説明

電磁弁付膨張弁

【課題】パワーエレメントが蒸発器出口冷媒の温度を正しく感知できる電磁弁付膨張弁にする。
【解決手段】主円柱部14と副円柱部15とからなるボディ16を有し、主円柱部14のリア側蒸発器7と接続される側およびその反対側は同軸配置の二重管構成を有している。主円柱部14のリア側蒸発器7と接続される側とは反対側の外管を全周かしめ加工することによってパワーエレメント35の外周縁部をボディ16に固定している。これにより、パワーエレメント35の内側のロアハウジング37の開口部を大きくすることができ、リア側蒸発器7の出口冷媒をパワーエレメント35の感温部に容易に到達させることができるため、蒸発器出口冷媒の温度を正しく感知できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁弁と膨張弁とを一体化した電磁弁付膨張弁に関し、特に車室内のフロント側とリア側とが独立して空調することができる自動車用空調装置のリア側回路に用いられる電磁弁付膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内のフロント側とリア側とをそれぞれ独立して空調できるようにした自動車用空調装置が知られている。このような自動車用空調装置では、フロント側の空調制御を行うフロント用の膨張弁および蒸発器の回路とリア側の空調制御を行うリア用の膨張弁および蒸発器の回路とを並列に配置して構成した冷凍サイクルが用いられている。
【0003】
ここで、自動車用空調装置を運転しているとき、乗員の乗車状況に応じて、リア側は空調制御を行わずにフロント側のみ空調制御を行う場合がある。このようにリア側の空調制御を行っていないときには、リア側の回路に設置した電磁弁を閉弁してリア側の回路に冷媒が流れないようにすることが行われている。このような用途に用いられる電磁弁は、設置スペースおよびコストの点から膨張弁と一体に構成した電磁弁付膨張弁が使用されている。
【0004】
このような電磁弁付膨張弁における電磁弁は、膨張弁の弁体より下流側に配置され、リア側の空調制御を行っていないときは閉弁するようにしている。ここで、電磁弁付膨張弁が電磁弁を閉弁していながらフロント側が空調制御を継続していると、リア側の蒸発器出口の温度を感知して開度を制御する電磁弁付膨張弁の感温部は高温の室温に晒され、膨張弁は全開状態に制御されていることになる。また、フロント側が空調制御を継続していることにより、これと並列に設けられたリア側においても、膨張弁の上流側は高圧圧力になっており、電磁弁の下流側は低圧圧力になっている。このため、このような状況で、リア側の空調を行うべく電磁弁が開弁すると、全開の膨張弁には、その前後の差圧によって大流量の冷媒が急激に流れ、大きな冷媒流動音を発生することがあった。
【0005】
このような冷媒流動音の発生を抑制するため、電磁弁が閉弁しているとき、膨張弁の上流側の高圧圧力を感温部のダイヤフラムに作用させて膨張弁を閉弁し、これによって電磁弁の開弁時に大流量の冷媒が流れてしまわないようにすることが行われている。このような電磁弁付膨張弁では、感温部のダイヤフラムに高圧圧力を直接作用させる構成のため、感温室を構成しているダイヤフラムおよびハウジングは、高耐圧の材料を使用することになる。
【0006】
これに対し、高圧圧力を感温部のダイヤフラムに直接的に作用させないようにして、感温室を含むパワーエレメントとして高耐圧仕様ではない普通のものを使用した電磁弁付膨張弁が提案されている(たとえば特許文献1参照。)。この電磁弁付膨張弁は、膨張弁の弁部を内蔵し、4本の配管が接続される継手の機能を持った直方体のボディと、このボディに結合されて膨張弁の弁部を制御するパワーエレメントと、ボディに結合されて弁部の下流側と蒸発器入口への配管が接続される低圧冷媒出口との間の通路を開閉する電磁弁とを備え、パワーエレメントに隣接して圧力室を設けている。その圧力室は、電磁弁の上流側に連通するガイド部材とダイヤフラムに当接しているストッパ部材とによって構成されている。ガイド部材は、その大径部がパワーエレメントをボディに螺着している側のハウジングの中に収容されており、その中にシール部材を介してストッパ部材がパワーエレメントの変位方向に移動自在に嵌め込まれている。この電磁弁付膨張弁は、圧力室が電磁弁の上流側と連通されているので、電磁弁が開くと、圧力室は膨張弁出口の低圧圧力と均圧され、膨張弁は通常の温度式膨張弁として機能する。電磁弁が閉じたときには、圧力室に高圧圧力が導かれ、ストッパ部材がダイヤフラムを弁体から離れる方向に付勢することで、膨張弁は全閉状態になる。これにより、リア側の空調を開始しようとして電磁弁が開弁すると、その開弁時、膨張弁は閉じているので、急激に大流量の冷媒が流れることはなく、冷媒流動音の発生を抑制することができる。
【特許文献1】特開2004−150656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、引用文献1に記載の電磁弁付膨張弁は、ガイド部材の大径部がパワーエレメントをボディに螺着している側のハウジングの開口部を塞ぐように配置されているので、パワーエレメント内に蒸発器出口の冷媒が導入され難く、パワーエレメントが蒸発器出口冷媒の温度および圧力を正しく感知できないという問題点があった。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、パワーエレメントが蒸発器出口冷媒の温度を正しく感知できる電磁弁付膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記問題を解決するために、冷媒を断熱膨張させる膨張弁とこの膨張弁を閉弁することができる電磁弁とを一体化した電磁弁付膨張弁において、両端が二重管構造に形成された主円柱部およびこの主円柱部に直交する方向に延出された配管接続部を有するボディと、前記主円柱部の一端側の第1外管を気密に閉止するように配置されたパワーエレメントと、前記主円柱部の一端側の第1内管に前記パワーエレメントと当接状態のまま軸方向に進退自在に気密に外嵌されていて前記第1内管の端面との間には圧力室が形成されているピストンと、前記主円柱部の一端側の前記第1内管と他端側の第2内管との間で軸方向に形成される空間に収容され、前記配管接続部の高圧入口と前記主円柱部の前記第2内管との間の通路を前記パワーエレメントおよび前記ピストンの動きに連動して開閉する弁部と、前記ピストンの前記圧力室と前記主円柱部の前記第2内管との間の連通路に配置されて非通電時に閉弁し、通電時に開弁する前記電磁弁と、を備えていることを特徴とする電磁弁付膨張弁が提供される。
【0010】
このような電磁弁付膨張弁によれば、ボディの主円柱部において、蒸発器が接続される側とは反対側の第1外管をパワーエレメントで閉止することにより、パワーエレメントの蒸発器からの戻り低圧冷媒を受ける側のハウジングの開口部を大きくすることができ、パワーエレメントに蒸発器出口冷媒の温度を正しく感知させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁弁付膨張弁は、ボディの主円柱部における二重管構造の外管をパワーエレメントで閉止する構成にしたことで、パワーエレメントの内側のハウジングの開口部を大きくすることができ、これにより、蒸発器出口冷媒をパワーエレメントの感温部に容易に到達させることができるため、蒸発器出口冷媒の温度を正しく感知できるようになるという利点がある。
【0012】
また、ピストンとパワーエレメントのダイヤフラムとの有効受圧径を等しくしたことによって、蒸発器出口の圧力がキャンセルされ、しかも、ピストンの有効受圧径が従来の電磁弁付膨張弁よりも大きいので、フロント側の冷凍負荷が非常に小さいときのように高圧と低圧との圧力差が小さいときでも、その差圧によって動くピストンは、パワーエレメントの感温室が室温を感知して内圧が高くなることによって開弁方向に作用している付勢力に抗して閉弁方向に動くことができるため、確実に閉弁状態を維持することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、自動車用空調装置の効率を向上させるために内部熱交換器を備えた冷凍サイクルのリア側空調用の膨張弁に適用した場合を例に図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
この冷凍サイクルは、車両のエンジンルーム内に配置されて、冷媒を圧縮する圧縮機1と、圧縮された冷媒を冷却して凝縮させる凝縮器2と、凝縮された冷媒を気液に分離して液冷媒を送り出すレシーバ3とを備えている。車室内のフロント側には、液冷媒を絞り膨張させるフロント側膨張弁4と、膨張された冷媒を蒸発させるフロント側蒸発器5とが配置され、車室内のリア側には、液冷媒を絞り膨張させる電磁弁付膨張弁6と、膨張された冷媒を蒸発させるリア側蒸発器7とが配置されている。そして、レシーバ3とフロント側膨張弁4および電磁弁付膨張弁6との間は、内部熱交換器8によって接続されている。また、フロント側蒸発器5およびリア側蒸発器7の近傍には、これらに車室内の空気を通過させるための送風機9,10が設けられている。
【0015】
ここで、たとえばフロント側のみ空調を行うときは、電磁弁付膨張弁6がリア側回路の冷媒流路を閉じた状態で、圧縮機1および送風機9が起動される。圧縮機1で圧縮された高温・高圧の冷媒は、凝縮器2にて凝縮され、レシーバ3に溜められる。レシーバ3の液冷媒は、内部熱交換器8を通ってフロント側膨張弁4に供給され、そこで絞り膨張されて低温・低圧の冷媒になる。低温・低圧の冷媒になった冷媒は、フロント側蒸発器5に送られ、そこで送風機9によって送られてきた車室内の空気との熱交換により蒸発される。蒸発された冷媒は、フロント側膨張弁4および内部熱交換器8を介して圧縮機1の入口に送られる。
【0016】
蒸発した冷媒がフロント側膨張弁4を通過するとき、そのフロント側膨張弁4は、フロント側蒸発器5の冷媒の温度および圧力を感知し、そのフロント側蒸発器5の出口における冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5に送り出す冷媒の流量を制御する。内部熱交換器8は、レシーバ3からフロント側膨張弁4に向けて流れる高温の冷媒とフロント側膨張弁4から圧縮機1に向けて流れる低温の冷媒との間で熱交換が行われ、フロント側膨張弁4に送られる冷媒はより冷却され、圧縮機1に送られる冷媒はより過熱されることにより、フロント側膨張弁4の入口と圧縮機1の入口とのエンタルピ差が大きくなる。その結果、冷凍サイクルの成績係数が向上し、圧縮機1を駆動する走行用エンジンの負荷が小さくなり、自動車用空調装置の効率を向上させることができる。
【0017】
リア側の空調を行うときには、電磁弁付膨張弁6の電磁弁および送風機10が起動される。これにより、内部熱交換器8にて分岐された高温・高圧の液冷媒が電磁弁付膨張弁6に供給され、そこで絞り膨張されて低温・低圧の冷媒になる。低温・低圧の冷媒になった冷媒は、リア側蒸発器7に送られ、そこで送風機10によって送られてきた車室内の空気との熱交換により蒸発される。蒸発された冷媒は、電磁弁付膨張弁6および内部熱交換器8を介して圧縮機1の入口に送られる。蒸発した冷媒が電磁弁付膨張弁6を通過するとき、その電磁弁付膨張弁6は、リア側蒸発器7の冷媒の温度および圧力を感知し、そのリア側蒸発器7の出口における冷媒が所定の過熱度になるようにリア側蒸発器7に送り出す冷媒の流量を制御する。
【0018】
図2は第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の非通電状態を示す断面図、図3は図2のA部拡大断面図、図4は第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の通電状態を示す断面図である。
【0019】
この第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁11は、図1の電磁弁付膨張弁6に対応するもので、リア側蒸発器7の冷媒入口および冷媒出口に直接接続するような構成を有している。なお、リア側蒸発器7は、複数のアルミニウムのプレートを積層して構成され、そのヘッダ部分には、冷媒を導入する冷媒入口配管12および冷媒を導出する冷媒出口配管13を有している。冷媒出口配管13は、冷媒入口配管12を囲うように冷媒入口配管12と同軸に配置されている。そして、このリア側蒸発器7は、炉中ろう付け加工にて、積層されたプレートを同時に溶接することによって形成されるが、このとき、冷媒入口配管12および冷媒出口配管13も一緒に溶接されて一体に形成されている。
【0020】
電磁弁付膨張弁11は、図2の左右方向に延びる主円柱部14に図2の下方向に延びる副円柱部15が結合され、主円柱部14の図2の上側が平面にされたような外形を有するボディ16を備えている。副円柱部15は、内部熱交換器8の配管と接続される配管接続部を構成している。主円柱部14および副円柱部15は、それら三方の端面形状がそれぞれ二重管構造を有している。主円柱部14は、その中央に膨張弁の可動部が収容される中央孔が軸方向に貫通形成され、その中央孔の周囲にはリア側蒸発器7から導入された低圧冷媒を流す複数の通路が軸方向に貫通形成されている。
【0021】
主円柱部14の中央孔には、シャフトガイド17が圧入され、リング状の弁座18がかしめ加工によってボディ16に固定されている。その弁座18に対して接離自在に弁体19が配置されている。弁体19は、スプリング20によって閉弁方向に付勢されており、そのスプリング20は、主円柱部14のリア側蒸発器7側に形成された二重管の内管に圧入されたばね受け部材21によって受けられていて、そのばね受け部材21の内管への圧入量によってスプリング20の荷重が調整されている。
【0022】
弁体19は、弁座18およびシャフトガイド17を介して軸方向に延びるシャフト22と一体に形成されている。シャフト22の弁体19が形成されている側とは反対側の端部は、ピストン23に嵌合されている。ピストン23は、シャフト22が嵌合されている中央円筒部が主円柱部14の中央孔に配置され、中央円筒部の弁体19の側には、シール用のOリング24が配置されている。ピストン23は、また、その中央円筒部の周囲に圧力室25を構成する環状溝26が形成され、その環状溝26には、主円柱部14のリア側蒸発器7とは反対側に形成された二重管の内管が挿入され、圧力室25のシールは、内管に周設されたOリング27により行われている。
【0023】
主円柱部14のばね受け部材21が圧入されている側にて二重管構造に形成されたものの内管は、この電磁弁付膨張弁11の低圧冷媒出口28を構成し、その外周に形成された環状溝は、リア側蒸発器7から戻ってきた冷媒を受け入れる戻り低圧冷媒入口29を構成している。ここで、この電磁弁付膨張弁11の低圧冷媒出口28は、リア側蒸発器7の冷媒入口配管12に嵌合され、その嵌合部はOリングによってシールされている。また、電磁弁付膨張弁11の戻り低圧冷媒入口29は、リア側蒸発器7の冷媒出口配管13に嵌合され、先端部を全周かしめ加工することによってリア側蒸発器7と機械的に結合され、冷媒出口配管13との嵌合部は、Oリングによってシールされている。
【0024】
主円柱部14の中央孔におけるシャフトガイド17の設置空間は、副円柱部15に形成された二重管構造の内管が連通し、主円柱部14の中央孔の周りに形成された通路は、副円柱部15に形成された内管と外管との間の空間に連通している。ここで、副円柱部15の内管は、高圧冷媒入口30を構成し、副円柱部15の内管と外管との間の空間は、この電磁弁付膨張弁11を通過した冷媒が圧縮機1の入口に戻される戻り低圧冷媒出口31を構成している。したがって、電磁弁付膨張弁11の高圧冷媒入口30は、レシーバ3からの高温・高圧の液冷媒が供給される高圧配管32が嵌合され、Oリングによってシールされている。また、電磁弁付膨張弁11の戻り低圧冷媒出口31は、戻り低圧配管33に嵌合され、先端部に内嵌したバックアップリング34を固定するようにその全周をかしめ加工することによって戻り低圧配管33と機械的に結合され、戻り低圧配管33との嵌合部は、Oリングによってシールされている。この実施の形態では、副円柱部15に接続される高圧配管32および戻り低圧配管33は、二重管構造になっているが、これが、図1の内部熱交換器8を構成している。
【0025】
このように、この電磁弁付膨張弁11は、リア側蒸発器7との接続を互いに同軸の二重管構造として外管の全周かしめ加工で行うようにしたことで、2つの流体の通路の接続を同時に行うことができ、しかも、リア側蒸発器7との接続が同軸であることから、リア側蒸発器7への接合前に、ボディ16は、低圧冷媒出口28および戻り低圧冷媒入口29の同心の軸を中心に回動できるので、高圧配管32および戻り低圧配管33が嵌合される高圧冷媒入口30および戻り低圧冷媒出口31の開口方向の向きを自由に変更することができる。
【0026】
主円柱部14のリア側蒸発器7と結合される側と反対側も二重管構造になっていて、その外管の開口部は、パワーエレメント35によって閉止されている。このパワーエレメント35による閉止は、パワーエレメント35の外周縁部を係止するように外管の開口端を全周かしめ加工することによって封止されている。このパワーエレメント35は、アッパーハウジング36およびロアハウジング37と、外周縁部がこれらによって挟持された状態でともに溶接された可撓性の金属薄板からなるダイヤフラム38とを備えている。アッパーハウジング36とダイヤフラム38とによって囲まれた空間は、感温室を構成し、ここに冷媒ガスなどが充填されている。ロアハウジング37内には、ピストン23がダイヤフラム38に当接状態で配置され、ダイヤフラム38の変位を弁体19へ伝達するようにしている。
【0027】
ボディ16の図の上面には、電磁弁39の装着穴40が形成され、その装着穴40の中には筒状の弁座41が立設され、その弁孔は、膨張弁の弁座18の下流側に連通している。ボディ16には、装着穴40と圧力室25とを連通する連通路42が形成されている。圧力室25に開口している連通路42の開口端には、微小径の貫通孔を有するオリフィス部材43が嵌合されている。このオリフィス部材43は、圧力室25を出入りする冷媒の流量を制限する機能を有している。また、連通路42の途中には、膨張弁の弁座18の上流側に連通する高圧導入孔44が設けられている。ここで、シャフト22をその軸方向に進退自在に支持しているシャフトガイド17は、高圧導入孔44を微小開度を以って閉止するリード片45が一体に形成されている。これら高圧導入孔44およびリード片45は、逆止弁を構成している。つまり、通常は、膨張弁の弁座18の上流側から高圧導入孔44を介して連通路42へ向かう方向には、概ね冷媒の流れは止められて、高圧の冷媒が微少に漏れていくが、連通路42内の冷媒圧力が急上昇したときには、開弁してその高圧を高圧導入孔44を介し膨張弁の弁座18の上流側へ容易に放出させることができるようにしてある。
【0028】
電磁弁39は、ボディ16の装着穴40に気密にスリーブ46が嵌合され、その開口端は、コア47によって閉止されている。そのコア47と弁座41との間のスリーブ46内には、プランジャ48が配置されており、その弁座41との対向端には弁体49が保持されている。プランジャ48とコア47との間には、弁体49を弁座に着座させる方向にスプリング50が配置されている。スリーブ46には、コイル51が周設され、さらにヨーク52によって囲撓されている。したがって、この電磁弁39は、コイル51への通電がないときには、弁体49がスプリング50の付勢力によって弁座41に着座され、閉弁している。コイル51への通電があるときには、プランジャ48がコア47により吸引され、スプリング50の付勢力に抗して弁体49が弁座41から離れるので、電磁弁39は、開弁している。
【0029】
以上の構成の電磁弁付膨張弁11において、フロント側の空調は行っているが、リア側の空調は停止しているとき、電磁弁39のコイル51には給電されないので、図2に示したように、電磁弁39は閉弁している。これにより、レシーバ3から内部熱交換器8の高圧配管32を通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口30に供給されているので、その液冷媒は、逆止弁の微小開度を通じて連通路42に漏れ、オリフィス部材43を介して圧力室25に導入される。この圧力室25は、Oリング24,27によりシールされて閉じた空間になっているのでこれ以上漏れることはなく、したがって、圧力室25に導入された高圧の冷媒は、ピストン23をパワーエレメント35の方へ押し出すように作用する。これに伴って、ピストン23に結合されたシャフト22およびこれと一体の弁体19もパワーエレメント35の方へ移動され、その移動は、弁体19が弁座18に着座することによって停止する。
【0030】
このとき、膨張弁は閉弁しているので、この電磁弁付膨張弁11を冷媒が流れることはない。しかも、高圧冷媒が、ピストン23を駆動して、弁体19を弁座18に強制的に着座させているので、膨張弁の閉弁状態を維持することができる。なお、リア側の空調が停止していることによって、圧力室25に導入された高圧の液冷媒が暖められてさらに高圧になる場合があるが、圧力室25はそのような異常高圧になった場合は、逆止弁が開弁して膨張弁の上流側へ放出し、減圧させるので、異常高圧による悪影響を防止することができる。
【0031】
ここで、リア側の空調を行うために電磁弁39が通電されると、電磁弁39は図4に示したように開弁する。これにより、連通路42および圧力室25に充満されている高圧の液冷媒は、電磁弁39を通って膨張弁の弁座18よりも下流側に流出する。このとき、圧力室25内の液冷媒をオリフィス部材43のオリフィスを介して流出するので、圧力室25内の圧力は急減することなく漸減する。パワーエレメント35は、リア側の空調が止まっているときの車室内の高い空気温度を検出していて、感温室内の圧力は高くなっているので、ピストン23は、ダイヤフラム38に押されて膨張弁の開弁方向に緩慢に移動されていき、全開位置で停止する。これにより、膨張弁の前後差圧が大きくても、大流量の高圧冷媒が膨張弁を一気に流れることはないので、冷媒流動音を発生することはない。また、電磁弁39が通電されている間、逆止弁を介して高圧の冷媒が膨張弁の下流側へ常に微少漏れしていることになる。
【0032】
これにより、レシーバ3から内部熱交換器8の高圧配管32を通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口30に供給されると、その液冷媒は、弁座18と弁体19との間の隙間を通って低圧冷媒出口28へ流出する。このとき、冷媒は、断熱膨張されて低温・低圧の気液混合冷媒となり、冷媒入口配管12よりリア側蒸発器7へ導入される。なお、図中の矢印は、冷媒の流れ方向を示している。リア側蒸発器7では、導入された冷媒は、車室内の空気との熱交換により蒸発されて冷媒出口配管13から流出する。その冷媒は、戻り低圧冷媒入口29より導入され、複数の低圧冷媒の通路を通じて戻り低圧冷媒出口31へ流出し、戻り低圧配管33を介して圧縮機1の入口へ戻される。
【0033】
膨張弁が全開状態で運転を継続すると、やがて、車室内の空気が冷やされてリア側蒸発器7から戻ってくる冷媒の温度が低くなる。冷媒の温度が低くなると、電磁弁付膨張弁11は、リア側蒸発器7の出口の冷媒が所定の過熱度になるようにリア側蒸発器7に供給する冷媒の流量を制御することになる。
【0034】
パワーエレメント35は、そのロアハウジング37をボディ16に固定する方法を採らずに、主円柱部14の二重管構造となっている外管を全周かしめ加工することでパワーエレメント35の外周部をボディ16に固定しているため、ロアハウジング37の開口部を大きくすることができ、これにより、ダイヤフラム38とロアハウジング37とによって囲まれた空間を低圧冷媒の通路と大きく連通させるようにした。このため、リア側蒸発器7から戻ってきた冷媒が低圧冷媒の通路を通過するとき、その冷媒がロアハウジング37に導入されて、その温度がパワーエレメント35によって検出される。なお、この電磁弁付膨張弁11では、リア側蒸発器7から導入された冷媒の圧力は、パワーエレメント35によって検出されない。これは、ピストン23の有効受圧径(Oリング27の外径に対応する)をダイヤフラム38の有効受圧径と同じにしてあるからであり、これによってリア側蒸発器7から戻ってきた冷媒の圧力をキャンセルしている。
【0035】
パワーエレメント35は、その感温室内の圧力が検出した冷媒の温度に応じて昇降するので、その温度に応じてダイヤフラム38が弁体19の開閉方向に変位する。その変位は、ピストン23を介してシャフト22および弁体19に伝達される。これにより、弁体19のリフトが変化し、リア側蒸発器7に供給する冷媒の流量を制御することになる。
【0036】
図5は第2の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の非通電状態を示す断面図、図6は第2の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の通電状態を示す断面図である。なお、この図5および図6において、図2ないし図4に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0037】
この第2の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁61は、第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁11と比較して、逆止弁およびピストン23の構造を変更している。すなわち、高圧の液冷媒を圧力室25へ導入する逆止弁を、弁体62にボールを使用したボール弁にしてある。この逆止弁は、弁座を傷付き弁座にしてあり、これにより、第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁11のリード弁構造の逆止弁と同様に、全閉時でも高圧の液冷媒が微少漏れできるようにしてある。
【0038】
また、ピストン23は、パワーエレメント35のダイヤフラム38に直接当接するのではなく、ダイヤフラム38との間にセンターディスク63を介在させるようにしている。このセンターディスク63は、熱伝導率の低い材料で作られており、しかも、ピストン23との接触面積を小さくしている。これにより、圧力室25に高温・高圧の液冷媒が導入されることによってピストン23が高温になっても、その温度がダイヤフラム38に伝熱して感温室内の圧力が高くなり、高圧による膨張弁の閉弁動作が妨げられるのを防止している。
【0039】
このような電磁弁付膨張弁61において、電磁弁39が非通電状態にあるとき、図5に示したように、電磁弁39は閉弁される。これにより、高圧の液冷媒は、逆止弁を微少漏れして、高圧導入孔44から連通路42に導入され、オリフィス部材43を介して圧力室25に導入される。したがって、ピストン23は、膨張弁の弁体19が弁座18に着座するまでパワーエレメント35の方へ移動され、フロント側の空調が行われている間、膨張弁の全閉状態が維持される。
【0040】
電磁弁39が通電されると、図6に示したように、電磁弁39は開弁し、連通路42および圧力室25内の冷媒は、膨張弁の下流側へ流出される。オリフィス部材43が圧力室25から流出する冷媒の流量を制限することで、圧力室25の圧力は漸減するので、ピストン23は急激に膨張弁の開弁方向に動くことはなく、したがって、ピストン23に固定されたシャフト22と一体の弁体19も急激に開弁方向に動くことはないので、大流量の冷媒が流れることはなく、冷媒流動音の発生が抑制される。
【0041】
図7は第3の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の非通電状態を示す断面図、図8は第3の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の通電状態を示す断面図である。なお、この図7および図8において、図5および図6に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0042】
この第3の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁71は、第2の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁61と比較して、逆止弁および電磁弁39の弁構造を変更している。すなわち、この電磁弁付膨張弁71では、電磁弁39の装着穴40がシャフトガイド17を圧入している中央孔まで貫通されており、そこにプラグ72が配置されている。このプラグ72は、その上端がスリーブ46に嵌合され、下端部がシャフトガイド17の中まで延出されている。
【0043】
プラグ72には、プランジャ48と対向する面に筒状の弁座41が一体に形成され、この弁座41に対して接離する弁体49は、プランジャ48と一体に形成されている。プラグ72のプランジャ48側とは反対側の端面は、凹設されていて、そこには逆止弁の弁体73が収容されている。この弁体73は、筒状の弁座41と同軸に形成された弁孔を閉じる方向にスプリング74によって付勢されている。その弁孔内には、シャフト75が挿入されている。シャフト75の上部は、プランジャ48に固定され、下端面は、電磁弁39が非通電状態のとき、逆止弁の弁孔より突出して逆止弁を開弁するように弁体73をリフトさせる位置にあり、電磁弁39が通電状態のときは、逆止弁の弁孔の中に退避して逆止弁を閉弁する位置にある。弁孔の中間部には、ピストン23の圧力室25に連通する連通路42に開口した開口部を有しており、その開口部は微小径に形成されてオリフィス76を構成している。また、プラグ72に形成された筒状の弁座41の周囲の空間は、膨張弁の下流側へ連通するようボディ16に形成された連通路77に連絡している。したがって、この電磁弁39は、非通電時に、圧力室25を膨張弁の上流側へ連通し、通電時には、圧力室25を膨張弁の下流側へ連通するように切り換える三方電磁弁になっている。
【0044】
このような電磁弁付膨張弁71において、電磁弁39が非通電状態にあるとき、図7に示したように、電磁弁39は、コア47に関してプランジャ48を付勢しているスプリング50により、連通路77を閉じるように弁体49が弁座41に着座され、同時に、逆止弁を開弁している。これにより、高圧の液冷媒は、逆止弁およびオリフィス76を介して連通路42に入り、圧力室25に導入される。したがって、ピストン23は、膨張弁の弁体19が弁座18に着座するまでパワーエレメント35の方へ移動され、フロント側の空調が行われている間、フロント側膨張弁4に供給される冷媒の高圧によって膨張弁の全閉状態が維持される。
【0045】
電磁弁39が通電されると、図8に示したように、電磁弁39はコア47にプランジャ48が吸引されて弁体49が弁座41よりリフトされるとともに逆止弁の弁体73が弁孔を閉じる。これにより、連通路42および圧力室25内の冷媒は、膨張弁の下流側へ流出される。このとき、オリフィス76が膨張弁の下流側へ流出する冷媒の流量を制限することで、圧力室25の圧力は漸減され、したがって、ピストン23が膨張弁を開弁する動きを遅らせることができるので、大流量の冷媒が一気に流れることはなく、冷媒流動音の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【図2】第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の非通電状態を示す断面図である。
【図3】図2のA部拡大断面図である。
【図4】第1の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の通電状態を示す断面図である。
【図5】第2の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の非通電状態を示す断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の通電状態を示す断面図である。
【図7】第3の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の非通電状態を示す断面図である。
【図8】第3の実施の形態に係る電磁弁付膨張弁の通電状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 圧縮機
2 凝縮器
3 レシーバ
4 フロント側膨張弁
5 フロント側蒸発器
6 電磁弁付膨張弁
7 リア側蒸発器
8 内部熱交換器
9,10 送風機
11 電磁弁付膨張弁
12 冷媒入口配管
13 冷媒出口配管
14 主円柱部
15 副円柱部
16 ボディ
17 シャフトガイド
18 弁座
19 弁体
20 スプリング
21 ばね受け部材
22 シャフト
23 ピストン
24 Oリング
25 圧力室
26 環状溝
27 Oリング
28 低圧冷媒出口
29 戻り低圧冷媒入口
30 高圧冷媒入口
31 戻り低圧冷媒出口
32 高圧配管
33 戻り低圧配管
34 バックアップリング
35 パワーエレメント
36 アッパーハウジング
37 ロアハウジング
38 ダイヤフラム
39 電磁弁
40 装着穴
41 弁座
42 連通路
43 オリフィス部材
44 高圧導入孔
45 リード片
46 スリーブ
47 コア
48 プランジャ
49 弁体
50 スプリング
51 コイル
52 ヨーク
61 電磁弁付膨張弁
62 弁体
63 センターディスク
71 電磁弁付膨張弁
72 プラグ
73 弁体
74 スプリング
75 シャフト
76 オリフィス
77 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を断熱膨張させる膨張弁とこの膨張弁を閉弁することができる電磁弁とを一体化した電磁弁付膨張弁において、
両端が二重管構造に形成された主円柱部およびこの主円柱部に直交する方向に延出された配管接続部を有するボディと、
前記主円柱部の一端側の第1外管を気密に閉止するように配置されたパワーエレメントと、
前記主円柱部の一端側の第1内管に前記パワーエレメントと当接状態のまま軸方向に進退自在に気密に外嵌されていて前記第1内管の端面との間には圧力室が形成されているピストンと、
前記主円柱部の一端側の前記第1内管と他端側の第2内管との間で軸方向に形成される空間に収容され、前記配管接続部の高圧入口と前記主円柱部の前記第2内管との間の通路を前記パワーエレメントおよび前記ピストンの動きに連動して開閉する弁部と、
前記ピストンの前記圧力室と前記主円柱部の前記第2内管との間の連通路に配置されて非通電時に閉弁し、通電時に開弁する前記電磁弁と、
を備えていることを特徴とする電磁弁付膨張弁。
【請求項2】
前記パワーエレメントは、前記主円柱部の前記第1外管を全周かしめ加工することによって前記ボディに固定されていることを特徴とする請求項1記載の電磁弁付膨張弁。
【請求項3】
前記ピストンは、前記パワーエレメントのダイヤフラムの変位を前記弁部の弁体へ伝達するディスクと一体になっていることを特徴とする請求項1記載の電磁弁付膨張弁。
【請求項4】
前記ピストンと前記パワーエレメントのダイヤフラムの変位を前記弁部の弁体へ伝達するディスクとは、別体になっていて、前記ディスクは、熱伝導率の低い材料で作られていることを特徴とする請求項1記載の電磁弁付膨張弁。
【請求項5】
前記配管接続部の前記高圧入口と前記圧力室側の前記連通路との間に配置されて前記連通路から前記高圧入口への流れを許容し、全閉時には、前記高圧入口に導入された高圧の液冷媒を前記連通路へ微少漏れするようにした逆止弁を備えていることを特徴とする請求項1記載の電磁弁付膨張弁。
【請求項6】
前記電磁弁は、前記逆止弁と一体に形成され、非通電による閉弁時に前記逆止弁を開弁し、通電による開弁時に前記逆止弁を閉弁する三方電磁弁としたことを特徴とする請求項5記載の電磁弁付膨張弁。
【請求項7】
前記圧力室側の前記連通路に、前記ピストンの進退動作を遅らせるオリフィスを有していることを特徴とする請求項1記載の電磁弁付膨張弁。
【請求項8】
前記ピストンおよび前記パワーエレメントは、前記ピストンと前記パワーエレメントのダイヤフラムとが受圧する有効受圧径を等しくしたことを特徴とする請求項1記載の電磁弁付膨張弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−24945(P2009−24945A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189143(P2007−189143)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000133652)株式会社テージーケー (280)
【Fターム(参考)】