオン指数(PH)や電気伝導度などの指標が所定値に達すること等)を満たすまで掛け流しする方法などが該当する。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記混練物は、前記酸痕水洗で加える水を用いて混練されることを特徴とする。この構成によれば、酸痕水洗で加える水をそのまま溶媒として用いて混練物を生成する。別個に溶媒を必要としないので、溶媒にかかるコストを低減することができる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、前記金属体除去工程は、前記酸溶液を加えた後、前記酸溶液を中和する中和剤を加えることを特徴とする。この構成によれば、中和剤を用いて酸溶液を中和するので、残存する酸溶液による電池性能の低下を抑制することができる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、前記活物質は、金属カルコゲン化合物であることを特徴とする。金属カルコゲン化合物は、遷移元素(遷移金属)とカルコゲンとの化合物であり、NiAs型構造をとる。すなわち遷移元素の原子は、歪んだ八面体の頂点にある6個の隣接したカルコゲンの原子により配位される。6個の隣接したカルコゲンの原子は、三角柱の頂点に存在する。遷移元素は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)などが該当する。カルコゲンは、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)などが該当する。
【0026】
請求項10に記載の発明は、前記活物質は、リチウム・鉄複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル酸化物などのリチウム複合酸化物であることを特徴とする。この構成によれば、リチウム複合酸化物を活物質として用いることにより、電池としてリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、前記メカノケミカル装置の金属部材は、鉄、ニッケル、コバルト、クロムのうち一以上を含むことを特徴とする。この構成によれば、メカノケミカル反応の際に金属体が生じても、当該金属体は金属体除去工程(すなわち篩,磁力吸着,酸溶液等)を行うことによって確実に除去することができる。
【0028】
請求項12に記載の発明は、電池において、請求項1から11のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法によって製造された電池用電極である正極と、負極と、電解液とを少なくとも有することを特徴とする。この構成によれば、メカノケミカル反応によって得られる特性(電極性能や高い電極強度など)と、メカノケミカル反応で生じた金属体が除去された電極を含む電池を提供することができる。この電池はメカノケミカル反応によって生じる金属体が除去されるので、電池容量の低下や短絡等を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】電池用電極の第1製造方法を模式的に示す工程図である。
【図2】電池用電極の第2製造方法を模式的に示す工程図である。
【図3】電池用電極の第3製造方法を模式的に示す工程図である。
【図4】比較例における電池用電極の製造方法を模式的に示す工程図である。
【図5】捲回型電極体の製造方法を模式的に示す工程図である。
【図6】積層型電極体の製造方法を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、各図は本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。電池用の「電極」は「電極板」と同義であり、本明細書では「電極」に統一して用いる。単に「電極」と言う場合には、正極および負極のうちで一方または双方を意味する。「材質」は、材料や成分の意味を含む趣旨で用いる。
【0031】
本発明の電池用電極の製造方法について、図1〜図6を参照しながら説明する。図1〜図3には、本発明に係る電池用電極の製造方法を模式的に工程図で示す。図4には、比較例に係る電池用電極の製造方法を模式的に工程図で示す。図5と図6には、電極体の製造方法を模式的に工程図で示す。
【0032】
(電池用電極の第1製造方法)
電池用電極の第1製造方法について、図1を参照しながら説明する。この第1製造方法は、例えば捲回型電池や積層型電池等のような様々の電池に用いられる電極を製造する方法である。後述する第2製造方法や第3製造方法についても同様である。電極には正極と負極があるが、形成する材料の一部が違うに過ぎないので、正極を代表して説明する。
【0033】
図1に示す電極10(すなわち正極)は、集電体11,バインダ12(結着剤),活物質13,導電材14(導電助剤),溶媒15などを用いて形成される。まず、活物質13と導電材14とを用いてメカノケミカル反応を行い、活物質13の表面を導電材14で被覆(コーティング)する被覆工程を行う〔ステップS10〕。この被覆工程は、メカノケミカル反応が可能なメカノケミカル装置を用いて実現する。例えば商品名として、ホソカワミクロン株式会社製の「メカノフュージョン装置」や、株式会社奈良機械製作所製の「ハイブリダイゼーションシステム」、浅田鉄工株式会社製の「ミラクルK.C.K」、川崎重工業株式会社製の「クリプトロンシステム」、その他のメカノケミカル装置が挙げられる。なお以下では簡単のために、メカノケミカル反応によって活物質13の表面を導電材14で覆った物体を「被覆物」と呼ぶ。
【0034】
活物質13には、例えばリチウムイオン(Li+)などの軽金属イオンを吸蔵・離脱することが可能な物質を用いる。具体的には、金属合金、金属硫化物、金属酸化物または高分子化合物などが該当する。金属合金には、例えばリチウム金属,炭素材料(例えばグラファイトや非晶質炭素等),ケイ素(Si),スズ(Sn)などを含む合金が該当する。金属硫化物や金属酸化物には、リチウム(Li)を含有しない物質を含めてもよい。例えば、硫化チタン(TiS2),硫化モリブデン(MoS2),酸化ニオブ(Nb25),セレン化ニオブ(NbSe2),酸化バナジウム(V25)などが該当する。これらの金属硫化物や金属酸化物などのうちで、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
金属酸化物は、組成式「LixMOy」で表されるリチウム複合酸化物を用いるが望ましい。組成式中の「M」は、金属元素と非金属元素とを問わず、二種以上の元素を適宜に組み合わせて用いてもよい。金属元素には、例えば鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),クロム(Cr),アルミニウム(Al),チタン(Ti),ケイ素(Si)などのうちで一以上の元素が該当する。非金属元素には、リン(P)やホウ素(B)などが該当する。組成式中の添字「x」は0.05≦x≦2.0の範囲内で設定し、同じく「y」は2≦y≦4の範囲内で設定するのが望ましい。
【0036】
リチウム複合酸化物は、高電位・高容量・耐久性などの要求特性に応じて、リチウム・鉄複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル酸化物などの中から選定するのが望ましい。このように、活物質13に用いる材質は、製造しようとする電池の種類や用途等に応じて任意に選択することができる。
【0037】
導電材14には、導電性を有し、活物質13の表面を被覆可能な物質を用いる。例えば、カーボン(C)や、カーボンブラック(ケッチェンブラックやアセチレンブラックなどを含む)、グラファイト、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等が該当する。
【0038】
電極(すなわち正極や負極)によっては、後の混練物生成工程での分散性を高める目的で導電材14の代わりに(あるいは導電材14とともに)、バインダ12や分散剤を被覆してもよい。分散剤は、粒子(被覆物,活物質13,導電材14等)の分散機能や分散安定化機能等を担う物質を用いる。例えば、界面活性剤や高分子材料等が該当する。界面活性剤は種類を問わず、例えばイオン性界面活性剤,非イオン性界面活性剤,両イオン性界面活性剤等のいずれでもよい。水溶性高分子材料には、例えばバインダ12としての機能も担えるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)等のセルロース誘導体や、ポリエチレンオキシド(PEO)等のエチレンオキシド誘導体などが望ましい。
【0039】
上記ステップS10のメカノケミカル反応を行う際には、メカノケミカル装置の金属部材(すなわち活物質13や導電材14を入れる金属容器)が削られ、当該金属部材内に金属体が生じ得る。生じる金属体にかかる形状や粒度(大きさ)等は様々であり、例えば金属片,金属線,金属粉などである。金属体は電池性能に影響を与える異物であるので、当該金属体を除去するべく金属体除去工程を行う〔ステップS11〜S15〕。第1製造方法の金属体除去工程には、篩選別工程,磁力吸着工程,酸洗浄工程のうちで、少なくとも一以上の工程を含む。すなわち、篩選別工程のみ、磁力吸着工程のみ、酸洗浄工程のみ、篩選別工程と磁力吸着工程、篩選別工程と酸洗浄工程、磁力吸着工程と酸洗浄工程、篩選別工程,磁力吸着工程,酸洗浄工程の全部のうちでいずれかが該当する。図1には、篩選別工程,磁力吸着工程,酸洗浄工程の全部を行う場合の一例を示す。なお二以上の工程を行う場合には、同時並行して行うか相前後して行うかを問わず、順不同で行ってもよい。酸洗浄工程を含む場合には、その後に酸痕水洗工程や乾燥工程を行うのが望ましい。以下では、各工程について具体的に説明する。
【0040】
篩選別工程(ステップS11)は、篩を用いて、所定粒度以上の金属体を選別して除去する。篩は、異物として生じた金属体を選別できれば、その構造や材質等を問わない。所定粒度は、電極体の厚みから規制される活物質13や導電材14の最大粒度と、金属体の粒度とを考慮して、適切な粒度を設定する。前者の活物質13や導電材14の粒度については、例えば活物質13にリチウム複合酸化物で最大粒度50[μm]の「LiNi0.82Co0.15Al0.032」を用い、導電材14にカーボンブラックの「ケッチェンブラック」を用いる場合には、例えば50[μm]を設定する。
【0041】
磁力吸着工程(ステップS12)は、磁力によって金属体を吸着させて除去する。磁力によって吸着させる手段や装置等は問わない。例えば、永久磁石や電磁石などの磁石を用いて選別する磁力選別機などを用いて行う。磁力の大きさは任意に設定可能であるが、上述した所定粒度以上の金属体を吸着させるには14000[ガウス]以上を設定するのが望ましい。この工程は、メカノケミカル装置の金属部材が磁性を示す場合に有効である。すなわち、異物として生じる金属体が磁性体(反磁性体・常磁性体・強磁性体の区別を問わない)であればよい。例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni−200やNi−201等のような展伸材を含む),酸化鉄(酸化数を問わない。FeOやFe23等),酸化クロム(酸化数を問わない。CrOやCr23等),コバルト(Co)や、これらの合金などが該当する。合金には、例えばステンレス鋼(JIS規格におけるマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト・フェライト二相,析出硬化の分類を問わない)や、フェライト(スピネル,六方晶,ガーネット等の種類を問わない)などが該当する。
【0042】
酸洗浄工程(ステップS13)は、金属体を溶かす酸溶液20を加えて、金属体を除去する。酸溶液20には、鉱酸類や有機酸類などの酸(特に強酸)を用いる。鉱酸類には、例えば塩酸,硫酸,燐酸,硝酸などが該当する。有機酸類には、例えば蟻酸,酢酸,クエン酸などが該当する。洗浄効率と残存量の少なくするために、塩酸やクエン酸などを選定するのが望ましい。例えば、金属体の材質がニッケル,ステンレス鋼,タングステンなどの場合には、塩酸を用いる。酸溶液20の濃度(すなわち酸濃度)は、金属体の発生量に応じて任意に設定可能であるが、上述した所定粒度以上の金属体を溶かすには8[wt%]以上を設定するのが望ましい。電池性能に影響を与えないようにするため、被覆物の重量に対して所定割合(例えば40[wt%]等)の重量を設定するのが望ましい。酸溶液20で金属体を確実に溶かすには、攪拌を所定時間(例えば5[min]等)以上行うのが望ましい。加えるべき酸溶液20の量(重量や容量)は、異物として生じる金属体の重量に応じて変わる。ところが、メカノケミカル装置の金属部材にかかる使用条件(回数や経年劣化等)に応じて異物として生じる金属体の重量も変化するので、実験や実地試験等を行って当該重量を把握しておくのが望ましい。洗浄効率を高めるためには、煮沸を行うか、加温することが望ましい。また、超音波洗浄機を使用(併用を含む)するとより効果的である。この酸洗浄工程は、リチウム溶出量を極力抑えるために、被覆工程(ステップS10)の後にのみ行うのが望ましい。
【0043】
酸痕水洗工程(ステップS14)は、上記酸洗浄工程で加える酸溶液20のうち、金属体を溶かさずに残存した酸溶液20を水で洗い流す。通常は金属体と反応しない酸溶液20が残存するので、残存した酸溶液20を水で洗い流す。この工程は、酸溶液20を水で洗い流すことが可能な任意の方法を適用できる。例えば、水を加える「加水」と当該水を捨てる「排水(脱水を含む)」とを所定回数(例えば2回以上)繰り返す方法や、酸洗浄した後の水が所定条件(例えば水素イオン指数(PH)や電気伝導度などの指標が所定値に達すること等)を満たすまで掛け流しする方法などが該当する。水量は任意に設定可能であるが、被覆物の重量に対して所定割合の重量(例えば40[wt%]等)を設定するのが望ましい。酸溶液20を水で洗い流す際には、さらに攪拌を所定時間(例えば5[min]等)以上行うのが望ましい。
【0044】
乾燥工程(ステップS15)は、上記酸痕水洗工程で加える水を蒸発させて乾燥する。水を蒸発させて乾燥できれば、その方法や装置を問わない。一般的には、ヒーターで加熱して水を蒸発させたり、扇風機等で風を当てることで気化させたりする。
【0045】
上述した被覆工程(ステップS10)および金属体除去工程(ステップS11〜S15)を経て、異物としての金属体を含まない被覆物を得ることができる。得られる被覆物を少なくとも含む混練物を生成する混練物生成工程を行う〔ステップS18〕。一般的に、混練物はバインダ12,被覆物(活物質13と導電材14),溶媒15などを混ぜ合わせてペースト状(または液状)にした物である。
【0046】
バインダ12には、任意の結着剤を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やその変性体、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸リチウム、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、アクリレート単位を有するゴム粒子結着剤などが該当する。これらの結着剤のうちで、二種類以上の結着剤を混合して用いてもよい。なお、反応性官能基を導入したアクリレートモノマーや、アクリレートオリゴマーなどを混入してもよい。
【0047】
溶媒15には、混練に適した物質を用いる。例えば、水や、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等が該当する。特に、低コストな水、もしくは高沸点のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が望ましい。いずれか一の単独溶媒でもよく、これらの溶媒のうちで二種以上を選択して混合させた混合溶媒でもよい。
【0048】
ステップS18によって生成された混練物を集電体11の面上に塗工する塗工工程〔ステップS19〕と、集電体11の面上に塗工された混練物を乾燥させて活物質合剤層を形成する合剤層形成工程〔ステップS20〕とを行う。塗工工程における「塗工」は、例えば塗布,塗装(ローラーや吹き付け等),メッキ,蒸着,被覆等のうちで一以上が該当する。合剤層形成工程では、ステップS15の乾燥工程と同様にして混練物を乾燥させる。形成される活物質合剤層の厚さは、例えば片面ごとに10〜200[μm]程度である。なお、塗工工程と合剤層形成工程とは、集電体11の一部に対して同時並行して行うか、集電体11の全部に対して塗工工程の後に合剤層形成工程を行うかを問わない。
【0049】
集電体11は、任意の導電性物質を用いることができ、形態(形状や厚さ等)や材質などを問わない。一般的には、帯状(長尺状)や長方形状などの形状が多く、電池容量を多く確保するために箔状の厚さが多い。正極用の集電体11には、例えばアルミニウム,ステンレス鋼などを用いる。負極用の集電体11には、例えば銅,ニッケル,ステンレス鋼,鉄,ニッケルメッキ鋼等を用いる。
【0050】
その後、プレス機(例えばローラ等)によって活物質合剤層が形成された集電体11をプレスするプレス工程〔ステップS21〕と、スリット加工機によって所定形状(板長,板厚,板幅等)に切断するスリット工程〔ステップS22〕とを順不同で行う。こうして、捲回や積層が可能な電極10が形成される。
【0051】
(電池用電極の第2製造方法)
電池用電極の第2製造方法について、図2を参照しながら説明する。なお、第1製造方法と同様に、正極を代表して説明する。また説明を簡単にするために、第1製造方法と異なる工程や物質などについて説明する。よって第1製造方法の工程と同一内容の工程には同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
第2製造方法が第1製造方法と異なるのは次の点である。第1に、溶媒15を必要としない。第2に、バインダ12を用いる代わりに、水系バインダ12aを用いる。第3に、乾燥工程(ステップS15)を行う代わりに、濾過工程(ステップS16)を行う。すなわち第2製造方法は、酸痕水洗工程(ステップS14)で使用する水の一部または全部をそのまま混練物生成工程(ステップS18)で用いることで、溶媒15を不要とする製造方法である。
【0053】
水系バインダ12aは、バインダ12として用いることができる結着剤うち、水溶性、もしくはディスパージョンの形態を有するものが該当する。例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、セルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)、エチレンオキシド誘導体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸リチウム、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、アクリレート単位を有するゴム粒子結着剤などが該当する。
【0054】
酸痕水洗工程(ステップS14)では、残存した酸溶液20を水で洗い流す。濾過工程(ステップS16)は、洗い流すために加える水を溶媒15として用いるために、濾過を行って減水する。水を濾過できれば、その方法や装置を問わない。一般的には、通常の圧力と温度で行う自然濾過のほか、濾過を速くすることを目的とする減圧濾過、収率の向上を目的とする熱時濾過、遠心力を用いて差圧を得て濾過する遠心濾過などが該当する。濾過に用いる濾材も任意であり、例えばセルロース,ガラス繊維フィルター,メンブランフィルターなどが該当する。
【0055】
(電池用電極の第3製造方法)
電池用電極の第3製造方法について、図3を参照しながら説明する。なお、第3製造方法は第2製造方法と似ているので、説明を簡単にするために、第2製造方法と異なる工程や物質などについて説明する。よって第2製造方法の工程と同一内容の工程には同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
第3製造方法が第2製造方法と異なるのは、酸痕水洗工程(ステップS14)および濾過工程(ステップS16)を行う代わりに、中和工程(ステップS17)を行う点である。すなわち第3製造方法は工程数が最も少なくなるので、電極10の形成(ひいては電池)の製造を最も速く行うことができ、しかも低コストに抑えられる。
【0057】
中和工程(ステップS17)は、酸洗浄工程(ステップS13)で加える酸溶液のうち、異物である金属体を溶かさずに残存した酸溶液を中和するために中和剤21を加える。具体的には水素イオン指数(PH)が7以上になるまで滴定する。例えば、中和剤21に水酸化リチウム(LiOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)等を用いる。特にリチウム電池なので、Li塩が望ましい。
【0058】
(比較例で用いる電池用電極の製造方法)
比較例で用いる電池用電極の製造方法について、図4を参照しながら説明する。なお、第1製造方法と同様に、正極を代表して説明する。また説明を簡単にするために、第1製造方法と異なる工程や物質などについて説明する。よって第1製造方法の工程と同一内容の工程には同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
比較例で用いる電池用電極の製造方法は、図1に示す第1製造方法と比べて、金属体除去工程(ステップS11〜S15)を行わない点で相違する。すなわち、メカノケミカル反応によって生じる金属体が除去されず、そのまま異物として電極10に残存する。
【0060】
(電極体の製造方法)
上述した電池用電極の製造方法によって製造された電極を用いて、電極体を製造する製造方法について、図5および図6を参照しながら説明する。電極体の形態は、例えば捲回扁平型(以下では単に「扁平体」と呼ぶ。)や積層型などが該当するが、これら以外の形態であってもよい。扁平体の製造工程例を図5(A)に示し、その側面図を図5(B)に示す。積層型電極体(以下では単に「積層体」と呼ぶ。)の製造工程例を図6(A)に示し、その側面図を図6(B)および図6(C)に示す。
【0061】
図5(A)に示す扁平体の製造工程では、捲回工程(ステップS30)の後に、扁平プレス工程(ステップS31)を行うと、図5(B)に示すような電極体としての扁平体400を製造できる。捲回工程では、捲回装置等を用いて、正極100,負極200,セパレータ300などを重ねたうえで渦巻き状に捲回する。正極100および負極200のうちで一方または双方は、上述した第1製造方法〜第3製造方法のうちいずれかの製造方法によって製造された電極である。
【0062】
セパレータ300は絶縁性部材であって、電極(正極,負極を問わない)の相互間に介在して配置される。厚さは、例えば5〜100[μm]の範囲内で形成される。材質は、例えば多孔質の高分子材料や固体電解質などが用いられる。高分子材料は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンなどが該当する。さらには、これらの高分子材料から形成した不織布や、延伸多孔質化したフィルムなどを用いてもよい。固体電解質には、例えばジルコニア等が用いられる。
【0063】
扁平プレス工程(ステップS31)では、扁平プレス装置等を用いて、捲回工程によって捲回された捲回体を扁平状にプレスする。扁平プレス後は、図5(B)の側面図に示すような扁平体400が形成される。この扁平体400は、中央側の中空部420と、中空部420の周りに捲回される捲回部410とからなる。
【0064】
図6(A)に示す積層体の製造工程では、積層装置等を用いて正極100,負極200,セパレータ300などを積層する積層工程(ステップS40)を行うことで、図6(B)や図6(C)に示す積層体500を製造できる。正極100,負極200,セパレータ300には、形状が異なる点を除いて、図5(A)と同じ材料を用いる。
【0065】
図6(B)に示す積層体500は、正極100,負極200,セパレータ300のみを積層して形成される。図6(C)に示す積層体500は、正極100,負極200,セパレータ300の他に心材用部材510を備える。心材用部材510は心材として用いられる部材であって、材質や形状等は任意である。図6(C)の実線で図示する部分のように心材用部材510の片面側に積層してもよく、さらに同図の二点鎖線で示す部分を加えてサンドイッチ構造(すなわち両面側)に積層してもよい。なお、正極100または負極200のうちで一方の電極と心材用部材510とを接続する場合、心材用部材510の材質は接続する電極板と同等の材質で形成するのが望ましい。
【0066】
(電池の組み立て)
電池は、上述した電極体の製造方法によって製造された電極体(すなわち扁平体400や積層体500等)や電解液などを電池ケース(筐体)内に封入して組み立てることで製造できる。組み立て方法は周知であるので、具体的な図示および説明を省略する。なお活物質13として、リチウム・鉄複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル酸化物などのリチウム複合酸化物のうちで一以上の金属カルコゲン化合物を含む電極である場合には、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0067】
上述した実施の形態によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、メカノケミカル装置を用いて活物質13の表面に導電剤を被覆する被覆工程(ステップS10)と、少なくとも活物質13とバインダ12と溶媒15とを混練して混練物を生成する混練物生成工程(ステップS18)と、混練物を集電体11の面上に塗工する塗工工程(ステップS19)と、混練物を乾燥させて活物質合剤層を形成する合剤層形成工程(ステップS20)とを有する電池用電極の製造方法において、混練物生成工程(ステップS18)を行う前に、メカノケミカル反応によってメカノケミカル装置の金属部材が削られて生じる金属体を除去する金属体除去工程(ステップS11〜S15)を有する構成とした(図1〜図3を参照)。この構成によれば、メカノケミカル反応の際に金属体が生じても、当該金属体は金属体除去工程(ステップS11〜S15)によって除去されるので、電極10には金属体を含まない。その電極10を用いて製造した電池は、異物としての金属体を原因として内部で電流が流れることはないので、自己放電を起こし難くなる。よって、充電を行えば確実に電池容量を回復させることができる。
【0068】
請求項2に対応し、金属体除去工程に含まれる篩選別工程(ステップS11)は、篩を用いて所定粒度以上の金属体を選別して除去する構成とした(図1〜図3を参照)。この構成によれば、所定粒度以上の大きさの金属体を確実に除去することができる。選別できる粒度が異なる篩を二以上用いて、複数段階で金属体を選別して除去してもよい。
【0069】
請求項3に対応し、金属体除去工程に含まれる磁力吸着工程(ステップS12)には、磁力によって金属体を吸着させて除去する構成とした(図1〜図3を参照)。この構成によれば、磁性体になり得る金属体を確実に除去することができる。
【0070】
請求項4に対応し、金属体除去工程に含まれる酸洗浄工程(ステップS13)は、被覆工程(ステップS10)を行った後の物質を、酸溶液に浸漬して金属体を除去する構成とした(図1〜図3を参照)。この構成によれば、浸漬する酸溶液によって金属体が溶けるので、金属体を確実に除去することができる。
【0071】
請求項5に対応し、金属体除去工程は、酸溶液に浸漬した後、酸溶液の除去を行う構成とした(図1〜図3のステップS13,S14,S17を参照)。この構成によれば、金属体が溶けた後に酸溶液の除去を行うので、残存する酸溶液による電池性能の低下を抑制することができる。
【0072】
請求項6に対応し、金属体除去工程に含まれる酸痕水洗工程(ステップS14)は、酸溶液の除去を水で洗い流す構成とした(図1,図2を参照)。この構成によれば、水で洗い流すことで簡単に酸溶液を除去できるので、低コストで行える。
【0073】
請求項7に対応し、酸痕水洗で加える水を溶媒15として用いて混練物を生成する構成とした(図2を参照)。この構成によれば、酸痕水洗で加える水をそのまま溶媒15として用いる。別個に溶媒15を必要としないので、溶媒15にかかるコストを低減することができる。
【0074】
請求項8に対応し、金属体除去工程に含まれる中和工程(ステップS17)には、酸溶液20を加えた後、酸溶液20を中和する中和剤21を加える構成とした(図3を参照)。この構成によれば、中和剤21を用いて酸溶液20を中和するので、残存する酸溶液による電池性能の低下を抑制することができる。
【0075】
請求項9に対応し、活物質13は、金属カルコゲン化合物である構成とした。
【0076】
請求項10に対応し、活物質13は、リチウム・鉄複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル酸化物などのリチウム複合酸化物である構成とした。この構成によれば、電池としてリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0077】
請求項11に対応し、メカノケミカル装置の金属部材は、鉄、ニッケル、コバルト、クロムのうち一以上を含む構成とした。この構成によれば、メカノケミカル反応の際に金属体が生じても、当該金属体は金属体除去工程(ステップS11〜S15)を行うことによって確実に除去することができる。
【0078】
請求項12に対応し、電池は、第1製造方法〜第3製造方法のいずれかによって製造された電極10(電池用電極)である正極100と、負極200と、電解液とを少なくとも有する構成とした。この構成によれば、メカノケミカル反応によって得られる特性(電極性能や高い電極強度など)と、メカノケミカル反応で生じた金属体が除去された電極10を含む電池(特にリチウムイオン二次電池)を提供することができる。この電池はメカノケミカル反応によって生じる金属体が除去されるので、残存する酸溶液による電池性能の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0079】
第1製造方法〜第3製造方法に従って製造した電極10を用いて、図5または図6に示す電極体の製造方法に従って電極体(扁平体400または積層体500)を製造し、電解液とともに電池ケースに封入してリチウムイオン二次電池を製造した。当該リチウムイオン二次電池の具体的な構成例は、下記の通りである。このリチウムイオン二次電池に対して下記の試験を行って、正常品か不良品かを評価した。
【0080】
(正極)
正極100には、上述した第1製造方法〜第3製造方法に従って製造した電極10を用いた。具体的には、第1製造方法に従って製造した電極10を実施例1,2,3,6で用い、第2製造方法に従って製造した電極10を実施例4で用い、第3製造方法に従って製造した電極10を実施例5で用いた。
【0081】
(負極および電解液)
負極200には、黒鉛とその表面に非晶質炭素を有するカーボンを含めて製造した電極を用いた。電解液には、エチレンカーボネート(EC;C343)とジエチルカーボネート(DEC;C25OCOOC25)とを体積比が30:70となる混合溶媒に対して、電解質としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)が1[mol/L]となるように溶解させた溶液を用いた。
【0082】
(試験方法および評価方法)
試験は、上述のように製造したリチウムイオン二次電池の100個に対して、4.0[V]の電圧を所定期間印加した後、大気中に放置して電圧変化を測定した。具体的には、放置し始めてから1日経過するごとに100個のリチウムイオン二次電池について各々の電圧を測定し、算出式「(放置前の電圧−X日放置後の電圧)/X日」に従って電圧低下率(V/day)を求めた。電圧低下率が基準値以上の電池を「不良品」と評価し、基準値未満の電池を「正常品(合格品)」と評価した。基準値には、一例として、電圧低下率の平均値と平均値に近い90個から標準偏差(σ)を求め、平均値より標準偏差の3倍(つまり3σ)を適用した。
【0083】
以下では、実施例1〜6および比較例1〜4について説明する。なお、導電材14には、ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製のカーボンブラック(商品名「ケッチェンブラックECP」)を各例で共通して用いた。実施例1〜6および比較例1〜4によって製造した電極10の構成や容器材質については、下記の表1にまとめた。また、これらの電極10にかかる評価等については、下記の表2にまとめた。
【0084】
(実施例1)
実施例1では、活物質13にはリチウム複合酸化物に含まれてリチウム・ニッケル酸化物またはリチウム・コバルト複合酸化物の一つであるLiNi0.82Co0.15Al0.032を用い、バインダ12にはカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC),ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して用い、溶媒15には水を用いて、第1製造方法(図1)に従って電極10を製造した。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:(1:1:1)とした。メカノケミカル反応に用いたメカノケミカル装置の金属部材、すなわち金属容器の材質(以下では単に「容器材質」と呼ぶ。)は、ニッケル展伸材(Ni−200)であった。
【0085】
(実施例2)
実施例2では、活物質13には実施例1と同じくLiNi0.82Co0.15Al0.032を用い、バインダ12にはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、溶媒15にはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いて、第1製造方法(図1)に従って電極10を製造した。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:3とした。容器材質は、実施例1と同じくニッケル展伸材(Ni−200)であった。
【0086】
(実施例3)
実施例3では、活物質13にはリチウム複合酸化物に含まれてリチウム・鉄複合酸化物の一つであるLiFePO4を用い、バインダ12には実施例1と同じくカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC),ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して用い、溶媒15には水を用いて、第1製造方法(図1)に従って電極10を製造した。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:(1:1:1)とした。容器材質は、実施例1,2と同じくニッケル展伸材(Ni−200)であった。
【0087】
(実施例4)
実施例4では、活物質13には実施例3と同じくLiFePO4を用い、バインダ12には実施例1,3と同じくカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC),ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して用い、溶媒15には水を用いて、第2製造方法(図2)に従って電極10を製造した。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:(1:1:1)とした。容器材質は、実施例1〜3と同じくニッケル展伸材(Ni−200)であった。
【0088】
(実施例5)
実施例5では、活物質13には実施例3,4と同じくLiFePO4を用い、バインダ12には実施例1,3,4と同じくカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC),ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して用い、溶媒15には水を用いて、第3製造方法(図3)に従って電極10を製造した。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:(1:1:1)とした。容器材質は、実施例1〜4と同じくニッケル展伸材(Ni−200)であった。
【0089】
(実施例6)
実施例6では、活物質13には実施例3〜5と同じくLiFePO4を用い、バインダ12には実施例1,3〜5と同じくカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC),ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して用い、溶媒15には水を用いて、第1製造方法(図1)に従って電極10を製造した。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:(1:1:1)とした。容器材質は、ステンレス鋼(SUS316)であった。
【0090】
(比較例1)
比較例1では、活物質13には実施例1,2と同じくLiNi0.82Co0.15Al0.032を用い、バインダ12には実施例1,3〜5と同じくカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC),ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して用い、溶媒15には水を用いて、比較例の製造方法(図4)に従って電極10を製造し、金属体除去工程(ステップS11〜S15)を行っていない。活物質13:導電材14:バインダ12の重量比は、100:3:3とした。容器材質は、実施例1〜5と同じくニッケル展伸材(Ni−200)であった。
【0091】
(比較例2)
比較例2では、比較例1と同一構成で比較例の製造方法(図4)に従って電極10を製造し、金属体除去工程(ステップS11〜S15)を行っていない。容器材質は、ステンレス鋼(SUS316)であった。
【0092】
(比較例3)
比較例3では、比較例1と同一構成で比較例の製造方法(図4)に従って電極10を製造し、金属体除去工程(ステップS11〜S15)を行っていない。容器材質は、ジルコニア(ZrO2)であった。
【0093】
(比較例4)
比較例4では、比較例1と同一構成で比較例の製造方法(図4)に従って電極10を製造し、金属体除去工程(ステップS11〜S15)を行っていない。容器材質は、タングステン(W)であった。
【0094】
【表1】

【0095】
(評価)
実施例1〜6および比較例1〜4で製造した各電極10を正極100として含むリチウムイオン二次電池について評価すると、下記の表2のようになった。含有量の測定方法はICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析による。表2は左側から順番に、電極10に金属体として含まれる鉄(Fe)の含有量、同じくニッケル(Ni)の含有量、メカノケミカル装置を用いて行うメカノケミカル反応の連続運転時間(以下では単に「連続運転時間」と呼ぶ。)、検査した電極10の数に対する不良品の数(不良数/検査数)の各欄で示す。なお金属物の含有量には、活物質13に由来する材質を含み、容器材質に関連しない材質は含まない。
【0096】
本発明にかかる実施例1〜6で製造した電極10は、いずれも連続運転時間が100時間以上であるにもかかわらず、不良数は2以下であった。実施例1,3にいたっては不良数が0であった。実施例5では電極10に金属体として含まれるニッケル(Ni)が多いにもかかわらず、不良数は1にとどまっている。これは、酸洗浄工程(ステップS13)によってニッケルがイオン化して電極10内で広く分散して局所的に残存しないため、大きく自己放電せずに正常品になったと考えられる。実施例6でも電極10に金属体として鉄(Fe)が多く含まれるが、上記実施例5と同様の理由と考えられる。なお、実施例1〜6(表1)で示していない構成の電極10であって、第1製造方法〜第3製造方法に従って製造した電極10についても実施例1〜6と同様の結果が得られる。
【0097】
これに対して、従来技術にかかる比較例1〜4で製造した電極10は、連続運転時間が100時間以上の場合、不良数は20前後であった。不良数が多い原因は、メカノケミカル反応を行う際にメカノケミカル装置の金属部材が削られて生じる金属体が電極10に含まれるためと考えられる。比較例3,4は、メカノケミカル反応の温度が100[℃]を超えたために連続運転時間が少なくなっている。100[℃]を超えた状態でメカノケミカル反応を継続すると、活物質の組成が変化するため、所望の電池容量や抵抗が得られないからである。一方、連続運転時間を100時間以上行うと仮定した場合には、容量減や抵抗上昇等の別の問題が発生する。
【0098】
【表2】

【符号の説明】
【0099】
10 電極(正極,負極)
11 集電体
12 バインダ(結着剤)
12a 水系バインダ(結着剤)
13 活物質(正極活物質,負極活物質)
14 導電材
15 溶媒
20 酸溶液
21 中和剤
100 正極
200 負極
300 セパレータ
400 扁平体
410 捲回部
420 中空部
500 積層体
510 心材用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカノケミカル装置を用いて活物質の表面に導電材を被覆する被覆工程と、
少なくとも前記活物質を含む混練物を生成する混練物生成工程と、
前記混練物を集電体の面上に塗工する塗工工程と、
前記混練物を乾燥させて活物質合剤層を形成する合剤層形成工程と、
を有する電池用電極の製造方法において、
前記混練物生成工程を行う前に、メカノケミカル反応によって前記メカノケミカル装置の金属部材が削られて生じる金属体を除去する金属体除去工程を有することを特徴とする電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記金属体除去工程は、篩を用いて所定粒度以上の前記金属体を選別して除去することを特徴とする請求項1に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記金属体除去工程は、磁力によって前記金属体を吸着させて除去することを特徴とする請求項1または2に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記金属体除去工程は、前記被覆工程を行った後の物質を、酸溶液に浸漬して前記金属体を除去することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記金属体除去工程は、前記酸溶液に浸漬した後、前記酸溶液の除去を行うことを特徴とする請求項4に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記酸溶液の除去は、水で洗い流す酸痕水洗であることを特徴とする請求項5に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記混練物は、前記酸痕水洗で加える水を用いて混練されることを特徴とする請求項6に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記金属体除去工程は、前記酸溶液を加えた後、前記酸溶液を中和する中和剤を加えることを特徴とする請求項4から7のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記活物質は、金属カルコゲン化合物であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項10】
前記活物質は、リチウム・鉄複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル酸化物などのリチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項11】
前記メカノケミカル装置の金属部材は、鉄、ニッケル、コバルト、クロムのうち一以上を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の電池用電極の製造方法によって製造された電池用電極である正極と、負極と、電解液と、を少なくとも有することを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−4300(P2013−4300A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134089(P2011−134089)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】