説明

電流或いは電力潮流を計測する方法及びシステム

【課題】 線路に流れる電力や電流の情報を獲得するに際して、電流の直接的な計測を必要とすること無く電圧の計測により、どのようなケースにも工事を伴うことなく可能にする。
【解決手段】 本発明は、線路に流れる電流或いは電力の情報を獲得する。屋内配線において電流が流れる上流側地点と下流側地点の任意の2地点間で、下流側地点に既知消費電力の負荷を接続して、この2地点で測定した電圧値からその間の抵抗値(r)を推定する。この2地点の電圧値(V,V)を計測することにより、推定された抵抗値(r)に基づき、電流の直接的な計測をすることなく、2地点間の電圧差のみによって有効電力(P)の大きさ、或いは、そこに流れる電流値を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路に流れる電流或いは電力の情報を獲得して、電流或いは電力潮流を計測する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気は使いやすく安全なエネルギーとして広く一般に用いられている。その安全性を高めるために、各種の計測器や遮断機が実用に供されている。超高圧系統は電力会社の管轄内であり、緻密な電流・電圧・電力の計測が行われているが、末端の需要家内の配線は電力会社の管理外であり、たこ足配線に代表される危険な電気の使用は、実態をつかめない状況である。省エネルギーの観点からも電力を1箇所に集中させないことが肝心である。こうした配電内の電力の流れを監視する手法として、電流、電圧計測に基づく電力計測が一般的な方法であるが、需要家内での高コストな計測は受け入れられ難いので、一部の高価な電源タップにブレーカや電流計、電力計を付けている例があるもののあまり普及していない。
【0003】
屋内配線の電流や電力を計測する場合、ホール素子を内蔵した電流クランプで電線を掴むことが可能であれば、その点の電流・電力の計測が可能となるが、建物などの構造上の理由により計測が困難な場所が多い。また、屋内配線に電流計測のためのクランプを持ち込むことは困難を伴うことになる。クランプ型以外の電流計の場合、一旦回路を切断して間に電流計を挿入する必要があるために一般には用い難い。
【0004】
このため、従来の過電流の検出は、通常CT(電流変成器)による電流変換を行っており、電流駆動型であるために電圧に変換する回路やスイッチが必要になる。電圧変換に抵抗を利用すると、常時の損失になり、また電流では過電流警報表示用のLEDを直接駆動できないために、LED駆動回路が別途必要となる。
【0005】
また、屋内配線の大元には、過電流が発生したときに作用するブレーカが備えられているのが通常である。しかし、たこ足配線は部分的な過電流であり、大元のブレーカが動作しないのに末端のごく一部が過電流になることが問題である。ブレーカ付の電源タップも知られているが、問題はパソコンなどの切れては困る電気機器が増えてきていることで、安易に切る前に警告を発する(ランプを付ける)ことが求められている。ホール素子などを使えば、過電流検出をすることは可能になるが、電源タップの中に占めるコスト比重が大きなものとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、線路に流れる電力や電流の情報を獲得するに際して、電流の直接的な計測を必要とすること無く、電圧の計測により、どのようなケースにも工事を伴うことなく可能にすることを目的としている。
【0007】
また、本発明は、電源タップに適用することにより、電源タップの電流値を、電圧の計測によって推定して、過電流時に警報表示するシステムを安価に提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電流或いは電力潮流を計測する方法及びシステムは、線路に流れる電流或いは電力の情報を獲得する。屋内配線において電流が流れる上流側地点と下流側地点の任意の2地点間で、下流側地点に既知消費電力の負荷を接続して、この2地点で測定した電圧値からその間の抵抗値(r)を推定する。この2地点の電圧値(V,V)を計測することにより、推定された抵抗値(r)及び下記式
【0009】
【数1】

【0010】
に基づき、電流の直接的な計測をすることなく、2地点間の電圧差のみによって有効電力(P)の大きさを推定し、或いは、前記抵抗値(r)及び下記式
【0011】
【数2】

【0012】
に基づき、そこに流れる電流値を推定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電圧の計測により、例えば、屋内配線のコンセントに着目してコンセント電圧を計測することにより、線路に流れる電力や電流の情報を獲得することが可能となる。電流の直接的な計測を必要としないためにどのようなケースにも工事を伴うことなく適用できる。
【0014】
また、この原理を電源タップに適用すると、電源タップの電流値を、電圧の計測によって推定可能となるため、過電流時に点灯するシステムを安価に構成できる。本発明は、電圧型で過電流を検出するもので、電圧で直接LEDを駆動できること、LEDが点灯していないときはほとんど損失がないことなどにより、回路が単純で安価、損失が少ないなど、実用上の利点がある。これによって、たこ足配線のモニタリングが可能となる。電源タップにPCなどの重要負荷が接続されている場合には、容易には電源を切ることが出来ないので、ランプによって過負荷を知らせることは有効な手段となりうる。温度変化による線路抵抗値の変化があるために、正確な値の計測には不向きであるが、電力の流れや過電流の有無のモニタリングには問題なく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
通常、交流量は大きさと位相角によって表現されるため、交流電圧の計測時には大きさだけでなく一般には位相情報も必要になる。しかしながら、本発明は、有効電力の大きさを2地点間の電圧差のみによって推定し、これを利用して、屋内配線のコンセント電圧を計測することにより、線路に流れる電力や電流の情報を獲得する。
【0016】
図1は、コンセント電圧を用いた電力潮流計算を説明する図である。図示したように、屋内配線は、受電盤より、ライン状に配置された複数の屋内配線コンセント(コンセント1〜4を例示)に配線される。例示のコンセント1が最も上流側地点にあり、以下、コンセント2,3,4の順に下流側に配置されている。本発明は、電線の両端の電圧差から有効電力を計測する。すなわち、有効電力値の場合には位相情報は必要としない。
【0017】
コンセント1とコンセント2の間を例として、電力潮流を計算する。まず、コンセント1に対して下流側に位置するコンセント2に、既知消費電力(Pk)の負荷を接続し、コンセント1とコンセント2の2地点の電圧(V,V)を計測することにより、その間の抵抗値(r)を以下の式に基づき推定する。
【0018】
【数3】

【0019】
一旦抵抗値(r)がわかれば
【0020】
【数4】

【0021】
から、2点の電圧値(V,V)を計測することにより、有効電力(P)潮流を知ることができる(その原理については、[実施例2]参照)。同様に、コンセント2と3の間、或いはコンセント3と4の間でも、図示したような有効電力潮流を知ることができる。したがって、1つのラインにつながっている全てのコンセントの電圧をモニタリングしておけば電力の流れを観測できることになる。なお、連続するコンセント間で、コンセント電圧を計測する場合を例示したが、例えば、コンセント1と、コンセント3との間のような上流側地点と下流側地点の任意の2地点間で、コンセント電圧を計測することが可能である。さらに、抵抗値(r)と、2点の電圧値(V,V)とから、そこに流れる電流値を推定し(下記[数5]参照)、過電流を検出することも可能となる。このような屋内配線の電力潮流は、例えば、GPS時刻同期電圧位相計測装置を用いて計測することができる([実施例1]参照)。
【0022】
また、本発明は、上述の原理を電源タップに適用して、過電流が流れたときに両端間の電圧が上昇することを用いて、両端間の電圧によって点灯するLED(発光ダイオード)の点灯回路を用いて、過電流時に点灯する電源タップを構成する。本発明は、電源タップに流れる電流値(I)を両端の電圧(V,V)の計測によって推定する。
【0023】
この場合の両端の電圧差は交流電圧の差なのでフェーザ量となり、
【0024】
【数5】

【0025】
で表され、電圧差は電流に比例することになり、許容電流付近で点灯する回路を設計すれば、電流値が許容値を超えたときに点灯する回路ができる。
【0026】
図2は、過電流検出手段を備えた電源タップの回路構成を例示する図である。このような電源タップは、過電流検出手段を備えたのを除いて、通常のものにすることができ、1個或いは複数個の機器接続用コンセント口を有し、かつ、このコンセント口は、商用電源コンセントに挿入して電気的に接続可能のプラグとの間で、通常に配線接続されている。プラグとコンセント口の間は2本の電線で配線されるが、この2本の電線の内のいずれか一方の両端を、図示したように変圧器の一次側に接続する。この一次側には、過電流保護装置(例えばヒューズ)を挿入しても良い。変圧器二次側には、点灯電圧調整用の抵抗及び発光ダイオードLEDを直列に接続する。
【0027】
まず、プラグとコンセント口を2地点として、その間の抵抗値を推定する。この抵抗値の推定は、上述したのと同様に、既知消費電力の負荷を接続し、プラグとコンセント口の2地点の電圧を計測することにより行うことができるが、簡単には、用いる電線(銅線)の太さ及び長さから推測することができる。プラグとコンセント口の間を配線する2本の電線(銅線)のそれぞれとして、例えば0.16mm2の電線2mが用いられると、その抵抗値は約0.02Ωとなる。これに、例えば15Aが流れると線路の両端には約300mVの電圧を発生する。LEDの動作電圧は、通常2V以上なので、変圧器により電圧を5〜10倍し、保護を兼ねた点灯電圧調整用の抵抗を2次側に接続すれば、設定電流を超えた場合にLEDが点灯する。言い換えると、LEDが点灯したことにより、所定の設定電流(過電流)を検出できたことになる。電流検出のためのホール素子や演算回路が不要な極めてシンプルで安価な装置によって過電流検出が可能になる。また、2個以上の複数個のLED及び点灯電圧調整用の抵抗を並列接続した上で、変圧器二次側に接続し、LEDが点灯する設定電流を段階的に異ならせることにより、用心段階と危険段階を表示させることもできる。
【実施例1】
【0028】
図3は、同期位相計測装置を用いた電圧及び位相の計測を説明する図である。位相計測装置(PMU:Phasor Measurement Unit)は電圧を入力とし、GPS(Global Positioning System)時刻を基準としたフェーザ演算(位相及び振幅値の計算)を行う機能を持つ。この装置の特徴としては、人工衛星からのGPS 信号(位置と時刻データ)をそれぞれの地点のアンテナで受信することによって、負荷が接続された電力ネットワークの異なる地点間の電圧と位相角の正確な同時計測を可能にしていることである。さらに、データ収集及び条件設定装置を用いて、インターネット回線を利用して離れた地点に設置された位相計測装置に相互アクセスすることができるので、収集データのダウンロード、収集条件等の各種設定の変更を、何処からでも簡単に行うことができる。したがって、この装置を複数地点のコンセントに設置することによって、電力需要の特性解析などが行える。
【0029】
図3に示すように、一つのPMUで付近の数カ所の電圧及び位相の計測を行い、また離れた地点でも別のPMUにより計測を行うことで地域間の解析を行うことが可能となる。この位相計測装置(例えば、TOSHIBA 製のNCT2000)を用いることにより、サンプリング周波数(最小:1/60 秒)に対する時刻信号の誤差は1μ秒以下にすることができる。電圧フェーザ演算は、電圧瞬時値V1〜Vnを用いて次式で定義される。
【0030】
【数6】

【0031】
N : 1 周期あたりのサンプリング数(=96)
θ : サンプリング角(2π/N = 3.75°)
フェーザ成分の実数部をVRe、虚数部をVImとすると振幅値、位相値は以下のようになる。
【0032】
【数7】

【0033】
この装置を用いた位相の測定誤差は±0.1 度以内である。
【実施例2】
【0034】
一般的な放射状配電系統の分岐点毎に計測線を接続したとき、あるノード間は、図4のように表すことが出来る。ノード間に相当する送電端(例えば、家庭用100Vのコンセント)と末端のそれぞれの電圧と位相は、同期位相計測装置により計測値を得ることができる。送電端側の電圧をV1、位相をθ1とし、末端側の電圧をV2、位相をθ2とする。また末端側に接続された負荷の有効電力、無効電力をそれぞれP、Q で表す。
【0035】
配電線には、抵抗r、リアクトルL、キャパシタンスCによる影響があるが、ノード間の静電容量分(キャパシタンスC)が無視できるほどに小さい場合について、有効電力P、無効電力Qは、以下に示すようになる。この配線中の抵抗をr 、リアクタンスをjx とした。また、送電端側の電圧、末端側の電圧をそれぞれ
【0036】
【数8】

【0037】
と表した。末端側で計測される電力を、P+jQと表した。
このとき、線電流は、
【0038】
【数9】

【0039】
で表される。これらを用いると末端側の電力は
【0040】
【数10】

【0041】
となる。上式を実数と虚数について分けると
rP+xQ=Vcos(θ2−θ1)−V
rQ−xP=Vsin(θ2−θ1
θ2−θ1が小さい場合を想定すると、cos(θ2−θ1)≒1,sin(θ2−θ1)≒θ2−θ1であるので、
rP+xQ≒V−V=V(V−V
rQ−xP≒V(θ2−θ1
通常の配電線においては、r>>xであるので、
rP≒V−V=V(V−V
rQ≒V(θ2−θ1
よって有効電力Pと無効電力Qは、
P≒V(V−V)/r
Q≒V(θ2−θ1)/r
上記の式により、有効電力P または無効電力Q を求めることが出来る(この有効電力Pについての式は、上述した(1)式に相当する。)。なお、配電線には静電容量があるために、上述のように完全には有効電力、無効電力を分離することは出来ないと考えられるが、およその特性を把握する目的には十分である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】コンセント電圧を用いた電力潮流計算を説明する図である。
【図2】過電流検出手段を備えた電源タップの回路構成を例示する図である。
【図3】同期位相計測装置を用いた電圧及び位相の計測を説明する図である。
【図4】放射状配電系統の分岐点毎に計測線を接続したときのノード間の末端側で計測される電力について説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路に流れる電流或いは電力の情報を獲得して、電流或いは電力潮流を計測する方法において、
屋内配線において電流が流れる上流側地点と下流側地点の任意の2地点間で、下流側地点に既知消費電力の負荷を接続して、この2地点で測定した電圧値からその間の抵抗値(r)を推定し、
前記2地点の電圧値(V,V)を計測することにより、前記推定された抵抗値(r)及び下記式
【数1】

に基づき、電流の直接的な計測をすることなく、2地点間の電圧差のみによって有効電力(P)の大きさを推定し、或いは、前記抵抗値(r)及び下記式
【数2】

に基づき、そこに流れる電流値を推定する、
ことから成る電流或いは電力潮流を計測する方法。
【請求項2】
線路に流れる電流或いは電力の情報を獲得して、電流或いは電力潮流を計測するシステムにおいて、
屋内配線において電流が流れる上流側地点と下流側地点の任意の2地点間で、下流側地点に既知消費電力の負荷を接続して、この2地点で測定した電圧値からその間の抵抗値(r)を推定する手段と、
前記2地点の電圧値(V,V)を計測することにより、前記推定された抵抗値(r)及び下記式
【数3】

に基づき、電流の直接的な計測をすることなく、2地点間の電圧差のみによって有効電力(P)の大きさを推定し、或いは、前記抵抗値(r)及び下記式
【数4】

に基づき、そこに流れる電流値を推定する手段と、
から成る電流或いは電力潮流を計測するシステム。
【請求項3】
前記2地点の電圧値(V,V)の計測は、屋内配線コンセントに着目して、コンセント電圧の計測により行う請求項2に記載の電流或いは電力潮流を計測するシステム。
【請求項4】
前記2地点の電圧値(V,V)の計測は、GPS時刻同期電圧位相計測装置を用いて行われる請求項2に記載の電流或いは電力潮流を計測するシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−52006(P2007−52006A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210446(P2006−210446)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【分割の表示】特願2006−143501(P2006−143501)の分割
【原出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】