説明

電流センサ、及び、電流センサアレイ

【課題】電気的特性の良い電流センサ技術を提供する。
【解決手段】被測定電流を流す導電体5を囲うように環状に配置される複数の磁性体10と、複数の磁性体10間のギャップ50,70,71の一つに、検出方向をギャップの間隔方向に沿うように配置されて、被測定電流により形成される磁界の強さを検出する検出素子13とを備えた電流センサであって、検出素子13を挟む位置の一対の第1磁性体12は、非磁性体で構成されたホルダ40によって保持され、ホルダ40は、検出素子13を取り付けた回路基板41に固定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定電流を流す導電体を囲うように環状に配置される複数の磁性体と、前記複数の磁性体間のギャップの一つに、検出方向を前記ギャップの間隔方向に沿うように配置されて、被測定電流により形成される磁界の強さを検出する検出素子とを備えた電流センサ、及び、電流センサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
導電体を介して電源と接続してある電気機器を駆動する場合、前記電源から導電体を通して電気機器に電気を流すわけであるが、その電流(電流値)を測定することは、電気機器を適切に制御する上で重要なものである。
導電体の電流を測定する方法の一つとしては、導電体に電流が生じるに伴って周囲に発生する磁界を検出し、その検出値から演算して前記導電体の電流を求めるものがある。
【0003】
従来、この種の電流センサ技術としては、例えば、車両に搭載する電流センサの場合、搭載スペースの確保や低燃費化の観点から小型軽量化が望まれており、その一例品としては、単層薄板状の磁性体を「C」字形に屈曲させてコアを構成し、コアの端部間に形成されたギャップに、ホール素子からなる検出素子を配置するものがあった(例えば、特許文献1参照)。
また、単層薄板状の磁性体を用いることによる問題点として、磁束が流れる経路の面積が小さいから磁性体が磁束飽和し易くなり、電流センサの電気的特性が悪化する(例えばリニアリティが低下する)点が上げられる。これを緩和するために、従来の電流センサにおいては、コアにおけるギャップから離間する部分の幅寸法を、ギャップに対向する部分の幅寸法より大きくして、充分な磁束をコア断面内に確保できるようにしてあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−233013号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の電流センサ技術によれば、ギャップ内でのコアと検出素子との相対的な位置関係が変化しやすく、特に、温度変化の激しい設置環境においては各部材の熱膨張等の影響が加わって、更にその傾向が強くなり、その結果、センサー感度の低下や応答性の低下等の電気的特性の悪化を来し易い問題点があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、電気的特性の良い電流センサ技術を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴構成は、被測定電流を流す導電体を囲うように環状に配置される複数の磁性体と、
前記複数の磁性体間のギャップの一つに、検出方向を前記ギャップの間隔方向に沿うように配置されて、被測定電流により形成される磁界の強さを検出する検出素子とを備えた電流センサであって、
前記検出素子を挟む位置の一対の第1磁性体は、非磁性体で構成されたホルダによって保持され、
前記ホルダは、前記検出素子を取り付けた回路基板に固定してあるところにある。
【0008】
本発明の第1の特徴構成によれば、検出素子を挟む位置の一対の第1磁性体は、非磁性体で構成されたホルダによって保持され、ホルダは、前記検出素子を取り付けた回路基板に固定してあるから、一対の第1磁性体は、ホルダを介して回路基板上に位置決めされる一方、検出素子も回路基板上に位置決めされる。
従って、検出素子と一対の第1磁性体とは、同じ回路基板上で、予め決められた位置関係のまま保持されていることになり、前記一対の第1磁性体間のギャップ内における検出素子の位置が変化し難い。
ギャップ内での第1磁性体と検出素子との相対位置の変化に伴う、検出感度のずれについて説明すると、図4に示すように、相互の位置変化の方向によって異なった傾向があることが計算によって解る。
図4は、ギャップ幅方向をX方向とし、前記導電体の延設方向(長手方向)をZ方向とし、前記X方向とZ方向とに直交する方向をY方向として、ギャップの中央部に検出素子を配置した状態を0とし、検出素子が各X・Y・Z方向へずれた時の「位置ずれ量」と「感度のずれの割合」との関係を示している。この計算結果から見られるように、第1磁性体と検出素子との相対位置変化は、何れの方向であっても感度に影響があり、特に、X方向での相対位置変化による影響が大きい。
従って、以上の結果から、本発明の特徴構成によれば、前記一対の第1磁性体間のギャップ内における検出素子の位置が変化し難いから、それに伴って、測定感度の変動も少なく、ばらつきが少なく、感度の安定したセンサとなる。
また、このような作用効果は、環境温度の変動があっても維持することができ、センサー感度の温度特性の悪化を抑制することができる。
【0009】
本発明の第2の特徴構成は、前記第1磁性体は、インサート成形によって前記ホルダに保持されているところにある。
【0010】
本発明の第2の特徴構成によれば、圧入や接着によって一体化するのに比べて、第1磁性体と成形用樹脂との一体性がより高く、保持の信頼性も高い。従って、長期にわたって、安定したセンサー感度を得ることができる。
また、インサート成形によれば、一対の第1磁性体どうしを、一体のホルダに打ち込むことが簡単に実施できるから、電流センサの製作効率が向上し、コストダウンを図れる。
【0011】
本発明の第3の特徴構成は、前記第1磁性体の一部が、前記ホルダから露出させてあるところにある。
【0012】
本発明の第3の特徴構成によれば、前記第1磁性体の一部が、前記ホルダから露出させてあるから、前記ホルダから露出された前記第1磁性体の一部より伸びた前記第1磁性体と同一母材よりなる磁性体を有し、前記第1磁性体の一部より伸びた磁性体をインサート成型時に型に対して固定し、成型後切除することによりホルダに対する第1磁性体の位置精度が向上し、磁気回路のばらつきを抑制することができ、センサの調整範囲が狭くできると同時に調整が容易になる。さらに対となる前記第1磁性体の一部より伸びた前記第1磁性体と同一母材よりなる磁性体が同一母材よりなる、すなわち対となる前記第1磁性体は同一母材より形成され、かつ対となる第1磁性体が互いに分離されていない状態でインサート成型を行い、第1磁性体の一部より伸びた磁性体を成型後切除することにより、対となる第1磁性体の相対位置精度が向上し、さらにセンサの調整範囲が狭くできると同時に調整が容易になる。
【0013】
本発明の第4の特徴構成は、前記第1磁性体の一部が露出する前記ホルダにおける露出面部は、前記検出素子の検出方向に直交又はほぼ直交する方向に向けて構成してあるところにある。
【0014】
本発明の第4の特徴構成によれば、前記第1磁性体の一部より伸びた前記第1磁性体と同一母材よりなる磁性体を前記検出素子の検出方向に直交又はほぼ直交する方向に伸ばすことが可能であり、インサート成型後の切除時の形状ばらつきが、対となる第1磁性体間または第1と第2の磁性体間の距離を変えることがなく磁気回路のばらつきの発生を抑制でき、センサの調整範囲が狭くできると同時に調整が容易になる。
【0015】
本発明の第5の特徴構成は、前記検出素子は、検出部が、前記一対の第1磁性体の間の第1ギャップの中心に位置する状態に前記回路基板に固定してあり、
前記回路基板に対する前記ホルダの被固定部は、複数設けてあり、それら被固定部は、前記第1ギャップを中心にして対象位置に振り分けて配置してあるところにある。
【0016】
本発明の第5の特徴構成によれば、一対の第1磁性体間の中心に検出部が位置することで、検出素子のセンサー感度のずれを最小にすることができ、センサー精度の向上を図ることができる。
また、一対の第1磁性体を保持するホルダに、熱膨張や熱収縮が発生する場合であっても、複数の被固定部が、前記第1ギャップを中心にして対象位置に振り分けて配置してあるから、第1ギャップの中心においては、ホルダ内の熱歪みが打ち消し有ってキャンセルされることになり、常に、前記一対の第1磁性体間の中心に、検出素子の検出部を位置させることができる。
その結果、温度変化のある設置環境下であっても、対となる第1磁性体と検出素子の相対位置の変動が抑制され、設置環境の温度変化がある場合であっても、センサー精度の維持を図ることができる。
【0017】
本発明の第6の特徴構成は、請求項1〜5に記載の電流センサの複数を、一つの回路基板に、前記ギャップの間隔方向に間隔をあけて個別に固定してあるところにある。
【0018】
本発明の第6の特徴構成によれば、複数の電流センサを、一つの回路基板に固定してあるから、全体をまとめて取り扱うことができ、設置性の向上を図れる一方、各電流センサは、間隔をあけて個別に固定されているから、複数のホルダを一体化し、各検出素子近傍でホルダを回路基板に固定する場合に比較して、環境温度が変化したときのホルダと回路基板の線膨張率差による応力が抑制される。逆に複数のホルダを一体化したものを回路基板の狭い領域のみで固定すると、環境温度が変化したときの回路基板とホルダの線膨張率差に起因する検出素子と第1磁性体の相対位置の変動が抑制され、環境温度変化に対して各電流センサのセンサー精度の維持を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電流センサを模式的に示した斜視図
【図2】電流センサを導電体の延設方向から見た説明図
【図3】被測定電流と磁束との関係を示す図
【図4】ギャップ内での検出素子の位置変化と検出感度のずれを示す図
【図5】電流センサを導電体の延設方向から見た説明図
【図6】ホルダを模式的に示した斜視図
【図7】ホルダの成形状況を示す斜視図
【図8】複数の電流センサを備えた電流センサアレイの例を示す導電体の延設方向から見た説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る電流センサ1に関して説明する。
電流センサ1は、導電体5に流れる被測定電流を測定することが可能なように構成されている。ここで、導電体5に電流が流れる場合には、当該電流の大きさに応じて導電体5を軸心として磁界が発生し(アンペアの法則)、磁界により磁束が発生する。
本電流センサ1は、このような磁束の密度を検出し、検出された磁束密度に基づいて導電体5に流れる電流(電流値)を測定する。図1には本実施形態に係る電流センサ1の斜視図が示される。図1には、導電体5が示されるが、当該導電体5が延設される方向(長手方向)を、ここでは便宜上、延設方向Zという。図2には、導電体5の延設方向Z視における電流センサ1を模式的に示した図が示される。以下に図1及び図2を用いて説明する。
【0021】
電流センサ1は、被測定電流を流す導電体5を囲うように環状に配置される複数の磁性体10と、前記複数の磁性体10間のギャップの一つに、検出方向を前記ギャップの間隔方向に沿うように配置されて、被測定電流により形成される磁界の強さを検出する検出素子13とを備えて構成してある。
因みに、当該実施形態においては、前記磁性体10は、周部磁性体11と、前記検出素子13を挟む位置に配置された一対の第1磁性体12とを備えて構成されている。
【0022】
周部磁性体11は、金属磁性体からなる単層平板で構成される。金属磁性体とは、金属製の磁性体であり、電磁鋼板(珪素鋼板)やパーマロイが相当する。このような磁性体として、特性及び入手性の良い方向性電磁鋼板を用いることが可能である。もちろん、入手性や板厚の種類が豊富な等方性電磁鋼板を用いることも可能である。
単層平板とは、少なくとも複数の層を有さずに(積層されずに)構成されたものを示す。このような単層平板の厚さとして、0.25mmから0.7mmのものを用いると好適であり、0.5mm±10%以内のものであると更に好適である。
【0023】
周部磁性体11は、単層平板の一端11Aと他端11Bとの間に開口部21を有するように折り曲げて形成される。単層平板の一端11Aとは単層平板の一方の端部であり、単層平板の他端11Bとは単層平板の他方の端部である。図1において符号11A及び11Bを付して示される。
折り曲げて形成されるとは、とがった角部を有するように折り曲げて形成されることに限定されるものではなく、角部が丸みを有するように形成されることも含む。周部磁性体11は、このような単層平板の所定の部位で折り曲げられ、一端11Aと他端11Bとで開口部21を有するように形成される。本実施形態では、周部磁性体11は、単層平板を2箇所で折り曲げて形成され、図2に示される延設方向Z視において、「コ」文字形状の角部が丸くされた形状、すなわち「U」文字形状の底部が平坦とされた形状で構成される。
【0024】
また、周部磁性体11は、開口部21の開口底部22の板幅が、一端11A側及び他端11B側の板幅よりも広く設定される。開口部21の開口底部22とは、開口部21の奥側に相当する。板幅とは、単層平板で構成される周部磁性体11の幅であり、本実施形態では図1における前記延設方向Zの長さが相当する。
開口底部22での板幅は、符号H1を付して示される。また、一端11A側及び他端11B側とは、開口底部22よりも一端11A及び他端11Bに近い側である。一端11A側及び他端11B側の板幅は、夫々符号H2を付して示される。
本実施形態に係る周部磁性体11は、板幅H1が板幅H2よりも広くなるように構成される。このように板幅を広く設定するのは、周部磁性体11において、開口部21の反対側に位置する部分の幅が最大になるように構成すると好適である。
【0025】
ここで、図3には、開口底部22の板幅H1が狭い周部磁性体11を用いた場合の被測定電流と周部磁性体11を通る磁束との関係、及び、開口底部22の板幅H1が広い周部磁性体11を用いた場合の被測定電流と周部磁性体11を通る磁束との関係が示される。
開口底部22の板幅H1が狭い周部磁性体11を用いた場合には、I1〔アンペア〕で磁束が飽和している状態が示される。このため、電流センサ1の検出特性におけるリニアリティのある領域での検出は、被測定電流がI1〔アンペア〕以下であることが好ましい。すなわち、I1〔アンペア〕より大きい電流の測定を精度良く行うことは容易ではない。
一方、開口底部22の板幅H1が広い周部磁性体11を用いた場合には、被測定電流が、I1〔アンペア〕より大きいI2〔アンペア〕まで磁束が飽和していない状態が示される。このため、この例においては、I2〔アンペア〕まで精度良く測定することが可能である。
このように、周部磁性体11における、開口底部22の板幅H1を広くすることは、被測定電流を測定する際の電流センサ1の検出特性におけるリニアリティを向上することができるので、被測定電流を精度良く測定することが可能な広い測定レンジの電流センサ1を構成することが可能となる。
【0026】
因みに、本実施形態においては、図5に示すように、前記周部磁性体11と、導電体5とは、非磁性体(例えば、合成樹脂)よりなる筺体30によって一体にまとめられている。この筺体30によって周部磁性体11と導電体5との相対位置関係を一定に維持することが可能となっている。
【0027】
前記第1磁性体12は、図1、図2に示すとおり、前記検出素子13を挟んだ一方の第1磁性体12Aと、他方の第1磁性体12Bとで構成してあり、これら一対の第1磁性体12A、12Bの間には、第1ギャップ50が形成されている。
この第1ギャップ50は、ギャップ幅方向が、開口部21の開口幅方向と一致するように配置される。開口部21の開口幅方向とは、開口部21の幅に沿った方向であり、本実施形態では図1における延設方向Zと直交する方向が相当する。以下の説明ではこの方向をギャップの幅方向Xとして説明する。
【0028】
また、本実施形態では、図2に示されるように、一方の第1磁性体12A、及び、他方の第1磁性体12Bは、それぞれ周部磁性体11の一端11A、及び、他端11Bと離間して配置される。したがって、周部磁性体11の一端11Aと一方の第1磁性体12Aとの間にはギャップ70を有し、周部磁性体11の他端11Bと他方の第1磁性体12Bとの間にはギャップ71を有する。
【0029】
本実施形態における一対の第1磁性体12は、単層平板の金属磁性体から構成される。単層平板の金属磁性体とは、上述の周部磁性体11と同様に、単層の平板からなる金属製の磁性体であり、電磁鋼板(珪素鋼板)やパーマロイが相当する。もちろん、方向性電磁鋼板であっても良いし、等方性電磁鋼板であっても良い。
【0030】
また、一対の第1磁性体12は、図5に示すように、非磁性体で構成されたホルダ40によって保持され、前記ホルダ40は、前記検出素子13を取り付けた回路基板41に固定してある。
【0031】
前記ホルダ40は、合成樹脂によって構成してあり、一対の第1磁性体12を、インサート成形によって一体に鋳込んで形成してある。外形は、図6に示すように、「+」字形で高さを備えたブロック状に成形してあり、「+」形状の中心を含む中央領域には、前記検出素子13を位置させる穴40aが形成してある。穴40aの貫通方向は、前記第1磁性体12の厚み方向に沿う。便宜上、前記第1磁性体12の厚み方向に沿う方向をY方向という(図1、図2参照)。Y方向は、前記ギャップの幅方向X、及び、導電体の延設方向Zと直交関係にある。
前記穴40aの中心は、図5に示すように、埋めこまれた一対の第1磁性体12間の第1ギャップ50の中心と一致するように形成してあり、且つ、その中心に前記検出素子13の検出部13aが位置するように、前記ホルダ40と検出素子13とは前記回路基板41に固定されている。
前記回路基板41へのホルダ40の固定は、例えば、係合や嵌合や螺合や接着やカシメ等の手法によって固定することができる。
因みに、前記回路基板41に対する前記ホルダ40の被固定部40bは、「+」形状の各辺に一個所ずつ、合計4個所設けてあり(図7(b)参照)、各被固定部40bは、前記穴40aの中心をセンターとした等距離の位置に振り分けて配置してある。この被固定部40bの配置によれば、例えば、環境温度の変動に伴ってホルダ40に熱変形が発生しても、被固定部40bから等距離の位置にあるホルダ中心では夫々の変形量が打ち消し合うから、実質的に変位することが無くなる。その結果、検出素子13と第1磁性体12との相対位置関係を保ち、検出制度の維持を図ることができる。
【0032】
また、ホルダ40の成形時には、図6、図7に示すように、前記第1磁性体12の一部が、前記ホルダ40の周面に暴露されるように形成してあり、樹脂製のホルダ40と金属製の第1磁性体12とが、同様の温度環境に暴露できるように構成されている。
また、ホルダ40は、第1磁性体12の一部が露出するホルダ40における露出面部40cが、前記検出素子13の検出方向に直交又はほぼ直交する方向に向くように形成してある。具体的には、前記露出面部40cは、前記導電体の延出方向Zに向けてある。
【0033】
以上のホルダ40の製作方法の一例を説明すると、図7(a)に示すように、予め、一対の第1磁性体12となる部分を備えた環状のインサート材Kを用意しておき、このインサート材Kの内の、前記一対の第1磁性体12となる部分にのみ樹脂が鋳込まれるようにインサート成形を実施し、脱型後、樹脂部から露出したインサート材Kの部分を切断することで、図7(b)に示すように、ホルダ40の前記露出面部40cに第1磁性体12の切断端部が露出した状態の成形品が形成できる。
更には、一対の第1磁性体12どうしの相対位置関係を維持したままインサート成形を実施できるから、高い部品精度を得ることができる。
【0034】
また、前記回路基板41は、前記筺体30に取り付けてあり、導電体5を囲う状態での前記周部磁性体11、第1磁性体12、検出素子13の各位置を規定している。
【0035】
前記導電体5に電流が流れると導電体5を中心に磁界が発生する。このような磁界が発生している所定の位置に一対の第1磁性体12を配置していることから、一方の第1磁性体12Aと他方の第1磁性体12Bとの間の第1ギャップ50は、磁束の通り道になる。磁束が通る方向は電流の向きに応じて決まる。このような磁束密度(磁界の強さ)を検出する前記検出素子13としては、ホール素子を用いると好適である。
ホール素子は、電流が流れている素子を当該電流に垂直な磁界中におくと、電流と磁場の両方に直交する方向に起電力が現れるホール効果を利用した素子である。したがって、検出素子13は、検出方向を第1ギャップ50の幅方向Xに沿うように配置される。これにより、第1ギャップ50に生じる磁束密度(磁界の強さ)を適切に検出することが可能となる。
【0036】
このように、本電流センサ1によれば、一対の第1磁性体12は、ホルダ40を介して回路基板41上に位置決めされる一方、検出素子13も回路基板41上に位置決めされているから、前記一対の第1磁性体間の第1ギャップ50内における検出素子の位置が変化し難く、感度のばらつきが少なく、感度の安定したセンサが可能となる。
また、インサート成形によって第1磁性体12がホルダ40に一体化してあるから、保持の信頼性が高く、長期にわたって、安定した感度を得ることができると共に、電流センサの製作効率が向上し、コストダウンを図れる。
前記第1磁性体12の一部が、前記ホルダ40から露出させてあるから、前記ホルダ40から露出された前記第1磁性体12の一部より伸びた前記第1磁性体12と同一母材よりなる磁性体を有し、前記第1磁性体12の一部より伸びた磁性体をインサート成型時に型に対して固定し、成型後切除することによりホルダに対する第1磁性体12の位置精度が向上し、磁気回路のばらつきを抑制することができ、センサの調整範囲が狭くできると同時に調整が容易になる。さらに対となる第1磁性体12において前記対となる第1磁性体12の一部より伸びた前記第1磁性体12と同一母材よりなる磁性体が同一母材よりなる、すなわち対となる前記第1磁性体12は同一母材より形成され、かつ対となる第1磁性体12が互いに分離されていない状態でインサート成型を行い、第1磁性体12の一部より伸びた磁性体を成型後切除することにより、対となる第1磁性体12の相対位置精度が向上し、さらにセンサの調整範囲が狭くできると同時に調整が容易になる。
更には、前記第一磁性体12の一部が露出する部分は、前記検出素子13の検出方向に直交又はほぼ直交する方向に向けてあるから、前記第1磁性体12の一部より伸びた前記第1磁性体12と同一母材よりなる磁性体を前記検出素子の検出方向に直交又はほぼ直交する方向に伸ばすことが可能であり、インサート成型後の切除時の形状ばらつきが、対となる第1磁性体12間または第1と第2の磁性体間の距離を変えることがなく磁気回路のばらつきの発生を抑制でき、センサの調整範囲が狭くできると同時に調整が容易になる。
また、一対の第1磁性体間の中心に検出部13aを位置させてあるから、検出素子13のセンサー感度のずれを最小にして、センサー精度の向上を図ることができる。
また、回路基板41に対するホルダ40の保持状態の工夫によって、環境温度が変化したときのホルダ40と回路基板41の線膨張率差による応力を抑制したり、環境温度が変化したときの回路基板とホルダの線膨張率差に起因する検出素子と第1磁性体の相対位置の変動が抑制され、環境温度変化に対してセンサー精度の維持を図ることができる。
【0037】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0038】
〈1〉 上記実施形態では、一対の第1磁性体12が、単層平板からなるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。一対の第1磁性体12は、単層平板以外の材料で構成することも当然に可能である。このような場合であっても、電流センサ1が有する磁性体の大部分を占める周部磁性体11を単層平板から構成することにより、小型軽量化した電流センサ1を実現することは当然に可能である。
〈2〉 上記実施形態では、周部磁性体11は、開口部21の開口底部22の板幅が、一端11A側及び他端11B側の板幅よりも広く設定されているとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。周部磁性体11を、開口端部から開口底部22まで一様な板幅で構成することも当然に可能である。
〈3〉 上記実施形態では、1本の導電体5に対して1つの電流センサ1が設けて構成された電流センサ1を例に挙げて説明した。しかし、その実施形態に限るものではなく、例えば、図8に示されるように複数の導電体5の夫々に、電流センサ1を並べて電流センサアレイ2とすることも可能である。
この場合、前記電流センサ1の複数を、一つの回路基板41に、前記第1ギャップ50の幅方向Xに間隔をあけて個別に固定すれば、複数の電流センサ1の全体をまとめて取り扱うことができ、設置性の向上を図れる一方、各電流センサ1は、間隔をあけて個別に固定されているから、回路基板と各電流センサ1の熱歪みの悪影響が、相互に伝達されないようになり、各電流センサ1のセンサー精度の維持を図ることができる。
【0039】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
1 電流センサ
2 電流センサアレイ
5 導電体
10 磁性体
12 第1磁性体
13 検出素子
13a 検出部
40 ホルダ
40b 被固定部
40c 露出面部
41 回路基板
50 第1ギャップ(ギャップ)
70 ギャップ
71 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流を流す導電体を囲うように環状に配置される複数の磁性体と、
前記複数の磁性体間のギャップの一つに、検出方向を前記ギャップの間隔方向に沿うように配置されて、被測定電流により形成される磁界の強さを検出する検出素子とを備えた電流センサであって、
前記検出素子を挟む位置の一対の第1磁性体は、非磁性体で構成されたホルダによって保持され、
前記ホルダは、前記検出素子を取り付けた回路基板に固定してある電流センサ。
【請求項2】
前記第1磁性体は、インサート成形によって前記ホルダに保持されている請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記第1磁性体の一部が、前記ホルダから露出させてある請求項1又は2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記第1磁性体の一部が露出する前記ホルダにおける露出面部は、前記検出素子の検出方向に直交又はほぼ直交する方向に向けて構成してある請求項3に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記検出素子は、検出部が、前記一対の第1磁性体の間の第1ギャップの中心に位置する状態に前記回路基板に固定してあり、
前記回路基板に対する前記ホルダの被固定部は、複数設けてあり、それら被固定部は、前記第1ギャップを中心にして対象位置に振り分けて配置してある請求項1〜4の何れか一項に記載の電流センサ。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の電流センサの複数を、一つの回路基板に、前記ギャップの間隔方向に間隔をあけて個別に固定してある電流センサアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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