説明

電源電圧保護装置、及び、電源電圧保護方法

【課題】複雑な回路構成を用いることなく、CPUやマイコン等に供給される電源電圧の状態を詳細に検出可能な電源電圧保護装置、および、電源電圧保護方法を提供する。
【解決手段】マイコン10は、CPU13と同じ電源電圧Vccが供給され、電源電圧Vccに基づいて基準電圧Vrefをデジタルデータに変換して出力するAD変換器15を備え、AD変換器15に電圧変動を含まない標準Vccが供給された場合にAD変換器15が基準電圧VrefをAD変換した第1の変換値と、AD変換器15に通常動作用の電源電圧Vccが供給された状態でAD変換器15が基準電圧VrefをAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、CPU13が通常動作用の電源電圧Vccが有する電圧変動を算出して電源電圧Vccの状態を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CPUやマイコンに供給される電源電圧の状態を検出する電源電圧保護装置、及び、電源電圧保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CPUやマイコン等に供給される電源電圧の異常低下あるいは異常上昇は、CPUやマイコン等の動作の不具合を招く可能性があるため、従来、これらの装置に供給される電源電圧の状態を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1記載の装置は、A/D変換装置に電源電圧と参照電圧とを入力し、電源電圧をもとに参照電圧をA/D変換したデータと、参照電圧をもとに電源電圧をA/D変換したデータとを比較して、電源電圧の低下を検出する。また、特許文献2記載の電源回路は、電源電圧に所定の計数を乗じた基準電圧を外部から別系統で入力された電圧と比較することで、電源電圧の低下を検出する保護処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−239769号公報
【特許文献2】特開平11−103522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の方法は、電源電圧の状態を検出するために電源電圧以外の一つの電圧を用い、この電圧と電源電圧の比較を行うものである。例えば、特許文献1記載の装置は電源電圧と参照電圧をA/D変換したデータを比較しており、特許文献2記載の回路は基準電圧と別系統の電圧とを電圧値で比較している。このように電源電圧と一つの比較対象とを用いる構成では、電源電圧が比較対象の電圧より高いか低いかのいずれか一方しか判定できないので、例えば、特許文献1、2記載の構成では電源電圧の低下を検出できるが、電源電圧が高くなる異常は検出できない。そこで、従来の方法を利用して電源電圧が高い場合と低い場合の両方の異常を検出しようとすると、比較対象の電圧を多く用いる必要があり、より多くの系統の電圧をA/D変換装置やマイコンに入力しなければならず、回路構成の複雑化と、これに伴うコスト増を招くという問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、CPUやマイコン等に供給される電源電圧の状態を詳細に検出可能な電源電圧保護装置、および、電源電圧保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を検出する電源電圧保護装置において、前記保護対象の回路部と同じ電源電圧が供給され、前記電源電圧に基づいて基準電圧をデジタルデータに変換して出力するAD変換部と、前記AD変換部に電圧変動を含まない標準電源が供給された場合に前記AD変換部が基準電圧をAD変換することで得られる第1の変換値と、前記AD変換部に通常動作用の電源電圧が供給された状態で前記AD変換部が基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧が有する電圧変動を算出して電源電圧の状態を検出する電源監視部と、を備えたことを特徴とすることを特徴とする。
本発明によれば、電圧変動を含まない標準電源が供給された場合の第1の変換値と、通常動作用の電源電圧が供給された状態で基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧の電圧変動そのものを算出することで、電源電圧と比較対象の電圧値との大小関係だけでなく、保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を詳細に検出できる。
【0006】
また、本発明は、上記電源電圧保護装置において、前記第1の変換値を記憶する記憶部を備え、前記電源監視部は、予め前記記憶部に記憶された第1の変換値と、前記AD変換部が通常動作用の電源電圧が供給された状態で基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧が有する電圧変動を算出することを特徴とする。
本発明によれば、第1の変換値を予め記憶しておき、この第1の変換値と、通常動作用の電源が供給されたAD変換部が変換して得られる第2の変換値とをもとに電圧変動を算出するので、AD変換部によって第2の変換値を求めることですぐに電圧変動を算出できる。これにより、回路構成の複雑化を招くことなく、保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を詳細に、かつ速やかに検出できる。
【0007】
また、本発明は、上記電源電圧保護装置において、前記電源監視部は、前記AD変換部の電源電圧として標準電源Vccが供給された場合に前記AD変換部が基準電圧VrefをAD変換することで得られる第1の変換値(Xref)idealと、前記AD変換部に通常動作用の電源電圧Vccが供給された状態で前記AD変換部が基準電圧VrefをAD変換して得られる第2の変換値(Xref)realとをもとに、下記式(A)で表される処理を行って、通常動作用の電源の電圧変動ΔVccを算出することを特徴とする。
ΔVcc=Vcc×[(Xref)real/(Xref)ideal−1] …(A)
本発明によれば、AD変換部が変換した2つの変換値に基づいて、処理負荷の軽い演算を行うことで電源電圧の状態を速やかに、詳細に検出できる。
また、本発明は、上記電源電圧保護装置において、前記第1の変換値は、前記AD変換部に電源電圧及び基準電圧を供給する電源回路の特性と、前記AD変換部の特性とに基づいて算出された変換値であることを特徴とする。
本発明によれば、電圧変動を含まない理想的な標準電源が供給された場合の第1の変換値を、高精度の電源回路を用いることなく容易に求めることができ、電源電圧の電圧変動を速やかに、かつ、より正確に算出できる。
【0008】
また、上記課題を解決するため、本発明は、保護対象の回路部と同じ電源電圧が供給され、前記電源電圧に基づいて基準電圧をデジタルデータに変換して出力するAD変換部を備えた電源電圧保護装置により、前記保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を検出する電源電圧保護方法であって、前記AD変換部に電圧変動を含まない標準電源が供給された状態で前記AD変換部が基準電圧をAD変換することで得られる第1の変換値と、前記AD変換部に通常動作用の電源電圧が供給された状態で前記AD変換部が基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧が有する電圧変動を算出して電源電圧の状態を検出することを特徴とする。
本発明によれば、電圧変動を含まない標準電源が供給された場合の第1の変換値と、通常動作用の電源電圧が供給された状態で基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧の電圧変動そのものを算出することで、電源電圧と比較対象の電圧値との大小関係だけでなく、電源電圧の状態を詳細に検出できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電圧変動を含まない標準電源が供給された場合の第1の変換値と、通常動作用の電源電圧が供給された状態で基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧の電圧変動そのものを算出することで、電源電圧と比較対象の電圧値との大小関係だけでなく、保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を詳細に検出できる。また、予め記憶した第1の変換値と、通常動作用の電源が供給されたAD変換部が変換して得られる第2の変換値とをもとに電圧変動を算出するので、AD変換部により第2の変換値を求めることですぐに電圧変動を算出できる。また、AD変換部が変換した2つの変換値に基づいて、処理負荷の軽い演算を行うことで電源電圧の状態を速やかに、詳細に検出できる。さらに、電圧変動を含まない理想的な標準電源が供給された場合の第1の変換値を、高精度の電源回路を用いることなく容易に求めることができ、電源電圧の電圧変動を速やかに、かつ、より正確に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態のPDU及びその周辺回路の構成を示す図である。
【図2】事前設定の手順を示すフローチャートである。
【図3】電圧計測の手順を示すフローチャートである。
【図4】電源電圧の値に対する算出値を示す図表である。
【図5】電源電圧の値に対する算出値の誤差を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図である。図中の実線は電力供給ラインを示し、破線は制御信号ラインを示す。
図1に示すハイブリッド車両は、エンジン2、モータ3及び自動変速機4を備えた駆動系により車軸を駆動して走行する車両であり、モータ3は、PDU5を介してバッテリ6に接続されている。
モータ3は、後述するPDU5から供給される三相交流電流により駆動される電動機である。モータ3の出力軸はエンジン2のクランク軸に連結され、モータ3の動力によりエンジン2が始動され、走行中はエンジン2の駆動力がアシストされる。また、モータ3は、減速時等にはクランクシャフトの回転エネルギーを電気エネルギーに回生する発電機として機能し、モータ3が発電した電力はPDU5によってバッテリ6に充電される。
自動変速機4は、ECU20による油圧の制御により、複数のシンクロクラッチが駆動されることにより変速動作が制御されるものであり、エンジン2及びモータ3の駆動力は、自動変速機4から左右の駆動輪に伝達される。
【0012】
PDU5は、バッテリ6からの直流電力を交流電力に変換するインバータ8と、モータ3が発電した交流電力を変圧及び整流して所定電圧の直流電力に変換し、この直流電力によりバッテリ6を充電する充電回路9と、この車両が搭載するECU20の制御に従って、インバータ8及び充電回路9を制御するマイコン10と、マイコン10に電源を供給する電源回路25と、を備えている。
インバータ8は、マイコン10の制御に従ってバッテリ6からの直流電力をU,V,Wの3相交流電力に変換するスイッチング電源回路を内蔵し、この構成によりモータ3の出力がマイコン10によってPWM制御される。
また、充電回路9は、モータ3が発電した電力を整流及び変圧してバッテリ6に直流電力を出力し、バッテリ6を充電する。
【0013】
バッテリ6は、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の二次電池を、直列及び/又は並列に複数個接続して構成され、各二次電池の両端電圧を検出して各二次電池のバランス異常、過放電、過充電等を検出する保護回路等を備えている。
バッテリ6には、バッテリ6が放電する直流電力の電圧を変換するDC/DCコンバータ7が接続されている。DC/DCコンバータ7によって、例えばバッテリ6が出力する100Vの直流電力が12Vに降圧されて、車両の制御機器および補機類に供給される。PDU5が備えるマイコン10にも、DC/DCコンバータ7から電源が供給される。
【0014】
マイコン10(電源電圧保護装置)は、マイコン10が制御を行うために監視するアナログ電圧値をデジタルデータに変換して出力するAD変換器15(AD変換部)と、AD変換器15が出力するデジタルデータに基づいてインバータ8及び充電回路9を制御するCPU13(電源監視部)と、CPU13が処理するデータ等を記憶するメモリ11(記憶部)と、を備えている。また、マイコン10には、マイコン10とともにPDU5の基板に実装された電源回路25が接続され、この電源回路25からマイコン10に対し、電源電圧Vcc及び基準電圧Vrefが供給される。マイコン10のCPU13及びAD変換器15は、電源回路25から供給される電源電圧Vccにより動作し、AD変換器15は、電源回路25から入力される基準電圧Vrefを基準として後述するAD変換を行う。なお、以下の説明においては、あくまで一例として、AD変換器15の分解能を10ビットとして説明する。
CPU13は、AD変換器15から入力されるデジタルデータに基づいて、電源回路25からCPU13及びAD変換器15に供給される電源電圧Vccの状態を検出し、電源電圧Vccが所定の範囲を超えて高い場合および低い場合には、マイコン10を保護するための動作を行う。
【0015】
CPU13がインバータ8及び充電回路9を制御するために監視する電圧値は、バッテリ6からインバータ8へ入力される入力電圧や、モータ3が発電した電力に基づく充電回路9の出力電圧等である。マイコン10には、図1に示すように、これらの電圧値が入力電圧Vinとして入力され、AD変換器15は入力電圧Vinを量子化し、デジタルデータとして出力する。なお、マイコン10に入力される入力電圧Vinは、監視対象であるバッテリ6からインバータ8へ入力される入力電圧や、モータ3が発電した電力に基づく充電回路9の出力電圧そのものではない。これらの監視対象の電圧は、マイコン10の外部に設けられた分圧回路(図示略)によってマイコン10の定格範囲に合わせた電圧値に分圧されてから、入力電圧Vinとしてマイコン10に入力される。
【0016】
バッテリ6にはDC/DCコンバータ7が接続されており、このDC/DCコンバータ7によって、バッテリ6に充電された電力が、例えば14Vの直流電圧に降圧されて車両の各部に供給される。PDU5が備える電源回路25は、DC/DCコンバータ7から入力される直流電圧を平滑・変圧して、電源電圧Vcc及び基準電圧Vrefを生成する。
【0017】
ところで、バッテリ6が出力する電圧は、バッテリ6の残容量、バッテリ6の経時変化、負荷変動、及び、バッテリ6の温度等により変動する。バッテリ6に対する負荷変動は、モータ3の動作状態(モータ3がエネルギーを回生して発電しているか、バッテリ6の電力により車両を駆動しているか)の変化や、上記車両が搭載するカーエアコンのブロアファン等、補機類の動作状態の変化により発生する。バッテリ6の温度は、充放電時に高温となるほか車両の周辺環境の温度変化にも影響され、例えば寒冷期のコールドスタート時はバッテリ6の温度が氷点下となることもあり、高温時には摂氏60度に達する可能性もある。バッテリ6は、上述のようにニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の二次電池を備え、一般に、これらの二次電池は高温時に充放電効率が低下する。このため、バッテリ6から放電される電圧はバッテリ6の温度の影響により変動しやすい。
このように、バッテリ6が放電する電圧は車両という使用条件の特性から変動しやすく、DC/DCコンバータ7を介してバッテリ6から電力の供給を受ける電源回路25の電源電圧Vccも、上記の要因により変動する。
そこで、本実施形態では、CPU13に入力される電源電圧Vccの変動から、保護対象であるCPU13、及び、CPU13を含むマイコン10を保護すべく、CPU13と同じ電源電圧が供給されるAD変換器15が出力するデジタルデータと、メモリ11に記憶したデータとをもとに、CPU13自身が電源監視部として機能し、電源回路25から供給される電源電圧Vccの変動を監視する。
以下、その方法について説明する。
【0018】
AD変換器15に入力される計測対象の電圧を入力電圧Vin、AD変換器15に入力される電源電圧Vccの変動分を電圧変動ΔVccとする。AD変換器15の分解能は上記の通り10bitとする。AD変換器15は電源電圧Vccをフルスケールとして10bitで入力電圧Vinをデジタルデータに変換し、AD変換値Xを出力する。このAD変換値Xは、下記式(1)´により表される。
X=Vin×[2^10/Vcc] …(1)´
例えば、電源回路25からCPU13及びAD変換器15に対して+5[V]の電源電圧Vccが供給され、電源電圧Vccの電圧変動ΔVccが±2%であり、AD変換器15に入力される入力電圧Vinが+3[V]の場合を想定する。
電圧変動ΔVccが無いと仮定した場合の入力電圧VinのAD変換値Xは、上記式(1)´´を用いて以下のように614LSBと求められる。
X=3×[2^10/5]=614LSB
2%の電圧変動ΔVccは0.1[V]に相当する。このため、実際に供給される通常動作用の電源電圧Vccは4.9〜5.1[V]となる。電源電圧Vccが最も高い場合および最も低い場合のAD変換値Xは、上記式(1)´を用いて以下のように求められる。
X=3×[2^10/5.1]=602LSB
X=3×[2^10/4.9]=626LSB
602〜626LSBは614LSBの±2%に相当する。このように、電源電圧Vccの変動に伴ってAD変換値も変動し、その変動は一次線形である。そこで、本実施形態では、AD変換器15のAD変換値Xの変動をもとに電圧変動ΔVccを求める。
【0019】
上記式(1)´中の電源電圧Vccが通常動作用に供給される電源である場合、電圧変動ΔVccを含むので、Vcc+ΔVccと表すことができ、これに基づき上記式(1)´を変形すると、AD変換値Xは下記式(1)で表される。
X=Vin×[2^10/(Vcc+ΔVcc)] …(1)
なお、ΔVccは正の値と負の値のどちらでも取り得る値である。
【0020】
マイコン10においては、事前の設定として、電圧変動ΔVccが無い理想的な電源電圧Vccである標準Vcc(標準電源電圧)をAD変換器15に供給した場合に、AD変換器15が基準電圧Vrefを計測したAD変換値X(これを(Xref)idealとする)が、メモリ11に記憶されている。
(Xref)idealは、実際に理想的な電源電圧Vccとみなせる程度の高精度の定電圧源をAD変換器15に接続すると共に、同様に高精度の基準電圧VrefをAD変換器15に接続して計測を行わせることによって求めてもよいが、マイコン10に電源電圧Vccと基準電圧Vrefとを供給する電源回路25の仕様から算出できる。電源回路25を構成するレギュレータ等の電子部品の仕様には出力する電圧の標準値と変動範囲とが定められており、電源電圧Vccを出力するレギュレータの標準出力電圧値をVccとし、基準電圧Vrefを出力するレギュレータの標準出力電圧値をVrefとして下記式(2)の演算を行うことで、AD変換値(Xref)idealを算出できる。このAD変換値(Xref)idealは第1の変換値に相当する。
(Xref)ideal=Vref×[10ビット/Vcc] …(2)
式中の「10ビット」とは、AD変換器15が分解能10ビットの場合のdigit数(2^10=1024)を示している。
【0021】
事前設定の後、AD変換器15によって実際に電源回路25から入力される基準電圧Vrefの計測が行われる。ここで計測されるAD変換値を(Xref)realは下記式(3)で表される。このAD変換値(Xref)realは第2の変換値に相当する。
(Xref)real=Vref×[10ビット/(Vcc+ΔVcc)] …(3)
【0022】
CPU13は、理想的な電源電圧である標準Vccに基づくAD変換値(Xref)idealと、通常の電源電圧Vcc供給時のAD変換値(Xref)realとを下記式(4)により比較し、この式(4)から電圧変動ΔVccを算出する。
(Xref)real/(Xref)ideal=(Vcc+ΔVcc)/Vcc …(4)
標準Vccの値、すなわち上記式(4)中のVccの値は既知であるため、上記式(4)を変形した下記式(5)の演算を行うことにより、電圧変動ΔVccの算出値(ΔVcc)calcが求められる。
(ΔVcc)calc ≒ΔVcc
=Vcc×[(Xref)real/(Xref)ideal−1] …(5)
この式(5)を用いた演算処理を行うに当たって、予め複数の(Xref)realの値と(Xref)idealの値との組み合わせについて、(Xref)real/(Xref)idealの値を求めておき、これらの値をマップ化してメモリ11に記憶しておいてもよい。この場合、実際に(Xref)real/(Xref)idealの演算を行わなくても、(Xref)realの値と(Xref)idealの値を得た後に速やかに(ΔVcc)calcを求めることができ、処理の負荷を大幅に軽減し、高速化とマイコン10の動作効率の向上を図ることができる。
【0023】
以下、実際に車両にPDU5を搭載した状態で、マイコン10によって電源電圧Vccの状態を検出する動作について説明する。この事前設定動作では、電源回路25を構成するレギュレータ等の部品仕様に基づいて、理想的な電源電圧Vccと理想的な基準電圧Vrefとがマイコン10に入力された場合のAD変換器15の出力値(Xref)idealが算出され(ステップS11)、算出された出力値(Xref)idealと基準電圧Vrefとがメモリ11に記憶される(ステップS12)。このメモリ11に記憶された出力値(Xref)idealが、以下の演算処理に用いられる。
なお、図2に示す事前設定動作を、マイコン10のAD変換器15に、理想的な電源電圧Vccとみなせる程度の高精度の定電圧源を接続して、この定電圧源から標準Vccと基準電圧VrefとをAD変換器15に印加した状態で実際にAD変換器15に測定を行わせて行ってもよい。この場合、AD変換器15の測定値(Xref)idealが取得され、取得されたAD変換値(Xref)idealと基準電圧Vrefの値とが対応付けて、メモリ11に記憶される。
この事前設定動作により、メモリ11には、上記式(3)〜(5)の演算に必要な(Xref)idealと基準電圧Vrefの値が格納される。
【0024】
図3は、マイコン10においてAD変換器15がアナログ電圧値を実際に計測する計測動作を示すフローチャートである。
この計測動作は、図1に示すように電源回路25からマイコン10に対して電源電圧Vccと基準電圧Vrefとが入力される状態で行われる。
【0025】
まず、CPU13の制御によりAD変換器15によって基準電圧Vrefが計測され、AD変換値(Xref)realがCPU13により取得される(ステップS21)。
続いて、CPU13により、事前設定動作でメモリ11に記憶されたAD変換値(Xref)idealと、ステップS21でAD変換器15が出力したAD変換値(Xref)realとが比較され、上記式(3)〜(5)の演算処理によって、電圧変動ΔVccが算出される(ステップS22)。
【0026】
ここで、CPU13は、算出した電圧変動(ΔVcc)calcの値と電源電圧Vccの値とに基づいて、実際に供給される通常動作用の電源電圧Vccを算出し(ステップS23)、算出した電源電圧Vccが正常範囲内の値であるか否かを判別する。
すなわち、CPU13は、算出した電源電圧Vccと、予めメモリ11に記憶されている異常上昇判定閾値とを比較し(ステップS24)、電源電圧Vccが異常上昇判定閾値より高い場合は(ステップS24;Yes)、電源電圧Vccが正常範囲を超えて上昇したと判定し、この異常上昇に対応する処理を実行する(ステップS25)。具体的には、CPU13により、電源電圧Vccが正常範囲を超えて上昇した場合には電源回路25からの電源電圧Vccの供給を一時的に停止させて、別系統のバックアップ用電源(図示略)から電源電圧Vccを供給させたり、ECU20に接続された表示装置、各種車載インジケータ、警報音出力装置等による警報の報知を行ったりする。
【0027】
一方、電源電圧Vccが異常上昇判定閾値以下の場合(ステップS24;No)、CPU13は、算出した電源電圧Vccと、予めメモリ11に記憶されている異常低下判定閾値とを比較し(ステップS26)、電源電圧Vccが異常低下判定閾値以下の場合は(ステップS25;Yes)、電源電圧Vccが正常範囲より低下したと判定し、この異常低下に対応する処理を実行する(ステップS27)。具体的には、CPU13により、電源電圧Vccが正常範囲より低下した場合には電源回路25からの電源電圧Vccの供給を一時的に停止させて、別系統のバックアップ用電源(図示略)から電源電圧Vccを供給させたり、ECU20に接続された表示装置、各種車載インジケータ、警報音出力装置等による警報の報知を行ったり、マイコン10及びECU20を、最小限の機能のみ実行可能な状態に退避させて暴走を防止する。
また、算出した電源電圧Vccが異常低下判定閾値より大きい場合(ステップS25;No)、電源電圧Vccは正常範囲内であるため、CPU13はそのまま動作を継続する。
この図3に示す計測動作は、予め設定された時間が経過する毎に繰り返し実行される。
【0028】
図4は、上述した方法によって電源電圧の算出値(Vcc)calcを求めた一具体例について、電源電圧Vccの値に対する算出値(Vcc)calcを示す図表であり、図5は、電源電圧Vccの値に対する算出値(Vcc)calcの誤差[%]を示す図表である。図4、図5中、横軸は電源電圧Vccの値[V]である。電源電圧の算出値(Vcc)calcは、上記の方法で算出されるΔVccから求められる最大値(Vcc+ΔVcc)、及び、最小値(Vcc−ΔVcc)の両方を示し、最大値は算出値(max)として、最小値は算出値(min)として示す。
【0029】
図4及び図5に示すように、電源電圧Vccが3〜5[V]の範囲において、電源電圧の算出値(Vcc)calcと実際の電源電圧Vccとの誤差はほぼ一定であり、±1.5[%]以内である。従って、+5[V]前後の電源電圧Vccに対して誤差は0.1[V]以内となり、非常に正確に電源電圧Vccを求めることができる。
【0030】
以上のように、本発明を適用した実施形態によれば、CPU13に供給される電源電圧Vccの状態を検出するマイコン10において、CPU13と同じ電源電圧Vccが供給され、電源電圧Vccに基づいて基準電圧Vrefをデジタルデータに変換して出力するAD変換器15を備え、AD変換器15に電圧変動ΔVccを含まない標準Vccが供給された状態でAD変換器15が基準電圧VrefをAD変換することで得られるAD変換値(Xref)idealと、AD変換器15に通常動作用の電源電圧Vccが供給された状態でAD変換器15が基準電圧VrefをAD変換して得られるAD変換値(Xref)realとをもとに、CPU13が通常動作用の電源電圧Vccが有する電圧変動ΔVccを算出して電源電圧Vccの状態を検出するので、通常動作用の電源電圧Vccの電圧変動ΔVccを算出し、電源電圧Vccと比較対象の電圧値との大小関係だけでなく、電源電圧の状態を詳細に検出できる。
【0031】
また、マイコン10は、AD変換値(Xref)idealを記憶するメモリ11を備え、CPU13は、予めメモリ11に記憶されたAD変換値(Xref)idealと、AD変換器15が通常動作用の電源電圧Vccが供給された状態で基準電圧VrefをAD変換したAD変換値(Xref)realとをもとに、通常動作用の電源電圧Vccが有する電圧変動ΔVccを算出するので、AD変換器15に電源電圧Vccと基準電圧Vrefのみが印加された状態で電源電圧Vccの変動を算出できる。AD変換値(Xref)realを求めることですぐに電圧変動を算出できる。これにより、回路構成の複雑化を招くことなく電源電圧Vccの状態を詳細に検出できる。
さらに、CPU13は、AD変換値(Xref)idealと、AD変換器15に通常動作用の電源電圧Vccが供給された状態でAD変換器15が基準電圧VrefをAD変換したAD変換値(Xref)realとをもとに、下記式(5)(式(A)と同一)で表される処理を行って、通常動作用の電源の電圧変動ΔVccを算出するので、AD変換器15が変換した2つの変換値に基づいて、処理負荷の軽い演算を行うことで電源電圧Vccの状態を速やかに、詳細に検出できる。
ΔVcc=Vcc×[(Xref)real/(Xref)ideal−1] …(5)
また、AD変換値(Xref)idealは、AD変換器15に電源電圧Vcc及び基準電圧Vrefを供給する電源回路25の特性と、AD変換器15の分解能等の特性とに基づいて算出された変換値であるので、電圧変動を含まない理想的な標準電源に基づくAD変換値(Xref)idealを、高精度の電源回路を用いることなく容易に求めることができ、電源電圧の電圧変動を速やかに、かつ、より正確に算出できる。
【0032】
上述のように、ハイブリッド車両に搭載されたマイコン10は、バッテリ6を含む各部の環境およびモータ3を含む各負荷の動作状態によって、バッテリ6からマイコン10に供給される電源が変動しやすい状態で使用されるが、マイコン10における電源電圧Vccの変動を、AD変換器15の機能を利用してCPU13が確実かつ詳細に検出できるので、電圧変動の影響からCPU13を含む各部を保護することができる。そして、電圧変動ΔVccの算出にあたってはメモリ11に予め記憶したAD変換値(Xref)idealを用いて演算を行うため、通常使用時にAD変換器15に供給される電源電圧よりも電圧変動が少ない高精度の標準電源は、車載状態ではAD変換器15に接続する必要がない。このため、装置構成を複雑化することなくAD変換の精度向上を図ることができる。
【0033】
なお、上記実施形態においては、保護対象であるCPU13に入力される電源電圧Vccの変動からCPU13及びマイコン10を保護すべく、CPU13自身の処理によりAD変換器15の変換値に基づいて電源電圧Vccを監視する構成、すなわち、保護対象の回路部と電源電圧保護装置とが同一の場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、保護対象の回路部と別に電源電圧保護装置を設けた構成としてもよい。具体的には、保護対象の回路部とは別にAD変換器及びCPUを設け、このAD変換器に保護対象の回路部と同じ電源電圧Vccが供給される構成とし、このAD変換器が出力するデジタルデータに基づいて上記CPUが演算処理を行い、電源電圧Vccの変動を監視する構成としてもよい。
【0034】
また、例えば、AD変換器15の分解能を10ビットとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、AD変換器15の分解能は8ビット、16ビット或いは他の値とすることが勿論可能であり、マイコン10の他の仕様とともに任意に変更可能である。また、AD変換器15に常時接続される基準電圧VrefをAD変換器15が変換した変換値と、メモリ11に記憶した変換値とをもとにΔVccを算出する構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、基準電圧Vrefを必要な場合にのみAD変換器15に入力してもよいし、この基準電圧VrefをCPU13からAD変換器15に入力してもよい。また、電源電圧Vccや基準電圧Vrefの電圧値の電圧値はマイコン10の仕様に合わせて任意に変更可能である。さらに、上記実施形態ではCPU13を含むマイコン10の各部に供給される電源電圧の状態を、AD変換器15の変換値に基づいてCPU13が検出する構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、マイコン10に電源電圧保護装置を外部接続し、この装置により上記の処理を行うことでマイコン10の電源電圧の状態を検出する構成としてもよく、或いは、ECU20を保護対象の回路として、ECU20の電源電圧の状態をマイコン10によって検出する構成としてもよい。また、保護対象の回路はマイコン10のCPU13やAD変換器15に限定されず、外部から電源電圧の供給を受けて制御動作や演算処理を行う回路であって、電源電圧の上昇または低下により機能に影響を及ぼすものであれば、特に限定されず、電源電圧の範囲も上記実施形態で例示した範囲に限定されない。その他、インバータ8及び充電回路9とマイコン10との接続形態やバッテリ6からマイコン10へ電力を供給する回路等の細部構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。また、上記実施形態においては、ハイブリッド車両に搭載されたマイコン10に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は電動車両(EV)や燃料電池自動車(FV)に適用することが可能であり、また、上記車両は四輪自動車に限らず、バッテリの電力によりモータを駆動する車両であれば自動二輪車やその他の特殊車両であってもよい。
また、本発明の適用対象は車両に限らず、マイコンやCPU等の電源電圧を受けて動作する回路部を搭載した様々な装置において、これらの回路部を保護対象として電源電圧の変動から保護する場合に適用可能である。特に、上記回路部を備えた装置が、バッテリを搭載し、このバッテリの電力によりモータ等の駆動用動力源を駆動する移動体または装置であって、保護対象となる上記の回路部が駆動用動力源と同じバッテリから電源供給を受ける構成に適用すれば、保護対象の回路部の電源電圧が駆動用動力源の動作状態により変動しやすいことから、本発明により電源電圧の変動から確実に保護できるため、好適である。このバッテリの電力によりモータ等の駆動用動力源を駆動する移動体または装置が発電または回生によりバッテリに電力を充電するものであれば、電源電圧を変動させる要因がより多くなるので、本発明の適用対象としてはさらに効果的である。
【符号の説明】
【0035】
3 モータ
5 PDU
6 バッテリ
7 DC/DCコンバータ
8 インバータ
9 充電回路
10 マイコン(電源電圧保護装置)
11 メモリ(記憶部)
13 CPU(補正処理部)
15 AD変換器(AD変換部)
25 電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を検出する電源電圧保護装置において、
前記保護対象の回路部と同じ電源電圧が供給され、前記電源電圧に基づいて基準電圧をデジタルデータに変換して出力するAD変換部と、
前記AD変換部に電圧変動を含まない標準電源が供給された場合に前記AD変換部が基準電圧をAD変換することで得られる第1の変換値と、前記AD変換部に通常動作用の電源電圧が供給された状態で前記AD変換部が基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧が有する電圧変動を算出して電源電圧の状態を検出する電源監視部と、を備えたことを特徴とする電源電圧保護装置。
【請求項2】
前記第1の変換値を記憶する記憶部を備え、
前記電源監視部は、予め前記記憶部に記憶された第1の変換値と、前記AD変換部が通常動作用の電源電圧が供給された状態で基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧が有する電圧変動を算出すること、を特徴とする請求項1記載の電源電圧保護装置。
【請求項3】
前記電源監視部は、前記AD変換部の電源電圧として標準電源Vccが供給された場合に前記AD変換部が基準電圧VrefをAD変換することで得られる第1の変換値(Xref)idealと、前記AD変換部に通常動作用の電源電圧Vccが供給された状態で前記AD変換部が基準電圧VrefをAD変換して得られる第2の変換値(Xref)realとをもとに、下記式(A)で表される処理を行って、通常動作用の電源の電圧変動ΔVccを算出すること、を特徴とする請求項1または2に記載の電源電圧保護装置。
ΔVcc=Vcc×[(Xref)real/(Xref)ideal−1] …(A)
【請求項4】
前記第1の変換値は、前記AD変換部に電源電圧及び基準電圧を供給する電源回路の特性と、前記AD変換部の特性とに基づいて算出された変換値であること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電源電圧保護装置。
【請求項5】
保護対象の回路部と同じ電源電圧が供給され、前記電源電圧に基づいて基準電圧をデジタルデータに変換して出力するAD変換部を備えた電源電圧保護装置により、前記保護対象の回路部に供給される電源電圧の状態を検出する電源電圧保護方法であって、
前記AD変換部に電圧変動を含まない標準電源が供給された場合に前記AD変換部が基準電圧をAD変換することで得られる第1の変換値と、前記AD変換部に通常動作用の電源電圧が供給された状態で前記AD変換部が基準電圧をAD変換して得られる第2の変換値とをもとに、通常動作用の電源電圧が有する電圧変動を算出して電源電圧の状態を検出すること、を特徴とする電源電圧保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214898(P2011−214898A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81178(P2010−81178)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】