説明

電界放出型電子源素子及び撮像装置

【課題】撮像動作に必要とされる高速駆動においても安定して電子放出を行うことができ、かつ画像の品位の高い電界放出型電子源素子を提供する。
【解決手段】基板1から突出した導電性微小構造のエミッタ2を複数形成したカソード電極3と、カソード電極3と電気的に絶縁されたゲート電極5とを備え、カソード電極3とゲート電極5とがマトリクス状に配置されており、カソード電極3とゲート電極5との交差部に対応した複数のエミッタ2により、1画素分に対応するエミッタ群を形成しており、隣接するエミッタ群同士は、低誘電率絶縁膜6で分離している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクス型の電界放出型電子源素子(電界放出冷陰極素子)、及びこれを用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像装置として、光導電型撮像管が知られている。光導電型撮像管は、入射光量に応じて信号電荷を発生、蓄積する光導電膜を備えている。光導電膜中で発生して蓄積された信号電荷を、電子ビームによって時系列的に外部回路に読み出して、入射光量の空間的分布に対応した電気信号を発生することができる。
【0003】
電子ビームを照射する手段として、従来の熱電子タイプに代えて、電界放出型電子源素子を使用した電子管が、例えば特許文献1に提案されている。電界放出型電子源素子は、熱陰極と比較して高い電流密度が得られ、また放出電子の速度分布が小さい等の利点がある。
【0004】
図3は、マトリクス型の電界放出型電子源素子の電極配置を示す平面図である。
横軸(X軸)方向に延びた帯状のカソード電極303と、横軸と直交する縦軸(Y軸)方向に延びた帯状のゲート電極304とがマトリクス状に配置されている。
【0005】
カソード電極303はシリコン基板301の一部を用いて形成され、カソード電極303上に、エミッタ(電子放出源)の集合体であるエミッタ群302が形成されている。エミッタ群302は、円状に示している。一つのエミッタ群302には、およそ数百から数千のエミッタが作り込まれている。
【0006】
ゲート電極304は、カソード電極303の上側にパターニングされて配置されている。このため、図3の例では、ゲート電極304の下面にカソード電極303のラインが隠れていることになる。
【0007】
カソード電極303、ゲート電極304の両電極をマトリクス駆動することにより、両電極の交点のエミッタ群302から電子を放出させることができる。X方向、Y方向の各位置を選択して順次駆動することにより、光電子面上の蓄積電荷を読み出し、撮像素子として使用することができる。
【0008】
このマトリクス状に配置したゲート電極304、カソード電極303には、それぞれゲート電極パッド305、エミッタ電極パッド306から電位を供給することができる。両電極パッドは、エミッタの電子放出面と同じシリコン基板301の上面側に設けている。
【0009】
ゲート電極304とカソード電極303との交差部に対応したエミッタ群302が、1画素分に相当する。エミッタ群302は、時系列に画素単位で個別駆動ができるように分離されている。具体的には、左右に隣接するゲート電極のエミッタ群302同士は、電極を作製するときの電極パターニングにより分離され、上下に隣接するカソード電極のエミッタ群302同士は、シリコン基板上に作りこまれた絶縁膜で分離されている。
【0010】
このような構成において、各画素を時系列的に選択しエミションさせる場合には、X方向Y方向のうちの一方の電極を時系列的に順次選択する。選択された一方の電極群のある一つの電極を選択している間の時間内に、他方の電極群をさらに時系列的に選択することにより、個別のエミッタ群からエミションを得ることができる。
【特許文献1】特開2000−48743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の電界放出型電子源素子を搭載した撮像装置において、高解像度化を進めると、撮像管の点順次という駆動のために、NTSCの場合にはドットクロックが11MHzという高速駆動になってしまう。さらに高解像度のHDTVの仕様になると、60MHzを超えるドットクロックが必要になってくる。
【0012】
これは撮像管が、入射光量に応じて信号電荷を発生、蓄積する光導電膜を有し、光導電膜中で発生して蓄積された信号電荷を、電子ビームによって時系列的に外部回路に読み出して、入射光量の空間的分布に対応した電気信号を発生するという原理に基づいている。
【0013】
絶縁膜により電極を分離されているカソード電極を高速駆動させる場合においては、選択画素においてカソード電極への印加電圧に遅延が発生していた。この遅延が発生すると、マトリクス駆動されているカソード電極が本来印加されるべき電位に到達する前に、次のカソード電極の動作を開始するタイミングになってしまう。この場合、カソード電極は本来印加されるべき電位にならず、結果として正規のエミッション量が出力されなくなってしまうという問題があった。
【0014】
このことは、元画像に対して誤った電気信号を送ることになり、結果的に元画像と違った輝度の像を形成してしまい画像品位が落ちることになってしまう。したがって、信号遅延なくゲート電極信号を伝送することが求められている。
【0015】
本発明は前記のような従来の問題を解決するものであり、撮像動作に必要とされる高速駆動においても安定して電子放出を行うことができ、かつ画像の品位の高い電界放出型電子源素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の電界放出型電子源素子は、基板から突出した導電性微小構造のエミッタを複数形成したカソード電極と、前記カソード電極と電気的に絶縁されたゲート電極とを備え、前記カソード電極と前記ゲート電極とがマトリクス状に配置されており、前記カソード電極と前記ゲート電極との交差部に対応した複数の前記エミッタにより、1画素分に対応するエミッタ群を形成しており、少なくとも隣接する前記カソード電極の前記エミッタ群同士は、低誘電率絶縁膜で分離していることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の撮像装置は、前記電界放出型電子源素子を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速駆動が安定し、高品位な画像を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明によれば、高速駆動においても安定して電子放出を行うことができ、高品位な画像を形成することができる。
【0020】
前記本発明の電界放出型電子源素子においては、前記低誘電率絶縁膜は、多孔質酸化シリコンであることが好ましい。
【0021】
また、前記低誘電率絶縁膜は、フッ素添加シリコン酸化膜であることが好ましい。
【0022】
以下本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、前記の図3に示した電極配置の構成は、以下の実施の形態においても同様である。このため、図3は、以下の実施の形態における電極配置図としても用いることにする。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電界放出型電子源素子(電界放出冷陰極素子)のの断面図を示している。本図は、図3のY方向における断面図に相当する。シリコン基板1には、導電性微小構造のエミッタ(電子放出電極)2が突出したカソード電極3を形成している。エミッタ2は、円錐、又は四角錐等の多角錐形状のタワー型(コーン型)である。シリコン基板1上に、絶縁層4(例えばSiO2絶縁層)を介してゲート電極5を配置している。各エミッタ2に、ゲート電極5の各開孔が一対に対応している。より具体的には、エミッタ2の先端部の周りに、ゲート電極5の開口が対応している。
【0024】
シリコン基板1の溝に、低誘電率絶縁膜6が形成されている。隣接する低誘電率絶縁膜6の間におけるエミッタ2が1画素分のエミッタ2、すなわち、図3のエミッタ群302に相当する。簡単のため、1画素分のエミッタ2の数は省略して図示している。本実施の形態では、低誘電率絶縁膜6は、多孔質酸化シリコンで形成した。
【0025】
図1の構成を図3の構成に対応させてみると、図3においてY方向に隣接するエミッタ群302は、低誘電率絶縁膜6により分離されていることになる。より具体的には、図3において、一本のカソード電極303に対応するエミッタ群302は、隣接する別の一本のカソード電極303に対応するエミッタ群302に対し、ゲート電極304に垂直な低誘電率絶縁膜6のラインで分離されていることになる。
【0026】
ゲート電極5には、所定の電位が印加できるようになっている。ゲート電極5とエミッタ2との間に電位差が付与されることにより、エミッションを得ることができる。
【0027】
図2は、図1の一部を拡大した図である。電界放出型電子源素子は、図2に示すように、シリコン基板1上に微小な円錐状のエミッタ2と、絶縁層3を介してエミッタ2を囲むようにゲート電極5がサブミクロンの程度の間隔で形成されている。このゲート電極5とシリコン基板1上のカソード電極3との間に電圧を印加すると、エミッタ2の先端に電界が集中し、真空中で電子が放出される。
【0028】
電界放出型電子源素子は、通常の半導体工程にて作製される。図2のエミッタ2はシリコンエミッタであり、フォト工程を通し円形の熱酸化膜をマスクとして台形状に加工する。このときには、SF6+O2ガスを用いた反応性イオンエッチング、又はKOHによって異方性ウエットエッチングを行う。
【0029】
その後、フォト工程を経て、素子分離ラインのエッチングを行う。次に定法により多孔質シリコンの充填を行い、デポと熱酸化を繰り返して、絶縁膜及びゲート電極(シリコン、Nb)の形成を行う。次にBHFによるリフトオフを行い完成する。
【0030】
駆動は、図3の例では、X方向のゲート電極304を選択し、Y方向のエミッタ(カソード電極303)を1ラインづつ順次駆動するという点順次で行う。この点順次駆動ためにVGAの場合は、ドットクロックを11MHzの駆動周波数で行わなければならない。
【0031】
本実施の形態では、低誘電率絶縁膜6を多孔質酸化シリコンで形成して通常の素子間分離ラインの誘電率を低下させている。この構成の電界放出型電子源素子を用いた撮像装置を作製したところ、エミッタ電圧を11MHzの駆動周波数で遅延なく安定的に動作させることができた。すなわち、11MHzの駆動周波数特性があるので信号遅延することなく、安定にエミッション動作させることができ、高品位な画像を形成することが可能となった。これは、素子間分離ラインの誘電率を低下させることにより、隣接するカソード電極間の寄生容量が低下したためと考えられる。
【0032】
(実施の形態2)
実施の形態1では、素子間絶縁膜に多孔質シリコンを用いたが、実施の形態2では、素子間絶縁膜をフッ素添加シリコン酸化膜で形成した電界放出型電子源素子を用いて撮像装置を作製した。
【0033】
本実施の形態の構成においても、エミッタ電圧を11MHzの駆動周波数で遅延なく安定的に動作させることができた。11MHzの駆動周波数特性があるので信号遅延することなく、安定にエミッション動作させることが出来、高品位な画像を形成することが可能となった。
【0034】
なお、実施の形態1、2は、カソードを列方向にのみ分割し高速駆動する例で説明したが、本実施例の効果は、これに限るものではなく、素子を個別に分割する方法においても同様の効果が得られる。
【0035】
また、素子間絶縁膜の材料として、多孔質酸化シリコン又はフッ素添加シリコンの例で説明したが、これに限るものではなく、比誘電率が3.0以下の他の低誘電率絶縁膜を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明に係る電界放出型電子源素子は、高速駆動が安定し、高品位な画像を形成できるので、撮像装置用の電界放出型電子源素子として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電界放出型電子源素子の断面図。
【図2】図1の一部の拡大図。
【図3】マトリクス型の電界放出型電子源素子の電極配置を示す平面図。
【符号の説明】
【0038】
1 シリコン基板
2 エミッタ
3 カソード電極
4 絶縁層
5 ゲート電極
6 低誘電率絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板から突出した導電性微小構造のエミッタを複数形成したカソード電極と、
前記カソード電極と電気的に絶縁されたゲート電極とを備え、
前記カソード電極と前記ゲート電極とがマトリクス状に配置されており、
前記カソード電極と前記ゲート電極との交差部に対応した複数の前記エミッタにより、1画素分に対応するエミッタ群を形成しており、
少なくとも隣接するカソード電極の前記エミッタ群同士は、低誘電率絶縁膜で分離していることを特徴とする電界放出型電子源素子。
【請求項2】
前記低誘電率絶縁膜は、多孔質酸化シリコンである請求項1に記載の電界放出型電子源素子。
【請求項3】
前記低誘電率絶縁膜は、フッ素添加シリコン酸化膜である請求項1に記載の電界放出型電子源素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電界放出型電子源素子を備えたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−84681(P2008−84681A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262879(P2006−262879)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(503217783)MT映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】