説明

電着工具の作製方法および装置

【課題】硬質粒子の大きさに関わらず、台金の作用部へ固定される硬質粒子の数量を制御できる電着工具の作製装置を提供することにある。
【解決手段】台金の作用部に硬質粒子がめっきで固定された電着工具を作製する電着工具の作製装置であって、めっき液101が溜められるめっき液槽102と、めっき液101内に配置され、めっき液槽102に移動可能に支持された台金103と、台金103へ硬質粒子104を供給する硬質粒子供給器具105と、台金103とめっき液101へ電流を供給する整流器111と、台金103を移動しつつ、硬質粒子供給器具105を制御して台金103へ硬質粒子104を供給すると共に、整流器111を制御して台金103とめっき液101へ電流を供給して台金103に硬質粒子104をめっきで固定する制御装置115を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着工具の作製方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼鋳物などの仕上げ加工に、ダイヤモンド砥粒やcBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒などの硬質粒子を台金の砥部(作用部)に電着法により固着させた電着工具が用いられている。電着工具の一例につき図19を用いて説明する。図19(a)に電着工具の一例の平面を示し、図19(b)にその断面を示すように、電着工具40は硬質粒子41をめっき法で台金42の作用部42aに固定している工具である。
【0003】
上述した電着工具40は、台金42の表面に数μm程度の電気Niめっき層が形成され(Niストライクめっきされ)、次いでダイヤモンド砥粒あるいはcBN砥粒などの硬質粒子41がNiめっきで仮固定(担持)される。次いで、必要に応じて余分な硬質粒子が除去され、継続してNiめっきを施すことで、Niめっき43で硬質粒子41を固定した電着工具40が製造される。
【0004】
上述した台金への硬質粒子の担持方法として、充填法や分散めっき法が挙げられる。
ここで、充填法につき、その作製工程の一例を示す図20を用いて具体的に説明する。
【0005】
充填法では、図20に示すように、最初に、電着工具の台金に対して脱脂処理が行われ(ステップS21)、この処理の後に活性化処理が行われる(ステップS22)。続いて、活性化処理された電着工具に対してNiストライキめっき処理が行われる(ステップS23)。続いて、Niストライクめっき処理された電着工具に対して担持めっき処理が行われる(ステップS24)。この処理により、台金に、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒などの硬質粒子が仮固定される。
【0006】
ここで、上述した担持めっき処理を行う装置(電着工具の作製装置)につき図21を用いて説明する。この図21に示すように、めっき液401が溜められるめっき液槽(図示せず)内に硬質粒子槽402が配置される。硬質粒子槽402内に硬質粒子403が溜められる。この硬質粒子槽402には台金404が配置される。めっき液401内に電極405が配置される。整流器406は、台金404と導線407で接続され、電極405と導線408で接続される。そして、めっき液401と台金404へ電流を供給することにより、台金404の表面に硬質粒子403が仮固定される。
【0007】
上述したステップS24の処理を所定時間行った後に、硬質粒子が表面に仮固定された台金がめっき液401から取り出され、水洗いなどの処理を行うことで余分な硬質粒子が除去される(ステップS25)。続いて、余分な硬質粒子が除去された台金に対して、Ni電気めっきや無電解Ni−Pめっきなどの固定めっき処理が行われる(ステップS26)。続いて、固定めっき処理済みの台金を水洗いなどした後に乾燥処理が行われ(ステップS27)、電着工具が作製される。
【0008】
他方、分散めっき法につき、その作製工程の一例を示す図22を用いて具体的に説明する。この分散めっき法は、上述した充填法における、ステップS24の担持めっき処理工程およびステップS25の余分な硬質粒子除去処理工程のみを変更したものであり、それ以外は同一の工程を有する。この充填法と同一の作製工程には同一符号を付記しその説明を省略する。
【0009】
分散めっき法では、図22に示すように、Niストライクめっき処理された台金に対して担持めっき処理が行われる(ステップS31)。この処理により、台金に、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒などの硬質粒子が仮固定される。
【0010】
ここで、上述した担持めっき処理を行なう装置(電着工具の作製装置)につき図23を用いて説明する。この図23に示すように、電着工具の作製装置は、めっき液502と硬質粒子503が溜められるめっき液槽501を具備する。めっき液面502aの下方には、台金504、および2つの電極505が配置される。2つの電極505は台金504と離間して配置される。整流器506は、台金504と導線507で接続され、電極505と導線508で接続される。めっき液槽501内には下端部にプロペラ509が取り付けられた軸体510が回転可能に配置される。この軸体510を回転することで、めっき液502が攪拌されて、硬質粒子503がめっき液502中で浮遊した状態で分散される。そして、この状態で台金504とめっき液502へ電流を供給することにより、台金504の表面に当該台金504に接触した硬質粒子503が仮固定される。
【0011】
上述したステップS31の処理を所定時間行った後に、上述しためっき液槽501から取り出される。そして、めっき液502のみが溜められためっき液槽内に配置され、Ni電気めっきや無電解Ni−Pめっきの固定めっき処理が行われる(ステップS26)。続いて、固定めっき処理済みの台金を水洗いなどした後に乾燥処理が行われ(ステップS27)、電着工具が作製される。
【0012】
【特許文献1】特公平8−22507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述した充填法では、台金の表面に硬質粒子を固定することができるものの、粒子の密度(硬質粒子の占有面積(硬質粒子の個数×1つの硬質粒子の大きさ)/電着工具の作用部の面積(硬質粒子が固定された部位の面積))が高いもの(最密充填)しかできず、隣接する硬質粒子の間隔が狭いと、研削したときに生じる切子の逃げる箇所が少なく、そこに切子が溜まると、作用部にて硬質粒子の突起が無くなり平坦になる。その結果、研削機能を発揮できず工具寿命を短くしてしまう可能性があった。また、余分な硬質粒子を除去することで、隣接する硬質粒子の間隔を広くすることができるものの、この作業を行う分だけ煩雑となる上に、硬質粒子が作用部に均一に分散した状態とすることが困難であった。
【0014】
上述した分散めっき法では、粒子密度の制御ができるものの、硬質粒子が例えば30μm以上の大きさになると硬質粒子の沈降速度が大きくなる為、めっき液中で硬質粒子を均一に分散することが困難となる。その結果、台金へ硬質粒子を均一に固定することが不可能となり、工具の寿命にばらつきが生じてしまう可能性があった。他方、めっき液の攪拌速度を早くすることで、めっき液中に硬質粒子を均一に拡散させることが考えられるが、硬質粒子が台金に衝突する速度が大きくなり、硬質粒子が台金に仮固定される前にめっき液中を移動する。その結果、台金に硬質粒子を仮固定できない可能性があった。
【0015】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたもので、硬質粒子の大きさに関わらず、台金の作用部へ固定される硬質粒子の数量を制御できる電着工具の作製方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決する第1の発明に係る電着工具の作製装置は、
台金の作用部に硬質粒子がめっきで固定された電着工具を作製する電着工具の作製装置であって、
めっき液が溜められるめっき液槽と、
前記めっき液内に配置された台金を移動させる台金移動手段と、
前記台金へ硬質粒子を供給する硬質粒子供給手段と、
前記台金と前記めっき液へ電流を供給する電流供給手段と、
前記台金移動手段を制御して前記台金を移動しつつ、前記硬質粒子供給手段を制御して前記台金へ前記硬質粒子を供給すると共に、前記電流供給手段を制御して前記台金と前記めっき液へ電流を供給して前記台金に前記硬質粒子をめっきで固定する制御手段を具備する
ことを特徴とする。
【0017】
上述した課題を解決する第2の発明に係る電着工具の作製装置は、第1の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給手段を振動させる振動手段を具備する
ことを特徴とする。
【0018】
上述した課題を解決する第3の発明に係る電着工具の作製装置は、第2の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給手段の下方に配置され、前記硬質粒子供給手段から前記台金へ供給される硬質粒子の供給量を調整する硬質粒子供給量調整手段を具備する
ことを特徴とする。
【0019】
上述した課題を解決する第4の発明に係る電着工具の作製装置は、第3の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給手段が、筒状部材であり、その筒内を前記硬質粒子が流通可能になっているものである
ことを特徴とする。
【0020】
上述した課題を解決する第5の発明に係る電着工具の作製装置は、第4の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給量調整手段が、前記めっき液槽に回転可能に支持される円盤状部材である
ことを特徴とする。
【0021】
上述した課題を解決する第6の発明に係る電着工具の作製装置は、第5の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記筒状部材を前記円盤状部材に押圧する押圧手段をさらに具備し、
前記円盤状部材が、その周面に溝が形成されているものである
ことを特徴とする。
【0022】
上述した課題を解決する第7の発明に係る電着工具の作製装置は、第6の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記円盤状部材が、前記台金の上方に、当該台金と離間して配置される
ことを特徴とする。
【0023】
上述した課題を解決する第8の発明に係る電着工具の作製装置は、第7の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給量調整手段と前記台金の間に配置される遮蔽板を具備する
ことを特徴とする。
【0024】
上述した課題を解決する第9の発明に係る電着工具の作製装置は、第8の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記台金が円筒状であり、その周面が前記作用部である場合、前記硬質粒子供給量調整手段と前記台金の周面が対向して配置される
ことを特徴とする。
【0025】
上述した課題を解決する第10の発明に係る電着工具の作製装置は、第8の発明に係る電着工具の作製装置であって、
前記台金が円筒状または直方体状であり、その上部が前記作用部である場合、前記硬質粒子供給量調整手段の周面と前記台金の上部が対向して配置される
ことを特徴とする。
【0026】
上述した課題を解決する第11の発明に係る電着工具の作製方法は、
台金の作用部に硬質粒子がめっきで固定された電着工具を作製する電着工具の作製方法であって、
めっき液内に配置される台金を移動しつつ、前記台金の上方から当該台金へ硬質粒子を供給すると共に、前記台金へ電流を供給することにより、前記台金に前記硬質粒子をめっきで固定するようにした
ことを特徴とする。
【0027】
上述した課題を解決する第12の発明に係る電着工具は、第11の発明に係る電着工具の作製方法で作製された工具である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
第1の発明に係る電着工具の作製装置によれば、めっき液が溜められるめっき液槽と、めっき液内に配置された台金を移動させる台金移動手段と、台金へ硬質粒子を供給する硬質粒子供給手段と、台金とめっき液へ電流を供給する電流供給手段と、台金移動手段を制御して台金を移動しつつ、硬質粒子供給手段を制御して台金へ硬質粒子を供給すると共に、電流供給手段を制御して台金とめっき液へ電流を供給して台金に硬質粒子をめっきで固定する制御手段を具備することにより、硬質粒子の大きさに関わらず、作用部に硬質粒子を所定の密度(硬質粒子の数量/台金の作用部の面積)で固定した電着工具を作製できる。
【0029】
第2の発明に係る電着工具の作製装置によれば、振動手段を具備することにより、硬質粒子供給手段から台金へ硬質粒子を円滑に供給できる。
【0030】
第3の発明に係る電着工具の作製装置によれば、硬質粒子供給量調整手段を具備することにより、台金へ供給される硬質粒子の供給量を調整でき、台金に固定される硬質粒子の数量をより正確に制御できる。
【0031】
第4の発明に係る電着工具の作製装置によれば、硬質粒子供給手段が、筒状部材であり、その筒内を前記硬質粒子が流通可能になっているものであることにより、硬質粒子供給手段自体が簡易であり、製造コスト増を抑制できる。
【0032】
第5の発明に係る電着工具の作製装置によれば、硬質粒子供給量調整手段が、めっき液槽に回転可能に支持される円盤状部材であることにより、硬質粒子供給手段自体が簡易であり、製造コスト増を抑制できる。
【0033】
第6の発明に係る電着工具の作製装置によれば、筒状部材を円盤状部材に押圧する押圧手段をさらに具備し、円盤状部材が、その周面に溝が形成されているものであることにより、台金へ供給される硬質粒子の供給量をより正確に調整でき、台金の所定の箇所へ適切に硬質粒子を供給できる。
【0034】
第7の発明に係る電着工具の作製装置によれば、円盤状部材が、台金の上方に、当該台金と離間して配置されることにより、台金の所定の箇所へ所定量の硬質粒子を安定して供給できる。
【0035】
第8の発明に係る電着工具の作製装置によれば、硬質粒子供給量調整手段と台金の間に配置される遮蔽板を具備することにより、台金の所定の箇所へ硬質粒子をより安定して供給できる。
【0036】
第9の発明に係る電着工具の作製装置によれば、台金が円筒状であり、その周面が作用部である場合、硬質粒子供給量調整手段と台金の周面が対向して配置されることにより、簡易な構成にて、台金における所定の箇所へ硬質粒子を供給できる。
【0037】
第10の発明に係る電着工具の作製装置によれば、台金が円筒状または直方体状であり、その上部が作用部である場合、硬質粒子供給量調整手段の周面と台金の上部が対向して配置されることにより、簡易な構成にて、台金における所定の箇所へ硬質粒子を供給できる。
【0038】
第11の発明に係る電着工具の作製方法によれば、めっき液内に配置される台金を移動しつつ、台金の上方から当該台金へ硬質粒子を供給すると共に、台金へ電流を供給することにより、台金に硬質粒子をめっきで固定するようにしたことにより、硬質粒子の大きさに関わらず、台金の作用部にめっきで固定される硬質粒子の密度を制御できる。
【0039】
第12の発明に係る電着工具によれば、硬質粒子の大きさに関わらず、作用部にめっきで固定される硬質粒子の密度を制御した工具を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明に係る電着工具の作製方法および装置の最良の形態につき、実施形態に具体的に説明する。
【0041】
[第一番目の実施形態]
本発明に係る電着工具の作製方法および装置の第一の実施形態につき、図1〜図6を用いて説明する。
本実施形態は、台金が円筒状であり、その周面が作用部である電着工具の作製に適用したものである。
図1は、電着工具の作製工程を示すフローチャートである。図2は電着工具の一例を模式的に示す図である。図3は、電着工具の作製装置を模式的に示す図である。図4は、電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給器具と硬質粒子供給量調整器具の拡大図である。図5は、電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給器具と硬質粒子供給量調整器具の説明図である。図6は、電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給量調整器具と電着工具の位置を説明するための図であり、図6(a)にその側面を示し、図6(b)に図6(a)における矢印bから視た矢視を示す。
【0042】
本実施形態では、図2に示すように、台金11の内径R1を100mmとし、その外径R2を250mmとし、その高さH1を15mmとした円筒形状であり、その周面11aが作用部12である電着工具10の作製について説明する。台金11の作用部12には、粒子径が#80〜#100であるcBN(立方晶窒化ホウ素)の硬質粒子が固定される。なお、電着工具10の台金材質をS25Cとした。
【0043】
本実施形態では、図1に示すように、最初に、台金に対してマスキング処理される(ステップS1)。すなわち、メッキ処理しない台金の側部11bにマスキング剤を塗布し乾燥することで、台金の側部11bがマスクで被覆される(図2参照)。マスク処理された台金に対してアルカリ脱脂処理が行われる(ステップS2)。このアルカリ脱脂処理としては、例えば、奥野製薬社製 エースクリーン 70の水溶液(50℃)に5分間浸漬する処理が挙げられる。続いて、イオン交換水などで洗浄され、台金に付着したアルカリ水溶液が除去される(ステップS3)。この処理の後に活性化処理が行われる(ステップS4)。この活性化処理としては、例えば、10mass%の塩酸溶液(20℃)に5分間浸漬する処理などが挙げられる。
【0044】
続いて、活性化処理された台金に対してNiストライキめっき処理が行われる(ステップS5)。このNiストライクめっき処理としては、例えば、めっき液(NiCl2・7H2O(300g/L)とほう酸(30g/L)の混合溶液(pH2、45℃))に5分間浸漬すると共に、8A/dm2で電流を供給する処理が挙げられる。このようにNiストライクめっきを台金表面に行うことで、次の工程(ステップS7)での台金成分の溶出が防止される上に、密着性が確保される。続いて、Niストライクめっき処理された台金に対してイオン交換水などで洗浄される(ステップS6)。
【0045】
続いて、水洗された台金に対して担持めっき処理が行われる(ステップS7)。この処理により、台金に、硬質粒子であるcBN砥粒(立方晶窒化ホウ素)が仮固定される。この担持めっき処理としては、例えば、めっき液(NiSO4・7H2O(240g/L)とNiCl2・7H2O(45g/L)とほう酸(30g/L)の混合溶液(pH4.5、45℃)に5分間浸漬すると共に、6A/dm2で電流を供給する処理が挙げられる。続いて、硬質粒子が担持された台金に対してイオン交換水などで洗浄される(ステップS8)。
【0046】
続いて、台金に対して、Ni電気めっきや無電解Ni−Pめっきなどの固定めっき処理が行われる(ステップS9)。この固定めっき処理としては、例えば、無電解Ni−Pめっき(上村工業社製 ニムデン(登録商標)5X)(90℃)を粒子埋め込み率に応じて所定時間浸漬する処理などが挙げられる。続いて、固定めっき処理済みの台金をイオン交換水など洗浄し(ステップS10)、この後に乾燥処理が行われ(ステップS11)、電着工具が作製される。この乾燥処理としては、例えば乾燥炉で100℃にて10分間乾燥する処理などが挙げられる。
【0047】
ここで、上述したステップS7にて、担持メッキ処理を行う装置(電着工具の作製装置)につき図3を用いて説明する。
この図3に示すように、装置100は、めっき液101が溜められるめっき液槽102を具備する。めっき液101の液面101aの下方に円盤状の台金103が配置される。この台金103は、めっき液槽102に支持され、図示しない台金移動器具により回転可能に配置されている。台金103の上方に位置して、台金103へ硬質粒子104を供給する硬質粒子供給器具105が配置される。この硬質粒子供給器具105の下方に位置すると共に台金103の上方に位置して、硬質粒子104の供給量を調整する硬質粒子供給量調整器具106が配置される。前記台金移動器具としては、駆動源であるモータなどからの回転方向の力を軸体やギヤなどを介して台金の中心を貫通して配置される軸体へ伝達する機構などが挙げられる。
【0048】
軸体108の先端にはプロペラ107が取付けられ、その基端には当該軸体108を回転駆動する駆動装置109が取付けられる。このプロペラ107はめっき液101の液面101aの下方に配置される。めっき液101内にはヒータ110が配置され、めっき液101を所定の温度に保持可能になっている。めっき液101内には2つの電極114が配置される。台金103が導線112を介して整流器111と接続される。電極114が導線113を介して整流器111と接続される。
【0049】
上述した台金103、硬質粒子供給量調整器具106、駆動装置109、ヒータ110、および整流器111は、制御装置115と制御線で接続されている。すなわち、制御装置115は、台金103の回転速度、硬質粒子供給量調整器具106の回転速度、プロペラ107の回転速度、ヒータ110によるめっき液101の温度、整流器111による電流密度を調整している。
【0050】
ここで、硬質粒子供給器具105と硬質粒子供給量調整器具106につき図4および図5を用いて具体的に説明する。
図4および図5に示すように、硬質粒子供給器具105は、円筒状であり、その内部に硬質粒子が流通する流路105aが形成されたものである。硬質粒子供給器具105は、その外径R12を25mmとし、その内径(流路の直径)R11を17mmとした形状である。硬質粒子供給器具105は、硬質粒子供給量調整器具106に接触して配置される。具体的には、硬質粒子供給量調整器具106は、直径100mmであり厚さが25mmである円盤状であり、その周面106aに周方向に延在する溝106bが形成されたものである。この溝106bの幅W11は15mmであり、その深さD11は1mmである。すなわち、硬質粒子供給器具105の下端部105bが硬質粒子供給量調整器具106の周面106aに接触して配置される。
【0051】
硬質粒子供給器具105は、図4にて矢印Aの方向に図示しないばねなどの弾性部材により押圧されている。このように押圧することで、硬質粒子供給器具105から硬質粒子供給量調整器具106の溝106b内へ硬質粒子104が安定して供給される。そして、硬質粒子供給量調整器具106が矢印Bの方向へ回転することで、硬質粒子104が供給された溝106bが矢印C方向へ移動することとなり、硬質粒子供給器具105から硬質粒子供給量調整器具106の溝106bへ硬質粒子104が供給可能な状態になる。すなわち、硬質粒子供給器具105から硬質粒子供給量調整器具106へ硬質粒子104が円滑に供給される。なお、硬質粒子供給器具105を振動させる振動器具を硬質粒子供給器具に設けることも可能である。このように振動器具を設けることで、硬質粒子供給器具から硬質粒子供給量調整器具へ硬質粒子を円滑に供給できる。
【0052】
上述した硬質粒子供給量調整器具106と台金103の配置につき図6を用いて具体的に説明する。
この図6に示すように、硬質粒子供給量調整器具106の周面106aと台金103の周面103aが対向して配置される。台金103の軸心C1と硬質粒子供給量調整器具106の軸心C2の距離L11は、50mm以上100mm以下の範囲に調整される。台金103の頂部と硬質粒子供給量調整器具106の軸心C2の距離H11は、60mm以上100mm以下の範囲に調整される。このような範囲に調整することで、硬質粒子供給量調整器具106から落下する硬質粒子104の落下速度が一定となり、その供給量が安定する。
【0053】
ここで、上述した電着工具の作製装置100を用いて以下の方法で硬質粒子を台金の作用部に担持(仮固定)した。
(1)硬質粒子供給器具105である粒子供給パイプに硬質粒子104を充填する。
(2)続いて、硬質粒子供給量調整器具106である粒子供給ドラムを3.7g/min(分)で台金103(ワーク)の表面に沈降させるように粒子回転ドラムを一定速度で回転させる。
(3)同時にワークを5mm/min(分)の速度で回転させながら、電流密度6A/dm2でめっきした。
(4)粒子担持めっき領域(粒子が沈降してきて接触する位置から粒子がワークからすべり出す領域、約90〜120°)の他はめっきの析出を抑制させるため塩化ビニル製の板でカバーした。
(5)上記条件でワークを1回転させ、その後粒子の供給を行わないで、同一電解条件で追加めっきし、仮固定を確実にした。
【0054】
上述した条件にて作製したワークの表面を顕微鏡で観察したところ、粒子密度が20個/mm2であった。
【0055】
したがって、本実施形態に係る電着工具の作製装置100によれば、制御装置115が、硬質粒子供給量調整器具の回転速度、台金の回転速度、電流密度の大きさおよびその時期(開始時期および終了時期)を調整することにより、周面103aに硬質粒子104を所定の密度(硬質粒子の数量/電着工具の作用部の面積)で固定した電着工具10を作製できる。
【0056】
[第二番目の実施形態]
本発明に係る電着工具の作製方法および装置の第二の実施形態につき、図7〜図9を用いて説明する。
本実施形態は、台金が円筒状であり、その上部が作用部である電着工具の作製に適用したものである。
図7は、電着工具の一例を模式的に示す図である。図8は、電着工具の作製装置を模式的に示す図である。図9は、電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給量調整器具と電着工具の位置を説明するための図であり、図9(a)にその側面を示し、図9(b)に図9(a)における矢印bから視た矢視を示す。
【0057】
本実施形態に係る電着工具の作製方法および装置は、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法および装置において、上部に作用部が設けられた円筒状の電着工具の作製に適用したものであり、それ以外は同一の機器構成を具備する。
本実施形態に係る電着工具の作製装置において、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製装置と同一機器には同一符号を付記しその説明を省略する。
すなわち、本実施形態においても、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法と同一の工程で電着工具が作製される。
【0058】
本実施形態では、図7に示すように、台金211の内径R21を100mmとし、その外径R23を250mmとし、その高さH21を15mmとした円筒形状であり、その上部211bが作用部212であり、作用部212の内径R22を230mmとし、この作用部212の幅W21を15mmとした電着工具210の作製について説明する。台金211の作用部212には、粒子径が#80〜#100であるcBN(立方晶窒化ホウ素)の硬質粒子が固定される。なお、電着工具210の台金材質をS25Cとした。
【0059】
ここで、担持めっき(cBN粒子担持めっき)を行う装置(電着工具の作製装置)につき図8を用いて説明する。
この図8に示すように、装置200では、台金203における作用部が形成される面が水平となるようにめっき液槽102のめっき液101a内に配置されている。台金203の軸心に軸体213の先端部側が固定され、この基端部側が当該軸体213を回転駆動する駆動装置214に固定されている。すなわち、軸体213および駆動装置214が台金移動器具をなしている。そして、この駆動装置214も制御装置115により制御され、軸体213の回転速度が調整されている。
【0060】
上述した硬質粒子供給量調整器具106と台金203の配置につき図9を用いて説明する。
この図9に示すように、硬質粒子供給量調整器具106の軸心C2と台金203との距離H12は、60mm以上100mm以下の範囲に調整される。このような範囲に調整することで、硬質粒子供給量調整器具106から落下する硬質粒子104の落下速度が一定となり、その供給量が安定する。
【0061】
ここで、上述した電着工具の作製装置200を用いて以下の方法で硬質粒子を台金の作用部に担持(仮固定)した。
(1)硬質粒子供給器具105である粒子供給パイプに硬質粒子104を充填する。
(2)続いて、硬質粒子供給量調整器具106である粒子供給ドラムを1.3g/min(分)で台金203(ワーク)の表面に沈降させるように粒子回転ドラムを一定速度で回転させる。
(3)同時にワークを5mm/min(分)の速度で回転させながら、電流密度6A/dm2でめっきした。
(4)粒子担持めっき領域(粒子が沈降してきて接触する位置からから約90°回転した位置まで)の他はめっきの析出を抑制させるため塩化ビニル製の板でカバーした。
(5)上記条件でワークを1回転させ、その後粒子の供給を行わないで、同一電解条件で追加めっきし、仮固定を確実にした。
【0062】
上述した条件にて作製したワークの表面を顕微鏡で観察したところ、粒子密度が15個/mm2であった。
【0063】
したがって、本実施形態に係る電着工具の作製装置200によれば、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製装置100と同様、制御装置115が、硬質粒子供給量調整器具の回転速度、台金の回転速度、電流密度の大きさおよびその時期(開始時期および終了時期)を調整することにより、上部211bに硬質粒子104を所定の密度(硬質粒子の数量/電着工具の作用部の面積)で固定した電着工具210を作製できる。
【0064】
[第三番目の実施形態]
本発明に係る電着工具の作製方法および装置の第三の実施形態につき、図10〜図12を用いて説明する。
本実施形態は、台金が直方体状であり、その上部の一部が作用部である電着工具の作製に適用したものである。
図10は、電着工具の一例を模式的に示す図である。図11は、電着工具の作製装置を模式的に示す図である。図12は、電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給量調整器具と電着工具の位置を説明するための図であり、図12(a)にその側面を示し、図12(b)に図12(a)における矢印bから視た矢視を示す。
【0065】
本実施形態に係る電着工具の作製方法および装置は、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法および装置において、側部に作用部が設けられた直方体状の電着工具の作製に適用したものであり、それ以外は同一の機器構成を具備する。
本実施形態に係る電着工具の作製装置において、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製装置と同一機器には同一符号を付記しその説明を省略する。
すなわち、本実施形態においても、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法と同一の工程で電着工具が作製される。
【0066】
本実施形態では、図10に示すように、台金311の長さL31を250mmとし、その幅W31を15mmとし、その高さH31を5mmとした直方体状であり、その上部311bが作用部312であり、作用部312の長さL32を100mmとした電着工具310の作製について説明する。台金311の作用部312には、粒子径が#80〜#100であるcBN(立方晶窒化ホウ素)の硬質粒子が固定される。なお、電着工具310の台金材質をS25Cとした。
【0067】
ここで、担持めっき(cBN粒子担持めっき)を行う装置(電着工具の作製装置)につき図11を用いて説明する。
この図11に示すように、装置300は、台金303における作用部が形成される面が水平となるようにめっき液槽102のめっき液101a内に配置されている。この台金303は、めっき液槽102に支持され、図示しない台金移動器具により矢印D方向へ移動可能に配置されている。そして、図12に示すように、硬質粒子供給量調整器具106と台金303の間に遮蔽板314が配置される。ただし、この遮蔽板314の先端部314aが、硬質粒子供給量調整器具106から硬質粒子104が落下する箇所から図12で左方向へ若干ずれた位置に配置される。硬質粒子供給量調整器具106の軸心C2と台金303との距離H13は、60mm以上100mm以下の範囲に調整される。このような範囲に調整することで、硬質粒子供給量調整器具106から落下する硬質粒子104の落下速度が一定となり、その供給量が安定する。そして、硬質粒子供給量調整器具106の回転に伴って台金303を右方向へ移動させる。これにより、硬質粒子供給量調整器具106から台金303へ一定量の硬質粒子104が供給されることになる。
【0068】
ここで、上述した電着工具の作製装置300を用いて以下の方法で硬質粒子を台金の作用部に担持(仮固定)した。
(1)硬質粒子供給器具105である粒子供給パイプに硬質粒子104を充填する。
(2)続いて、硬質粒子供給量調整器具106である粒子供給ドラムを1.3g/min(分)で台金303(ワーク)の表面に沈降させるように粒子回転ドラムを一定速度で回転させる。
(3)同時にワークを5mm/min(分)の速度で矢印D方向へ移動させながら、電流密度6A/dm2でめっきした。
(4)粒子担持めっき領域の他はめっきの析出を抑制させるため塩化ビニル製の板でカバーした。
(5)上記条件でワークを1回引き抜いた後、粒子の供給を行わないで、同一電解条件で追加めっきし、仮固定を確実にした。
【0069】
上述した条件にて作製したワークの表面を顕微鏡で観察したところ、粒子密度が10個/mm2であった。
【0070】
したがって、本実施形態に係る電着工具の作製装置300によれば、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製装置100と同様、制御装置115が、硬質粒子供給量調整器具の回転速度、台金の移動速度、電流密度の大きさおよびその時期(開始時期および終了時期)を調整することにより、上部303bに硬質粒子104を所定の密度(硬質粒子の数量/電着工具の作用部の面積)で固定した電着工具310を作製できる。
【0071】
[硬質粒子の密度に関する評価]
ここで、上述した電着工具に固定される硬質粒子の密度に関して評価を行った。この評価につき、図13〜図18を参照して具体的に説明する。
図13は電着工具の作製装置の試験装置を模式的に示した図である。図13(a)が正面から見た機器の位置関係を示す図であり、図13(b)が側部から見た機器の位置関係を示す図である。図14は、粒子供給ドラム回転速度とcBN粒子(硬質粒子)供給量との関係を示すグラフである。図15は、試験装置で用いられた模擬ワークを示す図である。図16は、模擬ワークの回転速度と粒子密度との関係を示す図である。図17は、模擬ワークの回転速度と粒子密度との関係を示す図である。図18は、所定の条件で模擬ワークに硬質粒子を固定した状態を模式的に示す図であり、図18(a)に3.73g/min(分)、電流密度が6A/dm2であり模擬ワークの回転速度が約1mm/sec(秒)の場合を示し、図18(b)に3.73g/min(分)、電流密度が6A/dm2であり模擬ワークの回転速度が約5mm/sec(秒)の場合を示し、図18(c)に2.26g/min(分)、電流密度が6A/dm2であり模擬ワークの回転速度が約3mm/sec(秒)の場合を示す。
【0072】
図16にて、四角は、粒子供給量が3.37g/min(分)であり、電流密度が6A/dm2である場合を示し、白抜き菱形は、粒子供給量が3.37g/min(分)であり、電流密度が3A/dm2である場合を示し、菱形は、粒子供給量が2.26g/min(分)であり、電流密度が6A/dm2である場合を示し、白抜き三角は、粒子供給量が1.35g/min(分)であり、電流密度が6A/dm2である場合を示す。図17にて、白抜き丸は、粒子供給量が2.26g/min(分)であり、電流密度が6A/dm2である場合を示し、丸は、粒子供給量が3.37g/min(分)であり、電流密度が6A/dm2である場合を示し、白抜き四角は、粒子供給量が3.73g/min(分)であり、電流密度が3A/dm2である場合を示す。図17にて、三角は、模擬ワークの回転速度が約1mm/sec(秒)、約3mm/sec(秒)であるときには、粒子供給量が2.26g/min(分)であり、電流密度が10A/dm2である場合を示し、模擬ワークの回転速度が約5mm/sec(秒)であるときには、粒子供給量が2.26g/min(分)であり、電流密度が12A/dm2である場合を示す。
【0073】
図13に示すように、試験装置600は、2つの側板602と天井板603とを具備する筐体604を備えている。天井板603を連通してロート605が固定される。ロート605の下端部に接触して粒子供給ドラム606が筐体604に回転可能に支持されている。粒子供給ドラム606の下方に位置し、粒子供給ドラム606と離間して模擬ワーク601が回転可能に筐体604に支持されている。天井板603には、粒子供給ドラム606を回転駆動する駆動機構607と、模擬ワーク601を回転駆動する駆動機構608とが配置されている。すなわち、粒子供給ドラム606の回転速度、模擬ワーク601の回転速度がそれぞれ調整可能になっている。粒子供給ドラム606の軸心と模擬ワーク601の軸心の間の距離を300mmとした。粒子供給ドラム606と模擬ワーク601の間の空間の大きさを40mmとした。
【0074】
ここで、試験片は、JIS SPCC 100mm(長さ)×15mm(幅)×0.5mm(厚さ)の形状である。図15に示すように、模擬ワーク601(400mm(直径)×15mm(厚さ))の外周面601aに試験片609をねじ610で固定した。cBN粒子としては、SBM−M 昭和電工社製の#80(317.5μm)/#100(254μm)を用いた。
【0075】
そして、以下の手順にて硬質粒子の供給量に関する実験を行った。
#80〜#100cBN粒子を供給パイプであるロート605に充填し、粒子供給ドラム606の回転速度を変化させ、粒子供給の均一安定および粒子供給量を測定した。その結果を図14に示す。
【0076】
図14に示すように、約0.9mm/sec(秒)〜1.9mm/sec(秒)でcBN粒子の安定供給が可能であることが分かった。また、粒子供給ドラム606の回転数を変化させることにより、cBN粒子の供給量を制御できることが分かった。
【0077】
そして、以下の手順にて粒子密度の制御に関する実験を行った。
最初に、Niストライクめっきを試験片に対して行い、この試験片を模擬ワークの周面に取付けた。ワット浴とし、45℃にて10分間浸漬した。そのときの電流密度を3A/dm2とした。
【0078】
続いて、水洗後、回転装置と共にめっき液(ワット浴、下記表1参照)に入れる。
【0079】
【表1】

【0080】
続いて、硬質粒子の供給を開始する。すなわち、硬質粒子供給器具であるロート605に硬質粒子を投入する。続いて、模擬ワークの回転を開始すると共に、めっき処理を開始する。すなわち、めっき液に電気を流通させる。続いて、担持めっき終了後、ケースaまたはケースbを実施する。ケースaでは、試験片を模擬ワークに取付けたまま、真下にもっていき、ここで静止させ、追加めっきを実施する。ケースbでは、試験片を模擬ワークから取外し、水洗した後に追加めっきを実施する。
【0081】
ここで、粒子沈降法における粒子供給量、ワーク回転速度、電流密度、粒子密度の関係につき、上述したケースaの場合を図16に示し、上述したケースbの場合を図17に示す。これら図16および図17から分かるように、粒子密度10個/mm2〜25個/mm2(粒子#80/#100)の範囲で制御可能な条件が以下の通りとなった。
(1)ワーク回転速度:1mm/sec(秒)〜7mm/sec(秒)
(2)粒子供給量:1.35g/min(分)〜3.7g/min(分)
(3)電流密度:3A/dm2〜10A/dm2
【0082】
そして、粒子沈降法では、粒子密度25個/mm2以上(#80/#100)では、粒子に基材への押し込み力が働かないため(粒子の自重のみ)基材に到達した粒子の移動が少なくなると考えられる。
【0083】
図18(a)、図18(b)、および図18(c)に示すように、硬質粒子が密度の高い状態で試験片(台金の作用部)に担持された状態から、硬質粒子が密度の低い状態で試験片(台金の作用部)に担持された状態まで調整できることが分かる。
【0084】
よって、粒子供給ドラム(硬質粒子供給量調整器具)の回転速度、模擬ワーク(電着工具)の移動速度、電流密度の大きさおよびその時期(開始時期および終了時期)を調整することにより、作用部に硬質粒子を所定の密度(硬質粒子の数量/電着工具の作用部の面積)にて形成した電着工具を作製できる。
【0085】
[電着工具の寿命に関する評価]
ここで、上述した電着工具の寿命に関して評価を行った。具体的には、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法を適用して作製した2種類の電着工具(試験体1、試験体2)の寿命と、台金への硬質粒子の担持方法として従来の作製方法である充填法を適用して作製した電着工具(試験体3)の寿命とに関して評価を行った。
【0086】
試験体1〜3の台金は、図2に示すように、円筒形状であり、その外周面における全周に亘って硬質粒子であるダイヤモンド砥粒(#80〜#100)が固定されている。これら試験体1〜3の台金においては、その内径を75mmとし、その外径を150mmとし、その厚みを30mmとした。
【0087】
[試験体1の作製方法]
試験体1の作製方法について具体的に説明する。
上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法と同一の処理(マスキング処理、アルカリ脱脂処理、洗浄処理、活性化処理(酸洗処理)、Niストライクめっき処理、洗浄処理、担持めっき処理、洗浄処理、固定めっき処理、洗浄処理、乾燥処理)を実施して試験体1を作製した。ここで、アルカリ脱脂処理、活性化処理、Niストライクめっき処理、担持めっき処理、固定めっき処理を特定の処理条件とすることで、台金の外周面に固定されるダイヤモンド砥粒の密度(粒子密度)を調製した。このような作製方法で作製された試験体1の粒子密度は、下記の表2に示すように、18個/mm2であった。
【0088】
上述したアルカリ脱脂処理の工程においては、マスキング処理した台金を、奥野製薬社製 エースクリーン 70の水溶液(60℃)に3分間浸漬する処理を実施した。活性化処理においては、アルカリ脱脂処理および洗浄処理した台金を10mass%塩酸溶液(室温)に1分間浸漬する処理を実施した。Niストライクメッキ処理においては、活性化処理された台金を、めっき液(NiCl2・7H2O(300g/L)とほう酸(30g/L)の混合溶液(pH2、50℃)に3分間浸漬すると共に、8A/dm2で電流を供給する処理を実施した。
【0089】
担持めっき処理においては、Niストライクめっき処理および洗浄処理した台金を、めっき液(NiSO4・7H2O(240g/L)とNiCl2・7H2O(45g/L)とほう酸(30g/L)の混合溶液(pH4.5、45℃)に浸漬すると共に、6A/dm2で電流を供給する処理を実施した。このとき、台金の外周面への粒子供給量を1.4g/min(分)とすると共に、台金の回転速度を4mm/s(秒)とした。この条件にて台金を1回転させ、その後粒子の供給を行わないで、同一電解条件で追加めっきして、台金の外周面に硬質粒子であるダイヤモンド砥粒(#80〜#100)を仮固定した。
【0090】
固定めっき処理においては、担持めっき処理および洗浄処理を実施した台金を、無電解Ni−Pめっき(45℃)に所定時間浸漬すると共に、3A/dm2で電流を供給する処理を実施した。これにより、ダイヤモンド砥粒のめっきによる埋め込み率を50%〜60%とした。
【0091】
[試験体2の作製方法]
試験体2の作製方法について具体的に説明する。
上述した試験体1の作製方法と同一の処理(マスキング処理、アルカリ脱脂処理、洗浄処理、活性化処理(酸洗処理)、Niストライクめっき処理、洗浄処理、担持めっき処理、洗浄処理、固定めっき処理、洗浄処理、乾燥処理)を実施して試験体2を作製した。ただし、担持めっき処理の条件を変更し、台金の外周面に固定されるダイヤモンド砥粒の密度(粒子密度)を調製した。このような作製方法で作製された試験体2の粒子密度は、下記の表2に示すように、23個/mm2であった。なお、担持めっき処理以外の処理については、上述した試験体1の作製方法の処理と同一でありその説明を省略する。
【0092】
試験体2の作製方法における担持めっき処理においては、Niストライクめっき処理および洗浄処理した台金を、めっき液(NiSO4・7H2O(240g/L)とNiCl2・7H2O(45g/L)とほう酸(30g/L)の混合溶液(pH4.5、45℃)に浸漬すると共に、6A/dm2で電流を供給する処理を実施した。このとき、台金の外周面への粒子供給量を3.7g/min(分)とすると共に、台金の回転速度を3mm/s(秒)とした。この条件にて台金を1回転させ、その後粒子の供給を行わないで、同一電解条件で追加めっきして、台金の外周面に硬質粒子であるダイヤモンド砥粒(#80〜#100)を仮固定した。
【0093】
[試験体3の作製方法]
試験体3の作製方法について説明する。
この試験体3の作製において、台金の外周面へのダイヤモンド砥粒の担持方法として充填法を適用した。なお、担持めっき処理以外の処理(アルカリ脱脂処理、洗浄処理、活性化処理、Niストライクメッキ処理、洗浄処理、担持めっき処理後の洗浄処理、固定めっき処理、洗浄処理、乾燥処理)については上述した試験体1,2の作製方法と同一とし、砥粒の埋め込み率を試験体1,2と同一とした。このような作製方法で作製された試験体3の粒子密度は、下記の表2に示すように、28個/mm2であった。
【0094】
[試験方法]
以下の条件にて、各試験体1〜3に対して試験を行った。
(1)ワーク:P種超硬合金(WC−β−Co系)
(2)研削面積:50mm×20mm (平面/枚)
(3)工具周速:1500m/min(分)
(4)切り込み:6μm/パス
(5)送り:15mm/min(分)
【0095】
この試験結果について、下記の表2に示す。表2において、ワーク研削可能枚数は、上述した条件(3)を満たす研削を実施できたワークの枚数を示している。
【0096】
【表2】

【0097】
上述した表2に示す試験結果から、充填法を適用して作製した高粒子密度工具である試験体3と比較して、上述した第一の実施形態に係る電着工具の作製方法を適用した作製した電着工具である試験体1,2の方が、ワーク研削枚数が多くなっており、長寿命であることが判明した。さらに、試験体2と比べて試験体1の方が、ワーク研削枚数が多くなっており、長寿命であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る電着工具の作製方法および装置は、硬質粒子の大きさに関わらず、台金の作用部に固定される硬質粒子の密度を調整できるので、金属加工産業などにおいて、極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る電着工具の作製工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る電着工具の作製方法で作製された電着工具を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る電着工具の作製装置を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給器具と硬質粒子供給量調整器具の拡大図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給器具と硬質粒子供給量調整器具の説明図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給量調整器具と電着工具の位置を説明するための図であり、図6(a)にその側面を示し、図6(b)に図6(a)における矢印bから視た矢視を示す。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る電着工具の作製方法で作製された電着工具を模式的に示す図である。
【図8】本発明の第二の実施形態に係る電着工具の作製装置を模式的に示す図である。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給量調整器具と電着工具の位置を説明するための図であり、図9(a)にその側面を示し、図9(b)に図9(a)における矢印bから視た矢視を示す。
【図10】本発明の第三の実施形態に係る電着工具の作製方法で作製された電着工具を模式的に示す図である。
【図11】本発明の第三の実施形態に係る電着工具の作製装置を模式的に示す図である。
【図12】本発明の第三の実施形態に係る電着工具の作製装置が具備する硬質粒子供給量調整器具と電着工具の位置を説明するための図であり、図12(a)にその側面を示し、図12(b)に図12(a)における矢印bから視た矢視を示す。
【図13】電着工具の作製装置の試験装置を模式的に示した図である。
【図14】粒子供給ドラム回転速度とcBN粒子(硬質粒子)供給量との関係を示すグラフである。
【図15】試験装置で用いられた模擬ワークを示す図である。
【図16】模擬ワークの回転速度と粒子密度との関係を示す図である。
【図17】模擬ワークの回転速度と粒子密度との関係を示す図である。
【図18】所定の条件で模擬ワークに硬質粒子を固定した状態を模式的に示す図である。
【図19】電着工具の一例を模式的に示した図であり、図19(a)がその平面図であり、図19(b)がその断面図である。
【図20】電着工具の作製工程の一例を示すフローチャートである。
【図21】電着工具の作製装置の一例を模式的に示す図である。
【図22】電着工具の作製工程の他例を示すフローチャートである。
【図23】電着工具の作製装置の他例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0100】
100,200,300 電着工具の作製装置
101 めっき液
102 めっき液槽
104 硬質粒子
105 硬質粒子供給器具
106 硬質粒子供給量調整器具
103,203,303 台金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金の作用部に硬質粒子がめっきで固定された電着工具を作製する電着工具の作製装置であって、
めっき液が溜められるめっき液槽と、
前記めっき液内に配置された台金を移動させる台金移動手段と、
前記台金へ硬質粒子を供給する硬質粒子供給手段と、
前記台金と前記めっき液へ電流を供給する電流供給手段と、
前記台金移動手段を制御して前記台金を移動しつつ、前記硬質粒子供給手段を制御して前記台金へ前記硬質粒子を供給すると共に、前記電流供給手段を制御して前記台金と前記めっき液へ電流を供給して前記台金に前記硬質粒子をめっきで固定する制御手段を具備する
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給手段を振動させる振動手段を具備する
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項3】
請求項2に記載された電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給手段の下方に配置され、前記硬質粒子供給手段から前記台金へ供給される硬質粒子の供給量を調整する硬質粒子供給量調整手段を具備する
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項4】
請求項3に記載された電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給手段が、筒状部材であり、その筒内を前記硬質粒子が流通可能になっているものである
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項5】
請求項4に記載された電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給量調整手段が、前記めっき液槽に回転可能に支持される円盤状部材である
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項6】
請求項5に記載された電着工具の作製装置であって、
前記筒状部材を前記円盤状部材に押圧する押圧手段をさらに具備し、
前記円盤状部材が、その周面に溝が形成されているものである
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項7】
請求項6に記載された電着工具の作製装置であって、
前記円盤状部材が、前記台金の上方に、当該台金と離間して配置される
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項8】
請求項7に記載された電着工具の作製装置であって、
前記硬質粒子供給量調整手段と前記台金の間に配置される遮蔽板を具備する
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項9】
請求項8に記載された電着工具の作製装置であって、
前記台金が円筒状であり、その周面が前記作用部である場合、前記硬質粒子供給量調整手段と前記台金の周面が対向して配置される
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項10】
請求項8に記載された電着工具の作製装置であって、
前記台金が円筒状または直方体状であり、その上部が前記作用部である場合、前記硬質粒子供給量調整手段の周面と前記台金の上部が対向して配置される
ことを特徴とする電着工具の作製装置。
【請求項11】
台金の作用部に硬質粒子がめっきで固定された電着工具を作製する電着工具の作製方法であって、
めっき液内に配置される台金を移動しつつ、前記台金の上方から当該台金へ硬質粒子を供給すると共に、前記台金へ電流を供給することにより、前記台金に前記硬質粒子をめっきで固定するようにした
ことを特徴とする電着工具の作製方法。
【請求項12】
請求項11に記載された電着工具の作製方法で作製された工具である
ことを特徴とする電着工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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