電池
【課題】高温下で使用可能で、高出力および高容量の固体の電池を提供する。
【解決手段】電池は、化学式CuXMo6S8-Y(0≦X≦4、0≦Y≦0.2)で表わされる正極活物質を含む正極活物質層23と、化学式Li2S−P2S5で表わされる固体電解質を含む、正極活物質層と接触する固体電解質層22と、リチウムを含む、固体電解質層と接触する負極活物質層24とを備える。
【解決手段】電池は、化学式CuXMo6S8-Y(0≦X≦4、0≦Y≦0.2)で表わされる正極活物質を含む正極活物質層23と、化学式Li2S−P2S5で表わされる固体電解質を含む、正極活物質層と接触する固体電解質層22と、リチウムを含む、固体電解質層と接触する負極活物質層24とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電池に関し、より特定的には二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電池は、たとえば非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3に開示されている。
【非特許文献1】Y. Takeda et al., Mat. Res. Bull., 20(1985)71.
【非特許文献2】R. Kanno et al., Electrochem. Solid-State Lett., 7(2004)A455.
【非特許文献3】A. Sakuda ed al., Electrochem. Solid-State Lett., 11(2008)A1.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、固体電池では低電流密度でしか電池を作動させることができないという問題があり、高出力化が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、高出力化が可能な固体電解質を有する電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った電池は、化学式CuXMo6S8-Y(0≦X≦4、0≦Y≦0.2)で表わされる正極活物質を含む正極活物質層と、化学式Li2S−P2S5で表わされる固体電解質を含む、正極活物質層と接触する固体電解質層と、リチウムを含む、固体電解質層と接触する負極活物質層とを備える。
【0006】
このように構成された電池では、上記構成を採用することにより、高出力化が可能となる。
【0007】
好ましくは、温度100℃以上で使用される。
好ましくは、電流密度が15mA/cm2以下での電池の容量は、電流密度が15mA/cm2超での電池の容量よりも大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、この発明の実施の形態に従った電池の製造方法を説明するためのを示す図である。図1を参照して、この発明に従った電池1は、1対の金型27,28の間に配置された正極活物質層23と、固体電解質層22と、負極活物質層24とを備える。製造段階においては、正極活物質層23、固体電解質層22および負極活物質層24は型枠21で挟まれている。4対のシャフト31,32が押圧板11,12を拘束して押圧し、この圧力が金型27,28に加えられることで正極活物質層23,負極活物質層24および固体電解質層22が成形される。
【0009】
正極活物質層23はCu2Mo6と、Li2S−P2S5(Li2SとP2S5の混合物)のガラスセラミックスと、導電助剤としてのアセチレンブラックを混合して得られる。
【0010】
固体電解質層22は、Li2S−P2S5のガラスセラミックスである。負極活物質層24は、リチウム−インジウム合金により形成される。
【0011】
図2は、図1で示すこの発明に従った電池の正極活物質層を製造する方法を示す流れ図である。図2を参照して、出発材料として、Cu2Mo6S8と、Li2S−P2S5ガラスセラミックスと、アセチレンブラックとを準備する。これらの材料の割合、すなわち、Cu2Mo6S8と、Li2S−P2S5ガラスセラミックスと、アセチレンブラックとの重量比は、20:30:3とする。Cu2Mo6S8の粒径は約5μmであり、導電率は約1Scm1とする。
【0012】
図3および図4は、上記の方法で製造された、この発明に従った固体電池の容量とセル電圧との関係を示すグラフである。図3は定電流充放電曲線を示している。充放電条件は室温で電流密度は1.28mAcm2とした。なお、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層の材料は、それぞれLi−In、80mol%Li2S−20mol%P2S5ガラスセラミックス、Cu2Mo6S8とした。図3で、1サイクル目(1st)と、100サイクル目(100th)の充放電特性を示している。図4は、サイクル数と放電容量との関係を示している。図3および図4で示すように、1.28mAcm-2の電流密度下で作動し、充放電効率もほぼ100%を示した。また、100サイクル後でも110mAhg-1の容量が得られ、比較的良好なサイクル特性を示したことがわかる。
【0013】
また、図5は、充放電前、1回目の放電、1回目の充電および100回目の充電後における正極活物質層の結晶構造をXRD(X線回折)で分析した結果を示す図である。また、図6は、図5におけるX線回折の角度(2θ)が11度から16度の部分を拡大して示す図である。図5および図6で示すように、この発明に従った正極活物質層では、100サイクル後においても充放電前のXRDパターンと殆ど同じことが示されている。これは比較的良好なサイクル特性を示している。すなわち、充電後の正極活物質層の結晶構造はCu2Mo6S7.8であり、放電後の結晶構造はLi4+XCu2-YMo6S7.8であり、この充電後の構造と放電後の構造が可逆的に変化していることがわかる。
【0014】
また、図7は、この発明の実施の形態に従った電池における室温での充放電前と第1回目の放電後とにおけるインピーダンス特性を示すグラフである。図7では、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層が、それぞれLi−In、80mol%Li2S−20mol%P2S5ガラスセラミックス、Cu2Mo6S8である例を示している。第1回放電時において、新たな円弧が生じていない。その結果抵抗の変化が殆どなく、良好な電極−電解質界面が保たれていることがわかる。
【0015】
図8は、この発明の実施の形態に従った電池における温度160℃での定電流充放電曲線を示すグラフである。図8で用いた電池は負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層が、それぞれLi−In、70mol%Li2S−30mol%P2S5ガラスセラミックス、Cu2Mo6S8である例を示している。温度160℃で12.8mAcm-2の極めて高い電流密度下で充放電を行なった。その結果、10サイクル目でも270mAhg-1の大きい可逆容量を示した。これにより高性能な全固体リチウム二次電池を構築することができたことがわかる。
【0016】
図9は、この発明に従った電池の詳細構造を説明するための断面図である。図9を参照して、この発明に従った電池1では、集電体25,26の間に正極活物質層23、負極活物質層24および固体電解質層22が位置している。正極活物質層23は、活物質233と、硫化物系の固体電解質231と、導電助剤232とからなる。硫化物系の固体電解質層22はLi2S−P2S5系であり、セパレータの役割も兼ねている。負極活物質層24は、In−Li合金である。
【0017】
図9で示すように、硫化物系固体電解質(Li2S−P2S5系)と銅シュブレル(Cu2Mo6S8)活物質を組合せ、温度100℃で作動させることにより、30mA/cm2以上の極めて高い電流密度下で固体電池の作動を可能にし、高出力化を実現している。通常、液体電池では電解液の分解が生じるため、100℃以上の高温域での使用が困難であり、この特徴は本発明に従った固体電池ならではの特徴である。また、今回の結果は、液系電池と同様の高電流密度下でも固体電池が使用可能であることを示している。
【0018】
図10は、この発明に従った固体電池における10サイクル毎に電流密度を変化させたときの充放電測定結果(作動温度100℃)を示す図である。図11は、この発明に従った固体電池における充放電のサイクル数と、放電容量および効率との関係を示すグラフである。図10および図11で示すように、高温下の作動が安定していることがわかる。
【0019】
図12は、この発明に従った電池の温度をさまざまに変えて10サイクルの充放電を行なった後の10サイクル目の充放電曲線を示すグラフである。図12において、50℃、80℃、100℃、120℃は10サイクル目(それぞれ個別のセルで評価)、140℃、150℃、160℃は120℃で10サイクル測定後にそれぞれ昇温して測定した。すなわち、温度140℃では20サイクル目、150℃では30サイクル目、160℃では40サイクル目に測定した。電流密度は12.8mAcm-2とした。これにより、高温高サイクルの使用が可能であることがわかる。
【0020】
さらに本発明に従った電池を有する電池パックを車両へ搭載することを想定した場合、電池パックは以下の理由から車室外に置かれることが望ましい。
【0021】
(1) 電池パックに異常が生じた場合、電池パックが車室外に置かれていることが好ましい。
【0022】
(2) 車室内のスペースが広がる。
しかしながら、車外に電池パックを置く場合、たとえばエンジンコンパートメントなどの高温雰囲気に搭載することを考えると高温で容量を劣化せずに作動することが前提となる。
【0023】
本発明は、上述のように電池が温度100〜160の温度域で作動し、さらにこの温度範囲では殆ど容量劣化することがなく良好なサイクル特性を示す)12.8mA/cm2の高電流密度下で充放電が繰返し可能である。
【0024】
図13は、温度120℃における50サイクルまでの本発明に従った充放電曲線を示すグラフである。図14は、温度160℃における50サイクルまでの本発明に従った電池における充放電曲線を示すグラフである。図13および図14を参照して、高温下で高サイクル下においても本発明に従った電池は好ましい特性を示していることがわかる。したがって本発明に従った電池から作製した電池パックは、車室外の高温雰囲気下(たとえばエンジンコンパートメント)で使用しても長寿命である。通常の液系電池を使用する場合、電解液の分解が起こるため、高温雰囲気下に置くことは難しい。
【0025】
またエネルギ蓄電デバイス(電池やキャパシタ)は用途に応じて、高容量型と高出力型のものとが使い分けられる。また、高容量・高出力のいずれもが必要である場合には、2種類以上のエネルギ蓄電デバイスが必要とされるケースもある。この場合ハイブリッド電源になる。
【0026】
しかしながら、2種類以上のデバイスを使用する場合には、コストがかかる。デバイスを搭載するために必要なスペースが大きくなるといった問題がある。
【0027】
本発明に従った電池は作動温度にもよるが、電流密度約15mA/cm2以下では高容量型の電池として、それ以上の電流密度下では高出力型の電池として作動させることができる。
【0028】
図15は、本発明に従った電池における電流密度と単位面積当りの放電容量を温度100℃、120℃および160℃のそれぞれで示すグラフである。図15で示すように、本発明に従った電池では、高容量型および高出力型をそれぞれの温度において使い分けることができる。そのため車両搭載を想定した場合、複数個の電池パックを搭載することなく、要求に応じて1つの電池パックで高容量および高出力を切換えることができる。高容量および高出力型のいずれとしても使用が可能なため、多種多様な用途で使用することができる。
【0029】
硫化物系固体電池(たとえばLi2S−P2S5系固体電解質)を用いた全固体電池においては、通常の液系電池で使用されるLiCoO2などを電極活物質として使用すると、最初の充電反応時に電解質と活物質が反応して界面に抵抗層が形成される。そのため内部抵抗が増加し、出力低下を招く。この抵抗層の生成を防ぐために、活物質表面を他の材料でコーティングする方法が提案される。
【0030】
しかしながら、本発明では、活物質として銅シュブレルを使用することで、表面コートなしでも抵抗層の生成を抑制することが可能となる。その結果、上述のような抵抗層の生成を低減するためのコーティングプロセスが不要となる。電池作製時の製造プロセスの単純化および必要材料(コスト)の低減に繋がる。
【0031】
図16は、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてLi−In、Li2S−P2S5系固体電解質、Cu2Mo6S8を用いたサンプルにおける充放電前と第1回の放電後でのインピーダンスプロットを示すグラフである。図16で示すように、初期充電前後でインピーダンスプロットに変化が見られない。その結果、抵抗層の形成がされていないことがわかる。
【0032】
図17は、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてIn、Li2S−P2S5系固体電解質、LiCoO2を用いたサンプルにおけるインピーダンスプロットを示すグラフである。図17で示すように、初期充電後インピーダンスプロットに抵抗層の形成を示唆する半円が観測されている。その結果、電極と電解質界面との間の反応があることがわかる。
【0033】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態に従った電池の製造方法を説明するためのを示す図である。
【図2】図1で示すこの発明に従った電池の正極活物質層を製造する方法を示す流れ図である。
【図3】上記の方法で製造された、この発明に従った固体電池の容量とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図4】上記の方法で製造された、この発明に従った固体電池の容量とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に従った電池における充放電前、1回目の放電、1回目の充電および100回目の充電後における正極活物質層の結晶構造をXRD(X線回折)で分析した結果を示す図である。
【図6】図5におけるX線回折の角度(2θ)が11度から16度の部分を拡大して示す図である。
【図7】この発明の実施の形態に従った電池における室温での充放電前と第1回目の放電後とにおけるインピーダンス特性を示すグラフである。
【図8】この発明の実施の形態に従った電池における温度160℃での定電流充放電曲線を示すグラフである。
【図9】この発明に従った電池の詳細構造を説明するための断面図である。
【図10】この発明に従った固体電池における10サイクル毎に電流密度を変化させたときの充放電測定結果(作動温度100℃)を示す図である。
【図11】この発明に従った固体電池における充放電のサイクル数と、放電容量および効率との関係を示すグラフである。
【図12】この発明に従った電池の温度をさまざまに変えて10サイクルの充放電を行なった後の10サイクル目の充放電曲線を示すグラフである。
【図13】温度120℃における50サイクルまでの本発明に従った充放電曲線を示すグラフである。
【図14】温度160℃における50サイクルまでの本発明に従った電池における充放電曲線を示すグラフである。
【図15】本発明に従った電池における電流密度と単位面積当りの放電容量を温度100℃、120℃および160℃のそれぞれで示すグラフである。
【図16】負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてLi−In、Li2S−P2S5系固体電解質、Cu2Mo6S8を用いたサンプルにおける充放電前と第1回の放電後でのインピーダンスプロットを示すグラフである。
【図17】負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてIn、Li2S−P2S5系固体電解質、LiCoO2を用いたサンプルにおけるインピーダンスプロットを示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 電池、11,12 押圧板、21 型枠、22 固体電解質層、23 正極活物質層、24 負極活物質層、25,26 集電体、27,28 金型、31,32 シャフト、231 固体電解質、232 導電助剤、233 活物質。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電池に関し、より特定的には二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電池は、たとえば非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3に開示されている。
【非特許文献1】Y. Takeda et al., Mat. Res. Bull., 20(1985)71.
【非特許文献2】R. Kanno et al., Electrochem. Solid-State Lett., 7(2004)A455.
【非特許文献3】A. Sakuda ed al., Electrochem. Solid-State Lett., 11(2008)A1.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、固体電池では低電流密度でしか電池を作動させることができないという問題があり、高出力化が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、高出力化が可能な固体電解質を有する電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った電池は、化学式CuXMo6S8-Y(0≦X≦4、0≦Y≦0.2)で表わされる正極活物質を含む正極活物質層と、化学式Li2S−P2S5で表わされる固体電解質を含む、正極活物質層と接触する固体電解質層と、リチウムを含む、固体電解質層と接触する負極活物質層とを備える。
【0006】
このように構成された電池では、上記構成を採用することにより、高出力化が可能となる。
【0007】
好ましくは、温度100℃以上で使用される。
好ましくは、電流密度が15mA/cm2以下での電池の容量は、電流密度が15mA/cm2超での電池の容量よりも大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、この発明の実施の形態に従った電池の製造方法を説明するためのを示す図である。図1を参照して、この発明に従った電池1は、1対の金型27,28の間に配置された正極活物質層23と、固体電解質層22と、負極活物質層24とを備える。製造段階においては、正極活物質層23、固体電解質層22および負極活物質層24は型枠21で挟まれている。4対のシャフト31,32が押圧板11,12を拘束して押圧し、この圧力が金型27,28に加えられることで正極活物質層23,負極活物質層24および固体電解質層22が成形される。
【0009】
正極活物質層23はCu2Mo6と、Li2S−P2S5(Li2SとP2S5の混合物)のガラスセラミックスと、導電助剤としてのアセチレンブラックを混合して得られる。
【0010】
固体電解質層22は、Li2S−P2S5のガラスセラミックスである。負極活物質層24は、リチウム−インジウム合金により形成される。
【0011】
図2は、図1で示すこの発明に従った電池の正極活物質層を製造する方法を示す流れ図である。図2を参照して、出発材料として、Cu2Mo6S8と、Li2S−P2S5ガラスセラミックスと、アセチレンブラックとを準備する。これらの材料の割合、すなわち、Cu2Mo6S8と、Li2S−P2S5ガラスセラミックスと、アセチレンブラックとの重量比は、20:30:3とする。Cu2Mo6S8の粒径は約5μmであり、導電率は約1Scm1とする。
【0012】
図3および図4は、上記の方法で製造された、この発明に従った固体電池の容量とセル電圧との関係を示すグラフである。図3は定電流充放電曲線を示している。充放電条件は室温で電流密度は1.28mAcm2とした。なお、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層の材料は、それぞれLi−In、80mol%Li2S−20mol%P2S5ガラスセラミックス、Cu2Mo6S8とした。図3で、1サイクル目(1st)と、100サイクル目(100th)の充放電特性を示している。図4は、サイクル数と放電容量との関係を示している。図3および図4で示すように、1.28mAcm-2の電流密度下で作動し、充放電効率もほぼ100%を示した。また、100サイクル後でも110mAhg-1の容量が得られ、比較的良好なサイクル特性を示したことがわかる。
【0013】
また、図5は、充放電前、1回目の放電、1回目の充電および100回目の充電後における正極活物質層の結晶構造をXRD(X線回折)で分析した結果を示す図である。また、図6は、図5におけるX線回折の角度(2θ)が11度から16度の部分を拡大して示す図である。図5および図6で示すように、この発明に従った正極活物質層では、100サイクル後においても充放電前のXRDパターンと殆ど同じことが示されている。これは比較的良好なサイクル特性を示している。すなわち、充電後の正極活物質層の結晶構造はCu2Mo6S7.8であり、放電後の結晶構造はLi4+XCu2-YMo6S7.8であり、この充電後の構造と放電後の構造が可逆的に変化していることがわかる。
【0014】
また、図7は、この発明の実施の形態に従った電池における室温での充放電前と第1回目の放電後とにおけるインピーダンス特性を示すグラフである。図7では、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層が、それぞれLi−In、80mol%Li2S−20mol%P2S5ガラスセラミックス、Cu2Mo6S8である例を示している。第1回放電時において、新たな円弧が生じていない。その結果抵抗の変化が殆どなく、良好な電極−電解質界面が保たれていることがわかる。
【0015】
図8は、この発明の実施の形態に従った電池における温度160℃での定電流充放電曲線を示すグラフである。図8で用いた電池は負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層が、それぞれLi−In、70mol%Li2S−30mol%P2S5ガラスセラミックス、Cu2Mo6S8である例を示している。温度160℃で12.8mAcm-2の極めて高い電流密度下で充放電を行なった。その結果、10サイクル目でも270mAhg-1の大きい可逆容量を示した。これにより高性能な全固体リチウム二次電池を構築することができたことがわかる。
【0016】
図9は、この発明に従った電池の詳細構造を説明するための断面図である。図9を参照して、この発明に従った電池1では、集電体25,26の間に正極活物質層23、負極活物質層24および固体電解質層22が位置している。正極活物質層23は、活物質233と、硫化物系の固体電解質231と、導電助剤232とからなる。硫化物系の固体電解質層22はLi2S−P2S5系であり、セパレータの役割も兼ねている。負極活物質層24は、In−Li合金である。
【0017】
図9で示すように、硫化物系固体電解質(Li2S−P2S5系)と銅シュブレル(Cu2Mo6S8)活物質を組合せ、温度100℃で作動させることにより、30mA/cm2以上の極めて高い電流密度下で固体電池の作動を可能にし、高出力化を実現している。通常、液体電池では電解液の分解が生じるため、100℃以上の高温域での使用が困難であり、この特徴は本発明に従った固体電池ならではの特徴である。また、今回の結果は、液系電池と同様の高電流密度下でも固体電池が使用可能であることを示している。
【0018】
図10は、この発明に従った固体電池における10サイクル毎に電流密度を変化させたときの充放電測定結果(作動温度100℃)を示す図である。図11は、この発明に従った固体電池における充放電のサイクル数と、放電容量および効率との関係を示すグラフである。図10および図11で示すように、高温下の作動が安定していることがわかる。
【0019】
図12は、この発明に従った電池の温度をさまざまに変えて10サイクルの充放電を行なった後の10サイクル目の充放電曲線を示すグラフである。図12において、50℃、80℃、100℃、120℃は10サイクル目(それぞれ個別のセルで評価)、140℃、150℃、160℃は120℃で10サイクル測定後にそれぞれ昇温して測定した。すなわち、温度140℃では20サイクル目、150℃では30サイクル目、160℃では40サイクル目に測定した。電流密度は12.8mAcm-2とした。これにより、高温高サイクルの使用が可能であることがわかる。
【0020】
さらに本発明に従った電池を有する電池パックを車両へ搭載することを想定した場合、電池パックは以下の理由から車室外に置かれることが望ましい。
【0021】
(1) 電池パックに異常が生じた場合、電池パックが車室外に置かれていることが好ましい。
【0022】
(2) 車室内のスペースが広がる。
しかしながら、車外に電池パックを置く場合、たとえばエンジンコンパートメントなどの高温雰囲気に搭載することを考えると高温で容量を劣化せずに作動することが前提となる。
【0023】
本発明は、上述のように電池が温度100〜160の温度域で作動し、さらにこの温度範囲では殆ど容量劣化することがなく良好なサイクル特性を示す)12.8mA/cm2の高電流密度下で充放電が繰返し可能である。
【0024】
図13は、温度120℃における50サイクルまでの本発明に従った充放電曲線を示すグラフである。図14は、温度160℃における50サイクルまでの本発明に従った電池における充放電曲線を示すグラフである。図13および図14を参照して、高温下で高サイクル下においても本発明に従った電池は好ましい特性を示していることがわかる。したがって本発明に従った電池から作製した電池パックは、車室外の高温雰囲気下(たとえばエンジンコンパートメント)で使用しても長寿命である。通常の液系電池を使用する場合、電解液の分解が起こるため、高温雰囲気下に置くことは難しい。
【0025】
またエネルギ蓄電デバイス(電池やキャパシタ)は用途に応じて、高容量型と高出力型のものとが使い分けられる。また、高容量・高出力のいずれもが必要である場合には、2種類以上のエネルギ蓄電デバイスが必要とされるケースもある。この場合ハイブリッド電源になる。
【0026】
しかしながら、2種類以上のデバイスを使用する場合には、コストがかかる。デバイスを搭載するために必要なスペースが大きくなるといった問題がある。
【0027】
本発明に従った電池は作動温度にもよるが、電流密度約15mA/cm2以下では高容量型の電池として、それ以上の電流密度下では高出力型の電池として作動させることができる。
【0028】
図15は、本発明に従った電池における電流密度と単位面積当りの放電容量を温度100℃、120℃および160℃のそれぞれで示すグラフである。図15で示すように、本発明に従った電池では、高容量型および高出力型をそれぞれの温度において使い分けることができる。そのため車両搭載を想定した場合、複数個の電池パックを搭載することなく、要求に応じて1つの電池パックで高容量および高出力を切換えることができる。高容量および高出力型のいずれとしても使用が可能なため、多種多様な用途で使用することができる。
【0029】
硫化物系固体電池(たとえばLi2S−P2S5系固体電解質)を用いた全固体電池においては、通常の液系電池で使用されるLiCoO2などを電極活物質として使用すると、最初の充電反応時に電解質と活物質が反応して界面に抵抗層が形成される。そのため内部抵抗が増加し、出力低下を招く。この抵抗層の生成を防ぐために、活物質表面を他の材料でコーティングする方法が提案される。
【0030】
しかしながら、本発明では、活物質として銅シュブレルを使用することで、表面コートなしでも抵抗層の生成を抑制することが可能となる。その結果、上述のような抵抗層の生成を低減するためのコーティングプロセスが不要となる。電池作製時の製造プロセスの単純化および必要材料(コスト)の低減に繋がる。
【0031】
図16は、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてLi−In、Li2S−P2S5系固体電解質、Cu2Mo6S8を用いたサンプルにおける充放電前と第1回の放電後でのインピーダンスプロットを示すグラフである。図16で示すように、初期充電前後でインピーダンスプロットに変化が見られない。その結果、抵抗層の形成がされていないことがわかる。
【0032】
図17は、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてIn、Li2S−P2S5系固体電解質、LiCoO2を用いたサンプルにおけるインピーダンスプロットを示すグラフである。図17で示すように、初期充電後インピーダンスプロットに抵抗層の形成を示唆する半円が観測されている。その結果、電極と電解質界面との間の反応があることがわかる。
【0033】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態に従った電池の製造方法を説明するためのを示す図である。
【図2】図1で示すこの発明に従った電池の正極活物質層を製造する方法を示す流れ図である。
【図3】上記の方法で製造された、この発明に従った固体電池の容量とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図4】上記の方法で製造された、この発明に従った固体電池の容量とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に従った電池における充放電前、1回目の放電、1回目の充電および100回目の充電後における正極活物質層の結晶構造をXRD(X線回折)で分析した結果を示す図である。
【図6】図5におけるX線回折の角度(2θ)が11度から16度の部分を拡大して示す図である。
【図7】この発明の実施の形態に従った電池における室温での充放電前と第1回目の放電後とにおけるインピーダンス特性を示すグラフである。
【図8】この発明の実施の形態に従った電池における温度160℃での定電流充放電曲線を示すグラフである。
【図9】この発明に従った電池の詳細構造を説明するための断面図である。
【図10】この発明に従った固体電池における10サイクル毎に電流密度を変化させたときの充放電測定結果(作動温度100℃)を示す図である。
【図11】この発明に従った固体電池における充放電のサイクル数と、放電容量および効率との関係を示すグラフである。
【図12】この発明に従った電池の温度をさまざまに変えて10サイクルの充放電を行なった後の10サイクル目の充放電曲線を示すグラフである。
【図13】温度120℃における50サイクルまでの本発明に従った充放電曲線を示すグラフである。
【図14】温度160℃における50サイクルまでの本発明に従った電池における充放電曲線を示すグラフである。
【図15】本発明に従った電池における電流密度と単位面積当りの放電容量を温度100℃、120℃および160℃のそれぞれで示すグラフである。
【図16】負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてLi−In、Li2S−P2S5系固体電解質、Cu2Mo6S8を用いたサンプルにおける充放電前と第1回の放電後でのインピーダンスプロットを示すグラフである。
【図17】負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層としてIn、Li2S−P2S5系固体電解質、LiCoO2を用いたサンプルにおけるインピーダンスプロットを示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 電池、11,12 押圧板、21 型枠、22 固体電解質層、23 正極活物質層、24 負極活物質層、25,26 集電体、27,28 金型、31,32 シャフト、231 固体電解質、232 導電助剤、233 活物質。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式CuXMo6S8-Y(0≦X≦4、0≦Y≦0.2)で表わされる正極活物質を含む正極活物質層と、
化学式Li2S−P2S5で表わされる固体電解質を含む、前記正極活物質層と、接触する固体電解質層と、
前記リチウムを含む、前記固体電解質層と接触する負極活物質層とを備えた、電池。
【請求項2】
温度100℃以上で使用される、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
電流密度が15mA/cm2以下での電池の容量は、電流密度が15mA/cm2超での電池の容量よりも大きい、請求項1に記載の電池。
【請求項1】
化学式CuXMo6S8-Y(0≦X≦4、0≦Y≦0.2)で表わされる正極活物質を含む正極活物質層と、
化学式Li2S−P2S5で表わされる固体電解質を含む、前記正極活物質層と、接触する固体電解質層と、
前記リチウムを含む、前記固体電解質層と接触する負極活物質層とを備えた、電池。
【請求項2】
温度100℃以上で使用される、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
電流密度が15mA/cm2以下での電池の容量は、電流密度が15mA/cm2超での電池の容量よりも大きい、請求項1に記載の電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−67504(P2010−67504A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233577(P2008−233577)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「 日本化学会第88春季年会 講演予行集I」に発表
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「 日本化学会第88春季年会 講演予行集I」に発表
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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