説明

電波吸収体及びITS/DSRC施設

【課題】本発明は、耐久性に優れ安価な電波吸収体、及びこの電波吸収体を使用するETC施設を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の電波吸収体10は、PVB又はEVA製の中間膜14を2枚のガラス板16、18によって挟み込むことにより構成される合わせガラスであり、ガラス板16の中間膜14との接触面には所定の抵抗値を有する導電膜20が形成され、ガラス板18の中間膜14との接触面には所定の抵抗値を有する導電膜22が形成されている。導電膜20、22は、透明の酸化錫(SnO)であり、CVD法によりガラス面にコーティングされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波吸収体及びETCシステムに係り、特に耐久性に優れた電波吸収体、及びこの電波吸収体が設置されたITS/DSRC施設に関する。
【背景技術】
【0002】
ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)において、路側機(路側に設置された無線装置)と車載器(車両に搭載された無線装置)の間で無線通信を行うサービスが実用化されている。この技術はDSRC(Dedicated Short Range Communication:狭域通信)と呼ばれ、ITS/DSRC施設の一例として、普及目覚しい高速道路のETC(Electronic Toll Collection)があり、ノンストップ自動料金支払いシステム)で利用されている。
【0003】
今後DSRCは、市街地における有料駐車場、ガソリンスタンド、ファーストフード店などのDSRCの適用の他、物流情報など様々な情報サービスの分野で利用されることが予想される。
【0004】
DSRCは、5.8GHzの電波を使用しているが、この電波の乱反射に起因する不要電波による機器の誤動作低減を目的に、システム周囲に不要電波を吸収するための電波吸収体が設置されている。
【0005】
高速道路のETCを例にとると、設置箇所としては、料金所のキャノピー下部、路側アンテナ構造体(ガントリーと呼ばれる構造体に取り付けられることが多い。)の下部、料金所アイランドの透明の隔壁、及び道路舗装面等である。キャノピー下部、路側アンテナ構造体の下部には、例えばカーボンを添加した発泡ポリエチレン基材の電波吸収体が使用され、また、料金アイランドの隔壁には、例えばポリカーボネート(PC)製の板材によって抵抗層を挟み込んだ構成の電波吸収体が使用されている。このアイランド隔壁は、安全性を考慮し、透明なものが求められている。更に、道路の舗装には、例えば磁性体を混入した舗装材が使用されている。
【0006】
ところで、特許文献1には、PC製の透明な板状の誘電体とこの誘電体の1つの表面に形成されている抵抗被膜とからなる電波吸収体が開示されている。この電波吸収体は、誘電体の抵抗被膜が形成されていない表面から電磁波が入射するときの入射側のインピーダンスを用いて電磁波吸収量を求め、電磁波吸収量が10dB以上となるように誘電体の厚みと抵抗被膜の面積抵抗が決定されている。
【0007】
また、特許文献2に開示された電波吸収体は、透明な誘電体である単板ガラス、或いは合わせガラスの電波入射面の反対側に抵抗膜が形成され、誘電体の表面から電磁波が入射するときの、入射側のインピーダンスを用いて求められる電磁波吸収量が10dB以上となるように誘電体の厚みが決定されている。
【0008】
更に、特許文献3には、PC、アクリル樹脂(AC)等の樹脂板を複数枚積層して構成された透明の電波吸収体が開示されている。この電波吸収体は、電波入射面である表面側から第一透明樹脂層、抵抗膜層、第二透明樹脂層、導電膜層を備え、更に、導電膜層の裏面側に、第一透明樹脂層の厚さと異なる厚さの第三透明樹脂層を備えている。
【特許文献1】特開2006−135031号公報
【特許文献2】特開2006−186725号公報
【特許文献3】特開2005−86022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、料金アイランドの隔壁に使用される、透明の遮蔽・吸収体として、特許文献1、3の如くPCを利用したものは、衝撃性には富むが、擦傷性が弱いという欠点があった。また、PCは熱膨張率が大きく、日射等で表裏面温度差が大きい場合に変形したり、温度変化による膨張収縮によりPC上に備わった導電膜層、或はPC・接着層などの剥離が発生したりする場合があった。PC板の表面に耐候コーティング処理等を施したとしても、小石等が衝突すると剥離するおそれがあり、長期にわたり透視性を保つのが難しいという問題があった。更に、電波吸収体を自立させた時の、ゆがみが大きく、特に夜間にヘッドランプが照射された時の反射映像が運転者に不快感を与えることがあった。
【0010】
一方、キャノピー下部、路側アンテナ構造体の下部に用いられている、発泡ポリエチレン基材の電波吸収体は耐候性に劣り、吸水性もあるため、PCなど樹脂製のカバー材で保護されて使用されることが多い。しかしながら、この電波吸収体も、水分の浸入を完全に避けることはできない。電波吸収体に対する水の浸入、電磁波反射体(電磁波反射体も導電膜から構成される。特に膜状の場合は電磁波反射膜といもいう)の剥離は、電波吸収性能を大きく低下させる原因になっていた。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐久性に優れ安価な電波吸収体、及びこの電波吸収体を使用するETCシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、電磁波入射面側から、導電膜付きガラス、前記ガラスより誘電率の低い樹脂シート、及び導電膜付きガラスがこの順に配置されるとともに、前記導電膜はそれぞれ前記樹脂シートに面するように配置された電磁波吸収体であって、電磁波入射面側の導電膜のシート抵抗値が他方の導電膜のシート抵抗値よりも大きく、吸収対象とする電磁波が前記電磁波入射面側の導電膜を透過し、前記他方の導電膜で反射され、反射された電磁波によって打ち消しあうように構成され、前記導電膜はそれぞれ、透視性を有し、Sn、InおよびZnからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を主成分とする膜であることを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記樹脂シートが、EVAまたはPVBであることを特徴としている。
【0014】
ここで、EVAはエチレン酢酸ビニル樹脂、PVBはポリビニルブチラールである。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、前記導電膜はいずれも、CVDによりコーティングされた酸化錫を主成分とする膜であることを特徴としている。
ここで、CVDはChemical Vapor Deposition:化学蒸着法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2又は3において、前記電磁波入射面側の導電膜付きガラスの導電膜とは反対側のガラス表面には、撥水性又は親水性の処理が施されていることを特徴としている。
【0017】
請求項5に記載のITS/DSRC施設の発明は、隣り合うITS/DSRC施設の間に請求項1、2、3又は4のうちいずれかに記載の電磁波吸収体が設置されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の電波吸収体によれば、建築分野で長期間の使用実績がある合わせガラスを基本構成としており、合わせガラスの中間膜側に、電磁波が透過する導電膜及び電磁波を反射する導電膜があるために直接雨などの水分と接触することが無く水の影響を受け難い。本構成では、樹脂シート自身を中間膜として使用しても良く、また、樹脂シートと中間膜が別の物でも良い。また、基材であるガラス自身が水分を吸収しないためにガラスを介して導電膜と水分がと接触することが無く水の影響を受け難い。また、ガラス自身の膨張係数はPCなどより低く、温度変化によるガラスの膨張収縮が少なく導電膜の剥離のおそれも非常に小さいので耐久性に優れる。また、合わせガラス化しているために、ガラス単体(ガラス1枚)より剛性が強くより膨張収縮が少なく導電膜の剥離のおそれが小さくできる。また、従来技術のような、保護カバー材を必要とせず、導電膜も透視性を有するSn、InおよびZnからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を主成分としているため、Ag系の導電膜に比べて耐擦傷性が強く耐久性に優れる。
【0019】
請求項2に記載の電波吸収体によれば、前記樹脂シートが、EVAまたはPVBであるため合わせガラス用の中間膜をそのまま使用できる。
【0020】
請求項3に記載の電波吸収体によれば、導電膜として透視性を有する酸化錫を使用し、これをCVD法によりガラスにコーティングして得るようにしたので安価な構成となる。
【0021】
請求項4に記載の電波吸収体によれば、電磁波入射面側の導電膜付きガラスの導電膜とは反対側のガラス表面に、撥水性又は親水性の処理を施しているので、透明性に優れる。透明性に優れるために、電波吸収体を通して向こう側の視界が雨天の日にも確認しやすいために安全性に優れる。また撥水性又は親水性の処理方法は、基体表面に撥水性液又は親水性液などの原料液を塗布して、加熱焼成して撥水膜又は親水性膜を作成するタイプが多いために、ガラス基体を使用するとPC基体などを使用するより、加熱焼成の条件が広く取ることができ、また原料液の選択範囲が増え、製造が簡便、低コストが期待できる。
【0022】
請求項5に記載のITS/DSRC施設によれば、本発明の電波吸収体をITS/DSRC施設の一例であるETCシステムを例に取るとETC周辺施設のキャノピー下部、路側アンテナ構造体の下部、料金所アイランドの隔壁に適用すると、従来技術では電波吸収体自身も不透明であったが、本発明の電波吸収体は、合わせガラスであるので、透光、透視性を有する。よって、この電波吸収体が設置されるETC施設によれば、料金所を明るく解放性のある空間とすることができる。更に、不燃材であるガラスで構成されているため、不燃性を具備しており、従来の施設と比較して安全性に富む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明に係る電波吸収体及びITS/DSRC施設の一例としてETCを例に取り、好ましい実施の形態について説明する。
【0024】
図1は、実施の形態に係る電波吸収体10の断面図であり、図2は、ETC施設の概略を示したもので、キャノピー13や、路側アンテナ構造体(ガントリー)12の下部に、電波吸収体10が設置されている。なお、この電波吸収体10が設置されるETC施設は路側アンテナ構造体12、キャノピー13の下部に限定されず、及び料金所アイランドの透明の隔壁等のETC施設に設置することができる。
【0025】
電波吸収体10は、図1の如くPVB又はEVA製の樹脂シートである中間膜14を2枚のガラス板16、18によって挟み込むことにより構成される合わせガラスである。ここでガラス板16は電磁波入射側のガラス板あり、ガラス板16の中間膜14との接触面には所定の抵抗値を有する導電膜(電磁波入射面側の導電膜)20が形成され、ガラス板18の中間膜14との接触面には所定の抵抗値を有する導電膜(他方の導電膜)22が形成されている。
【0026】
導電膜20のシート抵抗値は、導電膜22のシート抵抗値よりも大きく設定され、吸収対象とする電磁波が導電膜20を透過し、導電膜22で反射され、反射された電磁波によって打ち消しあうように構成されている。
【0027】
これらの導電膜20、22は、透視性を有し、Sn、InおよびZnからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を主成分とする膜であり、例えばFドープSnO2(ここで単に酸化錫ともいう)、アンチモンドープSnO2 、SnドープIn23 (ITO)、アルミドープZnO、ガリウムドープZnOなどを挙げることができる。実施の形態では、透明の酸化錫(SnO)であり、CVD法によりガラス面にコーティングされている。
【0028】
実施の形態の電波吸収体10の製造方法は、酸化錫の導電膜20、22がCVD法によりコーティングされた2枚のガラス板16、18によって中間膜14を挟み込み、これをオートクレーブにて所定の温度に加熱するとともに所定の圧力でプレスすることにより製造される。この製法は、合わせガラスの製法と基本的に同一である。
【0029】
合わせガラスのガラス板16、18としては、通常の建築用に使用されるフロートガラスが望ましい。可視透過率が高い方が一般的によいが、キャノピーの材料に使用される場合(現状ではキャノピーの下部に電波吸収体が取り付けられているが、キャノピー自身が電波吸収体である場合)等は、熱線吸収ガラス等、ガラスの電磁気特性に大きな影響を与えず、着色できるものを使用することが好ましい。
【0030】
樹脂シートである中間膜14は、建築用の合わせガラスに使われるPVB、EVA膜等が利用される。ガラス小口が露出する場合は、水の影響が少ないEVA膜の利用が適している。
【0031】
下記に実施の形態の電波吸収体10の利点を列挙する。
【0032】
〔表面がガラスであることに関して〕
・帯電し難く、帯電物による汚れが少ない。
・紫外線に対する耐久性が樹脂と比較して強い。
・燃焼しづらい。
【0033】
〔導電膜に酸化錫を使用し、酸化錫をCVD法により形成することに関して〕
・耐久性に富む。導電膜22としては、抵抗値の低い銀がより望ましいが、銀膜をガラスコーティングし合わせガラスにした場合、小口からの水分侵入に留意しなければ、膜が劣化してしまうというおそれがある。
・傷付き難い。製造上、膜付きガラスを洗浄する工程があるが、銀膜は洗浄ブラシによって簡単に傷付くため使用できない。
【0034】
なお、PETに低抵抗の酸化錫膜を形成することは一般的に困難であるが、ガラスにはCVD法によって簡単にコーティングできる。
・ITO膜による導電膜に比べ、酸化錫は原料コストが安い。またITO膜の場合、本発明で必要な抵抗値を持つ膜を形成するためには通常スパッタリング法が必要になる。CDV法はスパッタリング法に比べて形成コストが安くできる。
・特に酸化錫の薄膜をCVDで形成する場合、原料としては、四塩化錫、ジメチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジクロライド、テトラメチル錫、テトラブチル錫、ジオクチル錫ジクロライド、モノブチル錫トリクロライド、ジブチル錫ジアセテートなどを例示できる。また、酸化錫を主成分とする薄膜を成形する場合は、その導電性を向上させるために、原料中にアンチモン、フッ素の化合物を添加するのが好ましい。アンチモンの化合物としては、三塩化アンチモン、五塩化アンチモンなどを例示できる。フッ素の化合物としては、フッ化水素、トリフルオロ酢酸、ブロモトリフルオロメタンあるいはクロロジフルオロメタンなどを例示できる。酸化錫にドープされたフッ素は、酸化錫薄膜中で電荷のキャリアとなって、酸化錫の酸素と置換しながら電荷を移動させるため、導電性に優れる利点がある。
【0035】
〔導電膜をガラスに直接形成することに関して〕
構成が単純な3層構造(導電膜付きガラス−PVB−導電膜付きガラス)となり、製造が容易である。
・製造コスト的にも有利であるし、界面が少なく、耐久性的に有利である。
【0036】
これに対して特許文献3の等の電波吸収体は、複雑な9層構造(PC−接着層―膜付きPET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)−接着層−PC−接着層―膜付きPET−接着層−PC)であり、膜付きPETが非常に高価である。
【0037】
〔合わせガラスであることに関して〕
・建築用として、長い期間使われてきた実績のある構成であり、耐久性に富むことは実証されている。−20℃〜80℃のサイクル試験で、界面発泡、剥離を起こす可能性は非常に小さい。
・割れた場合でも、破片は中間膜14に接着されているため、破片が欠け落ちることは少ない。
【0038】
〔ガラスとガラスの中間層にPVB(EVA)を使用することに関して〕
・構成として、ガラス間に低誘電率材を挟むことが望ましい。PC等の板状体を使うことも考えられるが、板状体とガラスの接着が別途必要になるために、本発明のように接着層と低誘電体とを1つの材料で2つの機能を発現させるために構成が簡単になり、また、製造が容易である。
・小ロットである場合、特定厚さのPCを安価に生産するのは難しいが、PVBは各種厚さが揃っており、複数膜を重ねることで、容易に厚さ設定が可能となる。単に重ねるだけであり、工程を煩雑にすることは無い。
【0039】
〔先行技術との比較〕
実施の形態の電波吸収体10と、特許文献1及び特許文献2との違いを例に取り説明する。
【0040】
電波吸収体の構成を、表1に示す。
【0041】
ここで、抵抗膜とは導電膜20を指し、電磁波反射膜とは導電膜22を指している。
【0042】
【表1】

【0043】
比較例4、5の抵抗膜、電磁波反射膜はPET膜に構成されたものである。従って、比較例4、5ではPC,PET膜間の接着に、アクリル系接着剤を用いた。
電波吸収体の評価方法は次に示す2つの方法で行った。
【0044】
<電磁波評価1:表面反射性能>
ETCの付近ではアンテナから発信された5.8GHzの電磁波が路面、構造体、車両との多重反射を生じた結果、異常通信を起こす可能性があるため、路面、構造体は電波吸収体により反射波を防止する対策が取られている。
【0045】
電磁波評価1では、伝送線路理論「橋本修著、電波吸収体入門、森北出版、1997年」により比較例、実施例の表面反射特性を評価した。これは、特定ETCレーン内での、反射低減に対する該吸収体の効果を評価するものである。ETCでは、円偏波が使用されており、具体的には次のように評価をした。
【0046】
円偏波(入射波)は、位相が90度ずれた直交した直線偏波の合成として表現できる。(右施円偏波)
【0047】
【数1】

【0048】
今、TM波,TE波の反射係数を、それぞれΓ、Γとし、次のように書く。
【0049】
【数2】

【0050】
すると、円偏波の反射波は次式で表せる。
【0051】
【数3】

【0052】
式3で、第1項が左旋円偏波、第2項は右施円偏波を示す。
【0053】
ETCのアンテナシステムを考えた場合、第1項のΓを反射係数とすれば良い。
【0054】
従って、ETCでの反射係数は式3で、
【0055】
【数4】

【0056】
となり、Γ、Γは、上記伝送線路理論より求められる。
【0057】
同文献に記載されているTYPE−Bの反射減衰量(入射角度θが0°〜47.5°の範囲で、20dB以上)で、電磁波の影響が無いと評価した。
【0058】
反射減衰量RLは
【0059】
【数5】

【0060】
で定義される値(単位dB)である。
【0061】
この値が大きいほど、反射量は小さい。また、この値が0dBの場合、完全反射を示す。
【0062】
一般的に、この反射減衰量を電波吸収量と呼ぶことが多い。
【0063】
<電磁波評価2:遮蔽性能>
電波吸収体は、裏面に何も存在しない場合は、その表面の反射減衰量(電磁波評価1)のみで、評価すれば良い。しかし、一般的に電波吸収体の裏面には、何らかの構造体が存在することが多く、電磁波吸収体を透過して該構造体からの反射される反射波を考慮する必要がある。つまり、ETCレーンの隔壁に電磁波遮蔽性能が小さい(透過性能が大きい)材料を用いた場合、電磁波はこの材料を透過し隣接レーンを走行する車両等に反射し再び当該材料を透過して該ETCレーンに入射し、電磁波の混線が起きる。また、ETCレーンが隣接する場合、一方のETCレーンの電磁波が当該材料を透過して他方のETCレーンを通過する車両の車載機に電磁波が入射することも起きる。
【0064】
従って電波吸収体には、遮蔽性能も有することも求められる。
【0065】
電磁波評価2は、上記電磁波評価1において、該電波吸収体の裏面に金属反射板を貼り付けた状態の評価であり、電波吸収体からの反射波、電波吸収体を通過し金属反射板で反射した電磁波の相互作用を測定するものである。電磁波吸収体の遮蔽性能が大きい場合、電磁波評価1と電磁波評価2の結果の差異は小さい。一方で、遮蔽性能が小さい場合、裏面に貼り付けた金属反射板の影響が強く現れ、電磁波評価2で得られた、反射減衰量RLは0dBに小さい値(完全反射に近い)となる。
【0066】
電磁波評価2でも、反射減衰量(入射角度θが0°〜47.5°の範囲)で、20dB以上で、電磁波の影響が無いと評価する。
【0067】
(実施例の場合)
実施例の電磁波吸収体に対して、5.8GHzの電磁波を、入射角度を変えて電磁波評価1、電磁波評価2を行った。結果を図3に示す。また縦軸は反射減衰量(電波吸収量)を表す。入射角度0度で比較すると、電磁波評価1では24dB、電磁波評価2では22dBの値である。電磁波評価1、2ともに入射角度θが0°〜47.5°の範囲で、20dB以上を満たしており、特定のレーン、特定のレーンの隣のレーンにおいても電磁波の影響はないことを表す。また、実施例は金属性の構造体に設置した場合も、その影響を受けず、吸収体としての性能を発揮し得ることを示している。なお、図3、4、5、6中に記載された評価1、評価2は電磁波評価1、電磁波評価2を表す。
【0068】
(比較例1、2の場合)
実施例と同様に比較例1、2も評価した。結果を図4に示す。
【0069】
比較例2は、電磁波評価1でも性能は15dB程度と小さく、ETCシステムに使うことは難しい。比較例1は、電磁波評価1では入射角度θが0°〜47.5°の範囲で、20dB以上を満たしているが、電磁波評価2では、電磁波評価2では両者ほぼ0dBである(比較例2の電磁波評価2は、グラフが重なり見えないが、ほぼ0dBである)。つまり、比較例1は特定のETCレーン内のみでの利用では効果を期待できるが、隣接するETCレーンでは、特定のETCレーンから出された電磁波が電波吸収体を透過し影響を受けることを示す。また、比較例1の背後に金属製の構造体など反射が大きいものある場合、その影響を強く受けるため、特例ETCレーン内での利用も難しいものとなる。
【0070】
(比較例3の場合)
実施例と同様に比較例3も評価した。結果を図5に示す。
【0071】
比較例3はガラス単体であるが、電磁波評価1では、入射角度0度で良好な性能を有するが、電磁波評価2では測定した角度でほぼ0dBであり、隣のETCレーンの影響をうけるもことを示す。また、ここでは抵抗膜は無い構造であるが、特許文献2に記載されている抵抗値10Ω/□のように抵抗値が非常に大きい膜が付いたガラス板も同様な結果を示すと考えられえる。
【0072】
(比較例4、5の場合)
同様に比較例4、5も評価した。結果を図6に示す。
比較例4は特許文献3に記載のPC積層材(特許文献3の表1の実施例に相当)である。電磁波評価1、電磁波評価2の値がほぼ同じで、入射角度θが0°〜47.5°の範囲で20dB以上であり、電磁波評価のみでは本願の発明に類似するが、後述する総合耐久性が悪く、ECT用の電磁波吸収体には適さない。
【0073】
また、実施例と比較例4の構成を比較すると、ガラスの比誘電率は、ε=7−j0.1、一方、PCの誘電率はε=2.75−j0.01と大きいために、誘電率が高い媒質を伝播する電波の波長は圧縮されるため、実施例は比較例4と比較して、厚さが薄い吸収体とすることができ、狭いETCアイランド上に設置する隔壁としてより好ましい形態である。また、PC材で、仮に実施例と同厚にした構成のものを比較例5とすると、比較例5では、電磁波吸収特性は整合せず、表面での反射が大となるため、反射減衰量も小さくなる。
【0074】
本発明の必須の構成であるガラスを用いた薄い電波吸収体は、取り付け上の納まりなどの制約を受けることも、少なくて望ましい形態である。
【0075】
実施例、比較例1〜5の測定結果と後述する耐久性総合評価を示す。
【0076】
【表2】

【0077】
− は評価を行っていないことを表す。
【0078】
表2に記載の比較例1、2は特許文献1記載の表3の構成、比較例3は特許文献2の構成であり、特許文献1、2の構成では隣のETCレーンへの影響を防ぐことができない。
【0079】
(耐久性総合評価)
電波吸収体としての電磁波評価1、2で合格であった実施例、比較例4、6について、次に示す耐候性試験、耐擦傷性試験を行った。
【0080】
評価1)耐候性試験として、サンシャインカーボンアーク 耐候試験機(ウェザーメーター) 2000hrでの耐候性試験後の目視評価。外観変化無いことが問題無しとした。
【0081】
評価2)耐候性試験として、60℃95% 90日での耐候性試験後の目視評価。外観変化無いことが問題無しとした。
【0082】
評価3)耐候性試験として、冷熱サイクル −20℃→80℃(95%) 2サイクル/日 90日での目視評価。外観変化無いことが問題無しとした。
【0083】
評価4)耐擦傷性試験として、テーバー磨耗試験(JIS K7204) 500g載荷 500回後のHaze値による評価としてシングルビーム法でHaze評価を行った。Hazeが3以下が問題無いとした。
【0084】
評価5)耐擦傷性試験として、抵抗膜、電磁波反射膜(導電膜)の洗浄試験として、ガラス上に酸化錫を20Ω/□コーティングした基板と、比較としてガラス上にAg膜を20Ω/□コーティングした基板で通常の建築用合わせガラスの製造ラインで試作を行い、ガラス洗浄工程での電磁波反射膜の傷つきの程度を目し評価した。外観変化無いことが問題無しとした。
【0085】
工程は、ガラス洗浄⇒ 中間膜積層 ⇒予備加熱 ⇒オートクレーブである。
【0086】
総合評価)評価1〜4の結果、すべて問題無いものを○とした。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
PCを使った比較例4では、紫外線の影響により、評価1で黄変を強く認めた。また、傷つき易さの評価である評価4でも、実験前後で大きなHazeの変化が認められた。PC材は、耐候グレードの表面処理をした材料もあるが、自動車の多く通る環境では、表面保護材が欠落し、紫外線の影響を受けてしまう可能性が強い。
【0089】
また、比較例4では電磁波反射材料としてAgを用いた。Agは耐湿性に劣るため、実験1、2、3では端面から侵入した水分で、変色が認められた。
【0090】
また、評価5では、ガラス上にAg膜を20Ω/□コーティングした基板で製造工程上必要なガラス洗浄工程で多くの傷が抵抗膜面に認められた。Ag膜を用いているために、ガラス洗浄工程をもつ製造工程には不向きであり、実施例のように酸化錫膜を用いたものは、酸化錫膜は耐擦傷があり、特に製造ラインに対策を講ずることなく、通常の合わせガラス製造ラインで製造をすることが可能であるという点をもつ。
【0091】
これらより、実施例では、各評価で異常が認められず、屋外環境での利用にも適し、また通常の製造ラインを用いて製造できるために簡易に製造することができる。
【0092】
また、電磁波吸収体の導電膜20とPVB中間膜の設計例を図7に示す。
【0093】
ガラス板16の厚さ、中間膜14(樹脂シート)であるPVBの厚さ、導電膜20の抵抗値の3つの値は、電磁波を低減させるできる3つ値で相関がある。しかし、合わせガラス化する際に力が掛かるためにガラスはそれぞれ3mm以上の厚さが必要である。また、2枚のガラスを使うために、合わせガラスは重量が重くなるために、軽量化のためにガラスは厚くはしたくない。このために、好適なガラス厚さは3mmとなる。また、ガラス板18の厚さは電磁波吸収に関係がないが、ガラス板16の厚さと同様に3mmである。導電膜22は電磁波を反射する機能があれば良く、抵抗値としては20Ω/□以下であれば良い。
【0094】
このために、ガラス板16、18の厚みを3mmとしたときの、PVB厚さと導電膜20の抵抗値の最適範囲を求めると、図7のグラフの線で囲まれた内側になる。縦軸の単位はmilとなっているが、milとは、1mil=0.0254mmである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施の形態に係る電波吸収体の断面図
【図2】図1に示した電波吸収体が設置されるETC施設のキャノピーを示した説明図
【図3】実施の形態の電波吸収体の入射角度に対する反射減衰量を示したグラフ
【図4】従来の形態の電波吸収体の入射角度に対する反射減衰量を示したグラフ
【図5】従来の形態の電波吸収体の入射角度に対する反射減衰量を示したグラフ
【図6】従来の形態の電波吸収体の入射角度に対する反射減衰量を示したグラフ
【図7】ガラス板厚を3mmとしたときのPVB厚さと導電膜20の抵抗値の最適範囲を示したグラフ
【符号の説明】
【0096】
10…電波吸収体、12…ガントリー、13…キャノピー、14…中間膜(樹脂シート)、16…ガラス板、18…ガラス板、20…導電膜、22…導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波入射面側から、導電膜付きガラス、前記ガラスより誘電率の低い樹脂シート、及び導電膜付きガラスがこの順に配置されるとともに、前記導電膜はそれぞれ前記樹脂シートに面するように配置された電波吸収体であって、
電磁波入射面側の導電膜のシート抵抗値が他方の導電膜のシート抵抗値よりも大きく、吸収対象とする電磁波が前記電磁波入射面側の導電膜を透過し、前記他方の導電膜で反射され、反射された電磁波によって打ち消しあうように構成され、
前記導電膜はそれぞれ、透視性を有し、Sn、InおよびZnからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を主成分とする膜であることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記樹脂シートが、EVAまたはPVBである請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記導電膜はいずれも、CVDによりコーティングされた酸化錫を主成分とする膜である請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記電磁波入射面側の導電膜付きガラスの導電膜とは反対側のガラス表面には、撥水性又は親水性の処理が施されている請求項1、2又は3のうちいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】
隣り合うITS/DSRC施設の間に請求項1、2、3又は4のうちいずれかに記載の電波吸収体が設置されたことを特徴とするETCシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−182045(P2008−182045A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14272(P2007−14272)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(599093524)旭ビルウォール株式会社 (19)
【Fターム(参考)】