説明

電着塗装用エマルション塗料及び電着塗膜

【課題】薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性を向上させ得る電着塗装用エマルション塗料及びこれを用いて形成される電着塗膜を提供すること。
【解決手段】電着塗装用エマルション塗料は、ナノ粒子複合体を含有する電着塗装用エマルション塗料であって、ナノ粒子複合体が、フラーレン、その誘導体、擬フラーレンなどのフラーレン類部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位と、を含む。
電着塗膜は、電着塗装用エマルション塗料を用いて電着塗装により形成される。電着塗装用エマルション塗料は、ナノ粒子複合体を含有する電着塗装用エマルション塗料であって、ナノ粒子複合体が、フラーレン、その誘導体、擬フラーレンなどのフラーレン類部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装用エマルション塗料及び電着塗膜に係り、更に詳細には、薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性を向上させ得るフラーレン類含有電着塗装用エマルション塗料及びこれを用いて形成される電着塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車用塗装においては、防錆性、塗装性、美観などを付与するため、鉄、アルミニウム、亜鉛系めっきが施された金属などの金属表面や、それら金属表面に更にリン酸亜鉛などを用いて化成処理が施された化成処理表面に対して、カチオン電着塗装が行われている(特許文献1〜3参照。)。
【0003】
一方、両末端にフルオロアルキル基を有する高分子界面活性剤等について様々な研究がなされている(非特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特開2002−294143号公報
【特許文献2】特開2003−336007号公報
【特許文献3】特開2004−307773号公報
【非特許文献1】沢田英夫ら(H.Sawada et al.)、ジャーナル オブ コロイド アンド インターフェイス サイエンス(J.Colloid Interface Sci.)、2003年、263、1
【非特許文献2】沢田英夫ら、「ナノレベル構造制御フッ素系分子集合体の構築とコーティング表面改質」、日本学術会議 第11回界面シンポジウム講演予稿集、2004年、p.63‐85
【非特許文献3】沢田英夫ら(H.Sawada et al.)、ポリマー アドバンスト テクノロジー(polym. Adv. Tech.)、2005年、16、655
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動車用塗装において、カチオン電着塗装を適用する場合、その電着塗膜の薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性については改善の余地があった。
即ち、自動車などの複雑な構造体においては、電着塗装時における生産上の様々な制約から、構造体内面の塗膜厚みが十分意図した厚みにならないことがあり、そのような状況下では、電着塗装用の塗料のみでは目標とする防錆性能を満足できなくなることがあった。
また、高温の排気ガスが排気管を通過する際など、熱負荷環境下では、電着塗膜の酸化、ラジカル反応による電着塗膜基体樹脂の劣化、分解反応による防錆性能の低下などが生じることがあった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性を向上させ得る電着塗装用エマルション塗料及びこれを用いて形成される電着塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねたところ、電着塗装用エマルション塗料に、フラーレン類部位と親水基及び両末端のフルオロアルキル基を有する鎖状オリゴマー部位とを含むナノ粒子複合体を含有させることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の電着塗装用エマルション塗料は、ナノ粒子複合体を含有する電着塗装用エマルション塗料であって、該ナノ粒子複合体が、フラーレン、その誘導体及び擬フラーレンから成る群より選ばれた少なくとも1種のフラーレン類部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の電着塗装用エマルション塗料の好適形態は、ナノ粒子複合体を含有する電着塗装用エマルション塗料であって、該ナノ粒子複合体が、フラーレン、その誘導体及び擬フラーレンから成る群より選ばれた少なくとも1種のフラーレン類部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位と、シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位と、を含むと共に、該シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位の全部又は一部が該フラーレン類部位の全部又は一部を包接することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の電着塗膜は、上記本発明の電着塗装用エマルション塗料を用いて電着塗装により形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電着塗装用エマルション塗料に、フラーレン類部位と親水基及び両末端のフルオロアルキル基を有する鎖状オリゴマー部位とを含むナノ粒子複合体を含有させることなどとしたため、薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性を向上させ得る電着塗装用エマルション塗料及びこれを用いて形成される電着塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の電着塗装用エマルション塗料について説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「ナノ粒子複合体」とは、代表的には、その大きさがナノオーダーの複合体を意味するが、必ずしもナノオーダーである必要はなく、粒径0.5nm〜1μm程度の大きさのものも包含するものとする。
また、「複合体」には、分子集合体も包含するものとする。
更に、濃度や含有量などについての「%」は、質量百分率を表わすものとする。
【0012】
上述の如く、本発明の電着塗装用エマルション塗料は、ナノ粒子複合体を含有する電着塗装用エマルション塗料であって、ナノ粒子複合体が、フラーレン、その誘導体又は擬フラーレン、及びこれらの任意に組み合せに係るフラーレン類部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位と、を含むものである。
このような電着塗装用エマルション塗料は、これを用いて電着塗装により形成した電着塗膜の薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性を向上させることができる。
【0013】
なお、本発明の電着塗装用エマルション塗料によって形成される電着塗膜の薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性が改善されるメカニズムについては、必ずしも明らかではないが、現時点においては、これらナノ粒子複合体に含まれるフラーレン類が、以下に記載した機能を発揮していることを推定している。
[1]薄膜耐食性が向上するメカニズム
カーボンブラック、フラーレン、擬フラーレン(フラーレン製造時の副生炭素粒子)の粉体抵抗は、それそれ1、1億〜100兆、100〜100万Ωcmであり、フラーレン又は擬フラーレンの粉体抵抗は、通常使用されるカーボンブラックの粉体抵抗より著しく高い。そこで、塗膜中のカーボンブラックを、フラーレンや擬フラーレンで置換した場合、塗膜抵抗が上昇するため、腐食反応の半反応であるカソード反応を著しく抑制することができ、塗膜の耐食性を向上させる。
[2]耐熱耐食性が向上するメカニズム
フラーレン又は擬フラーレンの特徴の1つとして、ラジカルスカベンジャー効果が知られている。ポリマーの劣化の多くの場合は、ラジカル経由であるため、耐熱耐食性の向上は本効果の影響と推定される。
【0014】
上記フラーレン類の塗料中における含有量としては、乾燥塗膜中に0.01〜5%となるように、塗料中に含まれていることが好ましい。
フラーレン類の含有量が0.01%未満である場合には、目的とする効果がほとんど認められず、5%を超える場合には、塗膜の機械的強度、または平滑性を著しく損うといった不都合が生じる傾向がある。
なお、このようなフラーレン含有量とするため、塗料中のナノ粒子複合体の含有量は、0.1〜10%であることが好ましい。
【0015】
ここで、フラーレンとしては、典型的にはC60などを挙げることができるが、これに限定されるものでないことは言うまでもない。即ち、例えば炭素数が「孤立5員環則」に従うC70、C74、C76、C78、C80、C82などの高次フラーレンを挙げることもできる。
【0016】
また、擬フラーレンとしては、例えば[1]有機溶媒に不溶であり、且つCuKα線を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で、最も強いピークが回折角10〜18°の範囲内に存在すること、[2]有機溶媒に不溶な性質として、室温にて、炭素材料に対して質量比で90倍の1,2,4−トリメチルベンゼンを加えて、撹拌、濾過した後、150℃で10時間真空乾燥した後の炭素材料の重量差が5%以下である特性を備えていること、[3]CuKα線を使用したX線回折測定結果における回折角23〜27°の範囲内にピークが存在しないこと、[4]励起波長514.5nmでのラマンスペクトル結果において、バンドG1590±20cm−1とバンドD1340±40cm−1にピークを有し、それぞれのバンドのピーク強度をI(G)及びI(D)とするとき、ピーク強度比(I(D)/I(G))が0.4〜1.0の範囲内であること、を特徴とする炭素粒子などを用いることができる。
このような擬フラーレンは例えばフラーレン製造時に副生炭素粒子として得ることができる。
【0017】
更に、フラーレンの誘導体としては、例えばグラフト共重合反応によって高分子鎖を導入したものや、酸化物、窒化物などにより誘導される誘導体であって、図1に示すような化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものでないことは言うまでもない。
上述したフラーレン類は、それぞれ単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0018】
また、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位の第1の実施形態としては、次の(1)式
【0019】
【化1】

【0020】
[式(1)中のR’はそれぞれ独立して、水素原子(H)又はアルキル基を示し、Rは、フルオロアルキル基を示し、Xは、親水基であって、それぞれ独立して、ヒドロキシル基(OH基)、イソシアネート基(NCO基)、一級アミノ基(NH基)、二級アミノ基(NHR基(Rはアルキル基を示す。))又はカルボニル基(OCY基(Yは親水基を示す。))を示し、nは1〜10の整数を示し、mは整数であって、1≦m≦nを満足する。]で表される鎖状オリゴマーを挙げることができる。
【0021】
更に、上記(1)式中、Yで示される親水基としては、例えばヒドロキシル基(OH基)、モルホリン基(CON基)、ジメチルアミノ基((CHN基)、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アミノ基(CHC(O)CHC(CHNH基)などを挙げることができるがこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。その他にも、例えばスルホン基(SOH基)などを挙げることもできる。
【0022】
このような鎖状オリゴマーは、塗料中において、自己組織化により分子集合体を形成する。この分子集合体は、フラーレン類のホスト場を提供し、フラーレン類をゲスト分子とする特性を持ち、フラーレン類を分散させることができる。また、含まれる鎖状オリゴマー部位により、フラーレン類を電着塗膜の表面へ配向させることもできる。
【0023】
また、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位の第2の実施形態としては、次の(2)式
【0024】
【化2】

【0025】
[式(2)中のR’はそれぞれ独立して、H又はアルキル基を示し、Rは、フルオロアルキル基を示し、Xは、親水基であって、それぞれ独立して、OH基、NCO基、NH基、NHR基(Rはアルキル基を示す。)又はOCY基(Yは親水基を示す。)を示し、A1、A2、A3及びA4は、それぞれ独立して、フラーレン類を示し、nは1〜10の整数を示し、mは整数であって、1≦m≦nを満足し、h、i、j及びkはそれぞれ独立して、0又は1を示し、1≦h+i(n−m)+jm+k≦n+1を満足する。]で表される鎖状コオリゴマーを挙げることができる。
なお、上記(2)式中、Yで示される親水基としては、上記(1)式中のYと同様ものを挙げることができる。
【0026】
このような鎖状コオリゴマーも、溶媒中において、自己組織化により分子集合体を形成する。この分子集合体は、フラーレン類のホスト場を提供し、フラーレンをゲスト分子とする特性を持ち、フラーレン類をより分散させることができる。また、含まれる鎖状オリゴマー部位により、フラーレン類を電着塗膜の表面へ確実に配向させることもできる。
【0027】
また、上記フルオロアルキル基としては、炭素数2〜10で分子量が119〜1000であるものを好適例として挙げることができる。
典型例としては、パーフルオロアルキル基(CF(CF基(gは1〜9の整数を示す。))を挙げることができるがこれに限定されるものでないことは言うまでもない。即ち、エーテル結合を含むような含酸素フルオロアルキル基であるフルオロエーテル基(C(OCF(CF)CFOC(CF)F基(fは0〜3の整数を示す。))などを挙げることもできる。
【0028】
このようなオリゴマーの分子量は252〜100,000であることが好ましい。
分子量が252未満、または100,000を超える場合には、本用途に適用できないことがある。
【0029】
また、本発明の電着塗装用エマルション塗料は、ナノ粒子複合体がシロキサン結合(−Si−O−)の3次元網目状構造を有する部位を更に含むと共に、そのシロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位の全部又は一部が上述したフラーレン類部位の全部又は一部を包接していてもよい。
このようなナノ粒子複合体は、上述したような分子集合体であるナノ粒子複合体と比較した場合、塗料中において、自己組織化により分子集合体を形成することに関しては同様であるが、予めナノ粒子複合体のシロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位にフラーレン類が包接されており、シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位とがエーテル結合、エステル結合、アミド結合などにより結合しているため、塗料中にフラーレン類以外の他のゲスト分子があったときであっても、フラーレン類をより分散させることができる。
【0030】
なお、このようなフラーレン類部位を包接したシロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位は、コロイダルシリカを用いて形成することが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。このようなコロイダルシリカとしては、粒径が1〜500nmであるものを用いることが好ましく、粒径が1〜10nmであるものを用いることがより好ましい。
また、シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位と、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位とを効率的に結合させるためやフラーレン類を安定的に包接させるために、テトラエトキシシラン(TEOS)を用いることが好ましい。
【0031】
上記のナノ粒子複合体の第1の実施形態としては、例えば次の(3)式
【0032】
【化3】

【0033】
[式(3)中のR’はそれぞれ独立して、H又はアルキル基を示し、Rは、フルオロアルキル基を示し、Xは、親水基であって、それぞれ独立して、OH基、NCO基、NH基、NHR基(Rはアルキル基を示す。)又はOCY基(Yは親水基を示す。)を示し、3D‐SNはシロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位(3次元(3D)シリカネットワーク(SN)部位)を示し、Aはフラーレン類を示し、Bはそれぞれ独立して、O、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(Rはアルキル基を示す。)を示し、nは1〜10の整数を示し、mは整数であって、1≦m≦nを満足する。]で表されるナノ粒子複合体を挙げることができる。
なお、上記(3)式中、Rで示されるフルオロアルキル基やYで示される親水基としては、上記(1)式や(2)式中のものと同様ものを挙げることができる。
【0034】
また、シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位(3次元シリカネットワーク部位)は、フッ素又はケイ素を有する有機鎖を更に有していてもよい。
このようなナノ粒子複合体は、上述したような分子集合体であるナノ粒子複合体と比較した場合、溶媒中において、自己組織化により分子集合体を形成することに関しては同様であるが、電着塗膜における表面への配向性をより向上させることができる。
【0035】
なお、このようなフッ素又はケイ素を有する有機鎖は、ポリシランやフルオロアルコールを付加することにより導入できる。
【0036】
上記のナノ粒子複合体の第2の実施形態としては、例えば次の(4)式
【0037】
【化4】

【0038】
[式(4)中のR’はそれぞれ独立して、H又はアルキル基を示し、Rは、フルオロアルキル基を示し、Xは、親水基であって、それぞれ独立して、OH基、NCO基、NH基、NHR基(Rはアルキル基を示す。)又はOCY基(Yは親水基を示す。)を示し、3D‐SNはシロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位(3次元シリカネットワーク部位)を示し、Aはフラーレン類を示し、Bはそれぞれ独立して、O、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(Rはアルキル基を示す。)を示し、EはO、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(Rはアルキル基を示す。)を示し、Gは[(CHO)−[Si(CHO]−(CHO)]、(CF又は(CFO)を示し、nは1〜10の整数を示し、mは整数であって、1≦m≦nを満足し、dは1〜500の整数を示し、eは0〜10の整数を示し、cは1〜20の整数を示し、bは1〜20の整数を示す。]で表されるナノ粒子複合体を挙げることができる。
なお、上記(4)式中、Rで示されるフルオロアルキル基やYで示される親水基としては、上記(1)式や(2)式中のものと同様ものを挙げることができる。
【0039】
上記のナノ粒子複合体の第3の実施形態としては、例えば次の(5)式
【0040】
【化5】

【0041】
[式(5)中のR’はそれぞれ独立して、H又はアルキル基を示し、Rは、フルオロアルキル基を示し、Xは、親水基であって、それぞれ独立して、OH基、NCO基、NH基、NHR基(Rはアルキル基を示す。)又はOCY基(Yは親水基を示す。)を示し、3D‐SNはシロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位(3次元シリカネットワーク部位)を示し、Aはフラーレン類を示し、Bはそれぞれ独立して、O、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(Rはアルキル基を示す。)を示し、EはO、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(Rはアルキル基を示す。)を示し、Lは[(CHO)−[Si(CHO]−(CHO)]−α、(CF−α又は(CFO)−αを示し、この場合、αはOCY基(Yは親水基を示す。)、NCO基、NH基、NHR基(Rはアルキル基を示す。)、R基(アルキル基)又はHであり、nは1〜10の整数を示し、mは整数であって、1≦m≦nを満足し、dは1〜500の整数を示し、eは0〜10の整数を示し、cは1〜20の整数を示し、bは1〜20の整数を示す。]で表されるナノ粒子複合体を挙げることができる。
なお、上記(5)式中、Rで示されるフルオロアルキル基やYで示される親水基としては、上記(1)式や(2)式中のものと同様ものを挙げることができる。
また、上記(3)〜(5)式中においては、親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位として、上記(1)式の鎖状オリゴマーに由来するものを示したが、上記(2)式に示すような親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有すると共に、フラーレン類を有する鎖状コオリゴマーに由来するものを含むナノ粒子複合体を適用する場合も本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0042】
なお、(3)式、(4)式及び(5)式において、3D−SN部位の代表的構造を概略的に示すと、(3)式、(4)式及び(5)式に表わした構造は、次の(6)式、(7)式及び(8)式のように表される。
【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
また、本発明のナノ粒子の典型例としては、次の(9)式、(10)式又は(11)式で表されるものがある。
【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
なお、(9)式、(10)式又は(11)式において、R、E、G及びLは上記と同じものを示し、Zは次の(12)式又は(13)式で表される。
【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
なお、(12)式又は(13)式において、R’、X、m及びnは上記と同じものを示す。
【0054】
更に、本発明の電着塗装用エマルション塗料においては、上述したようにナノ粒子複合体を必須成分とするが、これ以外の成分については、従来公知の電着塗装用エマルション塗料のもの使用することができる。
【0055】
なお、電着塗装方法としては、大別して、被塗装物を陽極とするアニオン電着と、被塗装物を陰極とするカチオン電着とがあるが、現状では防錆性能に優れるカチオン電着が主流になっていることから、以下、カチオン型電着塗装用エマルション塗料を主体に説明を進める。
上述したように、ナノ粒子複合体の添加による上記作用効果はカチオン型電着塗装用エマルション塗料に特有なものではないことから、本発明はカチオン型電着塗装用エマルション塗料に限定されることはなく、アニオン型電着塗装用エマルション塗料にも適用することができる。
【0056】
本発明の電着塗装用エマルション塗料の塗料ベースとしては、特に特殊なものではなく、既知の電着塗装用の塗料のものが利用でき、カチオン型電着塗装用エマルション塗料としては、例えば水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂、硬化剤、着色顔料、防錆顔料、体質顔料、中和剤、有機溶剤などを脱イオン水などの水に混合分散した水性塗料を用いることができる。
【0057】
上記基体樹脂は、水酸基及びカチオン性基を有するものであって、この水酸基は硬化剤との架橋反応に関与し、カチオン性基は安定な水分散液を形成させるためのものであって、例えば、[1]ポリエポキシ樹脂とカチオン化剤との反応生成物、[2]ポリカルボン酸とポリアミンとの重縮合物を酸でプロトン化したもの、[3]ポリイソシアネート化合物及びポリオールとモノ又はポリアミンとの重付加物を酸でプロトン化したもの、[4]水酸基及びアミノ基含有アクリル系、又はビニル系モノマーの共重合体を酸でプロトン化したもの、[5]ポリカルボン酸樹脂とアルキレンイミンとの付加物をプロトン化したものなどが挙げられる。
【0058】
これらのうち、[1]に包含される、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとから得られるポリエポキシド樹脂のエポキシ基にカチオン化剤を反応せしめて得られる生成物は塗膜の防食性が優れているので好ましい。
【0059】
このポリエポキシド樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であり、200〜4000、好ましくは800〜3000の数平均分子量を有するものが適しており、これには、例えば、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリフェノール化合物のポリグリシジルエーテルが包含される。
【0060】
ここで使用できるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロパン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(2−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシブチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどが挙げられる。
【0061】
このような化合物には、ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアミドアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネート化合物などと部分的に反応させたものや、ε−カプロラクトン、アクリルモノマーなどをグラフト重合させたものが包含される。
【0062】
水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂は、例えば、これらのポリエポキシド樹脂のエポキシ基のほとんど、もしくは、全てにカチオン化剤を反応することにより得られる。
【0063】
このようなカチオン化剤としては、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアミンなどのアミン化合物が挙げられ、これらエポキシ基と反応させて、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基などのカチオン性基を導入してカチオン化樹脂とする。
【0064】
具体的な第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミン、イソプロパノールアミン等、第2級アミンとしては、例えば、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジn−プロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等、第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等、ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等を挙げることができる。
【0065】
更に、これらのアミノ化合物以外に、アンモニア、ヒドロキシアミン、ヒドラジン、ヒドロキシルエチルヒドラジン、N−ヒドロキシエチルイミダゾリン等の塩基性化合物も挙げることができる。
【0066】
これらのカチオン性樹脂の水酸基としては、例えば、上記カチオン化剤中のアルカノールアミンの反応、エポキシ樹脂中に導入されることがあるカプロラクトンの開環物及びポリオールの反応などにより導入される第1級水酸基、更には、エポキシ樹脂中の第2級水酸基などが挙げられ、このうち、アルカノールアミンとの反応により導入される第1級水酸基は、硬化剤との架橋反応性が優れているので好ましい。
【0067】
水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂における水酸基の含有量は、水酸基当量で200〜500、特に100〜1000mgKOH/gが好ましく、特に第1級水酸基当量は200〜1000mgKOH/gが好ましい。
【0068】
硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の全てを揮発性の活性水素化合物(ブロック剤)で反応し封鎖してなるブロック化ポリイソシアネート化合物が特に好適であり、このものは、常温では不活性である一方、所定温度以上に加熱することによって上記ブロック化剤が解離し、元のイソシアネート基が再生して、基体樹脂との反応に関与するようになる。
【0069】
ポリイソシアネート化合物は、1分子中に遊離イソシアネート基を2個以上有する化合物であって、例えば、脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等、脂環族ジイソシアネートとしては、イソホロジンイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、シクロペンタンジイソシアネート等、芳香族ジイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート等を挙げることができ、更には、これらのポリイソシアネート化合物のウレタン付加物、ビューレットタイプ付加物、イソシアヌル環付加物なども挙げることができる。
【0070】
ブロック剤としては、例えば、フェノール系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、メルカプタン系ブロック剤、酸アミド系ブロック剤、イミド系ブロック剤、アミン系ブロック剤、イミダゾール系ブロック剤、尿素系ブロック剤、カルバミン酸系ブロック剤、イミン系ブロック剤、オキシム系ブロック剤、亜硫酸系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤などが挙げられる。
【0071】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は、これらのポリイソシアネート化合物と活性水素化合物(ブロック剤)とを既知の方法により反応せしめることにより得られ、実質的に遊離イソシアネート基は存在しない。基体樹脂と硬化剤の構成比率は、両成分の合計固形分の重量に基づいて、前者は40〜90%、特に50〜80%、後者は60〜10%、特に50〜20%が望ましい。
【0072】
有機溶剤としては、炭化水素系(例えば、キシレン、トルエン)、アルコール系(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル系(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン系(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル系(エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)やこれらの混合物が挙げられる。
これらの有機溶剤の含有量は、カチオン電着塗料に対して約0.05〜10%の範囲とすることが望ましい。
【0073】
上記した成分に加えて、更に必要に応じて、硬化触媒、沈殿防止剤などを適宜配合することができる。
このうち、硬化触媒は、基体樹脂と硬化剤との架橋反応を促進するために有効であり、例えば、錫オクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジベンゾエート、酢酸鉛、ケイ酸鉛、乳酸ビスマス、水酸化ビスマス、オクチル酸亜鉛、ギ酸亜鉛などが挙げられ、その配合量は、基体樹脂と硬化樹脂との合計量100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲が適している。
【0074】
ここで、基体樹脂のカチオン化剤として用いるアミンなどの塩基性塩を、酸でプロトン化してカチオン性基としてもよい。用いる酸としては、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸などの水溶性有機カルボン酸が好ましい。
【0075】
これらの基体樹脂中のカチオン性基を酢酸、ギ酸、乳酸、リン酸などの酸性化合物で中和してから、水に分散混合することが好ましく、その分散液のpHは3〜9、特に5〜7の範囲が適している。単位電気量あたりの塗料析出量をできるだけ多くするためにも、低中和での水分散によりエマルションとすることが好まれる。
【0076】
次に、顔料ペーストは、着色顔料、防錆顔料、体質顔料などを予め微細粒子として分散させたものであって、例えば、顔料分散用樹脂、中和剤及び顔料類を配合し、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ぺブルミルなどの分散混合機中で分散処理して顔料ペーストを調製することができる。
【0077】
顔料分散用樹脂としては、既知のものが使用でき、例えば、水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂や界面活性剤などが使用でき、更に、3級アミン型、4級アンモニウム塩型、3級スルホニウム塩型などの樹脂が分散用樹脂として使用できる。
【0078】
界面活性剤としては、例えば、HLBが3〜18、好ましくは5〜15の範囲内にあるアセチレングリコール系、ポリエチレングリコール系、多価アルコール系などのノニオン系界面活性剤が挙げられる。
分散剤の使用量としては、顔料100重量部に対して、1〜150重量部、特に10〜100重量部の範囲内が好適である。顔料分散ペーストの固形分含有比率は20〜80%、特に30〜60%が適している。
【0079】
着色顔料、防錆顔料及び体質顔料としては、カチオン型電着塗装用の塗料に使用されている顔料であれば特に制限無く使用することができ、例えば、着色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラなどが、防錆顔料としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などが、体質顔料としては、カオリン、クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカなどが挙げられる。
これらの顔料の配合量としては、基体樹脂と硬化剤との合計固形分100重量部に対して、1〜100重量部、特に10〜30重量部の範囲が好ましい。
【0080】
なお、本発明の電着塗装用エマルション塗料においては、上述したナノ粒子複合体の添加によって、着色顔料や体質顔料などの総量が増し、塗料中の成分バランスが損われる可能性があることから、着色顔料や体質顔料の量を減じること、言い換えると既存の着色顔料や体質顔料の全量又は一部を上記上述したナノ粒子複合体によって置換するようになすことが望ましい。
【0081】
次に、本発明の電着塗膜について説明する。
上述の如く、本発明の電着塗膜は、上記本発明の電着塗装用エマルション塗料を用いて形成されるものである。
なお、例えば、カチオン型電着塗装用エマルション塗料は、顔料ペースト、エマルション、添加剤、中和剤、脱イオン水を加えて、固形分濃度が約5〜25%、pHが5〜8の範囲内になるように調製する。被塗物に電着塗膜を形成するに当たっては、従来公知の方法及び装置を適用することができる。
【0082】
電着塗膜を形成する際の条件は、特に限定されるものではないが、一般的には、スロースタート電着塗装において20〜90秒間、好ましくは30〜60秒間の時間で一定電圧まで昇圧し、通電時間は30秒間〜10分間、浴温は15〜35℃、好ましくは20〜30℃、電圧は100〜400V、好ましくは200〜300V、極比(陰極/陽極)=1/2〜1/8、極間距離0.1〜1mで攪拌状態で電着塗装することが望ましい。
【0083】
電着塗装用エマルション塗料による電着塗膜の膜厚は目的とする性能に応じて適宜選定すれば良いが、5〜60μm、好ましくは10〜40μmの範囲であることが良い。
【0084】
電着塗装後、余分に付着した電着塗装用エマルション塗料を落すために、ウルトラフィルタレーション濾液(UF濾液)、RO(リバース・オズモウシイス・メンブレイン)透過水、工業用水、純水などで、塗装物表面に塗料が残らないよう十分に水洗する。
次に、電着塗膜を電気熱風乾燥機、ガス熱風乾燥機などの乾燥設備を用いて、塗物表面の温度で110〜200℃、好ましくは140〜180℃、時間としては10〜180分間、好ましくは20〜50分間加熱して硬化させることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例1〜17及び比較例1〜3)
<基体樹脂の作製>
表1に示す原料を用い、下記に示す方法により電着塗装用エマルション塗料に用いる基体樹脂を作製した。
【0087】
【表1】

【0088】
攪拌機、温度計、冷却管を備えた5Lの4つ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)及び(4)を仕込み、攪拌、加熱を行なって150℃まで昇温した。150℃で6時間保持した後、原料(5)を徐々に投入し、80℃まで冷却した。
次いで、原料(6)を投入し、100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られた基体樹脂であるアミン変性エポキシ樹脂は、固形分70.1%であった。
【0089】
<硬化剤の作製>
表2に示す原料を用い、下記に示す方法により電着塗装用エマルション塗料に用いる硬化剤を作製した。
【0090】
【表2】

【0091】
攪拌機、温度計、冷却管を備えた5Lの4つ口フラスコに、原料(1)及び(2)を仕込み、攪拌、加熱を行なって100℃まで昇温した。その後、フラスコ内温度を100℃に保ちながら予め原料(3)に溶解した原料(4)の溶液を1時間かけて仕込み、100℃で2時間反応させた。
次いで、100℃に保持して原料(5)を1時間かけて滴下し、更に100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られた硬化剤であるブロック化ポリイソシアネートは、固形分75.0%であった。
【0092】
<顔料分散樹脂の作製>
表3に示す原料を用い、下記に示す方法により電着塗装用エマルション塗料に用いる顔料分散樹脂を作製した。
【0093】
【表3】

【0094】
攪拌機、温度計、冷却管を備えた5Lの4つ口フラスコに、原料(1)、(2)及び(3)を仕込み、攪拌、加熱を行なって100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、80℃まで冷却した。
次いで、原料(4)及び(5)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られた顔料分散樹脂であるアミン変性エポキシ樹脂は、固形分70.1%であった。
【0095】
<樹脂水分散液の作製>
上述した基体樹脂及び硬化剤の混合物をプロピレングリコールモノメチルエーテル、ギ酸、脱イオン水の混合液中によく攪拌しながら仕込んで、樹脂水分散液を得た。なお、具体的な配合量は表4に示す通りである。
【0096】
【表4】

【0097】
<顔料ペーストの作製>
上述した顔料分散樹脂、ギ酸、脱イオン水、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、カオリン、ジブチル錫オキサイド、防錆顔料(NP−1162N3(東邦顔料工業(株)))を混ぜた混合物に、カーボンブラック、nanom mix(フロンティアカーボン(株))、nanom black(フロンティアカーボン(株))、又は後述するナノ粒子複合体A〜ナノ粒子複合体Pを加え、それらをディソルバーで充分攪拌した後、横型サンドミルで粒径10μm以下になるまで分散し、顔料ペーストを得た(具体的な配合量は表5〜8に示す。)。
なお、ナノ粒子複合体A〜ナノ粒子複合体Pの作製方法は以下に示す通りである。
【0098】
<ナノ粒子複合体A〜ナノ粒子複合体Pの作製>
[パーフルオロアシルクロライドの作製]
無水パーフルオロカルボン酸の一例である(COCF(CF)COH)と塩化ベンゾイル(PhCOCl)をモル比率1:2の割合で混合し、無水パーフルオロカルボン酸の沸点、もしくは沸点より少々高い温度で急速加熱し、室温まで冷却した。得られた粗生成物を分留し、精製することで目的とするパーフルオロアシルクロライドの一例である(COCF(CF)COHCOCl)を収率70%で得た。
【0099】
[フルオロアルカノイルパーオキサイドの作製]
−7℃〜−5℃に保たれた十分な量の非極性フッ素溶剤(Freon‐113:CFClCFCl)中に、COCF(CF)COClと水酸化ナトリウム(NaOH)と過酸化水素(H)が1:1:0.5のモル比率になるように、先ずは水1mL当たり0.12gの割合でNaOHを溶解した水酸化ナトリウム水溶液を加え、次に30%過酸化水素水を加え、素早く攪拌した後、−7℃〜−5℃に事前に冷却しておいた(COCF(CF)COCl)を加え、2分間攪拌した。
その後、多少温度を上げ(但し、0℃以下。)、6〜7分間攪拌した後、静置し、2層に油水分離したうちの油層を抽出することで目的とする生成物であるフルオロアルカノイルパーオキサイドの一例であるパーフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルパーオキサイド((COCF(CF)COO))を得た。
なお、ここでは生成物の純度を上げる為に、氷冷した飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。反応式を(14)式に示す。
【0100】
【化14】

【0101】
[両末端にフルオロアルキル基を有し、主鎖中に親水基を有するオリゴマーの作製]
フッ素系溶剤(AK‐225:1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパンと1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3−ペンタフルオロプロパンの重量比1:1混合溶剤)35g中に、上述した製法により作製したパーフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルパーオキサイド5mmolを加えた溶液に、親水基を有するモノマーの一例であるN−(1,1−ジメチル−3−オキソイソブチル)アクリルアミド(以下、「DOBAA」と略記する。)を24mmolとフッ素系溶剤(AK‐225)50gの混合溶液を加えて、窒素雰囲気下、45℃にて5時間撹拌した。
撹拌後、溶剤を蒸発させることで、ビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマー4.55gを得た。反応式を(15)式に示す。
【0102】
【化15】

【0103】
<ナノ粒子複合体A、ナノ粒子複合体Bの作製>
ビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマー6gをテトラヒドロフラン500mL中に溶かし、更にナノ粒子複合体Aの場合はnanom mix(フロンティアカーボン(株))を、ナノ粒子複合体Bの場合はnanom black(フロンティアカーボン(株))を0.6g添加し、2週間可溶化を行なった。
沈殿物を濾過後、エバポレーションにより溶剤を除去し、目的とする生成物となるナノ粒子複合体A、ナノ粒子複合体Bを得た。
【0104】
<ナノ粒子複合体C、ナノ粒子複合体Dの作製>
ビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマー6gをテトラヒドロフラン500mL中に溶かし、更にnanom mix(フロンティアカーボン(株))を0.6g添加し、2週間可溶化を行なった。
得られた溶液とメタノールシリカゾル(メタノールを70%含有したシリカゾルである。但し、シリカ粒子の平均粒径は10nm程度である。)40gと、テトラエトキシシラン(TEOS)6gと、25%アンモニア水6mLとを混合し、で3時間反応させた。
反応後、エバポレーションにより溶剤を除去し、目的とする生成物となるナノ粒子複合体Cを収率80%以上で得た。
なお、nanom mixに替えてnanom blackを用いた以外は、同様の操作を繰り返して、ナノ粒子複合体Dを得た。反応式を(16)式に示す。
【0105】
【化16】

【0106】
[両末端にフルオロアルキル基を有し、主鎖中に親水基、及びフラーレン、もしくはフラーレン製造時の副生炭素粒子を有するオリゴマーの作製]
フッ素系溶剤(AK‐225)35g中に、パーフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルパーオキサイド5mmolを加えた溶液に、DOBAAを16mmolとフッ素系溶剤(AK−225)50gの混合溶液を加え、更に、ナノ粒子複合体Eの場合はnanom mixを、ナノ粒子複合体Fの場合はnanom blackをそれぞれ0.6mmol加え、窒素雰囲気下、45℃にて5時間撹拌することでコオリゴマーを作製した。
撹拌後、溶剤を蒸発させることで、ナノ粒子複合体E用コオリゴマーを収率77%で、ナノ粒子複合体F用コオリゴマーを収率54%で得た。反応式を(17)式に示す。
【0107】
【化17】

【0108】
<ナノ粒子複合体E、ナノ粒子複合体Fの作製>
ビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマーとnanom mixのコオリゴマー(ナノ粒子複合体E用コオリゴマー)、又はビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマーとnanom blackのコオリゴマー(ナノ粒子複合体F用コオリゴマー)6gをテトラヒドロフラン500mL中に溶かし、更にナノ粒子複合体Eの場合はビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマーとnanom mixのコオリゴマーのテトラヒドロフラン溶液にnanom mixを、ナノ粒子複合体Fの場合はビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマーとnanom blackのコオリゴマーのテトラヒドロフラン溶液にnanom blackを0.6g添加し、2週間可溶化を行なった。
沈殿物を濾過後、エバポレーションにより溶剤を除去し、目的とする生成物となるナノ粒子複合体E、ナノ粒子複合体Fを得た。
【0109】
<ナノ粒子複合体G、ナノ粒子複合体Hの作製>
ナノ粒子複合体E用コオリゴマーを用い、ナノ粒子複合体Cの作製要領にて作製したナノ粒子複合体が、ナノ粒子複合体Gであり、ナノ粒子複合体F用コオリゴマーを用い、ナノ粒子複合体Dの作製要領にて作製したナノ粒子複合体が、ナノ粒子複合体Hである。
沈殿物を濾過後、エバポレーションにより溶剤を除去し、目的とする生成物となるナノ粒子複合体G、ナノ粒子複合体Hを得た。
【0110】
<ナノ粒子複合体I、ナノ粒子複合体Jの作製>
ナノ粒子複合体Cの作製時、具体的には、テトラヒドロフラン溶媒中で、ビス(パーフルオロ−1−メチル−2−オキサペンチレイティド)DOBAAオリゴマー、nanom mix、メタノールシリカゾル、TEOS、アンモニア水にて作製する際に、更にフルオロアルコールの一例である1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン−1,4−ジオールを加えることで、ナノ粒子複合体Iを作製した(フルオロアルコールの添加量はTEOSと同量である。)。
また、フルオロアルコールの替わりにポリシロキサンの一例であるα,ω−ヒドロキシポリジメチルシロキサン(商品名:サイラプレーンFM‐9915(チッソ株式会社))を添加し、ナノ粒子複合体Jを作製した。
【0111】
<ナノ粒子複合体K、ナノ粒子複合体Lの作製>
ナノ粒子複合体I、ナノ粒子複合体Jで添加するnanom mixをnanom blackに替えた以外は、同様の操作を繰り返して、ナノ粒子複合体K、ナノ粒子複合体Lを作製した。
【0112】
<ナノ粒子複合体M、ナノ粒子複合体Nの作製>
ナノ粒子複合体I、ナノ粒子複合体Jを作製する際に用いる両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマーとして、ナノ粒子複合体E用コオリゴマー、ナノ粒子複合体F用コオリゴマーを用いた以外は、同様の操作を繰り返して、ナノ粒子複合体M、ナノ粒子複合体Nを作製した。
【0113】
<ナノ粒子複合体O、ナノ粒子複合体Pの作製>
ナノ粒子複合体K、ナノ粒子複合体Lを作製する際に用いる両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマーとして、ナノ粒子複合体E用コオリゴマー、ナノ粒子複合体F用コオリゴマーを用いた以外は、同様の操作を繰り返して、ナノ粒子複合体O、ナノ粒子複合体Pを作製した。
【0114】
【表5】

【0115】
【表6】

【0116】
【表7】

【0117】
【表8】

【0118】
表5〜8において、( )内の数字はナノ粒子複合体中に含まれるフラーレン類の重量部を示す。
【0119】
<電着塗装用エマルション塗料の作製>
上記表4の配合により作製した樹脂水分散液と上記表5〜8の配合により作製した顔料ペーストを配合し、各例の電着塗装用エマルション塗料を得た。
【0120】
[性能評価]
<試験片の作製>
SPCC(パルテック(株)製、0.8×70×150mm)にリン酸亜鉛化成処理(脱脂:FC‐L4460、表面調整剤:PL‐X、化成処理材:PB‐L3060(パーカライジング(株)製))を施したものに、上記で得られた電着塗装用エマルション塗料を用いて電着塗装を施し、試験片とした。
その際、後述する薄膜耐食性評価に用いる試験片に対しては焼付け後(170℃で20分間後)の塗膜厚みが5μm、後述する耐熱耐食性評価に用いる試験片に対しては焼付け後(170℃で20分間後)の塗膜厚みが15μmとなる条件で電着塗装を施した。
【0121】
<薄膜耐食性評価試験>
作製した試験片に複合腐食試験(試験条件;塩水噴霧(5%NaClaq.、35℃±2℃、4時間)→乾燥(60℃±2℃、25±5%RH、2時間)→湿潤(50℃±2℃、95±5%RH、2時間)を1サイクルとする。)を200サイクル迄実施し、その後の腐食程度を評価した。得られた結果を表9に示す。
【0122】
<耐熱耐食性評価試験>
作製した試験片に熱負荷(250℃で8時間)を施した後、複合腐食試験(試験条件;塩水噴霧(5%NaClaq.、35℃±2℃、4時間)→乾燥(60℃±2℃、25±5%RH、2時間)→湿潤(50℃±2℃、95±5%RH、2時間)を1サイクルとする。)を200サイクル迄実施し、その後の腐食程度を評価した。得られた結果を表9に併記する。
表9中の「◎」は現行塗料より著しく高い性能を有する、「○」は現行塗料より高い性能を有する、「△」は現行塗料より少し高い性能を有する、「×」は現行塗料と同等の性能を有する、ことを示す。
【0123】
【表9】

【0124】
表9より、フラーレン類と両末端にフルオロアルキル基を有する鎖状オリゴマーとを含み、親水基を有するナノ粒子複合体を含有させることによって、薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性を向上させ得るフラーレン類含有電着塗装用エマルション塗料及びこれを用いて形成される電着塗膜を提供することが可能であることが分かる。
また、フラーレン類と両末端にフルオロアルキル基を有する鎖状オリゴマーとシロキサン結合の3次元網目状構造を有する粒子状部位とを含み、親水基を有するナノ粒子複合体であって、シロキサン結合の3次元網目状構造を有する粒子状部位の全部又は一部がフラーレン類部位の全部又は一部を含むナノ粒子複合体を含有させるることによって、薄膜耐食性や熱負荷環境下における耐熱耐食性をより向上させ得るフラーレン類含有電着塗装用エマルション塗料及びこれを用いて形成される電着塗膜を提供することが可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】フラーレン誘導体の具体例を示す化学式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子複合体を含有する電着塗装用エマルション塗料であって、
上記ナノ粒子複合体は、フラーレン、その誘導体及び擬フラーレンから成る群より選ばれた少なくとも1種のフラーレン類部位と、
親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位と、
を含むことを特徴とする電着塗装用エマルション塗料。
【請求項2】
上記フラーレン類部位の全部又は一部と、上記親水基と両末端のフルオロアルキル基とを有する鎖状オリゴマー部位の全部又は一部とが鎖状コオリゴマー部位を形成していることを特徴とする請求項1に記載の電着塗装用エマルション塗料。
【請求項3】
上記ナノ粒子複合体が、シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位を更に含むと共に、該シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位の全部又は一部が上記フラーレン類部位の全部又は一部を包接することを特徴とする請求項1又は2に記載の電着塗装用エマルション塗料。
【請求項4】
上記シロキサン結合の3次元網目状構造を有する部位が、フッ素又はケイ素を有する有機鎖を更に有することを特徴とする請求項3に記載の電着塗装用エマルション塗料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の電着塗装用エマルション塗料を用いて電着塗装により形成されることを特徴とする電着塗膜。
【請求項6】
当該電着塗膜はフラーレン、その誘導体及び擬フラーレンから成る群より選ばれた少なくとも1種のフラーレン類を含有すると共に、該フラーレン類が膜厚方向に濃度勾配を有し、該フラーレン類の表面側の濃度が相対的に高いことを特徴とする請求項5に記載の電着塗膜。

【図1】
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【公開番号】特開2008−69229(P2008−69229A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248072(P2006−248072)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会−講演予稿集1」に発表
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(502236286)フロンティアカーボン株式会社 (33)
【Fターム(参考)】