説明

電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法

【課題】5〜7GHzの周波数帯域において良好な電磁波吸収特性を有するとともに、薄型化を可能とした電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法を提供する。
【解決手段】電磁波吸収シート1は、DCF2と、誘電体層3と、電磁波反射層4とから構成され、5〜7GHzの周波数帯域における電磁波吸収体であって、誘電体層3は、厚さが1.5mm以下で、且つカーボン材料がマトリックスに混合された層からなり、実部(ε’)が20〜120の範囲を満たし、虚部(ε”)が2〜16の範囲を満たし、誘電正接(Tanδ=ε”/ε’)が0.05〜0.5の範囲を満たすように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器等から発せられる電磁波を吸収する電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話をはじめ、様々な通信機器の普及に伴って、電磁波ノイズによる電気・電子機器の誤作動や情報の漏洩等の各種の電波障害の問題が深刻になってきている。また、電磁波が人体に悪影響を与える虞もあった。そこで、従来より電磁波を吸収する電磁波吸収体を用いることによって、電磁波による悪影響を防止する方法が行われていた。具体的には、電磁波を発する電子機器の周囲の壁部に対して電磁波吸収体を配置したり、建物の壁に対して電磁波吸収体を配置することにより、電子機器から発せされる電磁波を吸収していた。
【0003】
ここで、電磁波を吸収する為には吸収対象となる電磁波の周波数帯に対応した電磁波吸収体を用いる必要がある。例えば、通信機器から発せられるマイクロ波としては、無線LANに用いられる2.4GHz、5.2GHzの周波数の電磁波、ETCに用いられる5.8GHzの周波数の電磁波があり、それらのマイクロ波を吸収する為にはその周波数帯に対応した電磁波吸収体を用いる必要がある。
【0004】
また、良好な電磁波吸収特性の基準としては、一般に、電磁波吸収量が20dB以上とされる場合が多い。但し、広帯域通信に用いられる電磁波やレーダー波の反射を抑制する目的で用いられる電磁波吸収体の中には、周波数5〜7GHzにおいて良好な電磁波吸収特性となるように設計されているものがあるが、このような用途では、10dB以上の電磁波吸収特性を有していてもれば十分な効果が期待できる。
【0005】
そして、上記のような電磁波吸収体は薄膜化及び軽量化が望まれていた。例えば、高速道路の料金所において利用されているノンストップ自動料金収受システム(ETC)では、隣接レーン間での電磁波干渉による車載器の誤作動を防止する為に、料金所の天井や側壁に電磁波吸収体を張り付ける必要があり、電磁波吸収体の薄膜化及び軽量化が必要である。
【0006】
そこで、従来より薄膜化及び軽量化が可能な電磁波吸収体として、ゴムやプラスチック等のマトリックスに電磁波吸収材料を混合した電磁波吸収体が知られている。また、電磁波吸収材料として特定のフェライトの粉体を混合した電磁波吸収体は、良好な電磁波吸収特性を有することが知られている。
【0007】
例えば、特公平5−16679号公報には、8〜12GHzの周波数では広帯域化および薄型化が実現でき、かつ12GHz以上の周波数でも使用できる電磁波吸収体の提供を目的とし、W型乃至Y型フェライト粉末とマトリックスとを含有する電磁波吸収材料と、反射板とを有する電磁波吸収体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5−16679号公報(第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、上記特許文献1には、W型フェライトを用いた電磁波吸収体について開示されている。そして、このW型フェライトを用いた電磁波吸収体では、周波数10GHz付近で電磁波吸収特性が最大となり、少なくとも周波数8〜12GHzにおいて10dB以上の電磁波吸収特性を有することが示されている。また、電磁波吸収体の厚さが2.6mmであることが示されている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に示された電磁波吸収体のように、ゴムやプラスチック等のマトリックスに電磁波吸収材料として特定のフェライトの粉体を混合した電磁波吸収体は良好な電磁波吸収特性を有しているが、その電磁波吸収体の厚さは一般的に2mm以上であり、装着するためのスペースが不足する場合や装着によって対象物の本来の機能を損なう場合には装着できない場合ある。
【0011】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、5〜7GHzの周波数帯域において良好な電磁波吸収特性を有するとともに、更なる薄型化を可能とした電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る電磁波吸収体は、誘電体層と、前記誘電体層の一方の面に積層された分割導電膜層と、前記誘電体層の他方の面に積層された電磁波反射層と、を有し、前記誘電体層は、カーボン材料をマトリックスに混合した層からなるとともに、厚さが1.5mm以下であり、5〜7GHzの周波数帯域において10dB以上の電磁波吸収特性を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係る電磁波吸収体は、請求項1に記載の電磁波吸収体において、前記カーボン材料は、メジアン径が8μm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に係る電磁波吸収体は、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体において、前記誘電体層に占める前記カーボン材料の体積比率が20%以上であることを特徴とする
【0015】
また、請求項4に係る電磁波吸収体は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記誘電体層は、同軸管法で測定した複素比誘電率は、実部(ε’)が20〜120の範囲を満たし、虚部(ε”)が2〜16の範囲を満たし、誘電正接(Tanδ=ε”/ε’)が0.05〜0.5の範囲を満たすことを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に係る電磁波吸収体は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記誘電体層は、同軸管法で測定した複素比誘電率が、実部が同値の無反射条件を満たす虚部の値と比較した場合に、無反射条件を満たす虚部の値よりも低い虚部の値となることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に係る電磁波吸収体は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電磁波吸収体において、電磁波吸収体の厚さdと吸収される電磁波の波長λとの比が、d/λ=0.01〜0.05を満たし、単位面積当たりの重量が1000g/m〜2000g/mの範囲にあることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に係る電磁波吸収体は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記分割導電膜層は、四角形状の複数の導電膜が所定間隔で配置された構造を備え、前記導電膜の一辺のサイズが3.0mm〜8.0mmであって、前記導電膜が0.1mm〜0.5mmの間隔で配置されていることを特徴とする。
【0019】
更に、請求項8に係る電磁波吸収体の製造方法は、前記請求項1乃至請求項7のいずれかに記載する電磁波吸収体を製造する電磁波吸収体の製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
前記構成を有する請求項1に記載の電磁波吸収体によれば、カーボン材料をマトリックスに混合した電磁波吸収材を用いた電磁波吸収体において、DCF構造を用いることによって、十分な電磁波吸収特性を有した状態で誘電体層及びDCFの薄膜化及び軽量化を図ることが可能となる。従って、側壁や天井に対して電磁波吸収体を貼り付けることも容易に可能となり、電磁波吸収体の利用の幅を大きく広げることが可能となる。また、電磁波吸収体の薄膜化に伴って、整合周波数について低周波数側へシフトすることも可能となる。
【0021】
また、請求項2に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収材料として混合されるカーボン材料は、メジアン径が8μm以下であるので、5〜7GHzの周波数帯域において、より薄型の高性能な電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供することができる。
【0022】
また、請求項3に記載の電磁波吸収体によれば、誘電体層に占めるカーボン材料の体積比率が20%以上であるので、誘電体層の実効誘電率を十分な値まで上昇させ、5〜7GHzの周波数帯域において、より薄型の高性能な電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供することができる。
【0023】
また、請求項4に記載の電磁波吸収体によれば、誘電体層の実効誘電率を上昇させ、且つ分割導電膜層及び誘電体層を含めた電磁波吸収体が無反射条件を満たすように設計することが可能となる。それによって、電磁波吸収体に進入した電磁波を大きく減衰させることが可能となる。
【0024】
また、請求項5に記載の電磁波吸収体によれば、誘電体層の複素比誘電率の実部が同値の無反射条件を満たす虚部の値と比較した場合に、無反射条件を満たす虚部の値よりも低い虚部の値となるので、DCF及び誘電体層を含めた電磁波吸収シートが無反射条件を満たすように設計することが可能となる。それによって、電磁波吸収シートに進入した電磁波を減衰させることが可能となる。
【0025】
また、請求項6に記載の電磁波吸収体によれば、DCFを用いた電磁波吸収体において、十分な電磁波吸収特性を有した状態で誘電体層及びDCFの薄膜化及び軽量化を図ることが可能となる。
【0026】
更に、請求項7に記載の電磁波吸収体によれば、DCFのパラメータである導電膜の一辺の長さ及び導電膜の配置間隔の値をそれぞれ適切な値とすることによって、十分な電磁波吸収特性を有した状態で誘電体層及びDCFの薄膜化及び軽量化を図ることが可能となる。
【0027】
更に、請求項9に記載の電磁波吸収体の製造方法によれば、十分な電磁波吸収性能を有するとともに薄膜化及び軽量化を実現した電磁波吸収体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る電磁波吸収シートについて示した説明図である。
【図2】本発明に係る電磁波吸収シートに形成されたDCFの構造を示した模式図である。
【図3】無反射条件を満たす無反射曲線と本実施形態で用いる誘電体層の複素比誘電率εの一覧を示した図である。
【図4】DCFの導電膜の一辺の長さaと導電膜の配置間隔bをそれぞれ所定値に設定した場合の電磁波吸収特性を示したグラフである。
【図5】DCFの導電膜の一辺の長さaと導電膜の配置間隔bをそれぞれ所定値に設定した場合の電磁波吸収特性を示したグラフである。
【図6】実施例1の電磁波吸収シートについて、周波数に対する電磁波吸収量を示したグラフである。
【図7】実施例2の電磁波吸収シートについて、周波数に対する電磁波吸収量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る電磁波吸収体について具体化した実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0030】
先ず、本発明に係る電磁波吸収体である電磁波吸収シート1の構成について図1に基づき説明する。図1は本発明に係る電磁波吸収シート1について示した説明図である。
【0031】
図1に示すように、本発明に係る電磁波吸収シート1は、基本的に分割導電膜層(以下、DCFという)2と、誘電体層3と、電磁波反射層4とから構成される。また、電磁波の入射方向に対してDCF2、誘電体層3、電磁波反射層4の順に積層されている。また、図1では電磁波吸収シート1が壁等の被着体5に対して接着層6を介して貼着されている例を示す。更に、DCF2の前面は、耐候性、耐熱性の優れたフッ素系ポリマー膜等の保護膜7によって被覆されている。
【0032】
ここで、DCF2は、導電材料(例えば銅箔)により構成された正方形の導電膜11を等間隔で配置した周期構造を有する。図2はDCF2の構造を示した模式図である。
図2に示すように、本発明のDCF2ではPI(ポリイミド)フィルム12に対して一辺の長さaの銅箔の導電膜11を間隔bで配置することにより構成される。また、導電膜11の一辺の長さaは3.0mm〜8.0mmであって、導電膜11の配置間隔bは0.1mm〜0.5mmとすることが望ましい。上記数値範囲とすることによって、後述のように従来のλ/4型電波吸収体と比較して薄膜化及び軽量化の実現が可能となる。
【0033】
そして、DCF2に対して電磁波が垂直に入射すると、導電膜11のエッジ部に電流が流れ、導電膜11のギャップ部(隣り合う導電膜11の間)に電界が蓄積される。即ち、位相が遅延し、電磁波吸収シート1の実効誘電率を大きく上昇させる(複素比誘電率の実部と虚部を共に上昇させる)ことができる。従って、DCF2を用いた電磁波吸収シート1では、従来のλ/4型電波吸収体と比較して薄膜化及び軽量化の実現が可能となる。また、電磁波吸収シート1の薄膜化に伴って、整合周波数について低周波数側へシフトすることが可能となる。
【0034】
尚、DCF2の導電膜11を構成する材料は銅箔に限られることなく、アルミニウム、金、銀、導電フィルム等でも良い。また、PIフィルム12を用いずに導電膜11を誘電体層3に直接配置する構成としても良い。
【0035】
一方、誘電体層3は、電磁波吸収材料が分散されたマトリックスにより形成される。尚、誘電体層3に用いられるマトリックスとしては、ゴム系材料、樹脂、無機バインダー、無機・有機ハイブリッドバインダ等がある。また、ゴム系材料としては、例えば、シリコンゴム系、フッ素ゴム系、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンモノマ)ゴム系などを挙げることができるが、特にEPDMゴム系を用いることが望ましい。
【0036】
EPDMゴム系は耐候性、耐薬品性に優れ、またシリコンゴム、フッ素ゴムと比較して安価であることから汎用的に使用されている。また、EPDMゴム系の架橋剤としては、有機過酸化物を用いることを特徴とする。用いる有機過酸化物の種類については特に限定はなく、例えばジ−t−ブチルパーオキサイドやジクミルパーオキサイド、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼンや2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキシン−3、や2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ベンゾイルパーオキシ)へキサン、ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンやt−ブチルヒドロパーオキシドなどの適宜なものを1種又は2種以上を用いうる。また、本発明においては、有機過酸化物として1分半減期が160℃以下の物を少なくとも用いることが好ましい。
【0037】
また、本発明において、有機過酸化物の使用量は用いるゴム系ポリマーの種類や目的とする発泡体物性などに応じて適宜決定することができるが、通常ゴム系ポリマー100重量部あたり1〜40重量部、好ましくは5〜30重量部である。また、本発明においては、例えばエチレンジメタクリレートやエチレングリコールアクリレート、トリアリルイソシアヌレートやトリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N´−m−フェニレンビスマレイミドなどの適宜な架橋助剤を併用することもできる。
【0038】
また、本発明のEPDMゴム系においては、ジシクロペンタジエンを有するEPDMゴム、有機過酸化物もしくは硫黄を少なくとも成分とする混和物からなるが、上記特性を損なわない範囲で上記必須成分以外の物を添加しても良い。
【0039】
特に本発明においては、老化防止剤として2−メルカプトベンゾイミダゾールを用いることが好ましい。2−メルカプトベンゾイミダゾールを添加することで、有機過酸化物によるEPDMゴムのプロピレン部分の分解による低分子量化を防ぐ効果が有る。また、これ以外の老化防止剤、例えば2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンや4,4´−ビス(α,α´−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等を併用することもできる。
【0040】
その他、本発明のEPDMゴム系混和物には、成形性の調整などを目的に軟化剤として、例えば塩素化パラフィンなどのパラフィン類やワックス類、ナフテン類、アロマ類、アスファルト類、アマニ油などの乾性油類、動植物油類、石油系オイル類、各種低分子量ポリマー類、フタル酸エステル類、リン酸エステル類、ステアリン酸やそのエステル類、アルキルスルホン酸エステル類、粘着付与剤などを添加することもできる。尚、ステアリン酸やそのエステル類は、滑剤としても有用で、従って各種の滑剤も配合しうる成分の例として挙げられる。
【0041】
更に上記混和物には、タルクや炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸やその塩類、クレー、雲母紛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、亜鉛華、ベントナイン、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、アルミニウムシリケート、アセチレンブラック、アルミニウム粉、酸化カルシウムなどの充填剤、その他、可塑剤や酸化防止剤、顔料、着色剤、防カビ剤などの適宜な配合剤を必要に応じて添加することができる。尚、前記の酸化カルシウムは吸湿剤として、亜鉛華は安定剤として有用で、従って各種の安定剤や補強剤も配合しうる成分の例として挙げられる。
【0042】
本発明におけるEPDMゴム系は、上記した混和物を加熱して架橋処理することにより行いうるが、その形成に際しては必要に応じ混和物を例えばシート等の所定の形態に形成して、その成形体を加熱処理して架橋体とすることもできる。その場合、成形体は適宜な方式にて任意な形態に成形したものであってよく、その形態について特に限定はない。
【0043】
従って、加硫処理の対象物は、混和物を例えばミキシングロールやカレンダーロール、バンバリーミキサー、押出成形等による適宜な方式でシート状やその他の形態に形成したものであってもよいし、所定の型を介して射出成形やプレス成形等による適宜な方式で凹凸等を有する所定の形態に成形したものなどであってもよい。
【0044】
よって形成体の寸法は任意であり、目的とする架橋体の形態などに応じて適宜に決定することができる。シート等の場合、その厚さは100mm以下、好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは3〜30mmが一般的である。
【0045】
上記した架橋処理は、用いた有機過酸化物の分解温度などにより、従来に準じた適宜な条件で行うことができる。一般的な架橋温度は、200℃以下、好ましくは140℃〜180℃程度である。
【0046】
また、電磁波吸収材料としては、カーボン材料が用いられる。尚、カーボン材料としてはカーボンブラックや黒鉛、カーボンファイバー等が挙げられるがそれらに限定されるものではない。そして、本実施形態では、カーボン材料の誘電体層3に占める体積比率が20%以上であることが望ましい。より望ましくは、カーボン材料がマトリックス100重量部に対して50〜140重量部の割合で含まれていることが望ましい。カーボン材料の割合が多くなり過ぎると、成形性が悪くなり、シートがもろくなるなどの問題が発生する。一方、カーボン材料の割合が少なすぎると、誘電率を高くすることができない。更に、カーボン材料の粒径としては、メジアン径が8μm以下とすることが望ましい。尚、本発明では後述のように電磁波吸収材料として特に異方性の鱗片状黒鉛を用いる。また、誘電体層3に用いられるマトリックスとしては、電磁波反射層4及びPIフィルム12に対してそれぞれ接着可能な材料を用いる。また、誘電体層3の厚さは電磁波吸収シート1の薄膜化を実現する為に、1.5mm以下とすることが望ましい。
【0047】
また、本発明に係る誘電体層3には、マトリックスに対して鱗片状黒鉛を電磁波の入射方向に対して垂直方向に配列させた状態で分散させる。従って、電磁波の入射方向に対して鱗片状黒鉛の面を垂直にすることができ、電磁波吸収シート1の複素比誘電率の虚部の値を大きく上昇させることなく、実部の値を上昇させることができる。その結果、電磁波吸収シート1の複素比誘電率を高誘電率側へ移行させるとともに無反射条件を満たすことが可能となり、電磁波吸収シート1の薄膜化及び軽量化の実現が可能となる。
【0048】
また、誘電体層3の同軸管法で測定した複素比誘電率は、実部(ε’)が20〜120の範囲を満たし、虚部(ε”)が2〜16の範囲を満たし、誘電正接(Tanδ=ε”/ε’)が0.05〜0.5の範囲を満たし、特に、実部が同値の無反射条件を満たす虚部の値と比較した場合に、無反射条件を満たす虚部の値よりも低い虚部の値となることが望ましい。これは、上述したDCF2を配置することによって実効誘電率が上昇する(複素比誘電率の実部と虚部が共に上昇する)ので、DCF2及び誘電体層3を含めた電磁波吸収シート1が無反射条件を満たすように、誘電体層3単体では予め実効誘電率を低く(複素比誘電率の実部と虚部を共に無反射条件を満たす値よりも低く)しておく必要がある為である。
【0049】
例えば、本発明では誘電体層3の複素比誘電率εを、ε=30−j4、ε=40−j8、ε=50−j5、ε=70−j7のいずれかとする。ここで、図3は、無反射条件を満たす無反射曲線と、本発明で用いる誘電体層3の複素比誘電率εの一覧を示した図である。図3に示すように、本発明で用いる誘電体層3の複素比誘電率εは、無反射曲線に対して下方に位置する。即ち、実部が同値の無反射条件を満たす虚部の値と比較した場合に、無反射条件を満たす虚部の値よりも低い虚部の値となる。そして、DCF2及び誘電体層3を含めた電磁波吸収シート1全体では複素比誘電率εが無反射曲線上へと移動することとなる。
【0050】
一方、電磁波反射層4は、入射された電磁波を反射する反射手段として用いられる層であり、アルミニウム、銅、鉄やステンレス等の金属板や、高分子フィルムに真空蒸着やめっきで上記金属の薄膜を形成したもの、炭素繊維等の導電材で樹脂等を補強したものなどにより成形される。尚、誘電体層3と電磁波反射層4との積層方法は、例えば、直接熱接着する方法、電磁波吸収特性に影響を与えない程度の薄い接着剤で接着する方法等がある。また、電磁波吸収シート1に対して入射する電磁波の入射方向は、電磁波反射層4が積層されている面と反対側の面から入射するように設計する。但し、図1では電磁波の入射方向は、電磁波反射層4に対して垂直となっているが、入射方向は電磁波反射層4に対して垂直でなくても良い。
【0051】
また、本発明に係る電磁波吸収シート1には、必要に応じて被着体5に取り付けるための接着層6を設けることができる。その接着層6は、適宜な接着剤にて形成しうるが、接着作業の簡便性などの点より、粘着層であることが好ましい。尚、粘着層の形成には、適宜な粘着性物質を用いることができる。一般には、例えば、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤やビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤やポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤やセルロース系粘着剤などの有機系のものが用いられる。
【0052】
また、接着層6は、電磁波吸収シート1を被着体5に取り付けるまでの適宜な段階で設けることができる。従って電磁波吸収シート1に予め設けることもできるし、電磁波吸収シート1とした後に設けることもできる。
【0053】
電磁波吸収シート1への接着層6の付設は、カレンダーロール法等の圧延方式、ドクターブレード法やグラビアロールコータ法等のシート形成方式などの適宜な方式で粘着性物質を電磁波吸収シート1に付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に接着層6を形成してそれを電磁波吸収シートに移着する方法などの適宜な方式で行ってよい。
【0054】
また、付設する接着層6の厚さは、使用目的に応じて決定でき一般には1〜500μmとされる。尚、設けた接着層6が表面に露出する場合には、それを被着体5に接着するまでの間、必要に応じてセパレータ等にて被覆して汚染等を防止することもできる。
【0055】
また、保護膜7は、フッ素系樹脂、より具体的にはフッ素系ポリマーにより形成されたフィルム、塗布層、含浸膜などからなる。尚、保護膜7を形成するフッ素系ポリマーとしては、適宜なものを用いることができ、特に限定されることはない。例えば、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体やエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)やエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフロリド(PVDF)やポリビニルフロリド(PVF)などがあげられる。これらのフッ素系ポリマーは耐オゾン性、耐候性、耐熱性等の耐環境性に優れた材料である。また、上記のフッ素系ポリマーの内、複数種類のフッ素系ポリマーを用いてもよい。更に、保護膜7には、必要に応じて繊維等の補強基材を混入させても良い。
【0056】
また、保護膜7は、物性の改良などを目的にフッ素系ポリマー以外の適宜なポリマーを併用して形成しても良い。但し、その併用量は、耐候性の維持などの点よりフッ素系ポリマーの80重量%以下、好ましくは50重量%以下、更に好ましくは20重量%以下とする。
【0057】
また、保護膜7の厚さは、強度や耐候性などの点より、0.1μm以上とすることが好ましい。例えば20μmとする。
【0058】
上記構成を有する本発明に係る電磁波吸収シート1は、例えばETC料金所やガソリンスタンド等の建造物、その他のガードレールなどの車両用防護柵、高層ビルのような建造物などの電磁波対策の目的に好ましく用いうる。特に保護膜7を設けることによって耐候性と耐擦過性に優れることより、電磁波吸収シートを取り付けた状態で屋外等に暴露される物品に好ましく用いうる。
【0059】
また、本発明に係る電磁波吸収シート1は、上述したようにDCF2を備え、更にDCF2のパラメータである導電膜11の一辺の長さa及び導電膜11の配置間隔bの値をそれぞれ適切な値とすることによって、薄膜化及び軽量化の実現が可能となる。そして、壁面や天井に貼り付ける用途から、DCF2、誘電体層3及び電磁波反射層4を含む電磁波吸収シート1の厚さdを吸収される電磁波の波長λに対して、d/λ=0.01〜0.05を満たす範囲とすることが望ましい。従って、例えば設計周波数5.8GHzではd=0.862mm〜1.72mmとすることが望ましい。また、電磁波吸収シート1の単位面積当たりの重量が1000g/m〜2000g/mの範囲とすることが望ましい。
【0060】
次に、電磁波吸収シート1に用いられるDCF2の導電膜11の一辺の長さa及び導電膜11の配置間隔bの値と、電磁波吸収体の厚さdと吸収される電磁波の波長λとの比と、電磁波吸収特性との関係について説明する。
【0061】
例えば、図4は、厚さを1.04mmとし、DCF2の導電膜11の一辺の長さaを6.0mm、導電膜11の配置間隔bを0.4mmにそれぞれ設定した電磁波吸収シート1の電磁波吸収特性を示したグラフである。また、図5は、厚さを1.02mmとし、DCF2の導電膜11の一辺の長さaを6.0mm、導電膜11の配置間隔bを0.4mmにそれぞれ設定した電磁波吸収シート1の電磁波吸収特性を示したグラフである。尚、図4及び図5では、シートへの電磁波の入射角度を5度〜60度の間で4段階に変化させ、入射角毎の周波数に対する電磁波吸収量を示す。
【0062】
図4に示すように、厚さを1.04mmとし、DCF2の導電膜11の一辺の長さaを6.0mm、導電膜11の配置間隔bを0.4mmに設定した電磁波吸収シート1については、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が15dB以上のピーク周波数を有する。特に、入射角度が60度であっても、15dB以上のピーク周波数を有する。また、図5に示すように、厚さを1.02mmとし、DCF2の導電膜11の一辺の長さaを6.0mm、導電膜11の配置間隔bを0.4mmに設定した電磁波吸収シート1についても、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が15dB以上のピーク周波数を有する。
【0063】
即ち、図4及び図5からは、電磁波吸収シート1の厚さd(即ちd/λ)と、導電膜11の一辺の長さaと導電膜11の配置間隔bの値とをそれぞれ適切な範囲(d/λ=0.01〜0.05、a=3.0mm〜8.0mm、b=0.1mm〜0.5mm)とすることによって、十分な電磁波吸収量である15dB以上を達成することが可能であることが分かる。特に、本発明では、電磁波吸収シート1の厚さdをd=0.862mm〜1.72mmの範囲にある極めて薄い値に設定したとしても、十分な電磁波吸収量である15dB以上を達成することが可能であることが分かる。従って、本発明に係る電磁波吸収シート1は、DCF2を備え、更にDCF2のパラメータである導電膜11の一辺の長さa及び導電膜11の配置間隔bの値をそれぞれ適切な値とすることによって、十分な電磁波吸収量を保った状態で薄膜化及び軽量化が可能となる。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明の実施例について説明する。
先ず、本実施例の電磁波吸収シート1の製造工程について説明する。
【0065】
(実施例1の製造工程)
ジシクロペンタジエンを第三成分として5重量%含むEPDM(ムーニー粘度ML1+4(100℃)38、ヨウ素価12)100重量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(40wt%希釈物)(1分半減期171℃)10重量部、及びジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(40wt%希釈物)(1分半減期148℃)10重量部、鱗片状黒鉛(D50・5μm)140重量部、その他、酸化亜鉛、ステアリン酸、充填剤、軟化剤、架橋助剤、スコーチ補助剤等の添加物を加圧ニーダーとミキシングロールで混練して混和物を得、それを押出し機で成形して厚み約1.4mmの誘電体層3を作製した。
【0066】
一方、PIフィルム12に対して蒸着、エッチング、印刷のいずれかの方法により銅箔からなる導電膜11のパターンを配置することによりDCF2を作製する。
そして、導電膜11の配置されたPIフィルム12(DCF2)を誘電体層3の一方の面に熱圧着した。また、誘電体層3の他方の面にはアルミニウム箔(電磁波反射層4)を接着剤等で接着した。更に、アルミニウム箔面にセパレータ上に設けた厚さ30μmのアクリル系粘着層を付設して電磁波吸収シートを作製した。また、DCF2の上面には厚さ20μmのフッ素系ポリマー膜を保護膜7として熱圧着した。
【0067】
上記工程により、誘電体層3の同軸管法で測定した複素比誘電率εが、ε=70−j7となる電磁波吸収シート1を作製した。更に、実施例1の電磁波吸収シート1に対しては、一辺の長さ3.2mmの導電膜11を配置間隔0.5mmで配置した。尚、導電膜11は銅箔により形成した。
【0068】
(実施例2の製造工程)
ジシクロペンタジエンを第三成分として5重量%含むEPDM(ムーニー粘度ML1+4(100℃)38、ヨウ素価12)100重量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(40wt%希釈物)(1分半減期171℃)10重量部、及びジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(40wt%希釈物)(1分半減期148℃)10重量部、鱗片状黒鉛(D50・5μm)を57重量部、カーボンブラックを6重量部、その他、酸化亜鉛、ステアリン酸、充填剤、軟化剤、架橋助剤、スコーチ補助剤等の添加物を加圧ニーダーとミキシングロールで混練して混和物を得、それを押出し機で成形して厚み約1.0mmの誘電体層3を作製した。
【0069】
他の作製条件は実施例1と同様である。そして、作製された誘電体層3を用いて、誘電体層3の同軸管法で測定した複素比誘電率εが、ε=50−j5となる電磁波吸収シート1を作製した。更に、実施例2の電磁波吸収シート1に対して、一辺の長さ8mmの導電膜11を配置間隔0.5mmで配置した。尚、導電膜11は銅箔により形成した。
【0070】
(比較例の製造工程)
ジシクロペンタジエンを第三成分として5重量%含むEPDM(ムーニー粘度ML1+4(100℃)38、ヨウ素価12)100重量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(40wt%希釈物)(1分半減期171℃)10重量部、及びジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(40wt%希釈物)(1分半減期148℃)10重量部、黒鉛50重量部、その他、酸化亜鉛、ステアリン酸、充填剤、軟化剤、架橋助剤、スコーチ補助剤等の添加物を加圧ニーダーとミキシングロールで混練して混和物を得、それを押出し機で成形して厚み約1.4mmの誘電体層3を作製した。
【0071】
他の作製条件は実施例1と同様である。そして、作製された誘電体層3を用いて、誘電体層3の同軸管法で測定した複素比誘電率εが、ε=25−j1となる電磁波吸収シート1を作製した。更に、比較例の電磁波吸収シート1に対して、一辺の長さ8mmの導電膜11を配置間隔0.5mmで配置した。尚、導電膜11は銅箔により形成した。
【0072】
(実施例1の評価結果)
上記実施例で得た実施例1の電磁波吸収シートについて、シートへの電磁波の入射角度を5度〜60の間で4段階に変化させ、入射角毎の周波数に対する電磁波吸収量を測定した。測定結果を図6に示す。
【0073】
図6に示すように誘電体層3の複素比誘電率εがε=70−j7を満たす実施例1の電磁波吸収シート1については、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が10dB以上のピーク周波数を有することが分かる。また、ピーク周波数における電磁波吸収量は、電磁波がシートに対して垂直に近い角度で進入する程、大きくなることが分かる。そして、実施例3の電磁波吸収シート1では、電磁波がシートに対して60度の角度で入射した場合であっても、ピーク周波数における電磁波吸収量は25dBとなり、高い吸収特性を示す。
【0074】
(実施例2の評価結果)
上記実施例で得た実施例2の電磁波吸収シートについて、シートへの電磁波の入射角度を5度〜60の間で4段階に変化させ、入射角毎の周波数に対する電磁波吸収量を測定した。測定結果を図7に示す。
【0075】
図7に示すように誘電体層3の複素比誘電率εがε=50−j5を満たす実施例4の電磁波吸収シート1については、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が10dB以上のピーク周波数を有することが分かる。
【0076】
(比較例の評価結果)
比較例の電磁波吸収シートについて、シートへの電磁波の入射角度を5度〜60の間で4段階に変化させ、入射角毎の周波数に対する電磁波吸収量を測定した。しかしながら、誘電体層の複素比誘電率εがε=25−j1を満たす比較例の電磁波吸収シートでは、5〜7GHzの周波数帯域において吸収量のピークは確認できなかった。
【0077】
以上の実施例1、2及び比較例の評価結果を参照すると、誘電体層3の複素比誘電率の実部(ε’)が20〜120の範囲を満たし、虚部(ε”)が2〜16の範囲を満たし、誘電正接(Tanδ=ε”/ε’)が0.05〜0.5の範囲を満たし、更に、電磁波吸収材料として鱗片状黒鉛がEPDM100重量部に対して50〜140重量部の割合で含まれることによって、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が十分な吸収量である10dB以上のピーク周波数を有する電磁波吸収量を達成することが可能である。また、実施例1、2では、誘電体層3の厚みが1.5mm以下であっても、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が十分な吸収量である10dB以上のピーク周波数を有する電磁波吸収量を達成することが可能である。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る電磁波吸収シート1は、DCF2と、誘電体層3と、電磁波反射層4とから構成され、5〜7GHzの周波数帯域における電磁波吸収体であって、誘電体層3は、厚さが1.5mm以下で、且つカーボン材料がマトリックスに混合された層からなるので、十分な電磁波吸収特性を有した状態で誘電体層3及びDCF2の薄膜化及び軽量化を図ることが可能となる。従って、側壁や天井に対して電磁波吸収体を貼り付けることも容易に可能となり、電磁波吸収体の利用の幅を大きく広げることが可能となる。
また、誘電体層3を同軸管法で測定した複素比誘電率は、実部(ε’)が20〜120の範囲を満たし、虚部(ε”)が2〜16の範囲を満たし、誘電正接(Tanδ=ε”/ε’)が0.05〜0.5の範囲を満たすので、誘電体層3の実効誘電率を上昇させ、且つ分割導電膜層及び誘電体層3を含めた電磁波吸収体が無反射条件を満たすように設計することが可能となる。それによって、電磁波吸収体に進入した電磁波を大きく減衰させることが可能となる。
また、誘電体層3に含まれるカーボン材料のメジアン径は8μm以下で、誘電体層3に占めるカーボン材料の体積比率が20%以上であるので、より薄型の高性能な電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供することができる。
また、カーボン材料が、マトリックス100重量部に対して50〜140重量部の割合で含まれているので、多量のカーボン材料を含むことによる弊害が生じることが無い。多量のカーボン材料を含むことによる弊害としては、例えば、カーボン材料の分散不良のために、外観が悪くなったり、内部にボイドが発生しやすくなり、電磁波吸収性能にバラツキが生じるといったものがある。
また、誘電体層3は、マトリックスに対して鱗片状黒鉛を分散させた層からなるので、誘電体層3の実効誘電率を上昇させることができる。その結果、誘電体層3の薄膜化及び軽量化の実現が可能となる。
また、誘電体層3は、マトリックスに対して鱗片状黒鉛を電磁波の入射方向に対して垂直方向に配列させた状態で分散させた層からなるので、電磁波の入射方向に対して鱗片状黒鉛の面を垂直にすることができ、誘電体層3の複素比誘電率の虚部の値を大きく上昇させることなく、実部の値を上昇させることができる。その結果、電磁波吸収体の複素比誘電率を高誘電率側へ移行させるとともに無反射条件を満たすことが可能となり、電磁波吸収体の薄膜化及び軽量化の実現が可能となる。
また、5〜7GHzの周波数帯域において電磁波吸収量が10dB以上のピーク周波数を有するので、5〜7GHzの周波数帯域の電磁波を吸収する際に十分な電磁波吸収性能を実現することが可能となる。
また、厚さdと波長λとの比が、d/λ=0.01〜0.05を満たし、単位面積当たりの重量が1000g/m〜2000g/mの範囲にあるので、DCF2を用いた電磁波吸収シート1において、十分な電磁波吸収特性を有した状態で誘電体層3及びDCF2の薄膜化及び軽量化を図ることが可能となる。従って、側壁や天井に対して電磁波吸収シート1を貼り付けることも容易に可能となり、電磁波吸収シート1の利用の幅を大きく広げることが可能となる。また、電磁波吸収シート1の薄膜化に伴って、整合周波数について低周波数側へシフトすることも可能となる。
また、DCF2では、導電膜11の一辺のサイズが3.0mm〜8.0mmであって、0.1mm〜0.5mmの間隔で配置されているので、十分な電磁波吸収特性を有した状態で誘電体層3及びDCF2の薄膜化及び軽量化を図ることが可能となる。
また、誘電体層3は、同軸管法で測定した複素比誘電率が、実部が同値の無反射条件を満たす虚部の値と比較した場合に、無反射条件を満たす虚部の値よりも低い虚部の値となるので、DCF2及び誘電体層3を含めた電磁波吸収シート1が無反射条件を満たすように設計することが可能となる。それによって、電磁波吸収シート1に進入した電磁波を減衰させることが可能となる。
【0079】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、DCF2に配置される導電膜11は正方形状としているが、他の形状(例えば、長方形状)を有していても良い。
【0080】
また、本実施形態では誘電体層3に分散させる電磁波吸収材料として鱗片状黒鉛を用いているが、他のカーボン材料を用いても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 電磁波吸収シート
2 DCF
3 誘電体層
4 電磁波反射層
7 保護膜
11 導電膜
12 PIフィルム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と、
前記誘電体層の一方の面に積層された分割導電膜層と、
前記誘電体層の他方の面に積層された電磁波反射層と、を有し、
前記誘電体層は、カーボン材料をマトリックスに混合した層からなるとともに、厚さが1.5mm以下であり、
5〜7GHzの周波数帯域において10dB以上の電磁波吸収特性を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
前記カーボン材料は、メジアン径が8μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記誘電体層に占める前記カーボン材料の体積比率が20%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記誘電体層は、
同軸管法で測定した複素比誘電率は、
実部(ε’)が20〜120の範囲を満たし、
虚部(ε”)が2〜16の範囲を満たし、
誘電正接(Tanδ=ε”/ε’)が0.05〜0.5の範囲を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記誘電体層は、同軸管法で測定した複素比誘電率が、実部が同値の無反射条件を満たす虚部の値と比較した場合に、無反射条件を満たす虚部の値よりも低い虚部の値となることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
電磁波吸収体の厚さdと吸収される電磁波の波長λとの比が、d/λ=0.01〜0.05を満たし、
単位面積当たりの重量が1000g/m〜2000g/mの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記分割導電膜層は、四角形状の複数の導電膜が所定間隔で配置された構造を備え、
前記導電膜の一辺のサイズが3.0mm〜8.0mmであって、
前記導電膜が0.1mm〜0.5mmの間隔で配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記請求項1乃至請求項7のいずれかに記載する電磁波吸収体を製造する電磁波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209516(P2012−209516A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75733(P2011−75733)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(507194017)株式会社高速道路総合技術研究所 (33)
【出願人】(505398941)東日本高速道路株式会社 (66)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【Fターム(参考)】