説明

電磁式燃料噴射弁

【課題】弁体の安定した開閉姿勢を長期にわたり維持し,弁体の開閉時の衝撃を緩和し,衝突部の摩耗や騒音の低減を図り得る電磁式燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】固定コア6の内周に,それより高硬度のガイドブッシュ19を固設する一方,弁体15のステム15bに,ガイドブッシュ19の内周面に摺動自在に嵌合する摺動部材20と,その前方に配置されるストッパ部材22とを固設し,可動コア16を,これが摺動部材20及びストッパ部材22間で限られたストロークを移動し得るようにステム15bに摺動自在に嵌装し,コイル37の通電時には,固定コア6に吸引される可動コア16が摺動部材20を介して弁体15を開弁させ,コイル37の非通電時には,弁ばね33の付勢力で弁体15が閉弁されると共に,可動コア16がストッパ部材22と当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一端に弁座を有する弁ハウジングと,この弁ハウジングの他端に連設される中空の固定コアと,固定コアの吸引面に対置される可動コアと,前記固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁体と,前記弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねとを備え,前記コイルの通電により前記固定コアが前記可動コアを吸引することで前記弁体が開弁される電磁式燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる電磁式燃料噴射弁は,特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来,かゝる電磁式燃料噴射弁において,弁体の開閉姿勢を安定させるために,弁体のステムを固定コアの内周面に摺動自在に支承させることが,特許文献1の図4〜図6に開示されるように知られている。しかしながら,磁性材料で構成される固定コアは,比較的硬度が低いため,その内周面を高硬度の弁体のステムの案内部とすることは,その案内部の摩耗を早め,弁体の安定した開閉姿勢を長期にわたり維持することが困難となる。また従来の電磁式燃料噴射弁では,可動コアを弁体に一体的に結合しているので,弁体の開閉時には,弁体及び可動コアが一体となって固定コア及び弁座に大きな衝撃を与えることになり,衝突部の摩耗や騒音,及び弁体の弁座からの跳ね返りの原因となる。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,弁体の安定した開閉姿勢を長期にわたり維持することができ,しかも弁体の開閉時の衝撃を緩和し,衝突部の摩耗や騒音,及び弁体の弁座からの跳ね返りの低減をもたらすことができる前記電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,一端に弁座を有する弁ハウジングと,この弁ハウジングの他端に連設される中空の固定コアと,固定コアの吸引面に対置される可動コアと,前記固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁体と,前記弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねとを備え,前記コイルの通電により前記固定コアが前記可動コアを吸引することで前記弁体が開弁される電磁式燃料噴射弁において,前記固定コアの内周に,それより高硬度のガイドブッシュを固設する一方,前記弁体を,前記弁座と協働する弁部と,この弁部に連設されて前記ガイドブッシュに向かって延びるステムとで構成し,このステムに,前記ガイドブッシュの内周面に摺動自在に嵌合する摺動部材と,前記固定コア及び前記弁部間に配置されるストッパ部材とを固設し,前記可動コアを,これが前記摺動部材及びストッパ部材間で限られたストロークを移動し得るように前記ステムに摺動自在に嵌装し,前記コイルの通電時には,この固定コアに吸引される前記可動コアが前記摺動部材を介して弁体を開弁させ,前記コイルの非通電時には,前記弁ばねの付勢力で前記弁体が閉弁されると共に,前記可動コアが前記ストッパ部材と当接することを第1の特徴とする。尚,前記ガイドブッシュは,後述する本発明の実施形態中の第2ガイドブッシュ19に対応する。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記ガイドブッシュを非磁性もしくは弱磁性材料で構成すると共に,その前端を前記固定コアの吸引面より突出させ,前記コイルの通電時には,前記ガイドブッシュの前端に前記可動コアを当接させることで前記弁体の開弁限界を規制することを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記固定コア内に,前記摺動部材を介して前記弁体を閉弁方向に付勢する前記弁ばねを配設し,また前記摺動部材及び可動コア間に,前記弁ばねのセット荷重より小さいセット荷重で前記摺動部材及び可動コアを離反方向に付勢する補助ばねを介装したことを第3の特徴とする。
【0009】
さらにまた本発明は,第3の特徴に加えて,前記摺動部材を,前記ガイドブッシュの内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部と,このフランジ部の前端面より突出する軸部とで構成し,そのフランジ部の前端面と前記可動コアとの間に前記補助ばねを介装すると共に,その補助ばね内に前記軸部を配置したことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば,固定コアの内周に固設されるガイドブッシュは,固定コアより硬度が高いので,耐摩耗性が高く,これに弁体のステムに固設される摺動部材を摺動自在に支承させたので,長期間に亙り弁体の開閉姿勢を安定させ,燃料噴射弁の燃料噴射流量特性を安定させることができる。
【0011】
しかも弁体の開弁過程において,可動コアが固定コアに与える衝撃力は,可動コアのみが固定コアに最初に衝突したときの衝撃力と,次いでストッパ部材が可動コアに衝突したときの衝撃力とに分けられるので,それぞれの衝突エネルギは比較的小さくなり,固定コア及び可動コア相互の当接部の摩耗を防ぐと共に,衝突騒音を小さく抑えることができる。しかもストッパ部材の可動コアに対する衝突時には,弁ばねを,通常の開弁時の圧縮変形量より多く変形させるので,弁ばねがストッパ部材の可動コアに対する衝突エネルギを吸収し,その衝撃力を緩和することになる。
【0012】
また弁体の開弁過程では,先ず可動コアのみが弁体のステム上を摺動して固定コア側に引き寄せられ,加速した後,摺動部材を,弁ばねのセット荷重に抗して押し上げることで弁体を迅速に開弁することができ,弁体の開弁応答性を高めることができる。
【0013】
一方,弁体の閉弁過程においては,弁体が弁座に与える衝撃力は,弁体のみが弁座に最初に着座したときの衝撃力と,次いで可動コアがストッパ部材に衝突したときの衝撃力とに分けられるので,それぞれの衝突エネルギは比較的小さくなり,弁部及び弁座相互の当接部の摩耗を防ぐと共に,着座騒音を小さく抑えることができる。
【0014】
また弁体は,弁座への最初の着座時,その着座衝撃により後方へ跳ね返るが,可動コアの前端面が上昇する弁体に固設されたストッパ部材に当接するので,その跳ね返り量を最小限に抑えることができる。
【0015】
本発明の第2の特徴によれば,コイルの通電時には,固定コアの吸引面より突出した非磁性もしくは弱磁性のガイドブッシュの前端が可動コアを受け止めて弁体の開弁限界を規制し,固定コア及び可動コア間にエアギャップを形成することになる。これにより,コイルの通電遮断時には,固定コア及び可動コア間の残留磁気の消失を早め,弁体の閉弁応答性を高めることができる。
【0016】
本発明の第3の特徴によれば,弁体の閉弁時,可動コアは補助ばねのセット荷重によりストッパ部材との当接位置に押圧保持し,可動コアの振動を防ぐことができる。しかも補助ばねのセット荷重は,弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねのセット荷重より小さく設定されるので,補助ばねは,コイルの通電時,固定コアの可動コアに対する吸引と,弁ばねによる摺動部材の可動コアに対する当接には干渉せず,弁体の所定位置への開弁を阻害しない。
【0017】
本発明の第4の特徴によれば,摺動部材の軸部は,補助ばねの内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たすと共に,弁ばね及び補助ばね間の間隔を狭めて電磁式燃料噴射弁の軸方向寸法の短縮化,延いては小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン用電磁式燃料噴射弁の縦断側面図。
【図2】図1の2部拡大図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】同電磁式燃料噴射弁の作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0020】
図1及び図2において,エンジンのシリンダヘッド1には,燃焼室1aに開口する装着孔1bが設けられており,この装着孔1bに電磁式の燃料噴射弁Iが装着される。この燃料噴射弁Iは,燃焼室1aに向かって燃料を噴射し得る。
【0021】
この燃料噴射弁Iの弁ハウジング2は,弁座部材3と,この弁座部材3の後端部に同軸に結合される磁性円筒体4と,この磁性円筒体4の後端に同軸に結合される非磁性円筒体5とで構成される。非磁性円筒体5の後端には固定コア6が同軸に結合され,この固定コア6の後端に燃料入口筒7が同軸に連設される。固定コア6は,燃料入口筒7の内部に連通する中空部6bを有する。燃料入口筒7の入口には燃料フィルター14が装着される。
【0022】
弁座部材3は,前端壁を有する小径筒部3aと,この小径筒部3aの後端に形成される大径筒部3bとよりなっており,小径筒部3aの前端壁には,円錐状の弁座8と,この弁座8の前端に連なる弁孔9と,この弁孔9に連なり小径筒部3aの前端面に開口する燃料噴孔10とが形成される。
【0023】
磁性円筒体4は,薄肉筒部4aと,この薄肉筒部4aの後端に連設される厚肉筒部4bとよりなっており,厚肉筒部4bは,その内径が薄肉筒部4aより小さく,外径が薄肉筒部4aより大きくなっている。薄肉筒部4aの内周面にシム11と,弁座部材3の大径筒部3bが順次嵌合され,その大径筒部3bが薄肉筒部4aに液密に溶接される。
【0024】
厚肉筒部4bは,その内周側の後端面より突出する環状突起12を有しており,この環状突起12の先端に非磁性円筒体5が突き当てられて液密に溶接される。これら厚肉筒部4b及び非磁性円筒体5は,互いに内周面を連続させるように形成される。
【0025】
固定コア6は,前端部外周に環状凹部13を有しており,この環状凹部13に非磁性円筒体5の後端部が嵌合され,液密に溶接される。固定コア6及び非磁性円筒体5は,それらの外周面を連続させるように形成される。
【0026】
前記小径筒部3aの前端部内周面には円筒状の第1ガイドブッシュ18が小径筒部3aの前端部内周面に圧入により固設される。また固定コア6の内周面には,その前端の吸引面6aに開口する嵌合凹部28が形成され,この嵌合凹部28に円筒状の第2ガイドブッシュ19が圧入により固設され,この第2ガイドブッシュ19の内周面は固定コア6の内周面に連続する。
【0027】
弁座部材3から非磁性円筒体5に至る弁ハウジング2内には弁体15及び可動コア16が収容される。弁体15は,前記弁座8と協働して弁孔9を開閉する弁部15aと,この弁部15aに一体に結合されて前記第2ガイドブッシュ19内まで延びるステム15bとよりなっており,その弁部15aは,前記第1ガイドブッシュ18の内周面に常に線接触するよう球状に形成され,ステム15bは弁部15aより小径に形成される。第1ガイドブッシュ18とステム15bとの間には筒状の燃料流路21が画成され,弁部15aの外周面には,第1ガイドブッシュ18との間に燃料流路となる複数の平面部25が形成される。したがって,第1ガイドブッシュ18は,弁体15の開閉動作を案内しながら燃料の通過を許容するようになっている。
【0028】
前記ステム15bには,前記第2ガイドブッシュ19の内周面に摺動自在に嵌合する摺動部材20と,前記固定コア6及び前記弁部15a間に配置されるストッパ部材22とが溶接等により固設され,摺動部材20は,その下端面が弁体15の閉弁位置では前記第2ガイドブッシュ19の下端面より突出するように配置される。そして固定コア6の吸引面6aに対置される可動コア16は,これが上記摺動部材20及びストッパ部材22間で限られたストロークsを移動し得るようにステム15bに摺動自在に嵌装される。
【0029】
上記第1及び第2ガイドブッシュ18,19による弁体15の二点支持により,可動コア16の外周面と磁性円筒体4及び非磁性円筒体5の内周面との間には,それらの接触を防ぐ筒状の間隙30が確保される。
【0030】
第2ガイドブッシュ19及び摺動部材20は,固定コア6より硬度が高い非磁性又は弱磁性材料,例えばマルテンサイト系のステンレス鋼で構成される。したがって第2ガイドブッシュ19及び摺動部材20の硬度は略同等にされる。
【0031】
摺動部材20は,第2ガイドブッシュ19の内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部20aと,このフランジ部20aの前端面より突出する軸部20bとで構成される。一方,固定コア6の中空部6bにはパイプ状のリテーナ32が嵌挿されてかしめ固定され,このリテーナ32と前記フランジ部20aとの間に弁体15を弁座8への着座方向,即ち閉弁方向へ付勢する弁ばね33が縮設される。その際,リテーナ32の固定コア6への嵌挿深さにより弁ばね33のセット荷重が調整される。摺動部材20は,前述のように固定コア6より高硬度であるから,弁ばね33のばね座となるフランジ部20aは,耐摩耗の高いものとなる。
【0032】
またフランジ部20aの前端面と可動コア16との間には,上記軸部20bを囲繞する補助ばね34が縮設され,この補助ばね34は,上記弁ばね33のセット荷重より小さいセット荷重で摺動部材20及び可動コア16間に離間させるように作用する。
【0033】
前記ステム15bの後端部は,摺動部材20のフランジ部20aの後端面より突出し弁ばね33の可動端部の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たし,また摺動部材20の軸部20bは,補助ばね34の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たすと共に,弁ばね33及び補助ばね34間の間隔を狭めて電磁式燃料噴射弁Iの軸方向寸法の短縮化,延いては小型化に寄与する。
【0034】
前記フランジ部20aの外周には,燃料流路となる複数の平面部26(図3参照)が設けられ,また可動コア16には,燃料流路となる複数の通孔24が設けられる。
【0035】
磁性円筒体4の環状突起12から固定コア6に至る外周面にコイル組立体35が嵌装される。このコイル組立体35は,上記外周面に嵌合するボビン36と,これに巻装されるコイル37とからなっており,このコイル組立体35を囲繞するコイルハウジング38の前端が磁性円筒体4の後端面に溶接当接により結合され,コイルハウジング38の後端に接続される環状のヨーク39が固定コア6の外周面に溶接等により結合される。
【0036】
磁性円筒体4の後端部から燃料入口筒7の中間部に至る外周面には,合成樹脂製の被覆層40がモールド成形される。その際,電磁式燃料噴射弁Iの一側方に突出して前記コイル37に連なる端子42を保持するカプラ41が被覆層40と一体に成形される。
【0037】
次に,この実施形態の作用について図2及び図4を参照しながら説明する。
【0038】
コイル37の非通電状態では,図4(A)に示すように,弁体15は,弁ばね33のセット荷重により前方に押圧され,弁座8に着座して弁孔9を閉鎖する。即ち閉弁状態にあり,可動コア16は,補助ばね34のセット荷重により前方へ押圧されてストッパ部材22との当接状態に保持され,固定コア6との間に所定の間隙を保っている。
【0039】
コイル37に通電すると,それにより生ずる磁束が固定コア6,コイルハウジング38,磁性円筒体4及び可動コア16を順次走り,その磁力により,図4(B)に示すように,先ず可動コア16が固定コア6に吸引され,補助ばね34を圧縮しながら摺動部材20の前端に当接する。即ち,可動コア16は,その初動時,弁ばね33より弱い補助ばね34のセット荷重に抗して上昇するので,固定コア6から吸引力を受けると速やかに上昇し,加速しながら摺動部材20に当接する。
【0040】
したがって,上昇加速した可動コア16が摺動部材20に当接すると,図4(C)に示すように,摺動部材20を弁ばね33のセット荷重に抗して速やかに後方へ押し上げ,第2ガイドブッシュ19の前端に衝突して停止する。その間,後方へ押し上げられる摺動部材20は,それと一体化されたステム15bを伴なうので,弁部15aは弁座8から離座し,開弁状態となる。こうして弁体15の開弁応答性が高められる。
【0041】
可動コア16が摺動部材20を押し上げながら衝撃的に第2ガイドブッシュ19の前端に当接すると,弁部15a及びステム15bよりなる弁体15が,図4(D)に示すように,その慣性によりオーバーシュートするが,その弁体15と一体化されたストッパ部材22が可動コア16の前端に衝突することで,オーバーシュートは停止する。その間に,弁体15のオーバーシュート分,摺動部材20が可動コア16から後方へ離れながら,弁ばね33の圧縮変形を増加させることになるので,この弁ばね33の反発力によっても弁体15のオーバーシュートは抑えられる。
【0042】
オーバーシュートが停止すると,図4(E)に示すように,弁ばね33の反発力により,摺動部材20が,第2ガイドブッシュ19との当接状態にある可動コア16の後端面に当接する位置まで戻ることで,弁体15は所定の開弁位置に保持される。その際,補助ばね34のセット荷重は,弁体15を閉弁方向に付勢する弁ばね33のセット荷重より小さく設定されているので,補助ばね34は,コイルの37の通電時,固定コア6の可動コア16に対する吸引と,弁ばね33による摺動部材20の可動コア16に対する当接には干渉せず,弁体15の所定位置への開弁を阻害しない。
【0043】
このように,弁体15の開弁過程において,可動コア16が第2ガイドブッシュ19に与える衝撃力は,可動コア16のみが第2ガイドブッシュ19に最初に衝突したときの衝撃力と,その後でストッパ部材22が可動コア16に衝突したときの衝撃力とに分けられるので,それぞれの衝突エネルギは比較的小さくなり,第2ガイドブッシュ19及び可動コア16相互の当接部の摩耗を防ぐと共に,衝突騒音を小さく抑えることができる。しかもストッパ部材22の可動コア16に対する衝突時には,弁ばね33を,通常の開弁時の圧縮変形量より多く変形させるので,弁ばね33がストッパ部材22の可動コア16に対する衝突エネルギを吸収し,その衝撃力を緩和することになる。
【0044】
尚,摺動部材20を弱磁性材で構成した場合には,この摺動部材20と可動コア16との間で微小の磁力が発生し,弁体15のオーバーシュート量を低減させることができる。そのため,開弁時,ストッパ部材22と可動コア16との衝突による衝撃力は,低減もしくは無くなり,上記効果は更に顕著になると共に,燃料噴射のバラツキを抑制することもできる。
【0045】
弁体15が開弁すると,図示しない燃料ポンプから燃料入口筒7に圧送された燃料は,パイプ状のリテーナ32内部,固定コア6の中空部6b,摺動部材20周りの平面部26,可動コア16の通孔24,弁ハウジング2の内部,第1ガイドブッシュ18内側の燃料流路21,弁体15周りの平面部25,弁座8,弁孔9を順次経て燃料噴孔10からエンジンの燃焼室1aに直接噴射される。
【0046】
次にコイル37への通電を遮断すると,先ず図4(F)に示すように,弁ばね33の反発力により摺動部材20が前方へ押動されるので,摺動部材20は可動コア16及び弁体15を伴なって前方へ下降して弁部15aを弁座に着座させる。このとき可動コア16は,固定コア6との間の残留磁気の影響と,可動コア16を前方へ下降させる補助ばね34のセット荷重が比較的小さいことにより,弁部15aの弁座8への着座から僅かに遅れて下降する。
【0047】
ところで,弁体15は,弁座8に最初に着座したとき,その着座衝撃により後方へ跳ね返るが,図4(G)に示すように,遅れて下降する固定コア6の前端面が上昇する弁体15に固設されたストッパ部材22に当接することで,弁体15の跳ね返り量を最小限に抑えることができる。
【0048】
弁体15の跳ね返りが抑えられると,図4(H)に示すように,弁体15は弁ばね33の反発力により閉弁状態に保持されて前記燃料噴射を停止し,可動コア16は補助ばね34の反発力によりストッパ部材22への当接状態に保持される。
【0049】
上記のように,弁体15の閉弁過程において,弁体15が弁座8に与える衝撃力は,弁体15のみが弁座8に最初に着座したときの衝撃力と,次いで可動コア16がストッパ部材22に衝突したときの衝撃力とに分けられるので,それぞれの衝突エネルギは比較的小さい。また弁体15は,弁座8に最初に着座したときは,その着座衝撃により跳ね返り,その後,下降して再度弁座8に着座し,衝撃を与えるが,弁体15の跳ね返り後の閉弁ストロークは,弁体15の通常の開弁位置からの閉弁ストロークより極めて小さいから,再度弁座8に及ぼす衝撃力は極めて小さい。以上により,弁部15a及び弁座8相互の着座部の摩耗を防ぐと共に,着座騒音を小さく抑えることができる。
【0050】
また弁体15は,その球状の弁部15aと,ステム15bに固設される摺動部材20とが,弁座部材3の第1ガイドブッシュ18と固定コア6の第2ガイドブッシュ19とにそれぞれ摺動自在に支承されるので,弁体15の支持スパンを,弁座8及び固定コア6間の距離以上に長く設定することが可能となり,弁体15の開閉姿勢を安定させ,燃料噴射流量特性の狂いを防ぐことができる。しかも第2ガイドブッシュ19は,固定コア6より硬度が高い非磁性又は弱磁性材料で構成されるので,耐摩耗性が高く,長期間に亙り弁体15の開閉姿勢を安定させ,燃料噴射弁Iの燃料噴射流量特性をより安定させることができる。
【0051】
さらに第2ガイドブッシュ19及び摺動部材20の硬度は,略同等に設定されるので,両者19,20の耐摩耗性を高め,長期間にわたり弁体15の開閉姿勢を,より安定させることができる。
【0052】
またコイル37の通電時には,可動コア16が,固定コア6の吸引面より突出した第2ガイドブッシュ19の前端面に当接し,且つ摺動部材20が可動コア16の後端面に当接することにより,弁体15の開弁位置が規定され,可動コア16は,エアギャップgを存して固定コア6の吸引面6aと対向し,固定コア6との直接接触が回避されるので,第2ガイドブッシュ19が非磁性又は弱磁性であることゝ相俟って,コイル37の通電遮断時には,両コア6,16間の残留磁気の速やかな消失に寄与し,弁体15の閉弁応答性を高めることができる。
【0053】
上記のように第2ガイドブッシュ19は,摺動部材20を摺動自在に支承して弁体15の開閉姿勢を安定させる機能と,コイル37の通電時,可動コア16及び固定コア6の直接接触を回避して閉弁応答性を高める機能とを兼有することになり,燃料噴射特性の安定化と構造の簡素化とを両立させることができる。
【0054】
また弁体15の外周面には,第1ガイドブッシュ18との間に燃料流路となる複数の平面部25が形成され,摺動部材20の外周面にも燃料流路となる平面部26が設けられるので,これら平面部25及び平面部26を通る燃料により,弁部15aと第1ガイドブッシュ18,摺動部材20と第2ガイドブッシュ19の各摺動面を効果的に潤滑することができ,それらの耐摩耗性の向上に寄与し得る。
【0055】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,燃料噴射弁Iは,エンジンの吸気系内に燃料を噴射する形式に構成することもできる。またストッパ部材22を弁体15のステム15bに一体に形成することもできる。また弁体15の弁部15aを摺動自在に支承する第1ガイドブッシュ18に代えて弁座部材3にガイド孔を形成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
I・・・・・・燃料噴射弁
s・・・・・・可動コアの摺動ストローク
2・・・・・・弁ハウジング
6・・・・・・固定コア
6a・・・・・固定コアの吸引面
6b・・・・・固定コアの中空部
8・・・・・・弁座
15・・・・・弁体
15a・・・・弁部
15b・・・・ステム
16・・・・・可動コア
19・・・・・ガイドブッシュ(第2ガイドブッシュ)
20・・・・・摺動部材
22・・・・・ストッパ部材
33・・・・・弁ばね
34・・・・・補助ばね
37・・・・・コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に弁座(8)を有する弁ハウジング(2)と,この弁ハウジング(2)の他端に連設される中空の固定コア(6)と,固定コア(6)の吸引面(6a)に対置される可動コア(16)と,前記固定コア(6)の外周に配設されるコイル(37)と,前記弁座(8)と協働する弁体(15)と,前記弁体(15)を閉弁方向に付勢する弁ばね(33)とを備え,前記コイル(37)の通電により前記固定コア(6)が前記可動コア(16)を吸引することで前記弁体(15)が開弁される電磁式燃料噴射弁において,
前記固定コア(6)の内周に,それより高硬度のガイドブッシュ(19)を固設する一方,前記弁体(15)を,前記弁座(8)と協働する弁部(15a)と,この弁部(15a)に連設されて前記ガイドブッシュ(19)に向かって延びるステム(15b)とで構成し,このステム(15b)に,前記ガイドブッシュ(19)の内周面に摺動自在に嵌合する摺動部材(20)と,前記固定コア(6)及び前記弁部(15a)間に配置されるストッパ部材(22)とを固設し,前記可動コア(16)を,これが前記摺動部材(20)及びストッパ部材(22)間で限られたストローク(s)を移動し得るように前記ステム(15b)に摺動自在に嵌装し,前記コイル(37)の通電時には,この固定コア(6)に吸引される前記可動コア(16)が前記摺動部材(20)を介して弁体(15)を開弁させ,前記コイル(37)の非通電時には,前記弁ばね(33)の付勢力で前記弁体(15)が閉弁されると共に,前記可動コア(16)が前記ストッパ部材(22)と当接することを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1記載の電磁式燃料噴射弁において,
前記ガイドブッシュ(19)を非磁性もしくは弱磁性材料で構成すると共に,その前端を前記固定コア(6)の吸引面(6a)より突出させ,前記コイル(37)の通電時には,前記ガイドブッシュ(19)の前端に前記可動コア(16)を当接させることで前記弁体(15)の開弁限界を規制することを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電磁式燃料噴射弁において,
前記固定コア(6)内に,前記摺動部材(20)を介して前記弁体(15)を閉弁方向に付勢する前記弁ばね(33)を配設し,また前記摺動部材(20)及び可動コア(16)間に,前記弁ばね(33)のセット荷重より小さいセット荷重で前記摺動部材(20)及び可動コア(16)を離反方向に付勢する補助ばね(34)を介装したことを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項4】
請求項3記載の電磁式燃料噴射弁において,
前記摺動部材(20)を,前記ガイドブッシュ(19)の内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部(20a)と,このフランジ部(20a)の前端面より突出する軸部(20b)とで構成し,そのフランジ部(20a)の前端面と前記可動コア(16)との間に前記補助ばね(34)を介装すると共に,その補助ばね(34)内に前記軸部(20b)を配置したことを特徴とする電磁式燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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