説明

電池

【課題】 サイクル特性などの電池特性を向上させることができる電池を提供する。
【解決手段】 負極活物質層21Bの表面に、フッ化リチウムと水酸化リチウムとを含む被膜21Cが設けられている。フッ化リチウムと水酸化リチウムとの割合は、飛行時間型二次イオン質量分析装置による正イオン分析で得られるLi2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が、1以上となる範囲である。負極活物質層21Bは、負極活物質として、SiまたはSnを構成元素として含む物質を含有している。被膜21Cにより、負極活物質層21Bの酸化が抑制されると共に、電解液の分解反応が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素または半金属元素を含む負極活物質層を有する場合に有効な電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子技術の進歩に伴い、カメラ一体型ビデオテープレコーダ、携帯電話あるいはラップトップパソコン等のポータブル電子機器が開発されている。これに伴い、これらの電子機器の電源として、小型かつ軽量で高エネルギー密度を有する二次電池の開発が強く要求されている。
【0003】
このような要請に応える二次電池としては、リチウム(Li),ナトリウム(Na)あるいはアルミニウム(Al)などの軽金属を負極活物質として用いるものが期待されている。この二次電池によれば理論上高電圧を発生させることができ、かつ高エネルギー密度を得ることができる。中でも、リチウム金属を負極活物質として用いた二次電池は、より高い出力およびエネルギー密度が得られることから、活発に研究開発が行われている。
【0004】
しかしながら、リチウム金属などの軽金属をそのまま負極活物質として用いた場合、充放電の過程において負極に軽金属のデンドライト結晶が析出しやすい。デンドライト結晶が析出すると、その先端の電流密度が非常に高くなるので、電解液が分解しやすくなりサイクル特性が低下してしまう。また、デンドライト結晶が正極まで到達すると、内部短絡が発生してしまう。
【0005】
そこで、このようなデンドライト結晶の析出を防止するために、リチウム金属をそのまま負極活物質に用いるのではなく、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料を用いた二次電池が開発されている。
【0006】
このような負極材料としては、従来より炭素材料が広く用いられてきたが、近年では、更なる高容量化を図るために、ケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)またはそれらの合金などを用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−311681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようにケイ素またはスズを用いた負極材料は、炭素材料に比べてサイクル特性が低く、高容量という特徴を活かすことが難しいという問題があった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、飛行時間型二次イオン質量分析装置による正イオン分析で得られるLi2 + のLi2 OH+ に対するピーク強度比(Li2 + /Li2 OH+ )が1以上の被膜を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電池によれば、ピーク強度比(Li2 + /Li2 OH+ )が1以上の被膜を有するようにしたので、電解質の分解反応を抑制することができ、サイクル特性を向上させることができる。
【0011】
特に、リチウムを吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質層を有する場合、または、構成元素としてケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を含む負極活物質層を有する場合において、高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の断面構成を表すものである。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の負極21と正極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケルのめっきがされた鉄により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12, 13がそれぞれ配置されている。
【0014】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0015】
巻回電極体20の中心には例えばセンターピン24が挿入されている。負極21にはニッケルなどよりなる負極リード25が接続されており、正極22にはアルミニウムなどよりなる正極リード26が接続されている。負極リード25は電池缶11に溶接され電気的に接続されており、正極リード26は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されている。
【0016】
図2は図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。負極21は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体21Aの両面に負極活物質層21Bが設けられた構造を有している。負極集電体21Aは、例えば、銅(Cu)箔,ニッケル(Ni)箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0017】
負極活物質層21Bは、例えば、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。このような負極材料としては、例えば、リチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む物質が挙げられる。この物質は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0018】
リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム,ガリウム(Ga),インジウム(In),ケイ素,ゲルマニウム(Ge),スズ,鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛(Zn),ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。
【0019】
中でも、このような負極材料としては、長周期型周期表における14族の金属元素あるいは半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素およびスズの少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素およびスズは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。具体的には、例えば、ケイ素の単体,合金,あるいは化合物、またはスズの単体,合金,あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0020】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ,ニッケル,銅,鉄(Fe),コバルト(Co),マンガン(Mn),亜鉛,インジウム,銀,チタン(Ti),ゲルマニウム,ビスマス,アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素,ニッケル,銅,鉄,コバルト,マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン,ゲルマニウム,ビスマス,アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0021】
スズの化合物あるいはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0022】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などの炭素材料を用いてもよく、また、これらの炭素材料と、上述した負極材料とを共に用いるようにしてもよい。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少なく、例えば上述した負極材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができ、更に導電剤としても機能するので好ましい。
【0023】
負極活物質層21Bは、また、他の負極活物質を含んでいてもよく、結着剤あるいは増粘剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0024】
更に、負極21は、負極活物質層21Bの表面に、フッ化リチウムと水酸化リチウムとを含む被膜21Cを有している。被膜21Cにおけるフッ化リチウムと水酸化リチウムとの割合は、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS;Time Of Flight-Secondary Ion Mass Spectrometry)による正イオン分析において得られるLi2 + のLi2 OH+ に対するピーク強度比(以下、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比と言う)が、1以上となる範囲となっている。これにより負極21は、負極活物質層21Bの酸化を抑制することができると共に、負極21における副反応を抑制することができるようになっている。また、被膜21Cにおけるフッ化リチウムと水酸化リチウムとの割合は、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が4以上となる範囲であればより高い効果を得ることができるので好ましい。被膜21Cの厚みは、100nm以下であることが好ましい。あまり厚くなると抵抗が大きくなってしまうからである。
【0025】
正極22は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体22Aの両面に正極活物質層22Bが設けられた構造を有している。正極集電体22Aは、例えば、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0026】
正極活物質層22Bは、例えば、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料としては、例えば、リチウムと遷移金属とを含むリチウム複合酸化物あるいはリチウムリン酸化合物が好ましい。これらは高電圧を発生可能であると共に、高容量化を図ることができるからである。
【0027】
リチウム複合酸化物またはリチウムリン酸化合物としては、遷移金属として、コバルト,ニッケル,マンガン,鉄,アルミニウム,バナジウム(V),チタン,クロムおよび銅からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましく、特に、コバルト,ニッケルおよびマンガンからなる群のうちの少なくとも1種を含むものがより好ましい。その化学式は、例えば、Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表される。式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0028】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-v Cov 2 (v<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(Lix Mn2 4 )などが挙げられる。リチウムリン酸化合物としては、例えばリチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-z Mnz PO4 (z<1))が挙げられる。
【0029】
セパレータ23は、負極21と正極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどよりなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多硬質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0030】
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。
【0031】
溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、炭酸ビニレン、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、あるいはハロゲン化環状炭酸エステルなどの非水溶媒が挙げられる。溶媒は、いずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
電解質塩としては、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiB(C6 5 4 、LiCl、LiBr、LiCH3 SO3 あるいはLiCF3 SO3 などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0034】
まず、例えば、負極集電体21Aに負極活物質層21Bを形成する。負極活物質層21Bは、例えば、気相法、液相法、焼成法、または塗布のいずれにより形成してもよく、それらの2以上を組み合わせてもよい。
【0035】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法を用いることができ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,熱CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法,プラズマCVD法あるいは溶射法等が利用可能である。液相法としては電解めっきあるいは無電解めっきなどの公知の手法が利用可能である。
【0036】
焼成法というのは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させ、塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法,反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が利用可能である。塗布の場合には、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させ、塗布したのち、乾燥させ圧縮成型することにより形成する。
【0037】
また、正極集電体22Aに正極活物質層22Bを形成し、正極22を作製する。正極活物質層22Bは、例えば、粒子状の正極活物質と導電剤と結着剤とを混合して正極合剤を調製し、溶剤に分散させたのち、正極集電体22Aに塗布し乾燥させ、圧縮成型することにより形成する。
【0038】
次いで、負極集電体21Aに負極リード25を取り付けると共に、正極集電体22Aに正極リード26を取り付ける。続いて、これらをセパレータ23を介して巻回し、負極リード25の先端部を電池缶11に溶接すると共に、正極リード26の先端部を安全弁機構15に溶接し、絶縁板12,13で挟んで電池缶11の内部に収納する。そののち、電解液を電池缶11の内部に注入し、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。
【0039】
その際、電解液にフッ素含有化合物を添加する。例えば、溶媒にフッ素含有化合物を用いてもよく、また、溶媒とは別に被膜21Cを形成するための添加剤としてフッ素含有化合物を添加してもよい。次いで、充放電を行い、負極活物質層21Bの表面に電気化学的に被膜21Cを形成する。被膜21Cにおけるフッ化リチウムと水酸化リチウムとの割合は、例えば、充電電流値などの充電条件を調節することにより制御することができる。これにより、図1,2に示した二次電池が完成する。
【0040】
なお、被膜21Cを電池を組み立てたのちに電気化学的に形成するのではなく、電池を組み立てる前に形成するようにしてもよい。例えば、負極活物質層21Bの上に気相成長法などにより被膜21Cを形成するようにしてもよく、電解液を用いて電気化学的に形成するようにしてもよい。
【0041】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極21に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極22に吸蔵される。その際、負極21の表面にはLi2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が1以上の被膜21Cが形成されているので、負極活物質層21Bの酸化が抑制されると共に、負極21における電解液の分解反応が抑制される。
【0042】
特に、負極活物質として、リチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む物質を用いる場合には、負極21の活性が高くなっているが、負極21に被膜21Cを設けることにより、分解反応が効果的に抑制される。
【0043】
このように本実施の形態によれば、負極21がLi2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が1以上の被膜21Cを有するようにしたので、負極活物質層21Bの酸化を抑制することができると共に、電解液の分解反応を抑制することができる。よって、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。特に、負極活物質として、リチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む物質を用いる場合に、より高い効果を得ることができる。
【0044】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型といわれるものであり、負極リード31および正極リード32およびが取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。
【0045】
負極リード31および正極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。負極リード31および正極リード32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0046】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と負極リード31および正極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム33が挿入されている。密着フィルム33は、負極リード31および正極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0047】
なお、外装部材40は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0048】
図4は、図3に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体30は、負極34と正極35とをセパレータ36および電解質層37を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ38により保護されている。
【0049】
負極34は、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bの表面には被膜34Cが形成されている。正極35は、正極集電体35Aの両面に正極活物質層35Bが設けられた構造を有しており、正極活物質層35Bと負極活物質層34Bとが対向するように配置されている。負極集電体34A,負極活物質層34B,被膜34C,正極集電体35A,正極活物質層35Bおよびセパレータ36の構成は、上述した第1の実施の形態における負極集電体21A,負極活物質層21B,被膜21C,正極集電体22A,正極活物質層22Bおよびセパレータ23と同様である。
【0050】
電解質層37は、電解液と、この電解液を保持する高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩など)の構成は、上述した第1の実施の形態と同様である。高分子材料としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体、またはポリアクリロニトリルが挙げられ、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ化ビニリデンの重合体などのフッ素系高分子化合物を用いることが望ましい。
【0051】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0052】
まず、第1の実施の形態と同様にして、負極集電体34Aに負極活物質層34Bを形成すると共に、正極集電体35Aに正極活物質層35Bを形成したのち、負極活物質層34Bおよび正極活物質層35Bの上に、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層37を形成する。その際、例えば電解液にフッ素含有化合物を添加する。次いで、負極集電体34Aに負極リード31を取り付けると共に、正極集電体35Aに正極リード32を取り付けたのち、これらをセパレータ36を介して巻回し、最外周部に保護テープ38を接着して巻回電極体30を形成する。続いて、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。そののち、充放電を行い、負極活物質層34Bの表面に電気化学的に被膜34Cを形成する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0053】
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、負極集電体34Aに負極活物質層34Bを形成すると共に、正極集電体35Aに正極活物質層35Bを形成したのち、負極リード31および正極リード32を取り付け、それらをセパレータ45を介して巻回し、最外周部に保護テープ38を接着して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材40に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材40の内部に注入する。その際、例えば電解液にフッ素含有化合物を添加する。そののち、外装部材40の開口部を熱融着して密封し、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層37を形成する。続いて、充放電を行い、負極活物質層34Bの表面に電気化学的に被膜34Cを形成する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0054】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、被膜21Cを電池を組み立てる前に形成するようにしてもよい。
【0055】
この二次電池は、第1の実施の形態と同様に作用し、同様の効果を有する。
【実施例】
【0056】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0057】
図5に示したようなコイン型の二次電池を作製した。この二次電池は、負極51と正極52とをセパレータ53を介して積層し、外装缶54と外装カップ55との間に封入したものである。
【0058】
(実施例1)
まず、負極活物質としてケイ素を用い、銅箔よりなる負極集電体51Aの上に、真空蒸着法によりケイ素よりなる負極活物質層51Bを成膜し、真空雰囲気中において熱処理した。また、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を用意し、このリチウムコバルト複合酸化物粉末91質量部と、導電剤であるグラファイト6質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させた。次いで、これをアルミニウム箔よりなる正極集電体52Aに塗布し乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層52Bを形成し、正極52を作製した。
【0059】
続いて、これらを微多孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ53を介して外装缶54に載置し、その上から電解液を注入して、外装カップ55を被せてガスケット56を介してかしめることにより密閉した。電解液には、実施例1では4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとを1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiClO4 を1mol/lの濃度で溶解させたものを用い、実施例2では4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンに代えたことを除き、実施例1と同様のものを用いた。
【0060】
そののち、充放電を行い、負極51に被膜51Cを形成すると共に、2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。その際、充電は1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで行ったのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行い、放電は1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで行った。その結果を表1に示す。
【0061】
また、30サイクル充放電を行ったのち、アルゴン雰囲気中において電池を解体して負極51を取り出し、炭酸ジメチルで洗浄し、真空乾燥させて、飛行時間型二次イオン質量分析装置により正イオン分析を行った。分析にはアルバックファイ社製のTFS−2000を用い、条件は一次イオン197 Au+ 、イオン電流2nA(連続ビームによる計測値)、質量範囲1〜1850amu、走査範囲300×300μm2 とした。その結果から求めたLi2 + /Li2 OH+ ピーク強度比を表1に示すと共に、実施例1の結果を図6に示す。なお、図6はケイ素に換算して表面から1μm程度の厚みを197 Au+ イオンでスパッタしたスペクトルである。図6には負極活物質層51Bを構成するシリコンSi+ のピークが現れていないことから、負極活物質層51Bの表面にフッ化リチウムと水酸化リチウムとを含む被膜51Cが形成されていることが分かる。
【0062】
(実施例3)
負極活物質層51Bの上に蒸着法によりフッ化リチウムと水酸化リチウムを含む被膜51Cを形成すると共に、電解液に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンに代えて炭酸エチレンを用いたことを除き、実施例1と同様にして二次電池を組み立て、同様にして2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。それらの結果も表1に示す。なお、被膜51Cの組成は、蒸着条件を調節することにより、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が1以上となるように調節し、被膜51Cの厚みは100μm以下とした。
【0063】
(実施例4〜6)
実施例1と同様にして二次電池を組み立てたのち、充放電における電流密度を変えて充放電を行ったことを除き、実施例1と同様にして2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。充放電における電流密度は、実施例4では0.75mA/cm2 、実施例5では2mA/cm2 、実施例6では5mA/cm2 とした。また、実施例1と同様にして負極51を取り出し、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比を調べた。それらの結果も表1に示す。
【0064】
(実施例7,8)
実施例1または実施例2と同様にして二次電池を組み立てたのち、充電時における電圧を4.3Vとしたことを除き、実施例1,2と同様にして2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。すなわち、充電は1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.3Vに達するまで行ったのち、4.3Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行った。なお、実施例7では実施例1と同様の電解液を用い、実施例8では実施例2と同様の電解液を用いた。また、実施例1と同様にして負極51を取り出し、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比を調べた。それらの結果も表1に示す。
【0065】
(実施例9,10)
実施例1または実施例2と同様にして二次電池を組み立てたのち、充電条件を変えたことを除き、実施例1,2と同様にして2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。充電は1mA/cm2 の定電流密度で4.8Vの電圧を100kHzのパルス状に印加し、電池電圧が4.2Vに達したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行った。なお、実施例9では実施例1と同様の電解液を用い、実施例10では実施例2と同様の電解液を用いた。また、実施例1と同様にして負極51を取り出し、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比を調べた。それらの結果も表1に示す。
【0066】
(比較例1)
電解液に、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンに代えて炭酸エチレンを用いたことを除き、実施例1と同様にして二次電池を組み立て、同様にして2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。また、実施例1と同様にして負極を取り出し、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比を調べた。それらの結果も表1に示す。
【0067】
(比較例2)
実施例1と同様にして二次電池を組み立てたのち、充放電における電流密度を10mA/cm2 として充放電を行ったことを除き、実施例1と同様にして2サイクル目の放電容量、2サイクル目に対する30サイクル目の容量維持率、および2サイクル目の充放電効率を求めた。また、実施例1と同様にして負極を取り出し、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比を調べた。それらの結果も表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
(結果)
表1に示したように、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が1以上の実施例1〜10によれば、1未満の比較例1,2よりも、放電容量、容量維持率および充放電効率のいずれについても向上させることができた。また、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が4以上の場合により高い値を得ることができた。
【0070】
すなわち、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が1以上の被膜51Cを形成するようにすれば、放電容量、容量維持率および充放電効率などの電池特性を向上させることができ、Li2 + /Li2 OH+ ピーク強度比が4以上の被膜51Cを形成するようにすればより高い効果を得られることが分かった。
【0071】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電解質として電解液を用いる場合について説明し、更に上記実施の形態では、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合についても説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物を用いた無機固体電解質、無機固体電解質と電解液とを混合したもの、無機固体電解質とゲル状の電解質とを混合したもの、またはイオン伝導性有機高分子化合物に電解質塩を分散させた有機固体電解質が挙げられる。
【0072】
また、上記実施の形態では円筒型あるいはラミネートフィルムなどの外装部材を用いた二次電池、また実施例ではコイン型の二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明はボタン型あるいは角型または積層構造などの他の構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。また、本発明は、二次電池に限らず、一次電池などの他の電池についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した二次電池における巻回電極体のI−I線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】本発明の実施例において作製した二次電池の構成を表す断面図である。
【図6】実施例1に係る負極の正イオン分析の結果を表す特性図である。
【符号の説明】
【0074】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,56…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,34,51…負極、21A,34A,51A…負極集電体、21B,34B,51B…負極活物質層、21C,34C,51C…被膜、22,35,52…正極、22A,35A,52A…正極集電体、31B,44B,61B…正極活物質層、23,36,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…負極リード、26,32…正極リード、33…密着フィルム、37…電解質層、38…保護テープ、40…外装部材、54…外装缶、55…外装カップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、飛行時間型二次イオン質量分析装置による正イオン分析で得られるLi2 + のLi2 OH+ に対するピーク強度比(Li2 + /Li2 OH+ )が1以上の被膜を有することを特徴とする電池。
【請求項2】
前記負極は、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質層を有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記負極は、構成元素としてケイ素(Si)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一方を含む負極活物質層を有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項4】
前記正極はリチウム含有複合酸化物を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−179305(P2006−179305A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371341(P2004−371341)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】