電界集中抑制材料、電界集中抑制部材および電気機器
【課題】電界が印加された際の電界の集中を緩和し、部分放電、トリーイング等の発生を有効に抑制し、優れた絶縁特性を長期間維持することが可能な電界集中抑制材料を提供する。
【解決手段】樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、前記充填材は前記樹脂材料と比較して導電性を有するものであることを特徴とする。
【解決手段】樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、前記充填材は前記樹脂材料と比較して導電性を有するものであることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界が印加された際の電界の集中を緩和することによって電気的絶縁の劣化が抑制された電界集中抑制材料およびそれを用いた電界集中抑制部材、電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に使用される絶縁材料の劣化形態として電気的な劣化があり、その一部はトリーイングを伴う劣化パターンを示す。トリーイングとは、絶縁材料中に高電界が生じると電極端や絶縁材料中の不純物などを起点として放電を伴いながら絶縁材料を溶解あるいは炭化させる現象を言う。
【0003】
従来より、トリーの進展を止めるためにフィルム材料を積層した構造やマイカやシリカ等を充填した絶縁材料が使用されている。例えば、絶縁コイルにおいて、小さなマイカフレークを有する層を含むテープ形状またはシート形状の絶縁材料につき、マイカフレーク層の空間に配置される樹脂層中に、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、炭化珪素等の5W/mK以上の熱伝導率を有し、その少なくとも90重量%が粒径0.1〜15μmである粒子を含有させることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、棒状のコアおよびこのコアの外周に設けられる一次スプール、二次スプールからなる点火コイルにおいて、これら一次スプール、二次スプールの少なくともいずれか一方を樹脂基材にガラス繊維およびシリカを添加して形成し、絶縁材料であるスプールの絶縁破壊を抑制している(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、フィルムを積層したような構造の絶縁材料では、製造法の制限が大きく、適用できる部材が限定されてしまう。また、マイカやシリカ等を充填した絶縁材料では、電気的劣化に対する寿命が十分でないなどの課題がある。
【特許文献1】特開昭63−110929号公報
【特許文献2】特開2002−374646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述したような課題を解決するためになされたものであって、電界が印加された際の電界の集中を緩和することによってトリーイングの発生を抑制し、長寿命化が可能な電界集中抑制材料およびそれを用いた電界集中抑制部材、電気機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電界集中抑制材料は、樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、充填材は樹脂材料と比較して導電性を有するものであることを特徴とする。また、本発明の電界集中抑制材料は、樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、充填材は印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものであることを特徴とする。
【0008】
本発明の電界集中抑制部材は、上述したような電界集中抑制材料を塗料状、フィルム状もしくはテープ状、または、型に入れ硬化させてなることを特徴とする。また、本発明の電気機器は上述したような電界集中抑制材料または電界集中抑制部材を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電界集中抑制材料によれば、樹脂材料中にこれよりも導電性の高い充填材または印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材を含有させることで、電界が印加された際の電界の集中を緩和し、部分放電、トリーイング等の発生を抑制し、優れた絶縁特性を長期間維持することが可能となる。
【0010】
また、このような電界集中抑制材料を用いて電界集中抑制部材、電気機器を作製することで、電界集中抑制部材、電気機器の製造が容易になると共に、それらの絶縁特性を維持し、長寿命化することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の電界集中抑制材料1の一例を示した概略図である。本発明の電界集中抑制材料1は、樹脂材料2と、この樹脂材料2に分散された充填材3とからなるものである。
【0013】
樹脂材料2としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等が用いられる。エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0014】
充填材3は、上述した樹脂材料2と比較して導電性を有するものである。上述した樹脂材料2の抵抗率ρがおおよそ1019〜1024[μΩ・cm]であるため、導電性を有する充填材3はこれよりも抵抗率ρが低いものであればよい。導電性を有する充填材3は、例えば抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下であれば好ましく、10[μΩ・cm]以下であればより好ましい。
【0015】
このような充填材3としては、例えばカーボン(102[μΩ・cm])、四三酸化鉄(106[μΩ・cm])、酸化クロム(1013[μΩ・cm])、酸化チタン(1018[μΩ・cm])、金(2.35[μΩ・cm])、銀(1.59[μΩ・cm])、銅(1.673[μΩ・cm])および鉄(9.71[μΩ・cm])が挙げられ、これは1種のみで用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
上述した充填材3としては市販されているものを用いてもよく、このようなものとしては例えば酸化クロムとしてCRO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)、酸化チタンとしてTIO 06PB((株)高純度化学研究所製 商品名)等が挙げられる。
【0017】
本発明の電界集中抑制材料1では、充填材3の導電性を樹脂材料2の導電性よりも高いものとすることで、高電界が印加された場合であってもその集中を緩和し、部分的な放電、トリーイングの発生を抑制し、絶縁特性を長期間維持することが可能となる。
【0018】
本発明においては充填材3として上述したような導電性を有するものと共に、あるいはこれに代えて、印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものを用いてもよい。印加電界に対して非線形抵抗特性を持つとは、一定の電界未満のときには導電性を示さず、一定の電界以上となったときに一定の導電性を示すものをいう。
【0019】
電界集中抑制材料1にこのような非線形抵抗特性を有する充填材3を分散させることで、高い電界が印加された際にその部分の充填材3のみを導電性を有するものとすることができ、電界集中抑制材料1全体として高い絶縁特性を維持したまま、電界の集中を有効に緩和し、部分的な放電、トリーイングの発生を抑制し、絶縁特性を長期間維持することが可能となる。
【0020】
非線形抵抗特性を持つ充填材3は、例えば電界の強さが103[kV・m−1]以上となったときに、抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となるものであれば好ましく、10[μΩ・cm]以下となるものであればさらに好ましい。
【0021】
このような非線形抵抗特性を持つ充填材3としては、具体的には酸化亜鉛、炭化珪素および酸化錫等が挙げられる。酸化亜鉛は電界の強さが2×103[kV・m−1]以上で抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となり、炭化珪素は電界の強さが103[kV・m−1]以上で抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となり、酸化錫は電界の強さが103[kV・m−1]以上で抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となる。このような非線形抵抗特性を持つ充填材3は、1種のみで用いてもよいし、2以上を混合して用いてもよい。
【0022】
上述した非線形抵抗特性を持つ充填材3としては市販されているものを用いてもよく、酸化亜鉛としてZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)、炭化珪素として#3000 SiC(信濃電気製錬(株)製 商品名)、酸化錫としてSNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)等が挙げられる。
【0023】
導電性または非線形抵抗特性を有する充填材3は、平均粒径が0.001μm〜100μmであれば好ましく、0.1μm〜10μmであればより好ましい。平均粒径が0.001μm未満であると高電界が印加された際に電界の集中が十分に緩和されず、部分的な放電の発生を十分に抑制することが困難となるおそれがあり好ましくない。平均粒径が100μmを超えると、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性が十分でなくなり、またフィルム状への成形が困難となるおそれがあるため好ましくない。
【0024】
電界集中抑制材料1における充填材3の含有量は、電界集中抑制材料1の全体体積に対して5体積%以上、33体積%以下とすることが好ましい。充填材3の含有量が5体積%未満であると高電界が印加された際に電界の集中を十分に緩和することができず、部分的な放電の発生を抑制することが困難となるおそれがあるため好ましくない。33体積%を超えると、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性が十分でなくなるおそれがあるため好ましくない。
【0025】
本発明の電界集中抑制材料1においては、上述したような樹脂材料2および充填材3の他に、必要に応じて樹脂材料を硬化させるための硬化剤、硬化促進剤、粘度を調整するための溶剤等を適宜添加することが好ましい。
【0026】
また、本発明の電界集中抑制材料1には、例えば図2に示すように、樹脂材料2および導電性あるいは非線形抵抗特性を有する充填材3の他に、無機充填材4を含有させてもよい。
【0027】
このような無機充填材4を含有させることで、電界が印加された際の電界の集中をさらに緩和し、部分的な放電を抑制することができると共に、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性も向上させることができる。
【0028】
無機充填材4は絶縁物であればよく、例えばマイカ、アルミナ(Al2O3)、窒化ホウ素(BN)が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
無機充填材4はアスペクト比1:10以上の鱗片状無機充填材が好適に用いられる。このようなアスペクト比を有する鱗片状無機充填材4を用いることで、電界集中抑制材料1の部分的な放電をさらに抑制し、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性も向上させることができる。
【0030】
電界集中抑制材料1に無機充填材4を含有させる場合には、電界集中抑制材料1の全体体積に対して無機充填材4の含有量が60体積%以上となるようにすれば好ましい。無機充填材4の含有量をこのようなものとすることで、電界集中抑制材料1の部分的な放電の抑制および電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性を十分なものとすることができる。
【0031】
なお、電界集中抑制材料1に無機充填材4を含有させる場合、導電性あるいは非線形抵抗特性を持つ充填材3は、電界集中抑制材料1の全体体積から無機充填材4の体積を除いた体積に対して5体積%以上、33体積%以下の含有量とすることが好ましい。
【0032】
上述した本発明の電界集中抑制材料1は、例えば樹脂材料2中に導電性を有する充填材3および非線形抵抗特性を持つ充填材3のうち少なくとも一方を所定量添加して十分に混合することによって製造することができる。また、無機充填材4を含有させる場合には、樹脂材料2中に導電性を有する充填材3および非線形抵抗特性を持つ充填材3のうち少なくとも一方を所定量添加するとともに、無機充填材4を所定量添加して十分に混合することによって製造することができる。
【0033】
このようにして得られた電界集中抑制材料1は、例えばそのままの状態でコイルに含浸、硬化させて用いることができる。また、本発明の電界集中抑制材料1は樹脂材料2中に導電性を有する充填材3および非線形抵抗特性を持つ充填材3のうち少なくとも一方を添加したものであるため、従来のフィルムを積層したような構造の絶縁材料に比べて適用できる用途、部材の制限が少なく、各種の用途、部材に適用することが可能である。
【0034】
例えば電界集中抑制材料1に他の樹脂材料、溶剤等を添加して塗料状とし、絶縁させようとする物に塗布して絶縁性の塗膜を形成するようにして用いてもよい。また、電界集中抑制材料1は薄く延ばした後に硬化させてフィルム状部材としてもよいし、このようにフィルム状部材とした後に少なくとも一方の主面に粘着性材料を塗布してテープ状部材とし、絶縁させようとする物に巻回、貼着するようにして用いてもよい。これらフィルム状部材、テープ状部材は単独で用いてもよいし、複数枚を積層して用いてもよい。
【0035】
さらに、電界集中抑制材料1はガラスクロス等に含浸、硬化させてシート状部材として用いてもよい。また、電界集中抑制材料1を型に注入し、硬化させて所定の形状を有する部材の作製に用いてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の電界集中抑制材料、電界集中抑制部材、電気機器について、実施例を参照して具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、この樹脂材料に比較して導電性を有する充填材として、平均粒径1μmの酸化クロム CRO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を用意した。
【0038】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸化クロムとの合計体積に対して酸化クロムが20体積%となるように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸化クロムとを配合し、混練して電界集中抑制材料を得た。
【0039】
図3、図4に示すように、10μmのギャップを開けたガラス平板5a、5b間に電界集中抑制材料1を充填するとともに、針電極6および平面電極7をそれらの間隔が2mmとなるように挟み込み、針−平面電極を形成した。この針−平面電極に交流電圧を印加し、2kV/sで上昇させて部分放電発生電圧を測定した。なお、部分放電発生電圧の測定は、電流パルス法を用いて行った。
【0040】
また比較のために、酸化クロムを含有させずに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のみを用いて同様の測定を行った。結果を図5に示す。
【0041】
図5に示すように、酸化クロムを含有させたものは、酸化クロムを含有させなかったものに比較して、部分放電発生電圧が約2倍となることが認められた。一般に部分放電は針電極の先端部分から発生するものであるため、本発明のように樹脂材料中に導電性の充填材を含有させることで、針電極の先端部分の電界を緩和し、部分放電が発生する電圧を上昇させることが可能となる。
【0042】
なお、本実施例では樹脂材料に比較して導電性を有する充填材として酸化クロムを用いた例を示したが、このような効果は酸化クロムに限られず、導電性を有するものであれば得られるものであり、例えばカーボン、四三酸化鉄、酸化チタン、金、銀、銅および鉄等の充填材を用いても同様の効果が得られる。
【0043】
(実施例2)
樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材としての平均粒径1μmの酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を用意した。
【0044】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸化亜鉛との合計体積に対して酸化亜鉛が20体積%となるように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に酸化亜鉛を添加し、混練して電界集中抑制材料を得た。
【0045】
図3、図4に示すように、10μmのギャップを開けたガラス平板5a、5b間に電界集中抑制材料1を充填するとともに、針電極6および平面電極7をそれらの間隔が2mmとなるように挟み込み、針−平面電極を形成した。この針−平面電極に交流電圧を印加し、絶縁破壊するまでの時間を測定した。なお、印加電圧は周波数50Hz、20kVrmsとした。
【0046】
また比較のために、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のみのもの、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に平均粒径1μmのアルミナ ALO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を全体体積に対して20体積%となるように含有させたものを作製し、同様の測定を行った。結果を図6に示す。
【0047】
図6に示すように、アルミナを含有させたものに比べて、酸化亜鉛を含有させたものは、絶縁破壊するまでの時間が5割程度長くなることが認められた。絶縁破壊は針電極先端から電気トリーが成長し、電極間を短絡することによって起きる。本発明のように樹脂材料中に印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材を含有させることで、針電極の先端部分の電界を緩和し、トリーの進展を抑制することにより絶縁破壊までの時間を大幅に延長することが可能となる。
【0048】
なお、本実施例では印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材として酸化亜鉛を用いた例を示したが、このような効果は酸化亜鉛に限られず、印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものであれば得られるものであり、例えば炭化珪素や酸化錫等の充填材についても同様の効果が得られる。
【0049】
(実施例3)
図7は、マイカ板8の作製例を示したものである。以下、マイカ板8の作製例について説明する。
【0050】
まず、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材3として酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)、無機充填材4としてアスペクト比1:2000、平均最大粒径200μmの鱗片状マイカを用意し、両者を溶媒中に均一に分散させた後、目の細かいクロスですき、マイカと酸化亜鉛とからなるマイカペーパー9を作製した。
【0051】
このマイカペーパー9とガラスクロス10とを張り合わせた後、エポキシ樹脂2を含浸させ、プレス処理することによりマイカ板8を得た。
【0052】
無機充填材4として鱗片状のマイカを用いることで、バリア効果によるトリー成長抑制効果を得ることができる。さらに、非線形抵抗を持つ充填材3としての酸化亜鉛の効果により、マイカ間の電気トリーの成長も抑制することもできる。
【0053】
なお、本実施例では無機充填材4としてマイカを用いたが、マイカに代えてシリカやアルミナなどを用いても同様の効果を得ることができる。また、マイカと共にあるいはそれに代えてナノ微粒子を用いても、トリー成長抑制効果が期待できる。
【0054】
(実施例4)
本発明の電界集中抑制材料を塗料として用いた例について説明する。樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、硬化剤としての酸無水物硬化剤および印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材としての酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を、遊星型混練機で混練して電界集中抑制材料を得た。なお、酸化亜鉛は全体体積に対して60体積%となるようにした。
【0055】
さらに、トルエンとメチルエチルケトンとを重量比で7:3の割合で配合した溶剤を用意し、上述した電界集中抑制材料と溶剤とを重量比で8:2となるように配合し、フラスコ内で1時間混練し塗料を得た。
【0056】
図8に示すように、導体層11の両面に形成された絶縁層12、13上にこの塗料を塗布し、約180℃にて5時間硬化させて塗膜14、15を形成し、さらに電極16を設けた。この導体層11と電極16との間に50Hz交流電圧をかけ、放電の発生を観測した。また、比較のため塗膜を形成しない以外は同様の構成を有するものを作製し、測定を行った。
【0057】
その結果、本塗料を塗布しなかったものは約40kVrmsで電極から放電が発生したのに対して、本塗料を塗布したものは75kVrmsで放電が発生し、本塗料を用いることにより放電の発生電圧を大幅に向上できることが認められた。
【0058】
(実施例5)
本発明の電界集中抑制材料をフィルム状の部材とした例について説明する。樹脂材料として高密度ポリエチレンを用意し、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材として酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を用意した。酸化亜鉛は吸着水分を取り除くため100℃で1時間加熱処理した。
【0059】
高密度ポリエチレンと酸化亜鉛とを、全体体積に対して酸化亜鉛が10体積%となるように配合し、140℃で15分間混練し、30℃に冷却した後、3mm角に裁断した。このような140℃での混練、冷却、裁断を3度行った後、これを150℃で10分間ホットプレスし、フィルム状の電界集中抑制部材を作製した。
【0060】
このようにして作製したフィルム状電界集中抑制部材は、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材を含有するため、トリーが進展する際のトリー先端部分の電界を緩和し、トリーの進展を有効に抑制することができる。
【0061】
(実施例6)
本発明の電界集中抑制材料をガラスクロスに含浸させたシート状部材の例について説明する。樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材としての酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を、溶剤であるメチルエチルケトンに添加し、攪拌器で30分間混合して電界集中抑制材料を作製した。なお、酸化亜鉛は全体体積に対して10体積%となるように配合した。
【0062】
図9に示すように、この電界集中抑制材料をガラスクロス17に含浸させ、150℃でプレス硬化することによって、シート状部材を得た。
【0063】
このようなシート状部材は印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材を含むためトリーの成長が抑制でき、またガラスクロスに含浸させているため機械的強度も確保することができる。また、このようなシート状部材は複数枚積層してプレス硬化して、積層板とすることも可能である。
【0064】
(実施例7)
図10は、本発明の電界集中抑制材料を用いた樹脂板18の作製例を示したものである。樹脂板18は、例えば次のようにして作製される。
【0065】
樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材としての酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を、全体体積に対して酸化亜鉛が10体積%となるように配合して攪拌器で30分間混合して電界集中抑制材料を作製する。
【0066】
図10に示すように、上型19と下型20との間に電界集中抑制材料を流し込み、150℃で加熱硬化することにより樹脂板18を作製する。このようにして作製された樹脂板18は、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材を含むため、優れたトリー成長抑制機能を示す。
【0067】
(実施例8)
図11は、電気機器の一例としてのモールドコイル21の作製例を示した断面図である。このようなモールドコイル21は、例えば以下のようして作製することができる。
【0068】
まず、実施例7と同様にして一方の面に凹凸部を有する樹脂板18を作製する。樹脂板18の一方の面に凹凸部を形成するには、例えば図10に示されるように、一方の金型である下型20に凹凸部を設けて成形を行えばよい。
【0069】
樹脂板18を角筒22の外側に貼り付けた後、樹脂板18の凹部に沿って銅線23を巻きつけ、これらを金型に入れエポキシ樹脂24を流し込み硬化させる。
【0070】
このようなモールドコイル21によれば、銅線23から発生したトリーの成長を有効に抑制することにより、寿命の長いモールドコイルとすることができる。
【0071】
(実施例9)
図12は、電気機器の一例としての固定子コイル25の作製例を示したものである。固定子コイル25は、実施例3と同様にして作製したマイカ板と実施例5と同様にして作製したシート状部材とを張り合わせた積層部材26を、積み重ねた角型導体27の周囲に配することによって作製することができる。
【0072】
このようにして製造した固定子コイル25においては、積層部材26が優れたトリー成長抑制機能を示し、積層部材26の厚さを薄くすることもできるため、寿命が長くかつ小型な固定子コイル25とすることが可能となる。
【0073】
なお、本実施例ではマイカ板とシート状部材とを組み合わせた例を示したが、このようなものに限られず上述したようなフィルム状部材、テープ状部材、マイカ板、シート状部材等を適宜選択して組み合わせて使用することができ、また従来のマイカペーパー等と組み合わせて用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の電界集中抑制材料を示した断面図
【図2】本発明の他の電界集中抑制材料を示した断面図
【図3】本発明の電界集中抑制材料の特性評価に用いた装置を示した平面図
【図4】本発明の電界集中抑制材料の特性評価に用いた装置を示した断面図
【図5】トリー発生電圧を示した図
【図6】絶縁破壊までの時間を示した図
【図7】マイカ板の作製例を示した断面図
【図8】塗膜の特性評価に用いた装置を示した断面図
【図9】シート状部材の作製例を示した断面図
【図10】樹脂板の作製過程を示した断面図
【図11】モールドコイルの作製例を示した断面図
【図12】固定子コイルの作製例を示した断面図
【符号の説明】
【0075】
1…電界集中抑制材料、2…樹脂材料、3…樹脂材料に対して導電性を有する充填材または印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材、4…無機充填材
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界が印加された際の電界の集中を緩和することによって電気的絶縁の劣化が抑制された電界集中抑制材料およびそれを用いた電界集中抑制部材、電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に使用される絶縁材料の劣化形態として電気的な劣化があり、その一部はトリーイングを伴う劣化パターンを示す。トリーイングとは、絶縁材料中に高電界が生じると電極端や絶縁材料中の不純物などを起点として放電を伴いながら絶縁材料を溶解あるいは炭化させる現象を言う。
【0003】
従来より、トリーの進展を止めるためにフィルム材料を積層した構造やマイカやシリカ等を充填した絶縁材料が使用されている。例えば、絶縁コイルにおいて、小さなマイカフレークを有する層を含むテープ形状またはシート形状の絶縁材料につき、マイカフレーク層の空間に配置される樹脂層中に、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、炭化珪素等の5W/mK以上の熱伝導率を有し、その少なくとも90重量%が粒径0.1〜15μmである粒子を含有させることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、棒状のコアおよびこのコアの外周に設けられる一次スプール、二次スプールからなる点火コイルにおいて、これら一次スプール、二次スプールの少なくともいずれか一方を樹脂基材にガラス繊維およびシリカを添加して形成し、絶縁材料であるスプールの絶縁破壊を抑制している(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、フィルムを積層したような構造の絶縁材料では、製造法の制限が大きく、適用できる部材が限定されてしまう。また、マイカやシリカ等を充填した絶縁材料では、電気的劣化に対する寿命が十分でないなどの課題がある。
【特許文献1】特開昭63−110929号公報
【特許文献2】特開2002−374646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述したような課題を解決するためになされたものであって、電界が印加された際の電界の集中を緩和することによってトリーイングの発生を抑制し、長寿命化が可能な電界集中抑制材料およびそれを用いた電界集中抑制部材、電気機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電界集中抑制材料は、樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、充填材は樹脂材料と比較して導電性を有するものであることを特徴とする。また、本発明の電界集中抑制材料は、樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、充填材は印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものであることを特徴とする。
【0008】
本発明の電界集中抑制部材は、上述したような電界集中抑制材料を塗料状、フィルム状もしくはテープ状、または、型に入れ硬化させてなることを特徴とする。また、本発明の電気機器は上述したような電界集中抑制材料または電界集中抑制部材を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電界集中抑制材料によれば、樹脂材料中にこれよりも導電性の高い充填材または印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材を含有させることで、電界が印加された際の電界の集中を緩和し、部分放電、トリーイング等の発生を抑制し、優れた絶縁特性を長期間維持することが可能となる。
【0010】
また、このような電界集中抑制材料を用いて電界集中抑制部材、電気機器を作製することで、電界集中抑制部材、電気機器の製造が容易になると共に、それらの絶縁特性を維持し、長寿命化することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の電界集中抑制材料1の一例を示した概略図である。本発明の電界集中抑制材料1は、樹脂材料2と、この樹脂材料2に分散された充填材3とからなるものである。
【0013】
樹脂材料2としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等が用いられる。エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0014】
充填材3は、上述した樹脂材料2と比較して導電性を有するものである。上述した樹脂材料2の抵抗率ρがおおよそ1019〜1024[μΩ・cm]であるため、導電性を有する充填材3はこれよりも抵抗率ρが低いものであればよい。導電性を有する充填材3は、例えば抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下であれば好ましく、10[μΩ・cm]以下であればより好ましい。
【0015】
このような充填材3としては、例えばカーボン(102[μΩ・cm])、四三酸化鉄(106[μΩ・cm])、酸化クロム(1013[μΩ・cm])、酸化チタン(1018[μΩ・cm])、金(2.35[μΩ・cm])、銀(1.59[μΩ・cm])、銅(1.673[μΩ・cm])および鉄(9.71[μΩ・cm])が挙げられ、これは1種のみで用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
上述した充填材3としては市販されているものを用いてもよく、このようなものとしては例えば酸化クロムとしてCRO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)、酸化チタンとしてTIO 06PB((株)高純度化学研究所製 商品名)等が挙げられる。
【0017】
本発明の電界集中抑制材料1では、充填材3の導電性を樹脂材料2の導電性よりも高いものとすることで、高電界が印加された場合であってもその集中を緩和し、部分的な放電、トリーイングの発生を抑制し、絶縁特性を長期間維持することが可能となる。
【0018】
本発明においては充填材3として上述したような導電性を有するものと共に、あるいはこれに代えて、印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものを用いてもよい。印加電界に対して非線形抵抗特性を持つとは、一定の電界未満のときには導電性を示さず、一定の電界以上となったときに一定の導電性を示すものをいう。
【0019】
電界集中抑制材料1にこのような非線形抵抗特性を有する充填材3を分散させることで、高い電界が印加された際にその部分の充填材3のみを導電性を有するものとすることができ、電界集中抑制材料1全体として高い絶縁特性を維持したまま、電界の集中を有効に緩和し、部分的な放電、トリーイングの発生を抑制し、絶縁特性を長期間維持することが可能となる。
【0020】
非線形抵抗特性を持つ充填材3は、例えば電界の強さが103[kV・m−1]以上となったときに、抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となるものであれば好ましく、10[μΩ・cm]以下となるものであればさらに好ましい。
【0021】
このような非線形抵抗特性を持つ充填材3としては、具体的には酸化亜鉛、炭化珪素および酸化錫等が挙げられる。酸化亜鉛は電界の強さが2×103[kV・m−1]以上で抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となり、炭化珪素は電界の強さが103[kV・m−1]以上で抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となり、酸化錫は電界の強さが103[kV・m−1]以上で抵抗率ρが100[μΩ・cm]以下となる。このような非線形抵抗特性を持つ充填材3は、1種のみで用いてもよいし、2以上を混合して用いてもよい。
【0022】
上述した非線形抵抗特性を持つ充填材3としては市販されているものを用いてもよく、酸化亜鉛としてZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)、炭化珪素として#3000 SiC(信濃電気製錬(株)製 商品名)、酸化錫としてSNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)等が挙げられる。
【0023】
導電性または非線形抵抗特性を有する充填材3は、平均粒径が0.001μm〜100μmであれば好ましく、0.1μm〜10μmであればより好ましい。平均粒径が0.001μm未満であると高電界が印加された際に電界の集中が十分に緩和されず、部分的な放電の発生を十分に抑制することが困難となるおそれがあり好ましくない。平均粒径が100μmを超えると、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性が十分でなくなり、またフィルム状への成形が困難となるおそれがあるため好ましくない。
【0024】
電界集中抑制材料1における充填材3の含有量は、電界集中抑制材料1の全体体積に対して5体積%以上、33体積%以下とすることが好ましい。充填材3の含有量が5体積%未満であると高電界が印加された際に電界の集中を十分に緩和することができず、部分的な放電の発生を抑制することが困難となるおそれがあるため好ましくない。33体積%を超えると、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性が十分でなくなるおそれがあるため好ましくない。
【0025】
本発明の電界集中抑制材料1においては、上述したような樹脂材料2および充填材3の他に、必要に応じて樹脂材料を硬化させるための硬化剤、硬化促進剤、粘度を調整するための溶剤等を適宜添加することが好ましい。
【0026】
また、本発明の電界集中抑制材料1には、例えば図2に示すように、樹脂材料2および導電性あるいは非線形抵抗特性を有する充填材3の他に、無機充填材4を含有させてもよい。
【0027】
このような無機充填材4を含有させることで、電界が印加された際の電界の集中をさらに緩和し、部分的な放電を抑制することができると共に、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性も向上させることができる。
【0028】
無機充填材4は絶縁物であればよく、例えばマイカ、アルミナ(Al2O3)、窒化ホウ素(BN)が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
無機充填材4はアスペクト比1:10以上の鱗片状無機充填材が好適に用いられる。このようなアスペクト比を有する鱗片状無機充填材4を用いることで、電界集中抑制材料1の部分的な放電をさらに抑制し、電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性も向上させることができる。
【0030】
電界集中抑制材料1に無機充填材4を含有させる場合には、電界集中抑制材料1の全体体積に対して無機充填材4の含有量が60体積%以上となるようにすれば好ましい。無機充填材4の含有量をこのようなものとすることで、電界集中抑制材料1の部分的な放電の抑制および電界集中抑制材料1全体として見た場合の絶縁特性を十分なものとすることができる。
【0031】
なお、電界集中抑制材料1に無機充填材4を含有させる場合、導電性あるいは非線形抵抗特性を持つ充填材3は、電界集中抑制材料1の全体体積から無機充填材4の体積を除いた体積に対して5体積%以上、33体積%以下の含有量とすることが好ましい。
【0032】
上述した本発明の電界集中抑制材料1は、例えば樹脂材料2中に導電性を有する充填材3および非線形抵抗特性を持つ充填材3のうち少なくとも一方を所定量添加して十分に混合することによって製造することができる。また、無機充填材4を含有させる場合には、樹脂材料2中に導電性を有する充填材3および非線形抵抗特性を持つ充填材3のうち少なくとも一方を所定量添加するとともに、無機充填材4を所定量添加して十分に混合することによって製造することができる。
【0033】
このようにして得られた電界集中抑制材料1は、例えばそのままの状態でコイルに含浸、硬化させて用いることができる。また、本発明の電界集中抑制材料1は樹脂材料2中に導電性を有する充填材3および非線形抵抗特性を持つ充填材3のうち少なくとも一方を添加したものであるため、従来のフィルムを積層したような構造の絶縁材料に比べて適用できる用途、部材の制限が少なく、各種の用途、部材に適用することが可能である。
【0034】
例えば電界集中抑制材料1に他の樹脂材料、溶剤等を添加して塗料状とし、絶縁させようとする物に塗布して絶縁性の塗膜を形成するようにして用いてもよい。また、電界集中抑制材料1は薄く延ばした後に硬化させてフィルム状部材としてもよいし、このようにフィルム状部材とした後に少なくとも一方の主面に粘着性材料を塗布してテープ状部材とし、絶縁させようとする物に巻回、貼着するようにして用いてもよい。これらフィルム状部材、テープ状部材は単独で用いてもよいし、複数枚を積層して用いてもよい。
【0035】
さらに、電界集中抑制材料1はガラスクロス等に含浸、硬化させてシート状部材として用いてもよい。また、電界集中抑制材料1を型に注入し、硬化させて所定の形状を有する部材の作製に用いてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の電界集中抑制材料、電界集中抑制部材、電気機器について、実施例を参照して具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、この樹脂材料に比較して導電性を有する充填材として、平均粒径1μmの酸化クロム CRO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を用意した。
【0038】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸化クロムとの合計体積に対して酸化クロムが20体積%となるように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸化クロムとを配合し、混練して電界集中抑制材料を得た。
【0039】
図3、図4に示すように、10μmのギャップを開けたガラス平板5a、5b間に電界集中抑制材料1を充填するとともに、針電極6および平面電極7をそれらの間隔が2mmとなるように挟み込み、針−平面電極を形成した。この針−平面電極に交流電圧を印加し、2kV/sで上昇させて部分放電発生電圧を測定した。なお、部分放電発生電圧の測定は、電流パルス法を用いて行った。
【0040】
また比較のために、酸化クロムを含有させずに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のみを用いて同様の測定を行った。結果を図5に示す。
【0041】
図5に示すように、酸化クロムを含有させたものは、酸化クロムを含有させなかったものに比較して、部分放電発生電圧が約2倍となることが認められた。一般に部分放電は針電極の先端部分から発生するものであるため、本発明のように樹脂材料中に導電性の充填材を含有させることで、針電極の先端部分の電界を緩和し、部分放電が発生する電圧を上昇させることが可能となる。
【0042】
なお、本実施例では樹脂材料に比較して導電性を有する充填材として酸化クロムを用いた例を示したが、このような効果は酸化クロムに限られず、導電性を有するものであれば得られるものであり、例えばカーボン、四三酸化鉄、酸化チタン、金、銀、銅および鉄等の充填材を用いても同様の効果が得られる。
【0043】
(実施例2)
樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材としての平均粒径1μmの酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を用意した。
【0044】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸化亜鉛との合計体積に対して酸化亜鉛が20体積%となるように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に酸化亜鉛を添加し、混練して電界集中抑制材料を得た。
【0045】
図3、図4に示すように、10μmのギャップを開けたガラス平板5a、5b間に電界集中抑制材料1を充填するとともに、針電極6および平面電極7をそれらの間隔が2mmとなるように挟み込み、針−平面電極を形成した。この針−平面電極に交流電圧を印加し、絶縁破壊するまでの時間を測定した。なお、印加電圧は周波数50Hz、20kVrmsとした。
【0046】
また比較のために、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のみのもの、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に平均粒径1μmのアルミナ ALO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を全体体積に対して20体積%となるように含有させたものを作製し、同様の測定を行った。結果を図6に示す。
【0047】
図6に示すように、アルミナを含有させたものに比べて、酸化亜鉛を含有させたものは、絶縁破壊するまでの時間が5割程度長くなることが認められた。絶縁破壊は針電極先端から電気トリーが成長し、電極間を短絡することによって起きる。本発明のように樹脂材料中に印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材を含有させることで、針電極の先端部分の電界を緩和し、トリーの進展を抑制することにより絶縁破壊までの時間を大幅に延長することが可能となる。
【0048】
なお、本実施例では印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材として酸化亜鉛を用いた例を示したが、このような効果は酸化亜鉛に限られず、印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものであれば得られるものであり、例えば炭化珪素や酸化錫等の充填材についても同様の効果が得られる。
【0049】
(実施例3)
図7は、マイカ板8の作製例を示したものである。以下、マイカ板8の作製例について説明する。
【0050】
まず、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材3として酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)、無機充填材4としてアスペクト比1:2000、平均最大粒径200μmの鱗片状マイカを用意し、両者を溶媒中に均一に分散させた後、目の細かいクロスですき、マイカと酸化亜鉛とからなるマイカペーパー9を作製した。
【0051】
このマイカペーパー9とガラスクロス10とを張り合わせた後、エポキシ樹脂2を含浸させ、プレス処理することによりマイカ板8を得た。
【0052】
無機充填材4として鱗片状のマイカを用いることで、バリア効果によるトリー成長抑制効果を得ることができる。さらに、非線形抵抗を持つ充填材3としての酸化亜鉛の効果により、マイカ間の電気トリーの成長も抑制することもできる。
【0053】
なお、本実施例では無機充填材4としてマイカを用いたが、マイカに代えてシリカやアルミナなどを用いても同様の効果を得ることができる。また、マイカと共にあるいはそれに代えてナノ微粒子を用いても、トリー成長抑制効果が期待できる。
【0054】
(実施例4)
本発明の電界集中抑制材料を塗料として用いた例について説明する。樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、硬化剤としての酸無水物硬化剤および印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材としての酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を、遊星型混練機で混練して電界集中抑制材料を得た。なお、酸化亜鉛は全体体積に対して60体積%となるようにした。
【0055】
さらに、トルエンとメチルエチルケトンとを重量比で7:3の割合で配合した溶剤を用意し、上述した電界集中抑制材料と溶剤とを重量比で8:2となるように配合し、フラスコ内で1時間混練し塗料を得た。
【0056】
図8に示すように、導体層11の両面に形成された絶縁層12、13上にこの塗料を塗布し、約180℃にて5時間硬化させて塗膜14、15を形成し、さらに電極16を設けた。この導体層11と電極16との間に50Hz交流電圧をかけ、放電の発生を観測した。また、比較のため塗膜を形成しない以外は同様の構成を有するものを作製し、測定を行った。
【0057】
その結果、本塗料を塗布しなかったものは約40kVrmsで電極から放電が発生したのに対して、本塗料を塗布したものは75kVrmsで放電が発生し、本塗料を用いることにより放電の発生電圧を大幅に向上できることが認められた。
【0058】
(実施例5)
本発明の電界集中抑制材料をフィルム状の部材とした例について説明する。樹脂材料として高密度ポリエチレンを用意し、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材として酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を用意した。酸化亜鉛は吸着水分を取り除くため100℃で1時間加熱処理した。
【0059】
高密度ポリエチレンと酸化亜鉛とを、全体体積に対して酸化亜鉛が10体積%となるように配合し、140℃で15分間混練し、30℃に冷却した後、3mm角に裁断した。このような140℃での混練、冷却、裁断を3度行った後、これを150℃で10分間ホットプレスし、フィルム状の電界集中抑制部材を作製した。
【0060】
このようにして作製したフィルム状電界集中抑制部材は、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材を含有するため、トリーが進展する際のトリー先端部分の電界を緩和し、トリーの進展を有効に抑制することができる。
【0061】
(実施例6)
本発明の電界集中抑制材料をガラスクロスに含浸させたシート状部材の例について説明する。樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材としての酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を、溶剤であるメチルエチルケトンに添加し、攪拌器で30分間混合して電界集中抑制材料を作製した。なお、酸化亜鉛は全体体積に対して10体積%となるように配合した。
【0062】
図9に示すように、この電界集中抑制材料をガラスクロス17に含浸させ、150℃でプレス硬化することによって、シート状部材を得た。
【0063】
このようなシート状部材は印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材を含むためトリーの成長が抑制でき、またガラスクロスに含浸させているため機械的強度も確保することができる。また、このようなシート状部材は複数枚積層してプレス硬化して、積層板とすることも可能である。
【0064】
(実施例7)
図10は、本発明の電界集中抑制材料を用いた樹脂板18の作製例を示したものである。樹脂板18は、例えば次のようにして作製される。
【0065】
樹脂材料としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂 EP828(油化シェル製 商品名)、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材としての酸化亜鉛 ZNO 01PB((株)高純度化学研究所製 商品名)を、全体体積に対して酸化亜鉛が10体積%となるように配合して攪拌器で30分間混合して電界集中抑制材料を作製する。
【0066】
図10に示すように、上型19と下型20との間に電界集中抑制材料を流し込み、150℃で加熱硬化することにより樹脂板18を作製する。このようにして作製された樹脂板18は、印加電界に対して非線形抵抗を持つ充填材を含むため、優れたトリー成長抑制機能を示す。
【0067】
(実施例8)
図11は、電気機器の一例としてのモールドコイル21の作製例を示した断面図である。このようなモールドコイル21は、例えば以下のようして作製することができる。
【0068】
まず、実施例7と同様にして一方の面に凹凸部を有する樹脂板18を作製する。樹脂板18の一方の面に凹凸部を形成するには、例えば図10に示されるように、一方の金型である下型20に凹凸部を設けて成形を行えばよい。
【0069】
樹脂板18を角筒22の外側に貼り付けた後、樹脂板18の凹部に沿って銅線23を巻きつけ、これらを金型に入れエポキシ樹脂24を流し込み硬化させる。
【0070】
このようなモールドコイル21によれば、銅線23から発生したトリーの成長を有効に抑制することにより、寿命の長いモールドコイルとすることができる。
【0071】
(実施例9)
図12は、電気機器の一例としての固定子コイル25の作製例を示したものである。固定子コイル25は、実施例3と同様にして作製したマイカ板と実施例5と同様にして作製したシート状部材とを張り合わせた積層部材26を、積み重ねた角型導体27の周囲に配することによって作製することができる。
【0072】
このようにして製造した固定子コイル25においては、積層部材26が優れたトリー成長抑制機能を示し、積層部材26の厚さを薄くすることもできるため、寿命が長くかつ小型な固定子コイル25とすることが可能となる。
【0073】
なお、本実施例ではマイカ板とシート状部材とを組み合わせた例を示したが、このようなものに限られず上述したようなフィルム状部材、テープ状部材、マイカ板、シート状部材等を適宜選択して組み合わせて使用することができ、また従来のマイカペーパー等と組み合わせて用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の電界集中抑制材料を示した断面図
【図2】本発明の他の電界集中抑制材料を示した断面図
【図3】本発明の電界集中抑制材料の特性評価に用いた装置を示した平面図
【図4】本発明の電界集中抑制材料の特性評価に用いた装置を示した断面図
【図5】トリー発生電圧を示した図
【図6】絶縁破壊までの時間を示した図
【図7】マイカ板の作製例を示した断面図
【図8】塗膜の特性評価に用いた装置を示した断面図
【図9】シート状部材の作製例を示した断面図
【図10】樹脂板の作製過程を示した断面図
【図11】モールドコイルの作製例を示した断面図
【図12】固定子コイルの作製例を示した断面図
【符号の説明】
【0075】
1…電界集中抑制材料、2…樹脂材料、3…樹脂材料に対して導電性を有する充填材または印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材、4…無機充填材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、前記充填材は前記樹脂材料と比較して導電性を有するものであることを特徴とする電界集中抑制材料。
【請求項2】
前記導電性を有する充填材は、カーボン、四三酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン、金、銀、銅および鉄から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載の電界集中抑制材料。
【請求項3】
樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、前記充填材は印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものであることを特徴とする電界集中抑制材料。
【請求項4】
前記印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材は、酸化亜鉛、炭化珪素および酸化錫から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項3記載の電界集中抑制材料。
【請求項5】
アスペクト比1:10以上の鱗片状無機充填材を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の電界集中抑制材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の電界集中抑制材料を塗料状にしてなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記電界集中抑制材料をフィルム状またはテープ状にしてなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記電界集中抑制材料をガラスクロスに含浸してなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記電界集中抑制材料を型に入れ、硬化してなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載の電界集中抑制材料または電界集中抑制部材を用いてなることを特徴とする電気機器。
【請求項1】
樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、前記充填材は前記樹脂材料と比較して導電性を有するものであることを特徴とする電界集中抑制材料。
【請求項2】
前記導電性を有する充填材は、カーボン、四三酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン、金、銀、銅および鉄から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載の電界集中抑制材料。
【請求項3】
樹脂材料中に充填材を分散させた複合材料であって、前記充填材は印加電界に対して非線形抵抗特性を有するものであることを特徴とする電界集中抑制材料。
【請求項4】
前記印加電界に対して非線形抵抗特性を有する充填材は、酸化亜鉛、炭化珪素および酸化錫から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項3記載の電界集中抑制材料。
【請求項5】
アスペクト比1:10以上の鱗片状無機充填材を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の電界集中抑制材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の電界集中抑制材料を塗料状にしてなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記電界集中抑制材料をフィルム状またはテープ状にしてなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記電界集中抑制材料をガラスクロスに含浸してなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記電界集中抑制材料を型に入れ、硬化してなることを特徴とする電界集中抑制部材。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載の電界集中抑制材料または電界集中抑制部材を用いてなることを特徴とする電気機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−134587(P2006−134587A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318875(P2004−318875)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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