説明

電界吸収型変調器及び光半導体装置

【課題】AlGaInAs光吸収層を持つ電界吸収型変調器の特性を向上させる。
【解決手段】n型InP基板1上に、n型InPクラッド層2、AlGaInAs光吸収層4、p型InGaAsP光導波路層6、及びp型InPクラッド層7が順に積層されている。p型InGaAsP光導波路層6は、組成が異なる3つのInGaAsP層6a,6b,6cを有する。InGaAsP層6a,6b,6cの価電子帯間のエネルギー障壁は、InGaAsP層が単層の場合に比べて小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムで用いられる電界吸収型変調器、及び半導体基板上に電界吸収型変調器と半導体レーザが集積された光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界吸収型変調器において、光吸収層の両側に光吸収層よりバンドギャップエネルギーが大きくクラッド層より屈折率の大きい光導波路層を設けた分離閉じ込めヘテロ構造(Separated Confinement Heterostructure)が用いられる。
【0003】
AlGaInAs光吸収層を持つ電界吸収型変調器では、AlGaInAs光吸収層又はAlGaInAs光導波路層とp型InPクラッド層との間に、大きな価電子帯エネルギー障壁ができる。このエネルギー障壁は、光吸収層での光吸収により発生したホールがp型InPクラッド層に流れる際の抵抗成分になる。このため、ホールの流れが悪くなるホールパイルアップが発生し、電界吸収型変調器の動的消光比、変調帯域、及びチャープ特性が悪化する。
【0004】
また、AlInAsクラッド層とp型InPクラッド層との間に設けたInGaAsPエッチングストッパー層により、価電子帯エネルギー障壁を低減することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、単層のInGaAsP層では、価電子帯エネルギー障壁を十分に低減できない。また、この先行技術のようなAlGaInAs系の半導体レーザでは、AlInAs層を用いて、活性層からp型InPクラッド層への電子のオーバーフローを防ぐ必要がある。一方、電界吸収型変調器は逆方向バイアス素子であるため、光吸収層からp型InPクラッド層への電子のオーバーフローが発生しない。従って、電界吸収型変調器では、AlInAs層を用いる必要がなく、むしろ高抵抗で光吸収電流の流れを悪化させるAlInAs層は用いない方がよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3779040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、AlGaInAs光吸収層を持つ電界吸収型変調器では、AlGaInAs光吸収層又はAlGaInAs光導波路層とp型InPクラッド層との間に大きな価電子帯エネルギー障壁ができるため、特性が劣化する。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、AlGaInAs光吸収層を持つ電界吸収型変調器の特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電界吸収型変調器は、半導体基板と、前記半導体基板上に順に積層されたn型InPクラッド層、AlGaInAs光吸収層、InGaAsP光導波路層、及びp型InPクラッド層とを備え、前記InGaAsP光導波路層は、組成が異なる複数のInGaAsP層を有し、前記複数のInGaAsP層の価電子帯間のエネルギー障壁は、InGaAsP層が単層の場合に比べて小さくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、AlGaInAs光吸収層を持つ電界吸収型変調器の特性を向上させるができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電界吸収型変調器を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電界吸収型変調器の光吸収層からp型クラッド層までの拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。
【図3】比較例1に係る電界吸収型変調器の拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。
【図4】比較例2に係る電界吸収型変調器の拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。
【図5】比較例3に係る電界吸収型変調器の拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る電界吸収型変調器を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る電界吸収型変調器の光吸収層からp型クラッド層までの拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る光半導体装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る電界吸収型変調器及び光半導体装置について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電界吸収型変調器を示す断面図である。n型InP基板1上に、n型InPクラッド層2、AlGaInAs光導波路層3、AlGaInAs光吸収層4、p型AlGaInAs光導波路層5、p型InGaAsP光導波路層6、p型InPクラッド層7、及びp型InGaAsコンタクト層8が順に積層されている。
【0013】
AlGaInAs光吸収層4は、AlGaInAs/AlGaInAs多重量子井戸(Multiple Quantum Well: MQW)構造である。p型InGaAsコンタクト層8上にp側電極9が形成され、n型InP基板1の裏面にn側電極10が形成されている。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態1に係る電界吸収型変調器の光吸収層からp型クラッド層までの拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。p型AlGaInAs光導波路層5は、組成が異なる3つのAlGaInAs層5a,5b,5cを有する。AlGaInAs層5a,5b,5cの層厚はそれぞれ7nmであり、フォト・ルミネッセンス(Photoluminescence: PL)波長はそれぞれ1200/1100/950nmである。
【0015】
また、p型InGaAsP光導波路層6は、組成が異なる3つのInGaAsP層6a,6b,6cを有する。InGaAsP層6a,6b,6cの層厚はそれぞれ7nmであり、フォト・ルミネッセンス波長はそれぞれ1180/1080/1000nmである。これにより、InGaAsP層6a,6b,6cの価電子帯間のエネルギー障壁は、InGaAsP層が単層の場合に比べて小さくなる。
【0016】
続いて、本実施の形態の効果について比較例1,2,3と比較して説明する。図3,4,5は、それぞれ比較例1,2,3に係る電界吸収型変調器の拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。比較例1では、AlGaInAs光吸収層4の上に、p型AlGaInAs光導波路層5、p型InGaAsP層12、及びp型InPクラッド層7が積層されている。比較例2では、AlGaInAs光吸収層4の上に、p型AlGaInAs光導波路層5及びp型InPクラッド層7が積層されている。比較例3では、AlGaInAs光吸収層4の上にp型AlInAs層11、p型InGaAsP層12、及びp型InPクラッド層7が積層されている。
【0017】
比較例1では、p型AlGaInAs光導波路層5とp型InGaAsP層12の間の価電子帯、及びp型InGaAsP層12とp型InPクラッド層7との間の価電子帯に大きなエネルギー障壁が生じる。比較例2では、p型AlGaInAs光導波路層5とp型InPクラッド層7との間の価電子帯に大きなエネルギー障壁が生じる。比較例3では、AlGaInAs光吸収層4とp型AlInAs層11との間の価電子帯、及びp型InGaAsP層12とp型InPクラッド層7との間の価電子帯に大きなエネルギー障壁が生じる。このため、ホールの流れが悪くなるホールパイルアップが発生し、電界吸収型変調器の動的消光比、変調帯域、及びチャープ特性が悪化する。
【0018】
これに対して、本実施の形態では、p型InGaAsP光導波路層6によりAlGaInAs光吸収層4とp型InPクラッド層7との間の価電子帯のエネルギー障壁が小さく抑えられる。これにより、エネルギー障壁による抵抗が小さくなり、ホール電流の流れが促進される。この結果、電界吸収型変調器の動的消光比、変調帯域、及びチャープ特性を向上させるができる。
【0019】
また、AlGaInAs光吸収層4とp型InPクラッド層7との間の価電子帯のエネルギー障壁を小さくするために、p型InPクラッド層7の価電子帯エネルギーがAlGaInAs光吸収層4の価電子帯エネルギーとp型InPクラッド層7の価電子帯エネルギーの間であることが好ましい。
【0020】
また、p型InGaAsP光導波路層6がp型であることで、価電子帯エネルギー障壁が更に小さくなる。また、AlGaInAs光吸収層4とp型InGaAsP光導波路層6との間にp型AlGaInAs光導波路層5を配置することで、AlGaInAs光吸収層4とp型InPクラッド層7との間のエネルギー障壁を更に小さくすることができる。
【0021】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係る電界吸収型変調器を示す断面図である。実施の形態1のp型AlGaInAs光導波路層5とp型InGaAsP光導波路層6の代わりに、p型InGaAsP光導波路層13が設けられている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0022】
図7は、本発明の実施の形態2に係る電界吸収型変調器の光吸収層からp型クラッド層までの拡大断面図とそのエネルギーバンド図である。p型InGaAsP光導波路層13は、組成が異なる6つのInGaAsP層13a,13b,13c,13d,13e,13fを有する。InGaAsP層13a,13b,13c,13d,13e,13fの層厚はそれぞれ7nmであり、フォト・ルミネッセンス波長はそれぞれ1500/1400/1280/1180/1080/1000nmである。これにより、InGaAsP層13a,13b,13c,13d,13e,13fの価電子帯間のエネルギー障壁は、InGaAsP層が単層の場合に比べて小さくなる。
【0023】
本実施の形態では、p型InGaAsP光導波路層13によりAlGaInAs光吸収層4とp型InPクラッド層7との間の価電子帯のエネルギー障壁が小さく抑えられる。これにより、エネルギー障壁による抵抗が小さくなり、ホール電流の流れが促進される。この結果、電界吸収型変調器の動的消光比、変調帯域、及びチャープ特性を向上させるができる。
【0024】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3に係る光半導体装置を示す斜視図である。n型InP基板1上に電界吸収型変調器14と分布帰還型(Distributed Bragg Reflector: DBR)の半導体レーザ15が集積されている。電界吸収型変調器14と半導体レーザ15はリッジ導波路16を有する。このような変調器とレーザを集積化した光半導体装置において、電界吸収型変調器14として実施の形態1,2の構造を用いることで、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 n型InP基板(半導体基板)
2 n型InPクラッド層
4 AlGaInAs光吸収層
5 p型AlGaInAs光導波路層(AlGaInAs光導波路層)
6,13 p型InGaAsP光導波路層(InGaAsP光導波路層)
6a,6b,6c,13a,13b,13c,13d,13e,13f 複数のInGaAsP層
7 p型InPクラッド層
14 電界吸収型変調器
15 半導体レーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に順に積層されたn型InPクラッド層、AlGaInAs光吸収層、InGaAsP光導波路層、及びp型InPクラッド層とを備え、
前記InGaAsP光導波路層は、組成が異なる複数のInGaAsP層を有し、
前記複数のInGaAsP層の価電子帯間のエネルギー障壁は、InGaAsP層が単層の場合に比べて小さくなることを特徴とする電界吸収型変調器。
【請求項2】
前記InGaAsP光導波路層の価電子帯エネルギーは、前記AlGaInAs光吸収層の価電子帯エネルギーと前記p型InPクラッド層の価電子帯エネルギーの間であることを特徴とする請求項1に記載の電界吸収型変調器。
【請求項3】
前記InGaAsP光導波路層はp型であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電界吸収型変調器。
【請求項4】
前記AlGaInAs光吸収層と前記InGaAsP光導波路層との間に配置されたAlGaInAs光導波路層を更に備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電界吸収型変調器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の電界吸収型変調器と、
前記半導体基板上に前記電界吸収型変調器と集積された半導体レーザとを備えることを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−118168(P2012−118168A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266113(P2010−266113)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】