説明

電磁コイル装置およびそのコイル端末の処理方法

【課題】細い素線で形成されたコイル巻線であっても信頼性の高い補強された巻線端末部を得ることことができ、かつ多少線径の太い素線で形成されたコイル巻線であっても補強作業が容易となる電磁コイル装置およびその巻線端末の処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】コイル巻線を巻回したコイルボビンの鍔の外周にコイル巻線の端末を係止するための係止片を設け、前記コイルボビンに巻回されたコイル巻線の巻き始めおよび巻き終わりの端末部の前記鍔より外側に延びた素線を基端側を前記係止片に係止させて複数回折り返しして所定長さの折り返し素線束を形成し、この素線束を適宜回数捻回して素線束に撚りを加えて前記コイルボビンの鍔の係止片に結束固定した引出端子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回路遮断器の過電流電磁引外し装置等に使用される電磁コイル装置およびそのコイル巻線端末の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように回路遮断器には、回路電流を検出し、これが過電流となったとき開閉機構のラッチを引き外して回路電流の遮断を行う電磁引外し装置が組み込まれている。
【0003】
このような電磁引外し装置を回路遮断器の樹脂モールドケースに組み込んで回路遮断器を組み立てる際に、組立作業を簡素化するために、2分割された樹脂モールドケースの内部に電磁引外し装置を構成する継鉄,鉄心,電磁コイルなどの各部品に対応する位置決め座を形成しておき、回路遮断器を組み立てる過程で各部品を個別に位置決め座に固定することにより電磁引外し装置を所定位置に組み込むようにしている。
【0004】
電磁引外し装置を組み込んだ回路遮断器の全体構成を図4に示す。この図4において、1は二分割構造の樹脂モールドケース、2,3は樹脂モールドケース1の底壁から引き出された主回路端子、4は固定接触子、5は可動接触子、6は開閉機構、6aは開閉機構の開閉ばね6bを蓄勢状態に鎖錠するラッチ、7は開閉操作ハンドル、10は電磁引外し装置であり、該電磁引外し装置10は主回路端子3と可動接極子5との間に介装接続されている。
【0005】
電磁引外し装置10は、L字形の継鉄11と、継鉄11の脚部に穿孔した穴に嵌挿して組合せたプランジャ内蔵形の鉄心12と、鉄心12の外周に配した電磁コイル13と、継鉄11の上端に枢支して鉄心12の接極子12aに対峙させたアーマチュア14とから構成され、後記するように継鉄11の脚部,鉄心12の上端をそれぞれモールドケース1の内部に形成した図示しない位置決め座に係止固定して電磁引外し装置10を所定の位置に固定する。この固定位置でアーマチュア14の操作片14aを開閉機構6のラッチ6aに連繋させるようにしている。なお、電磁引外し装置10の動作については特許文献2に詳しく述べられており、ここではその説明は省略する。
【0006】
電磁コイル13は、図5に示すようにコイルボビン13aに巻線13bを巻装してその周面を絶縁シート13cで覆い、巻線13bの巻始め,巻終わり端に端末部を処理して引出端子13b−1,13b−2が形成され、ボビン13aの鍔13a−2に設けた切欠き13a−5,13a−6(図6参照)を通して下方へ引き出される。また、ボビン13aは、図6示すように、円筒状の巻枠13a−1の両端に下鍔13a−2,上鍔13a−3,および上端側に円筒状の突起13a−4を一体に成形した樹脂モールド品から構成されている。
【0007】
ところで、このような電磁引外し装置の電磁コイルのコイル巻線は、回路遮断器の電流容量によって素線の太さが選択され、電流容量が小さい場合は、素線の太さが細くなる。
【0008】
電磁引はずし装置の電磁コイルの巻線端末部を処理して形成された引出端子は回路遮断器内の接続端子に半田付けにより接続固定されるので、電磁コイルの素線が細い場合、使用中に継続的に受ける振動などにより引出端子が断線して導通不良を起こすことがある。
【0009】
これを改善して巻線端末部の強度を強化するために次のような対策がとられている。
【0010】
その一つの対策は、図7(a)に示すように、コイルの巻線端末部13b−1の素線をコイル素線より線径の大きい導体で形成した引出線13d−1の一端に巻きつけ、この引出線の巻線端の巻き付けられた部分を図7(b)に示すように、コイル13b上に載置し、その外周を絶縁シート13cで被覆することによりコイル巻線13bとともに固定し、補強された引出端子13d−1および13d−2を形成するものである。これを引出線方式と称する。
【0011】
他の対策は、図8(a)に示すように、コイル13bの巻線端末部13b−2の素線を鉤状の撚り加工治具18に引っ掛けた状態で所定の回数折り曲げて所定長さの折り曲げ素線束13e−2´を形成し、この素線束13e−2´に引っ掛けられた治具18を矢印Bで示すよう所定の回数撚回させることにより、素線束13e−2´に撚りを加えて線径の太い撚り線状の引出端子13e−1および13e−2形成し、図8(b)に示すようにその基端部をコイル巻線13b上に載置した状態で、絶縁シート13cで被覆することによりコイル巻線13bとともに固定して、補強された引出端子13e−1および13e−2を形成するものである。これを撚り線方式と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−302634号公報
【特許文献2】特許第3475598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の引出線方式による電磁コイルの巻線端末部の補強対策は、コイル巻線を形成する工程と巻線端末を補強する端末処理工程が別工程となるため、端末処理状態の確認が可能となり、補強作業の信頼性を高めることができるという利点があるが、巻線の素線の線径がある程度太くなるとコイル巻線の端末を引出線に巻き付ける作業が難しくなるだけでなく、撚り線方式の対策に比べて製造コストが高くなる問題がある。
【0014】
また、前記の撚り線方式の補強対策は、引出線方式の補強対策に比べ、製造コストが安く、また引出線方式より線径の太い素線でも撚りを加える作業が容易となる利点があるが、コイルの巻線作業から巻線端末の撚り加工を行う端末処理の完了までを連続して行わなければならないため、撚り加工により形成した引出端子の基端部が絶縁シートで隠れ、正しく撚り加工されているかを確認することが難しく、撚り加工の際に生じる素線の断線が見落とされ補強作業の信頼性が低くなる問題がある。
【0015】
この発明は、前記のような従来の巻線端末部の補強対策における問題点を解消すために、細い素線で形成されたコイル巻線であっても信頼性の高い補強された引出端子を得ることことができ、かつ多少線径の太い素線で形成されたコイル巻線であっても補強のための端末処理が容易となる電磁コイル装置およびその巻線端末の処理方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、前記課題を解決するために、筒状の巻き枠の上下両端に鍔を備えた絶縁材製のコイルボビンにコイル素線を所定回数巻回して構成した電磁コイル装置において、前記コイルボビンの少なくとも一方の鍔の外周に前記コイルの両端の巻線端末部を係止するための係止片を設け、前記コイルボビンに巻回されたコイル巻線の巻き始めおよび巻き終わりの端末部の前記鍔より外側に延びた素線を基端側を前記係止片に係止させて所定長さに複数回折り返して素線束を形成し、この素線束を適宜回数捻回して撚り合わせることにより基端部が前記コイルボビンの鍔の係止片に結束固定された引出端子を形成することを特徴とする。
【0017】
この発明によるコイル端末の処理方法は、回転駆動可能な先端が鉤状に形成された撚り加工治具を設け、この治具を前記コイル巻線の巻回されたボビンの鍔に設けた係止片と所定間隔離して対峙させた上で、前記コイル巻線の端末部の前記鍔の外側へ延びた素線を前記治具の鉤部と前記鍔の係止片との間に係止させて複数回巻回すことにより所定長さの素線束を形成し、前記治具を回転駆動することによりこの素線束に撚りを加えて、この素線束の基端部を前記コイルボビンの鍔の係止片に結束固定し、その後、前記治具を素線束から外すことにより複数の素線を撚り合わせた引出端子を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、コイルボビンに巻回されたコイル巻線のボビンの鍔より外側へ引出された巻き始めおよび巻き終わり端末のそれぞれの基端部をコイルボビンの鍔に設けた係止片に係止して複数回折り返して形成された折り返し素線束の撚り加工がボビンの外側で行われるため、撚り加工の仕上がりを目視で確認することができ、コイル端末部の撚り加工による補強の信頼性を高めることができる。
【0019】
補強されたコイル端末により形成された引出端子は、基端部をボビンの鍔に設けた係止片に結束することにより支持されるので、この引出端子に加わる外力が係止片で受け止められ、ボビン内に巻回された巻線の素線へ伝達されなくなり、コイル巻線の外力による断線を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施例の電磁コイル装置を示す一部切り欠き構成図である。
【図2】この発明の実施例によるコイル巻線の端末を補強するためのコイル巻線の端末の処理工程を示す図である。
【図3】この発明に使用するコイルボビンの構成を示す斜視図である。
【図4】従来の電磁引外し装置の組み込んだ回路遮断器を野構成を示す断面図である。
【図5】従来の電磁コイル装置を示す部分断面構成図である。
【図6】従来の電磁コイル装置のコイルボビンの構成を示す斜視図である。
【図7】従来の電磁コイル装置のコイル巻線端末の処理方法を示す図である。
【図8】他の従来の電磁コイル装置のコイル巻線端末の処理方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図に示す実施例について説明する。
【実施例】
【0022】
図1ないし図3はこの発明を示すものである。図1は、この発明の実施例の電磁コイル装置を示す部分切欠き構成図である。図2は、この発明の実施例によるコイル巻線の端末を補強するためのコイル巻線の端末の処理工程を示す図である。図3はこの発明に使用するコイルボビンの構成を示す斜視図である。
【0023】
図1ないし図3において従来の装置と同一の部分は同一の符号で示す。これらの図において、電磁コイル装置13は、絶縁樹脂モールドで形成されたコイルボビン13aと、このボビンに巻線素線を所望の巻数だけ巻回して構成されたコイル巻線13bとを備え、コイル巻線13bの外周を絶縁シート13cにより被覆して保護している。コイル巻線13bの巻き始め端末部13b−1および巻き終わり端末部13b−2を所定の長さに複数回折り返して束ねられた素線束がボビンの下鍔13a−2の下方へ引出される。この端末部の折り返して束ねられた素線束(13b-3´、13b−4´)は、その基端部をボビンの下鍔13a−2に設けた係止片13a−7および13a−8(図3参照)に係止して撚り合わせて一体化することにより、補強された引出端子13b−3および13b−4が形成されている。
【0024】
このように複数本の素線を撚り合わせて構成して引出端子13b−3および13b−4は、基端部がコイルボビン13aの下鍔に設けた係止片13a-7,13a−8のそれぞれに結束して固定支持され、全体が絶縁シート13cの外側に引き出されるので、撚り加工の仕上がりを目視で確認することができ、仕上がりの信頼性を高めることができる。また細い素線で構成されていても複数本の素線を撚り合わせて一体的に構成することにより剛性が高まり、機械的強度も強くなり引出端子として十分に機能することができる。
【0025】
また、この電磁コイル装置13を組み込んだ電磁引き外し装置を、図4に示すように回路遮断器内に組み込んで使用した場合、電磁コイル装置の引き出し端末13b−3および13b−4は、コイルボビン13aの下鍔に設けた係止片13a-7,13a−8により結束支持されるため、使用中にこの引出端子に振動等の外力が加わっても、この外力がコイル巻線を構成する細い素線に伝達されることがないのでコイル巻線が断線するのを抑制することができる。
【0026】
次に、この電磁コイル装置の引出端子13b−3および13b−4を形成するための端末処理方法の例を図2を参照して説明する。
【0027】
図2において、18は、端末処理に使用する鉤状の撚り加工治具で図示しない電動式回転駆動機構等により支持するようにしてもよい。
【0028】
この治具18はコイルボビン13aの鍔13a−2に設けた一方の係止片13a−7と所定の間隔離して対向配置される。鍔13a−2の下方へ引き出されたコイル巻線13bの巻き始め端末部13b−1の先端をこの治具18の鉤部に掛けながら矢印A方向へ折り返し、さらにボビンの係止片13a−7に掛けて元の位置へ戻す巻回操作を所定回数繰り返して行う。これにより図2(b)に示すように、基端部側をボビンの係止片13a−7に係止して複数回巻回して束ねられた素線束13b−3´を形成する。
【0029】
同様の処理をコイル巻線13bの巻き終わり端末部13b−2について行うことにより、ボビンの係止片13a−8に係止された素線束13b−4´を形成する。
【0030】
このように、素線束13b−3´、13b−4´を形成したところで、図2(b)に示すように素線束13b−3´の輪の先端に挿入した治具18を手動または電動式回転駆動機により矢印Bで示すように、一定方向に所定回数回転し、素線束の撚り合わせ処理を行う。撚り合わせ処理が完了したところで、治具18を素線束13b−3´から外すことにより、図1に示すような複数本の素線が撚り合わさって、基端部をコイルボビンの係止片13a−7に結束固定された引出端子13b−3が形成される。
【0031】
他方の素線束13b−4´についても治具18を掛けて同様の撚り加工を行うことにより、コイルボビン13aの係止片13a−8に結束固定された引出端子13b−4を形成する。
【符号の説明】
【0032】
13:電磁コイル装置
13a:コイルボビン
13a−7、13a−8:係止片
13b:コイル巻線
13b−3、13b−4:引出端子
13c:絶縁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の巻き枠の上下両端に鍔を備えた絶縁材製のコイルボビンにコイル素線を所定回数巻回して構成した電磁コイル装置において、前記コイルボビンの少なくとも一方の鍔の外周に前記コイルの両端の巻線端末部を係止するための係止片を設け、前記コイルボビンに巻回されたコイル巻線の巻き始めおよび巻き終わりの端末部の前記鍔より外側に延びた素線を基端側を前記係止片に係止させて所定長さに複数回折り返して素線束を形成し、この素線束を適宜回数捻回して撚り合わせることにより基端部が前記コイルボビンの鍔の係止片に結束固定された引出端子を形成することを特徴とした電磁コイル装置。
【請求項2】
回転駆動可能な先端が鉤状に形成された撚り加工治具を設け、この治具を前記コイル巻線の巻回されたボビンの鍔に設けた係止片と所定間隔離して対峙させた上で、前記コイル巻線の端末部の前記鍔の外側へ延びた素線を前記治具の鉤部と前記鍔の係止片との間に係止させて複数回巻回すことにより所定長さの素線束を形成し、前記治具を回転駆動することによりこの素線束に撚りを加えて、この素線束の基端部を前記コイルボビンの鍔の係止片に結束固定し、その後、前記治具を素線束から外すことにより複数の素線を撚り合わせた引出端子を形成したことを特徴とする電磁コイル装置の巻線端末の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−287620(P2010−287620A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138419(P2009−138419)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】