説明

電流センサ

【課題】高感度な感磁素子を用いた場合においても、出力信号の線形性を確保できる測定レンジの広い電流センサを提供すること。
【解決手段】本発明の電流センサ(1)は、被測定電流からの誘導磁界(H)により出力信号を出力する感磁素子(12a,12b)を備え、感磁素子(12a,12b)は、感度軸(S1)及び当該感度軸(S1)と直交する感度影響軸(S2)を有し、感度軸(S1)が誘導磁界(H)の方向に対して所定の角度(θ)をなすように配置され、感度影響軸(S2)が前記被測定電流の通流方向及び誘導磁界(H)の方向に対して直交して配置されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定電流からの誘導磁界を介して被測定電流値を測定する電流センサに関し、例えば、検出感度を調整できる電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーなどにおけるモータ駆動技術分野では、比較的大きな電流が取り扱われるため、これら大電流を非接触で測定可能な電流センサが求められている。このような電流センサとして、被測定電流からの誘導磁界により出力信号を出力する感磁素子としてのホール素子と、被測定電流の電流値に応じて、被測定電流からの誘導磁界の方向とホール素子の感度軸(感磁面に直交する方向)とのなす角度を変化させる角度変更機構とを具備する電流検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる電流検出装置においては、ホール素子は、感度軸の方向から印加された被測定電流からの誘導磁界の磁界強度に応じた電圧(ホール電圧)信号を発生する。この電流検出装置においては、被測定電流が小電流の場合には、角度変更機構によって被測定電流からの誘導磁界の方向と感度軸とが一致するようにホール素子を回転し、被測定電流の電流値が大電流の場合には、被測定電流からの誘導磁界の方向に対して感度軸が所定の角度θをなすようにホール素子を回転する。これにより、被測定電流が大電流の場合には、ホール素子の感度軸に対して印加される誘導磁界Hの磁界強度H1がH1=H×cosθとなるので、角度θの調整によってホール素子の磁化飽和を抑制することができ、測定レンジの広い電流センサを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−59851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高感度の感磁素子においては、感度軸に対して直交する方向に検出感度に影響を及ぼす軸(以下、「感度影響軸」という)が生じる場合がある。このような高感度の感磁素子を備えた電流センサにおいては、被測定電流からの誘導磁界の方向に対して感度軸が所定の角度をなすように感磁素子を配置した場合には、感度軸の方向から印加された誘導磁界に基づく出力信号に加えて、感度影響軸の方向から印加された誘導磁界が測定精度に影響を及ぼす場合がある。例えば、感度影響軸の方向から印加された誘導磁界により、感度軸の方向の検出感度そのものが影響を受けて感度変化する場合や、感度軸影響軸の方向から印加された誘導磁界による出力信号により感度変化が生じる場合がある。このような感度変化が生じると、電流センサの出力信号の線形性を低下する要因となる場合がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高感度な感磁素子を用いた場合においても、出力信号の線形性を確保できる測定レンジの広い電流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電流センサは、被測定電流からの誘導磁界により出力信号を出力する感磁素子を備え、前記感磁素子は、感度軸及び当該感度軸と直交する感度影響軸を有し、前記感度軸が前記誘導磁界の方向に対して所定の角度をなすように配置され、前記感度影響軸が前記被測定電流の通流方向及び前記誘導磁界の方向に対して直交に配置されたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、被測定電流からの誘導磁界が感度軸に対して所定の角度をなす方向から印加されるので、感度軸の方向から印加される誘導磁界の磁界強度が小さくなる。これにより、被測定電流が大電流の場合であっても、磁気検出素子の磁気飽和を抑制できる測定レンジの広い電流センサを実現できる。また、被測定電流からの誘導磁界が感度影響軸に対して直交する方向から印加されるので、感度影響軸の方向から印加される誘導磁界に基づく感度変化が実質的にゼロとなる。これにより、感度影響軸を有する高感度な感磁素子を用いた場合においても、感度影響軸に起因する出力信号の線形性の低下を抑制できる。
【0009】
本発明の電流センサにおいては、前記感度影響軸が副感度軸であることが好ましい。この構成により、被測定電流からの誘導磁界が副感度軸の方向に対して略直交する方向から印加されるので、副感度軸の方向から印加される誘導磁界に基づく感度変化が実質的にゼロとなる。これにより、副感度軸を有する感磁素子を用いた場合においても、副感度軸に起因する出力信号の線形性の低下を抑制できる。
【0010】
本発明の電流センサにおいては、前記感磁素子がGMR素子であってもよい。
【0011】
本発明の電流センサにおいては、前記感磁素子が磁気収束板を備えたホール素子であってもよい。
【0012】
本発明の電流センサにおいては、前記感度影響軸が感度変化軸であることが好ましい。この構成により、被測定電流からの誘導磁界が感度変化軸の方向に対して略直交する方向から印加されるので、感度変化軸の方向から印加される誘導磁界に基づく感度変化が実質的にゼロとなる。これにより、感度影響軸を有する感磁素子を用いた場合においても、感度変化軸に起因する出力信号の線形性の低下を抑制できる。
【0013】
本発明の電流センサにおいては、前記感磁素子がGMR素子であってもよい。
【0014】
本発明の電流センサにおいては、前記感磁素子が一対の感磁素子であり、前記一対の感磁素子の出力信号を差動演算して前記被測定電流の電流値を算出する演算回路を備えることが好ましい。この構成により、一対の感磁素子に対して略同一方向から外部磁界が印加され、一対の感磁素子から外部磁界に基づく略同相の出力信号が出力される。このため、一対の感磁素子の出力信号を差動演算することにより、外部磁界によるノイズ成分をキャンセルすることができる。
【0015】
本発明の電流センサにおいては、切り欠き部を有する絶縁基板を備え、前記一対の感磁素子は、前記切り欠き部を挟むように前記絶縁基板に配設されており、前記切り欠き部に前記導電部材が挿入されることが好ましい。この構成により、一対の感磁素子の角度の調整及び位置合わせが容易になると共に、絶縁基板を小型化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高感度な感磁素子を用いた場合においても、出力信号の線形性を確保できる測定レンジの広い電流センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る電流センサを示す模式図である。
【図2】本実施の形態に係る電流センサの感磁素子の配置例を示す模式図である。
【図3】本実施の形態に係る電流センサの測定原理の説明図である。
【図4】本実施の形態に係る電流センサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、GMR素子などの高感度な感磁素子を用いた電流センサにおいては、被測定電流からの誘導磁界による出力信号の線形性を悪化させる要因が、感度軸と直交する方向における検出感度に影響を及ぼす軸(以下、「感度影響軸」という)にあることを見出した。例えば、GMR素子のような、感度軸と直交する方向に感度影響軸を有する感磁素子を用いた場合、単純に感度軸の方向を被測定電流からの誘導磁界(以下、単に「誘導磁界ともいう」)の方向に対して変化させた際には、感磁素子の磁化飽和を抑制できる反面、感度影響軸にも大きな磁界が印加され、その影響で感度軸の方向の感度(感度軸の方向の磁界に対する磁気抵抗変化率)そのものが変化する。また、感度影響軸の方向から印加された誘導磁界により感度影響軸に基づく出力信号が出力される場合もある。このような場合においては、電流センサの出力信号の線形性が低下する場合がある。
【0019】
本発明者は、感度軸が誘導磁界の方向に対して所定の角度をなすように配置すると共に、感度影響軸が被測定電流からの誘導磁界の方向に対して直交するように感磁素子を配置することにより、高感度な感磁素子を用いた場合であっても、被測定電流の出力信号の線形性を確保できる測定レンジの広い電流センサを実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1A、図1Bは、本発明の一実施の形態に係る電流センサ1の模式図である。図1Aは、電流センサ1の外観を示す斜視図であり、図1Bは、電流センサ1の平面図である。
【0021】
図1Aに示すように、本実施の形態に係る電流センサ1は、外周縁部から中央部に向けて切り欠き部11aが設けられた絶縁基板11と、切り欠き部11aを挟むように絶縁基板11上に対向して配設された一対の感磁素子12a,12bとを備える。絶縁基板11の切り欠き部11aには、図1AにおけるY軸方向(被測定電流Iの通流方向)に延在する平板形状の導電部材13が挿入される。このとき、絶縁基板11は、その主面が導電部材13の一対の主面と略直交するように配置される。また、絶縁基板11は、図1Bに示すように、平面視において絶縁基板11の面内方向Aと導電部材13の被測定電流Iの通流方向に直交する方向B(X軸方向)とが所定の角度θをなすように配置される(平面視において面内方向Aが方向Bに対して斜めである)。
【0022】
一対の感磁素子12a,12bは、感度軸S1及びこの感度軸S1の方向に直交する方向における感度影響軸S2を有する。本実施の形態においては、一対の感磁素子12a,12bの感度軸S1は、図1Bに示すように、絶縁基板11の面内方向Aに対して略平行であると共に、導電部材13の主面に対して略平行である。一対の感磁素子12a,12bの感度影響軸S2は、図1Aに示すように、導電部材13の主面に対して略垂直であると共に、絶縁基板11の主面に対して略平行である。すなわち、一対の感磁素子12a,12bの感度軸S1は、誘導磁界Hの方向に沿って配置され、感度影響軸S2は、誘導磁界Hの方向に直交する方向、かつ、導電部材13の主面に対して垂直に配置される(図1AにおけるZ軸方向)。
【0023】
また、本実施の形態に係る電流センサ1においては、図1Bに示すように、平面視において一対の感磁素子12a,12bは、感度軸S1が導電部材13を通流する被測定電流Iからの誘導磁界Hの方向であるX軸方向に対して所定の角度θをなすように配置されると共に、感度影響軸S2が被測定電流Iの通流方向及び誘導磁界Hの方向に対して直交するZ軸方向に沿って配置される。この構成により、詳細については後述するように、誘導磁界Hによる一対の感磁素子12a,12bの磁化飽和を抑制して測定レンジを拡大できると共に、感度影響軸S2に基づく感度変化が実質的にゼロとなるので、測定レンジが広く、出力信号の線形性が高い電流センサ1を実現することができる。
【0024】
一対の感磁素子12a,12bは、導電部材13を通流する被測定電流Iからの誘導磁界Hにより出力信号を出力する。一対の感磁素子12a,12bから出力された出力信号は、絶縁基板11上に設けられた配線パターン(不図示)を介して演算回路としての信号処理回路21(図1において不図示、図4参照)に入力される。信号処理回路21では、被測定電流Iの電流値が算出される。
【0025】
図2A,図2Bは、感磁素子12a,12bの配置例を示す模式図である。感磁素子12a,12bは、感度軸S1が誘導磁界Hの方向に対して所定の角度をなすように配置され、感度影響軸S2が誘導磁界Hの方向に対して直交するように配置されていれば特に制限はない。例えば、一対の感磁素子12a,12bは、感度軸S1及び感度影響軸S2をそれぞれ略同一方向に揃えて配置してもよく(図2A参照)、感度軸S1を略同一方向に揃えると共に、感度影響軸S2が互いに略逆方向となるように配置してもよい(図2B参照)。なお、一対の感磁素子12a,12bの感度軸S1及び感度影響軸S2の方向については、本発明の効果を奏する範囲であれば、一対の感磁素子12a,12bで完全に平行でなくても良い。
【0026】
感磁素子12a,12bとしては、被測定電流Iからの誘導磁界Hにより出力信号を出力し、感度軸S1と直交する方向に感度影響軸S2を有するものであれば特に限定されない。感磁素子12a,12bとしては、例えば、GMR(Giant Magneto Resistance)素子やTMR(Tunnel Magneto Resistance)素子などの磁気抵抗効果素子や、磁気収束板を用いて素子面内に磁界感度軸を持たせたホール素子などを用いることができる。
【0027】
感磁素子12a,12bとしては、感度軸S1に対して略直交する方向に感度影響軸S2としての副感度軸を有するものを用いてもよい。ここで、副感度軸とは、感度軸S1に対して略直交する方向からの誘導磁界Hにより感度軸S1からの出力信号に対して相対的に弱い出力信号が生じる軸、すなわち感度軸S1に対して直交する方向の磁界を検知する軸である。このような副感度軸を有する感磁素子12a,12bとしては、例えば、GMR素子や磁気収束板を備えたホール素子などが挙げられる。GMR素子の場合は、フリー層の磁化方向が回転する平面内において、感度軸S1と直交する方向が副感度軸となる。また、磁気収束板を備えたホール素子の場合は、磁気収束板の平面内において、感度軸S1と直交する方向が副感度軸となる。これらのGMR素や磁気収束板を備えたホール素子においては、副感度軸(感度影響軸S2)を被測定電流Iによる誘導磁界Hの方向に直交するように配置することにより、被測定電流Iからの誘導磁界Hによる感度影響軸S2に基づく感度変化を実質的にゼロとすることができるので、感度影響軸に起因する電流センサの出力信号の線形性の低下を抑制することができる。
【0028】
また、感磁素子12a,12bとしては、感度軸S1に対して略直交する方向に感度影響軸S2としての感度変化軸を有するものを用いてもよい。ここで、感度変化軸とは、感度軸S1の方向からの誘導磁界Hに対する磁気抵抗変化率を変化させる軸、すなわち感度軸S1の検出感度を変化させる軸である。このような感度軸変化軸を有する感磁素子12a,12bとしては、例えば、ハードバイアスを備えたGMRやTMR素子などが挙げられる。これらのハードバイアスを備えたGMR素子やTMR素子においては、ハードバイアスからのバイアス磁界をGMR素子やTMR素子に印加することにより、磁化自由層の磁化方向をPIN層の磁化方向に平行させることが容易となるので、被測定電流Iからの誘導磁界Hによる出力信号の線形性を向上することができる。また、バイアス磁界の印加によりGMR素子やTMR素子に印加される実効的な誘導磁界Hが減少するので、ヒステリシスを低減することもできる。
【0029】
感磁素子12a,12bとして、ハードバイアスを備えたGMR素子やTMR素子を用いる場合、ハードバイアスからのバイアス磁界の印加方向が、感度変化軸(感度影響軸S2)と略一致するように配設することが望ましい。この感度変化軸の方向は、誘導磁界Hの方向に直交する方向である。したがって、本実施の形態に係る電流センサ1において、ハードバイアスを備えたGMR素子やTMR素子を用いる場合には、ハードバイアスからのバイアス磁界の印加方向を感度影響軸S2と一致させることにより、バイアス磁界の印加方向に対して略直交する方向からの被測定電流Iによる誘導磁界Hが印加されることになり、バイアス磁界に対する被測定電流Iからの誘導磁界Hの影響を実質的にゼロとすることができるので、上述した出力信号の線形性の向上を実現できる。
【0030】
また、感磁素子12a、12bとしては、GMR素子やTMR素子の形状を細長くして、形状異方性を強めたGMR素子やTMR素子を用いることもできる。この場合、GMR素子及びTMR素子の長手方向が感度影響軸S2となる。このような形状異方性を有するGMR素子及びTMR素子においては、上述した感度影響軸S2としての副感度軸及び感度変化軸が共に生じる場合もある。このような場合には、被測定電流からの誘導磁界Hの方向と副感度軸及び感度変化軸とをそれぞれ略直交させることにより、感度変化軸に基づく感度軸の感度変化が実質的にゼロになると共に、副感度軸に基づく出力信号も実質的にゼロとなるので、電流センサ1の出力信号の線形性の低下を抑制できる。
【0031】
次に、本実施の形態に係る電流センサ1の測定原理について説明する。図3A〜図3Cは、電流センサ1の測定原理の説明図である。なお、図3Aにおいては、説明の便宜上、絶縁基板11を省略した斜視図を示している。また、図3B,図3Cにおいては、図3Aの上面図を模式的に示している。
【0032】
図3Aに示すように、本実施の形態に係る電流センサ1においては、一対の感磁素子12a,12bが導電部材13を挟むように対向して配置される。導電部材13を通流する被測定電流Iからの誘導磁界Hの方向は、導電部材13の被測定電流Iの通流方向(図3Aの太線の矢印参照)に対して略直交する方向(図3A〜図3Cの一点鎖線参照)となる。このため、一対の感磁素子12a,12bには、被測定電流Iの通流方向に対して略直交する方向から誘導磁界Hが印加される。
【0033】
ここで、一対の感磁素子12a,12bは、導電部材13の延在方向に対して主面が斜めに配置された絶縁基板11上に配設されているので、導電部材13の主面の面内方向において、感度軸S1が誘導磁界Hの方向に対して所定の角度θ1をなすように配置される。このため、一対の感磁素子12a,12bに対して感度軸S1の方向から印加される誘導磁界Hの磁界強度H1は、H1=H×cosθ1となる。また、一対の感磁素子12a,12bは、感度影響軸S2が誘導磁界Hの方向に対して直交するように配置されているので、感度影響軸S2の方向から印加される誘導磁界Hの磁界強度H2は、H2=H×cos90度となる。したがって、一対の感磁素子12a,12bに対して感度軸S1の方向から印加される誘導磁界Hの磁界強度H1,H2が所定の角度θ1に応じて変化すると共に(所定の角度θ1が大きくなるにしたがって誘導磁界Hの磁界強度H1,H2が小さくなる)、一対の感磁素子12a,12bから出力される出力信号のうち、感度影響軸S2の方向からの誘導磁界Hに基づく感度変化が実質的にゼロとなる。この結果、一対の感磁素子12a,12bの磁化飽和の抑制が可能となり、大電流の測定が可能となると共に、感度影響軸S2に基づく出力信号に起因する出力信号の線形性の低下を抑制できる。
【0034】
なお、図3Cに示すように、一対の感磁素子12a,12bの感度軸に直交する感度影響軸S2を絶縁基板11(導電部材13)の主面に対して平行にした場合には、感度影響軸S2の方向から印加される誘導磁界Hの磁界強度H2は、H2=H×cosθ2となる。このため、この場合には、一対の感磁素子12a,12bから出力される出力信号に、感度影響軸S2の方向からの磁界強度H2の印加の影響を受け、感度軸S1の方向の感度(感度軸S1の方向の磁界に対する磁気抵抗変化率)が変化する。このため、感度影響軸S2に基づく出力信号により、電流センサの出力信号の線形性が悪化する。
【0035】
図4は、本実施の形態に係る電流センサ1のブロック図である。図4に示す電流センサ1は、一対の感磁素子12a、12bと、それぞれの感磁素子12a、12bからの出力信号を信号処理(電流値を演算)して出力する信号処理回路(演算回路)21とから構成されている。
【0036】
感磁素子12aは、導電部材13を通流する被測定電流Iからの誘導磁界Hを検出し、検出した誘導磁界Hの磁界強度に比例した大きさとなる電圧信号が信号処理回路21に出力される。例えば、図3Bに示す場合、地磁気などの外部磁界をHαとすると、感磁素子12aから出力される電圧信号Vaは、kを比例定数として下記式(1)で示される。なお感磁素子12aの感度軸S1の方向と同じ向きの磁界は+、逆向きの磁界を−としている。
Va=k×{(H×cosθ1)−Hα} …(1)
【0037】
同様に、感磁素子12bは、導電部材13を通流する被測定電流Iからの誘導磁界Hを検出し、検出した磁界強度に比例した大きさとなる電圧信号が信号処理回路21に出力される。例えば、図3Bに示す場合、地磁気などの外部磁界をHαとすると、感磁素子12bから出力される電圧信号Vbは、kを比例定数として下記式(2)で示される。なお、感磁素子12bの感度軸S1の方向と同じ向きの磁界は+、逆向きの磁界を−としている。
Vb=k×{(−H×cosθ1)−Hα} …(2)
【0038】
信号処理回路21は、感磁素子12a、12bから出力された電圧信号Va、Vbに対して差動演算処理を行う。例えば、図2A,図2Bに示すように、感度軸S1の方向が互いに同じ向きとなるように感磁素子12a、12bが配置される場合、信号処理回路21は、感磁素子12a、12bから出力された電圧信号Va、Vbを下記式(3)に示すように減算して、導電部材13を通流する被測定電流Iの電流値を算出する。
Va−Vb=k×{(H×cosθ1)−Hα}−k×{(−H×cosθ1)−Hα}=k×2H …(3)
【0039】
上記式(3)に示されるように、電圧信号Va、Vbを減算することにより、外部磁界Bαに基づく出力信号が相殺され、被測定電流Iからの誘導磁界Hに基づく出力信号が加算される。この結果、外部磁界Hαの影響を排除でき、電流値の測定精度を向上させることができる。
【0040】
このように、本実施の形態に係る電流センサ1においては、一対の感磁素子12a,12bに対して、被測定電流Iからの誘導磁界Hが互いに略逆方向から印加され、外部磁界Hαが略同一方向から印加される。このため、一対の感磁素子12a,12bから被測定電流Iからの誘導磁界Hに基づく略逆相の出力信号が出力され、外部磁界Hαに基づく略同相の出力信号が出力される。したがって、一対の感磁素子12a,12bの出力信号を差動演算することにより、外部磁界Hαに基づくノイズ成分をキャンセルすることができる。
【0041】
以上説明したように、上記実施の形態に係る電流センサ1によれば、被測定電流Iからの誘導磁界Hの方向に対して、一対の感磁素子12a,12bの感度軸S1が所定の角度θ1をなすように配置すると共に、感度軸S1に直交する方向に生じる感度影響軸S2が略直交するように配置したことから、誘導磁界Hが感度軸S1に対しては所定の角度をなす方向から印加され、感度影響軸S2に対しては直交する方向から印加される。この構成により、感度軸S1の方向から印加される誘導磁界Hの磁界強度H1がH1=H×cosθ1になると共に、感度影響軸S2の方向から印加される誘導磁界Hが実質的にゼロとなるので、被測定電流Iが大電流の場合であっても、感磁素子12a,12bの磁気飽和を抑制できると共に、感度影響軸S2に起因する出力信号の線形性の低下を抑制できる。したがって、高感度な感磁素子12a,12bを用いた場合であっても、被測定電流Iの出力信号の線形性を確保できる測定レンジの広い電流センサを実現できる。
【0042】
また、本実施の形態に係る電流センサ1においては、一対の感磁素子12a,12bとして、GMR素子を用いた場合であっても、ハードバイアスからのバイアス磁界の方向と感度影響軸S2とを一致させることにより、バイアス磁界の方向に対して略直交する方向から被測定電流Iからの誘導磁界Hが印加されるので、バイアス磁界の方向における誘導磁界Hの影響が実質的にゼロとなる。これにより、出力信号の線形性の向上及びヒステリシスの低減を実現できる。
【0043】
さらに、本実施の形態に係る電流センサ1においては、一対の感磁素子12a,12bとして、副感度軸を有するGMR素子や磁気収束板を備えたホール素子を用いた場合であっても、感度影響軸S2を副感度軸と一致させることにより、被測定電流Iからの誘導磁界Hが副感度軸に対して直交する方向から印加されるので、副感度軸の方向から印加される誘導磁界Hに基づく感度変化が実質的にゼロとなる。これにより、副感度軸に起因する出力信号の線形性の低下を抑制できるので、副感度軸を有する感磁素子を用いた場合においても、被測定電流Iの出力信号の線形性を確保できる。
【0044】
また、本実施の形態に係る電流センサ1においては、導電部材13を挟むように一対の感磁素子12a,12bを対向して配置したので、一対の感磁素子12a,12bに対して略同一方向から外部磁界Hαが印加され、一対の感磁素子12a,12bから略同相の出力信号が出力される。このため、一対の感磁素子12a,12bの出力信号を差動演算することにより、外部磁界Hαによるノイズ成分をキャンセルすることができる。
【0045】
さらに、本実施の形態に係る電流センサ1においては、絶縁基板11上に一対の感磁素子12a,12bを配設すると共に、絶縁基板11の切り欠き部11aに導電部材13を挿入したので、一対の感磁素子12a,12bの角度の調整及び位置合わせが容易になると共に、絶縁基板11を小型化することができる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0047】
例えば、上述した実施の形態においては、感磁素子12a,12bの感度軸S1を略同一方向に揃えた例について説明したが、感磁素子12a,12bの感度軸S1は、互いに逆方向にしてもよい。この場合、信号処理回路21は、感磁素子12a、12bから出力された出力信号を加算して、電流値を算出することにより、上記同様に、外部磁界Bαに基づく出力信号が相殺され、被測定電流Iからの誘導磁界Hに基づく出力信号が加算される。この結果、外部磁界Hαの影響を排除でき、電流値の測定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、高感度な感磁素子を用いた場合であっても、出力信号の線形性を確保できる測定レンジの広い電流センサを実現できるという効果を有し、例えば、電気自動車やハイブリッドカーのモータ駆動用の電流の大きさを検知するために用いることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 電流センサ
11 絶縁基板
12a,12b 感磁素子
13 導電部材
21 信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流からの誘導磁界により出力信号を出力する感磁素子を備え、
前記感磁素子は、感度軸及び当該感度軸と直交する感度影響軸を有し、前記感度軸が前記誘導磁界の方向に対して所定の角度をなすように配置され、前記感度影響軸が前記被測定電流の通流方向及び前記誘導磁界の方向に対して直交に配置されたことを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記感度影響軸が副感度軸であることを特徴とする請求項1記載の電流センサ。
【請求項3】
前記感磁素子がGMR素子であることを特徴とする請求項2記載の電流センサ。
【請求項4】
前記感磁素子が磁気収束板を備えたホール素子であることを特徴とする請求項2記載の電流センサ。
【請求項5】
前記感度影響軸が感度変化軸であることを特徴とする請求項1記載の電流センサ。
【請求項6】
前記感磁素子がGMR素子であることを特徴とする請求項5記載の電流センサ。
【請求項7】
前記感磁素子が一対の感磁素子であり、前記一対の感磁素子の出力信号を差動演算して前記被測定電流の電流値を算出する演算回路を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項8】
切り欠き部を有する絶縁基板を備え、前記一対の感磁素子は、前記切り欠き部を挟むように前記絶縁基板に配設されており、前記切り欠き部に前記導電部材が挿入されたことを特徴とする請求項7記載の電流センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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