説明

電池

【課題】 高温でも使用することができる電池を提供する。
【解決手段】 フィルム状の外装部材20の内部に電池素子10を備える。正極13はフッ化黒鉛,二硫化鉄または二酸化マンガンを含んでおり、負極14は、負極活物質として、リチウム金属またはリチウム合金を含んでいる。また、電解液には、γ−ブチロラクトンおよび炭酸プロピレンのうちの少なくとも一方と、リチウムビスオキサレートボレートとを含んでいる。これにより電解液の分解が抑制され、高温で保存しても特性の低下が抑制されると共に、電池内圧の上昇が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質として、フッ化黒鉛,二硫化鉄または二酸化マンガンなどを用いる電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、コイン型などのリチウム一次電池は、デスクトップ型PC,コピー機,ビデオカメラあるいはゲーム機などのエレクトロニクス製品のクロック用電源またはメモリーバックアップ用電源として用いられている。
【0003】
このような用途に用いられる電池としては、例えば、正極活物質として主に二酸化マンガンを用いたリチウム一次電池がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−65843号公報
【特許文献2】特開平8−138686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このリチウム一次電池の正極活物質に用いられる二酸化マンガンは、製造工程あるいは結晶構造に起因して、結晶中に結晶水あるいは格子水が残留してしまい、例えば、結晶構造が変化しない200℃〜300℃の範囲で乾燥しても水分を完全には除去することが難しい。このため、電池内には微量の水分が含まれてしまう。この水分は、特に高温領域において電解液中に遊離しやすくなり、負極であるリチウムの表面に水酸化リチウムなどの被膜を形成することにより、内部抵抗を上昇させてしまうと共に、例えば、炭酸プロピレンあるいは1,2−ジメトキシエタンなどの溶媒を酸化分解し、発生した炭酸ガスにより電池の内圧を上昇させてしまうという問題があった。
【0005】
一方、リチウムテトラフルオロボレートは高温領域でも安定でしかも低温領域でも使用可能なことから、例えば、正極活物質としてフッ化黒鉛を用いたリチウム電池に用いられている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、高温領域では保存特性が悪く、コールコールプロットなどによると、正極に被膜が形成され、これにより性能が低下していることが確認される。よって、温度制御を行うベンディングマシンあるいはガスメータ、使用機器が高温となるコピー機,タイヤ空気圧センサ,車載用ナビゲーションシステムあるいは電子棚札などの種々の用途に用いることができる電池の開発が切望されてきた。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高温環境下においても使用可能な電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解液を備えたものであって、正極は、フッ化黒鉛,二硫化鉄または二酸化マンガンを含み、負極は、負極活物質として、リチウム金属またはリチウム合金を含み、電解液は、γ−ブチロラクトンおよび炭酸プロピレンのうちの少なくとも一方と、リチウムビスオキサレートボレートとを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池によれば、電解液に、γ−ブチロラクトンおよび炭酸プロピレンのうちの少なくとも一方と、リチウムビスオキサレートボレートとを含むようにしたので、高温状況下においても電解液の分解を抑制することができ、高温特性を向上させることができると共に、電池内圧の上昇を抑制することができる。
【0009】
特に、電解液に、更にリチウムテトラフルオロボレートを含むようにすれば、低温特性も向上させることができる。
【0010】
更に、リチウムビスオキサレートボレートとリチウムテトラフルオロボレートとのモル比率(リチウムビスオキサレートボレート:リチウムテトラフルオロボレート)を2:8〜5:5の範囲内にするようにすれば、高温特性および低温特性を共に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る一次電池の断面構成を表すものである。この一次電池は、正極リード11および負極リード12が取り付けられた電池素子10をフィルム状の外装部材20の内部に封入したものである。電池素子10は、例えば、正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層し、屈曲させた構造を有している。
【0013】
正極リード11および負極リード12は、外装部材20の内部から外部に向かい例えば同一方向にそれぞれ導出されている。正極リード11および負極リード12は、化学的あるいは電気化学的に安定であり、導通がとれる材料で構成されていればよく、それぞれ、例えば、アルミニウムなどの金属材料、または銅,ニッケル,ステンレス,あるいはニッケルで被覆したステンレス若しくは鉄などの材料により構成されていることが好ましい。
【0014】
正極13は、例えば、正極集電体13Aと、この正極集電体13Aの片面に設けられた正極活物質層13Bとを有している。正極集電体13Aには、長手方向における一方の端部に正極活物質層13Bが設けられず露出している部分があり、この露出部分に正極リード11が取り付けられている。正極集電体13Aは、例えば、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属材料により構成されている。
【0015】
正極活物質層13Bは、正極活物質として、フッ化黒鉛,二酸化マンガンまたは二硫化鉄を含んでいる。このうち、フッ化黒鉛および二酸化マンガンは、電池電圧が約3Vの電池に用いられ、一方、二硫化鉄は、電池電圧が約1.5Vの電池に用いられる。なお、フッ化黒鉛,二酸化マンガンおよび二硫化鉄の質量エネルギー密度は、それぞれ、860mAh/g,308mAh/gおよび890mAh/gである。
【0016】
正極活物質層13Bは、また、これらの正極活物質の2種以上を混合して用いても、他の正極活物質を混合して用いてもよく、更に、必要に応じて導電剤および結着剤を含んでいてもよい。導電剤としては、例えば、カーボンブラックあるいはグラファイトなどの炭素材料が挙げられ、また結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはスチレンブタジエンゴムが挙げられる。
【0017】
負極14は、例えば、負極リード12が取り付けられた負極集電体14Aと、この負極集電体14Aを挟み込むようにリチウム金属あるいはその合金により形成された負極活物質層14Bとを有している。負極集電体14を構成する材料としては、化学的あるいは電気化学的に安定であり、導通がとれる材料であればよく、特に金属箔が望ましい。なお、リチウム金属の質量エネルギー密度は、3860mAh/gである。
【0018】
セパレータ15は、例えば、ポリフェニレンサルフィド,ポリフッ化ビニリデン,ポリ四フッ化エチレン,ポリブチレンテレフタレート,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの樹脂材料、ガラス繊維およびセラミック繊維のうちのいずれか1種または2種以上から形成されるマイクロポーラスフィルムあるいは不織布などより構成されている。中でも、マイクロポーラスフィルムにより構成されることが好ましい。正極13と負極14との間隔を狭くすることができ、低温特性を向上させることができるからである。セパレータ15は、単層であっても複数層であってもよい。
【0019】
セパレータ15には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電解液は、例えば、非水溶媒などの溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0020】
溶媒としては、γーブチロラクトンおよび炭酸プロピレンのうちの少なくとも一方を含んでいる。γーブチロラクトンを用いる場合には、溶媒として更に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ブチレン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメトキシエタン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、1,2−ジメトキシエタン、炭酸ジエチルあるいは1, 3−ジオキソランのうちの1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
また、炭酸プロピレンを用いる場合には、溶媒として更に、炭酸エチレン、炭酸ブチレン、スルホラン、3−メチルスルホラン、炭酸エチルメチル、1,2−ジメトキシエタンあるいは炭酸ジエチルのうちの1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
電解質塩としては、リチウムビスオキサレートボレート(LiB(C24 2)を含んでいる。この化合物は、電子吸引性のカルボニル基を有しているので、アニオンが安定しており、カチオンであるリチウムが解離しやすくなっている。これにより、高温状況下においても、電解液の分解が抑制されるようになっている。
【0023】
また、電解質塩としては、リチウムビスオキサレートボレートに加えて、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4 )を混合して用いることが好ましい。低温特性も向上させることができるからである。リチウムビスオキサレートボレートとリチウムテトラフルオロボレートとのモル比率(リチウムビスオキサレートボレート:リチウムテトラフルオロボレート)は、2:8〜5:5の範囲内であることが好ましい。この範囲内で高温状況下における電解液の分解を抑制することができると共に、低温特性を向上させることができるからである。
【0024】
電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートおよびリチウムテトラフルオロボレートの濃度は、0.5mol/l以上1.5mol/l以下の範囲内であることが好ましい。高いイオン伝導性を得ることができるからである。
【0025】
電解質塩には、これらの電解質に加えて、他の電解質塩を混合して用いてもよい。
【0026】
外装部材20は、例えば、最内層,金属層および最外層の順に積層しラミネート加工などにより貼り合わせた構造を有しており、例えば防湿性あるいは絶縁性を有している。外装部材20の各外縁部は、融着あるいは接着剤により互いに密着されている。
【0027】
金属層を構成する材料としては、強度の向上の他、水分,酸素あるいは光の侵入を防止する観点から、例えば、アルミニウム,ステンレスあるいはニッケルメッキが施された鉄が挙げられ、中でも、軽さ,伸び性, 価格あるいは加工容易性の観点からは、アルミニウムが好ましい。
【0028】
最外層を構成する材料としては、外観,強靱性あるいは柔軟性の観点から、ナイロン,ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンが挙げられる。最外層には、これらの材料を混合あるいは複数層積層したものでもよい。
【0029】
最内層は、互いに融着する部分であるので、これを構成する材料としては、熱あるいは超音波で溶融する材料が好ましく、例えば、ポリエチレン,無延伸ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート,ナイロン,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレンあるいは直鎖状低密度ポリエチレンが挙げられる。最内層には、これらの材料を混合あるいは複数層積層したものでもよい。
【0030】
最外層,金属層および最内層の組合せとしては、最外層,金属層,最内層の順に、例えば、ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ポリエチレン,ナイロン/アルミニウム/無延伸ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/無延伸ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ポリエチレンテレフタレート/無延伸ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/アルミニウム/無延伸ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/アルミニウム/ナイロン/無延伸ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/アルミニウム/ナイロン/ポリエチレンテレフタレート,ナイロン/ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/直鎖状低密度ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン/アルミニウム/ポリエチレンテレフタレート/低密度ポリエチレン,あるいはポリエチレンテレフタレート/ナイロン/アルミニウム/低密度ポリエチレン/無延伸ポリプロピレンが挙げられる。
【0031】
なお、最外層と金属層との間、あるいは金属層と最内層との間には、必要に応じてこれらを接着する接着層を設けてもよい。
【0032】
この一次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0033】
まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をエタノールなどの分散媒に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。このとき、増粘剤を混合して粘度を調整するようにしてもよい。続いて、この正極合剤スラリーを、ダイコーティング法,転写印刷法あるいはスクリーン印刷法などにより正極集電体13Aに塗布し分散媒を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層13Bを形成し、正極13を作製する。その際、真空乾燥機で乾燥することにより水分を除去するようにする。続いて、正極リード11を正極13にスポット溶接あるいは超音波溶接などにより取り付ける。
【0034】
また、負極集電体14Aに負極リード12を超音波溶接あるいは圧着により取り付けたのち、リチウム金属箔またはリチウム合金箔を圧着して負極活物質層14Bを形成し、負極14を作製する。
【0035】
次に、正極13および負極14をセパレータ15を介して積層し屈曲させ、電池素子10を形成する。次いで、電池素子10をラミネートフィルムよりなる外装部材20の間に挟み込んだのち、外装部材20の外縁部同士を一辺を残して貼り合わせ袋状とする。その際、正極リード11および負極リード12を外装部材20の外部に導出させる。
【0036】
続いて、外装部材20の内部に開放辺から電解液を注入し、セパレータ15に含浸させる。そののち、外装部材20の開放辺を貼り合わせる。これにより図1に示した一次電池が完成する。
【0037】
この一次電池では、放電を行うと、負極14からリチウムがリチウムイオンとなって溶出し、電解液を介して正極13に吸蔵される。ここでは、電解液にリチウムビスオキサレートボレートを含んでいるので、高温状況下においても、電解液の分解が抑制される。
【0038】
このように本実施の形態の一次電池によれば、電解液に、γ−ブチロラクトンおよび炭酸プロピレンのうちの少なくとも一方と、リチウムビスオキサレートボレートとを含むようにしたので、高温状況下においても電解液の分解を抑制することができ、高温特性を向上させることができると共に、電池内圧の上昇を抑制することができる。
【0039】
特に、電解液に、更にリチウムテトラフルオロボレートを含むようにすれば、低温特性も向上させることができる。
【0040】
更に、リチウムビスオキサレートボレートとリチウムテトラフルオロボレートとのモル比率(リチウムビスオキサレートボレート:リチウムテトラフルオロボレート)を2:8〜5:5の範囲内にするようにすれば、高温特性および低温特性を共に向上させることができる。
【実施例】
【0041】
更に、本発明の具体的な実施例について、図1を参照し同一の符合を用いて詳細に説明する。
【0042】
(実施例1−1,1−2)
まず、正極活物質としてフッ化黒鉛と、導電剤としてアセチレンブラックと、結着剤とを均一に混合して正極合剤を調製した。その際、正極活物質と導電剤と結着剤とは、正極活物質:導電剤:結着剤=80.8:15.1:4.1の質量比で混合した。次いで、この正極合剤を分散媒としてエタノールに分散して正極合剤スラリーとし、この正極合剤スラリーを用いて厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体13Aの片面に正極活物質層13Bを形成し、真空雰囲気下で乾燥して分散媒や水分を除去して正極13を作製した。そののち、正極リード11を取り付けた。
【0043】
また、負極集電体14Aに負極リード12を取り付けたのち、この負極集電体14Aをリチウム金属箔により挟み込むことにより負極14を作製した。
【0044】
続いて、正極13および負極14をマイクロポーラスフィルムよりなるセパレータ15を介して積層すると共に図1のように屈曲させ、電池素子10を作製した。
【0045】
次いで、電池素子10を、ラミネートフィルムよりなる外装部材20の間に挟み込んだのち、外装部材20の外縁部同士を一辺を残して貼り合わせ袋状とした。その際、正極リード11および負極リード12を外装部材20の外部に導出させるようにした。また、ラミネートフィルムには、最外層としてポリエチレンテレフタレートと、金属層としてアルミニウム箔と、最内層としてポリエチレンとをこの順に積層したフィルムを用いた。
【0046】
続いて、外装部材20の内部に開放辺から電解液を注入し、セパレータ15に含浸させたのち、真空雰囲気下で外装部材20の開放辺を貼り合わせ、図1に示した一次電池を得た。電解液には、実施例1−1では、溶媒としてγーブチロラクトンに、電解質塩としてリチウムビスオキサレートボレートを1mol/lとなるように溶解したものを用い、実施例1−2では、溶媒として炭酸プロピレンと1,2−ジメトキシエタンとを混合した溶媒に、リチウムビスオキサレートボレートを1mol/lとなるように溶解したものを用いた。
【0047】
実施例1−1,1−2に対する比較例1−1として、溶媒であるγーブチロラクトンに、電解質塩であるリチウムテトラフルオロボレートを1mol/lとなるように溶解した電解液を用いたことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にして一次電池を作製した。また、比較例1−2として、溶媒であるγ−ブチロラクトンに、電解質塩であるリチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF6 )を1mol/lとなるように溶解した電解液を用いたことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にして一次電池を作製した。更に、比較例1−3として、溶媒である炭酸プロピレンと1,2−ジメトキシエタンとを混合した溶媒に、電解質塩としてリチウムヘキサフルオロフォスフェートを1mol/lとなるように溶解した電解液を用いたことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にして一次電池を作製した。
【0048】
作製した実施例1−1,1−2および比較例1−1〜1−3の一次電池について、23℃で、100Ωの抵抗をつけて0.1秒後の閉回路電圧を測定した。また、100℃で20時間,87時間,130時間,175時間,240時間保存したのちに23℃に冷却し、100Ωの抵抗をつけて0.1秒後の閉回路電圧を測定した。結果を表1および図2に示す。更にまた、100℃で保存したのちの電池は、実施例1−1,1−2および比較例1−1については、顕著な膨れが観られなかったが、比較例1−2,1−3では、膨れが観られた。
【0049】
【表1】

【0050】
表1および図2から分かるように、電解液にγ−ブチロラクトンまたは炭酸プロピレンと、リチウムビスオキサレートボレートとを用いた実施例1−1あるいは実施例1−2によれば、リチウムオキサレートボレートを用いていない比較例1−1,1−2、あるいは比較例1−3よりも、それぞれ高温保存後の閉回路電圧の低下量が少なかった。
【0051】
すなわち、電解液に、γ−ブチロラクトンあるいは炭酸プロピレンと、リチウムビスオキサレートボレートとを用いるようにすれば、高温保存下であっても、容量の低下を抑制することができると共に、内圧の上昇による電池の膨れを抑制できることが分かった。
【0052】
(実施例2−1〜2−5)
実施例2−1〜2−4として、溶媒であるγ−ブチロラクトンに、電解質塩であるリチウムビスオキサレートボレートおよびリチウムテトラフルオロボレートを溶解させた電解液を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にして一次電池を作製した。その際、電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度およびリチウムテトラフルオロボレートの濃度を、実施例2−1では、それぞれ0.8mol/l,0.2mol/lとし、実施例2−2では、それぞれ0.5mol/l、0.5mol/lとし、実施例2−3では、それぞれ0.2mol/l、0.8mol/lとし、実施例2−4では、それぞれ0.1mol/l、0.9mol/lとした。
【0053】
また、実施例2−5として、溶媒であるγ−ブチロラクトンと炭酸ジエチルとを、γ−ブチロラクトン:炭酸ジエチル=9:1の質量比で混合した溶媒に、電解質塩であるリチウムテトラフルオロボレートおよびリチウムビスオキサレートボレートを溶解した電解液を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にして一次電池を作製した。その際、電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度およびリチウムテトラフルオロボレートの濃度を、それぞれ0.18mol/l,0.72mol/lとした。
【0054】
作製した実施例2−1〜2−5の一次電池について、実施例1−1,1−2と同様にして閉回路電圧を測定した。結果を実施例1−1の結果と共に表2および図3に示す。また、実施例2−1〜2−5の一次電池について、100℃で240時間保存したのち、20℃,0℃,−20℃または−40℃まで冷却し、10mAで0.1秒間放電したときの閉回路電圧を測定した。結果を表3および図4に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表2および図3から分かるように、実施例1−1と同様に、電解液にリチウムビスオキサレートボレートを用いた実施例2−1〜2−5によれば、高温保存後の閉回路電圧の低下量が少なかった。
【0058】
また、表3および図4から分かるように、リチウムビスオキサレートボレートとリチウムテトラフルオロボレートとのモル比率(リチウムビスオキサレートボレート:リチウムテトラフルオロボレート)が2:8〜5:5の範囲内である実施例2−2,2−3によれば、モル比率がこの範囲外である実施例2−1,2−4,2−5よりも高温保存後に常温あるいは低温としたときの閉回路電圧の低下量が少なかった。
【0059】
すなわち、チウムビスオキサレートボレートとリチウムテトラフルオロボレートとのモル比率(リチウムビスオキサレートボレート:リチウムテトラフルオロボレート)を2:8〜5:5の範囲内とすれば好ましいことが分かった。
【0060】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、正極13と負極14とを折り畳む場合について説明したが、正極と負極とを1層ずつまたは複数積層するようにしてもよく、また、巻回するようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施の形態および実施例では、電解液をそのまま用いる場合について説明したが、電解液を高分子化合物などの保持体に保持させて、いわゆるゲル状とするようにしてもよい。この高分子化合物としては、例えばポリフッ化ビニリデンおよびフッ化ビニリデンの共重合体が挙げられ、その共重合体モノマーとしてはヘキサフルオロプロピレンあるいはテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらは高い電池特性を得ることができるので好ましく、中でも、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体は特に好ましい。
【0062】
更に、上記実施の形態および実施例では、外装部材20にフィルムを用いる場合について説明したが、本発明は外装部材に金属製の外装容器を用いてもよい。但し、例えば外装部材に金属製の外装容器を用いたコイン型の電池では、溶媒の分解による内圧の上昇により外装容器が変形してしまう場合があり、正極と外装容器との接触面積あるいは接触圧が低下して、内部抵抗が上昇し、負荷特性などの電池特性が劣化したり、ガスケットによる密閉性が低下して液漏れしてしまうことがあるので、フィルム状の外装部材20を用いる方が好ましい場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電池の構成を表す断面図である。
【図2】高温保存時間と閉回路電圧との関係を表す特性図である。
【図3】高温保存時間と閉回路電圧との関係を表す他の特性図である。
【図4】放電時の温度と閉回路電圧との関係を表す特性図である。
【符号の説明】
【0064】
10…電池素子、11…正極リード、12…負極リード、13…正極、13A…正極集電体、13B…正極活物質層、14…負極、14A…負極集電体、14B…負極活物質層、15…セパレータ、20…外装部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記正極は、フッ化黒鉛,二硫化鉄または二酸化マンガンを含み、
前記負極は、負極活物質として、リチウム金属またはリチウム合金を含み、
前記電解液は、γ−ブチロラクトンおよび炭酸プロピレンのうちの少なくとも一方と、リチウムビスオキサレートボレートとを含む
ことを特徴とする電池。
【請求項2】
前記電解液は、更に、リチウムテトラフルオロボレートを含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記リチウムビスオキサレートボレートと、前記リチウムテトラフルオロボレートとのモル比率(リチウムビスオキサレートボレート:リチウムテトラフルオロボレート)は、2:8〜5:5の範囲内であることを特徴とする請求項2記載の電池。
【請求項4】
前記電解液における前記リチウムビスオキサレートボレートおよびリチウムテトラフルオロボレートの濃度は、0.5mol/l以上1.5mol/l以下の範囲内であることを特徴とする請求項2記載の電池。
【請求項5】
前記正極,負極および電解液をフィルム状の外装部材または金属製の外装部材の内部に収納したことを特徴とする請求項1記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−269173(P2006−269173A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83582(P2005−83582)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】