説明

電磁波シールド材及びその製造方法

【課題】導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材であって、プライマー層の傾斜した麓部でのプリズム効果による光の散乱を防いで、ヘイズ値を低減させることができる電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】透明基材1と、透明基材1上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電層3と、導電層3上に形成された金属層4とを有する。プライマー層2のうち導電層3が形成されているパターン形成部Aにおける厚さTが、導電層3が形成されていないパターン非形成部Bにおける厚さTよりも厚く、パターン形成部Aが、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹20より上に形成された導電層3からなる第2の山17とで構成された突起状の断面形態を有する。そして、金属層4を、第1の山17の中腹20より下の麓部13の少なくとも一部の直上部に存在しているように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のパターンで形成された導電層上に金属層を設けてヘイズ値を低減させた電磁波シールド材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやパーソナルコンピュータのモニター等のディスプレイ装置(画像表示装置)として、例えば、陰極線管(CRT)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置(LCD)、プラズマディスプレイ装置(PDP)、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ装置等が知られている。これらのディスプレイ装置のうち、大画面ディスプレイ装置の分野で注目されているプラズマディスプレイ装置は、発光にプラズマ放電を利用するため、30MHz〜1GHz帯域の不要な電磁波が外部に漏洩して他の機器(例えば、遠隔制御機器、情報処理装置等)に影響を与えるおそれがある。そのため、プラズマディスプレイ装置に用いられるプラズマディスプレイパネルの前面側(観察者側)に、漏洩する電磁波をシールドするためのフィルム状の電磁波シールド材を設けるのが一般的である。
【0003】
電磁波シールド材は今までに種々検討されているが、例えば特許文献1には、透明基材上に無電解めっき用触媒ペーストをメッシュパターンでシルクスクリーン印刷し、その上に金属層を無電解めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。また、特許文献2には、導電性インキ組成物をメッシュパターンで転写体に凹版オフセット印刷し、転写体上のメッシュパターンを透明基材上に転写し、透明基材上のメッシュパターンに金属層を電解めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。また、特許文献3には、導電性インキ組成物をメッシュパターンで透明基材に直接凹版印刷し、その透明基材上のメッシュパターンに金属層を電解めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。
【0004】
なお、導電性のメッシュパターンを有する上記電磁波シールド材とは形態が異なるが、特許文献4,5の図1及び図2には、先ずドラム10の表面に形成された凹部16に配合物64を充填した後にその配合物64を硬化し、而かる後に該硬化した配合物64上に接着材料68を供給し、次いで該接着材料68をその上に供給したシート46で挟み、その後その接着材料68を硬化し、版凹部内で硬化した配合物64及び接着材料68を版凹部から離型することによって、作製された再帰反射シートが提案されている(ここでの符号は同文献中に記載のものである。)。この再帰反射シートは、同文献4,5の図5Dに示すように、接着材料68が基材シート46と凸形物との間に設けられた構造となっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電磁波シールド材は、微細パターンの形成が難しいシルクスクリーン印刷でメッシュパターンを形成するとともに、成膜速度の遅い無電解めっきで金属層を形成するので、生産性の点で劣り、コスト低減を図ることができないという難点がある。また、特許文献2に記載の電磁波シールド材は、凹版印刷でメッシュパターンを形成するので微細パターンの形成は可能であるが、オフセット方式を採用するので、凹版から一旦転写体に転写した後に転写体から透明基材に2回目の転写を行うので、原版である凹版のメッシュパターンが忠実に透明基材に転写されないことがある。
【0006】
さらに、特許文献2,3に記載の電磁波シールド材は、凹版から転写体又は透明基材に転写(転移ともいう。)する際に、未転写部が発生したり、密着性に劣る転写不良が発生したりすることがある。具体的には、本願の図13に示すように、凹版101上に導電性インキ組成物103を塗布した後にドクターブレード102で掻き取って凹部104内に導電性インキ組成物103を充填する際、図13(B)に示すように、ドクターブレード102で掻き取った後の凹部104内の導電性インキ組成物103は、その上部に凹み105が生じる。この凹み105は、その後、凹版101上に透明基材106を圧着して透明基材106上に凹部104内の導電性インキ組成物103を転写する際に、図13(C)に示すように、透明基材106と導電性インキ組成物103との密着を妨げる要因となる。その結果、透明基材106上に、導電性インキ組成物の未転写部が発生したり、密着性に劣る転写不良が発生したりして、電磁波シールド特性を低下させる原因となる。
【0007】
【特許文献1】特開平11−170420号公報
【特許文献2】特開2001−102792号公報
【特許文献3】特開平11−174174号公報
【特許文献4】米国特許第3,811,983号
【特許文献5】米国特許第3,935,359号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の問題に対し、本出願人は、現時点で未公開の特許出願であるが、未硬化の導電性組成物が充填された所定パターンの凹部を有する版面と、その導電性組成物の転写対象である基材の一方の面とを、未硬化のプライマー層を介して圧着し、その圧着を保持した状態で少なくともプライマー層を硬化した後に版面から剥がすことによって、導電性組成物を極めて良好に転写でき、転写率のよい導電層パターンを形成できるという画期的な方法を見つけた。得られた電磁波シールド材の導電層パターンは、プライマー層からなる第1の山と、その第1の山の中腹より上に形成された導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有し、導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じないという特徴を有するものであった。なお、必要に応じて金属層を設けてもよいものであった。
【0009】
この方法では、導電性組成物の凹版面からの剥がし易さ(転移性)を向上させるため、凹版の製作を容易にするため、さらには得られた電磁波シールド材のパターン形成面を他の部材に接着する際の気泡の残留を防止するために、凹版面の断面形状を台形又は円錐形にすることが好ましい。しかしながら、その場合に、上記した第1の山の中腹よりも下側のなだらかに傾斜する麓部には、導電層が形成されていないプライマー層が露出する部分であり、その部分に光が入射すると、プリズム効果により光が散乱してしまう。特に電磁波シールド材をPDP等の表示装置の前面に設けた場合には、PDP等の表示装置からの画像光が散乱して、表示装置で問題となるヘイズ値が高くなって画像特性が低下してしまうという問題が生じる。
【0010】
本発明は、こうした問題を解決するためになされたものであって、その目的は、導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材であって、プライマー層の傾斜した麓部でのプリズム効果による光の散乱を防いで、ヘイズ値を低減させることができる電磁波シールド材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の電磁波シールド材は、透明基材と、該透明基材上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電層と、該導電層上に形成された金属層とを有し、前記プライマー層のうち前記導電層が形成されているパターン形成部におけるプライマー層の厚さが、前記導電層が形成されていないパターン非形成部におけるプライマー層の厚さよりも厚く、前記パターン形成部が、前記プライマー層からなる第1の山と、該第1の山の中腹より上に形成された前記導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有し、前記金属層が、前記第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に存在していることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、プライマー層からなる第1の山と、その第1の山の中腹より上に形成された導電層からなる第2の山とで構成された突起状のパターン形成部において、その第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に金属層が存在するように構成されているので、その麓部に光が入射してもその直上部に存在する金属層が光の散乱を防ぐように作用する。すなわち、なだらかに傾斜する麓部は、通常、導電層が形成されていないプライマー層が露出する部分であるが、その部分の少なくとも一部の直上部に金属層が意図して設けられているので、少なくとも金属層が意図して設けられた部分においては、プライマー層を透過してきた光の散乱を金属層が防ぐことができる。その結果、特に電磁波シールド材をPDP等の表示装置の前面に設けた場合には、PDP等の表示装置からの画像光が散乱して、表示装置で問題となるヘイズ値が高くなって画像特性が低下してしまうという問題を防ぐことができる。
【0013】
さらにこの発明によれば、導電性組成物の凹版面からの剥がし易さ(転移性)を向上させるため、凹版の製作を容易にするため、さらには得られた電磁波シールド材のパターン形成面を他の部材に接着する際の気泡の残留を防止するために、凹版面の断面形状を台形又は円錐形にした結果生じうる問題を解決することができるので、導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材について、ヘイズ値を小さくして画像特性を向上させることができる点で効果があり、なおかつ金属層で光散乱を防ぐので電磁波シールド特性をより一層向上させることができる効果を併せ持つ。
【0014】
本発明の電磁波シールド材の好ましい態様は、前記金属層が、前記第1の山の全麓部の直上部に少なくとも存在しているように構成する。
【0015】
この発明によれば、金属層が第1の山の全麓部の直上部に少なくとも存在しているので、プリズム効果による光散乱が生じうる麓部の全てを覆うことにより、麓部での光散乱を防ぐことができる。なお、ここでは「全麓部」としているが、麓部はなだらかに傾斜している部分であるので、どこまでが麓部でどこからが平坦部(パターン非形成部の平らな部分)であるかは厳密には分けることができないが、プリズム効果による光散乱が起こってヘイズ値が実質的に高くなってしまう部分を麓部とすれば、「全麓部」とはそうした部分を指す。
【0016】
本発明の電磁波シールド材の好ましい態様は、前記パターン形成部におけるプライマー層と導電層との境界部分は、(a)該プライマー層を構成する成分と該導電層を構成する成分とが混合している領域、(b)該プライマー層と該導電層とが非直線状に入り組んでいる領域、及び、(c)該導電層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している領域、のいずれか1又は2以上であるように構成する。
【0017】
この発明によれば、プライマー層と導電層との境界部分が単純な境界面構造になっていないので、両層の密着性が向上しているとともに、この電磁波シールド材の製造時において、版面内に充填された導電性組成物の透明基材への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われた形態を表している。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の第1態様に係る電磁波シールド材の製造方法は、透明基材の一方の面に所定のパターンで導電層が形成されてなる電磁波シールド材の製造方法であって、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層が一方の面に形成された透明基材を準備する透明基材準備工程と、所定のパターンで凹部が形成された板状又は円筒状の版面に、硬化後に導電層を形成できる導電性組成物を塗布した後、前記凹部内以外に付着した該導電性組成物を掻き取って該凹部内に該導電性組成物を充填する導電性組成物充填工程と、前記透明基材準備工程後の透明基材のプライマー層側と前記導電性組成物充填工程後の版面の凹部側とを圧着して、前記プライマー層と前記凹部内の導電性組成物とを空隙なく密着する圧着工程と、前記圧着工程後に前記プライマー層を硬化するが前記導電性組成物は完全には硬化させないプライマー層硬化工程と、前記プライマー層硬化工程後に前記透明基材及び前記プライマー層を前記版面から剥がして前記凹部内の導電性組成物を前記プライマー層上に転写する転写工程と、前記転写工程後、前記プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物を硬化させて導電層を形成し、該プライマー層からなる第1の山と、該第1の山の中腹より上に形成された該導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有するパターン形成部を形成する導電性組成物硬化工程と、前記導電性組成物硬化工程後に、前記導電層上に金属層をめっきして、該金属層を、前記第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に形成するめっき工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第2態様に係る電磁波シールド材の製造方法は、透明基材の一方の面に所定のパターンで導電層が形成されてなる電磁波シールド材の製造方法であって、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層が一方の面に形成された透明基材を準備する透明基材準備工程と、所定のパターンで凹部が形成された板状又は円筒状の版面に、硬化後に導電層を形成できる導電性組成物を塗布した後、前記凹部内以外に付着した該導電性組成物を掻き取って該凹部内に該導電性組成物を充填する導電性組成物充填工程と、前記透明基材準備工程後の透明基材のプライマー層側と前記導電性組成物充填工程後の版面の凹部側とを圧着して、前記プライマー層と前記凹部内の導電性組成物とを空隙なく密着する圧着工程と、前記圧着工程後に前記プライマー層と導電性組成物を同時に硬化する同時硬化工程と、前記同時硬化工程後に前記透明基材及び前記プライマー層を前記版面から剥がして前記凹部内の導電性組成物を導電層として前記プライマー層上に転写し、該プライマー層からなる第1の山と、該第1の山の中腹より上に形成された該導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有するパターン形成部を形成する転写工程と、前記転写工程後に、前記導電層上に金属層をめっきして、該金属層を、前記第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に形成するめっき工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
これら第1,2態様に係る発明によれば、プライマー層からなる第1の山と、その第1の山の中腹より上に形成された導電層からなる第2の山とで構成された突起状のパターン形成部を転移性(転写性)よく形成し、さらにその第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に金属層を形成するので、得られた電磁波シールド材は、その麓部に光が入射してもその直上部に存在する金属層が光の散乱を防ぐように作用する。
【0021】
さらにこれら第1及び第2態様に係る発明によれば、流動性を保持したプライマー層が形成された透明基材のプライマー層側と、導電性組成物充填工程後の版面の凹部側とを圧着するので、凹部内の導電性組成物上部に生じやすい凹みに流動性のあるプライマー層が充填される。その結果、プライマー層が導電性組成物に空隙なく密着するので、凹部内の導電性組成物を透明基材側に未転写部のない状態で正確に転写させることができる。したがって、導電性組成物の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材を製造することができ、しかも得られた電磁波シールド材は、ヘイズ値を小さくして画像特性を向上させることができ、なおかつ電磁波シールド特性をより一層向上させることができる効果を併せ持つ。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電磁波シールド材及びその製造方法によれば、第1の山の中腹より下の麓部に光が入射してもその直上部に存在する金属層が光の散乱を防ぐように作用するので、特にこの電磁波シールド材をPDP等の表示装置の前面に設けた場合には、PDP等の表示装置からの画像光が散乱して、表示装置で問題となるヘイズ値が高くなって画像特性が低下してしまうとい問題を防ぐことができる。
【0023】
したがって、本発明の電磁波シールド材及びその製造方法によれば、導電性組成物の凹版面からの剥がし易さ(転移性)を向上させるため、凹版の製作を容易にするため、さらには得られた電磁波シールド材のパターン形成面を他の部材に接着する際の気泡の残留を防止するために、凹版面の断面形状を台形又は円錐形にした結果生じうる問題を解決することができるので、導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材について、ヘイズ値を小さくして画像特性を向上させることができる点で効果があり、なおかつ金属層で光散乱を防ぐので電磁波シールド特性をより一層向上させることができる効果を併せ持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
[電磁波シールド材]
図1は、本発明の電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図であり、図2は、図1におけるA−A’断面の拡大図である。また、図3は、本発明の電磁波シールド材を構成する導電パターンの一例を示す模式的な断面図であり、図4及び図5は、本発明の電磁波シールド材を構成する導電パターンの他の例を示す模式的な断面図である。なお、以下において、「導電層パターン」とは、転写性(転移率)よく設けられた導電層3のパターンをいい、「導電パターン」とは、そうした導電層3上に金属層4を形成した後のパターンをいう。
【0026】
本発明の電磁波シールド材10は、透明基材1と、透明基材1上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電層3と、導電層3上に形成された金属層4とを有し、必要に応じてさらに図2のように保護層9を有する。そして、本発明の特徴は、プライマー層2のうち導電層3が形成されているパターン形成部Aにおけるプライマー層2の厚さTが、導電層3が形成されていないパターン非形成部Bにおけるプライマー層2の厚さTよりも厚く、そのパターン形成部Aが、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹20より上に形成された導電層3からなる第2の山18とで構成された突起状の断面形態をなしており、金属層4が、第1の山17の中腹20より下の麓部13の少なくとも一部の直上部に存在していることにある。
【0027】
ここで、「所定のパターン」とは、電磁波シールド材10の電磁波遮蔽パターンとして一般的な、メッシュ(網乃至格子)状、ストライプ(平行線群乃至縞模様)状、螺旋(乃至は渦巻)状、或いは線分群等のパターンである。また、図1中、符号7は、中央部に位置し、ディスプレイ装置の画像表示領域に対峙する電磁波遮蔽パターン部であり、符号8は、その電磁波遮蔽パターン部の周縁部の少なくとも一部に存在する接地部である。この接地部8において、接地能力上好ましくは、図1に示すように、電磁波遮蔽パターン部7の周縁部の全周を囲繞する形態が好ましい。また、その接地部8は、メッシュ等の開口部を有するパターン状に形成されていてもよいが、より好ましくは、図1に示すように、開口部非形成(ベタ状)の導電層(或いは導電層及び金属層)からなる。なお、本発明においては、図1に示すような接地部8が周縁部に存在していなくてもよく、全体をシームレスのメッシュ形状とすることもできる。この場合には、ディスプレイのサイズにかかわらず連続形成が可能となる。また、螺旋(乃至は渦巻)状のパターンは、ICタグや非接触式ICカードの送受信アンテナに用いられる渦巻状コイルを全面にわたって被覆する場合等に利用できる。
【0028】
以下、本発明の構成を詳しく説明する。
【0029】
(透明基材)
透明基材1は、電磁波シールド材10の基材であり、所望の透明性、機械的強度、プライマー層2との接着性等の要求適性を勘案の上、各種材料の各種厚さのものを選択すればよい。透明基材1としては、樹脂基材であってもよいし、硝子基材等無機基材であってもよい。また、透明基材1の厚さ形態としては、フィルム状でもシート状でも板状でもよい。通常は、樹脂製の透明フィルムが好ましく用いられる。
【0030】
樹脂基材を構成する材料としては、アクリル樹脂(ここでは、所謂、メタクリル樹脂も包含する概念として用いる)、ポリエステル樹脂等をベースとするフィルムが好ましいが、これに限定されない。樹脂材料としては、具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−テレフタル酸−イソフタル酸共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等が使用できる。中でも、二軸延伸PETフィルムが透明性、耐久性に優れ、しかもその後の工程で紫外線照射処理や加熱処理を経た場合でも熱変形等しない耐熱性を有する点で好適である。
【0031】
一方、無機基材を構成する無機材料としては、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛硝子、硼珪酸硝子、石英硝子、燐酸硝子等の硝子、結晶質石英(水晶)、方解石(炭酸カルシウム)、ダイヤモンド(金剛石)等の透明無機結晶、PLZT等の透明セラミックス等が挙げられる。
【0032】
透明基材1は、ロール・トウ・ロールで加工可能な連続な長尺帯状フィルムであってもよいし、所定の大きさからなる枚葉フィルムであってもよい。なお、ここで「ロール・トウ・ロール」とは、長尺帯状の基材を巻取(ロール)の形態で供給し、その巻取から帯状シートを巻き出して所定の加工をし、しかる後に再度巻取の形態に巻き取って保管、搬送するフィルムの利用形態を意味する。透明基材1の厚さは、通常は8μm以上5000μm以下程度が好ましいが、これに限定されない。透明基材1の光透過率としては、ディスプレイ装置の前面設置用としては、100%のものが理想であるが、透過率80%以上のものを選択することが好ましい。透明基材1の表面には、必要に応じて、後述するプライマー層2と透明基材1との密着性を改善するために易接着層を設けたり、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理を行ったりしてもよい。易接着層としては、透明基材1とプライマー層2との両方に接着性のある樹脂から構成する。易接着層の樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩素化ポリプロピレン等の樹脂の中から適宜選択する。
【0033】
(プライマー層)
プライマー層2は、透明基材1上に密着性よく設けられる。そして、このプライマー層2上には導電層3が密着性よく設けられる。したがって、プライマー層2は、透明基材1と導電層3の両方に対して密着性がよい材料であることが好ましく、また、ディスプレイ装置の前面設置用としては、当然のことながら透明であることが好ましい。例えば、電離放射線硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を塗工してなる層であることが好ましい。また、密着性、耐久性改善、各種物性付与のために各種添加剤や変性樹脂を使用してもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0035】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー(単量体)、或いはプレポリマーやオリゴマーが用いられる。モノマーとしては、例えば、ラジカル重合性モノマー、具体的には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。また、プレポリマー(乃至はオリゴマー)としては、例えば、ラジカル重合性プレポリマー、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマー、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートという表記は、アクリレート又はメタクリレートという意味である。
【0036】
これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0037】
光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系等の化合物が、また、カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下程度添加する。
【0038】
なお、電離放射線としては、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0039】
必要に応じて適宜添加剤を添加する。該添加剤としては、例えば、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤等が挙げられる。
【0040】
特に本発明においては、プライマー層2が、版に圧着された状態で流動状態と硬化状態の2つの状態を保持できることに特徴がある。一例として、プライマー層2は、塗工した後においては流動性を保持できる状態で透明基材1上に設けられており、その後、プライマー層2上に導電性組成物3’(図8参照)が転写形成される際においては短時間で流動状態から硬化状態に変化させることができるものであることが必要である。こうしたプライマー層2を透明基材1上に形成することにより、プライマー層2上に導電性組成物3’を転写する際に、その導電性組成物3’とプライマー層2との間に空隙がない状態で転写することができるので、従来生じるおそれがあった導電性組成物3’とプライマー層2との間の隙間の発生をなくすことができ、その隙間の存在による転写不良、密着不良の問題が生じない。
【0041】
なお、本願で言う「流動性」又は「流動状態」とは、プライマー層2を導電性組成物が充填された版面に圧着する際の圧力によって流動(変形)する性質又は状態をいい、水のように低粘度である必要はない。また、必ずしもNewton粘性である必要もなく、チキソトロピー性或いはダイラタンシー性のような非Newton粘性を有していてもよい。塗工に適した粘度に調整されたプライマー層が透明基材1上に塗布された後、プライマー層2が熱可塑性樹脂である場合には、版面に圧着する際に流動(変形)すればよく、プライマー層2は圧着時において流動(変形)する温度になっていればよい。この場合、軟化状態と言い換えてもよい。
【0042】
流動状態になっているプライマー層2の粘度は、通常、1mPa・s以上100000mPa・s以下の範囲内であり、好ましくは、50mPa・s以上2000mPa・s以下の範囲内である。
【0043】
そうしたプライマー層2の流動性状態は、プライマー層用の樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いた場合には、電離放射線硬化性を持ったインキを透明基材1上に塗布するだけで得られる。電離放射線硬化型インキは、一般に前記のごとき電離放射線硬化性を持つモノマーやオリゴマーからなり、必要に応じて、更に、光重合開始剤(紫外線硬化、或いは光硬化の場合)、各種添加剤等を含み、電離放射線で硬化させるまでは流動性を示す。このインキは溶剤を含んでもよいが、その場合、塗布後に乾燥工程が必要であるため、インキは溶剤を含まないタイプ(いわゆるノンソルベントタイプ)であることが好ましい。
【0044】
また、プライマー層用の樹脂として熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布し、流動性状態になる程度(例えば、50℃〜200℃程度)に加熱して生じさせることができる。こうした流動性状態のプライマー層2を、後述するように導電性組成物が充填された版面に圧着した後、冷却することで硬化させて転写すれば、その導電性組成物3’とプライマー層2との間に空隙がない状態で転写することができる。ここで、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布する方法としては、熱可塑性樹脂組成物の溶液を塗布後乾燥する方法や、ホットメルト状態の樹脂を塗布する方法がある。また、透明基材1上に塗布された熱可塑性樹脂組成物の加熱は、導電性組成物が充填された版面に接触する前に行ってもよく、版面に圧着する際に加熱ロール等を用いて圧着と加熱を同時に行ってもよいが、いずれにしろ、導電性組成物3’をプライマー層2に転移する際にはプライマー層の流動性がなくなる程度まで冷却されている必要がある。
【0045】
プライマー層2の厚さは特に限定されないが、通常は硬化後の厚さで1μm以上100μm以下の程度(後述の厚さTで評価した数値)となるように形成される。また、プライマー層2の厚さ(T)は、通常は、導電層3とプライマー層2との合計値(総厚。図3で言うと導電層3の頂部と透明基材1の表面との高度差)の1%以上50%以下の程度である。なお、後の製造方法の説明欄で詳述するが、導電性組成物3’がプライマー層2上に転写され、さらにその導電性組成物3’を硬化させて電磁波シールド材を製造した後におけるプライマー層2は、図3に示すように、導電層3が形成されている部分Aの厚さTが、導電層3が形成されていない部分Bの厚さTよりも厚い。なお、導電層の説明欄で詳述するように、プライマー層2の厚さの厚い部分Aの中腹20より上には導電層3が形成されているが、その導電層3は、その中腹より下(プライマー層2の厚さの薄い部分Bの側。)の麓部13の少なくとも一部の直上部に導電層3が回り込んだ形態になっている。
【0046】
図3に示すプライマー層2の山型形態(第1の山17)は、透明基材1の一方の面S1上に設けられた硬化させる前の流動状態のプライマー層2を、凹版62内に設けられた導電性組成物3’に圧着し(後述する図9(A)(C)を参照)、又は、凹版62内に設けられた導電性組成物3’上に硬化させる前の流動状態のプライマー層2を設け、そのプライマー層2と透明基材1とを圧着し、その結果として導電性組成物3’の凹み6にプライマー層2を隙間なく充填した後に、プライマー層2を硬化し又はプライマー層2と導電性組成物3’とを同時硬化し、その後に透明基材1を引き剥がすようにして透明基材1側にプライマー層2と導電性組成物3’からなる導電層3とを転写したことよって生じたものである。
【0047】
具体的には、後述の図8の製造工程図で例示するように、透明基材1上に流動状態のプライマー層2を設け、そのプライマー層2を導電性組成物3’を凹部64内に充填した後の版面63に圧着し、導電性組成物3’の凹み6にプライマー層2が隙間なく充填させた後にプライマー層2を硬化してなるものである。版面63は、ドクターブレード21やワイピングロール等によって凹部64内以外の余分な導電性組成物3’が掻き取られるが、その際に、凹部64内の導電性組成物3’の上部には、凹み6が生じやすく、その凹み6を有した状態で版面63にプライマー層2を圧着することにより、流動性のあるプライマー層2がその凹み6内に流入し、充填されて、その結果、図3に示すような山型形態になって第1の山17を構成する。
【0048】
(導電層)
導電層3は、プライマー層2上に、例えばメッシュ状又はストライプ状の所定の電磁遮蔽パターンで設けられている。この導電層3を形成する導電性組成物は、種々の工程を経た後に最終的に導電性の層になっているものであれば特に限定されない。電磁遮蔽パターンは、電磁波シールド材に通常採用されるメッシュ状であってもストライプ状であってもよく、その線幅と線間ピッチも通常採用されている寸法であればよい。例えば、線幅は5μm以上50μm以下とすることができ、線間ピッチは100μm以上500μm以下とすることができる。開口率(電磁波遮蔽パターンの全面積中における開口部の合計面積の占める比率)は、通常、50%以上95%以下の程度である。また、メッシュやストライプ形状の電磁遮蔽パターンとは別に、図1のように、それと導通を保ちつつ隣接した額縁状の全ベタ(開口部非形成)層等の接地パターンが設けられる場合もある。
【0049】
導電性組成物は、版の凹部内に充填する時点では流動性を有し、所望のパターンに形成し、硬化せしめた以降の時点で所望の導電性を発現するものであれば特に限定はなく、各種材料、形態のものが使用可能である。代表的なものは、導電性粉末と樹脂とを含み、さらに必要に応じてその樹脂を溶解乃至分散する溶剤乃至分散剤を含んだ流動性を有するインキ又はペースト状の材料を挙げることができる。この導電性組成物からなる導電層3は、導電性組成物を乾燥ないし硬化させた後の固形物からなる塗膜のことである。なお、溶解乃至分散としたのは、導電性組成物が、溶液状の他、コロイド状である場合も含むからである。
【0050】
導電性組成物の粘度は、例えば後述するように、プライマー層2中のプライマー成分が導電性組成物中に浸入して増粘させたり、プライマー層2と導電性組成物とを同時硬化させたりする場合等、その製造工程上との関係で好ましい粘度の大小を一概には言えないが、使用可能な範囲としては、通常、100mPa・s以上1000000mPa・s以下の範囲内であり、好ましくは、数千mPa・s以上数万mPa・s以下の範囲内である。
【0051】
導電性組成物を構成するバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができ、電離放射線硬化性樹脂としては、プライマー層用の材料として前記したものを挙げることができ、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、複数の樹脂を混合して用いてもよい。なお、熱硬化性樹脂を使用する場合、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。光硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて重合開始剤を添加してもよい。
【0052】
また、版の凹部への充填に適した流動性を得るために、これら樹脂は通常、溶剤に溶けたワニスとして使用する。溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類、メチルエーテル、エチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル酪酸メチル、酢酸ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ターピネオール等のアルコール類、水等の中から適宜選択した1種乃至2種以上が用いられる。溶剤の含有量は通常、10重量%以上70重量%以下の程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ない方が好ましい。また、光硬化性樹脂等の電離放射線硬化型性樹脂を用いる場合には、もともと流動性があるため、必ずしも溶剤を必要としない。
【0053】
また、導電性組成物を構成する導電性粉末としては、金、銀、白金、銅、錫、パラジウム、ニッケル、アルミニウム等の低抵抗率金属粉末、芯材粒子としての低抵抗率金属以外の材料からなる粉末(上記低抵抗率金属以外の金属粉末、アクリル樹脂、メラミン樹脂等の樹脂粉末、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、ゼオライト等の無機粉末)の表面に被覆材料としての金や銀等の低抵抗率金属をめっきしてなる粉末、グラファイト、カーボンブラック等の導電性炭素の粉末を好ましく挙げることができる。また、導電性セラミックス、或いは導電性有機高分子の粉末も使用できる。形状も球状、回転楕円体状、多面体状、鱗片状、円盤状、繊維状(乃至針状)等から選ぶことができる。これらの材料や形状は適宜混合して用いてもよい。導電性粉末の大きさは種類に応じて任意に選択されるので一概に特定できないが、例えば、鱗片状の銀粉末の場合には粉末の平均粒子径が0.1μm以上10μm以下の程度のものを用いることができ、カーボンブラック粉末の場合には平均粒子径が0.01μm以上1μm以下の程度のものを用いることができる。
【0054】
導電性組成物中の導電性粉末の含有量は、導電性粉末の導電性や粉末の形態に応じて任意に選択されるが、例えば導電性組成物の固形分100重量部のうち、導電性粉末を40重量部以上99重量部以下の範囲で含有させることができる。なお、本願において、平均粒子径というときは、粒度分布計、又はTEM観察で測定した値を指している。また、多面体状、纖維状等の非球面形状の場合は、通常、外接球の直径、対角線長、或いは最長辺の辺長をもって粒径を定義する。
【0055】
また、導電性組成物には、品質向上等を目的に適当な添加物を加えてもよい。例えば、カーボンブラックはそれ自体が黒色であるので必要ないが、黒色顔料や黒色染料を必要に応じて所定量添加することで、電磁波シールドパネルを構成したときのコントラストを向上させ、視認性を向上させることができる。また、後述する金属めっき層の金属光沢による透明基板裏面の反射防止、色ムラ、金属色等の抑制のためには、こうした黒色顔料や黒色染料を含有させることが望ましい。黒色顔料としては、導電性粉末としても機能するカーボンブラック、Fe、CuO−Cr、CuO−Fe−Mn、CoO−Fe−Cr等が挙げられるが、その種類や形状は特に制限はなく、バインダー樹脂中に分散容易な平均粒子径0.1μm以下の着色力の大きな黒色顔料又は黒色染料が好ましい。なお、カーボンブラックを用いる場合には、チャンネルブラック、ファーネスブラック又はランプブラック等の色材用カーボンブラックや、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができ、中でも平均粒子径が20nm以下のものが好ましく用いられる。また、黒色染料としては、アニリンブラック等の染料を用いることができる。また、導電性組成物の流動性や安定性を改善するために、導電性や、プライマー層との密着性に悪影響を与えない限りにおいて、適宜フィラーや増粘剤、界面活性剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0056】
なお、導電層3の厚さについては、導電パターンの説明欄で詳しく説明するが、通常は導電層3の抵抗値や、電磁波遮蔽性能とその導電層3上への他部材の接着適性との兼ね合いから、その中央部(突起パターンの頂部)での測定において、通常2μm以上50μm以下であり、好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0057】
導電層3の形成は、後述の図8に例示するように、先ず、所定のメッシュ状又はストライプ状等のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に導電性組成物3’を塗布した後、その凹部64内以外に付着した導電性組成物3’をドクターブレード21等で掻き取って凹部64内に導電性組成物3’を充填する。次に、流動性を保持したプライマー層2を一方の面S1に形成した透明基材1を準備し、その透明基材1のプライマー層2側と、導電性組成物3’を凹部64内に充填した版面63とを圧着することにより、導電性組成物3’の凹み6内にもプライマー層2を充填させて導電性組成物3’とプライマー層2とを隙間なく密着させ、その状態でプライマー層2の流動性をなくした(硬化させた)後、導電性組成物3’をプライマー層2とともに透明基材1側に転写し、所定のメッシュ状又はストライプ状等のパターンからなる導電性組成物3’を形成する。なお、導電性組成物3’はプライマー層2上に転写した後に硬化処理(例えば、乾燥処理、紫外線・電子線照射処理、加熱処理、冷却処理等)を行ってもよいし、プライマー層2と同時に硬化処理を行ってもよく、導電層3が形成される。
【0058】
本発明においては、上記したように、ドクターブレードやワイピングロール等によって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られる際に、凹部内の導電性組成物の上部に生じる凹み6内に、流動性を保持したプライマー層2が充填し、導電性組成物とプライマー層2とを隙間なく密着した状態でプライマー層2が硬化するので、プライマー層2上に導電性組成物を転写不良なく転写することができる。
【0059】
上記においては、導電性組成物として、主に導電性粉末と樹脂とで構成されたものについて説明した。こうした導電性組成物は、それ自体が導電層3になるものであるが、本発明においては他の導電性組成物を適用してもよい。例えば、有機金属化合物のゾル(分散液)を導電性組成物として用い、例えば転写工程の前後で加熱固化し、さらに必要に応じて焼成し、導電性の金属ないし金属化合物からなる導電層3としてもよい。また、例えば、ポリチオフェン等の公知の導電性樹脂を導電性組成物として用い、それ自体を導電層3としてもよい。
【0060】
(金属層)
金属層4は、導電層3上に必須の構成として形成され、導電層3とともに導電パターン22を構成する。金属層4は、導電層3の導電率が不足する場合に導電パターン22としての導電率を高めることができ、電磁波シールド特性を向上させることができるという利点がある。金属層4は、導電層3上にめっきにより形成される。めっきの方法としては、電解(電気)めっき、無電解めっき等の方法があるが、電解めっきは無電解めっきに比べて通電量を増やすことでめっき速度を数倍に上げることができ、生産性を著しく向上させることができるため好ましい。
【0061】
電解めっきの場合、導電層3への給電は導電層3が形成された面に接触させた通電ロール等の電極から行われるが、導電層3が電解めっき可能な程度の導電性(例えば、100Ω/□以下)を有するので、電解めっきを問題なく行うことができる。金属層4を構成する材料としては、導電性が高く容易にめっき可能な、銅、銀、金、クロム、ニッケル、錫を挙げることができる。こうした金属層4は導電層3に比べると一般的に体積抵抗率が1桁以上小さいため、導電層単体で電磁波シールド性を確保する場合に比べて、必要な導電材料の量を減らすことができる。
【0062】
なお、金属層4を形成した後においては、必要に応じて、その金属層4を黒化処理したり、表面を粗面化したり、或いは図2に示すような保護層9を設けてもよい。黒化処理は、例えば黒化ニッケルめっき、銅−コバルト合金めっき等の処理を例示でき、また、保護層9は、例えばアクリル系の電離放射線硬化性樹脂を用いて形成することができる。通常は、保護層9は導電層3による凹凸を埋めて表面を平坦化する樣に形成する。
【0063】
(導電パターンの形態)
次に、本発明の特徴である導電パターンの形態について説明する。最初に、図3〜図5に示す導電パターン22(22A〜22C)の形態について説明し、次いで、その導電パターン22を構成する導電層パターン19(19A〜19D)について図6及び図7を用いて説明する。
【0064】
本発明の電磁波シールド材10の導電パターン22は、図3〜図5に示すように、プライマー層2のうち導電層3が形成されているパターン形成部Aが、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹20より上に形成された導電層3からなる第2の山18とで構成された突起状の断面形態をなしており、さらに、その導電層3上に設けられた金属層4が、第1の山17の中腹20より下の麓部13の少なくとも一部の直上部に存在していることに特徴がある。ここで、「中腹20」とは、導電層3からなる第2の山18が設けられている第1の山17(プライマー層2)の斜面において、導電層3が形成されたパターン形成部Aと導電層3が形成されていないパターン非形成部Bとの境界部と言うことができ、「麓部13」とは、導電層3からなる第2の山18が設けられていない第1の山17(プライマー層2)の斜面を指しており、「直上部」とは、図3〜図5を平面視したときの図面の上下において、該当する麓部から見て真っ直ぐ上のことである。なお、図3〜図5において、符号23は、平坦部を指しており、プライマー層2からなる第1の山17の麓部13が終わった領域である。
【0065】
図3〜図5に示す形態によれば、その麓部13に透明基材1側から光が入射してもその直上部に存在する金属層4が光の散乱を防ぐように作用する。すなわち、なだらかに傾斜する麓部13は、通常、導電層3が形成されていないプライマー層2が露出する部分であるが、本発明では、その部分(麓部13)の少なくとも一部の直上部に金属層4が意図して設けられているので、少なくとも金属層4が意図して設けられた部分においては、透明基材1側からプライマー層2を透過してきた光の散乱を金属層4が阻止することになる。その結果、こうした導電パターン22が形成されてなる電磁波シールド材10をPDP等の表示装置の前面に設けた場合には、PDP等の表示装置からの画像光が散乱して、表示装置で問題となるヘイズ値が高くなって画像特性が低下してしまうとい問題を防ぐことができる。
【0066】
図3に示す導電パターン22Aは、金属層4が、第1の山17の麓部13の全ての領域(全麓部13ともいう。)の直上部に存在している。金属層4を電解めっきで形成する場合には、電気が流れる導電層3上に金属層4が形成されることになるので、金属層4は第1の山17にのみ形成されることになる。しかし、電解めっきの時間を長くしたり電流密度を高めたりすることによって金属層4の厚さを厚くした場合には、金属層4は、図3に示すように、中腹20よりも下側の麓部13に伸びるように成長し、結果として、平坦部23に至るまでの麓部13の全ての直上部を覆うことができる。全麓部13の直上部を覆うための電解めっき条件は、第1の山17の麓部13の長さやめっき材料の種類等の種々の条件によって設定される。
【0067】
図3に示す形態では、金属層4が第1の山17の全麓部13の直上部に存在しているので、プリズム効果による光散乱が生じうる麓部13の全てを覆うことにより、麓部13での光散乱を阻止することができる。なお、ここでは「全麓部」としているが、麓部13はなだらかに傾斜している部分であるので、どこまでが麓部13でどこからが平坦部(パターン非形成部Bの平らな部分)であるかは厳密には分けることができないが、プリズム効果による光散乱が起こってヘイズ値が実質的に高くなってしまう部分を麓部13とすれば、「全麓部」とはそうした部分を指す。
【0068】
図4に示す導電パターン22Bは、金属層4が、第1の山17の麓部13の一部の直上部に存在している。電解めっきの時間が短かったり電流密度があまり高くしないで金属層4の厚さが薄い場合であっても、金属層4は、図4に示すように、パターン形成部Aからパターン非形成部B側にはみ出すように形成される。その場合のはみ出た金属層4は、一部の麓部13の直上部を覆うことになり、金属層4がはみ出た部分においては、その限りにおいて、プライマー層2を透過してきた光の散乱を阻止することができる。
【0069】
図5に示す導電パターン22Cは、金属層4が、第1の山17の麓部13を全て覆い、さらに平坦部23にも到達している。電解めっきの時間を長くしたり電流密度を高くして金属層4の厚さを厚くした場合には、図3に示す態様よりもさらに平坦部23側に金属層4が伸びて平坦部23を覆うことがある。こうした場合でも、図3について説明したのと同様、麓部13の全ての直上部を覆うことができるので、プライマー層2を透過してきた光の散乱を阻止することができる。
【0070】
なお、図示しないが、導電性組成物3’を充填する凹部の形状の影響により、転写(転移)形成した導電層パターン19を構成する第1の山17の麓部13と平坦部23との間の一部が凹んでいる場合がある。こうした凹みが存在する場合であっても、プライマー層2を透過してきた光が散乱するのを阻止するために、その凹みに掛かるように金属層4を伸ばすことが好ましい。
【0071】
導電層3が形成されているパターン形成部Aと、導電層3が設けられていないパターン非形成部Bとの境界部ということができる中腹20基準にしたとき、金属層4は、プライマー層2を透過してきた光が散乱する麓部13を全て設けられていることが最も好ましいのであるが、少なくとも、その中腹20から麓部13の側に水平方向の座標軸で1μm以上設けられていることが好ましく、2μm以上設けられていることがより好ましい。そうした寸法で金属層4を設けることにより、その直下で散乱する光をその限度で阻止することができる。なお、上限は、プライマー層2を透過してきた光が散乱する麓部13を全て覆うことができる長さであるが、その麓部13を超えて平坦部23に到達したものであってもよい。
【0072】
次に、上述した導電パターン22のベースとなる導電層パターン19について説明する。導電層パターン19は、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電層3のパターン形態である。図6及び図7は、導電層パターン19(19A〜19D)の第1形態〜第4形態を示す模式断面図である。
【0073】
導電層パターン19は、プライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物3’からなる導電層3とで構成されている。図6及び図7に示す導電層パターン19A〜19Dは、そのいずれにおいても、導電層3が形成されているパターン形成部Aにおけるプライマー層2の厚さTが、導電層3が形成されていないパターン非形成部Bにおけるプライマー層2の厚さTよりも厚くなっている。
【0074】
こうした形態は、平坦面からなるプライマー層2上に導電層3が形成されている場合に比べ、プライマー層2と導電層3との密着性に優れるという形態由来の効果がある。また、こうした形態は、上述のようにその製法に起因するものであって、版面上でドクターブレードやワイピングロール等によって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られた際に、その凹部内の導電性組成物の上部には凹み6が生じやすく、その凹み6を有した状態で版面にプライマー層2を圧着することにより、流動性のあるプライマー層2がその凹み6内に充填され、硬化後に剥離することによって生じたものである。各導電層パターン19は、プライマー層2が導電層3に空隙なく密着し、導電層3の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材を提供できる。
【0075】
「T>T」からなる構造は、パターン非形成部Bにもプライマー層2が存在していること、及び/又は、パターン非形成部Bに導電層3を構成する導電性組成物3’が実質的に存在しないこと、である。前者の「パターン非形成部Bにもプライマー層2が存在していること」により、例えば後述する転写工程時に導電性組成物3’はプライマー層2とともに透明基材1に確実に転写する。すなわち、転写工程時において、版面から透明基材1とプライマー層2とを剥がす際には、版面の凹部内に充填された導電性組成物3’が「引き剥がし抵抗」になり、その導電性組成物3’がプライマー層2とともに透明基材1から剥がれて凹部内に残ろうとする。しかしながら、本発明では、パターン形成部Aのプライマー層2とパターン非形成部Bのプライマー層2とは厚さこそ違うものの連続して透明基材1上に設けられているので、その「引き剥がし抵抗」に抗し、前記導電性組成物3’とプライマー層2とからなる導電層パターン19を凹部から引き剥がして良好に転写することができる。
【0076】
上記の転写工程の際には、(1)版面の凹部と導電性組成物3’との密着力をF1とし、(2)導電性組成物3’とプライマー層2との密着力をF2とし、(3)プライマー層2と透明基材1との密着力をF3としたとき、密着力F1〜F3のうちで密着力F1が最も小さくなっていることが、転移性を向上させるための好ましい条件となるが、本発明の電磁波シールド材の構成材料においては特に凹部内面をアンカー処理(例えば微細凹凸を形成する等の処理)を行わない限り通常その条件を満たすものになっている。仮に、例えば透明基材1として用いられる硝子基材等の無機基材を用いた場合には、密着力F1〜F3のうち、密着力F1とF3との大きさが問題になるが、この場合であっても、密着力F1〜F3のうちでF1が最も小さくなっている場合が多い。そうした好ましい条件を満たすために、必要に応じて透明基材1の表面を処理してプライマー層2との密着力を向上させるようにしてもよい。なお、上記F1〜F3の大きさは、転移性を向上させる上で好ましい条件の一つとして挙げることができるが、その条件が必須の条件というわけではない。
【0077】
また、後者の「パターン非形成部Bに導電層3を構成する導電性組成物3’が実質的に存在しないこと」により、例えば電磁波シールド材が表示装置前面に配置されて使用される際に、パターン非形成部Bである開口部分の透明性を確保し、表示画像の明るさやコントラスト等を確保することができる。なお、ここでいう「導電性組成物3’が実質的に存在しない」とは、導電性組成物3’が全く存在していない場合を含み、さらに、ある程度存在していても前記のように表示画像の明るさやコントラスト等を確保でき、電解めっきによって金属層4が広がらず、無電解めっきで仮に析出しても問題が生じない程度の導電性組成物3’の存在を許容することを意味している。導電性組成物3’が許容できる場合の存在状態には、わずかずつ広い被覆率で存在する場合や、ごくまばらに存在する、といった状態がある。その許容程度としては、例えば、導電性組成物3’からなる導電層3の厚さや、導電性組成物3’のパターン非形成部Bにおける被覆率や、パターン非形成部Bの透過率等を挙げることができる。これらのうち、導電性組成物3’からなる導電層3の厚さとしては、その導電性組成物3’の種類によっても異なるが、例えば0.3μm以下又は、導電性組成物3’が不透明な粒子を含む場合はその粒子の平均粒子径以下の厚さであることが好ましく、その厚さ以下であればパターン非形成部Bの光透過性を低下させることが考えにくく、表示画像の明るさやコントラスト等を低下させることが考えにくい。また、導電性組成物3’のパターン非形成部Bにおける被覆率も、その導電性組成物3’の種類によっても異なるが、例えば導電性組成物3’が不透明な場合には、パターン非形成部Bの開口面積に対して10%以下の面積であることが好ましく、その割合以下の面積であればパターン非形成部Bの光透過性を低下させることが考えにくく、表示画像の明るさやコントラスト等を低下させることが考えにくい。また、パターン非形成部Bの透過率で特定すれば、パターン非形成部Bに導電性組成物3’が無いときを100%としたとき、90%以上となる程度で導電性組成物3’がパターン非形成部Bに存在していてもよく、表示画像の明るさやコントラスト等を低下させることが考えにくい。なお、これらの許容範囲は電磁波シールド材としての設計(目標スペックや他の組み合わせ部材の性質)で変わるため、必ずしも前述の値に限定されるものではない。
【0078】
以上のように、本発明の電磁波シールド材においては、パターン非形成部Bにもプライマー層2が存在していること、及び/又は、パターン非形成部Bに導電層3を構成する導電性組成物3’が実質的に存在しないこと、が好ましく、特に、その両方を要件とすることが好ましい。
【0079】
図6及び図7に示す4つの形態は、上記特徴を有する導電層パターンの更なる特徴を示したものであり、図3等に示す導電層パターンをさらに詳しく表した形態である。なお、第1〜第4形態の導電層パターン19は、導電層パターン19の形状がいずれも釣鐘状であるが、これは、導電層パターンを形成するための賦形型を釣鐘状にしたためであり、こうした形状に限定されない。
【0080】
第1形態の導電層パターン19Aは、図6(A)に示すように、プライマー層2と導電層3との境界部分12が非直線状に入り組んだ形態である。この形態において、その境界部分12が、プライマー層2を構成する樹脂と導電層3を構成する樹脂又はフィラーとの界面であるように構成されていてもよい。この場合の「フィラー」とは、任意の粉末であり、導電性粉末であっても非導電性粉末であっても構わない。例えば、導電性組成物が導電性粉末とバインダー樹脂とで構成されている場合には、その界面は、導電層3中の導電性粉末とバインダー樹脂とプライマー層2を構成する樹脂とが入り組んだ非直線状の態様で形成される。このときの入り組みの程度は、導電性粉末の形状や大きさに影響を受ける。また、例えば、導電性組成物がフィラーを含まず、導電性樹脂や導電性化合物を含有する場合には、プライマー層2を凹部内に圧着する際の圧力等によって、プライマー層2と導電層3との境界部分が入り組んだ形態になっている。なお、この第1形態の導電層パターン19Aにおいて、入り組んだ境界部分12は、全体としては(包絡面形状としては)中央が高い山型の断面形態となり、第1の山17を構成する。
【0081】
こうした第1形態の導電層パターン19Aは、そもそも平坦面でない第1の山17からなるプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性がよいのに加え、上記のように境界部分12が非直線状に入り組んだ形態になっているので、所謂投錨効果により、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Aを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
【0082】
第2形態の導電層パターン19Bは、図6(B)に示すように、プライマー層2と導電層3との境界部分12に、プライマー層2に含まれるプライマー成分と、導電性組成物3’を構成する成分とが混合する領域14が存在している形態である。図6(B)では境界部分12をラインとして明確に表しているが、実際の混合領域14では、そうした境界ラインは明確には現れておらず、明瞭でない曖昧な境界部分が現れる。また、図6(B)では混合領域14は、境界部分12を上下に挟むように存在する。この場合は、プライマー層2中のプライマー成分(例えば溶剤など)と導電層3中の任意の成分(例えばモノマー成分など)とが両層内に相互に浸入する場合である。なお、混合領域14が境界部分12の上側のみに存在しても下側のみに存在してもよい。混合領域14が境界部分12の上側のみに存在する場合としては、プライマー層2中のプライマー成分が導電層3内に浸入し、導電層3中の任意の成分がプライマー層2内に浸入しない場合であり、一方、混合領域14が境界部分12の下側のみに存在する場合としては、導電層3中の任意の成分がプライマー層2内に浸入し、プライマー層2中のプライマー成分が導電層3内に浸入しない場合である。なお、混合領域14の厚さ(図6(B)の上下方向の厚さ)は特に限定されない。
【0083】
こうした第2形態の導電層パターン19Bも上記第1形態の場合と同様、そもそも平坦面でない第1の山17からなるプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性がよいのに加え、上記のように境界部分12に混合領域14を有するので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Bを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
【0084】
第3形態の導電層パターン19Cは、図7(A)に示すように、導電層3を構成する導電性組成物中に、プライマー層2に含まれるプライマー成分16が存在している形態である。図7(A)ではプライマー成分16が境界部分12で多く、頂部に向かって少なくなってゆく態様を模式的に表しているが、こうした態様には特に限定されず、要するに、プライマー成分16が導電層3内に存在していればよい。プライマー成分16は、導電層3の頂部から検出される程度に導電層3内に浸入していてもよいし、境界部分12近傍で検出される程度であってもよい。なお、第3形態において、特に、プライマー成分16が導電層内に存在している領域が境界部分12の近傍に局在化している場合が、第2形態において混合領域14が境界部分12の上側にのみ存在する形態に相当するといえる。
【0085】
こうした第3形態の導電層パターン19Cも上記第1及び第2形態の場合と同様、そもそも平坦面でない第1の山17からなるプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性がよいのに加え、上記のようにプライマー成分16が導電層3に存在する程度に浸入しているので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Cを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
【0086】
なお、上記の第2及び第3形態の導電層パターン19において、プライマー層2中のプライマー成分16が導電層3中に浸入した場合、プライマー成分16にもよるが、そのプライマー成分16が導電性組成物を増粘又はゲル化しもしくは半固化状態とし、又はプライマー中の硬化性成分を導電層性組成物層3’内に浸入させることができる。その後、プライマー層2のみを硬化した後の転写工程において、増粘され又は半硬化した導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)することができる。また、プライマー層2と導電性組成物とを同時硬化した後の転写工程においては、両層の層間接着力が高まるので、導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)することができる。
【0087】
第4形態の導電層パターン19Dは、図7(B)に示すように、その土台部分(麓部13)がプライマー層2の突出部で構成された第1の山17であり、その第1の山17の上に形成される導電層3は、その土台部分の上端部(第1の山17の中腹20)より上側に設けられた第2の山18であるように構成されている。この第4形態の特徴は、図7(B)に示すように、第1の山17の中腹20に、輪郭面の傾斜の不連続部を有するように構成されていることにある。こうした不連続部の作用により、導電層3の脱落をさらに抑制できる。かかる輪郭面の傾斜の不連続部は、本発明の製造法の過程でプライマー層2が導電性組成物3’内に流入する際に生じたものである。プライマー層2の第1の山17の輪郭面(外表面)の傾斜が不連続的に変化する部分である。さらに、この第4形態(第1〜第3形態も同様)において、導電層3のサイドエッジ5が、斜めにせり上がる麓部13の傾斜形態に近い角度になっているので、導電層3のサイドエッジ5の先端部(符号20の部分)がプライマー層2から剥がれ難くなっている。例えば、一般的な粘着テープを用いた剥離テストでも、こうした形態からなる導電層パターン19の剥離強度は高かった。
【0088】
上記の第1〜第4形態の導電層パターン19の特徴は少なくとも1つ有することが好ましいが、それらの特徴を2つ以上有していてもよく、4つの全てを有していてもよい。
【0089】
また、以上説明した第1〜第4形態に係る導電層パターン19は、上記の効果に加え、導電性組成物(導電層3)の転移性を改善できるため、通常のグラビア印刷等の凹版を利用する方法に比べ、転移後の導電性組成物(導電層3)の厚さを厚くすることができる。従って、導電層パターン19を厚くすることで、電磁波シールドに必要な導電性を確保することができるという効果も奏する。
【0090】
以上、本発明の電磁波シールド材10の構成について説明したが、本発明の電磁波シールド材10は、透明基材1上に設けられたプライマー層2のうち、導電層3が形成されている部分Aの厚さTは導電層3が形成されていない部分Bの厚さTよりも厚い形態になっているので、上記課題で指摘した凹み6を充填するようにプライマー層2が設けられている。こうした形態からなるプライマー層2は、電磁波シールド材10の製造時に、ドクターブレードやワイピングロール等で掻き取った後の凹部内の導電性組成物上部の凹み6に充填して形成されたものであり、その結果、プライマー層2に導電性組成物が密着性よく圧着し、導電性組成物3’の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材10を提供できるという効果がある。
【0091】
また、本発明の電磁波シールド材10において、プライマー層2は少なくとも導電層3の下に設けられているが、プライマー層2が導電層パターン19の形成領域以外のいわゆる開口部、すなわち導電層3が形成されていない透明基材1上にも全面に亘って存在していることが好ましい。プライマー層2を全面に形成することにより、プライマー層2が導電層3の下のみに存在して開口部には存在しない場合と比べ、導電層パターン19の透明基材1からの剥離は起こり難いという効果がある。
【0092】
[電磁波シールド材の製造方法]
図8及び図9は、本発明の電磁波シールド材の製造方法の一例を示す工程図である。また、図10及び図11は、本発明の製造方法を実施する装置の例を示す概略構成図である。なお、本願では、「転写」と「転移」は同義で用いており、したがって、「転写」を「転移」と置き換え、また、「転写工程」を「転移工程」と置き換えることができる。
【0093】
第1態様に係る製造方法は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する透明基材準備工程(図示しない)と、所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電層3を形成できる導電性組成物3’(未硬化状態で流動性がある)を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物を掻き取って凹部64内に導電性組成物3’を充填する導電性組成物充填工程(図8(b)参照。なお、この段階で、凹部64内に充填された導電性組成物3’の上部には、図9に示すような凹み6が生じる。)と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側と導電性組成物充填工程後の版面63の凹部64側とを圧着して、プライマー層2と凹部64内の導電性組成物3’とを空隙なく密着する圧着工程(図8(c)参照)と、圧着工程後にプライマー層2を硬化(非流動化又は固化)するが導電性組成物3’は完全には硬化させないプライマー層硬化工程(図示しない)と、プライマー層硬化工程後に透明基材1及びプライマー層2を版面63から剥がして凹部内の導電性組成物3’をプライマー層2上に転写する転写工程(図8(d)参照)と、転写工程後、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物3’を硬化させて導電層3を形成し、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹20より上に形成された導電層3からなる第2の山18とで構成された突起状の断面形態を有するパターン形成部Aを形成する導電性組成物硬化工程と、導電性組成物硬化工程後に、導電層2上に金属層4をめっきして、金属層4を、第1の山17の中腹20より下の麓部13の少なくとも一部の直上部に形成するめっき工程(図8(e)参照)と、を有するものである。
【0094】
また、第2態様に係る製造方法は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する透明基材準備工程(図示しない)と、所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電層3を形成できる導電性組成物3’(未硬化状態で流動性がある)を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物を掻き取って凹部64内に導電性組成物3’を充填する導電性組成物充填工程(図8(b)参照。なお、この段階で、凹部64内に充填された導電性組成物3’の上部には、図9に示すような凹み6が生じる。)と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側と導電性組成物充填工程後の版面63の凹部64側とを圧着して、プライマー層2と凹部64内の導電性組成物3’とを空隙なく密着する圧着工程(図8(c)参照)と、圧着工程後にプライマー層2と導電性組成物3’を同時に硬化(非流動化又は固化)する同時硬化工程(図8(c)参照)と、同時硬化工程後に透明基材1及びプライマー層2を版面64から剥がして凹部内の硬化した導電性組成物3’を導電層3として硬化したプライマー層2上に転写し、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹20より上に形成された導電層3からなる第2の山18とで構成された突起状の断面形態を有するパターン形成部Aを形成する転写工程と、転写工程後に、導電層3上に金属層4をめっきして、金属層4を、第1の山17の中腹20より下の麓部13の少なくとも一部の直上部に形成するめっき工程(図8(e)参照)と、を有するものである。
【0095】
以下、各工程について図面を参照して説明する。
【0096】
(透明基材準備工程)
透明基材準備工程は、図9(A)に示すように、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する工程である。プライマー層2はプライマー層用樹脂組成物を透明基材1上に塗布して形成するが、こうしたプライマー層用樹脂組成物は上述したとおりであるのでここではその説明を省略する。プライマー層2が室温で固体の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとして入手可能な場合は、塗布するかわりに透明基材1とラミネートしてもよい。いずれの場合であっても、後述する圧着工程時に、プライマー層2が流動性を保持した状態であることが必要である。
【0097】
例えば、プライマー層用樹脂組成物として電離放射線硬化性樹脂組成物を用いた場合には、電離放射線を照射しない未照射状態で、その電離放射線硬化性樹脂組成物中の溶剤のみを乾燥除去し、透明基材1上に流動状態からなるプライマー層2を塗膜として形成しておき、その状態で後述する圧着工程に供給することが好ましい。もちろん、ここで用いる電離放射線硬化性の樹脂組成物が溶剤を含まない、いわゆるノンソルベントタイプの場合には、プライマー層2を形成する際の乾燥工程は不要である。
【0098】
また、プライマー層用樹脂組成物として室温で固体の熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、後述する圧着工程において加熱による流動状態となっていればよく、圧着工程の直前にプライマー層2の加熱処理を行ってもよく、熱ロール等でプライマー層2の加熱と版面63への圧着を同時に行ってもよい。プライマー層を塗布する方法については各種コーティング方式が使用でき、例えばグラビアコート、コンマコート、ダイコート、ロールコート等の各種方式から適宜選ぶことができる。
【0099】
(樹脂充填工程)
樹脂充填工程は、図8(a)(b)に示すように、メッシュ状又はストライプ状の所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電層3を形成できる流動状態の導電性組成物3’を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性組成物をドクターブレード21やワイピングロール等で掻き取って凹部内に導電性組成物3’を充填する工程である。本工程において、凹部64内に充填された導電性組成物3’上部には凹み6が生じる。その原因はドクターブレード21やワイピングロール等で凹部以外の導電性組成物3’を掻取る際に導電性組成物3’のレオロジカルな挙動によりその表面に凹みを生じるため、導電性組成物3’が希釈溶剤を含む場合はその希釈溶剤の揮発による体積収縮のため、あるいは両者の複合作用のためと推測される。導電性組成物3’は上述したとおりであるのでここではその説明を省略する。
【0100】
プライマー層用樹脂組成物に対する導電性組成物の組み合わせは特に限定されず、プライマー層用樹脂組成物の硬化処理と導電性組成物の硬化処理が異なっていてもよいが、導電性組成物3’として導電性粉末を含む電離放射線硬化性樹脂を採用する場合には、プライマー層用樹脂組成物も電離放射線硬化性樹脂組成物であることが好ましい。そうした組み合わせにすることにより、この樹脂充填工程後の圧着工程とそれに続くプライマー層の硬化工程時の電離放射線照射処理によって、上記第2態様の製造方法のように、プライマー層2の硬化と導電性組成物3’の硬化を同時に行うことができる。このとき、一般に導電性粉末は色がついているため、照射する電離放射線が光、或いは紫外線の場合には、導電性粉末の透過率が高い適切な波長の紫外線や、電離放射線が届きにくい深部まで硬化可能な光重合開始剤と光硬化性樹脂との組み合わせを選ぶことにより硬化させることができる。また電子線を照射する場合には特に導電性粉末の色は考慮する必要はない。
【0101】
なお、図8(b)に示す塗布法は、プライマー層2を有する透明基材1を凹版ロール62に圧着する前に行われる工程の一例であり、具体的には、図10及び図11に示すように、ピックアップロール61が導電性組成物充填容器68に下方で接触し、導電性組成物3’を引き上げて凹版ロール62の版面63に塗布する。このとき、版面63上の凹部64以外の部分に導電性組成物3’が乗らないように、ワイピングロール69又はドクターブレード65で掻き落とす。
【0102】
(圧着工程)
圧着工程は、図8(c)及び図9(C)に示すように、樹脂充填工程後の版面63の凹部64側と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側とを圧着して、凹部64内の導電性組成物3’とプライマー層2とを空隙なく密着する工程である。プライマー層2はこの時点において流動性を有しているため、版面の凹部64内に充填された導電性組成物3’上部の凹み6内にもプライマー層2は流入して、その凹み6を充填し、透明基材1及び導電性組成物3’の間は全てプライマー層2で隙間なく満たされる。具体的には、図10及び図11に示すように、圧着はニップロール66で行われ、凹版ロール62に対して所定の圧力で付勢されている。そのニップロール66は付勢圧力の調整手段を備えており、その付勢圧力は、プライマー層2の流動性に応じて任意に調整される。
【0103】
なお、プライマー層2が熱可塑性樹脂である場合は、ニップロール66は加熱可能なロールにすることが好ましい。この場合、加熱圧着によってプライマー層2が軟化し流動可能となる。
【0104】
この圧着工程においては、版面の凹部64内に充填された導電性組成物3’上部の凹み6内にプライマー層2が流入し、その凹み6が充填され、その後に硬化工程や転写工程を経て電磁波シールド材が製造される。そのため、得られた導電層パターン19は、上記の図6及び図7に示す第1〜第4形態の導電層パターン19となる。
【0105】
詳しくは、この圧着工程において、プライマー層2に含まれるプライマー成分が、導電層3を構成する導電性組成物中に浸入した後に後述の硬化工程や転写工程を経ることにより、版面内に充填された導電性組成物3’の透明基材1への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた電磁波シールド材が有する導電層パターン19は、図6及び図7に示すように、プライマー層2と導電層3との境界部分12が単純な境界部分構造にならず、両層の密着性が向上する。
【0106】
また、版面の凹部64内に充填された導電性組成物3’上部の凹み6内にプライマー層2が流入し、その凹み6が充填され、その後に硬化工程や転写工程を経るので、得られた導電層パターンは、上記の図3等に示すように、プライマー層2からなる第1の山17と、第1の山17の中腹より上に形成された導電性組成物3’(導電層3)からなる第2の山18とで構成された突起状パターンとなる。
【0107】
(硬化工程)
硬化工程は、ニップロール66の付勢力による圧着工程後にプライマー層2を硬化する工程であり、圧着した後の状態で硬化処理することにより、プライマー層2と導電性組成物3’とが密着した状態で硬化させることができる。具体的には、プライマー層用樹脂組成物が電離放射線硬化型樹脂組成物である場合には、照射ゾーン(図10の例では「UVゾーン」と記載している。)で電離放射線が照射され、硬化処理される。この場合、プライマー層2は透明基材1と版面63に挟まれた態様になり、空気中の酸素による硬化阻害を受けないため、窒素パージ装置等は必ずしも必要ない。なお、硬化処理は、上記と同様、プライマー層用樹脂組成物と導電性組成物の種類に応じて選択され、例えば、電離放射線照射処理、冷却処理等の硬化処理が施される。
【0108】
なお、上記のように、プライマー層用樹脂組成物と導電性組成物の両方を電離放射線硬化性樹脂とした場合には、圧着工程に続く硬化工程時に電離放射線照射処理を施す、同時硬化工程とすることもできる。
【0109】
(転写工程)
転写工程は、図9(D)及び図10に示すように、硬化工程後に透明基材1及び硬化したプライマー層2を凹版ロール62の版面63から剥がして凹部64内の導電性組成物3’をプライマー層2上に転写する工程である。プライマー層2は、この工程前のプライマー層硬化工程で硬化しているので、透明基材1とともに凹版ロール62の版面63から剥がすことにより、プライマー層2に密着した導電性組成物3’は凹部内から離れてプライマー層2上にきれいに転写し、導電性組成物3’となる。引き剥がしは、図10及び図11に示すように、出口側に設けられたニップロール67により行われる。
【0110】
なお、転写工程において、導電性組成物3’は必ずしも硬化させる必要はなく、導電性組成物3’に溶剤が含まれた状態でも転移させることができる。この理由は、プライマー層2と導電性組成物3’とは空隙なく密着しているのみでは無く、プライマー層の一部は導電性組成物中にも浸透し、両者が相互に混ざり合った領域ができるため、両者は相互に絡み合った状態で硬化させたプライマー層2と導電性組成物3’との間の密着力が、ロール状凹版の凹部64の内壁と導電性組成物3’との間の密着力よりも大きくなっているためと推測される。これに加えて、特に導電性組成物3’が未硬化状態の場合には、プライマー層の一部が導電性組成物中に浸透して、その流動性を変化せしめ、凹部64内から抜け出し易くするためとも推測される。
【0111】
図9は、凹部64内の導電性組成物3’の凹み6にプライマー層2を充填し、その導電性組成物3’が転写する形態を示す模式図である。図9(D)に示すように、転写工程後のプライマー層2の形態と導電性組成物3’からなる導電層3の形態を観察すると、プライマー層2のうち導電性組成物3’からなる導電層3が転写された第1の山17からなるプライマー層2の厚さTは、導電性組成物3’が転写されていないプライマー層2の平坦部23の厚さTよりも厚い。そして、導電層3は、厚さの厚い第1の山17の中腹20より上に設けられている。こうした形態は、流動性を保持したプライマー層2が形成された透明基材1のプライマー層2側と、樹脂充填工程後の版面63の凹部64側とを図9(A)(C)に示すように圧着することにより、凹部64内の導電性組成物上部に生じやすい凹み6に流動性のあるプライマー層2が流入し充填するので、転写後の形態は、図9(D)に示すように、透明基材1上に設けられたプライマー層2のうち導電層3が形成されている第1の山17の厚さTは導電層3が形成されていない平坦部23の厚さTよりも厚くなり、さらに、導電層3は、厚さの厚い第1の山17の中腹20にまで到達するような形態になっている。
【0112】
通常、導電層3が形成されている第1の山17からなるプライマー層2の厚さTは、図3等に示すように、山の頂部に行く程厚さが厚くなる。すなわち、電磁波遮蔽用パターン部の横断面(例えば図3を参照)において、プライマー層2の断面形状は、透明基材1から遠ざかる頂部に向かって凸になった、半円、半楕円等のいわゆる釣鐘型形状、3角形、台形、5角形等のいわゆる山形形状、或いはこれらに類似の形状をなす。なお、本発明によれば、導電性組成物3’の転移性(転写性ともいう。)を改善できるため、通常のグラビア印刷等の凹版を利用する方法に比べ、転移後の導電性組成物3’の厚さTを厚くすることができる。従って、導電層3を厚くすることで導電性を高め、得られた電磁波シールド材の電磁遮蔽性能を高めることができる。
【0113】
また、プライマー層2と導電層3との境界部分12は、図6(A)及び図7(B)に示す形態のように、単に物理的又は化学的に接着しているのみの形態の他、図6(B)及び図7(A)に示す形態のように、境界部分12の近傍において、両層の材料が相互に溶解、浸透、乃至は拡散し合っている形態であってもよい。この溶解、浸透、乃至拡散は、導電層3やプライマー層2の硬化前に行われるので、そうした状態になった後に導電層3やプライマー層2が硬化することにより、層間接着力の高い境界部分となる。なお、これらの形態は、両層の材料の選定、製造条件の選定いかんにより、何れの形態も実現できる。
【0114】
本発明の製造方法で製造された電磁波シールド材は、上記の境界部分形態からなる導電層パターン19が形成されるので、プライマー層2と導電性組成物3’乃至導電層3との層間接着力が高く、版凹部内に充填された導電性組成物3’をほぼ100%の転移率で転移(転写)させることができる。さらに、アスペクト比(深さ/開口幅)が2/10以上と大きい版凹部を用いた場合においても、凹部内に充填した導電性組成物3’をほぼ100%の転移率で転移(転写)させることができる。因みに、本発明のプライマー層を採用しない、通常の凹版印刷においては、アスペクト比が2/10を超える形状でのインキの転移は極めて実現困難である。
【0115】
本発明の製造方法で得られた電磁波シールド材10はこうした形態を有するので、導電層3を形成する導電性組成物3’の転写不良に基づく断線や形状不良、密着性等の不具合が生じないという効果を奏する。なお、転写工程後においては、必要に応じて乾燥処理、硬化処理等が施される。
【0116】
(めっき工程)
めっき工程は、図示しないが、転写工程後、プライマー層2上に所定のパターン(プライマー層2の形成パターンと同じ。)で形成された導電層3上に金属層4をめっきする工程である。めっきする金属としては、銅、銀、金、ニッケル等が挙げられ、特に価格が安く導電性も高い銅めっきが好ましい。銅めっき液は、市販のめっき液を利用できるが、中でも均一めっき性を向上させた銅めっき液が好ましく採用される。なお、めっき工程に供される際には、通常の前処理(例えば、脱脂洗浄処理等)が施されるが、上記のように転写工程からそのままインラインで供給されてもよいし、別個のめっきラインに供されてもよい。めっき工程後には、必要に応じてさらに他の工程(例えば、金属層4の黒化処理工程や防錆工程、図2に示すような保護層9の形成工程)を経た後にそのまま巻き取られてもよいし、所定の寸法に切断されて枚葉シートとしてもよい。
【0117】
(その他)
図9(B)について補足的に説明する。図9(B)は、未硬化の導電性組成物3’が凹部64に充填され、さらにその凹部63を含む版面63全体を覆うように、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2を設け、そのプライマー層2上から透明基材1を圧着しようとする工程である。この工程と、図9(A)に示した工程とは、いずれも、未硬化の導電性組成物3’が充填された所定パターンの凹部64を有する版面63と、その導電性組成物3’の転写対象である透明基材1の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2を介して圧着しようとする工程を示している。本発明の電磁波シールド材の製造方法は、これら2つの工程のいずれを適用してもよい。
【0118】
また、図9(C)は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2を介して、透明基材1と版面63とを圧着する工程であるが、図9(B)の工程ルートでは、プライマー層2を版面63上に設ける際に、そのプライマー層2が凹み6を埋める。したがって、この図9(C)の工程では、透明基材1と版面63とがプライマー層2を介した態様で圧着し、その結果、硬化するまで流動性のあるプライマー層2は導電性組成物3’の凹み6を埋めた態様となっているので、本発明では、この圧着を保持した状態で少なくともプライマー層2を硬化する。
【0119】
次に、図10と図11の製造方法の違いについて補足的に説明する。図10に示す製造方法は、図9(A)の工程ルートに対応したものであり、先ず、供給された透明基材1の一方の面にプライマー層2を塗布する。この塗布工程は、ピックアップロール81が容器83内のプライマー層用樹脂組成物82に下方で接触し、そのプライマー層用樹脂組成物82を引き上げて透明基材1に塗布することにより行われる。プライマー層2が塗布された透明基材1は、ニップロール66によってプライマー層2側の透明基材面を版面63に圧着させることにより行われる。一方、圧着対象となる版面63には導電性組成物3’が塗布されている。このときの塗布工程は、ピックアップロール61が容器68内の導電性組成物3’に下方で接触し、その導電性組成物3’を引き上げて版面63に塗布することにより行われる。なお、図10においては、版面63上の凹部64以外の部分に導電性組成物3’が乗らないように、ワイピングロール84で掻き落とす。
【0120】
一方、図11に示す製造方法は、図9(B)の工程ルートに対応したものであり、圧着工程までの工程が図10に示した製造方法とは異なっている。すなわち、先ず、透明基材1は、ニップロール66によって版面63に圧着されるように供給される。その透明基材1が圧着される版面63には、図11に示すように、最初に導電性組成物3’が塗布され、その後にプライマー層2が塗布形成される。導電性組成物3’の塗布工程は、ピックアップロール61が容器68内の導電性組成物3’に下方で接触し、その導電性組成物3’を引き上げて版面63に塗布することにより行われ、その後引き続いて、版面63上の凹部64以外の部分に導電性組成物3’が乗らないように、ドクターブレード65で掻き落としている。また、プライマー層2の塗布工程も同様、ピックアップロール81が容器83内のプライマー層用樹脂組成物82に下方で接触し、そのプライマー層用樹脂組成物82を引き上げて、凹部64内に導電性組成物3’が充填されてなる版面63上に所定の厚さで塗布することにより行われる。プライマー層用樹脂組成物は未だ硬化しておらずに流動性を有しているので、図8(B)に示すように、凹み6内にプライマー層用樹脂組成物が空隙なく充填される。
【0121】
こうしてロール状又は枚葉シート状の電磁波シールド材10が製造されるが、以上説明したように、本発明の電磁波シールド材の製造方法によれば、プライマー層2と導電層3とをその間に空隙なく転写することができるので、導電層3の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材を製造することができる。また、高い転移率で転移可能になるため、導電層3の厚さを厚くすることができ、電磁波シールド性を向上させることができる。さらに、プライマー層2からなる第1の山17と、その第1の山17の中腹20より上に形成された導電層3からなる第2の山18とで構成された突起状のパターン形成部Aを転移性(転写性)よく形成し、さらにその第1の山17の中腹20より下の麓部13の少なくとも一部の直上部に金属層4を形成するので、得られた電磁波シールド材は、その麓部13に光が入射してもその直上部に存在する金属層4が光の散乱を防ぐように作用する。
【0122】
例えば、深さが20μmの凹部を持つ版を用いれば、その版の形状とほぼ同じ約20μmの厚さからなる導電層パターンを形成することができる。こうしたことは、特に導電性粉末を多量に含む導電性組成物を凹版(グラビア)印刷する場合には考えられないことである。また、本発明の電磁波シールド材の製造方法においては、導電性組成物が溶剤を含み、短時間で固化する結着材料でなく、別途乾燥が必要である場合でも高い転移率で転移させることができる。また、導電性組成物がUV硬化型である場合、導電性組成物に顔料が含まれ、その顔料が高濃度の金属系の導電性粉末であって、その導電性粉末が紫外線を遮蔽し、凹版の孔内に紫外線が到達しないような場合であっても、高い転移率で転移させることができる。
【0123】
なお、こうして得られた電磁波シールド材10に光学調整層を設けて光学フィルターとして利用することができる。ここでは詳しく説明しないが、光学調整層としては、従来公知のものをそのまま用いればよく、例えば調色層、近赤外線吸収層、ネオン光吸収層、紫外線吸収層、反射防止層、及び防眩層等を挙げることができる。更に、電磁波シールド材10には、光学調整層の他に、その他各種機能を有する機能層を積層することもできる。かかる機能層としては、ハードコート層、防汚層、帯電防止層、抗菌層、防黴層(かびを防ぐ層)、帯電防止層、衝撃吸収層等が挙げられる。
【0124】
これらの光学調整層及び/又は機能層を形成する形態は、(1)予め独立したシート乃至は板状に形成された層を、間に接着剤層(所謂粘着剤層も包含する。)を介して本発明の電磁波シールド材上に貼り合せる形態、(2)予め離型性基材シート上に形成された層を、適宜間に接着剤層を介して本発明の電磁波シールド材上に貼り合わせ、而かる後に該離型性基材シートのみ剥離除去する、所謂転写法で形成する形態、(3)適宜の樹脂結着剤中に上記各種機能を発現する材料を添加した組成物を本発明の電磁波シールド材上に塗工することによって形成する形態、(4)前記(3)の一形態ではあるが、本発明の電磁波シールド材上に、これを所望の被着体に接着するための接着剤層を塗工する際に、該接着剤層中に上記各種機能を発現する材料を添加することにより、接着剤層と上記各種層とを兼用する形態、(5)前記(1)〜(4)の形態の2種以上の組み合わせ形態、が適宜選択できる。ここで、これらの光学調整層及び/又は機能層は、本発明の電磁波シールド材の表裏いずれか、または両側に存在してもよい。こうした電磁波シールド材10又は電磁波シールド材10を有する光学フィルターを、各種の画像表示装置の前面に装着することができる。例えば、プラズマディスプレイパネルに装着することにより、プラズマディスプレイ装置とすることができる。
【0125】
また、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により、(i)導電性組成物3’が転移した機能インキ層パターンの表面、(ii)導電性組成物3’が転移していない部分(開口部又はパターン非形成部B)のプライマー層表面、(iii)導電性組成物3’を透明基材1上にベタ塗りし、乾燥させた塗工膜の表面、(iv)プライマー層2を透明基材1上にベタ塗りし、固化させた塗膜の表面、を分析した。その結果、前記(iii)の導電性組成物3’の塗工膜には見られず、前記(iv)は見られるフラグメントが、前記の(i)(ii)でも検出され、プライマー層2の成分が導電性組成物3’中を拡散していることが示唆された。これらの状況から考えると、流動性があるプライマー層2を導電性組成物3’と接触させた際に境界部分の相溶及び/又は境界の乱れが生じ、この状態でプライマー層2を固化させると、境界部分から導電性組成物3’の方向に向かう領域で、導電性組成物3’の増粘やゲル化などの現象が起こり、導電性組成物3’を版から引き抜きやすくなっているのではないかと推測される。
【0126】
また、流動性のあるプライマー層2を構成する成分の一部が凹部の導電性組成物3’と混ざり、プライマー層2を固化させた際に導電性組成物3’の粘度を全体的に上げている可能性もある。いずれにしろ、流動性のあるプライマー層2を導電性組成物3’に接触させて、少なくともプライマー層2を固化させた後に剥離すれば、導電性組成物3’が完全に固化していないにもかかわらずほぼ100%近い転移が可能であった。
【実施例】
【0127】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0128】
(実施例1)
図9に示す装置により電磁波シールド材を製造した。先ず、透明基材1として、片面に易接着処理がされた幅1000mmで厚さ100μmの長尺ロール巻の無色透明な2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。供給部にセットしたPETフィルムを繰り出し、易接着処理面にプライマー層用の光硬化性樹脂組成物を厚さ5μmとなるように塗布形成した。塗布方式は、通常のグラビアリバースコート法を採用し、光硬化性樹脂組成物としては、エポキシアクリレートプレポリマー35重量部、ウレタンアクリレートプレポリマー12重量部、フェノキシエチルアクリレートからなる単官能アクリレートモノマー44重量部、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなる3官能アクリレートモノマー9重量部、さらに光開始剤としてイルガキュア184(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)3重量部添加したものを使用した。このときの粘度は約1300mPa・s(25℃、B型粘度計)であり、塗布後のプライマー層2は触ると流動性を示すものの、PETフィルム上から流れ落ちることはなかった。
【0129】
次に、プライマー層2が形成されたPETフィルムを転写工程を行う凹版ロール62に供するが、それに先だって、開口部の線幅が21μm、線ピッチが300μm、版深が10μm、台形底角が75°の凹部形状の格子状のメッシュパターンが形成された凹版ロール62の版面63に、導電性組成物3’をピックアップロール61で塗布し、ドクターブレード65で凹部64内以外の導電性組成物を掻き取って凹部64内のみに導電性組成物3’を充填させた。導電性組成物3’を凹部64内に充填させた状態の凹版ロール62と、ニップロール66との間に、プライマー層2が形成されたPETフィルムを供給し、凹版ロール62に対するニップロール66の押圧力(付勢力)によって、プライマー層2を凹部64内に存在する導電性組成物3’の凹み6に流入させ、導電性組成物3’とプライマー層2とを隙間なく密着させると共に、該プライマーの一部を凹部64内の該導電性組成物3’内に浸透せしめた。なお、用いた導電性組成物は、以下の組成の銀ペーストを用いた。
【0130】
<導電性組成物(銀ペースト)の作製>
導電性粉末として平均粒径約2μmの鱗片状銀粉末93重量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7重量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート25重量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物を作製した。
【0131】
次いで行われる転写工程は以下の通りである。先ず、プライマー層2が形成されたPETフィルムを、そのプライマー層2が凹版ロール62の版面63側に対向した状態で、凹版ロール62とニップロール66との間に挟む。その凹版ロール62とニップロール66との間でPETフィルムのプライマー層2は版面63に押し付けられる。プライマー層2は流動性を有しているので、版面63に押し付けられたプライマー層2は、導電性組成物3’が充填した凹部64内にも流入し、凹部64内で生じた導電性組成物3’の凹み6を充填する(図9(C)を参照)。こうしてプライマー層2は導電性組成物3’に対して隙間なく密着した状態となる。その後、さらに凹版ロール62が回転して高圧水銀燈からなるUVランプによって紫外線が照射され、光硬化性樹脂組成物からなるプライマー層2が硬化する。プライマー層2の硬化により、凹版ロール62の凹部64内の導電性組成物はプライマー層2と密着し、その後、出口側のニップロール67によってフィルムが凹版ロール62から剥離され、プライマー層2上には導電層3が転写形成される(図9(D)参照)。このようにして得られた転写フィルムを、110℃の乾燥ゾーンを通過させて銀ペーストの溶剤を蒸発させて固化せしめ、プライマー層2上にメッシュパターンからなる導電層3を形成した。このときの導電層3が存在するパターン部分の厚さ(導電層3が形成されているメッシュパターン部分とそれ以外の部分との厚さの差)は約10μmで、版の深さと同じ厚さで転移しており、版の凹部64内の銀ペーストが高い転移率で転移していた。転移後の凹部64内を目視で観察したところ、ペーストの版残りは見られず、また、メッシュパターンの断線や形状不良も見られなかった。こうして得られた導電層パターン19のみを有する転写フィルムを、「試料1」と呼ぶ。
【0132】
次いで、得られた転写フィルムに対し、銅めっきを行った。銅めっき法としては、得られた転写フィルムを硫酸銅めっき液に浸漬し、その表面に形成されたメッシュ状の導電層パターン19を陰極として、銅板を陽極として、2A/dmの電流を流して電解銅めっきを行った。銅めっき膜は、その導電層3上に選択的に、厚さ4μmで形成した。得られた電磁波シールド材の表面抵抗値は0.1Ω/□だった。こうして得られた電磁波シールド材を、「試料2」と呼ぶ。
【0133】
(実施例2)
実施例1の凹版ロールの版面に代えて、開口部の線幅が21μm、線ピッチが300μm、版深が9μm、台形底角が75°の凹部形状の格子状のメッシュパターンが形成された凹版ロール62の版面63を用いた他は、実施例1と同様にして、銅めっき前の「試料3」と銅めっき後の「試料4」を得た。
【0134】
(実施例3)
実施例1の凹版ロールの版面に代えて、開口部の線幅が16μm、線ピッチが290μm、版深が8.5μm、釣鐘形状の凹部形状からなる格子状のメッシュパターンが形成された凹版ロール62の版面63を用いた他は、実施例1と同様にして、銅めっき前の「試料5」と銅めっき後の「試料6」を得た。なお、この実施例3では、試料6の銅めっきの厚さを2μmとした。
【0135】
(実施例4)
実施例1の凹版ロールの版面に代えて、開口部の線幅が16μm、線ピッチが270μm、版深が10.0μm、台形底角が85°の凹部形状の格子状のメッシュパターンが形成された凹版ロール62の版面63を用いた他は、実施例1と同様にして、銅めっき前の「試料7」と銅めっき後の「試料8」を得た。なお、この実施例4では、試料6の銅めっきの厚さを2μmとした。
【0136】
(ヘイズ値の測定)
試料1,2のヘイズ値は、JIS−K7136で規定された方法に基づき、ヘイズ計(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
(断面観察)
試料1,2の断面を走査型電子顕微鏡で観察した。図12に示すように、プライマー層2からなる第1の山17と、その第1の山17の中腹20から上には導電層3からなる第2の山18が転写効率よく形成されているのが確認された。また、金属層4である銅めっきを導電層3上に形成した試料2の断面は、銅めっきが、プライマー層2からなる第1の山17の麓部13の直上部を覆っているのが確認された。この観察結果と上記したヘイズ値の結果とを対比すると、銅めっきが第1の山17の麓部13を覆うことによって、その麓部13で生じうる光の散乱が阻止され、ヘイズ値が小さい値を示したものと考えられる。
【0139】
(電磁波シールド特性)
電磁波シールド特性は、試料1,2について、シールド材評価器((株)アドバンテスト製、TR17301A)を用いて測定した。銅めっきを形成した試料2については、200〜600MHzの範囲で−30デシベル程度以下(具体的には、−36デシベル)のシールド特性を有し、良好な電磁波シールド特性を示した。一方、銅めっきを形成していない試料1については、200〜600MHzの範囲で−31デシベルであり、試料2よりは電磁波シールド特性が劣っていた。この差は、銅めっきの有無による表面抵抗値の差であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図である。
【図2】図1におけるA−A’断面の拡大図である。
【図3】本発明の電磁波シールド材を構成する導電パターンの一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の電磁波シールド材を構成する導電パターンの他の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の電磁波シールド材を構成する導電パターンのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
【図6】第1及び第2形態に係る導電層パターンを示す模式断面図である。
【図7】第3及び第4形態に係る導電層パターンを示す模式断面図である。
【図8】本発明の電磁波シールド材の製造方法の一例を示す工程図である。
【図9】本発明の電磁波シールド材の製造方法の説明図である。
【図10】本発明の製造方法を実施する装置の一例を示す概略構成図である。
【図11】本発明の製造方法を実施する装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図12】実施例1で得られた試料1,2の断面の電子顕微鏡写真である。
【図13】透明基材上に導電性インキ組成物の未転写部が発生する従来の現象の説明図である。
【符号の説明】
【0141】
1 透明基材
2 プライマー層
3 導電層
3’ 導電性組成物
4 金属層
5 サイドエッジ
6 凹み
7 電磁波遮蔽パターン部
8 接地部
9 保護層
10 電磁波シールド材
12 プライマー層と導電層との境界部分
13 麓部
14 混合領域
16 プライマー成分
17 第1の山
18 第2の山
19A,19B,19C,19D 導電層パターン
20 中腹
21 ドクターブレード
22A,22B,22C 導電パターン(金属層含む)
23 平坦部
61 ピックアップロール
62 凹版ロール(凹版)
63 版面
64 凹部
65 ドクターブレード
66 ニップロール
67 ニップロール
68 充填容器
69 ワイピングロール
A 導電層が形成されている部分(パターン形成部)
Aの厚さ
B 導電層が形成されていない部分(パターン非形成部)
Bの厚さ
S1 基材の一方の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電層と、該導電層上に形成された金属層とを有し、
前記プライマー層のうち前記導電層が形成されているパターン形成部におけるプライマー層の厚さが、前記導電層が形成されていないパターン非形成部におけるプライマー層の厚さよりも厚く、
前記パターン形成部が、前記プライマー層からなる第1の山と、該第1の山の中腹より上に形成された前記導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有し、
前記金属層が、前記第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に存在していることを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項2】
前記金属層が、前記第1の山の全麓部の直上部に少なくとも存在している、請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記パターン形成部におけるプライマー層と導電層との境界部分は、(a)該プライマー層を構成する成分と該導電層を構成する成分とが混合している領域、(b)該プライマー層と該導電層とが非直線状に入り組んでいる領域、及び、(c)該導電層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している領域、のいずれか1又は2以上である、請求項1又は2に記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
透明基材の一方の面に所定のパターンで導電層が形成されてなる電磁波シールド材の製造方法であって、
硬化するまで流動性を保持できるプライマー層が一方の面に形成された透明基材を準備する透明基材準備工程と、
所定のパターンで凹部が形成された板状又は円筒状の版面に、硬化後に導電層を形成できる導電性組成物を塗布した後、前記凹部内以外に付着した該導電性組成物を掻き取って該凹部内に該導電性組成物を充填する導電性組成物充填工程と、
前記透明基材準備工程後の透明基材のプライマー層側と前記導電性組成物充填工程後の版面の凹部側とを圧着して、前記プライマー層と前記凹部内の導電性組成物とを空隙なく密着する圧着工程と、
前記圧着工程後に前記プライマー層を硬化するが前記導電性組成物は完全には硬化させないプライマー層硬化工程と、
前記プライマー層硬化工程後に前記透明基材及び前記プライマー層を前記版面から剥がして前記凹部内の導電性組成物を前記プライマー層上に転写する転写工程と、
前記転写工程後、前記プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物を硬化させて導電層を形成し、該プライマー層からなる第1の山と、該第1の山の中腹より上に形成された該導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有するパターン形成部を形成する導電性組成物硬化工程と、
前記導電性組成物硬化工程後に、前記導電層上に金属層をめっきして、該金属層を、前記第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に形成するめっき工程と、を有することを特徴とする電磁波シールド材の製造方法。
【請求項5】
透明基材の一方の面に所定のパターンで導電層が形成されてなる電磁波シールド材の製造方法であって、
硬化するまで流動性を保持できるプライマー層が一方の面に形成された透明基材を準備する透明基材準備工程と、
所定のパターンで凹部が形成された板状又は円筒状の版面に、硬化後に導電層を形成できる導電性組成物を塗布した後、前記凹部内以外に付着した該導電性組成物を掻き取って該凹部内に該導電性組成物を充填する導電性組成物充填工程と、
前記透明基材準備工程後の透明基材のプライマー層側と前記導電性組成物充填工程後の版面の凹部側とを圧着して、前記プライマー層と前記凹部内の導電性組成物とを空隙なく密着する圧着工程と、
前記圧着工程後に前記プライマー層と導電性組成物を同時に硬化する同時硬化工程と、
前記同時硬化工程後に前記透明基材及び前記プライマー層を前記版面から剥がして前記凹部内の導電性組成物を導電層として前記プライマー層上に転写し、該プライマー層からなる第1の山と、該第1の山の中腹より上に形成された該導電層からなる第2の山とで構成された突起状の断面形態を有するパターン形成部を形成する転写工程と、
前記転写工程後に、前記導電層上に金属層をめっきして、該金属層を、前記第1の山の中腹より下の麓部の少なくとも一部の直上部に形成するめっき工程と、を有することを特徴とする電磁波シールド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−80860(P2010−80860A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250377(P2008−250377)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】