説明

電磁波シールド不織布

【課題】 換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に富む、通気性に優れた嵩高な構造を有しており、且つ電磁波シールド性に優れた、電磁波シールド不織布を提供する。
【解決手段】 構成繊維が熱接着性繊維又は/及び接着剤によって結合している不織布であって、前記不織布は、5g/m以上の金属メッキを施した合成繊維を含有しており、面密度が30〜300g/mであり、通気量が200〜800(cm/cm・s)[JIS L1096に規定されるフラジール法による]であることを特徴とする電磁波シールド不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に富む、通気性に優れた嵩高な構造を有し、且つ電磁波シールド性に優れた、電磁波シールド不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気製品や電子機器が様々な場所に普及しており、それに伴って、これら機器から発生する電磁波が、他の電気製品や電子機器の誤動作や雑音の原因となる、或いは人体に埋め込まれた心臓のペースメーカなどに深刻な影響を与える、などの問題が生じている。そのため、これら機器から電磁波を漏洩させないように、また、これら機器に電磁波が進入しないように、各種の電磁波シールド材が提案されている。
【0003】
このような電磁波シールド材としては、例えば特許文献1に、銀で被覆された短繊維を全量に対し3.0重量%を越えて含有せしめた紡績糸を用いて、経144本/インチ、緯70本/インチで製織した電磁波シールド性布帛が提案されている。しかしながら、この布帛によれば、織物にすることで緻密な構造となっており、通気性に劣るため、電気製品や電子機器から発生する熱が外部に逃げず、内部に籠もってしまうという問題があった。
【0004】
また、電磁波シールド材として、湿式不織布も提案されており、例えば特許文献2に、繊維長が好ましくは約5mm以下の金属短繊維または金属メッキされた短繊維と、熱可塑性樹脂繊維からなるバインダーと、を含む抄造液を起泡し、気泡表面に短繊維を分散させ、これを抄造して無配向不織布とした電磁波シールド材が提案されている。また、この電磁波シールド材を熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、水硬性物質または気硬性物質を賦形材として成形した電磁波シールド成形体が提案されている。しかし、この電磁波シールド材もまた、湿式不織布ゆえの緻密な構造となっており、通気性に劣るため、電気製品や電子機器から発生する熱が外部に逃げず、内部に籠もってしまうという問題があった。
【0005】
また、このような湿式不織布に対して、乾式不織布も提案されており、例えば特許文献3に、金属メッキ繊維からなる導電性繊維と難燃性繊維からなる非導電性繊維が混繊された不織布であり、その表面抵抗が1〜200Ω/cmである電磁波抑制布帛が提案されている。また、その実施例には、アクリル繊維にニッケルメッキを施した金属メッキ繊維5重量%と、耐炎化アクリル繊維65重量%と、難燃性レーヨン30重量%とを混綿した後、ニードルパンチにより不織布を形成したことが記載されている。しかし、この電磁波抑制布帛は、構成繊維同士が絡んでいるものの固定されておらず、そのため繊維の毛羽立ちが生じ、或いはカット面から繊維が離脱して電気配線のショートの原因になるという問題があった。また、構成繊維同士を固定しようとして、ニードルパンチの針の打ち込み本数を多くすると厚さが薄くなり緻密な構造となってしまい、その結果、通気性に劣るため、電気製品や電子機器から発生する熱が外部に逃げず、内部に籠もってしまうという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−310976号公報
【特許文献2】特開平05−48289号公報
【特許文献3】特開2002−299877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に富む、通気性に優れた嵩高な構造を有しており、且つ電磁波シールド性に優れた、電磁波シールド不織布を提供することを課題とする。
なお、換気機能とは、電気製品や電子機器の内部と外部の音湿度の差により、内部に結露や錆が発生して電子部品にショートなどの悪影響を及ぼす問題に対して、内部の空気と外部の空気の交換を、電気製品や電子機器に設けられたグリルやスリット等の開口部に取り付けられた電磁波シールド材を介して行なうことが可能である機能のことを意味している。
また、除塵機能とは、電気製品や電子機器の内部へ外部の塵埃が侵入することを防止する機能のことを意味している。例えば、電気製品や電子機器には、グリルやスリット等の開口部が設けられており、内部から発生する熱により、この開口部を介して、内部と外部との間で対流が生じ、外部の塵埃が内部へ侵入して、電気配線のショートの原因になるという問題に対して、開口部に設けられた電磁波シールド材によって、外部の塵埃が内部へ侵入することを防止する機能のことを意味している。
また、隠蔽機能とは、外部から紫外線等の光が電気製品や電子機器の開口部を通して内部に侵入して、内部の電子部品などに悪影響を及ぼすという問題に対して、光の通過を遮蔽して内部の電子部品を保護したり、或いは開口部から内部の部品が見えるという問題に対して、光の通過を遮蔽して内部を隠す機能のことを意味している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、請求項1の発明では、構成繊維が熱接着性繊維又は/及び接着剤によって結合している不織布であって、前記不織布は、5g/m以上の金属メッキを施した合成繊維を含有しており、面密度が30〜300g/mであり、通気量が200〜800(cm/cm・s)[JIS L1096に規定されるフラジール法による]であることを特徴とする電磁波シールド不織布であり、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に富む、通気性に優れた嵩高な構造を有しており、且つ電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布を提供することが可能である。
【0009】
請求項2の発明では、前記金属メッキが銀メッキであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド不織布であり、特に電磁波シールド性に優れるという利点がある。また、銀は貴な金属であり、錆に強く性能変化を起こし難いという利点がある。
【0010】
請求項3の発明では、前記構成繊維の見掛け密度が0.008〜0.03g/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波シールド不織布であり、特に通気性に優れた嵩高な構造を有するという利点がある。
【0011】
請求項4の発明では、前記熱接着性繊維の繊度が2デシテックス以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電磁波シールド不織布であり、骨格となる熱接着性繊維の繊度が大きいため、繊維構造が強固となっており、特に耐久性に富むという利点がある。
【0012】
請求項5の発明では、前記構成繊維が、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を25%以上含有していることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電磁波シールド不織布であり、特に難燃性に優れるという利点がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に富む、通気性に優れた嵩高な構造を有しており、且つ電磁波シールド性に優れた、電磁波シールド不織布を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の電磁波シールド不織布は、構成繊維が熱接着性繊維によって結合している不織布(以下、第1の不織布と称することがある。)であるか、構成繊維が接着剤によって結合している不織布(以下、第2の不織布と称することがある。)であって、前記不織布は、5g/m以上の金属メッキを施した合成繊維を含有している。
【0015】
前記電磁波シールド不織布は金属メッキを施した合成繊維を含有することを必要とする。メッキする金属としては、例えばニッケル、鉄、コバルト、銀、パラジウムなどの金属を挙げることができる。この中で、金属メッキが銀メッキであることによって、特に電磁波シールド性に優れるという利点がある。また、銀は貴な金属であり、錆に強く性能変化を起こし難いという利点がある。また、パラジウムは高価であるため、コストアップの要因となり、コスト要因を問題としなければ、適用可能である。また、メッキされた合成繊維の材質はポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニル等の合成樹脂や、アセテート、ビスコースなど有機質の樹脂を挙げることができる。
【0016】
前記構成繊維は構成繊維全体の面密度(g/m)の大小にかかわらず、金属メッキを施した合成繊維を5g/m以上含有することを必要とする。また、金属メッキを施した合成繊維を10g/m以上含有することが好ましい。5g/m以上含有することによって、目標とする電磁波シールド性を得ることができる。5g/m未満であると、電磁波シールド性に劣るという問題がある。
【0017】
前記電磁波シールド不織布は、従来から知られている不織布の製造方法によって形成される繊維ウェブから得ることができるが、嵩高な構造であることが好ましく、このため前記不織布は、乾式法またはスパンボンド法などによって得られる不織布を適用することが可能である。これらの製法の中でも、繊維長15〜100mmの、捲縮数5〜30個/インチを有する通常ステープル繊維と呼ばれる繊維をカード機やエアレイ装置などを使用して、繊維ウェブに形成した後、構成繊維を熱接着性繊維によって結合する方法、または構成繊維を接着剤によって結合する方法、による一般的に乾式法と呼ばれる製法によって得られる不織布であることが好ましい。乾式法による不織布であれば、嵩高な構造が可能である利点に加えて、前記金属メッキを施した合成繊維や接着性繊維など機能性を有する繊維と他の繊維とを均一に混合することが容易であるので品質に優れた不織布を得ることができるという利点がある。
【0018】
(1)第1の不織布についての説明
第1の不織布においては、前記不織布の構成繊維は熱接着性繊維を含有しており、この熱接着性繊維によって、構成繊維が結合している。当該熱接着性繊維としては、加熱処理によって熱接着性が生じる限り、特に限定されず、例えば、繊維ウェブ中に含まれる他の繊維よりも融点が低い樹脂成分が1種類のみから形成された全融型の熱接着性繊維であることが可能である。また、低融点成分と高融点成分とからなり、低融点成分が繊維の表面の少なくとも一部に露出している複合繊維からなる熱接着性繊維であることが可能である。このような複合繊維としては、例えば、芯鞘型、サイドバイサイド型、断面が2成分以上の樹脂で分割されたオレンジ型、海島型の複合繊維などがある。複合繊維は接着後も高融点成分の骨格が残り、構成繊維間の結合が強固になるので全融型より好ましい。なお、加熱処理の方法としては、前記構成繊維からなる繊維ウェブを直接加熱する方法、或いは繊維ウェブに加熱空気または加熱蒸気を噴射する方法などを適用することができる。
【0019】
また、前記熱接着性繊維の材質としても、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系樹脂およびポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂などを挙げることができる。また、複合繊維の場合、これらの樹脂の中から同じ種類の樹脂成分を選んで構成することも可能であり、異なる樹脂成分を選んで構成することも可能である。
【0020】
本発明では、前記熱接着性繊維が1種類の樹脂成分からなる全融型の接着性繊維の場合は、繊維ウェブ中に含まれる他の繊維の中で最も低い融点を有する繊維の融点よりも融点が低いことが必要である。このような、全融型の熱接着性繊維または低融点成分と高融点成分とからなり、低融点成分が繊維の表面の少なくとも一部に露出している複合繊維からなる熱接着性繊維を繊維ウェブに含むことによって、当該熱接着性繊維の融点以上の温度で加熱処理することにより、構成繊維同士を結合して本発明の電磁波シールド不織布を形成することができる。なお、前記熱接着性繊維は他の繊維の融点よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことが更に好ましい。5℃未満であると、当該接着性繊維を含む繊維ウェブを加熱処理した際に、加熱温度にばらつきがあると、複合繊維全体が溶融してしまい、繊維ウェブが樹脂フィルム化して柔軟性を失う場合がある。
【0021】
また、前記熱接着性繊維の繊度が2デシテックス以上であることが好ましく、3デシテックス以上であることがより好ましく、4デシテックス以上であることが更に好ましい。熱接着性繊維の繊度が2デシテックス以上であれば、骨格となる熱接着性繊維の繊度が大きいため、繊維構造が強固となっており、特に耐久性に富むという利点がある。
【0022】
前記構成繊維は前記熱接着性繊維を20質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、30質量%以上含有することが更に好ましい。20質量%以上含有することによって、構成繊維同士を確実に固定することができる。その結果、繊維構造が強固となっており、特に耐久性に富むという利点がある。また、繊維が離脱し難く、離脱した繊維が電気配線のショートの原因になるという問題を防止することができる。前記熱接着性繊維の含有比率が20質量%未満の場合は、構成繊維同士を確実に固定することができず、その結果、不織布全体の強度が不足して、変形し易い場合がある。また、繊維が離脱し易く、離脱した繊維によって電気配線がショートする恐れがある。
【0023】
前記構成繊維は、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を25質量%以上含有していることが好ましく、30%質量以上含有していることがより好ましい。25質量%以上含有していることにより、電磁波シールド不織布が特に難燃性に優れるという利点がある。非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維としては、日本工業規格JIS K7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準拠して求められるLOI値が28以上の繊維が好ましく、LOI値が35以上の繊維がより好ましく、具体的には、耐炎化繊維、難燃剤配合難燃性繊維、難燃化処理難燃性繊維等を適用することができる。耐炎化繊維としては、酸化アクリル繊維(LOI値:55)、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維(LOI値:41)、フェノール繊維(LOI値:34)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(LOI値:68)、ポリパーフルオロエチレン(テフロン:登録商標)繊維(LOI値:95)などを挙げることができる。難燃剤としては、ハロゲン化物、燐系化合物およびアンチモン化合物を助剤として用いたものがあり、これらを配合した難燃性繊維、またこれらを含浸等で処理した難燃性繊維が挙げられる。難燃性繊維の素材としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨン、その他の天然繊維などが使用できる。本発明において、特に好ましい難燃性繊維としては、非溶融性である難燃化レーヨン(LOI値:28)を挙げることができる。
【0024】
なお、本発明の電磁波シールド不織布の使用箇所や個々の要求に応じて、更に特性を付加する目的で、前記金属メッキを施した合成繊維、前記熱接着性繊維および前記難燃性繊維以外の繊維を構成繊維として含むことも可能である。このような、他の繊維としては、目的とする電磁波シールド性、熱接着性または難燃性などを確保でき、且つ繊維長が15mm以上である限り、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維に限らず、レーヨンなどの半合成繊維、あるいは綿、セルロース系繊維などの天然繊維を挙げることができる。
【0025】
また、前記構成繊維の平均繊維径は、電磁波シールド不織布全体の形状を保持する必要から、2デシテックス以上であることが好ましく、3デシテックス以上であることがより好ましく、4デシテックス以上であることが更に好ましい。なお、平均繊度の計算方法としては、各繊維の繊度をaデシテックス、bデシテックス、cデシテックス・・・として、各繊維の含有割合をそれぞれa’質量%、b’質量%、c’質量%・・・とすると、(a’/a)+(b’/b)+(c’/c)・・・=(100/x)の関係式が成り立ち、この関係式から平均繊度xを求めることができる。
【0026】
本発明では、前記構成繊維は前記熱接着性繊維によって結合しているが、嵩高性を有する限り、交絡していることも可能である。この交絡は、具体的には、前記構成繊維からなる繊維ウェブに対して、針密度を極めて少なく、例えば15本/cm以下としたニードルパンチ、またはスチームジェット処理などを施すことによって達成される。構成繊維が絡合していることにより、金属メッキを施した合成繊維同士の接触部分が多くなり、導電性が向上し、その結果、電磁波シールド性が向上するという優れた効果を奏する。
【0027】
また、前記構成繊維を熱接着性繊維によって結合する方法としては、熱接着性繊維を含む繊維ウェブを加熱する方法があり、この加熱処理の方法としては、前述のように、前記構成繊維からなる繊維ウェブを直接加熱する方法、或いは繊維ウェブに加熱空気または加熱蒸気を噴射する方法などを適用することができる。
【0028】
(2)第2の不織布についての説明
第2の不織布においては、構成繊維が接着剤によって結合している。当該構成繊維としては、目的とする電磁波シールド性を確保できる限り、特に限定されず、前記金属メッキを施した合成繊維以外に、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維に限らず、レーヨンなどの半合成繊維、あるいは綿、セルロース系繊維などの天然繊維を挙げることができる。
【0029】
また、前記構成繊維は、熱接着性繊維を含有することも可能であり、この熱接着性繊維によって、構成繊維が結合していることも可能である。当該熱接着性繊維に関しては、前述の「(1)第1の不織布についての説明」で述べた熱接着性繊維の説明をそのまま適用することができる。
【0030】
また、前記構成繊維は、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を20質量%以上含有していることが好ましい。当該非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維に関しては、前述の「(1)第1の不織布についての説明」で述べた耐炎性繊維または難燃性繊維の説明をそのまま適用することができる。
【0031】
また、前記構成繊維は接着剤によって結合しているが、嵩高性を有する限り、交絡していることも可能である。当該交絡に関しては、前述の「(1)第1の不織布についての説明」で述べた交絡の説明をそのまま適用することができる。
【0032】
前記構成繊維を結合する接着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂を適用することができ、例えばポリアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテル・エーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、シリコーン系樹脂、などを適用することができる。これらの樹脂の中でも、汎用性があり耐久性に優れる、アクリル酸エステル系樹脂、尿素系樹脂などが好ましい。また他の樹脂として、合成ゴム系などのゴム系の樹脂を用いることも可能である。合成ゴム系樹脂としては、例えばSBR系樹脂、NBR系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを適用することができる。
【0033】
構成繊維を接着剤によって結合する方法としては、例えば、前記接着剤をディスパーションまたはエマルジョンの形態で準備して、これらのディスパーションまたはエマルジョンを、スプレー法などにより繊維ウェブに塗布した後、乾燥および熱硬化させて付着させる方法がある。スプレー法であれば、繊維ウェブを嵩高な状態に保ちながら、繊維同士を接着することが可能であり、好ましい態様である。
【0034】
また、前記接着剤に難燃剤を含有させることも可能であり、具体的には、例えば熱可塑性または熱硬化性の樹脂をディスパーションまたはエマルジョンの形態で準備して、これらのディスパーションまたはエマルジョンに前記難燃剤を混入してから、この混合液を繊維ウェブに塗布した後、乾燥および熱硬化させて付着させる方法がある。また、難燃剤の固形分の量としては、構成繊維100質量%に対して20〜60質量%であることが好ましい。この範囲の難燃剤の量であれば、本発明の電磁波シールド不織布の難燃性の程度を、アンダーライター・ラボラトリーズ・インコーポレーテッドが定めるUL94の燃焼試験(以下、単に燃焼試験と略記する)に準ずる評価が「V−0」の基準条件を満たすことが可能である。また、構成繊維100質量%に対して30〜45質量%であることがより好ましい。20質量%未満であると、やや燃え易くなり、「V−0」の基準条件を満たさない場合がある。また、60質量%を超えると、不織布全体の重量が重くなり、柔軟性に劣り、加工性が悪くなる場合がある。
【0035】
本発明の電磁波シールド不織布は、金属メッキを施した合成繊維を含有するため、炎と接触すると、金属が触媒として働き、燃焼し易くなる場合がある。このため、電磁波シールド不織布に難燃剤を含む樹脂が付着していることが好ましく、難燃性に優れるという利点がある。また、非ハロゲン系難燃剤を含む樹脂が付着していることがより好ましく、難燃剤が非ハロゲン系難燃剤であるので、環境に与える影響が少なく、環境に優しいという利点がある。前記非ハロゲン系難燃剤としては、無機系の難燃剤及び有機系の難燃剤のいずれも適用可能である。
【0036】
無機系の非ハロゲン系難燃剤としては、例えば水和金属化合物、水和シリケート化合物、リン系化合物、窒素系化合物、硼素系化合物、アンチモン系化合物等を適用することができる。水和金属化合物には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム等があり、リン系化合物には赤リン、メタリン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、縮合リン酸アミドがあり、窒素系化合物にはリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウムがあり、硼素系化合物にはホウ酸亜鉛があり、アンチモン系化合物には酸化アンチモンがあり、その他各種金属酸化物には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムがあり、その他各種金属硝酸塩、各種金属錯体等を適用することができる。これらのうち特に、難溶性のメタリン酸アルミニウム、リン酸メラミン、リン酸マグネシウム、縮合リン酸アミドなどのリン系難燃剤、あるいは難溶性の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが好適である。
【0037】
また、有機系の非ハロゲン系難燃剤としては、例えばNメチロールジメチルホスホノプロピオンアミド、ポリリン酸カルバメート、グアニジン誘導体リン酸塩、環状ホスホン酸エステル、リン酸メラミンなどのリン系難燃剤を適用することができる。また、リン系難燃剤以外にも、例えばシアヌル酸メラミンなどの難燃剤を適用することができる。
【0038】
本発明の電磁波シールド不織布(第1の不織布及び第2の不織布)は、面密度が30〜300g/mであることが必要である。また、面密度が30〜250g/mであることが好ましく、30〜200g/mであることがより好ましい。面密度が上述の範囲にあることにより、本発明の電磁波シールド不織布が、通気性に優れた嵩高な構造を有することが可能となり、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に優れた効果を奏することができる。面密度が30g/m未満であると、除塵機能や隠蔽機能に劣るという問題や、不織布全体の強度が不足して、変形し易いという問題が生じる。また、面密度が300g/mを超えると、通気性に劣り、目的とする放熱効果が失われるという問題が生じる。
【0039】
また、本発明の電磁波シールド不織布(第1の不織布及び第2の不織布)は、通気量が200〜800(cm/cm・s)[JIS L1096に規定されるフラジール法による]であることが必要である。また、通気量が300〜800(cm/cm・s)であることが好ましく、400〜800(cm/cm・s)であることが更に好ましい。通気量が上述の範囲にあることにより、本発明の電磁波シールド不織布が、通気性に優れた嵩高な構造を有することが可能となり、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に優れた効果を奏することができる。通気量が200(cm/cm・s)未満であると、通気性に劣り、目的とする放熱効果が失われるという問題が生じる。また、通気量が800(cm/cm・s)を超えると、除塵機能や隠蔽機能に劣るという問題や、不織布全体の強度が不足して、変形し易いという問題が生じる。
【0040】
また、本発明の電磁波シールド不織布(第1の不織布及び第2の不織布)における構成繊維からなる繊維ウェブの見掛け密度は0.008〜0.03g/cmであることが好ましい。見掛け密度がこの範囲にあることにより、本発明の電磁波シールド不織布が、通気性に優れた嵩高な構造を有することが可能となり、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に優れた効果を奏することができる。見掛け密度が0.008g/cm未満であると、除塵機能や隠蔽機能に劣るという問題や、不織布全体の強度が不足して、変形し易いという問題が生じる場合がある。また、見掛け密度が0.03g/cmを超えると、通気性に劣り、目的とする放熱効果が失われるという問題が生じる場合がある。なお、繊維ウェブの厚さは1.0〜15mmであることが好ましく、1.2〜10mmがより好ましく、1.4〜8mmがさらに好ましい。なお、厚さは1g/cmの荷重時の厚さとする。
【0041】
本発明の電磁波シールド不織布(第1の不織布及び第2の不織布)の電磁波シールド性は、KEC法(関西電子振興工業センターの略)により測定した400〜1000MHzでの最小値で表すことができ、電界シールド効果が30dB以上であることが好ましく、35dB以上であることがより好ましく、40dB以上であることが更に好ましい。なお、本発明の電磁波シールド不織布は、特に400〜1000MHzでの高周波領域での電磁波シールド性に優れている。
【0042】
以上説明したように、本発明によって、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に富む、通気性に優れた嵩高な構造を有しており、且つ電磁波シールド性に優れた、電磁波シールド不織布を提供することが可能となった。
【0043】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本願発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(通気量)
JIS L1096「一般織物試験方法」に規定される8.27.1A法(フラジール形法)によって通気量(cm/cm・s)を計測する。
【0045】
(電磁波シールド性)
KEC法(社団法人関西電子振興工業センターの略)に規定される方法にて、電界シールド効果および磁界シールド効果に関し、それぞれ400〜1000MHzでの最小値(dB)を測定した。なお、シールド効果は次の式(1)により算出した。
SE=20×log10E/E・・・(1)
SE:シールド効果(dB)
:シールド材が無い場合の空間の電界強度(または磁界強度)
:シールド材が有る場合の空間の電界強度(または磁界強度)
【0046】
(難燃性)
アンダーライター・ラボラトリーズ・インコーポレーテッドが定めるUL94の燃焼試験に準じて試験を行い、難燃性の優れる順に、「V−5」、「V−0」、「V−1」、「V−2」、「HF−1」、「HF−2」、「HB」の基準で評価した。
【0047】
(除塵性及び隠蔽性)
試験片の隠蔽性を目視により観察して、隠蔽性が高い場合に除塵機能も高いと見なした。試験片の裏側に手のひらを当て、手の形(輪郭)がほとんど見えない場合を良(○)とし、明確性に欠けた状態で見える場合をやや良(△)とし、明確に見える場合を不良(×)とした。
【0048】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート繊維の表面に銀メッキを施した銀メッキ繊維A(繊度:2.2デシテックス、繊維長:38mm)を準備した。また、熱接着性繊維Aとして芯鞘型の複合繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:51mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル樹脂)を準備した。
次いで、銀メッキ繊維A14質量%と熱接着性繊維A86質量%とを混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度44g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、この繊維ウェブに熱風を吹き付けて、繊維ウェブの嵩高性を保ったまま、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度44g/m、厚さ4.5mm、見掛け密度0.0098g/cm、銀メッキ繊維の面密度6g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
熱接着性繊維Bとして芯鞘型の複合繊維(繊度:5.5デシテックス、繊維長:51mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル樹脂)を準備した。
次いで、銀メッキ繊維A16質量%と熱接着性繊維B40質量%とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:10デシテックス、繊維長:56mm)44質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度75g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度75g/m、厚さ7.7mm、見掛け密度0.0097g/cm、銀メッキ繊維の面密度12g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
銀メッキ繊維A32質量%と熱接着性繊維B30質量%とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:10デシテックス、繊維長:56mm)38質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度150g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度150g/m、厚さ5.5mm、見掛け密度0.027g/cm、銀メッキ繊維の面密度48g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
銀メッキ繊維A30質量%と熱接着性繊維A50質量%と難燃性レーヨン繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:38mm、LOI値:28)20質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度40g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度40g/m、厚さ1.6mm、見掛け密度0.025g/cm、銀メッキ繊維の面密度12g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表2に示す。
【0052】
(実施例5)
銀メッキ繊維A30質量%と熱接着性繊維A35質量%と難燃性レーヨン繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:38mm、LOI値:28)35質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度40g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度40g/m、厚さ1.5mm、見掛け密度0.027g/cm、銀メッキ繊維の面密度12g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表2に示す。
【0053】
(実施例6)
銀メッキ繊維A40質量%とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:19デシテックス、繊維長:76mm)60質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度120g/m、厚さ8.5mm、見掛け密度0.014g/cmの繊維ウェブを形成した。
次いで、アクリル樹脂エマルジョン(樹脂濃度:45%)に分散剤および水を添加して、バインダー液を調整した。
次いで、このバインダー液を、スプレーにより前述の面密度120g/mの不織布に塗布した後、乾燥およびキュアリング処理を行い、接着剤により構成繊維を接着固定して、面密度170g/m、厚さ8.5mm、銀メッキ繊維の面密度48g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表2に示す。
【0054】
(比較例1)
銀メッキ繊維A9質量%と熱接着性繊維A91質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度43g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度43g/m、厚さ4.4mm、見掛け密度0.0098g/cm、銀メッキ繊維の面密度4g/mの不織布を得た。この不織布の評価結果を表3に示す。
【0055】
(比較例2)
銀メッキ繊維A14質量%と熱接着性繊維B45質量%とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:10デシテックス、繊維長:56mm)41質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度44g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度44g/m、厚さ6.0mm、見掛け密度0.0073g/cm、銀メッキ繊維の面密度6g/mの不織布を得た。この不織布の評価結果を表3に示す。
【0056】
(比較例3)
銀メッキ繊維A32質量%と熱接着性繊維A68質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度150g/mの繊維ウェブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度150g/m、厚さ7.5mm、見掛け密度0.02g/cm、銀メッキ繊維の面密度48g/mの不織布を得た。この不織布の評価結果を表3に示す。
【0057】
(表1)

【0058】
(表2)

【0059】
(表3)

【0060】
表1〜3から明らかなように、実施例1〜6の電磁波シールド不織布は、比較例1の不織布と比較して、電界シールド効果に優れていた。また、比較例2の不織布と比較して、通気量の値が大きすぎず除塵機能や隠蔽機能に優れていた。また、比較例3の不織布と比較して、通気量の値が大きく、換気機能と共に除塵機能や隠蔽機能に優れていた。また、実施例5の電磁波シールド不織布は、難燃性にも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維が熱接着性繊維又は/及び接着剤によって結合している不織布であって、前記不織布は、5g/m以上の金属メッキを施した合成繊維を含有しており、面密度が30〜300g/mであり、通気量が200〜800(cm/cm・s)[JIS L1096に規定されるフラジール法による]であることを特徴とする電磁波シールド不織布。
【請求項2】
前記金属メッキが銀メッキであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド不織布。
【請求項3】
前記構成繊維の見掛け密度が0.008〜0.03g/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波シールド不織布。
【請求項4】
前記熱接着性繊維の繊度が2デシテックス以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電磁波シールド不織布。
【請求項5】
前記構成繊維が、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を25%以上含有していることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電磁波シールド不織布。

【公開番号】特開2010−10518(P2010−10518A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169870(P2008−169870)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】